芸能人探検隊 PV撮影アジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
柏木雄馬
|
芸能 |
2Lv以上
|
獣人 |
2Lv以上
|
難度 |
普通
|
報酬 |
2.4万円
|
参加人数 |
7人
|
サポート |
0人
|
期間 |
10/22〜10/26
|
●本文
番組改編に合わせ、幾つもの企画が生まれては消えていく。
あるものは企画会議で没となり、日の目を見ぬまま闇に沈み‥‥また、あるものは、新番組として産声を上げたものの人気が出ず、2クールで打ち切られ‥‥
TV業界に限った話ではないが、この世界にはそんなあだ花のような企画が多く存在する。
ディレクターの深山がどこかから掘り出してきた企画もまた、そんなあだ花の一つだった。
タイトルは、『芸能人探検隊』。
芸能人で編成された探検隊が、世界の秘境や幻の生物・民族・秘宝などを求めて世界中を探検する番組だった。
「演出も構成もドキュメンタリー風なんだが、実際にはしっかりと脚本が存在する『ドラマ』なんだ。
いわゆる『隊長がカメラと照明の後に洞窟に入る探検隊』だな」
それを聞いて、ADの藤森亮太は眉をひそめた。
「それって『やらせ』なんじゃ‥‥」
「『やらせ』じゃない! ドキュメンタリー風探検隊ドラマなんだ! 一見、ドキュメンタリーに見えても、あくまでもフィクション。視聴者もそれと承知して番組を見ているんだよ! ‥‥感覚としては、某スポーツ紙みたいな感じか」
もっとも、子供の頃の俺は、本気で信じて番組を見ていたけどなあ、と、どこか遠くを眺めるような目をする深山D。
その間に、藤森は銜えたコンビニピザを口に押し込み、烏龍茶で流し込んだ。
「‥‥で、今度は何をするんです?」
「ああ、そうだった。今度、この『芸能人探検隊』を復活させようと思うんだ。
で、社内向けの映像資料というか、スポンサー向けのプロモーションビデオというか‥‥『芸能人探検隊』がどういうものか一目で分かるプロモーション映像を撮影してくれ」
新ドラのCMとか、映画の予告編なんかを思い起こすとやりやすいかもな、と深山Dが言う。
ふと疑問を感じて、藤森は小首を傾げた。
「‥‥映像資料なら、昔の番組で使われたシーンを編集して使えばいいんじゃないですか?」
「それじゃ番組になんないだろうが」
そう言って、半眼でニヤリと笑う深山D。藤森の身体が固まった。
「え? これって『ドラマ実験室』だったんですか‥‥?」
慌ててカメラを探し出す藤森。それを見て、深山Dは満足そうに頷いた。
●『芸能人探検隊』デモ撮影 スタッフ募集
ドキュメンタリー風探検隊ドラマ『芸能人探検隊』のプロモーション映像制作のスタッフを募集します。
依頼内容は上記の通りです。
『芸能人探検隊』の魅力を余す所なく伝えるキャッチー(死語)な映像資料を作成してください。
●ミニドラマ制作番組『ドラマ実験室』
ディレクターの気紛れな発言を元ネタに、制限された条件の下でミニドラマを制作。スタッフの奮闘ぶりを撮影し、放映するメイキング系の深夜番組。
まともな企画会議が行われることは無く、この番組の企画は全て、グダグダした日常の中で生まれるのが常です。
今回、『芸能人探検隊』のプロモーション映像の制作を番組で行うことになりました。
深山隆史‥‥『ドラマ実験室』、『芸能人探検隊』の番組ディレクター。気紛れ企画で皆を振り回す。
藤森亮太‥‥AD。通常の業務をこなす傍ら、深山Dの下、ディレクターになる為の勉強中。
●リプレイ本文
「『芸能人探検隊』ってあれだろう? 『驚愕! 前人未到のジャングルの奥地に幻の生物ナンタラを見た!』とか『砂漠に眠る伝説! 今夜、芸能人探検隊がその神秘のベールを解き明かす!』とか、そんな感じの」
隊員の一人として今回のPV撮影に参加したグリモア(fa4713)は、かつて少年の日に見た探検隊ものを思い出していた。番組の細部は記憶の向こうに霞んでいたが、赤字だか白字だかで殴り書きしたような筆文字のテロップと、ハリウッド映画のテーマ曲を転用したOPとED曲はよく覚えていた。
「ああ、あったあった。そんなだった。随分と懐かしいな」
グリモアの隣で、同じく隊員役の草薙 龍哉(fa3821)が笑いながら頷いた。グリモアも長身だが、草薙はさらに背が高い。がっしりとした体格で、脚立などの重くてかさばる荷物の運搬を引き受けていた。
「俺は以前、二度ほど探検隊ものの出演してるんだ。もっとも、それはNW討伐の為の仮想番組だったんだが。色々ヤバイってんでV(ビデオ)はお蔵入りになっちまった」
以前に受けた依頼について語る草薙。そのすぐ前を、両手一杯に荷物を抱えた長束 八尋(fa4874)がトコトコと歩いていた。どう見ても身の丈以上の荷を運んでいる。草薙は長束に歩み寄ると、荷物を二つばかり取り上げた。
「多すぎるだろ。大物は俺に任しな」
「‥‥これ位なら大丈夫ですよ」
ひょいひょいと荷物を取る草薙に、長束は礼を言いつつも不満そうに口を尖らせた。それを見て、草薙はニヤリと笑った。
「いや、すまん。そんな格好をしているから間違えた」
そんな格好。長束は三つ編みのカツラを被せられ、女性向けのメイクをさせられていた。野郎ばかりで華やかさが足りない、という理由で女装させられるのだった。
草薙の台詞を聞いてグリモアは思わず笑い声を上げた。恨みがましく見つめる長束に、グリモアは笑顔のまま「いや、すまない」と片手を上げて謝った。
「いえ、なんか、もう、いいですけどね」
何かを諦めたかのように、長束は呟いた。
今回の『芸能人探検隊』のPV撮影は、青木ヶ原樹海とその先の鍾乳洞で行われる事になっていた。密林を行く探検隊と、洞窟を探索する探検隊のシーンをここで撮影する予定だった。
「樹海からの富士山は撮った事が無いな」
カメラマンの水葉・優樹(fa3309)は、個人的に持ってきた一眼レフを構え、木々の間から覗く富士を風景から切り取った。
「水葉ー、何してる。始めるぞー。皆も着替え終わったら集まってくれ」
脚本と演出を担当する同い年の天城 静真(fa2807)が水葉を呼んだ。水葉はもう一枚シャッターを切ると、天城の所へ戻って行った。
天城は、今回の番組の為に新調された探検服を着込んでいた。出演する予定だった新人が来られなくなったので、急遽、隊員役で出演する事になったのだった。
ピンクとイエローのタイガーストライプなどというカラフルな迷彩柄のツナギに、同じ色柄をしたやたらと丈夫そうなリュックサック。ヘッドライトの付いたヘルメットは金ぴかに塗装され、それぞれに『芸能人探検隊』の文字をディフォルメしたロゴマーク(『人』の部分が隊員の姿を模していた)。それらコミカルな品々とは対照的に、首に掛けたドッグタグ(金属製の認識票)はミリタリー色を前面に押し出している。
これらは全て、今回、小道具や衣装を手がける銀杏(fa3122)の手によるデザインだった。本業は子供モデルなのだが、美術方面の才能もあるようだった。
「似合ってるぞ」
「‥‥そうか」
水葉は、隊員姿の天城に向かってシャッターを切った。同様に、カラフルな衣装を着た銀杏も(こちらは本気で)賞賛する。
「ありがとうございます、ですよっ」
どこかぼんやりとした所のある銀杏だったが、職業柄か、カメラを向けられると瞬時に笑顔を作った。水葉は一旦、ファインダーから目線を上げ‥‥銀杏がはにかんだように微笑んだ所でシャッターボタンを押した。
グリモアや草薙、長束他のスタッフたちが集合すると、天城は、今回のPV撮影の方針を皆に伝えた。
「既存の探検隊番組との差別化を図る。一枚看板の隊長じゃねぇ、隊長が毎回変わるというコンセプトを強調する方向でいこうと思う。
この手の番組ってのは、放送される部分は終始『大真面目』、けど、視聴者は『仕込み』と『やらせ』を承知している、みたいな暗黙の了解があるよな。その辺の『何か仕込んでいる』部分を入れるのもいいかもな」
そんな天城の言葉に、銀杏は目を大きく輝かせた。
「何かを仕込んでいる‥‥それって、『怪しい原住民とスタッフの打ち合わせ』‥‥とか、『水を撒いて底なし沼を作るスタッフ』‥‥とか、ですよねっ!?
いい、です! せっかくのフィクションなんです、から‥‥遊び心、必要、ですよっ」
パァ、と笑顔を見せる銀杏。天城がうなずいた。
「まぁ、一応メインは探検隊の方がいいかも知れんが‥‥所々、3割くらいはそんなのを挟むと変化が出るだろうなと」
「では、そのメインとなる探検隊の部分だが‥‥こういうのはどうだろう」
グリモアが挙手して、探索シーンのアイデアを列挙する。天城はそれを全て了承した。
「よし、それでいこう。では、早速始めるぞ。まずは、未踏のジャングルを進む探検隊のシーンから!」
演出担当の天城の号令でスタッフたちが準備に走る。水葉は、一眼レフを仕舞い込むと、仕事用のカメラを肩に担いだ。
このロケの前、水葉は、かつての『芸能人探検隊』の映像を何回も見て、カメラ回しなどを確認していた。そうして得た結論は、『臨場感』を損なわないように撮影する事、だった。
「隊員たちが慌ててるシーンなのに、妙に冷静なカメラワークを駆使してもな‥‥」
ドキュメンタリー風の演出。むしろ、求められているのは、戦場カメラマンのそれに近いのかもしれなかった。
「それじゃあ、いくぞー! シーン03、密林を行く探検隊。本番!」
リハーサルは無かった。いきなりの本番も、演出の一環だった。
●『芸能人探検隊』PV映像
どぎゃぁ〜〜〜ん! と効果音。同時に『芸能人探検隊』タイトルロゴ。
砂漠を空中撮影した映像を背景に、殴り書きのような筆文字テロップでサブタイトル。
『砂漠に眠る伝説! 今夜、芸能人探検隊がその神秘のベールを解き明かす!』
無音のまま、その映像が舞い散る落ち葉のようにクルクルと回転しながら消えていく。続けて、アマゾンのジャングルの俯瞰映像と別のサブタイトル。これも同様に消えていき、次は中国の奥地、さらに南極の氷原、と、過去に放送された『芸能人探検隊』の映像が次々と現れては消えていく。やがて、その速度はどんどん早くなっていき──
一瞬の、暗黒と沈黙。
そして、ずぎゃぁ〜〜〜ん! と再び効果音が鳴り響く。画面には『今夜復活!』という大文字テロップ。力強いナレーションがそれを宣言する。
続けて、今回のサブタイトルが表示され、ナレーションが読み上げる。
『青木ヶ原樹海の奥深く、富士の裾野に広がる大洞窟! 大自然が織り成す奇跡の全貌を、芸能人探検隊が今、解き明かす!』
ちゃらら〜、ちゃらら〜、ちゃらら〜、ちゃらら〜、ちゃららん!
ナレーション終了と共に、以前と同じOPテーマが流れ出す。同時に、今回撮影したシーンが流れ出す‥‥
砂利道を行くRV車の列。巻き上がる砂煙。厳しい表情の隊長(天城)の顔。
駐車場に停まった車。撮影機材を降ろすスタッフたち。
密林の木々を掻き分けながら進む探検隊。隊員の一人(グリモア)が大声で隊長を呼ぶ。
慌てて駆け寄る隊員たちとカメラ(水葉)。隊員の指差す先には、泥に残った謎の生物の足跡が!
さらに叫ぶ隊員(草薙)。その指差す先には、槍を持った謎の原住民(半獣化した長束)が逃げていく!
泥の上に、木の棒で器用に謎の生物の足跡を作る隊員(銀杏)。そのすぐ側で、隊長(天城)と綿密な打ち合わせをしている原住民(半獣化長束)。
探検隊の前に、行く手を阻む沼が現れる。隊長(天城)が隊員の一人(長束)に先行を命じる。
えぇっ!? お、俺がやるんですかぁ!? という風に隊員の口が開き、トホホ、というようなオーバーアクションでその肩が落ちる。
隊員はロープの束を肩に担いで沼地に入り‥‥やがて足が抜けなくなり、そのままズブズブと沈んでいく。
慌てて隊員たちがロープを引っ張る。半狂乱になる沼の隊員(長束)。涙目なのは演技だろうか。
地面に穴を掘り、土と水を放り込んで沼地を作るスタッフたち。意外と穴が深くなってしまったのを隊員(草薙)が笑って誤魔化す。
泥の具合を確かめる隊員(グリモアと銀杏)。沼っぽさにOKサイン。それを見た天城が皆を呼び集める。何も知らない長束がやって来る‥‥
やがて、巨大な鍾乳洞の入り口へと辿り着いた隊員たち。想像以上の大きさに絶句する隊長と隊員(天城とグリモア)。
入り口にロープを垂らし、斜面になった洞窟を奥へと下りていく‥‥
洞窟の入り口を前に頭を抱えるスタッフたち(グリモア他)。その横で、長束がパタパタと手で翼を振る真似をしている。
大量の蝙蝠が飛び交い驚くシーンを撮りたかったのだが、時間が悪かったのか蝙蝠は殆んどいなかった。
洞窟の斜面に響く悲鳴。慌てて揺れるカメラ(水葉)と照明。そして、隊員たち。
足を滑らせ、滑落しかけた隊員(銀杏)が斜面にひしっとしがみ付ている。大柄な隊員(草薙)がロープを背中に掛けて踏ん張り、引き上げる。
さらに、斜面の端からも転げ落ち、ロープ1本で崖にぶら下がっている隊員(スタントマン長束)の姿。隊員(グリモア)が崖から必死で手を伸ばす。その姿を、なぜか下から煽って撮るカメラ(水葉)。
崖の高さは、実はほんの数メートルしかなかった。
暗闇を使って深い崖を表現しようとする天城と銀杏。照明の角度に細かく指示を出している。
ロープ1本でぶら下がる長束と水葉。ぶら下がりながら、とび職の真似事をする長束に対し、水葉の方はいささか緊張気味。もっとも、それもカメラを構えるまでの事だったが。
洞窟の最奥、探検隊はついに秘宝へと辿り着く。
興奮気味に隊長を呼ぶ声。揺れる照明、ガチャガチャと鳴るカメラの音と息遣い。
やがて、その奥に、伝説の秘宝、黄金のヘルメットが姿を現した!
‥‥そこで突然番組の調子が変わり──
「黄金のヘルメット。それは、栄えある芸能人探検隊長の証。隊員たちが欲してやまない栄光の印。
かの秘宝は一人の手元に止まる事を良しとしない。つまり、それは‥‥
そう、芸能人探検隊、次の隊長は君かも知れないのだ! (どぎゃぁ〜〜〜ん!)」
そのナレーションに被せるように映像。
血で血を洗う抗争を繰り返す隊員たち。ある者は鍛え上げた己の肉体を武器に宝を奪い取り、ある者は口先三寸で丸め込んで掠め取る、ある者は宝を抱えて逃げ回り、ある者は罠を仕掛けて待ち受ける──
映像は変わり、倒れ伏す男たち(天城、グリモア、長束、草薙)と、黄金のヘルメットを手にした一人の少女(銀杏)。
草薙が震える右手を前へと伸ばし、口惜しそうな表情をカメラ(水葉)が追う。
やがて、少女がゆっくりと黄金のヘルメットを天へと掲げ‥‥草薙の手がぱたりと落ちる──
映像。『芸能人探検隊』のロゴを背景に、『人』の文字、隊員の姿を模したそれが大きくなる。黒い人影にクエスチョンマーク。その下に、『次の隊長は君だ!』のテロップ。
やがて静かに映像が暗転する──
●TOMITV、『ドラマ実験室』スタッフルーム。
映写機が止まり、部屋の電気が点けられた。
TOMITV内、『ドラマ実験室』のスタッフが押さえた会議室の一室。そこで『芸能人探検隊』のPV映像の試写が行われていた。
そこにいるのは、PVの出来を判定する『スポンサー』役の『ドラマ実験室』番組プロデューサー。そして、ディレクターの深山とADの藤森。そして、PVの演出を担当した天城だった。
用済みの映写機が片付けられる。ビデオを使わず、わざわざ映写機を使うのが『ドラマ実験室』の演出だった。
「それで、君たちは『芸能人探検隊』をどこに持っていこうとしたのかな?」
プロデューサーが椅子ごと天城に向き直る。天城は、今回のPVで意図している事を伝えた。
「成る程、既存の番組と差別化を図ったわけだ。しかし、幾つか問題点があったな。
まず、探検隊の探索と黄金のヘルメットの争奪戦、どちらを番組の主体とするのか。主題がどちらだと見る者に伝えたいのか。
もう一つは、バラエティ色が強くなり、『ドキュメンタリー風探検隊ドラマ』という前提から離れた観があるところ。
君も言った通り、どこかずれた企画を大真面目にやるのが『芸能人探検隊』だからね」
厳しい顔で論評するプロデューサー。そこまで言った所で、その表情が緩んだ。
「だが、まあ、企画自体は面白かった。
このご時世、『やらせ』ととられかねない番組は放送しにくいし、丁度いいバランスかもしれない。
後は、『ドキュメンタリー風探検隊ドラマ』という点に留意してくれればいいかな。‥‥『大人の事情』があるんだ」
この後、再編集された『芸能人探検隊』PVが完成する事になるのだが‥‥
メイキング番組である『ドラマ実験室』はここで終わる。