鷹司ロールプレイングアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 柏木雄馬
芸能 1Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや易
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/05〜11/09

●本文

「‥‥少し、昔語りをしてみるか」
 人目の届かぬ奥州の山深い森の中。対NW模擬戦闘訓練キャンプ、その参加者たちが寝泊りする、WEA所有の山荘にて。
 一日の訓練をどうにかこなし、食物を受け付けない胃に何とか食べ物を詰め込んで。そうして、ようやく風呂で疲れを洗い流した皆を前に。
 火の点いてない煙草を唇で玩びながら──
 訓練教官・鷹司英二郎は、気紛れにそんな事を言い出した。

 あれは今から20年以上前のことだった。
 当時、俺は知人に頼まれて、何とかいう霊能関係の特番の臨時雇いのスタッフをしていた。
 薄暗い照明の下、スモークの焚かれたスタジオに、霊能者たちや霊感の強い芸能人たちが集まって、視聴者の怪談話やらタレントの恐怖体験やら心霊写真の鑑定やら‥‥まあ、そんな類の番組だ。
 その番組の1コーナーに『物品霊視』なるコーナーがあった。『曰く付き』の物品をスタジオに持ってきて、それにどんな曰くがあるのか霊視して、その検証を流す、とかいう感じのコーナーだった。
 あの日も、そのコーナーで使う『曰く付き』の物品を取材しに、俺たちはある山中の神社へと向かっていた。
 今はもう存在しないその神社は、当時、物品の除霊だか浄霊で有名な所で、夜中に泣き出す人形やら血の涙を流す水墨画やら持ち主に死を呼ぶ宝石やら‥‥全国から様々な『曰く付き』が納められていた。

 番組で使う『曰く付き』。それは、この神社に眠る一振りの日本刀だった。
 銘は不明。刀身に刻まれている、という話だったが、資料には記されていなかった。
 江戸時代中期の作だというその刀は、幕末まで刑場で罪人の首を斬るのに使われていた。恐ろしく切れ味の鋭い刀で刃こぼれもせず、何十年にも渡って罪人の血を吸い続けてきた。
 その後、幕末・明治維新の動乱期に流出し、歴史の中に埋もれていたのだが‥‥戦後すぐにとある村で起こった事件で再び世に出る事になる。
 大量殺人に使われた凶器として。
 ある元華族の青年がその日本刀で家族を惨殺。館を出て、逃げる使用人を斬りながら麓の村へ入り、村民を虐殺。駆けつけた警官に発砲されて負傷、逃亡。三日後、山中にて自らの凶器で自殺した青年の姿が発見された。
 死者14人。負傷者はその倍以上。
 センセーショナルではあるが犯人ははっきりしており、事件自体は散文的なものだった。
 だが、警察署の職員がこの日本刀を持ち出して自殺をするという事態は誰も予想していなかった‥‥
 その後、その刀は、幾人もの好事家の手を経て、その内の何人かを破滅させ‥‥やがて『妖刀』として神社に納められ、以後、数十年に渡って封印されることとなった。
 番組に使う為、俺たちが訪れるその日まで。

 その日、俺たちは、その『妖刀』を借り受ける為にその神社へとやって来た。
 だが‥‥おかしな事に人の気配が無かった。
 社務所を覗いても誰もいない。先に調整に来たはずのディレクターの姿もない。俺たちは小首を傾げながら、拝殿、本殿と見て回り、やがて『曰く付き』の物品が収められている倉庫へと向かった。
 中に入り、電気をつけた。棚に並んだ人形たちの無表情な顔。その瞳に光が映り、こちらをじっと見つめている。さすがに俺も薄気味悪かったが尻込みしてもいられない。ディレクターはここにいる可能性が一番高いように思われたからだ。
 一階、二階と探索を終えた俺たちは、やがて一番奥に地下へと続く階段を見つけた。
 皆が厳しい顔をしていた。階下からは微かに血の匂いが漂ってきていたからだ。
 俺は皆の先頭に立って、一段、一段、慎重に階段を下りていった。一歩、段差を踏みしめる度、血の臭いは濃くなっていく。手遅れであろう事は、容易に想像がついていた。
 階段を下りきった先、すぐ左手に地下室はあった。電気はつきっぱなしだった。俺は懐から手鏡を取り出すと、ゆっくりと地下室の入り口へ差し出した。
 鏡に映った地下室は、分かりにくかったが、20畳程の広さがあるようだった。板の間敷きの上階とは違って畳の部屋だった。壁際にずらりと、まるで花束か何かのように日本人形が並び、丸められた掛け軸などが無造作に積み上げられている。
 部屋の中央に‥‥ディレクターだったモノの残骸が散らばっていた。
 畳に染み込んだどす黒い血と、色鮮やかな‥‥ああ、そこいらの描写は端折っとこう。ともかく、この時点でNWの関与が確定した。こういう趣味の殺人犯もいなくは無いだろうが、普通、人間は獣人を『食い散らかしたり』はしない──

「あの時はまいったな。正式な討伐依頼じゃなかったから軽装備だったし、俺以外に前衛に立てる奴がいなかったし‥‥っと、まあそれはいいや。
 さて、ここからはロールプレイングだ。‥‥ゲームじゃないぞ?
 俺がこれまで話した状況に自分たちがいると状況を仮定し、その時、自分だったらどうするか‥‥考えてみてくれ」

●『鷹司ロールプレイング』
 以上がシナリオの概要です。
 キャンプの宿舎となっている山荘での鷹司の夜話です。
 話の内容は、鷹司が過去に遭遇した事件ですが、PCたちのパーティーが同じ状況に置かれたらどうするか、その考えや行動を鷹司に話してください。
 鷹司は、昼間の模擬戦闘で訓練参加者たちの大体の能力を把握しています。

『対NW模擬戦闘訓練キャンプ』
 人目の届かぬ奥州の山深くで行われている対NW総合訓練。
 教官の名から、通称『鷹司キャンプ』と呼ばれています。

『鷹司英二郎』
 訓練キャンプの教官。10年ぶりに現役復帰した高レベルの鷹獣人。
 ワイルドホークなる二つ名あり。かつては広くその名が知られていましたが‥‥
 今では、やる気の無さそうな冴えない壮年のオヤジ。56歳という年齢よりは若く見えます。

●今回の参加者

 fa0190 ベルシード(15歳・♀・狐)
 fa0441 篠田裕貴(29歳・♂・竜)
 fa0443 鳥羽京一郎(27歳・♂・狼)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa0829 烏丸りん(20歳・♀・鴉)
 fa0892 河辺野・一(20歳・♂・猿)
 fa2671 ミゲール・イグレシアス(23歳・♂・熊)
 fa4035 尚武(20歳・♂・牛)

●リプレイ本文

「こういう状況ならどうする、か‥‥こういうのを考えるのも、訓練の内、なのかな?」
 鷹司の話を聞き、篠田裕貴(fa0441)が困惑気味に呟いた。日西ハーフの青年で、美声の歌手として活躍している‥‥らしい。芸能関係に疎い鷹司にはよく分からないが、空手家としては良いモノを持っている。
 その裕貴の言葉に、同じく歌手の鳥羽京一郎(fa0443)が絡んだ。黒服をスマートに着こなす洒落者だが、近接戦闘能力も侮れない。
「それはそうだろう。ロールプレイング‥‥成る程、卓と定石のないチェスみたいなものか。通常では中々味わえない訓練だな。いや、頭を使うのは寧ろ楽しい」
 その鳥羽の言葉には、どことなく篠田を揶揄するような響きがあった。
「何だよ?」
「何かな?」
 ムッとする篠田と、淡々とした、しかし、どことなく楽しげな鳥羽。
 そのまま睨み合い(?)に入った二人に、烏丸りん(fa0829)は苦笑した。キャンプ開始以来、二人はずっとこんな調子だった。
「‥‥短時間で戦術を組み立てる能力と、素早く役割分担を行うための訓練ですか?」
 それは身体を動かす訓練以上にありがたい、と烏丸は言った。色白で艶やかな黒髪を持つこのモデルの娘は、模擬戦闘で敵のアウトレンジに身を置く事を徹底していた。それは射撃型の戦術として完全に正しいが‥‥動き回らなくていい位置でもある。鷹司は何となく、この娘は物臭な性分なのではないか、と感じていた。
「訓練‥‥まぁ、そんなところだ。方針が決まったら教えてくれ」
 烏丸の言葉に、鷹司は曖昧に頷いた。
(「本当は茶飲み話程度のつもりだったんだがなぁ」)
 そんな事を考えながら、鷹司は、真剣な若者たちの姿を満足そうに眺めていた。

「状況を考えると、この日本刀がNWと関係しているのではないでしょうか?
 元華族の青年の豹変と三日後の自殺、そして警察署の職員の件‥‥。三日あれば情報媒体に戻れますね。銘は不明だが刀身に刻まれている、ということで、これが情報媒体でしょうか」
 突撃アナウンサーの河辺野・一(fa0892)が、与えられた情報から状況を推論する。
「おそらくは、ディレクターさんが到着して、撮影の準備の為に神主さんに妖刀を出してもらおうとした。
 そして、倉庫の地下で神主さんが刀身を抜いて寄生されて‥‥、とまぁ、そんなところでしょうか」
 河辺野の推理に、湯ノ花 ゆくる(fa0640)がコクコクと頷いた。風呂を終えてもう寝るつもりだったのか、猫柄のパジャマを着て、なぜか丸めた絨毯を抱えていた。
「このNWは人間に寄生しているとき、実体化した後も擬態しているときは刀を好んで使用するみたいですね。‥‥どうですか、鷹司さん?」
 正解、と鷹司は内心で頷いた。だが、口に出しては「さぁ、どうだろうな」とだけ答え、ポーカーフェイスを貫いた。
 それを受け、狐獣人のタレント、ベルシード(fa0190)が手を上げた。
「じゃあ、ディレクターの遺体を調査して、その傷口から敵の攻撃手段を探れるかな? 血の足跡とか残ってなかった?」
 陰惨な内容を平然と尋ねるベルシード。年若いのに結構な場数を踏んでいた。
「遺体の傷、か。『食い残し』には鋭利な刃物で切ったような傷があった。
 それが『殺害』時のものか、『解体』時のものか、それとも『食事』の時に出来た傷かは分からなかったが。
 ‥‥足跡は無かった。殺害後、血が乾くまで、ずっとそこで『食事』を続けていたんだろう」
 そう言って、鷹司は皆の顔をちらと見た。‥‥気付いた者はいただろうか?
「‥‥では、要注意人物は神主さん、ということでよろしいですか?」
 河辺野が尋ねると、篠田と湯ノ花が頷いた。
 そうして、班を二つに分けてNWを探索する事になった。殆どの者が完全獣化での探索を宣言した。
「ちょっと待った。ホントに人気ないんかな?」
 熊獣人ミゲール・イグレシアス(fa2671)が疑問を呈した。北米出身の黒人ながら胡散臭い関西弁を操る巨漢の総合格闘家だ。
「気を失っているだけの人とか居たら、どうする? 完全獣化で大丈夫か?」
 大丈夫だろう、というのが皆の意見だった。それを聞いて、鷹司が混ぜっ返した。
「どうかな。生き残って身を隠している人とかいるかも知れないぞ?
 まぁ、いいさ。実際、俺は誰にも会わなかったからな。完全獣化で作戦を立ててくれ」
 そう言って、鷹司は笑った。
 
 第1班。篠田・鳥羽・烏丸・ベルシード。
 第2班。河辺野・湯ノ花・ミゲール。そして、尚武(fa4035)。
「この班分けでよろしいですか?」
 河辺野が、先ほどから一言も喋らない尚武に尋ると、尚武は頷いた。
「それで構わん。探索もおぬしたちに任せる。わいに出来るんは力技だけじゃ」
 尚武のその言葉に鷹司は眉をひそめた。
 力士になるのを断念した過去を持つ尚武は、自らを鍛えなおす為に今回の訓練に参加した。色々と力不足を感じているようだったが‥‥
「鷹司さん‥‥?」
「あ、いや、何でもない。地下室の探索をするのは1班か? では、始めよう。戦闘だ」

 ──これまで見てきた場所には、刀剣や宝石といった貴重な品を納める場所が無かった。
 ──だから、それはまだ探索していない部屋にあると思っていた。
 ──その部屋は、ディレクターの殺害場所が地下室である以上、その周辺にあるはずだった。
 ──そして、『完食』していない、つまり、食事の途中だったNWもすぐそばにいるはずなのだ──

「地下室の入り口からの死角──階段のある壁面に、隣室へと続く引き戸があった。
 引き戸は開けっ放しで‥‥『鋭敏視覚』をかけた烏丸が、その端に付いた血痕を無言で指差した。
 ベルシードが『灰代傀儡』を使用し、手の平の灰に息を吹きかける。そうして完成した半獣化姿の灰傀儡を、ベルシードはゆっくり隣室へと進入させた。
 ドキドキしながら見守るベルシード。灰傀儡は一歩隣室へと足を踏み入れ‥‥即座に攻撃を受けて四散。ビクゥッ! と驚くベルシード。
 引き戸の奥から現れたのは‥‥抜き身の刀を引きずり、返り血で真っ黒になった神主の白装束を身に纏った‥‥全身を甲殻に覆われたNWだった‥‥
 以上。不意打ちはなし。行動を宣言してくれ」
 鷹司の言葉に、まずは篠田と鳥羽が行動を宣言した。
「『知友心話』で2班に連絡。
 その後、応援が来るまでアゾットで足止め。というか、出来るだけ痛めつけておく方向で」
「当時の状況からして重装備ではなかったろうから、装備は最低限のもので、だな。
 俺も裕貴と同じくアサイミー1本で前衛に出る」
 いつもの訓練と同様に戦闘行動を、という鳥羽の言葉に鷹司は頷いた。模擬戦闘ではいつも、鳥羽は篠田をフォローするように動いていた。
「了解した。2班はそう遠くには行っていない。合流は1分後」
「‥‥すぐに‥‥行きます‥‥です」
「ほな急ぐで。待っててや〜」
 湯ノ花とミゲールが声を上げる。それに続いて、ベルシードが行動を宣言した。
「僕は、まず『俊敏俊足』。そして『飛操火玉』。NWの顔の付近に火の玉を飛ばして動きを牽制するよ」
 ベルシードの宣言に、鷹司は少し考えてから頷いた。
「いいだろう。で、烏丸はどうするんだ?」
「私は、皆の足手纏いにならないように後方へ下がります」
 鷹司に問われて、烏丸はきっぱりとそう言った。鷹司が目を瞬かせる。
「うーん。中東辺りならともかく、銃規制の厳しい日本では、銃火器を使った援護は出来ないのですよね‥‥
 仲間が追い込まれるような状況になったら呼んでください。そうしたら全力で『虚闇撃弾』を使いますから」
 烏丸はそう言うと、にこやかに笑って手を振った。

 ──ボボボッ!
 ベルシードの出した小さな火の玉が宙を走り、NWの頭部周辺を羽虫のように飛び回る。NWが一瞬硬直し、煩わしそうに首を振り‥‥その隙に、烏丸は後方に跳び退り、篠田と鳥羽はナイフを手に肉薄した。
 閃くナイフ。しかし、二人の攻撃は悉く、NWの硬い甲殻の表面を滑るのみ。
 一方で、完全獣化した篠田と鳥羽も、NWの攻撃を捌くのは児戯にも等しかった。膠着は続いたが、だが、そんなNWの攻撃も稀に当たる事もある。
 鳥羽は、ナイフでの攻撃を諦めて爪での攻撃に切り替えた。そして、篠田には下がるように言おうとした時、NWが火の玉を無視して踏み込み、鳥羽に斬りかかった。
 日本刀の切っ先が鳥羽の肩口を切り裂く。飛び散る鮮血。かすり傷しか与えられないこちらに対し、稀にとはいえ、NWは有効打を与え得る。
 ベルシードが火の玉を押し付けてNWを怯ませ、その間に鳥羽は体勢を立て直したが‥‥
 NWのコアを捜す為に下がろうとしていた篠田は、そのタイミングを失った──

「何ですか、その判定。俺は京一郎なんか平気で置いて行きますヨ!?」
 色めき立つ篠田を鷹司はスルーした。
「第2班。ここで戦場に到達だ。行動を宣言してくれ」
 出番とばかりに尚武が進み出る。
「『霊包神衣』を使い、わいが正面に出る。敵が向かってきたら『金剛力増』も併用して敵の動きを止める。‥‥これはわいの役目じゃ」
 それだけ言って後ろに下がる尚武。鷹司は頷いた。
「そうか。尚武は『硬い』からな。日本刀でぶん殴ってかすり傷って‥‥。で、次は河辺野か?」
「はい。わたくしは『地壁走動』を使って側面からNWに奇襲をしかけます。
 さらに、その奇襲自体を囮にしまして、本命のゆくるさんが‥‥」
「‥‥背後から‥‥低空飛行で‥‥間合いを詰めて‥‥『闇波呪縛』を使い‥‥ます‥‥」
 コクコクと頷きながら作戦を披露する湯ノ花。しかし、鷹司は首を横に振った。
「戦場が悪かったな。20畳の狭い地下室だ。飛行する余裕も前衛に出るスペースもないぞ?」
「‥‥ふぇ!?」
 泣きそうになる湯ノ花。その頭をポンポンとミゲールが叩いた。
「わいが前に出て思いっきり爪を叩きこんだるわ。超☆熊聖拳突きやー、ってな。攻撃と防御の能力を底上げして、尚武はんと協力して思いっきり締め上げたる」

 ────!
 湯ノ花が放った『虚闇撃弾』が、音もなくNWに吸い込まれる。同時に、ベルシードの操る小さな炎が、NWの視界を灼こうとNWの顔の周りに集まっていく。
 抵抗したNWが炎を振り払うが、その間に尚武がNWにぶちかましをかけていた。刃が身体を掠めるが気にもしない。そのまま角をNWの甲殻に突き立てた。
 同時に、地下室の壁面を駆け抜ける河辺野。壁に押し付けられたNWの真上からナイフを振るう。逆手に持ったナイフの二回攻撃が甲殻を切り裂き、反撃で河辺野も傷を貰う。
 タイミングを合わせてミゲールが突っ込み、その爪でぼっこぼこに殴りつけた。
「表面にコアは見えない。服の下にあるんだ!」
 怪我をした鳥羽を連れて後衛に下がった篠田が叫ぶ。尚武とミゲールの間で交わされるアイコンタクト。二人はNWを地下室の中央へ投げ飛ばすと、そのまま押さえ付けにかかり、服をひっぺがし始めた。
 やがて露わになるコア。暴れ回るNW。そして包囲した皆が武器を振り上げ──

「ここまでだな。チェックメイトだ。もう大勢は動くまい」
 ここで鷹司はロールプレイングの終了を宣言した。疑うように河辺野が訊く。
「‥‥本当ですか? 止めを刺すまで気を抜くな、とか言い出しませんか?」
 言わん言わん、と鷹司は手を振った。
「今回は自ら状況を制限したから手間取ったが、本気を出せばもっと早く終わっただろう? 目的はあくまで訓練だからな。十分だよ」
 そう言うと鷹司は、解散を宣言しようとして──ソファで寝入る烏丸に気が付いた。
「出番が無いからってこんな所で──このまま寝かせとけよ。明日起きたら節々が痛くなる。訓練で苦労してもらおう」
 悪戯っぽく笑うと、鷹司は皆に解散を告げた。
 挨拶を交わし、皆が寝室へと去っていく。絨毯を抱えた湯ノ花も、目を擦りながらベッドへと向かった。
 湯ノ花が持つ『運命の曼荼羅』は、自分の未来の姿を夢に見れるかもしれない、というアイテムだった。ちなみに、このキャンプに来てから彼女が見た夢は、内容が毎日異なっていた。昨日見た夢は、メロンパンの丘で一人佇む自分の姿だったとか。
 去ろうとする鷹司をミゲールが呼び止めた。
「ちょいと待った。今回の元になった事件、鷹はんはどうやってNWを退治したのか。聞いときたいなぁ」
「あー‥‥別に聞いても面白くないぞ?
 あの時は前衛に立てるのが俺一人だったからな。他の皆を先に行かせて策の準備をさせ、俺は一人で地下室の階段で迎え撃ち、時間を稼いだ。
 で、階段の上まで誘き寄せて、半包囲してボコって突き落としてから、準備させておいた棚を──木製の重いヤツだ。それを皆で上から落としてやった」
 言葉を失ったミゲールの肩を、鷹司はポンと叩いて去っていった。
「あー‥‥何か色々聞きそびれた」
 一人取り残され、ミゲールが頭を掻く。まあ、世の中には色々あるのだろう。
 ミゲールは、リビングの電気を消して、寝室へと戻っていった。
 闇の中、ソファで寝入った烏丸が一人、寝返りをうった。