妖精さんHKO!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
柏木雄馬
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
8.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
11/23〜11/27
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●本文
山中にひっそりと佇むその小洒落た洋館の朝は、静謐な空気と共に明ける──
空がゆっくりと白ばんでいき、闇の帳が薄れていく。満天に煌いた星々は未練無く空に沈み、底無く深い夜空だけが、果無く高い青空に押されて渋々と舞台から去っていく。
やがて、太陽が東の山の際から顔を出すと、月下にたゆたっていた深い霧も少しずつ晴れ始めた。朝露に濡れた木々の葉が、朝日を浴びてきらりと光る。冬の陽は遠く、その日差しは柔らかかった。
「うっきゃあぁぁぁあ!?」
素っ頓狂な悲鳴とけたたましい破壊音。
その日も、館に朝が来た。
「もっ、申し訳ありませんんんーーーっ!」
小柄なメイドさんが床に付かんばかりに頭を下げる。
台所の床一面に、割れた食器の破片が散乱している。棚にあった全ての皿をぶちまけたようだった。
目をぎゅっとつむり、唇を噛み締めるメイドさん。しかし、メイド長のカミナリはいつまで経っても落ちてこなかった。
「‥‥あれ?」
片目を開け、様子を窺うメイドさん。朝の喧騒に包まれるはずの台所は、しかし、静寂に満ちていた。
誰もいない。朝の日の差し込む中、小鳥の囀りだけが聞こえてくる。
「‥‥あ、そうか‥‥もう私一人しかいないんだ‥‥」
ひょこりと頭を上げるメイドさん。いつもの癖で反射的に謝ってしまった。
物静かな執事も、厳格なメイド長も、料理人も、庭師も、同僚たちも、もういない。
メイドさんは、ほんの一瞬だけ顔を俯かせたが、すぐに頭をぶるぶると振った。
「そうだ。私が頑張らなきゃ」
ぎゅっ、と胸の前で拳を握る。とりあえず、皿を片付ける為に箒と塵取りを取りに行こう。
台所を出て、エントランスに出るメイドさん。ぱたぱたと走るその足が止まった。
階段の上に、主人の家族の肖像画。勲章をいっぱい下げた軍服を着たカイザル髭のご主人様を中心に、和服を隙無く着こなした奥様、ドレスでおめかししたお嬢様、そして‥‥学生服姿の坊ちゃま。
「皆様がお帰りになるその時まで、お屋敷は私が立派にお守りしてみせますから!」
誓いを新たに走り出すメイドさん。
行った先からは、再び悲鳴と破壊音が聞こえてきた。
日が落ちた。
夜の闇の中、日付が変わる。広間の柱時計はもう鳴らなくなって久しかったが、『彼等』がその時を忘れることはない。
長い事火の入っていないかまどの灰がもそりと動いた。灰はしばらくもぞもぞと動いて‥‥
「ぷはっ」
やがて中から、三角帽子を被った、全長10cmくらいの可愛らしい小人が現れた。
それは妖精さんだった。主人の寝ている間に現れて、家事や仕事を手伝ってくれるお手伝い妖精さんだ。
その『灰まみれ』の妖精さんは、けほっ、と咳を一つすると、犬のように身を震わせて灰を落とし、きょろきょろと辺りを窺いながらかまどを出た。そして、床一面に散らばった食器の破片を見ると‥‥その愛らしい顔を歪ませた。
「‥‥あのドジっ娘メイド、また派手にやらかしやがって‥‥」
割れた食器にメンチを切る妖精さん。片付ける方の身になりやがれってんだ、と、今にも床に唾する勢いだ。
そうしていると、台所の外から、ぴょこぴょこという足音と鼻歌が聞こえてきた。
「‥‥盗んだ子猫で走り出す〜、早いぜパンサー、イカすぜタイガー。どこに着くかは風次第〜、銜えた子猫に聞いてくれ〜。ぶらさがり〜、ぶらさがり〜、着いたらネコパンチ〜。転がされ〜、転がされ〜、盗まれ小人が遊ばれる〜♪」
やがて、台所に別の妖精さんがひょっこり姿を現した。
「おいっす〜!(挨拶) 調子はどうかな? 今日もいい月夜だねぇ!」
にっこにこと愛らしい笑みを浮かべた妖精さん2号(仮称)。一方の妖精さんは渋い顔のままだった。
「いい月夜も何もあるか。地上が明るすぎて星も見えねぇだろうが」
吐き捨てるようにいう妖精さん。かつては畑ばかりだった下の集落も、今では館のある山のすぐ下まで住宅街が広がり、夜でも光に溢れていた。
「‥‥さっさと片づけを始めるぞ。グズグズしていたら野犬や野良猫や阿呆どもが入り込むからな」
「うんうん。子猫にさらわれたくはないよねぇ」
台所を出る妖精さんたち。廊下の窓は全て割られ、煙草の吸殻やらマンガ雑誌やら空き缶やらペットボトルやらスプレーの落書きやらが散乱していた。
そんな廊下を歩きながら、他の妖精たちの所在を尋ねる妖精さん。ぼちぼち出てくるでしょ、と2号が答えた。
「よし、では始めるぞ。HKO、ハウスキーピングオペレーションだ」
「お〜!」
お気楽そうな『とき』の声が上がる。
いつものように、『夜明けまでのお掃除大作戦』の幕は上がるのだった。
●出演者及びスタッフ募集
以上が、アニメ『妖精さんHKO!』の冒頭部分となります。
このアニメの制作に当たり、出演者及びスタッフを募集します。
PL(プレイヤー)のプレイングとその判定がアニメの脚本となり、
PC(キャラクター)がそれを演じることになります。
●目的と制約
オープニングを使ってアニメの脚本を完成させて下さい。
皆で協力し、アニメを完成させる事が目的です。
ただし、制作には以下の制約があります。
1.主人公は妖精さんたち
2.オープニングに存在する『矛盾点』を解決する脚本であること。
なお、リプレイは、劇中(放映されるアニメ本編)描写となります。
時間枠は限られていますので、シーン数が多くなればそれだけ個々のシーンに割ける時間は少なくなります。
●リプレイ本文
廃墟と化した館。瓦礫が散らばるエントランス。
一人の妖精さん(デザイン:体長10cm、3頭身ぷにぷに系)がアンティークな電話台を登っていく。
意志の強そうな太い眉毛。クリッとした丸い瞳に柔らかそうなほっぺ。それはお掃除妖精たちのリーダーを自称するフェル(CV:パイロ・シルヴァン(fa1772))だった。
額に滲む汗。頭上には、オーバーハング気味に張り出した台の最上部。フェルは「クッ‥‥!」と息を漏らすと木彫りの装飾を手掛かりに登っていく。
それを床から見守る仲間たち。
赤毛でショートカットの妖精ケイ(CV:アヤカ(fa0075))は好奇心に満ちた瞳を輝かせ。栗色の髪をポニーテールにした妖精リズ(CV:咲夜(fa2997))は手に汗握って応援し。黒髪おかっぱの妖精リリー(CV:パトリシア(fa3800))は、心配そうにハラハラと。金髪縦ロールな妖精チロ(CV:麻倉 千尋(fa1406))だけ、心底興味無さそうだ。
最後の難関を前にして、どうしてこんな危険な真似をしているんだろう、とフェルは自問した。地上80cm。落ちたらお尻を痛めてしまう。
「決まっている。俺がリーダーだからだ」
ニヒルに、けれども可愛い声で呟くフェル。雄叫びを上げ、一気に登る。足を踏み外し、腕一本で宙ぶらりん。下から聞こえてくるどよめき、悲鳴、笑い声。
フェルはもう一本の腕を伸ばすと一気に身体を台の上に押し上げた。そのまま上から皆を見下ろす。これだ。やはりリーダーは上から号令をかけるものだ。
「HKO開始! 夜明けまでに全てのお掃除を完了させるんだ!」
格好をつけて宣言するフェル。その言葉より早く、妖精さんたちはそれぞれの仕事場に走って行った。
ポツンと一人残されたフェル。取り敢えず下りようと台の端から足を下ろす。
ひょこ。ひょこ。
足は空を切るばかり。足がかりはどこにも無かった‥‥
明るくアップテンポな笛の音がエントランスに響き渡る。
壁に立てかけてあった魔法の箒がシャンと起き上がる。右に、左に、床を掃きながら中央に進み出る箒。ケイはクルクルと踊りながら心底楽しそうに笛を吹き鳴らし、ダンスホールで回るように掃除をしていった。
「屋敷をごしごし磨きましょ〜、汚れもくすみも無くしましょ〜♪」
ケイの笛の音に即興で歌詞をつけながら、リズが石畳の床にモップを走らせる。リズが一拭きするだけで、床はワックスをかけたようにぴかぴかだ。
「きゅっきゅ、きゅっきゅと磨きましょ〜、きれいきれいになりました〜♪」
エントランスの端から端まで軽快に駆けるリズ。モップが壁に着いた瞬間、自分の身体よりも大きなそれをクルリと回し、向きを変えてまた走り出す。
「ねぇねぇ、その服はどうしたの?」
箒がけを終えたケイがリズに尋ねた。リズは他の妖精さんたちと違い、メイド服のような格好だった。
「どう、似合う? 屋敷にあった端切れで作ってみたんだけど。あの子とおそろいだよ」
スカートの端を持ち上げ、クルリと回って見せるリズ。ケイは目を輝かせた。
「うわぁ〜、いいなぁ〜、可愛いねぇ〜」
リズが場所を教えると、ケイはパタパタと走り去る。台の上からフェルが「こら、さぼるな!」と咎めるが気にしない。
リズは自分の服に視線を落とした。同じ格好のメイドの事が思い起こされた。
「‥‥あの子は寂しくないのかな。仲間も誰もいないのに‥‥」
動かない柱時計を見やりつつ、リズはポツリとつぶやいた。
「あーもう何なのよこのセンスの欠片も無い落書きはっ!?」
館の至る所に描かれた落書きを見ながら、チロが叫ぶ。高飛車な物言いだが、口調はお子様のそれで威厳はない。
「目障りね。こんなの全て消え去っておしまいっ♪」
チロが指揮者のように絵筆を振ると、壁に書かれた落書きがハラリと剥がれ落ち、ひらひらと舞いながら宙を漂い始めた。
「そこもっ♪ ほら、そこもっ♪」
おほほー、と楽しそうに笑いながら落書きを剥がしていくチロ。筆の動きに合わせ、落書きたちが回遊魚のように部屋の中をクルクルと回る。その様はまるで影絵のようだ。
館中の落書きを剥がし、引き連れて歩くチロ。エントランスに入った時、チロはすっかり綺麗になった石畳の床に目を奪われた。
なんと大きなキャンバスなのか。
「‥‥そうね。私が芸術の何たるかを教えて差し上げないと」
落書きたちが分解し、チロの頭上で色毎に固まって丸くなる。台の上のフェルが「こら、やめろ!」と叫ぶがやっぱり聞き入れない。
チロが絵筆を振り下ろす。色たちが一斉に床を目掛けて飛んでいった。
廊下に散らばったガラスの破片。それがまるでビデオを撒き戻すかのように窓枠へと戻っていく。
ヒビ一つ、一点の曇りも無く修復された窓ガラスに月を透かしながら、リリーは満足そうに頷いた。
続けて台所へと足を踏み入れたリリーが見たものは、足の踏み場も無いくらい散乱した陶器類の破片だった。
「う〜、今回もまた派手に壊してくれましたね〜」
惨状にリリーが眉をしかめる。それは、メイドに対してではなく、館に入り込んで無体の限りを尽くした人間たちに対しての台詞だった。
あのメイドはこの館の想いが生み出した者だ。廃墟になった今も、かつての想い出のままに働いている。メイドの目に映る屋敷の姿は、かつて一番輝いていた時代のまま。だが、人間たちが館を破壊する度に、あのメイドは『やってもいない』ドジを繰り返して落ち込むのだ‥‥
「いーです。私が全部綺麗に元通りにしてみせますから」
リリーは決意を新たにすると、スリッパを座布団代わりにして割れた皿を一枚一枚丁寧に直し始めた。
メイド服を作りに来たケイだったが、裁縫針を手にした所で、座布団の上で丸くなって眠る仔猫を発見してしまった。
表情が蕩けるケイ。フラフラと引き寄せられるように歩み寄る。
「仔猫〜。可愛いねぇ〜。愛らしいよねぇ〜」
言いながら猫の上に乗り、ふわふわの毛皮に全身を埋める。
その時、腰に差していた裁縫針が、仔猫の背にチクリと刺さり、瞬間、フギャ〜と仔猫が飛び起きた。
「にゃにゃにゃ!?」
慌ててしがみ付くケイ。再びプスリと刺さる針。仔猫がケイを払い落とそうロデオのように暴れまわった。
館を疾走するにゃんこライダー。ドタバタと暴れながら、半ば片づけが終わった台所へと突入する。
そこには、変わらず皿を修理し続けるリリーの姿。その周りをグルグルと走り回るにゃんこライダー。修理に集中しているリリーは騒動に気付かない。
派手な音を立てて崩れる食器の塔。フラフラになったケイを乗せたまま、仔猫は台所を飛び出していく。
「はい、これでお仕舞いです」
最後の皿を修復し終え、リリーはえへんと胸を張った。そこで初めて、リリーは修理したはずの皿の半分がまた砕け散っているのに気がついた。
「あれ? あれ!? どうしてですか???」
訳が分からず狼狽するリリー。さすがにちょっと泣きたくなった。
エントランスでは、床の上にチロの一大傑作が完成していた。
「これが芸術というものよ」
自信満々で語るチロ。どうにも前衛的な作品で、台の上からそれを見たフェルには館の落書きと大差ない。
「こらー! 何てことするのこの仔猫ちゃんは! せっかくきれいきれいにしたのにやり直しだよ!」
廊下の奥からリズの悲鳴が聞こえてきた。ドタバタという音は段々と近づいてきて‥‥やがて、にゃんこライダーとお掃除モードのリズがエントランスに飛び込んできた。
縦横無尽に走り回る仔猫とモップ。仔猫の黒い足跡が絵画(?)の上をスタンプし、それをトレースするようにリズのモップが床を薙ぐ。跡に残るのはすっかり綺麗になった床のみ。チロの傑作は、まるでリボンがかけられたかのように帯状に解体されていく。
「‥‥ふ、ふんっ。アタクシの芸術が分からないなんて、かわいそーなヒトねっ!」
フルフルと身体を震わせながら強がるチロ。やっぱり泣きたくなってきた。
暴れるだけ暴れた仔猫は、エントランスの大きな柱時計に向かって突進していった。僅かな隙間に身を潜り込ませる仔猫。背中に乗ったケイだけが、頭をぶつけて仔猫から落下する。
ばたん、きゅ〜、と気絶するケイ。電話台の支柱をずりずりずでんと落ちてきたフェルが走り寄る。
「なんだ、この奥に何かあるのか‥‥?」
目を回すケイを他所に、フェルが呟く。集合する妖精さんたち。柱時計の奥に怪しげな空間が渦巻いていた。
(アイキャッチ。手書きのパステル調。躍動感溢れる妖精さんたち)
(CM後。同上。哀愁漂うメイドさん)
柱時計の奥へと進む妖精さんたち。ひたすら真っ直ぐ続く闇。距離感はなく、ただ時計の音だけが響く。
辿り着いた先は、館のとある一室だった。廃墟と違い生活感のある部屋。
ベッドの上に、一人の老婆が横たわっていた。それはあのドジッ娘メイドのもう一つの姿だった。
妖精さんたちの頭の中に情景がながれこんでくる。老婆の目元から、涙が一筋、零れ落ちた。
それは昔の屋敷の記憶だった。
青い空の下、まだ若い新人のメイド(CV:鈴木 舞(fa2768))が真っ白なシーツを広げている。
今日こそは上手く仕事をしないと。うん、いい天気。きっとお洗濯も上手くいく‥‥って、きゃああああっ!? 風に煽られてシーツが飛んだ。丸まって、転がって、泥だらけ。くすん。これじゃ洗い直しね。ああ、メイド長さまにまた怒られる‥‥
でも、いつまで経ってもメイド長さまはやってこない。‥‥ああ、そうか。もうメイド長さまはいないんだった。というか誰もいない。ここにいるのは私一人。ただ一人、あの人を待つ‥‥
暗転。
(映像挿入。駅。出征する軍服姿のお坊ちゃまたち。万歳三唱。無事を祈るもんぺ姿のメイドさん)
(村の神社。毎日お坊ちゃまの無事を祈り続けるメイドさん)
(夕暮れ。館のベランダ。銀色に光る飛行機と真っ赤に燃える山向こうの空)
(X字にテープの張られた窓。そこから入る眩しい陽光。ラジオを前に泣き崩れる人々)
「大丈夫、君が頑張っている事は皆が知っているよ」
そう仰って私に金平糖を下さったお坊ちゃまは、戦争が終わっても帰ってきませんでした。
館からは人が一人減り、二人減り、やがて、誰もいなくなってしまいました。
それでも私は待ち続けるのです。必ず帰るという、あの人との約束を信じて。
「そう。彼女がアタクシたちの大家さんだったのね」
チロが淡々とそう言った。メイドさんは、この館そのものだった。かつてここで主人を待ち続けたメイドさんの姿と想いを引き継いで、こうして今も待っている。
涙を流し続けながら眠り続ける老婆。真実に気付いていたリズとリリーが無言で目を伏せる。
「どうしよう。元気になるように励まそうよ」
踊れば元気になるかな、と笛を取り出すケイ。フェルは無言で進み出ると、念動力で思いっ切りベッドをひっくり返した。
「ちょっ、何てことするのよっ!」
ベッドの下から這い出てきたのは、老婆ではなく若い姿のメイドさんだった。
「ったく、何をしているドジッ娘メイド。主人を待つのだろう。手伝え。夜明けまでに掃除を終わらせるんだからな」
白みがかった青い空、朝露に濡れる緑の木々。優しく囀る鳥の声。
霞たなびく石段を、老人を背負った青年とクォーターらしき美しい少女が登っていく。
「この階段はバリアフリーにしなくちゃダメですね‥‥」
不動産屋とおぼしき青年(CV:甲斐 高雅(fa2249))が口を開く。がっちりとした体格の日焼けした青年だったが、さすがに人を背負っての階段は息が切れた。
「館の方も長らく人の手は入っていませんが、ちょっと手を加えれば大丈夫です。ここは静かな良い所ですよ」
ああ、よく知っておる、と老人(CV:弥栄三十朗(fa1323))が答えた。
「そうね。お祖父ちゃんが用意してくれた家ですもの。良い家に違いないわ」
快活に答える孫娘(CV:鈴木 舞)。青年は心中で、幽霊が出るって噂があるんだけどね、と呟いた。
やがて、三人は階段の一番上、館の門へ辿り着いた。
閉ざされた門。庭の向こうに以前と変わらぬ姿で佇む館の姿。
老人はそれを見て目を見張った。青年が何か説明をしているが耳に入らない。自然と涙が零れてきた。
「お祖父ちゃん?」
「‥‥中を見させてもらうぞ」
老人は青年の背から下りると門を押し開いた。
「駄目ですよ。瓦礫ばかりで危険です。中は手をつけていないんですから!」
老人は青年の言葉に耳を貸すことなく、しっかりとした足取りで庭を抜ける。やがて玄関に辿り着くと、ゆっくりと扉を押し開いた。
目に入ってきたのは、かつてと変わらぬ美しいエントランス。そして、中央に佇む一人のメイド。
「お帰りなさいませ、ご主人様。‥‥長い‥‥長い時でございました‥‥」
「‥‥ああ。長かった。やっと我が家に帰る事が出来た‥‥。ありがとう。ずっとこの家を護ってくれて‥‥」
主人の言葉に、静かに一礼し、微笑むメイド。そして、メイドは陽光に霞むように消えていった‥‥
柱時計の中の狭い空間で、お掃除妖精さんたちがギュウギュウ詰めになっていた。何とか朝までに屋敷の修復と清掃を終え、老人たちが来る前に慌ててここに駆け込んだのだ。
「長い夜だった‥‥」
「‥‥ぜ、全力って‥‥疲れるわね‥‥」
荒い息をつく妖精さんたち。エントランスには、泣き崩れる老人と、心配する孫娘と。館を見て目を白黒させている青年と。
「ま、今度の住人は館を壊したりはしないだろ‥‥HKO、任務完了だ」
●スタッフ
弥栄三十朗‥‥脚本・演出
甲斐 高雅‥‥作画・動画・絵コンテ