トウキョウNW遭遇戦アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 柏木雄馬
芸能 2Lv以上
獣人 4Lv以上
難度 やや難
報酬 17.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/30〜12/04

●本文

 見渡す限りの建物に窓は無く、色も無く、ただ灰色の町並みが続いている。
 大通りに面したビルは弾痕だらけで、中には外壁を失い、瓦礫の山に埋もれているものもある。
 街灯に突っ込んで炎上したとおぼしき車の残骸。割れたショーウィンドウに散らばるマネキン。歩道はひび割れ、隙間から雑草が生え出している。
 人っ子一人、犬一匹いない無人の廃墟。だが、そこは間違いなく日本だった。
「急げよー。撮影時間まで間に合わんぞー」
 拡声器を持った美術監督が、大通りを箒で掃除するスタッフたちに呼びかける。スタッフたちは大急ぎで、路上から瓦礫の破片や欠片を取り除いていった。今日の撮影では、ここで車両を使ったアクションシーンがある。事故が起きないよう、細心の注意を払わねばならなかった。
 見れば、周囲の街並みはボロボロの廃墟だったが、車道だけはヒビ一つ無い綺麗なアスファルトの道路だった。ビル群も、裏に回れば殆どがハリボテで中身が無い。
 ドラマ撮影の為の野外セット。
 それが、この都市廃墟の正体だった。

 その日、この撮影所ではドラマ『武装救急隊』の収録があった。
 夜の廃墟を疾走する装甲救急車と、夜の焚き火のシーン、それに真夜中の戦闘シーンの撮影が行われるはずだった。
 だが、突発的なアクシデントが発生し、撮影は中止となってしまった。

「ナイトウォーカーが現れたって?」
 武装救急隊員を模したスタジャンに腕を通しながら、監督が室内に入ってきた。
 そこはセットの一部に設けられた部屋だった。野外セットには、撮影の為あちこちに目立たぬようにカメラが設置されており、この部屋でその操作と管理が行われている。スタッフたちは『仮調整室』などと揶揄して呼ぶが、実際にはケーブルの束とビデオデッキ、モニターや操作機器が雑然と並ぶプレハブの一室でしかない。
「なんだってNWがこんな所に? どうやって入り込んだ?」
「分かりません。とにかくこれを見てください。5分前の映像です」
 技術スタッフがモニターの一つに映像を出す。そこには、車道を箒で掃除するスタッフたちが映っていた。
 テスト中だったのだろう。カメラが上下左右に首を振る。そこに、箒を投げ捨てて逃げ出すスタッフたちの姿が入り込んだ。カメラが止まり、ズームアウト。モニターに全景が映る。
 セットのビルの一つ、そのすぐ前で埃が舞い上がっていた。ズームイン。
「なんだありゃあ!?」
 ディレクターが叫ぶ。そこに映っていたのは、全長2m位の大きさの、ヒトデのようなNWだった。腕の先にそれぞれ鋭い一本爪が生えている。
 その『ヒトデ』は、2本の腕で立ち上がると、すぐ前で腰を抜かしているスタッフに3本の鉤爪を振りかぶった。その内の一本がバチバチと光っている。スタッフは、かろうじて転がるように避けると、半獣化して這い出すように逃げ出した。五本足で追いかけるNW。機転を利かせた別のスタッフが、撮影に使うスモークを焚いてNWの視界を閉ざし、スタッフはどうにか逃げ延びた。
「今のところ、犠牲者は出ていません。ですが、放置すれば、NWはセットのどこかに潜んで我々を狙うでしょう」
「‥‥今、ヤツはどうしている?」
 モニターが切り替わる。煙幕は薄れていたが、宵闇が静かに帳を下ろしていた。
 ディレクターは全てのカメラを起動させると、スタッフを集め、一つのモニターに二人ずつ割り当てて監視させた。
「全照明を点けろ!」
 闇の中、廃墟トウキョウが浮かび上がる。
「あー!」
「いたぞ、いたいた!」
 スタッフがモニターを指差す。駆け寄ったディレクターの目に、照明に照らされ、廃墟のビルの一つへと姿を隠すNWの姿が映った。
「関係各所に連絡。犠牲が出る前にヤツを狩るぞ。関係者の中から戦闘に耐え得る者を集めるんだ」

●『トウキョウ』ナイトウォーカー遭遇戦
1.目的
 都市廃墟の野外セットにNWが現れました。協力し、これを撃滅して下さい。

2.制限
 野外のオープンセットであり、一応、人の目を考え、戦闘は撮影を模して行われます。
 といっても実際に撮影するわけではなく、カメラもスタッフも戦場には出ません。
 え、これ? 撮影だよ? カメラはあそこ、と言い訳できるようにしておくという程度のものです。
 幸い、ドラマ『武装救急隊』は、普段から獣化・半獣化しての撮影もしています。
 火薬もよく使うので、個人の責任において持ち込んだ銃器も使用が可能です。
 ただし、撮影を模す以上、ドラマ中の設定の制限を受けます。
 まず、皆さんで話し合って、以下の二つの設定のどちらを使用するか決定して下さい。

a.パーティー全員『クリーチャー』
 完全獣化が可能です。ただし、装飾品を除く武器防具の一切を装備・使用できません。
 こちらを選んだ場合、装飾品を除く装備を全て外しておいてください。

b.パーティー全員『ウォールブレイカー』
 半獣化が可能です。装備品の制限もありません。

 どちらの場合も、言い訳に困らない程度の特殊能力ならば使用しても問題ありません。
 逆に、言い訳が出来るならば制限はありません。

3.セット
 都市の廃墟の野外セットです。4車線の道路と、道路沿いの廃墟ビルのセットがあります。
 事故防止の為、道路上は足場がしっかりしています。
 道路以外の場所では、通常の廃墟と同様、足場の悪い場所が多々あります。

4.NWの隠れたビル
 ほとんどのビルはハリボテですが、NWの逃げ込んだビルは撮影に使われた為中身があります。
 ホテルのロビーや大企業の受付位の広さがあり、突っ込んだ救急車(扉は開放)のセットもあります。
 出入り口は、道路側シャッターに、車一台通れる位の穴があります。
 セットは1階部分のみであり、上階はありません。

5.NWのコア
 現時点でNWのコアの場所は確認されていません。

●今回の参加者

 fa0082 宮間・映(14歳・♂・狼)
 fa2539 マリアーノ・ファリアス(11歳・♂・猿)
 fa3425 ベオウルフ(25歳・♂・狼)
 fa3853 響 愛華(19歳・♀・犬)
 fa4404 ガブリエル・御巫(30歳・♀・鷹)
 fa4558 ランディ・ランドルフ(33歳・♀・豹)
 fa4965 セルゲイ・グラズノフ(23歳・♂・鷹)
 fa5003 角倉・雪恋(22歳・♀・豹)

●リプレイ本文

 衣装室を兼ねたセット内の一室で、ベオウルフ(fa3425)は獣耳と尻尾に悪戦苦闘していた。戦闘は『武装・半獣化』状態で臨む事になったのだが、傭兵役のベオは半獣化でも劇中の設定に反してしまう。ロングコートを羽織って尻尾を隠し、フリッツヘルムに獣耳を押し込める。
 そんなベオの変装を、角倉・雪恋(fa5003)が手伝っていた。ベオが気恥ずかしそうに頬を掻く。まさかこの歳で着替えの手伝いのような事をされるとは思わなかった。
「うん、これでちゃんと隠れたね」
 雪恋は満足そうに頷くと、ベオのヘルメットをポンと叩いた。
 そこへ、スタント見習いの宮間・映(fa0082)と、マリアーノ・ファリアス(fa2539)、通称マリスの二人がやって来た。少年二人は話に花を咲かせていたが、雪恋に気づいたマリスは「ユキレさ〜ん!」と叫びながら抱きついた。撮影所入りして以来、それがマリスの女性に対する挨拶だった。雪恋はしょうがないな、という風に頭をポンポンと叩いてやった。
「ユキレさん、今日はよろしくね!」
 マリスが言う。二人は序盤の遠距離攻撃を担当する事になっていた。
「映、本当に一人で大丈夫か?」
 少し心配そうにベオが尋ねた。作戦では、映が一人で囮となってNWを誘き寄せる手筈になっていた。ベオは護衛に付いて行くと申し出たのだが、映はそれを断っていた。
「大丈夫です。危ない事をやるのがスタントですから」
 特に気負うことなく、映は言った。
 迷彩服姿の響 愛華(fa3853)が衣装室に入って来ると、マリスは「アイカ〜!」と叫びながら抱きついた。愛華はマリスをギューっと抱き返す。抱き返して、ひょいと脇に置いた。
「何度見てもコアは映ってなかったんだよ。やっぱり裏側にあるんじゃないかな?」
 愛華は、NWの映ったビデオを何度も見直して、そのコアが映っていないか調べていた。直接戦闘は得手ではない愛華だったが、戦闘はそれだけで決まるものでもない。見知った撮影スタッフの安全の為、今後の撮影の為。NWを倒そうと意気込む愛華は、コアの調査やスモークの手配など、自分に出来る事を頑張っていた。
「そう。ならNWが『立ち上がった』時に確認するか、私がひっくり返すかした方がよろしいのかしら」
 続けて部屋に入ってきたガブリエル・御巫(fa4404)が愛華の言葉に応えて言った。セレブのヒールレスラーのガブリエルにもマリスは気にせずに抱きつきに行く。それをガブリエルは優雅に、悠然と受け止めた。
 一緒に入ってきたランディ・ランドルフ(fa4558)には、マリスは笑顔で挨拶をした。抱きつきには行かない。何となく言葉より先に拳が飛んできそうな気がしたからだ。
 ランディは、折り目正しく丁寧な挨拶をマリスに返した。生真面目な性分らしかった。
「なんだ、皆ここにいたのか‥‥そろそろ始めないか?」
 撮影技師のセルゲイ・グラズノフ(fa4965)が、衣装室に集まる『出演者』たちに気付いてやって来た。セルゲイ自身の準備はすっかり終わっていた。普段カメラを持つその手には、代わりに一振りの日本刀。
「さて、ショータイムだネ」
 衣装を重ね、皆が所定の配置へと向かう。愛華は、鼓動の早い胸を押さえ、「が、がんばるんだよ‥‥!」と自分に気合いを入れた。
「‥‥愛華、耳、出ているぞ?」
 部屋を出がけにベオが言う。愛華の燃え盛るような赤い髪の中から犬耳がぴょこんと生えていた。慌ててヘルメットを被る愛華。雪恋がそれを直してやった。
「なんか、先生か保護者の気分ね」
 どこか楽しそうに、雪恋は笑った。

 とある廃墟のビルのセット。その1階部分にNWは潜んでいた。
 時刻は深夜。照明が照らす4車線の道路を走り抜けていく映。ビルの入り口、穴の開いたシャッターの脇に取り付いた映は、手鏡をそっと差し入れて中を窺った。入り口の周辺、左右、そして上。中は真っ暗で何も見えない。ただ、何となく嫌な予感がした。
 映は手信号で合図を出した。ありったけのスモークを背負った愛華と護衛のベオが映の側へと走り寄る。
 辿り着くとすぐ、ベオは愛華の背嚢からスモークを取り出し始めた。その間、愛華は『鋭敏聴覚』で中の様子を窺うが何も聞こえてこなかった。どうやらNWは動かずにじっとしているようだ。
 ベオはスモークを三分すると、それを映と愛華に手渡した。映が穴の反対側に移動する。愛華の合図に合わせ、三人は着火したスモークを穴の中へと投げ入れた。
 入り口から距離を取る三人。闇の中、発炎筒が上げる極彩色の炎がおびただしい量の煙を吐き出していく。
「‥‥出て来るんだよ‥‥!」
 『鋭敏聴覚』に集中しながら愛華が呟く。やがて、バダッと何か重く柔らかいモノが落ちたような音がして‥‥見れば、入り口にNWが落ちていた。
「わわわ、出てきたよ〜!」
 慌てて愛華が後退する。去り際にベオが「任せるぞ!」と映に声をかけた。
 無言で頷き、這い出してくるNWを睨みながら、映は『俊敏脚足』を使用した。大丈夫だ。事前の綿密な準備と計算が命を助けるのは囮もスタントも一緒のはずだ。
 威嚇するようにヒトデ型NWが鉤爪を振りかざす。映はその間合いから離れると、追いつかれないように、しかし離れすぎないように、慎重に距離を開けていった。

 その様子を、NWが潜んでいたセットの1階天井の上、2階部分からガブリエルが窺っていた。実は床を挟んだすぐ反対側の天井にNWが張り付いていたのだが、それはお互いに知る由も無い。
 ガブリエルは『立ち上がった』NWを『鋭敏視覚』で観察し、そのコアを見つけようとしていた。最初の機会は、残念ながらNWの背中しか見えなかった。離れていく映とNW。次の観察地点へとガブリエルは移動する。
「まったく。『翼』が使えればこのような苦労はしませんのに」
 立てかけた梯子を滑り降りながらガブリエルは嘆息した。空さえ飛べれば上空からの偵察で事足りる。だが、さすがにそれは『言い訳』が出来ない。
 ガブリエルはセットの裏手に下りると、そのまま裏道を次の観察地点へと疾走していった。

 映は囮役を上手く務めていた。追いつくかどうかというギリギリの距離を保ち、上手くNWを引っ張っている。
「あの様子なら大丈夫だ‥‥そろそろ『お客さん』が到着するぞ」
 高性能双眼鏡で状況を見ながらセルゲイが皆に言った。双眼鏡をしまい、白く淡い光を放つ刀身を鞘から走らせる。
「出し惜しみは無しだ‥‥派手にいくぞ」
 物陰で様子を窺うセルゲイ。道路の向こうから映とNWがやってくる。
 そこは4車線の道路が交わる交差点だった。足場は良く、視界も開けている。
 交差点の中央にNWが進入した瞬間、映は全速でその場を離脱した。その瞬間、NWの足元でバシッとアスファルトが爆ぜる。
「外れた。射撃は苦手なんだよね」
 交差点に接したビルのセットの2階部分。急造した(といっても板を張っただけだが)足場の上でスラッシャーガンを構えたマリスがぼやく。ぼやきつつ次弾を発砲。今度はべチュンッとNWの身体に穴を穿つ。同時に突き刺さる矢が1本。対角線上のビルの窓から雪恋がアーチェリーで矢を放っていた。
「さすがに矢でその場に縫い付ける、なんてマネは出来ないわね」
 矢を番えながら雪恋がつぶやく。下ではNWが遮蔽物を求めて動き出していた。銃声。命中。雪恋は弓を引き絞り、狙いを修正して矢を放った。的中。弓は久しぶりだったが腕は落ちていないようだった。
「目標の姿勢は低いけれど動きは早くない‥‥十分当てられるわ」
 余裕の笑みを浮かべる雪恋。しかし、マリスが撃った弾は外れて瓦礫を砕いていた。
「‥‥ま、そんな事もあるわよ、マリス君」
 次の矢の準備しながら雪恋は苦笑した。

 銃弾と矢の攻撃に晒され、堪らずNWが瓦礫の方へ逃れようとする。
 そこへ、ベオ、セルゲイ、ランディが飛び出し、囮役だった映もアゾットを抜いて踵を返す。4人はマリスと雪恋の射線に入らぬよう、2人の対角線上から外れるように走り寄った。
 『俊敏脚足』を使用したランディが真っ先に戦場に到着した。目前に走り込む獣人に気付いたNWが、その身を起こして鉤爪を振りかぶる。ランディはすぐ横の街灯を『地壁走動』で駆け上がり、空中で身体を捻ってNWの背後に舞い降りた。
 一方、背後を取られたNWも『脚』側の腕を振り上げて一瞬でランディに正対する。ランディは構わず、拳のコンビネーションからNWの『どてっ腹』にミドルキックを叩き込んだ。衝撃。砂袋か何かを蹴った時のような違和感がランディを捉えた。
「!?」
 手応えがない。柔らかい身体が衝撃を分散させている。
 そこへNWの反撃が来た。受け損ない、『変装』の為に被っていたヘルメットが飛ばされた。
「でやあぁぁっ!!」
 スピードと全体重をかけた映の飛び蹴りがNWに突き刺さる。しかし、これも効かない。ブヨッとした感触にバランスを崩し、映は地面を転がった。
「こいつ、打撃が効きにくい?!」
 膝を付き、顔を上げた映の頭上で、バチバチと放電する鉤爪。振り下ろされたそれをアゾットで受ける事を躊躇した映は、飛びずさろうとしてそれをまともに喰らってしまった。バチッ! という音と共に衝撃が身体中を駆け巡る。意識が遠くなるのを一撃目は何とか耐えた。しかし、身体の痺れが取れぬ内にきたニ撃目には抵抗する事が出来なかった。
「一撃だと?!」
 一瞬で戦闘能力を失った映に愕然とするベオ。倒れた映に覆い被さろうとするNWとの間に入り、ヴァイブレードナイフで一撃する。横からセルゲイも斬りかかり、ざっくりとその身を斬り裂いた。
「斬撃は普通に効くらしいな。なら刺突はどうだ?」
 淡い白光を曳きながらセルゲイが刀の構えを変える。突き出した刀身がズブリと沈む。反撃がセルゲイを突き飛ばした。
 ランディはクローナックルによる攻撃をメインにコンビネーションを組み直した。NWはクルクルと正面を変えて獣人たちを迎え撃つ。
 弾を撃ち尽くしたマリスが窓から飛び降りて戦場へと駆ける。雪恋も横たわる映を戦場から下げようと、『俊敏脚足』を使いながら下へと下りた。
 ただ一人、戦場に立つことの出来ない愛華が、不安と悔しさとでその身を震わせた。

 ベオ、セルゲイ、ランディ、そして、格闘戦に入ったマリスの四人が刃を振るう。四人の攻撃は、少しずつダメージをNWに蓄積させていったが、一度に二つの目標を攻撃するこのNWも、四人にダメージを与えていった。近接戦闘能力に勝るNWと、ダメージを分散できる四人の戦いは、しかし、NWに有利に進んでいた。
「うおぉぉぉっ!」
 雄叫びを上げ、ベオが撮影現場にあった鉄パイプを、NWの『脚』目掛けて思いっきり突き立てた。ぐしゃ、と蛸に割り箸を突いた時のような感触。しかし貫通は出来なかった。
「駄目か‥‥」
 荒い息をつきながらベオが鉄パイプを捨てる。隣に立つセルゲイの日本刀『白夜』の光も、心なしかくすんで見えるような気がした。
 これだけNWと正対しているというのに、コアも未だに発見できない。この時、前線に立つ者たちは心理的な陥穽に捉われていた。目まぐるしく変わるNWの体勢。全ての腕を使って戦闘をしているようにしか思えなかった。
 故に、最初にからくりに気付いたのは戦場外の者だった。
「分かりましたわ!」
 それまでずっとNWのコアの位置を探していたガブリエルが愛華に『知友心話』で語りかけた。
「先程から絶対に地面から離れない腕が一本あるのです。恐らくその裏側にコアがあるのですわ!」
「‥‥あるんだよ!」
 愛華はガブリエルが送ってきた内容を復唱する。それを聞いたセルゲイがその腕目掛けて刀を突き出すものの中々コアには当たらない。
 観察場所からガブリエルが下りてきた。
「私がNWをひっくり返します。援護を!」
 ベオ、セルゲイ、ランディの三人が囮となってNWを攻め立てる。その隙にガブリエルはNWの『背後』に回り、その『両腕』を引っ掴んだ。
「よしっ!」
 組み付いたガブリエルに喝采を上げるマリス。ガブリエルの投げに合わせて足払いをかけようとする。
 しかし、NWはガブリエルの想像以上に軟体動物だった。このNWには骨がない。関節がない。他の生物であれば華麗に投げ飛ばしただろうガブリエルも、梃子の原理を使えない単純な体力勝負となると分が悪かった。
 『頭』の位置の腕がぐにゃりと曲がり、NWに組み付いたガブリエルの背中に電撃を纏った一撃が浴びせられた。ガブリエルは抵抗に失敗し、その意識を刈り取られてしまった。
「くそっ!」
 マリスが崩れるガブリエルを受け止めた。
 暴れ続けるNW。かなりの深手を負わせたものの‥‥こちらもこれ以上の継戦は無理だった。
「ここまでか‥‥」
 ヒーリングポーションの使用を取り止め、セルゲイはミストボールをNWの足元に投げつけた。煙が広がり視界が完全に閉ざされる。相手が見えなければ攻撃も出来ない。この間に、獣人たちは無念と共に戦場を引き上げた。

 霧が晴れた時、NWはその姿を消していた。かなりの傷を受けたので退いたのだろう。
 獣人たちは後送され、一角獣の獣人に傷を癒して貰うことになった‥‥
 こうして今回の遭遇戦は終わった。今もNWは撮影所に潜伏していると思われた‥‥