クルトの戦記 古都炎上アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
柏木雄馬
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/06〜12/10
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●本文
古都アリアスは古い歴史を持つ町だった。
長い間、大国『アリアスティディス』の王都として栄え、かの『剣王』との戦いに敗れた時もその戦火を免れ、長い歴史を持つ美しい町並みを残していた。
私は今でも、あの風情溢れる街並みに身を置けた事を幸運に思っている。同時に、あの歴史の一瞬、無惨の瞬間に、その場に居合わせた事を哀しく思う。
あの時、私は自分に出来うる限りの事を為しただけで、歴史の当事者になるつもりなど無かったのだ。
ソルメニア暦18年。
ソルメニア王女シンシアを誘拐し叛乱を企てたとして、アリアス領主リュース公爵に討伐軍が派遣された。
若い私はその時、運命の只中に投げ出された事を理解できずにいた。
──老クルト・エルスハイム、自らの人生を振り返りて記す──
故郷のクライブ山地で共に暮らしたシン少年が、実はソルメニア王国の王女シンシアだと聞かされた。
その時の私に考える余裕など無かった。ただただ驚くばかりで、正直に言えば開いた口が塞がらなかった。
公爵に案内されてシンの、いや、王女の私室に向かう時も混乱したままだった。目の前で賊に連れ去られ、それを追った時は無我夢中だった。
結局、私は王女を、いや、シンを取り返すことは出来ず、逆に賊に短剣で斬りつけられ、そして──
目が覚めた。
見覚えのある天井。逗留している宿のものだった。
頭がぼうっとしている。何が夢で何が現実か理解できない。
私は身を起こそうとして、上手く身体が動かせない事に気がついた。
その時、部屋の扉が開き、宿の主人が入ってきた。主人はつかつかと部屋を横切り、木窓を開いて振り返り‥‥そこで私が目を覚ました事に気がついた。主人は大層喜び、私がもう二日も寝たきりだった事を告げた。
主人は、私が半身を起こすのを手伝うと、食事を持ってこよう、と部屋を出ていった。私は震える腕を上げ、胸元を開いて見た。
胸に一筋の傷跡が走っていた。
私は奥歯を噛み締めた。やはり、あれは夢ではなかった。
シンが王女だったという事も、今度も助ける事が出来なかったという事も──
窓の外からはいつもの活気とは違った喧騒が聞こえていた。気になった私は痺れる身体に活を入れ、壁に寄り掛かるようにして窓辺に寄った。
荷を満載した荷馬車や台車、そして人の群れ。それが列を成して大通りを城門へと向かっていた。
食事を持ってきた主人が慌てて盆を置いて私の身体を支えた。
「城下から避難するように、という公爵様からの触れが出たのです。なんでも王国の軍勢が攻めてくるとかで‥‥
長らく戦などありませんでしたから。皆、慌てています」
外に出ておられるお客様がお戻りになられた後、事情を説明して私も町を出ます、と主人が言った。既に王国の大軍がアリアスの近くまで来ている、という噂が流れているという。
私は、公爵がどう動くのかを考えていた。
戦力差は大きく、援軍の当ても無い。古都アリアスは軍事的な堅牢さを求めて造られた町ではなく、王国軍の攻勢を持ち堪える事は出来ないだろう。
この状況下で自分はどうするべきか、考えねばならない‥‥
腹が鳴った。
どんな状況でも腹は空く。まして、自分は二日も食事をしていない。
私は苦笑しながら震える手で匙を取り、掻き込むようにスープを貪った。
●出演者およびスタッフ募集
以上が、アニメ『クルトの戦記 古都炎上』の冒頭部分になります。
このアニメの制作に当たり、出演者とスタッフを募集します。
●目的と制約
オープニングと設定を基に、主人公クルトの人生を彩るキャラクターを作成し、
『クルトにどう関わるか』をプレイングに記述してください。
そのプレイングで、クルトの歩む人生が決まります。
今回は、
『毒の影響でまだ身体が上手く動かないクルトが活躍する』
『古都アリアスが炎上する』
の2点を話の軸にして下さい。
なお、リプレイは、劇中(放映されるアニメ本編)描写となります。
また、演出上、プレイングの設定が伏線として扱われ、明確に描写されないこともあります。
●設定
『クルトの戦記』は、ファンタジー世界を舞台にしたアニメです。
山岳部族『山の民』でありながら、爵位を持つ貴族にまで上り詰めた英雄クルトの一代記です。
1.世界観
いわゆる普通の(?)、機械や銃などが登場しない剣と魔法のファンタジー世界です。
魔法についても、極めれば神にも等しい力を行使できますが、そういった人は世界にも稀です。
ちょっと便利な人、程度の魔術師は珍しい存在ではありません。
2.『山の民』
ソルメニア王国東部のクライブ山地に住む少数民族です。
王国に暮らす『平原の民』(ファンタジー世界に住む一般的な人間)よりも、頭一つ分大柄で頑健です。
野蛮人と見られがちで、山の下では差別と偏見に晒されていますが、実際は素朴な人々です。
3.ソルメニア王国
18年前、平原に割拠する小国のことごとくを平らげ、平定した『剣王』が建てた国。
英雄『剣王』も歳を取り、強力な魔術師である宰相が国を思うがままに動かしています。
4.リュース公爵
アリアスの領主で、旧アリアスティディスの元王族です。
ソルメニア王国では公爵に遇されていましたが、宰相の専横に反発。
シンシア王女を反宰相の旗印に担ごうとしましたが、王国に奪還されました。
5.王国軍
王国第3軍と第4軍が動員されています。兵力2万4千。リュース公爵の軍の4倍の兵力です。
特に第4軍は魔獣(獣型の魔物)を使役する部隊として知られ、邪道の軍と恐れられています。
●今週のクルトくん
名称:カイツの息子クルト 種族:山の民 性別:男 年齢:18 状態:痺れ 負傷回数3
体力:高 知力:やや高+ 敏捷:やや高 魔力:極低 魅力:普通+ 加護:特殊(精霊の加護)
戦闘技能: 弓5 短剣3 格闘3 大剣3
肉体技能: サバイバル(山・森)5 隠密4
精神技能: 調理3 応急処置2 農業2 商業1
学術技能: 読み書き2 算術2 歴史5
装備品 : 短弓 短剣 大剣+3
所持品 : 小木箱(金貨) 青い石のペンダント 開かずの小袋(謎)
●リプレイ本文
王国軍の迫る古都アリアス。
普段は閑静な佇まいを見せるこの街も、今は避難する人々の喧騒に包まれていた。幸いな事に大きな混乱はない。リュース公爵(CV:弥栄三十朗(fa1323))が立てた計画に従い、何日も前から避難は始まっていた。
「そなたたち民草を戦に巻き込むのは領主たる私の望むところではない。だが、このアリアスは遠からずして戦火に包まれるであろう‥‥
誇りあるアリアスの民たちよ。アリアスティディスの正当なる後継者の名を以って命じる。持てるだけの私財を集め、速やかに都を離れよ。戦火を避け、アリアスの誇りを胸に生き延びよ。
そして、いつの日か必ず、この地に戻るのだ。たとえ町が煉獄の炎に焼かれようとも、そなたたちが生きる限り、このアリアスは何度でも甦るのだから」
それが避難に際しての公爵の言葉だった。人々は突然の事態に困惑しながらも、何とか秩序を保ちつつ、愛する郷土を離れていった。
毒により一時的に身体の自由を失ったクルトは、アリアスに逗留を続けていた。
心はすぐにでも連れ去られたシンを追いたかったのだが、依然、身体は言う事を聞かない。
「焦らないで下さい、クルトさん。今、無理をして追いかけても何も出来ない事に変わりはないでしょう」
「そうです。今は治療が最優先です。早く治したいのなら、今はとにかく休む事が一番ですよ」
居た堪れなくなってベッドを抜け出そうとするクルトを押し留める声が二つ。クルトと同じ『山の民』の女商人カナン(CV:大曽根カノン(fa1431))と、同じく『山の民』の薬師レン(CV:夕波綾佳(fa4643))だった。毒刃に倒れたクルトを発見した二人は、この宿に残り、そのままクルトの治療に当たっていた。
「それとお薬ですね。良薬は口に苦し。ささ、一気にグイッと飲んじゃって下さい」
煎じた薬を差し出すレン。その緑色に泡立つ液体をクルトは情けない顔をして受け取った。静寂。カナンが果物を剥くしゃりしゃりという音だけが静かに耳を打つ。やがて覚悟を決め、クルトがそれを一気に飲み干した。その顔はひどく渋かった。
落ち着きを取り戻したクルトは、恐縮して二人に頭を下げた。
「すみません。お二方には何から何までお世話になりっぱなしで‥‥」
「お気になさらず。『平原』で『山の民』同士が出会った‥‥これも何かの縁でしょう」
ニッコリ笑い、綺麗に剥いた果物を差し出すカナン。薬の後の果実はひどく甘かった。
そんなクルトの元に公爵がお忍びでやって来たのは、月の美しいある晩の事だった。護衛の騎士たちを外に置き、美しい顔立ちの騎士一人を伴って、公爵はクルトの部屋を訪れた。
「連れ去られた『シン少年』の行方は今追わせている。ただ、今は民の避難で手一杯でな。昼夜を問わずに避難を進めてはいるが、王国軍はもうそこまで来ている。さすがに間に合いそうにない」
そう言って公爵は背後に立つ騎士に目をやった。
「コレは名をクラリッサという。このような格好をしているがこれでも我が姫だ」
クルトは改めて騎士を見た。美しい少年だとばかり思っていたが、よくよく見れば気品溢れる凛とした美人だった。
「そこで、コレの部隊を、民の避難誘導と護衛に回そうと思っている。ついては、君にコレの補佐をしてもらいたい」
公爵の言葉に、その場にいた全員が驚愕した。特に、クラリッサ(CV:咲夜(fa2997))は事前に説明が無かったのだろう。凄い剣幕で公爵に詰め寄った。
「なっ、どういうことですか、父上っ!? 来るべき決戦を前に我が隊を外すと言われるのですか!」
なおも言い募ろうとする娘に公爵が厳しい視線を向けた。
「民を護るが王族の務めぞ!」
そう言われてはクラリッサも言葉を飲み込むしかない。
クルトは静かに、何故わざわざ自分にそのような事を頼むのかを尋ねた。
「君はシンシア王女が信頼した男だ。だから私も信頼してみることにした」
質問の意味を敢えて誤解してそう答えた公爵に、クルトは何も言えなかった。それではよろしく頼む、と言い残し立ち去る公爵。その後をクラリッサが追おうとするのをクルトは呼び止めた。
「何か。私は父上に話がある」
煩わしそうに言うクラリッサに、クルトは「人々の避難の事で話がある」と話し、カナンに向かって尋ねた。
「カナンさん。まだこの町に残っている商人たちから『あるもの』を入手したいのですがお願いできますか?」
クルトがその『あるもの』の名を言った。
「知り合いの商人に問い合わせてみますが‥‥いか程ご入用ですか?」
クルトの答えた量は尋常でない程に膨大だった。
「そのようなものをそれ程に‥‥一体、何をしようというのか」
クラリッサが目を丸くする。寝入ってしまったレンに苦笑しながら、クルトは答えた。
「人々の避難を成功させる為、そして、僕が歴史の罪人になる為に、ですよ」
それから二日後。ソルメニア王国第3軍、第4軍、計2万4千の軍勢がアリアス近辺に到着した。
王国軍はアリアスの手前の草原に展開し、後方の丘の上に本陣を敷いた。
一方の公爵軍6千は城門から出て布陣。野戦の構えを見せていた。その中央には大将旗。アリアスティディスの王の在陣を示す蒼い軍旗がはためいていた。
「既に王女は奪還した。後は公爵らを捕らえれば済む事だろうに、これだけの軍勢を、しかも第4軍まで投入するとは‥‥」
王国軍本陣。全身を魔法使いのローブに身を包んだ女(CV:姫乃 舞(fa0634))が不満そうに呟いた。その表情はフードの影に隠れて窺い知れない。その呟きもくぐもって外に聞こえはしなかった。にもかかわらず、遠く軍団長の席に鎮座する輿の御簾の向こうから、鉄扇をぱちん、と畳む音が聞こえてきた。
「宰相閣下の裁量に不満がおありかしら、ミルラ?」
どこかからかう様な楽しげな声。それは第4軍団長(CV:孔雀石(fa3470))のものだった。いつも御簾の向こうにいて、姿を見た者は誰もいない。本名も不明で、皆からはただ『四団長』とだけ呼ばれていた。
一方、ミルラと呼ばれたローブの女も、驚いた風も見せずに振り返った。
「町を一つ潰すなど‥‥ここまでする必要があるのか?」
苦々しくフードの中でミルラが呟く。見せしめでしょうね、と四団長。鉄扇が鳴る。
四団長は、御簾の中から全軍に改めて、市街での略奪と民間人への攻撃を厳禁とする旨、命令を徹底させた。だが、麾下の魔獣どもには、既に『抵抗する者を殺せ』というコマンドが刷り込まれている。魔獣は軍民問わず抵抗する意思を見せる者全てを殺戮するだろう。
「分かりますね、ミルラ? これから起こる事は全て事故です」
淡々と語る四団長。その声だけでは何を考えているか分からない。ミルラは歯噛みした。
「さて、それでは始めましょう。各人、命令は遵守、その上で公爵を捕縛してきて下さい。勿論、生死は問いません」
王国軍本陣でそんなやり取りが為されている頃。
本陣すぐ側の草叢に潜む二つの人影があった。『盗賊王子』ジョルト(CV:相麻 了(fa0352))と、その教育係の青年レイン(CV:時雨(fa1058))だった。
「‥‥美人の気配がする」
潜入捜査を忘れ、視線の先、ミルラと四団長の方へフラフラと近寄ろうとするジョルト。それを、レインが耳を摘んで引き戻した。
「ジョルト! 私たちの目的はナンパではないのですよ?」
真面目にやって下さい、というレインの言葉に、すまねぇ、兄ぃ、とジョルトが恐縮する。
「そもそも、なぜこんな危ない橋を渡るのです? 我々には関係のない戦だというのに」
囁き声で愚痴るレインをジョルトが止めた。本陣の話が佳境を迎えていた。
「‥‥連中、本当に町中で魔獣を使う気だ」
急いで町に戻るぞ、と移動を始めるジョルト。レインは肩を竦めてついていく。
しばらく帰り道を進んだ時、ジョルトがつぶやいた。
「何となく、だけど面白そうなヤツがいるんだ」
ジョルトが答えた理由はそれだけだった。ジョルトにとってはそれだけで十分なのだ。付き合いの長いレインにはそれが嫌と言う程分かっていた。
ついに王国軍が動き出した。
両翼がこちらを包囲するように伸びていく。正面では、殺し合いを前にして興奮し、雄叫びを上げる魔獣どもが鎖から解き放たれる時を待っていた。
それを妙に冷静に眺めながら、リュース公爵は静かに頭上の青き旗を仰ぎ見た。
戦力差は絶対。援軍の当ても無い。籠城すれば王国軍に逃亡の疑いを抱かせ、避難民たちが襲われる。王国軍と正対し、自らの所在を明らかにした所以だった。
「王たる者の責務を果たさぬわけにいかぬからな。領民が避難するまでここで時間を稼ぐのだ。‥‥出来の悪い主君に仕えた不運を呪ってくれて構わぬ。だが、民を護り戦う我らの誇りだけは護られよう。諸君、名を惜しめよ」
言い終わらぬ内に王国軍の陣で笛が鳴った。鎖が一斉に放たれ、魔獣どもが一直線に向かってくる。兵たちは遠巻きにするだけで近づいてこない。
「王族の誇り。あの宰相閣下にはおそらく解るまいよ。自らの権勢を保つことしか知らぬあの御仁には。ならば我々が本当の誇りというものを見せて差し上げよう」
公爵が抜剣する。その切っ先は王国軍本陣を指していた。
激しい喊声は城壁の中までも聞こえてきた。
動揺する避難民たちを騎士たちが鼓舞して誘導する。クラリッサ自身は閉じた城壁をじっと見据えて動かない。血が滲むほどに握られた拳が彼女の内心を物語っていた。
そんなクラリッサの横で、クルトも重い顔をして沈黙していた。出来れば用意した策を使いたくはなかった。
輿なぞ用意できないクルトは、荷車の荷台の上で半身を起こしていた。そのクルトの眼前に差し出された一杯の椀。こんな時でもレンは薬の時間を忘れなかった。
「大丈夫です。私たちもついていますから」
静かに微笑むレンとカナン。救われたような気がして、クルトは椀の中身を飲み干した。薬はやっぱり苦かった。
騎士たちがクラリッサを呼ぶ。その指差す先。青みがかった灰色の城壁を、黒い染みの様な魔獣がヒタヒタと乗り越えてくる。
「父上‥‥!」
唇を噛むクラリッサ。だが、すぐに指揮官としての自分を取り戻す。
「横隊六列縦深! 盾と槍で壁を築け!」
アリアスは軍事的には脆弱な町で、城門から広い真っ直ぐな道が伸びている。クラリッサはそこに部隊で壁を築き、後方の避難民たちを守る構えを見せた。抵抗の気配を感じ、魔獣たちが襲い掛かる。槍と盾の壁はしばらく魔獣たちを払い除けていたが、やがて数と質量とが壁を崩し始めた。
「クッ、通すな! 我らの後ろには無辜の民がいるのだぞ!」
だが、限定された戦術しか採れないクラリッサたちは分が悪い。クルトの乗る荷車の前でもカナンが長刀を抜きレンが風の刃を振るった。だが、そんな二人をも突破して、魔獣が動けないクルトに襲いかかる‥‥!
「正義のヒーロー参上!」
そんな台詞と共に爆炎がその魔獣を吹き飛ばした。勢い余った炎はクルトをも巻き込もうとしたが、突如現れた白い霧がそれを掻き消した。
「ジョ、ジョルト、こんな乱戦でそのような魔法を使っては‥‥」
「悪ぃな、兄ぃ。助かった(クルトが)」
それはジョルトとレインだった。クルトは突如現れたジョルトに驚き、助けられた礼を言った。
「ここは俺っちに任せな。お前には大事な人がいるんだろう? さあ、魔獣ども! 盗賊王子ジョルト様が相手をしてやるぜ!」
双剣を抜いて前に出ようとするジョルト。それをクルトが「その必要はない」と押し留めた。
苦渋の表情でクルトが合図を出す。次の瞬間、巨大な炎の壁が町を駆け抜けた。
アリアスの町に巨大な炎の花が咲く。もの凄い勢いで燃え広がる炎を、四団長は呆気に取られながら御簾越しに眺めていた。やがて炎は町の北半分を包み‥‥魔獣たちが城壁を越えて逃げてきた。それを見て、四団長は腹を抱えて笑い出した。兵たちが何事かと輿を振り返る。このような笑いは聞いた事が無かった。
「魔物とはいえ獣。確かに火には弱いけれど‥‥まさかここまで思い切った事が出来る者がいるとは」
笑い転げる四団長。顔の見えないミルラの口元が、誰かを苦笑する様な、哀れむ様な、そんな複雑な表情を浮かべていた。
「逃げた民衆は追わなくても良いのか? もっとも、そんな余力はないだろうが」
ミルラの皮肉に、四団長は構わないわ、と告げた。
「民は『生かさず殺さず』。今食べたら勿体無いわ」
そう答える四団長の声は、もう普段と変わりがなかった。相変わらずその心中は読めないままだ。
ミルラは燃えるアリアスと去っていく避難民の列を眺めながら、今度こそ心中で呟いた。
「魔術師ガンジス‥‥やはり貴方は間違っていなかったのですね‥‥」
「まさか自分たちでアリアスに火を点ける事になろうとはな」
旧イストリア王国へと続く街道の途上で、馬上のクラリッサは憮然と呟いた。荷車の上のクルトの落ち込みようは激しかった。まさか自分が千年以上の歴史のあるアリアスの街並みを焼き払う事になろうとは‥‥。この一点だけでも、自分は歴史に悪名を刻むだろう。
「だが、民たちは無事に脱出できた。その事に関しては礼を言う。だから、あまり気にしないことだ」
クルトは思わずクラリッサの顔を見直した。どことなく照れたように見えた。
「父上が言っていた。民ある限りアリアスは蘇ると。だから、あれでよかったのだ、と思う」
クルトの顔を見ずにそれだけを言うと、クラリッサは列の前の方へと馬を走らせた。
クルトはその身を静かに荷台に横たえた。拳を握り、開く。身体は調子を取り戻しつつあった。