トウキョウNW殲滅戦アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 柏木雄馬
芸能 2Lv以上
獣人 4Lv以上
難度 やや難
報酬 17.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/12〜12/16

●本文

 日が沈む。
 血の様な赤い陽光に照らされて、瓦礫の都市が真っ赤に染まる。
 ひしゃげた街灯。穴だらけのビルの壁。ガラス一枚残っていないコンクリの廃墟を、長く長く伸びた影が闇の淵へと沈めていく。
 瞬間、眩いばかりの白光が闇と赤光を駆逐した。撮影用の照明機材が一斉に点いたのだ。
 片道2車線の広い車道。周囲の廃墟に比べると綺麗なアスファルトの路上で、照明に照らされ、四方へと影を伸ばした一人の男が、廃墟を、否、その奥に潜むモノを睨むように吐き捨てた。
「ヤツめ‥‥今度こそ終わりにしてやるぞ」

 国内某所にある野外撮影所。そこには、ドラマ『武装救急隊』や『戦場のバレンタインデー』の撮影に使われた都市廃墟のセットがあった。そこにナイトウォーカーが出現したのは二週間前の事だった。
 全長2m程の、腕の先に鋭い鉤爪を生やしたヒトデ型のナイトウォーカー。それは、撮影準備に追われるスタッフたちの目の前に突然降って来て、現場を大混乱に陥れた。幸いにも大きな被害はなく、出演者やスタッフは即座に反撃。ナイトウォーカーを駆逐すべく奮闘したが、あと一歩という所で痛み分けに終わった。ナイトウォーカーは姿を消し、この広い廃墟のどこかに潜伏しているものと思われた。
 以来、撮影所は封鎖され、都市廃墟セットでの収録はすべてキャンセルされた。いつナイトウォーカーが襲い掛かってくるか分からない所で撮影など出来ないからだ。スタッフたちは不眠不休でナイトウォーカーの動向を探ったが、発見には至らなかった。
 ナイトウォーカーが再びその姿を現したのは、つい先日の事だった。
 セットの各所に設置された撮影用のカメラ。そのモニター越しに、セットのビルのすぐ下を這い進むナイトウォーカーの姿が確認されたのだ。
 先の戦闘の傷が癒えたのか、それとも、いつまでも獲物が現れないので痺れを切らしたのか。ナイトウォーカーの考えている事など分からないが、実体化から三日以上経過した事だけは事実だった。もしかしたら、元の情報生命体に戻ろうとしているのかもしれない。
「逃がしはしない」
 プロデューサーがくぐもる様に昏く笑った。机の上には関係各所へ提出する始末書が山を成していた。
「戦闘班を編成。ヤツの殲滅に向かわせろ。完全獣化及び武器使用自由。殲滅が最優先だ」
 プロデューサーの言葉に、スタッフたちは野卑た喚声を上げた。彼等の疲労と苛立ちも既に限界を超えていた。
 さすがにオープンセットでの自由戦闘は不味いと思ったディレクターが、その点をプロデューサーに確認する。前回の戦闘では、ドラマの設定の範囲に収める事で、万が一目撃された時の言い訳を確保していた。
「撮影所は封鎖しているし大丈夫だろう。ヤツを放っておいて、これ以上撮影が延び延びになる方がヤバい。予算とスケジュールは有限なんだ。‥‥なに、いざとなったら『新番組か新企画の為の撮影だった』とでも言い訳するさ」
 一枚くらい始末書が増えたってどうって事はない。そう言って笑うプロデューサーを見て、ディレクターは心中で溜め息をついた。

●『トウキョウ』ナイトウォーカー殲滅戦
1.目的
 都市廃墟の野外セットにNWが現れました。協力し、これを撃滅して下さい。

2.制限
 完全獣化・武器使用は自由です。
 幸い、ドラマ『武装救急隊』は、普段から獣化・半獣化しての撮影もしています。
 火薬もよく使うので、個人の責任において持ち込んだ銃器も使用が可能です。

 ただ、野外のオープンセットなので、どこに人の目があるか分かりません。
 『遠目に目撃されて言い訳に困るような特殊能力』は使用出来ませんのでご注意下さい。
 逆に、説得力のある言い訳が出来るならば制限はありません。

3.戦場
 都市の廃墟の野外セットです。4車線の道路と、道路沿いの廃墟ビルのセットがあります。

 事故防止の為、道路上は足場がしっかりしています。
 道路以外の場所では、通常の廃墟と同様、足場や視界の悪い場所が多々あります。

 道路に並列する廃墟のビルは、ほとんどがハリボテで中身がありません。
 ただ、一箇所だけ、撮影に使われた中身のあるビルがあります。
 ホテルのロビーや大企業の受付位の広さがあり、突っ込んだ救急車(扉は開放)のセットもあります。
 出入り口は、道路側シャッターに、車一台通れる位の穴があります。
 セットは1階部分のみであり、上階はありません。

4.NW
 撮影所に潜伏するNW。この個体について、前回の戦闘で判明した事も含めて記述します。

 全長2m位の、腕の先に鋭い鉤爪の生えたヒトデ型のNWです。
 普段は5本の腕で這うように移動し、近接戦闘時には2本の腕で『立ち上がり』、3本の腕で攻撃します。
 動きは素早くないのの、全周囲、同時に二つの目標を殴れる等、近接戦闘能力は高めです。
 特に雷を纏った特殊攻撃は、ダメージを受けた者の意識を一撃で刈り取る場合があります。
 また、軟体動物ゆえに打撃による攻撃の効果が薄く、組み付かれると離れるのに苦労します。
 壁などに張り付いて移動する事も可能で、前回は上から不意打ちを試みました。
 急激な回復能力は確認されていません。
 絶対に地面から離さない腕が一本あり、その裏側にコアがあると予想されます(未確認)。

 現在、NWは再びカメラの死角に消え、その所在は不明です。

 実体化から3日以上経過しており、不利になれば情報生命体へ戻ろうとする事が予測されます。

●今回の参加者

 fa0203 ミカエラ・バラン・瀬田(35歳・♀・蝙蝠)
 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa1206 緑川安則(25歳・♂・竜)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa3392 各務 神無(18歳・♀・狼)
 fa3425 ベオウルフ(25歳・♂・狼)
 fa3853 響 愛華(19歳・♀・犬)

●リプレイ本文

「全てのカメラの電源を落とし、記録媒体も取り外した。こちらからのフォローは出来なくなったが‥‥」
「構いません。NWの逃走経路になりかねませんから」
 見送りに来たプロデューサーに、相沢 セナ(fa2478)がそう答えた。黒髪長髪の美しい青年で、夜戦に備えて服装を黒一色で纏めていた。
 セナは、番組スタッフたちの激励を背に受けながら、緑川安則(fa1206)の所有するジープの荷台へと乗り込んだ。この車で囮役を除く6人が待ち伏せ場所へ‥‥1階部分が存在するビルのセットへと向かう事になっていた。本来4人乗りなので多少窮屈だったが、派手なスタントをするわけでもない。
 セナの乗車をミラーで確認し、運転席のイルゼ・クヴァンツ(fa2910)は一人コクリと頷いた。
「‥‥うん。出発」
 ゆっくりとアクセルを踏み込むイルゼ。ジープはのんびりと『廃墟トウキョウ』に向けて走り出した。
「‥‥撮影所に現れたNWか。このまま撮影が出来ないのは困るだろうね」
「余り長引かせるのも問題だ‥‥今回で滅びて貰うとしよう」
 ガタゴトと揺れる車内。セナの言葉に各務 神無(fa3392)が答えた。普段は丁寧な口調で話す神無だが、戦闘前という事もあってか、ややぞんざいになっていた。いや、咥えた煙草に火が点いていないのが原因かもしれない。今は狭い車中ということで遠慮している。
「油断、大敵」
 イルゼが淡々と呟いた。
「勿論だ。事前に得る事が出来た情報は多いが、過信しないでいくとしよう」
 そのまま車外へと目をやる神無。いつ襲撃を受けても対応できるよう警戒は強めておく。
「今回の敵NWは最近登場した新型と推定される。秋葉原で発見されたNWは足の裏にコアを有するタイプだった」
 助手席の安則が言うと、ミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)も頷いた。
「トウテツといい、白い奴といい、最近は新しい情報の目白押しネ。こっちは軟体動物系のNWデスか。終わったらデータ入れとかないと」
「まったくだ。コアの位置が変わるだけでも厄介だぞ。電撃対策は何も出来なかったし‥‥まあ、何とかするしかないか」
 そうこうしている内に車の振動が緩やかになった。砂利道を越え、セット内の道路に入っていた。
「お、いよいよか」
 黄金の竜獣人、九条・運(fa0378)が窓の外を見る。この道の先に目標のビルのセットがあるはずだった。
「作戦の最終確認だ。セット内にNWがいた場合は即交戦。いなければ予定通り待ち伏せる」
「囮がNWを連れてきたら包囲し、遠距離攻撃で殲滅。逃げようとしたら接近してとどめを刺す」
 頷き、運が上着を脱いで完全獣化を開始した。爛々と力の漲る緑色の瞳。肌が髪と同じ金色に輝き、鱗状になっていく。突き出す顎。伸びる角。肩が大きく盛り上がり、まるで鎧の肩当ての様に鱗が形成されていく。最後に背から黄金の翼が飛び出す。大きく広げてポーズを決めたい所だったが、車中は狭いので断念。代わりに尻尾をぶるんと揺らす。
 他の皆もそれぞれ獣化を始めていた。ただ一人、ミカエラだけが人間形態のままでいる。
「獣化しないのか?」
 訝しげに尋ねる運。ミカエラは静かに首を振った。

 セットの前にジープが停車する。と同時に飛び出してセットの入り口に取り付く運とセナ。その後方をIMIUZIを手にした安則が警戒する。
 そのままセナが『影査結界』でセットの内部を探った。影に感覚が染み渡っていくイメージ。それをビデオでみたNWの特徴と照合していく。
「‥‥どうやら、それらしいモノはいないようだ」
 運と安則にセナが頷く。それでも一応警戒をしながら内部に突入する三人。カメラや無線機、携帯電話等、NWの逃走経路となりそうな情報媒介がないか虱潰しに探していく。
 外では神無がジープから降りて煙草に火を点けていた。その姿は半獣化。完全獣化ではなかった。
 美味そうに煙を吐き出す神無。一見、リラックスしているようで、その実、周囲への警戒は解いていない。
 完全獣化を終えたイルゼが、運転席からそれをじっと眺めていた。なぜ完全獣化しないのだろう‥‥? ‥‥‥‥‥‥‥‥。うん。きっと煙草が吸いにくくなるからに違いない。
「‥‥納得」
 神無を見てコクリと頷くイルゼ。『?』マークを浮かべた神無が首を傾げた。
「いいぞ。内部は特に問題ない。車は中に入れてしまっていいそうだ」
 中からセナが顔を出して言った。神無が名残惜しそうに煙草を捨てる。
「‥‥後は囮組が上手くやれるか、だな」
 名残の煙を吐き出しながら、神無がそう呟いた。

 その頃、囮役を志願した響 愛華(fa3853)は、最後にNWが確認された場所へと辿り着いていた。
 目の前にはビルのセットとセットの間の狭い路地。既に日は落ち、照明も届きにくくてどんよりと薄暗い。
「うう‥‥怖い‥‥でも、でも、私だって!」
 完全獣化を済ませた愛華が恐怖に耳をピルピルと震わせる。燃えるような真っ赤な毛並みは闇に映えている。囮役には最適だよね、などと自分を励ましてみる。
「この撮影所の安全は絶対に取り戻して見せるんだよ‥‥!」
 胸の前でギュッと拳を固める愛華。覚悟を固めて後ろを振り返る。その視線の先にはベオウルフ(fa3425)。幾ら何でも何かあった時に一人じゃまずいだろう、と護衛役を買って出ていた。
「じゃあ‥‥私、頑張ってくるね」
「おう。行って来い。何かあったらすぐに駆けつける」
 安心させるように手を振るベオ。愛華は頷き、路地裏へと入っていく。ベオはその後ろを少し距離を置いてついていった。
 進みながら、愛華は音に集中する。前回に聞いたNWの音を思い浮かべながら、『鋭敏聴覚』で全ての音を聞き逃さないように全方位に気を配る。
 ただ、NWがじっと動かずに獲物を待ちぶせる場合には気付きにくかった。
 愛華の耳に、バチッ‥‥と何かが帯電するような音が飛び込んできた。それは自分の側ではなく‥‥後方のベオのすぐ側から聞こえてきた。
「ベオさん!」
 愛華の警告が発せられるとほぼ同時に、セットの瓦礫の中からNWが飛び出してきた。『上半身』を大きく振りかぶり、ベオに襲い掛かるヒトデの『腕』。その先の鉤爪が雷光で光っていた。
「俺かよ!?」
 慌ててナイフを構えるベオ。愛華の警告で完全な不意打ちは免れたものの、その攻撃をかわす事は出来なかった。喰い込む鉤爪。痛覚と同時に電撃がベオの身体を駆け巡る。飛びそうになる意識を懸命に繋ぎとめるベオ。何とか抵抗したものの身体にはまだ痺れが残っている。今、もう一撃喰らったら耐えれるか分からない。慌てて距離を取るベオ。追撃しようとするNW。そこに愛華が石を投げつけた。
「キ、キミが追っかけるのは、わ、私なんだよ‥‥っ!」
 NWが体勢を変え、『鎌首をもたげる』ように愛華を見た。後ずさる愛華。NWが大きく鉤爪を振りかぶり、愛華はクルリと背を向けて走り出した。

 NWの移動速度は愛華のそれとほぼ同じだった。逃げる演技は必要なかった。愛華は文字通り必死でセットの裏道を駆け抜けた。
 追うNWは5本の腕で器用に這い進む。その姿は出来の悪いホラー映画のようだ。だが、その鉤爪の一本でも愛華を捉えたら‥‥
「くそっ‥‥! 俺も銃の一つでも借りとくんだった‥‥!」
 愛華たちを追いながらベオが悪態をついた。銃は得意ではないが、こちらの危険を知らせるくらいは出来たかもしれない。今、彼等が走っているのは『表通り』ではなく、『裏通り』。予定よりも長い距離を走る羽目になっていた。
 一方その頃、愛華の叫び声を遠くに聞いた待伏せ班の皆は、NWが囮に『喰いついた』事を知った。
 小さく溜め息をついてミカエラが完全獣化を開始、神無もそれにならい、皆それぞれが戦闘準備を整える。愛華がここにNWを連れて来た時が戦闘開始の時だ。
 ただ、待伏せ班には、囮班がどういう状況に置かれているかは分からない‥‥
 ジリジリと灼けつくような時間が過ぎていく。何かが路面をを叩く音が段々と近づいてくる。救急車のセットの上で、安則はIMIUZIを正面に向け‥‥
 そこに愛華が飛び込んできた。すぐ後ろにはNW。危ない目に遭いながらも、愛華はなんとかNWを引っ張り込む事に成功した。が‥‥
「近すぎる!」
 安則が銃口を上に向ける。このままでは愛華まで巻き込みかねなかった。
 転がり込むように『前線』を越える愛華。追うNW。立ち塞がったのは、ミカエラだった。

 完全獣化したミカエラがNWに突き進む。アウトボクサースタイルを取るつもりだったがこうなれば仕方がない。インファイトだ。格闘しか特技の無い自分は肉の壁となって他者を援護する。というか、コイツ(NW)が出てこなければ自分がこんな醜い姿を晒すこともなかったのに‥‥!
 乱入者の出現にヒトデ型NWが『上半身』を起こす。そこにミカエラの速度と体重と腰の入ったアッパー気味のボディーブローが突き刺さった。しかし、手応えは弱い。分かってはいたが、データを取るなら自分で試してみたかった。
「やはり打撃は効きにくいワネ。なら‥‥!」
 引き戻した右の拳、風神拳の周りに風が巻く。だが、それを叩きつける前にNWの『腕』が横殴りに振るわれる。ギリギリで後ろへ避けるミカエラ。鉤爪の先が黒い肌に一筋の傷をつけていった。
「ミカさん、もう大丈夫だよ!」
 後ろから聞こえる愛華の声。ミカエラは翼をはためかせて跳びずさった。突然目の前から目標を失い、NWの動きが一瞬、止まる。
 その一瞬。広いセットの真ん中にNWが取り残された。遮蔽物も無く、周囲に他者の目も存在しない。すべてはこの状況にNWを追い込む為に、この一瞬の為に今回の作戦は練り上げられたのだ。
「一斉射撃!」
 号令をかけつつ、安則は自らもIMIUZIをフルオートで連射した。セット内に轟く銃声。もう少しセットが狭かったら大変な事になっていたかもしれない。さらに愛華が借り受けたM870を撃ち放ち、運が『火炎砲弾』を、セナが『虚闇撃弾』を、四方から浴びせかけた。
 NWの表面に穿たれた無数の弾痕が火力の凄まじさを物語っていた。いきなり瀕死に追い込まれたNWは戦意を失って逃げ出そうとする。だが、このビル内セットには逃げ道は一つしかない。
「逃がすな! 包囲殲滅するんだ!」
 耳鳴りに顔をしかめながら、安則が号令する。弾倉が空になった銃を下に置き、降魔刀を引き抜いて翼をはためかせる。
 ミカエラ、イルゼ、神無が距離を詰めていく。銃撃の間、外で待機していたベオも鉄バイプを手に出口に立ち塞る。その間に愛華がさらに発砲。セナも同様に『虚闇撃弾』で近接組を支援する。
 近接戦闘へと移る駄賃とばかりに、運が最大限に威力を増した『火炎砲弾』を発動する。両の拳を腰の横で握り締めるポーズで、開いた口の中で燃え盛る炎が大きさを増していく。
「喰らえ大玉!」 
 口から撃ち出された炎がNWを焼く。NWはそれに抗ったもののダメージは大きかった。
 炎に炙られるNWを見て、イルゼが何やら考え込んだ。そうして一つ頷くと手にした火尖鎗を振る。彼女の得物はそれだけだった。NWとの戦闘だというのに驚くほどの軽装だ。曲芸師だから、戦闘でも動きやすさを重視しているのかもしれない。
 鎗の穂先がNWを引っ掛ける。その瞬間、イルゼは念を集中させ、NWに炎を浴びせかけた。
「‥‥ヒトデの干物なんていらないけど‥‥燃やすの?」
 考え込んだ結果、それが彼女の結論だった。
 何とか出口まで辿り着き、逃げ道を開こうと半身を起こして攻撃態勢に入るNW。その懐に神無が跳び込んだ。
「──厄介なその腕、まずは一つ貰おうか」
 抜打ちでソニックブレードを振るう神無。流麗な軌跡を描き、刃がNWの一番上の腕に喰い込む。さすがに一撃で跳ね飛ばすような真似は出来なかったが、それでもその腕がぐったりとする。そこへ横殴りの反撃。鉤爪は雷を纏っていた。
「む──」
 それを抜き身で受けて後退する神無。どうやら雷撃を使える腕に区別はないらしい。
 そして、NWの背後からステップインするミカエラ。風を纏った拳がNWに炸裂する。さらに左腕のソニックナックルを──その直前、『俊敏脚足』で突っ込んできたイルゼの鎗がズブリとNWを突き刺した。
 力なく倒れるNW。しばらく待ってもNWは動かない。コクリとイルゼが頷いた。
「やっと‥‥終わったんだよ〜‥‥本物の散弾銃って、やっぱり反動が凄いんだね〜」
 愛華が床にへたれ込む。とにかく生きた心地のしない一日だった。
「なんだよ。俺が来る前に終わったのかよ」
 前線に到着した運が残念そうに言った。俺の必殺『臥龍爪牙』を見せたかったんだけどな、と苦笑する。
「大した被害も無く終われたのだ。御の字だろう」
 神無がそう言って剣をしまった。そのまま獣化を解き、一服する為に外に出ていく。
「前回、あれだけ手こずったっていうのに‥‥秒殺かよ‥‥」
 呆れたようにベオが呟く。セット内部での戦闘には1分かかっていなかった。それもコアの破壊ではなく純粋な力押しでだ。改めて完全獣化状態で武装した獣人の戦闘力の高さを思い知らされる結果となった。

 左腕を振り上げたまま、無表情にNWを見下ろすミカエラ。動かないNWを前に時を過ごす。どれくらいの時が過ぎたのか‥‥やがてミカエラはその左腕をNWのコアへと叩きつけた。

 こうして撮影所での殲滅戦は終わった。
 ちなみに、ヒトデの卵巣はウニの味に似て美味だと言うが‥‥実体化の際に変異して失われてしまっていた。ヒトデの『肉』部分の味は‥‥『意外といけるけど、まあ、こんなもんかな』という感じだった。