クリスマスドラマSPアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
柏木雄馬
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/26〜12/30
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●本文
今年もまた、クリスマスの時期がやってきた。
華やかな光のイルミネーション。軽快なクリスマスソング。クリスマス一色にデコレートされた街中で、人々は空気にすら酔うのだろう。
かつてはここにもそのようなクリスマスが存在した。が、それは絶えて久しかった。
閉鎖地区トウキョウ。ウエノ公園キャンプ外輪防御陣地。自警団の兵たちは塹壕の底で貴重な煙草に火を灯す。遠くを眺めれば真っ暗な地上と明るい夜空。そこに自分たちを隔離する『長城』が影絵のように浮かび上がっていた。
壁の向こうは光に満ち、頭上に星も輝くまい。自分たちを照らすのは月と星と煙草の灯火だけだというのに。
「クリスマス、ね‥‥そんなんもあったなぁ。連中、何をそんなに祝ってるんだ?」
「少なくとも、俺たちの『今日も生き延びれた、ありがとう』記念日を祝ってるんじゃないだろうよ」
「こんな日くらい子供に土産でも持って帰りたいもんだが‥‥空薬莢ってクリスマスプレゼントになるかね?」
シニカルに言葉を交わす自警団員たち。遠くの方から銃声が響いてきたのはそんな時だった。連続した発砲音。微かにエンジンの咆哮とタイヤのスリップする悲鳴が聞こえてくる。
「12.7mmと‥‥7.62mm?」
「今日の『定期便』(支援物資輸送)は終わったよなぁ?」
のんびりと言葉を交わす兵たち。騒音はだんだんとこちらに近づいてくるようだった。
「照明弾上げ。支援射撃準備」
やがて上官から命令が下り、兵たちは淡々と銃を構えた。照明弾が打ち上げられ、白い光が廃墟と化したトウキョウを照らし出す。その光の輪の中に、車体を滑らせてドリフトする装甲救急車の姿が飛び込んできた。続いて護衛の傭兵たちの乗るAPCと、それら二台に纏わり付く異形の怪物、『クリーチャー』。
命令が下され、塹壕から火線が伸びる。鉛玉に乱打され、脱落していくクリーチャーたち。難を逃れた装甲救急車は、横滑りする車体を街灯に激突、弾かれ、尻を振りながらも体勢を立て直し、山の手の上へと続く坂を疾走した。最後の角をドリフトで通過。そのままキャンプの中へと突っ込んでいく。
「‥‥なんだありゃ?」
兵が呟く。伸びた煙草の灰がポトリと落ちた。
ウエノ公園キャンプ、駐車場。真っ赤に塗装された装甲救急車が荒々しく停車する。側面にはディフォルメされたサンタの絵。車体はあちこちデコボコで塗料は剥げ落ち、無残な姿を晒していた。
車内では、機関員がハンドルに突っ伏して荒い息をついていた。助手席の救急隊員も喘ぐように汗を拭く。
「‥‥ヤバかった。今回は本当にヤバかった‥‥新車がスクラップ同然だ‥‥」
「‥‥あちこちぶつけましたからねぇ‥‥」
深い溜め息をつく二人。どちらからともなく視線を合わせる。
「‥‥ぶつけたな」
「ええ、大層派手に」
「‥‥荷は無事かな」
「無茶言いますね。無理でしょう」
あちゃー、と天井を仰ぐ機関員と救急隊員。
後ろに積まれた車の『荷物』。こうもあちこち振り回されては無事であろうはずもなかった。
話は一週間前に遡る。
武装救急隊を擁するNGO。その北東地区救急本部。隊員たちが待機する詰所にやって来たNGOの職員がこんな事を言い出した。
「キャンプの人々に『クリスマス』を届けます。沈みがちな人々に笑顔を取り戻してあげたいんです」
聞けば、既に通常の支援物資の輸送に加え、電飾やケーキ、プレゼント、もみの木などを運ぶ計画が出来ているという。キャンプの自治組織も『祭り』に乗り気のようで、出し物に使う衣装や舞台装置なども手配済みという事だった。
隊員たちは顔を見合わせた。話は分かったが、なぜそんな事を医療救急部門の自分たちに話すのか?
「会場に巨大なクリスマスケーキを用意しようと思っているんです。ただ、閉鎖地域に職人さんたち入れませんから、出来たものを搬入する事になるんですが‥‥時期が時期だけに皆さん忙しくて、輸送隊の出発時刻には間に合わない。
そこで、皆さんに完成したケーキを運搬して頂きたいのです。患者を乗せて悪路を踏破する事に特化した装甲救急車なら、ケーキを運ぶのにも最適です。丁度、失われた9号車の代わりが届きます。医療機器もまだ積んでいないので、これをクリスマス仕様に改造します」
キャンプの人々の為にぜひお願いします、と熱弁し、頭を下げるNGO職員。隊員たちは再び顔を見合わせた。
●出演者募集
以上がドラマ『武装救急隊 トウキョウのサンタクロース』の冒頭部分になります。
このドラマの制作に当たり、出演者を募集します。
PL(プレイヤー)のプレイングとその判定がドラマの脚本となり、
PC(キャラクター)がそれを演じることになります。
オープニングと設定を使って、ドラマを完成させてください。
皆で協力して、ドラマを作り上げる事が目的です。
●設定
──20XX年。新型爆弾に汚染され、『長城』により閉鎖された旧トウキョウ地区。
隔離された内部には、新型爆弾の影響で異形の姿になった人々が見捨てられていた。
各地にキャンプを作り、身を寄せ合って暮らす異形の人々。
そんな彼等を救うべく設立された民間の武装救急団体──
ドラマ『武装救急隊』は、そんな世界を舞台にしたオムニバスドラマです。
1.武装救急隊
隔離された旧トウキョウ地区に取り残された人々を救済する為に結成されたNGO。
その医療・救急部門が『武装救急隊』です。
危険地帯を突破して現場に到着する為に『装甲救急車』を複数台保持しています。
2.装甲救急車
非武装の救急車。装甲されており、小銃弾程度の攻撃には耐えられます。
足回りが強化されており、不整地踏破能力もあります。
3.装甲救急車の乗員
機関員(運転士)、救急隊員(サブ運転士を兼ねる)、医師(救急隊長を兼ねる)、看護師の4名。
乗員は固定というわけではなく、シフト制です。
4.護衛
武装救急隊に装甲救急車の護衛として雇われた傭兵たち。
APC(装甲兵員輸送車)に乗り込み、装甲救急車の脅威を排除する歩兵戦闘のプロたちです。
5.キャンプ
新型爆弾の影響を受け、隔離された人々が集まるプレハブの居住地。
しっかりとした自治組織が存在し、政府と民間団体の援助を受けて生活しています。
比較的平穏ですが、常に『発病』の恐怖が人々に付き纏っています。
物々交換の食堂を経営する者が現れるなど、避難の場から生活の場へと変わりつつあります。
6.新型爆弾
現実にはありえない不思議爆弾。
劇中でこの新型爆弾について語られる事はありません。
この新型爆弾の影響で、トウキョウは『クリーチャー』の跋扈する隔離地域になりました。
7.クリーチャー
新型爆弾の影響で発生した生物兵器的モンスター。
既存の生物を戦闘に特化した存在です。
当然、人間も例外ではなく、『発病』するとクリーチャーになります。
●リプレイ本文
「射撃中止っ、撃つなーっ!」
自警団の中隊長アシュグレイ(役:ラマンドラ・アッシュ(fa4942))の声を背に聞きながら、甲斐(役:かいる(fa0126))はキャンプへ続く坂道に飛び出した。目前を疾走していく赤い装甲救急車。そこへ甲斐は散弾銃を撃ち放つ。
タイヤを軋ませながら救急車が走り去る。そこから転がり落ちる人型の何か。それは最後まで救急車に追い縋っていた獅子人型のクリーチャーだった。甲斐は無言のまま倒れたクリーチャーに歩み寄ると、ホルスターから大型拳銃を引き抜いた。
発砲。50口径弾を受けてクリーチャーは完全に沈黙する。月明かりに浮かぶ甲斐の口元。その端が歪に曲がる。
アシュグレイが振り回す赤色灯の合図を受けて、護衛のAPCが路上に佇む甲斐の手前でゆっくりと停車した。ライトに照らされる甲斐の姿。上部ハッチから顔を出したベオ(役:ベオウルフ(fa3425))は、その姿を目にして息を飲んだ。
「お前‥‥?」
何か異質なものを感じてベオが絶句する。指が無意識に、手にした散弾銃の安全装置を確認していた。
「甲斐殿! 何故あのような真似をした!? 銃火の只中に飛び出すなど、危険であろう!」
そこに赤色灯を手にしたアシュグレイが駆け寄ってきた。筋骨逞しい長身の中年男だったが、どことなく線の細い印象の隊長だった。トウキョウがこうなる前は中間管理職だったのかもしれない。
「ん‥‥? ああ、危なかったか‥‥? クリーチャーを引っぺがすにはあれしかないと思ってな」
バツが悪そうに頭を掻く甲斐。その姿はいつもの甲斐だった。
「ねえ、さっき通った救急車だけど‥‥なんであんなに赤いのかな?」
塹壕から出てきた葛城 縁(役:響 愛華(fa3853))がベオに尋ねた。事のあらましを語って聞かせるベオ。甲斐に感じた違和感は、その頃にはもう忘れていた。
「ああ、だからサンタさんなんだね。でも、あんな派手な色で大丈夫だったのかな?」
「クリーチャー共がよってたかって張り付いてきたからな。いつも以上にハンドルをぶん回して‥‥あれじゃ『中身』が無事なわきゃねーわな」
苦笑いを浮かべるベオ。二人の会話を聞きつけたアシュグレイが、ハッとして顔を上げた。
「そうだ。救急車はどうなったのだ。荷は無事に着いたのか!?」
慌てて無線機を取り出すアシュグレイ。何度か呼び掛けても繋がらないので、そのまま駐車場へと走り出した。
その頃、駐車場では、ボロボロになった装甲救急車の中で、機関員の水上 隆彦(役:水沢 鷹弘(fa3831))と救急隊員の天城 静真(役:天城 静真(fa2807))が脱力して突っ伏していた。このトウキョウでの救急車の運転は、サファリラリーのそれよりもきつい。しばらくそのまま動かずに荒い息を繰り返す。
ようやく落ち着いたところで、水上と天城は無言のまま視線を交わした。中の『荷物』が酷いことになっているであろう事は、自分たちが一番よく分かっていた。分かっているだけに、後ろの荷室の沈黙が妙に怖い。
「まあ、それでも、『荷物』の確認はしておかんとなぁ‥‥」
水上が深く溜め息をつくと、天城が心底嫌そうな顔をした。
二人は救急車の運転室から出ると、重い足取りで後部扉へと回った。途中、ボロボロになったサンタのイラストに足を止める。子供たちを喜ばせる為に描かれたペイント。それが今は痛々しい。
「‥‥ったく。いつもと違う事をしようとするから、こうなるんだ‥‥」
頭を振りながら扉の前に立つ水上と天城。躊躇うように立ち尽くした後、覚悟を決めて扉を開く。
そこには、リボンのついた巨大な赤い箱が収まっているはずだった。が、クリーチャーを避ける為の激しい運転で『荷物』は振り回され、箱はひしゃげて破れ、中身のケーキがあちこちに飛び出し、散らばっていた。
そして、全身生クリームまみれになった美女二人。医師の狐木・玲於奈(役:白狐・レオナ(fa3662))と大曽根カノン(役:大曽根カノン(fa1431))だった。非番だった二人は、『キャンプのパーティ−の準備に人手がいる』と半ば強引に連れて来られたのだ。荷のケーキの箱と一緒に入れられ、必死でそれを支えて倒れないようにしたのだが、いつも以上に激しい運転の所為でご覧の有様となっていた。
「せっかくのお休みだったのに‥‥どうしてこんな目に‥‥」
「本当よ。私なんて研究の途中だったのに‥‥」
ぎろり、と、弧木と大曽根に睨まれて天城がうっ、と後ずさる。非番の二人を見つけ、暇なら手伝ってくれと荷室に押し込んだのが天城だった。クリームまみれのコミカルな格好の女医二人だったが、それだけに眼光が却って怖い。
「まるで洗濯機か何かの中にいるようでしたね、弧木さん。おかげでクリームまみれです」
「そうね、大曽根さん。掃除機に吸われたゴミの気持ちがよく解るわね」
あちこちぶつけて痣だらけよ? などと薄く笑う弧木。ハンドルを握っていた水上もたじろいだ。
「‥‥これでもだいぶ優しく走っ、た、ぞ‥‥?」
悪いのはクリーチャーだ、という言葉を水上は飲み込んだ。うふふふふふふ、と女医二人が笑っている。ただひたすらに怖かった。
「‥‥えーっと‥‥。‥‥だ、大丈夫かな?」
アシュグレイ、甲斐、ベオらと共に駐車場にやって来た葛城は、荷物と隊員たちの惨状に唖然とした。車の荷室から引き出されたケーキはボロボロで、ついでに隊員たちも皆、生クリームまみれでボロボロだった。
それでも、『長城』内の葛城には随分と懐かしい甘い臭いだった。葛城は惹かれるように歩み寄ると、トレイに飛び散った付いた生クリームを指ですくって舐めてみた。
懐かしさに、それだけで涙が出た。
「‥‥キャンプの子供たちはクリスマスも知らぬ。この世にはケーキのように甘く美味なる物もあるのだ、と教えてやりたかったのだが‥‥」
そう言ってアシュグレイが肩を落とした。面目ない、と水上が頭を下げる。
「‥‥まだ諦めるのは早いんだよ。何とかしようよ。私は子供たちが喜ぶ顔が見たい。あの子たちには笑顔でいて欲しいんだよ‥‥!」
涙を拭き、場にいる皆にそう説く葛城。だが、無残なケーキの残骸を前にして、アシュグレイの顔は暗かった。
「しかし、これでは‥‥一体、どうやって‥‥」
それを言われると葛城も俯くしかない。それに元々、武装救急隊員にはそこまで付き合う義務は無い‥‥
ボリボリと頭を掻きながら、甲斐がケーキの前に進み出た。
「‥‥こりゃ酷いな‥‥でも、ま、一応、飯屋のシェフに見てもらうか。何とかなるかもしれんしな」
甲斐はそう言うと、巨大なケーキの残骸を抱え上げた。
「‥‥何とか形にするしかないだろうが‥‥足りない物は『壁』の外まで戻って調達するしかないか。付き合ってもらうぞ、傭兵」
水上とベオがそれぞれの車へと戻っていく。意外な展開に言葉も出ない葛城に、弧木が近づいた。
「まったく‥‥非番の日にこんな労働をさせるなんて。後で一番高い料理を奢ってもらうわよ?」
そのまま照れたように先を急ぐ弧木。葛城は、先程とは違う種類の涙が込み上げるのを抑えた。
ウエノ公園キャンプで唯一の厨房で、ケーキの修復作業は行われていた。
料理の得意ではない大曽根は作業には参加せず、ケーキを待ち焦がれている子供たちの相手をする事にした。とは言っても、医術の知識を詰め込むことに青春を捧げた大曽根は、いざ子供たちを前にするとどうしていいのか分からなかった。
「‥‥とりあえず、メディカルチェックをします。みんな一列に並んで下さい」
えぇー? つまんなーい、と騒ぐ子供たち。大曽根は当惑しながらも、「ほら、ケーキが来ても体調が悪かったら食べられないでしょ?」と、ぎこちない笑顔で宥めようとするが、子供たちは収まらない。
そこへ、サンタの衣装を着た天城がやってきた。
「先生、子供相手は慣れてないんだな」
ワタワタと慌てる大曽根を見て笑いが止まらぬ様子の天城。さすがに笑い過ぎではなかろうか、と大曽根は眉をひそめた。
「‥‥ケーキの修復はどうしたんですか?」
「あっちは手が足りてるからな。‥‥おーい、おチビさんたち! クリスマスツリーの飾り付けを手伝ってくれないか?」
天城は大声で子供たちにそう呼びかけ、手にした色とりどりの飾りを掲げて見せた。物珍しさに子供たちがわらわらと寄ってくる。
「よーし、行こうか。まずはお兄ちゃんがお手本を見せるからな〜」
どこかの笛吹き男のように子供たちを引き連れて広場へ向かう天城。一人、大曽根だけが残された。
「‥‥こういうのも一人きりのクリスマス、っていうのかしら」
何となく泣きたくなった大曽根。そこへ女の子が一人戻ってきて、センセも行こ? とその手を引っ張った。
「落ちないように気をつけろよー」
モミの木に飾り付けをする子供の脚立を押さえながら、天城が言った。小さな男の子が自分もやるとやって来たので、天城はその子を抱き上げて飾りを付けさせてやった。
「おっ、うまいうまい。綺麗に飾れたなー」
褒められてはにかむ男の子。すぐに他の子供達が自分も自分もと集まってきた。
「待て待て。順番、順番にな」
次から次へと子供たちを持ち上げる天城。二回、三回と『高い高い』をせびる子供たちに、最後には疲れてヘロヘロになってしまった。子供の遊びの相手は、装甲救急車でトウキョウを疾走するよりもきつい。
「ちょっと待ってくれ〜。お兄ちゃん、ちょっと一休みな」
さすがにへばり、子供たちを宥めてその輪から抜け出す天城。とっくにリタイアしていた大曽根の横に腰を下ろし、笑顔で大きく息を吐いた。
「‥‥驚いたわ。意外な特技を持ってるのね」
「まぁな。子供たちの相手をするのは嫌いじゃない」
そう言って目を細める天城。だが、休む間もなく、飾りの取り合いでケンカが始まってしまっていた。苦笑しながら天城が立ち上がる。
「こらこらこら! みんなで仲良く分け合わなきゃだめだろう」
仲裁に入る天城。そこへ救急車の模型を持った子供が体当たりしていく。よろける天城と笑う子供。それに苦笑しながら、大曽根は自分もその輪に加わるべく立ち上がった。
「メリークリスマス!」
三角帽子を被り、どこかはしゃいだ様子のアシュグレイが、取って置きのシャンパンを開ける音でパーティーは始まった。唱和する歓声とグラスの鳴る音。クラッカーの音だけは響く事が無い。子供たちに銃声を思い起こさせるからだ。
ウエノ公園キャンプの中央広場。クリスマスソングが鳴り響き、七面鳥やプディング、普段は見られぬご馳走が白いテーブルクロスの上に並べられている。子供たちの飾りつけた電飾が木々を彩り、ステージの上では大人たちがはしゃいでいた。
鳴り物入りで登場した巨大なクリスマスケーキは、お世辞にも綺麗とは言えなかった。何とか形を誤魔化し、どうにか見られるように仕上げたが、やはり職人が作った物には到底及ばない。「‥‥。まあ、腹に入れば一緒だろう」などと水上は渋い顔で自分に言い聞かせたものだった。
だが、そんな不恰好なケーキであったが、子供たちは目を輝かせて喜んでくれた。その笑顔を見れば苦労も報われるというものだった。
「たまにはサンタの真似事をしてみるのも悪くはない、か」
子供たちとはしゃぐ天城と甲斐を見ながら、水上は一人、自分にグラスを掲げて見せた。
その目の前をジリジリと通り過ぎる二人の人影。油汗を垂らしながら後ずさる葛城と、妖艶な笑みを浮かべながらしな垂れる様に迫る弧木の二人だった。
「んふふふふふ。縁ちゃんってホント可愛いわよねー。出会った頃から思ってたのよ‥‥ああ、もう、この際、女の子でもいい気分ね。ほんとに可愛い‥‥じゅるり」
「わわわ、先生、目が据わってる。っていうか、『じゅるり』って自分で言っちゃってるよ。じゃなくて、私にそんな趣味はないんだよ〜!?」
慌てて逃げ出す葛城と早足で追い続ける弧木。二人の姿が会場の笑いを誘う。
「‥‥誰だ? 先生に酒飲ましたのは‥‥まあ、いいか。クリスマスだしな」
理由にならない理由で納得した水上は、やはり久しぶりに酔っていたのかもしれない。
騒がしい会場を後にして、ベオは一人、立ち木を背もたれにしてグラスを傾けた。
喧騒が嫌いなわけではない。ただ、何となく一人になりたかった。そんな気分だった。
「クリスマス、か。そういえばアイツもいつも楽しみにしていたっけな‥‥」
今は亡き彼女を思い出す。あの時、引鉄を引いた事は間違ってはいなかった。ただ、どうしようもない喪失感がポッカリと胸に穴を開けていて、こんな夜はそれがどうしようもなく大きくなるのだった。
「メリークリスマス。来年もいい年でありますように」
診察を終え、大曽根は持ってきたケーキを患者に差し出した。会場まで来られない患者たちの為に、彼女は診療にかこつけて差し入れを持ってきていたのだった。
「他の先生には内緒よ? カロリー高いんだから」
涙を浮かべて礼を言う患者たちに悪戯っぽく笑い、大曽根は静かに空を見上げた。月の綺麗な夜だった。
やがてパーティーは終わり、これまでと変わらぬ日々が戻ってくる。
日はまた昇り、沈んでいく。人は生き、死んでいく。トウキョウに銃声が途絶える事はなく、救急車は今日も廃墟を疾走する。葛城が銃を手放す日はまだ遠い。その銃口が『彼等』に向けられる日が来るとしても。
「だけど、それでも、また何時か‥‥そう何時の日にか。お互いに笑い合える日々が来るといいね‥‥」
葛城は呟いた。
別たれた道が。隔たれた世界が。また一つとなる事を願いながら‥‥