鷹司キャンプ 即応訓練アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
柏木雄馬
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
やや易
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報酬 |
なし
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/22〜01/26
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●本文
奥州の山深く、人目の届かぬ森の中。その地で行わる訓練合宿は、教官の名から鷹司キャンプと呼ばれていた。
教官の鷹司英二郎は、NWとの戦いに半生を捧げた男で、10年前に46歳で引退するまで『ワイルドホーク』の二つ名で知られた高LVの鷹獣人だった。その鷹司を中心に、キャンプでは対NW戦を模した擬似戦闘や講義が泊り掛けで行われている‥‥のだが‥‥
年明け最初の鷹司キャンプ。集まった参加者たちの前に現れたのは、鷹司英二郎ではなかった。
「えー、正月に深夜のテレビ映画を見ていた鷹司が風邪をひいたので、今日明日は私が訓練担当になります」
そう言って皆の前に現れたのは、今年28歳になる一角獣獣人・藤森若葉だった。
若葉は鷹司キャンプで怪我人の治療を担当するスタッフで、普段は山荘に待機して料理や掃除、洗濯等を引き受けていた。スラリとしたスタイルの美人だが、飾り気や化粧っ気がなく、この時もトレーナーにスラックスという色気の無い格好だった。
「心配しないで下さい。訓練メニューは預かっていますから。
‥‥えーと、今日明日と行われる訓練は、山中行軍訓練です。『僻地でNWが発見された』と言う設定で、食料や水など重い装備を背負って不整地を抜け、目的地へ向かう、という状況を再現するそうです。‥‥なるほどなるほど。クタクタにさせてからの戦闘訓練かぁ」
戸惑う訓練生たちを余所に一人納得してうんうんと頷く若葉。それじゃあ、出発しましょうか、と言いかけて、手紙の最後の追伸に気がついた。
「あっ、ちょっと待って下さい。訓練に当たって、鷹司からメッセージがあります。
『状況により人数を分ける際には、互いの連絡手段は常に確保しておく事。人数を分けた場合、各個撃破される危険が常に付き纏う。相互支援を常に意識するように』
‥‥だそうです」
言っている事は尤もだが、追伸で記す意味が分からない。若葉はひとり、首を傾げた。
訓練が開始された。
訓練生たちは装備を整え、山中へと分け入った。最初は登山道を進み、それから落ち葉の堆積した足場の悪い斜面を登る。事前に設定されたタイムを念頭に、道無き道を行軍。小川を越え、幾つもの尾根と谷を越え、小さな山の頂で夜営した。ホッとする暇は無い。冷たい缶詰を掻き込む間も、NWの襲撃を警戒しなければならない。
状況が変わったのは、夜が明けてからの事だった。
仮教官の藤森若葉がいなくなった。顔を洗いに行く、と言って川に向かったのだが、いつまで経っても戻ってこない。朝食を済ませた後にも帰らず、訓練生たちも流石に心配になり、手分けをして捜す事になった。
10分後、訓練生の一人が若葉を発見した。紐でグルグル巻きにされ、赤いバッテンの入ったマスクをしていた。どうしたんですか、と尋ねると、若葉は心底情け無さそうな顔をして、黙って背中を指差した。どうやらマスクは喋ってはいけない印らしい。
若葉は上に、大きく文字が入った白いシャツを着せられていた。見れば、『喰い散らかされた死体』と書かれ、一枚の手紙が貼り付けられていた。訓練生が手紙を取って読む。
『状況変更。目的地に到着する前にNWと遭遇した。NWは不用意に群れを離れたこの仮教官を襲撃し、今も他の獣人を喰らう機会を狙っている。即応せよ』
それだけが書かれていた。
困惑した訓練生が若葉を見る。どういう事ですか、これも訓練なんですか、このNWって‥‥鷹司教官は風邪なんじゃ‥‥
質問する訓練生に、若葉は怒ったように唸り声を上げる。結論から言えば、この訓練生はすぐにでも状況を他の参加者に伝えるべきだったのだ。
気配を感じ、振り返った訓練生の視線の先に、墨で大きく『NW』と書かれた白いシャツを重ね着した鷹司の姿。
早朝の森に、その訓練生の悲鳴が響いた‥‥
●PL(プレイヤー)情報
1.状況
PC(キャラクター)たちは、まだ無事な訓練参加者となります。
現在、行方不明の藤森若葉を探索しており、木々の生えた小山の斜面にバラバラに散っています。
件の訓練生の悲鳴が聞こえてきて、何か異常があった、と感じた時点です。
ただし、状況と訓練内容が変わった事をPCはまだ知りません。
2.地形
木々の生い茂る小山の斜面が殆どです。堆積物が積もり、足場は悪くなっています。
山頂は小さな展望台となっており、夜営したのもここになります。
展望台と登山道は足場がしっかりしています。
3.NW役・鷹司英二郎
高LVの鷹獣人です。完全獣化状態でNWとして行動します。
1対1ではまず勝ち目がありません。
戦闘型の高LV獣人なら渡り合えるでしょうが、鷹司は、訓練に限れば『個』よりも『全』を重視します。
個人の能力や装備の優劣よりも、戦術や連携、状況把握といったソフト面を評価しがちです。
4.訓練用装備、及び特殊能力
模擬戦闘訓練は、ウレタン製の武器とゴム弾装填の飛び道具で行われます。
実際には負傷しませんが、命中すると『軽傷』を与えるものとして戦闘を判定します。
なお、攻撃系の特殊能力は、威力を上げないで使用して下さい。
●リプレイ本文
「トランシーバがこんな形で役に立つなんて‥‥全く、どこにいるノ、若葉サン」
仮教官の若葉を捜索する為、野営地の山頂から東側へと下ったミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)は、手にしたトランシーバーに視線を落としながら溜め息をついた。対NW戦を想定した訓練で、NWの逃走経路となりかねない無線機を持っていくことには懐疑的だったのだが‥‥全く、備えあれば憂いなしとはよく言ったものだ。
ミカエラは、無線機で定時連絡をすると、行く手を阻む茂みを掻き分けて進んだ。人の手の入らぬ山林は想像以上に進みにくい。
人の悲鳴が聞こえてきたのは、その時だった。
ミカエラは足を止めて振り返った。悲鳴は、遠く、微かに、山の向こうから聞こえてきた感じだった。
「今、何か聞こえたか?」
無線機が声を伝えてきた。同じく東側を捜索する九条・運(fa0378)の声だった。
「よく分からナイ」
答えるミカエラ。その無線機から、他の参加者たちの声が次々に吐き出されてきた。
「今のなに? 何が起こっているの?」
「悲鳴が聞こえた。一体、誰だ?」
騒然とする訓練生たち。それぞれ遠く離れた場所に居るのに『騒然とする』というのも何だか不思議な感じだった。
「落ち着いて。まずは点呼と互いの位置確認を」
一際冷静なアンリ・ユヴァ(fa4892)の声。参加者たちは、それで普段の冷静さを取り戻した。
「山頂付近を捜索中、尾鷲由香(fa1449)だ。上空から皆の位置を把握しようとしているが、植生が濃くて確認できない。皆からはあたしを確認できるか?」
「斜面北側を探索中の河辺野・一(fa0892)です。『地壁走動』で樹上に登りました。尾鷲さんからは見えますか?」
ミカエラは半獣化すると、黒い翼をはためかせて空へと上がった。少し離れた所に、陽光を受けて煌く金色の翼が見えた。半獣化した九条だろう。山頂付近で飛んでいるのが尾鷲だから‥‥南側を遠くに飛んでいるのはアンリに違いない。
「西側の因幡 眠兎(fa4300)だよ! すぐ近くから悲鳴が聞こえたよ!」
「同じく、西側探索の角倉・雪恋(fa5003)よ。おねーさん、これから悲鳴のした方に向かうけど、皆も十分気をつけてね。仮にも獣人の子が悲鳴を上げるなんて、きっとまずい状況だから‥‥」
これで、連絡が取れないのは、悲鳴の主と思しき訓練生と、叢雲 颯雪(fa4554)だけとなった。
「叢雲? 返事をしろ、叢雲」
しかし、いつまで経っても叢雲の返事はなかった。
相談の結果、ともかく声のした方へ行く事になった。叢雲も無事ならそちらへ向かうだろう。
ミカエラは、一旦地上に下りると完全獣化を開始した。完全獣化をしてから移動したほうが早いと判断しての事だったが‥‥できれば、避けたい状況ではあった。
悲鳴が山林に響き渡った時、叢雲は山の斜面の南西側の捜索をしていた。
「‥‥え‥‥悲鳴‥‥? 訓練を始めるのは目的地に着いてからのはず‥‥一体何が‥‥?」
戸惑う叢雲。ともかく、悲鳴の聞こえた方へ向かう事にした。半獣化し、足場の悪い森の中を軽やかに駆けながら、叢雲は思索を続ける。
(「‥‥でも、今も訓練中だよね。もしかして、訓練内容が変わったのかも?」)
もしかしたら、誰か何かを知っているかもしれない。叢雲は仲間に連絡を取ろうとトランシーバーに手を伸ばそうとし‥‥それが無い事に気がついた。
「‥‥あれ?」
思わず足を止め、荷を確かめる叢雲。無線機はどこにも無かった。
その時、背後でガサリと音が鳴った。叢雲は即座に振り返り、ゴム弾装填の銃を向ける。
そこにいたのは、山に棲む野生の猿だった。
「‥‥脅かさないでよね」
叢雲は、大きく息を吐いて銃を下げた。
もしも、訓練内容が変更されたのだとしたら、それを考えたのはすっごく意地悪な人に違いない‥‥
一番最初に『現場』に到着したのは、近くを捜索していて合流した因幡と角倉の二人だった。
目の前には、『食べ散らかされた死体』と書かれたTシャツを着せられた若葉と『かじられた死体』Tシャツ姿の訓練生が、ロープで簀巻きにされて転がされていた。
呆気に取られる因幡と角倉。残された手紙を読んで、ようやく状況が判明する。
因幡は赤い瞳を輝かせた。鷹司の悪戯好きそうな所が何となく自分と似ているような気がした。
角倉は無線で皆に状況の変更を伝えていた。
「‥‥えーと、そういう事だそうよ?」
「なんだよそれ。風邪ひいてんじゃなかったのかよ!」
無線機の向こうから、笑い声まじりのブーイングが聞こえてくる。とりあえず、怪我人がいないことに皆、安心した。
「ほらほら、まだ訓練は続いているんだから。教官が各個撃破を仕掛けてくるかもしれないから、集合する事を優先‥‥」
角倉の言葉はそこで止まった。すぐ横で戦闘態勢を取る因幡。角倉はゆっくりと後ろを振り返った。
すぐ後ろの木の枝の上に、『NW』シャツ姿で完全獣化した鷹司がいた。その姿を見て、角倉は‥‥
「教官、なんてカッコなの〜♪」
思わず、笑い出していた。
釣られて吹き出す因幡。鷹司は赤面しながらちょっと困ったように、咳払いをして話を続けた。
「‥‥NWは獣人を捕食する為に襲ってくる。獣人の遺体がまだ残っているのならば、それはまだ食事中だ。つまり、犠牲者の側にはNWが潜んでいる可能性が高い‥‥さて、状況は分かっているな?」
鷹司が枝から飛び降りる。角倉と因幡は視線を見合わせ‥‥無言で頷くと、回れ右して一目散に鷹司から逃げ出した。
「逃げ出したんじゃなくて、戦略的撤退だよ!」
森を疾走する因幡が誰かに説明する。横では角倉が無線機に「教官が、教官が出た!」と叫んでいた。
二人は共に『俊敏脚足』を使用して脚力を上げ、わざと足場の悪い森の中を駆け抜けた。
追いつけないと見た鷹司は、翼を使って空へと舞い、木立の上から二人を追いかけた。それを見た因幡は方針を変え、足場の良い登山道に出て全速を出す。だが、それでも空を飛ぶ者からは逃げられなかった。
「角倉さんだけでも逃げて!」
後退を諦めた因幡が脚を止める。或いは角倉だけなら逃げられるかもしれない。
「そんなことっ‥‥!」
角倉も脚を止め、鷹司にゴム弾を撃つが当たらない。
鷹司は地上に下りてウレタン製の模擬剣を構えた。どうやら移動にしか翼は使わないつもりらしい。
そのまま交戦状態に入る三人。しかし、やはり半獣化状態の二人で完全獣化相手は分が悪かった。
鷹司の懐に踏み込み、インファイトを仕掛けようとする因幡と、その周りを回る様に距離を保つ鷹司。角倉の援護射撃を躱しつつ、鷹司は因幡を追い詰めに掛かる。
次の瞬間、地に落ちた影に気付いた鷹司が大きく後ろに跳ぶ。直後、鷹司がいた場所に尾鷲が『落ちて』きた。大地にぶつかる瞬間に翼を翻し、身体を捻りながら蹴りを放つ尾鷲。鷹司はさらに距離を取り、そこへすかさず角倉が追い撃ちを放った。
その隙に着地する尾鷲。増援を得て因幡がほっと息をつく。
「悪い。少し遅れたか? ‥‥さて、前回と同じパターンだな、教官。使う手はお互いに同じだ」
「‥‥尾鷲だったな。前に会った時よりも強くなったか?」
会話の間に、尾鷲は発煙筒に火をつけ、地面に転がした。燃え上がる発煙筒。煙はすぐに立ち昇り、青い空に一筋の狼煙を上げた。
「援軍か‥‥個人的にはすぐにでも逃げ出す場面だが、NWだとそうもいかんなぁ」
模擬剣を構える鷹司。尾鷲も地上に留まって前衛に立つ。
「‥‥見つけた」
それを蒼穹から見下ろしながら、アンリが呟いた。激しい銃声が彼女をここまで導いてきた。
「‥‥間に合ったようですね」
アンリは弾倉を確認すると、誰にも邪魔されぬ彼女の戦場へ‥‥射線を阻むもののない、鷹司の直上へと向かっていった。
叢雲の頭上の空をアンリが翼を広げて飛んでいった。
先程からは銃声らしき乾いた音。空にはうっすらと棚引く煙。情報を得ていない叢雲にも、何かが起こったことは想像できた。
「おや、叢雲さん。無事だったのですね」
木の上からそんな声がした。見上げると、そこに『地壁走動』で樹上を渡り歩く河辺野の姿があった。
河辺野は今現在の状況を詳しく説明した。
「‥‥というわけで、私たちは今、鷹司教官と対NW模擬戦闘の最中なのです」
「‥‥やっぱり、意地悪な人だった」
むー、と眉をひそめる叢雲。その間も二人の足は止まらない。
到着した戦場では激戦が繰り広げられていた。既に九条とミカエラの東側飛行組も到着していたが、それでもまだ鷹司は一人で渡り合っていた。やはり、完全獣化しないと勝ち目は薄いようだった。
飛び出そうとする尾鷲を、河辺野が引き止めた。
「せっかく、絶好の位置と機会を得ることができたのです。完全獣化してからいきましょう」
河辺野はそう言うと、足元の石を2、3個拾った。恐らく、それ以上は必要ないだろう。
「こちら河辺野。ただ今到着しました。完全獣化後、機会を見て教官に奇襲をかけます」
『知友心話』を使って前線の味方に連絡する河辺野。そのまま樹上に戻り、完全獣化を開始した。
「‥‥仲間が完全獣化する時間を稼ぎます。援護射撃を」
大空の主と化したアンリがゴム弾を地上へ撃ち下ろす。前後左右、鷹司がどこに逃げても、空中からは丸見えだった。小刻みに進路を変えて後退する鷹司を、アンリの照準が執拗に追う。地上の角倉との立体的な十字砲火。だが、その殆どを躱す鷹司に、アンリは正直、舌を巻いた。
銃撃で鷹司の攻勢を封じたその隙に、長く前線にいた因幡と尾鷲が完全獣化する為に後退する。壁役の彼女らは、ここまでに結構な負傷判定を貰っていた。
「完全獣化したら倍返ししてやるさ」
そう言って尾鷲が完全獣化を開始する。代わりに前線を維持する九条とミカエラ。付かず離れず一撃離脱を繰り返すミカエラと、正面から剣技で渡り合おうとする九条。それでもまだ、鷹司には届かない。
「NWだと言うのナラ‥‥!」
ミカエラが戦闘スタイルを変えた。右手の武器を捨て、鷹司の懐に潜り込み、手の爪で引っ掛けるように相手の胸倉を掴み上げる。そのまま左手を押し当てて『吸蝕生気』を──次の瞬間、鷹司がミカエラの右腕を掴んで投げを打ってきた。流れに逆らわず、ミカエラは鷹司の背に乗るように一回転して着地する。そのまま右腕を極めようとする鷹司。ミカエラは手を離して距離を取った。
完全獣化を終えた尾鷲と因幡が前に出て、代わりに九条が後ろに下がる。次第に押され始める鷹司。そして1分後、九条が前線に戻ってきた。
「おっしゃーっ! 望み通り、鷹司をフクロにするぞ!」
バイオレンスな性格になった九条が真正面から突撃する。一気呵成に攻め上げる九条。鷹司は対応しようとするが間に合わない。
「戴天神剣が剣技『臥龍爪牙』!」
九条の足が大地を踏みしめる。そこから発する螺旋の動きが、身体各所の螺旋と連なり剣へと伝えられ──スパァァン! とウレタンの剣が、鷹司の左肩で小気味のいい音を立てていた。近接戦闘に限れば、九条は鷹司を圧倒し得た。
鷹司は剣での戦闘を諦め、左手で銃を抜き放ってゴム弾を九条へと浴びせかけた。そのまま距離を取ろうとする鷹司。そこへ、それまで機を窺っていた河辺野と叢雲が退路を断つように襲い掛かった。
河辺野の『飛石礫弾』、そして、飛び出した叢雲の至近距離からの銃弾が鷹司に浴びせられる。
「NWは必ず殲滅せねばならぬモノ。決して退路を与えてはならない」
それが、かつて叢雲が教えられた事だった。
動きを止めた鷹司に、アンリと角倉、そして叢雲のゴム弾が集中する。あだだだだだ‥‥! と悲鳴を上げた鷹司が、両手を大きく振る。
模擬戦闘は、ここで終わった。皆が歓声を上げる。
「石、余ってしまいましたね」
礫弾一発で戦闘を終えた河辺野が残った石を放り上げた。
「反省会〜♪ 頑張ったみんなの疲労回復に、ちょっと早いバレンタインチョコのプレゼント〜♪」
訓練終了後、いつの間にか恒例になったバーベキューの席が反省会の場となっていた。
角倉が歌うように皆に携帯食のチョコレートを配って回る。そして、アンリが激辛スナック菓子を両手でしっかりと握っているのに気が付いた。
「‥‥ええと、甘いものは苦手かな‥‥?」
問いかける角倉にフルフルと首を横に振り、アンリはチョコを受け取った。代わりにスナック菓子の袋を開けて勧める。
「‥‥食べますか? 美味しいですよ?」
恐る恐る手を出し、口から火を吐く角倉。それを背景に、九条は鷹司にNW戦時の無線機使用に関する是非と注意点を尋ねた。
「基本的に、NWは、残りやすく、他者に感染しやすい情報を好む。だから、すぐに消えてしまうような無線の電波などに乗ろうとはしない。‥‥ただ、追い詰められた動物が崖から飛び下りる事もある。絶対ではない。どこかで誰かが、その情報を記録してしまう偶然もあるかもしれない。ま、心配なら電源を‥‥いや、電池ごと抜いてしまえばいいさ。
それよりも今回の模擬戦だ。真っ先に合流するのも選択肢だぞ? 仲間を見捨てることになりかねないが、連絡が途絶えた時点で予想できる結末ではある‥‥それから、包囲網を形成するのが遅い。俺も調子に乗って戦場に長居してしまったが、NWは不利と見ればすぐに逃げ出すからな。本来なら、押され始めた時点で‥‥おい、聞いてるか? こら、肉ばかり食べるんじゃない」
鷹司キャンプの夜は、概ね平和に更けていった。