洞窟内蛇型NW討伐依頼アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 柏木雄馬
芸能 1Lv以上
獣人 6Lv以上
難度 普通
報酬 46.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/27〜03/31

●本文

 画面には、洞窟内を進む探検隊の姿が映っていた。
 音声は未編集だった。足元を流れゆく地下水のせせらぎや探検隊とスタッフの荒い吐息、機材のぶつかり合う硬い音がそのままスピーカーから流れてくる。
 突然、短くも鋭い叫び声が上がり、カメラが素早く右へとパンする。揺れる画面。暗黒を背景に、照明に照らされた『何か』がフレームインする。センターズーム。ピント修正。画面に鎌首をもたげた大蛇が大写しになる。
 慌てて逃げ出す探検隊。
 ミチミチとその身体が張っていく大蛇。鎌首をもたげたその『腹』の下、照明の光を受けて煌く何か──

「先日、とある番組のロケ隊が鍾乳洞での番組撮影中にNWと遭遇した。この映像はその際に撮られた物だ」
 鍾乳洞近くの駐車場に止められたミニバスの中。
 NW討伐の為に集められた者たちを前に、依頼主と思しき壮年の男がそう言って映像を止めた。
「実体化が始まっており、コアも確認できる。これを討伐して貰おう、と集まって貰ったわけだが」
 黒いジャージの上下にスニーカー、銜え煙草の男が淡々と言う。その探検隊モノの番組のアドバイザーだという話だが、外見からはとてもそうは見えなかった。
「本来なら、この映像だけしかNWの情報はなかったんだが‥‥その番組のプロデューサーが俺の言う事も聞かずに『残されたシーンの撮影を終わらせろ』って無茶を言ったらしくてな。ロケ隊は再度、鍾乳洞に進入して‥‥まぁ、案の定、NWに遭遇しちまったわけだ。
 で、撮影は失敗したんだが、その際、非戦闘員のスタッフたちを逃がすのに少し交戦したようで、幾ばくかの情報を持ち帰った」

 一つ。外観は、『巨大なムカデの頭を持った大蛇』。全長は5m以上、胴回りは大人の頭ほどもあり、『尾』の部分が細く二股に分かれている。全身は鱗状の甲殻に覆われ、生半可な攻撃は通用しない。
 二つ。攻撃方法は、巨大なムカデの顎による一撃。全体の動きは鈍いものの、その攻撃自体は素早くて正確。巨体と怪力と相まって威力も大きい。特に、電撃を纏った一撃は危険。それ以外の攻撃方法については不明。

「──‥‥まあ、予想通り強敵なわけだが‥‥ロケ隊の連中が、制限された条件の中、個々の撮影現場における『特殊な状況』に如何に対応するか──如何に『詰み』となる状況を回避するかが問われたとするなら、こちらは『如何に倒すか』──如何に『詰み』に持っていくかが問われるか。力押しで勝てるならそれに越したことは無いが、有利な状況は一つでも多く積み上げとくべきだろうな‥‥」
 ポリポリと頭を掻きながら、男はそんな事を言った。
「最後に一つ。
 戦いというものはすべからく、心が折れた側の敗北で勝負が決まる。それは、小学生の口喧嘩でも大国同士の戦争でも変わらない。
 だが、俺たちの──獣人とNWのそれは違う。NWは獣人を喰らう為に、俺たち獣人はそんなNWを根絶やしにする為に命を懸ける。それは『戦い』ではなく『狩り』なんだ。獣人にとっても、NWにとってもな。生きてさえいれば勝ちとも言え、逆に逃がしてしまえば負けとも言える。その事を心に留めて、容赦なく、確実に、NWを追い詰めて息の根を止めてくれ」
 煙草を揉み消す壮年の男。どこか面倒臭そうな、やる気の無さそうな表情に、一瞬、力が入った。

●洞窟内NW討伐依頼
1.目的
 鍾乳洞に潜む蛇型NWの討伐依頼です。
 洞窟内に進入し、発見次第、これを撃滅して下さい。

2.制限
 洞窟内という事で、完全獣化は自由です。
 ただし、余りにも大きな装備品は、洞窟内で苦労するかもしれません。
 狭い空間なので、銃器を発砲する事も控えた方がいいでしょう。

3.鍾乳洞
 全体は広く、人の都合などお構い無しに複雑に分岐しています。人の通れない狭い穴や、行く手を阻む地底湖や崖、高い位置にある通路(挙句に行き止まり)等です。一方、石筍や石柱の連なる大空洞や、棚田状に水の溜まったリムストーンプール、天井部が崩落して光が差し込む空間など、荘厳で美しい場所も多くあります。

 その他の状況、及びNWについての詳細は上記の通りです。

4.壮年の男
 引退した高LVの鷹獣人。
 年なので体力は高くなく、装備品もありません。

 なお、TV局のロケ隊は撤収済みです。
 依頼に必要そうな機材(照明機器など)は、自前で購入、装備しておいて下さい。

●今回の参加者

 fa0203 ミカエラ・バラン・瀬田(35歳・♀・蝙蝠)
 fa0791 美角やよい(20歳・♀・牛)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)
 fa2539 マリアーノ・ファリアス(11歳・♂・猿)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa3392 各務 神無(18歳・♀・狼)
 fa4044 犬神 一子(39歳・♂・犬)
 fa4300 因幡 眠兎(18歳・♀・兎)

●リプレイ本文

 巨大な岩盤に大きな裂け目がパックリと口を開けていた。大地に刻まれた闇の顎。自分よりも遥かに大きなその入り口を前にして、『プロレスごっこ王』として知られる赤毛の少年、マリアーノ・ファリアス(fa2539)(通称マリス)は好奇心に満ちた瞳でそれを見上げていた。
「テレビで見たより大きく感じるなぁ‥‥まさか、あの番組の裏でこんな事になってたなんて」
 知り合いも出演していた探検隊系の番組、その撮影中に遭遇した蛇型NW『百足蛇』。その討伐の為、マリスは今ここにいた。
「おい、坊主。あんまり近づくな。危ねぇぞ」
 洞窟の入り口より少し離れた討伐隊の集合場所。犬神 一子(fa4044)がマリスに呼びかけた。件の番組にも関わったベテランの裏方で、既に鬼面の鎧も装着済み、髑髏面を引き下ろせば、いつでも戦闘態勢に入れる構えだった。
「さて‥‥後は、女性陣が来るのを待つばかりですね」
 黒いスーツに黒いマント、全身黒尽くめの相沢 セナ(fa2478)が、長い黒髪を纏めながら言った。女の着替えは長いからな、と答えかけた犬神の言葉が止まる。イルゼ・クヴァンツ(fa2910)がこちらへ歩いていた。驚くほど軽装で、その姿はほとんど普段着と変わりがない。
「あっ! イルゼさんだ!」
 気付いたマリスが走り寄り、挨拶と共にしっかとイルゼに抱きついた。マセガキめ、子供の特権だな、と犬神と相沢が苦笑する。
 抱きつかれたイルゼは、無表情のまま歩みを止めた。そのまま立ち尽くすイルゼ。表情には出てないが、少し困っているのかもしれない。
 少し遅れて、男物のスーツに男物のコートを羽織った各務 神無(fa3392)が咥え煙草でやって来た。各務は一目で状況を見て取ると、マリスの襟首を掴んでイルゼから引き離してやった。そのまま抱きついてくるマリスを適当にあしらいながら、各務は新たな煙草に火を灯す。
「今日の相手は思った以上に厄介みたいだね。勿論、負けるつもりはないんだけど!」
 そこへやって来る残りの女性陣。因幡 眠兎(fa4300)は、跳ねるように元気良く挨拶をした。
 マリスはそこへ駆け寄ろうとして、たたらを踏んだ。パワードスーツに身を包んだ因幡。装甲服がチュィン、チュィィンと音を立てる。
「あれ? 私には来てくれないのかな? お姉さん、悲しいなー」
 因幡が面白がってにじり寄る。マリスはジリジリと後退り‥‥ポインと何かにぶつかって逃げ場を失った。振り返り、見上げるマリス。そこに、大人の余裕を湛えたミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)の、ひどく楽しそうな笑顔があった。
「Hi、マリス。楽しそうネ?」
「あはは、ミカエラさん。相変わらず大迫力で‥‥」
 硬い金属に抱かれるマリスの悲鳴。それを遠くに聞きながら、美角やよい(fa0791)は一人、小さく溜め息をついた。これまで異性の視線など気にも留めてこなかったが、思春期の男の子に見向きもされないとなると、さすがに自分の女としての魅力について考えたくもなる。
「全員揃ったか? ミーティングを始めるぞ」
 依頼者である壮年の男がミニバスの中から顔を出した。

「容赦なく、確実に、NWの息の根を止めてくれ、か。言わずもがな、だな。その為にここに‥‥私たちがいるのだから」
 依頼者である壮年の男の言葉に、各務は紫煙を吐きながら嘆息した。イルゼも頷く。NWに、獣人がただ狩られるばかりと思わせるつもりはない。イルゼは手にした火尖鎗をギュッと握り、「蒲焼‥‥」とボソリと呟いた。
「あー‥‥すまん。NW戦の第一線を張っている君たちに失礼な物言いをしたな。訓練生相手の癖が出た」
 苦笑いをする壮年の男。相沢が顔を上げた。
「もしかして、鷹司英二郎さんでしょうか? 訓練キャンプでNWTシャツを着ていたという‥‥」
 相沢の言葉に、実際にその現場にいたミカエラと因幡がニヤリと笑う。
「なんだ? 欲しいのか?」
 しれっとした顔で聞き返す壮年の男・鷹司。相沢は苦笑して頭を振った。
 ミーティングは続く。
「‥‥幸い、今回は得られた情報は少なくない。実際に矛を交えた者もいる」
 各務の言葉に、美角と犬神が決意を込めた表情で頷いた。
「今度はもう負けられないね、うん」
「自分のケツは自分で拭かんとな」
 二人とも再戦に意気上がってはいたが、気負いもなく冷静だった。その二人の情報を元に作戦が決められる。『俊敏脚足』持ちで防御力の高い犬神と因幡を囮とし、広い大空洞に誘き出して包囲殲滅する、というものだった。

 洞窟内に進入した一行は、番組撮影で来た事のある犬神と美角の道案内で奥へと歩を進めた。重装備の者の為、遠回りでも少し広い道を行く。自然、撮影機材を運ぶルートと同じになり、犬神と美角は勝手知ったる道をある種の懐かしさと共に先へ進んだ。
 槍を構えた犬神を先頭に、照明を持った美角が行く先を照らす。側面を警戒するのはライトバスターを持つ各務と因幡。光源自体が刃であるライトバスターは、このような場所で不意打ちに対応するには最適な武器だった。
 陣形の中央には、多くの照明器具を抱えた相沢とマリスが歩き、それをミカエラが直掩、最後尾をイルゼが警戒する。
 かくして一行は、無事に目的地である『石筍や石柱の連なる大空洞』へと辿り着いた。ここまでは、NWの襲撃どころか、その気配すら感じられなかった。
 相沢の『影査結界』で空洞内の探索を済ませ、一行が中へと入る。撮影でライトアップされた際には荘厳な美しさを見せた大空洞。だが、その石筍も石柱も、明かりが乏しい今では、闇の帳の奥に潜む不気味な陰影のオブジェに過ぎなかった。
「ごめんなさイ。少しの間、照明の明かりを落としてもらってもいいかシラ?」
 あの子達が落ち着かないから、とミカエラが皆に頼んだ。あの子達──大空洞の天井にぶら下がる蝙蝠たちの事だった。
 照明の明度が落とされ、ミカエラが一人、大空洞の中央へと進み出た。天を仰ぐようにして蝙蝠たちに声を掛けるミカエラ。人の耳には聞こえぬ声が空洞内を飛び交った。
「‥‥これは運がいいのかシラ? つい最近、そこの通路のすぐ先で、手足の無い大きな生き物を見たそうヨ」
 どよめく一行。これは望外の幸運だった。鍾乳洞の奥まで囮を探索にやらずに済んだからだ。本陣と囮班との距離が離れる程、危険度は加速度的に増大する。
「さて、俺たちの出番だな」
「おー!」
 犬神と因幡が腰を上げた。他の者たちも迎撃の為の準備に入る。
「犬神さん、気をつけてね」
「ああ。水場は遠いし、無茶もしない。なに、とっとと逃げてくるさ」
 見送る美角。やがて、犬神と因幡の二人の姿が、鍾乳洞の闇へと消えていった。

 基本的な隊形は変わらない。
 槍を持った犬神と、ライトバスターを掲げ持つ因幡。二人は『鋭敏聴覚』を使用して、NWが『目撃』された地点に向かって進んで行った。
「この付近の構造はどうなっているのかな?」
 番組の撮影の際に使われたという地図を覗き込み、因幡は眉をひそめた。この辺りは立体的に『通路』が交差する『入り組んだ』場所だった。素人が読み解くには、紙媒体では限界がある。
「なんかよく分からないね。3Dマップがあればいいのに」
 因幡がぼやく。その言葉が終わるよりも早く、犬神がその足を止めた。背中に鼻をぶつけ、因幡が顔をしかめる。
「‥‥今、何か聞こえなかったか?」
 犬神の言葉に、因幡の耳がピンと立つ。
 洞窟を渡る空気の流れ‥‥ちょろちょろと足元を流れる水の音‥‥私たちの呼吸‥‥鎧や装甲服の金属音‥‥
「気のせいだったか?」
 犬神がそうつぶやいた時、因幡の耳に、ちゃり、と何かが擦れる音がした。
「犬神さん、上っ!」
 因幡が叫ぶ。高い天井。ロフト状になった段差から、NW『百足蛇』が尻尾から落ちてくる。
 ズゥ‥‥ン、と着地する百足蛇。色々と便利な『鋭敏聴覚』もジッと動かずに待ち伏せる相手には分が悪い。だが、それでも、初撃を回避できたのはその『鋭敏聴覚』のおかげだった。
「先に行け!」
 『俊敏脚足』を使う因幡の前に、黒い十文字槍を構えた犬神が立ちはだかった。再び対面する犬神と百足蛇。大顎による攻撃が犬神を打つも、鎧はしっかりとその身を守ってくれていた。
 因幡が下がるのを確認してから、犬神も『俊敏脚足』を使用する。百足蛇の新たな攻撃が放たれたのはその時だった。
 二股に分かれた『尻尾』が、まるで触手か何かのように犬神に絡みつく。ギシギシと締め付ける尻尾。ダメージこそ通らないものの、犬神はそこから逃れられなくなってしまった。
「犬神さん!」
 因幡が足を止めて振り返る。ズルズルと引きずられていく犬神。そこへ電撃を纏った顎の攻撃が見舞われた。衝撃。耐えた。だが、これはまずい。犬神は、『知友心話』で作戦が破綻しかけている事を本隊に伝えた。ブロークンアロー。電撃への抵抗に失敗し、犬神が意識を失ったのはそれから30秒後の事だった。

 その頃、大空洞では、来るべき決戦で視界を確保するべく、相沢とマリスが照明器具──ホームセンターで買ってきたキャンプ用品──を設置して回っていた。
「こんなもんでどうかな?」
 『地壁走動』を使って高い所に照明を掛けたマリスが、地上の相沢に出来栄えを尋ねた。見上げて相沢は頷いた。なるほど。『ライトアップ』してみれば、ここは美しい場所だった。
 美角は、ただ一人、イライラとその時が来るのを待っていた。あの百足蛇の強さを知っているだけに、ただ待つ身が辛かった。
 囮班の異変が『知友心話』で伝えられたのはその時だった。
「早く来て! 犬神さんが、犬神さんがぁ!」
 相沢とマリスのトランシーバーも因幡の悲鳴を伝えてくる。
 一行は、間髪入れずに大空洞を飛び出した。

 辿り着いた先には、犬神を奥へと引きずって行こうとする百足蛇と、行かせまいと踏ん張る因幡の姿があった。装甲服の駆動音が悲鳴を上げる。だが、そんな因幡ごとジリジリとNWは移動していく。
 『俊敏脚足』で加速したイルゼが、自らの質量ごと弾丸のように火尖鎗で突っ込んだ。そのまま炎を噴き出させる。バックファイアも気にしない。百足蛇は苦悶に身をよじり、のたうって犬神を手放した。
「犬神さん!」
 倒れ伏す犬神に美角と相沢、因幡が駆け寄り、大空洞へと引きずっていく。
「ここは狭くて不利だ。何としても戦場を大空洞へ持っていかないと」
 イライラと舌打ちをして各務が言う。禁煙は趣味じゃなかった。
「『地壁走動』を」
 マリスのトランシーバーから、相沢の声が聞こえてきた。それだけで各務が理解する。
「‥‥ミカエラは先に大空洞に戻って、待ち伏せの準備をするように伝えて。私たちは、『地壁走動』で背後に回り込み、奴を大空洞へと追い込むから」

 大空洞の窪みに溜まった冷たい地下水を、美角は犬神にぶっかけた。犬神がゆっくりと瞼を開く。
 身を起こした犬神に、美角は状況を説明した。軽く頭を振る犬神。意識は飛んだが、怪我自体はかすり傷だ。
「さぁ、今度こそ息の根止めるんでしょう?」
 美角がそう言って手を差し伸べる。当然だ、と頷き、犬神はその手を取って立ち上がった。

 マリス、各務、イルゼの三人に追い立てられて、百足蛇が奥の通路から大空洞へ飛び出した。待ち構えていたミカエラ、因幡、美角、相沢、犬神とが取り囲む。退路を断つ追撃組。ここに包囲網は完成した。戦闘は激しくも長くは続かなかった。

「ぬあぁぁァア!」
 前髪から血の雫を飛ばしながら、ミカエラが百足蛇の大顎を掻い潜る。初めて下に潜り込む事に成功したミカエラは、自分の流儀に反して持ち込んだベルセウスを渾身の力を込めて『首』に叩き込んだ。それを楔としてNWに取り付くミカエラ。そこへ『尻尾』が迫ってくる。
 天井近くまで駆け上がったマリスが空中に身を躍らせる。そのままNWの身体をクッションに、スラッシャーガンでその『尻尾』を斬る。衝撃を殺しきれずに転がるマリス。あちこちを切りながら、不適な笑みを浮かべて再び壁を駆け上がる。
 ミカエラが取り付く首の付近。そこへ美角も組み付いていく。身体を捻り、ゴロゴロと転がって異物を跳ね飛ばそうとするNW。甲殻や地面、硬い岩肌に叩きつけられつつも、美角は手を離さなかった。
「このぉ、いい加減、大人しくしろぉ!」
 ガシガシと美角がその角を叩きつける。そこへ因幡と犬神が組み付いてようやくNWを押さえつけた。腹の下のコアは見えないものの、その頭部を地べたに押し付ける。
「シッ!」
 正面に回りこんだ各務が、抜き打ち気味にソニックブレードをNWの顎の奥へと突き出す。NWの動きが止まる。
 ゆらりと、あちこち叩きつけられてボロボロにミカエラが立ち上がり、その手をNWの上に置いた。全力の『吸蝕精気』。もはや、NWには抵抗するだけの力は残されていなかった。
 コクリと頷いて、イルゼがその鎗を下ろす。この激戦の只中にあってただ一人、その身に傷一つ負わなかった。

「よくやってくれた。被害者もなし。御の字だ。今日はゆっくり休んでくれ」
 鷹司が心底ほっとしたようにそう言った。番組の撮影班も使っていた宿を押さえ、食事、風呂、寝床、回復役の手配も済んでいる、という話だった。
「ちょっといいですか?」
 相沢が鷹司に声を掛けた。『言霊操作』についての質問だった。その日、相沢の『言霊操作』はその効果を発揮しなかった。だから『虚闇撃弾』での援護に切り替えたのだが‥‥
「ふむ‥‥抵抗されたのか、効果が無かったのか‥‥『言葉を理解する心』か‥‥他は知らんが『百足蛇』には効果が無かったような感じだな」
 鷹司の、それが答えだった。