武装救急隊の裏側全部見アジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 柏木雄馬
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 9.9万円
参加人数 9人
サポート 0人
期間 04/12〜04/16

●本文

(テロップ)『20XX年6月某日 州都トウキョウ──』
(俯瞰映像)
 実写とCGで作り出された20XX年のトウキョウ。
 沈み行く夕陽に紅に染まるトウキョウの摩天楼。変わらぬ日常。遠くに聞こえる都会の喧騒──
 そこへ白く輝く何かが落ちてくる。それは見る間に大きくなり、トウキョウ上空で爆発した。
 轟音。それはキラキラと輝きながら四散し、雲のように、霞のように、夕焼け空へ広がっていく。
 そのまま夕焼けから夜景へ。そして、町の灯が消え、銃火が煌く。
(ナレーション)
「その日、茜色の空に輝いたそれは、トウキョウを地獄に変えていった‥‥」
 やがて、払暁が闇を払う。そこには、廃墟と化し、『長城』に囲まれたトウキョウの姿。
(テロップ)『数年後。閉鎖区域トウキョウ──』

(アップテンポなテーマ曲)
(映像)
 朝靄に煙る無人の街。車体を横滑りさせながら大通りへと飛び出してくる装甲救急車。
 咆哮するクリーチャー。救急車と併走するAPCから傭兵が無反動砲を撃ち放つ。
(映像)
 ズラリと並ぶ機関銃が閃光と硝煙と弾丸とを吐き続ける。その弾幕の中をクリーチャーが走り抜ける。
 ビルの窓を破り、頭上から降ってくるクリーチャー。
 瓦礫に乗り上げて輸送トラック横転する。散乱する荷物、乱れる隊形。そこへクリーチャーの集団が襲い掛かる。
(映像)
 夕焼けのウエノ公園キャンプ。銃撃を物ともせずに暴れるクリーチャー。薙ぎ払われる兵士たち。
 擲弾筒を向ける兵士に白衣を着た女医が取り縋る。
「止めて! あのクリーチャーは人間なのよ! 私が‥‥私が治すから撃たないで!」
(映像)
 人ごみの中を子供を抱えた大男が駆け抜ける。荒い息をつく子供の手足は既に獣のそれで──
 担架の拘束帯を引き千切り、クリーチャーと化す女性。まだ若い新人隊員が息を飲んで後ずさる。

(映像)
 『長城』上から俯瞰。伸びる巨大な壁と、廃墟と化したトウキョウと。
 門から『長城』内部へと進入していく救急車。見上げれば『長城』。青い空を背景に、銃を持つ兵士の姿。
 その『長城』を遠景に、野戦服を着て武装した集団が拳を上げる。
「同士たちよ! 『長城』を、あの嘆きの壁を砕き、未来を掴むその日まで! 我々、ウォールブレイカーは戦い続けるのだ!」

(BGMがスローテンポに)
(映像)
 暗い木陰。しゃがみ込む女と、微妙な距離を空けて立つ男。
 その二人の間から、陽光の下、ボール遊びをする子供たちの遠景。
「‥‥『長城』の外に楽園があるとは限らないぞ?」
「それでも‥‥私達は外に出るんだよ。例え世界を敵に回しても、ただ『人』として生きたいから」
(映像)
 隊員たちの見守る中、クリスマスの飾り付けをする子供たち。
 食事処、結婚式、逞しく生きるキャンプの人々。
 陽光の差し込む無人の教会。一人の青年と、残された純白のウェディングドレス。
 夕陽に染まる無数の簡素な墓。
 ゆっくりと倒れゆくクリーチャー‥‥膝立ちで両手を天に広げ、まるで神に何かを訴えるかのように──

(BGM。再びアップテンポに。映像は疾走する救急車)
(ナレーション)
 ──20XX年。新型爆弾に汚染され、『長城』により閉鎖された旧トウキョウ地区。
 隔離された内部には、新型爆弾の影響で異形の姿になった人々が見捨てられていた。
 各地にキャンプを作り、身を寄せ合って暮らす異形の人々。
 そんな彼等を救うべく設立された民間の武装救急団体──
 それが、彼等、『武装救急隊』である。
(タイトルバック)

●ドラマ『武装救急隊』の裏側全部見せます! 春のメイキング特番
 これまでに12回(外伝含む)放送されたドラマ『武装救急隊』のメイキング番組です。
 PCは、このドラマの出演者もしくは制作スタッフとなり、ドラマ撮影の裏側を紹介することになります。

(例)
1.スタント系(軽業)
 廃墟トウキョウを疾走する各車両のカースタントや、クリーチャーのアクションシーン、出演者の殺陣など。

2.美術系(美術)
 廃墟トウキョウや避難キャンプの屋外セットや、車両・服・小物等、世界観に拘った小道具のデザインなど。
 クリーチャーやクリーチャー化した人間を表現するメイク関係、火薬関係やCGによる映像処理など。
 
3.役者系(芝居)
 ドラマに関するインタビュー(自分の役についてや苦労話等)、撮影での出演者の素顔、NGシーンなど。

4.撮影系(撮影・演出)
 上記の諸々を含めた撮影風景、構成、各種演出やカメラワーク、ドラマ『武装救急隊』について、等々の解説など。

●劇中の設定
1.トウキョウ封鎖地区
 新型爆弾に汚染され、巨大な多層複合防壁『長城』によって封鎖された隔離地域。
 無人の街並みや廃墟が広がるばかりの、クリーチャーの跋扈する危険地帯。
 人々は各地の避難キャンプに集まって暮らている。

2.クリーチャー
 新型爆弾の影響で発生した生物兵器的モンスター。
 既存の生物を戦闘に特化した存在で、人間も『発病』するとクリーチャーになる。
 人間型クリーチャーは、完全獣化状態で表現。

3.新型爆弾
 現実にはありえない不思議爆弾。
 劇中でこの新型爆弾について語られる事はありません。

4.各地の避難キャンプ
 隔離された人々が集まる場。プレハブの仮設住宅が立ち並んでいる。
 しっかりとした自治組織と自警団が存在し、政府と民間団体の援助を受けて暮らしている。
 避難の場から生活の場へと変わりつつあるが、常に『発病』の恐怖が人々に付き纏う。
 キャンプの人々は、半獣化状態で表現。

5.武装救急隊
 隔離された旧トウキョウ地区に取り残された人々を救済する為に結成されたNGO。
 その医療・救急部門が『武装救急隊』。
 危険地帯を突破して現場に到着する為に『装甲救急車』を複数台保持している。

6.装甲救急車
 非武装の救急車。装甲されており、小銃弾程度の攻撃には耐えられる。
 足回りが強化されており、不整地踏破能力もある。
 ある程度の医療機器を載せ、簡単な医療行為が車内で可能。
 乗員は、機関員(運転士)、救急隊員(兼サブ運転士)、医師(兼救急隊長)、看護師の4名。

7.護衛
 武装救急隊に雇われた傭兵たち。
 APC(装甲兵員輸送車)に乗り込み、救急車を護衛する。

8.救急病院陣地
 隔離地域内にある救急病院。患者を乗せた救急車の目的地。
 新型爆弾の影響を調査・研究する機関でもある。

9.軍
 初期の混乱時に多大な被害を出し、人々と間に確執を生じさせてしまった正規軍。
 現在はトウキョウから引き上げ、『長城』の防衛に全力を注いでいる。
 キャンプの人々に対して同情的な者もいれば、クリーチャー予備軍と警戒する者も。

10.武装勢力『ウォールブレイカー』
 外界への解放を求め、トウキョウ地区を完全隔離する『長城』の破壊を目指すグループ。
 テロリストであると同時に、山賊化した武装勢力を討伐する『自警組織』でもある。

●今回の参加者

 fa0126 かいる(31歳・♂・虎)
 fa0629 トシハキク(18歳・♂・熊)
 fa1431 大曽根カノン(22歳・♀・一角獣)
 fa3425 ベオウルフ(25歳・♂・狼)
 fa3656 藤宮 誠士郎(37歳・♂・蝙蝠)
 fa3662 白狐・レオナ(25歳・♀・狐)
 fa3831 水沢 鷹弘(35歳・♂・獅子)
 fa3853 響 愛華(19歳・♀・犬)
 fa4396 葉桜リカコ(16歳・♀・狸)

●リプレイ本文

●特番OP〜序盤
 画面には、廃墟と化したトウキョウの市街地が映っていた。
 猫の子一匹いない四車線の大通り。窓も無い弾痕だらけの灰色のビル群。半壊した建物と瓦礫の山。大破した車、ひしゃげた街灯、光を失った信号機。草生した歩道に無人の商店街‥‥
 だというのに、画面からは一片の緊張感も伝わってこなかった。
 ゴミ一つ落ちていない車道。妙に清潔感が漂う廃墟。青い空を背景に、どこか呑気に白い雲が流れていく。
 そんな『廃墟』の交差点に、一人の女性が立っていた。廃墟とは縁遠いカジュアルなシャツにスラックス姿。右手にはマイクを握っている。どこか眠そうな目をした、全体的に柔らかそうな印象のその女性は、番組の口火を切る第一声を放つべく、大きく息を吸い込んだ。
「はい! 私は今、廃墟と化したトウキョウに来ています‥‥と言うと驚かれる方もいるかも知れませんが、ここは実際の東京ではありません。TOMITV系列で大人気(台本通り)放送中のドラマ『武装救急隊』、その撮影が行われている野外撮影所のセットなんです! 東京が廃墟に‥‥『武装救急隊』、いったいどんなドラマなんでしょうか〜」
 はきはきと、しかし、どこかほんわかとした口調で、その女性がカメラに語りかける。『武装救急隊・春の大特番! 武装救急隊の裏側全部見せますSP!』のリポーターを務める葉桜リカコ(fa4396)だった。
 ドラマ『武装救急隊』。それがどのようなものであるのか、大まかな世界設定とストーリーが、これまでに放映されたダイジェスト映像と共に説明された。それが終わると、映像は再び葉桜のリポートへと切り替わる。
「‥‥閉鎖地区トウキョウに隔離された人々。そんな彼等を救うべく疾走する救急隊。今日はドラマ『武装救急隊』の魅力を、余す事無くお伝え‥‥ひゃあっ!?」
 突然、葉桜の背後、画面の奥向こうで爆発が起こった。衝撃と爆音。ガソリン混入の派手な爆炎と爆煙とが立ち昇る。
 何も知らされていなかった葉桜が悲鳴を上げて身を竦ませる。そこへ野戦服に鉄兜姿の一団が、廃ビルのセットの陰からわらわらと寄って来て葉桜を取り囲んだ。多国籍な言語で喚き立てる屈強な兵士たち。その中の一人が、何が何だか分からずにいる葉桜の肩を庇うように抱きながら、瓦礫の陰まで引っ張って行った。周囲を警戒しながら移動する兵たち。それをカメラがのんびりと追いかける。
「何をぼぅっと突っ立っている! 死ぬぞ!?」
 葉桜を連れてきた兵士が日本語で叫んだ。ぽかんとしていた葉桜は、瞬き一つしてその顔を見つめなおした。
「え? あれ? ベオウルフ(fa3425)‥‥さんですよね‥‥?」
「違う。俺はベオウルフではない。ベオ軍曹だ」
 答えた瞬間、兵士たちが交差点へ向けて自動小銃(小道具・空砲)をフルオートで発砲する。ベオウルフも舌打ちして手にした散弾銃(小道具・以下略)を二発、三発と撃ち放った。
「‥‥ちぃっ、クリーチャーどもめ。今日は特にしつこいぜ」
「そうなんですかぁ。私には何も見えませんけど」
「で、この危険極まりないトウキョウを、そんなチャラチャラした格好でうろつく貴様は何者だ?」
「チャラチャラって‥‥ベオさん、いつもとキャラが違うんですね」
「さては番組関係者じゃないな」
 葉桜が何を言っても聞く耳を持たないベオウルフ。撮影中止を訴えるように両手を振りながら、交差点へと進み出た。
「おい、スタッフ! 一般人が紛れ込んでいるぞ! 早くつまみ出せ!」
 そこへ、いかにも今、偶然通りかかったという風情で、巨大な鉄筋(大道具)を担いだ巨漢の男がわざとらしく登場した。タンクトップにワーカーパンツ。その上に、なぜか劇中のコートを羽織っている。看護師『甲斐』役のかいる(fa0126)だった。
「ん? どうかしたのか?」
 わざとらしく訪ねるかいる。ベオウルフが掻い摘んで状況を説明した。
「なるほど。で、お嬢さんは何でまた、こんな所までやって来たんだ?」
「『武装救急隊』の春の特番のお仕事です。なので、摘み出されると困ってしまいます」
 心底困ったような口調で、しかし、全然困っていないような表情で溜め息をつく葉桜。ベオウルフさんにはお話が通っていなかったのでしょうか、と小首を傾げる葉桜に、いや、これ、全部台本だから、とベオウルフがツッコミを入れる。
「よし。わかった。なら、『武装救急隊』コミカル担当の俺とベオウルフが、このトウキョウを案内しよう」
「わぁ、ありがとうございます〜!」
「コミカルって俺もかよっ!? っていうか、『武装救急隊』にコミカルなんて殆ど無いだろ?!」
 ツッコミを入れるベオウルフ。二人は全く聞いていなかった。

 (スポンサー表示。後、CM)

●番組撮影の裏側(演出編)
 葉桜は、プレハブで出来た建物の廊下を歩いていた。若干、明度が足りなく感じられる廊下の突き当たり、一番奥の扉の先に、モニターやビデオデッキ、各種操作機器やケーブルの束で雑然と部屋があった。
「はい! ここは、スタッフが『仮調整室』と呼んでいる一室です。廃墟のセット各所に設置されたカメラを操作する他、大まかな編集作業もここで出来るんです」
 『仮調整室』には、トシハキク(fa0629)の姿があった。力仕事が好きで大道具として業界に入りながら、その器用さから転じて様々な裏方をこなしてきた有名人だ。
「トシハキクさんは、ここでどのようなお仕事をなされているんですか?」
「監督の意向を受け、撮影された素材を演出方針に沿って編集している。あとはCG関係の特殊効果をチェックしたり‥‥例えば‥‥おい、出してくれ」
 トシハキクの指示で、スタッフがモニターに画像を映し出した。それは番組冒頭の、交差点に立つ葉桜の映像だった。
「このままでは、とても閉鎖区域トウキョウには見えない。で、同じ青空でもこうするわけだ」
 続けて、CGにより修正された画像が映された。鮮やかな青空と輝かんばかりの白い雲が、どことなく霞みがかったような灰色っぽい青空に変わる。
 続けて、事故防止のためにゴミ一つ落ちていなかった路上に細かなひび割れや瓦礫が、どことなく透明感の漂っていた空気が全体的にどこか埃っぽく修正された。その他、諸々の修正を終えた時、画面には、閉鎖区域トウキョウに、マイクを持ち、笑顔で立つ葉桜の姿があった。
「うわ〜、実際に目にすると凄いですね」
「後は、衣装、メイク、そして、葉桜さんが芝居をしてくれれば、そこはトウキョウの一風景になる」
 感心して画面に見入る葉桜に、トシハキクが続ける。
「あとは、全体的な演出も大事だな。『対比』を大事にした演出を心がけている」
 別のモニターに新たな映像。画面には、特番のOPで使われたダイジェスト映像が映っていた。
「例えば冒頭の『謎の新型爆弾』が夕焼け空に爆発する場面。全ての始まりであるこのシーンは、とにかく美しいものにしたかった。後のトウキョウの惨劇がより際立つようにね」
 そのような対比の演出は、劇中に随所に見られると言う。
 例えば、『長城』上空から俯瞰したトウキョウの映像は、市街と廃墟、安全と危険、視聴者の日常と劇中の非日常とを区切る記号として存在する『長城』の性格を、端的に、分かりやすく示している。
「銃を持った兵士を苦も無く薙ぎ払うクリーチャーを、助けるのだと言う医師。命を救うべき助けるべき救急隊が、その救うべき命を見捨てねばならない現実。クリーチャーに怯えて生きる人々が、そのクリーチャーと化して死ぬ恐怖。壁を壊す事で得る自由と危険の拡散、壁を守る事で得る安全と罪悪感。地獄のようなトウキョウで生きる絶望と、そこで懸命に生きる人々の笑顔と。生きたいと望む心、生き残ってしまった後ろめたさ、そして、ただそこにある死。それらは、全て、この『武装救急隊』が内包するアイロニーだ。これらの『対比』を大事にして、ドラマの深みを表現できれば、と思っている」

(CM前。画面には『武装救急隊 NG集』の文字)
 報道陣が押し合いへし合いするウエノ公園キャンプ。無数のフラッシュが焚かれ、無数のマイクが突き出される中を、『発病』しかけた子供を抱えた巨漢の看護師・甲斐が行く。手足が獣化した姿を隠すため、自らのコートで子供を包んだ甲斐。マスコミの一部がそれをはだけようとする。
「どけっ! 道を空けろ! 患者の命が懸かってんだよ!」
 演技が白熱するかいるとエキストラ。
 かいるが人込みを押しのけようと肩を突き出した瞬間、報道陣役のエキストラたちがいっせいに将棋倒しになる。
「うわ‥‥っ、すまん、やりすぎたか!?」
 子役を下に下ろし、かいるが慌ててエキストラたちを助け起こしていく‥‥

●出演者たち
 廃墟トウキョウの野外セット。撮影の合間、思い思いに瓦礫に腰掛けた傭兵役の俳優たちがロケ弁を食べている。国際色豊かな『傭兵』エキストラたち。その中に、ベオウルフの姿もあった。
「普段から傭兵役の皆さんと一緒に食事をしているのですか?」
 突然、ハンディカメラを構えた葉桜に話しかけられて、ベオウルフは慌てて、口の中の物を呑み込んだ。
「げほっ、ごほっ‥‥悪い、ボブ、水筒借りるぞ。‥‥えーと、何だっけ? 食事? あー、時々だけどな」
「大丈夫ですか? そうですか。それでは自己紹介と役の紹介をお願いします」
「唐突だな‥‥えー、ベオウルフだ。劇中での役は、救急車を護衛する傭兵の『ベオ』だ。役名は俺の愛称をそのまま使っているわけだが‥‥まぁ、気にしないでくれな。
 ベオは傭兵部隊の分隊長を務めている。自分の危険を顧みずに飛び出すこともしばしばで(映像:怪我をして動けなくなった自警団員を助ける為、APCから飛び下りるベオ。その近くで手榴弾が爆発し、慌てて身を伏せる)‥‥けど、基本的に面倒見が良かったりする‥‥んだけど、視聴者に伝わってるかな。芝居には自信が無いし‥‥」
 ごにょごにょと口ごもるベオウルフ。周りの『傭兵』たちから、頑張れ、隊長! だの、声が小さいぞ! だのと激励代わりの野次が飛ぶ。
「お気に入りのシーンは?」
「‥‥そだな。『ある休日』のラスト、墓参りのシーンだな」
(映像:夕焼けのウエノ公園キャンプ。その片隅にある簡素な墓の群れ。骨も、肉体も、髪の毛すらも納められていない名ばかりの墓地。その一つ、自ら手にかけたかつての恋人の墓の前に立ち語りかけるベオ。「もう吹っ切ったと思っていたのに‥‥まだ引きずってたみたいだ。お蔭で死にかけた‥‥」)
「まぁ、物悲しい場面だけど‥‥強いてあげるならこれだな。気に入っているシーンもたくさんあるんだけどな」

(場面転換)
 かいるのエスコートでセット内を進む葉桜。廃ビルのセットはハリボテで、裏側や中身は存在しない。こうなっていたんですね〜、と葉桜が感想を漏らす。
「そうさ。俺たちが組み上げたんだぜ。俺、レスラーとか役者とかやっているが、本当は大道具なんだ。自分でもあれ〜? とか思うときもあるが、代役で出演してそのまま続いている。でも、まあ、芝居は素人なんで、俺が演じる甲斐は素でやらせてもらっている。なんで、やってると他人っていう気がしないな。軍人の端くれだった男で狙撃が得意。救急隊では看護師で‥‥っと、これ以上はまだ言えないな」
 やがて、セットの一角に駐車した装甲救急車とAPCが見えてきた。
「これが実物の装甲救急車と傭兵たちの装甲兵員輸送車だな。外国製の大型バンに、軽合金やら何やらをごたごたとつけてそれらしく見せている。中には実際に架台やら機材やらが入っていて、この中で実際に撮影が行われているんだ。俺はこんななりだろ? 狭いのなんのって‥‥」
 開けて見るか? とのかいるの問いに、ぜひに、と葉桜が答えた。かいるは笑みを浮かべると、もったいぶって後部扉に手をかけた。
「本邦初公開‥‥って、劇中で何度も登場しているが‥‥これが装甲救急車の中だ!」
 がばちょ、とかいるが勢いよく扉を開ける。
 中に、白衣姿の白狐・レオナ(fa3662)と大曽根カノン(fa1431)が入っていた。
「どわあぁあっ!?」
 思わず跳び退くかいるを余所に、のそのそと白狐と大曽根が荷室から降りてくる。
「あ、大曾根さん、そこ足場悪いわよ。気をつけて」
「はい。ありがとうございます。白狐さん」
「そう、『ビャッコ』。よく『シロギツネ』って読まれるんだけど、『ビャッコ』なのよ?」
 やがて、人よりちょびっと時間をかけて荷室から降りた二人は、カメラの前で愛嬌を振りまいた。
「こんばんは。『武装救急隊』のセクシー部門を担当する美人コンビ、医師・『弧木玲於奈』役の白狐・レオナと‥‥」
「大曽根カノンです。劇中では役名もそのままで、白狐さんと同じく医者をやっています」
 無邪気に、妖艶に、それぞれ笑顔を振りまく大曽根と白狐。かいるが苦笑する。
「セクシー担当? いやいや、俺と同じコーナーにいる時点で、コミカル担当に決まりでしょ?」
 ツッコミを入れるかいるを綺麗にスルーする白狐。あの肉襦袢は撮らなくていいから、と『聞こえる小声』で葉桜に言う。あはは、と力なく笑う大曽根。分かりましたと真顔で頷く葉桜。ひでえ! と、半泣き(演技)になったかいるに向かって、もうすぐ出番でしょ、と白狐がけんもほろろに追い払う。
「うう‥‥俺の扱いって‥‥」
 大きな背中を小さくすぼめて、かいるがトボトボと去っていった。

「そうね。私の演じる『弧木玲於奈』という女性は、現実主義と理想主義の間にあって苦悩する、そんな人ね」
 救急車の荷室に並んで腰を下ろした白狐と大曽根。葉桜のインタビューに答える白狐の顔は、先程までとは違って女優のそれになっていた。
「出来る事と出来ない事がちゃんと分かっているのに、やらずにはいられない。仕方のない事なのに、助けられない自分が許せない‥‥真面目すぎるのね。ストレスが溜まるのか、休日にはお酒を飲んで絡むシーンが多いわね。『誰だ、先生に酒飲ませたのはー!?』って」
「そういえば、クリスマスの時も飲んで響さん(共演者。『葛城 縁』役・響 愛華(fa3853))に迫っていましたね」
(映像:ウエノ公園キャンプ内に設けられた、簡素な、それでいて一生懸命に飾り付けられたクリスマス会場。深酒をした弧木が葛城に迫る。苦笑し、油汗を流しながら後ずさる葛城。トロンと蕩けた弧木の目が流し目を送る。「んふふふふふ。縁ちゃんってホント可愛いわよねー。出会った頃から思ってたのよ‥‥ああ、もう、この際、女の子でもいい気分ね。ほんとに可愛い‥‥じゅるり」。しな垂れかかった弧木の人差し指が、葛城の鎖骨をツツ、となぞる。ビクリ、と身を竦ませ、跳びずさる葛城。手をワキワキとさせた弧木が近づいていく。「わわわ、先生、目が据わってる。『じゅるり』って自分で言っちゃってるよ‥‥っていうか、私にそんな趣味はないんだよ〜!」。必死に逃げる葛城と、スタスタと早足でそれを追う弧木。そんな二人の姿が会場の笑いを誘う‥‥)
「そうそう。あの時、愛華ちゃんに抱きついたんだけど、10代の肌って反則ね。手触りの良さに、思わず本気で迫っちゃったわよ。大曽根さんもグラビアやっているから肌には気をつけていると思うけど、いやー、あれは若さ故の特権ね。いやいやいや、私もまだまだ若いわよ? だけどね‥‥」
 白狐の肌トークに大曽根が食いつく。話はどんどん逸れていくが、それを修正すべき葉桜も話に聞き入ってしまっていた。
 そのまま画面と音声がフェードアウトしていく。すぐに復帰する画面。映像の中では、日が少し傾いでいた。
「えー、それでは、20代には20代にしかだせない色気がある、で結論と致しまして、話を本筋に戻します。大曾根さんの演じる役はどのような役なのですか?」
「休暇中によく弧木医師にさらわれます(笑)。冗談は置いといて、私と白狐さんの白衣を見て頂けると分かるのですが(カメラ:清潔だけどくたびれた白衣を着た白狐。パリッと糊の効いた白衣を着た大曽根)、弧木医師は現場の第一線にあり続けた医師。私は、救急病院陣地の研究室から救急隊へ流された医師です。なので、実際に患者がクリーチャー化するのに遭遇するのは初めてで‥‥『遠すぎた橋』では、思わず目を逸らして救急車内に逃げ出す事になりましたね」
(映像:戦場。コマザワ公園キャンプ。クリーチャーと化した元患者に発砲する救急隊の面々。血煙を上げて苦しむその姿に、大曽根は泣きながら目を逸らして救急車へと駆け戻る。目を逸らさず、真っ赤な目でじっと惨劇を見つめ続ける弧木。「助けられなくてごめんなさい‥‥貴女の事は忘れない。それで許されるわけは無いけれど、でも、私はまだ死ぬわけにはいかない。私にはまだまだ救いたい人たちがいる」。一方、無人の荷室に駆け戻った大曽根は、ガクリと両手を床についた。ぼろぼろと零れ続ける涙。やがて、外からクリーチャーの声にならない断末魔が聞こえてくる‥‥)
「クリーチャー役の方の熱演もあり、私も感情を込める事が出来ました。数少ないお気に入りのシーンですね」

(CM前。画面には『武装救急隊 NG集』の文字)
 1。戦場のコマザワ公園キャンプ。迫り来るクリーチャーを迎撃する救急隊。患者を乗せたキャスター付きの担架を押して、大曽根が救急車へと疾走する。と、唐突にベタン、と転倒する大曽根。患者を乗せた担架が、ゴロゴロと転がっていく‥‥
 2。疾走する救急車内。シートベルトに固定された甲斐と弧木。予想以上に跳ねた救急車に、二人が頭を強打する。「〜〜〜!」半泣きになりながら、それでも芝居を続ける弧木。病院への道を切り開く為に犠牲になたクリーチャーたちに呟く。「ごめんなさい。私には、まだ救いたい人達がいる‥‥」。現場に流れる微妙な空気。しばしの沈黙。弧木が「ん?」という顔をする。カットがかかり、白狐のNGが告げられる。「え? えぇえ!? この台詞じゃなかったの!?」。ADが持ってきた脚本を確認する弧木。あちゃあ、と天を仰ぐ弧木に、スタッフが笑う。

(CM明け)
 TV局内のどこかの一室と思しき場所。椅子に腰掛けた三人の男女。カメラは固定。いかにも別撮りという雰囲気。そんな空気を吹き飛ばそうと、真ん中に座った響 愛華がテンションも高めに拍手をする。
「どうも〜! ウォールブレイカーの一員『葛城 縁』こと響 愛華だよ♪ 今日は、『武装救急隊』のダンディ担当のお二方と共にお送りするんだよ〜!」
 ぱちぱちぱち、と、響の両脇に陣取る藤宮 誠士郎(fa3656)と水沢 鷹弘(fa3831)、そして、響とディレクターの四人の拍手が部屋に響く。その寂しさに挫けそうになる響。無人のカメラの前でこのテンションを維持するのは、結構つらい。
「どうも。ウォールブレイカーリーダー『鮫島博史』役の藤宮誠士郎です」
「どうも。武装救急隊の機関員『水上 隆彦』役の水沢 鷹弘です。よろしくお願いします」
 二人とも、劇中の役とはうって変わって、にこやかな笑みを浮かべてカメラに挨拶をする。にこやかに‥‥笑みをカメラに向けたまま、二人とも沈黙する。
 響は、小さく戦慄した。口元に笑みを浮かべたまま冷や汗を流し、ディレクターが捲ったカンペに目をやる響。
「えー‥‥っと。ま、まずは、ドラマで自分が演じている役を紹介するんだよ! 私が演じる縁はね、一見、強い所もあるけど、本当は弱い女性なの。『発病』への不安と恐怖、救急隊への嫉妬と羨望‥‥そんな諸々の心の葛藤を抱きながら、彼女はトウキョウで必死に生きてるんだよ」
 紹介を終えた響が口を閉じる。変わらない笑顔と沈黙。響が困っていると、藤宮と水沢の二人は、互いを牽制するように視線を交わし、ついと外した。
「えー、私の演じる水上ですが、結構癖のある人物で、楽しく演じさせて頂いています。何を考えているか分からない飄々とした人物ですが、情には厚い人間だと感じています。照れくさいので、軽口や悪態で誤魔化すタイプですね」
 ハハッ、と笑う水沢。その笑い声に被さるように、間髪入れずに藤宮が口を開いた。
「えー、鮫島は気概を持った男ですね。明確な目的を持ちつつ、組織が要求される役目にも手を抜かない。ストイックな豪の者ですね。どこかのツンデレ中年とは違います」
 ムッとして藤宮を睨む水沢。ふふん、と藤宮が鼻で笑う。響は、えぇ〜‥‥!? と内心で悲鳴を上げた。
「水上は、物事を一つの方面から見るのではなく、多面的に、色々な立場に立って考えられるような、人間として大人な男性です。そんなどこか達観した所のある水上ですが、常に何処かに陰がつきまとっているというか、他人と深く踏み込んだ関係になるのは避けている部分があります。これは水上の過去に起因しているのですが‥‥ともかく、単純明快な価値観しか持ち得ぬ男とは違います」
 にこやかな笑みを浮かべながら、睨み合う藤宮と水沢。轟く遠雷を、響は聞いたような気がした。滝のような汗を流しながら、どうしてこんな事になったのか必死に考えてみる。普段、この二人の中が悪いなんて話は聞いた事が無い。
 ディレクターのカンペが捲れ、劇中のお気に入りのシーンを尋ねてきた。
「え、えと、お気に入りのシーン? わ、わ、たくさん有り過ぎて迷うんだよ。水沢さんはどうかな?」
「私は、『廃墟に咲く花』のラストシーン、白狐さん演じる弧木医師との場面でしょうか。誰が正しいわけでもない、各自が自分の正しいと思った道を歩んでいる‥‥トウキョウの現状を良く表していると思います。『俺たちには俺たちに出来る事をするしかない』という水上の台詞は、劇中での彼の方向性を決定付けるものになりました」
「ああ、うん、それは凄く良く分かるんだよ‥‥あの話は、その後のドラマの方向性も決定付けたんじゃないかな。じゃあ、藤宮さん。鮫島さんを演じる上で難しい点は何なのかな‥‥?」
「難しいと言うのとはちょっと違うが‥‥彼は渋い顔をしている事が多いな。それと長台詞が割と多い。その上で台詞に重みを求められる‥‥なかなか演じ甲斐のある『面白い役』だなと。彼を演じるに当たって、撮影日前日はあえて夜一食抜いて、ランニングの距離を少し増やしている。少しでもストイックな感じに仕上げて撮影に望もうと」
 藤宮の言葉に、響は目を丸くした。
「そこまでして役作りをしているんだ‥‥やっぱり、専門職のベテランさんは違うんだよ‥‥私なんか、いつも、縁の心情を巧く表現できているのかどうか、いつも不安でしょうがないんだよ‥‥」
 どことなく、真剣にへこんだように見える響に、藤宮と水沢は大慌てで首を振った。
「何を言う。役柄上、響君との共演シーンは多いが、中々、機微のある良い演技をすると常々思っていた。若手の良い演技を感じられるのは、役者として良い刺激だ」
「同感だ。芝居も上手いし、声も良く通る。響君なら女優として舞台に立つ事も出来るんじゃないか?」
 うんうんと頷き合う二人。サラウンドで褒められて、響がその髪の色のように真っ赤になって照れる。
 そこへディレクターの目配せ。素に戻っていた男二人がハッと我に帰る。咳払いをし、改めて嫌味たらしく、二人がお互いに突っかかっていく。唐突に再開された嫌味の応酬に、違和感を感じて響が顔を上げる。捲られカンペには、二人をなんとかしてくれ、と書かれていた。
「‥‥どうして、その言葉がカンペに初めから書いてあるのかな?」
 まるで、最初から二人が喧嘩をするのが分かっていたみたいだ。
 沈黙。堪え切れずに笑い出す藤宮、水沢、ディレクターの三人。その時初めて、響は三人に担がれていた事に気がついた。カンペの最終ページには、どっきりの文字が躍っていた。
「うわぁ〜! どうして特番でそういう事するかなぁ?! 信じられなんだよ〜!」

(CM前。画面には『武装救急隊 NG集』の文字)
 トウキョウ閉鎖区域。完成した『長城』を遠くに眺めつつ。武装した野戦服の集団を前に、リーダーの鮫島が演説する。
「あれは嘆きの壁だ‥‥真実を隠し、問題を隔離する事で、己が安寧を得ようとする安易な思考の者たちがあの壁を作った‥‥。偽善を認めてはならない。尊厳を取り戻さねばならない。同士たちよ! 長城を、あの嘆きの壁を砕き、未来を掴む‥‥その日まで‥‥」
 アレ? という顔をした藤宮がどんどん小声になっていく。カットがかけられ、ディレクターが抜けた台詞を藤宮に伝える。あ、という顔をした藤宮が、「スミマセン! もう一回願います!」と皆に頭を下げる。
 スタッフの笑い声。ずっと真面目な顔をして待機していた響が、あはは、と笑いながらカメラの前を横切っていく。

(CM明け)
 画面には、エンドロールとエンディングテーマが流れ始めていた。
 一生懸命なスタッフたちの撮影風景を映す枠と。
 視聴者に対する出演者のメッセージを映す枠とが平行して流される。

 弁当を膝の上に乗せたベオウルフ。
「これで質問は最後か? ファンに一言? これから物語がさらに楽しくなると思うんで期待をしていてくれ」

 大きな背中を小さくすぼめてトボトボと去っていくかいる。そんなかいるを葉桜が呼び止める。パァ‥‥と顔を輝かせ、かいるが振り返った。
「俺を呼び止めてくれるのか!?」
「いえ。最後にファンに一言、お願いします」
「ファンって‥‥俺の?」
「いえ。番組の」
 だよなぁ、と肩を落とすかいる。と、一転、カメラに正対して姿勢を正す。
「表には出ないが、裏方スタッフ、それに勿論出演者も、一同、誠心誠意やらせて貰っている。このドラマが貴方たちの心に一時でも何か残せるのであれば本望だ。これからも『武装救急隊』を宜しくな‥‥あと、おれのこれは肉襦袢じゃなくて、全部自前の肉だからな!」

 救急車の荷室に腰をかけた白狐と大曽根。
「楽しんでいただけましたか? 風雲急を告げる武装救急隊。目を離さないで下さいね!
 私達が視聴者の皆さんの心も救います! ‥‥なんてね?」
「あまり目立ったことはしていませんけど、これからもちょくちょく参加しますのでよろしくお願いいたします」

 TV局の一室。
 藤宮と、水沢と、どっきりのカンペを持った響と。
「監督・各種スタッフ・出演者とも、和やかにそして真摯に、全員が『良い物を造ろう!』と言う強い思いで望んでいます。皆が物語を盛り上げる為、頑張っています。‥‥ドラマ『武装救急隊』。これからもよろしくお願いします」
「これから外をも巻き込む大事件が起きると言う事ですので、楽しみにしていて下さい。水上共々、今後とも宜しくお願い致します」
「今後起きる『大事件』‥‥何が起こるのか、私達もドキドキだよね‥‥! これからも『武装救急隊』を宜しくお願いします、だよ♪ ‥‥私は、もう騙されないようにするんだよ〜」

 エンドロール終了後。真っ黒な画面に響の声。

「あの世界に生きる全ての者たちの──
 その生き様の全てを──
 その心に、刻み込んで下さい──」