武装救急隊 嵐の前にアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
柏木雄馬
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/24〜05/28
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●本文
その日、武装救急隊北東支部では、新開発された新型車輌の運用実験が行われる事になっていた。
青空の下、屋外の第2駐車場に堂々とした姿を晒す新型車両。護衛の傭兵が乗る8輪のAPC(装甲兵員輸送車)をベースに開発された車体らしく、それと非常によく似た外観をしていた。ゴツゴツと力強く、野性的な趣だ。
だから、それが新型の『救急車』だと聞いた時、隊員たちは心底驚いた。
「これまでの救急隊は、一般車輌を改造して使用してきました。しかし、昨今、救急隊の被害は増すばかり。トウキョウの実情にあった新型車の開発が求められてきました。
その要求に我々が出した答えがこの『白龍』です。
再設計されたAPC『白虎』をベースに、これまでの経験則を踏まえた救急型を開発。軍用車輌からの流用ということもあり、これまでのものとは次元の異なる耐久性を誇ります。その増大した重量は、安定性と突進力をより大きなものとし、それでいながら、最高速度・不整地踏破能力は最低でも既存車輌の2割増。
それ以外にも、トウキョウの現状を鑑み、新型の油圧式サスペンションを採用したり、装輪式ながら接地旋回が可能など、数多くの新技術が投入されております。
『白龍』は、まさにトウキョウの救世主となるべく開発された車体なのです!」
メーカーの技術者だろうか、それとも、『本社』(NGO本体)の開発チームの人間だろうか。純白に塗装された『新型救急車』の横に立ち、誇らしげに語る背広姿の男。
救急隊の面々は、その言葉に大した感銘を受けた風もなく、醒めた視線で新型を眺めやった。
「狭い窓だな。随分と視界が悪そうだ」
「それは運転手の生存性を最優先した結果です」
「車高が高くねぇか? タイヤも大きいし」
「最新式の油圧式サスペンションを導入した為です。50cm程度の瓦礫なら、車体を水平に保ったまま苦も無く乗り越えられますよ。患者にかかる振動等の負担も最小限に抑えられます」
「‥‥後部扉の位置が高いわ。トラックみたいにエレベーターで上げ下げするみたいだけど、緊急搬送の時には不便極まりないわね」
「整備性はどうなんだ? 整備場でのそれは勿論、『壁』の中でどこか壊れた時、現場で対応できるのか?」
次から次へと技術者に浴びせられる質問。現場で運用する彼等にとっては、『新技術の盛り込まれた高性能な新型車』とは『信頼性の確立されていないびっくり箱』と同義だった。
「まあ、そんなこんなを明らかにしていくのが運用試験の目的なんだろうが‥‥なんで『コレ』がここにあるんだ?」
隊員の指差す『コレ』とは、一台の現用型装甲救急車だった。
真っ赤に塗装された、ボロボロの救急車。穴だらけのディフォルメサンタのイラストが物悲しい。それは、クリスマスの時、ウエノ公園キャンプにケーキを運んだ際に使われた救急車だった。
「ああ、それはウチとは別口です。上の方で、今回の運用試験に便乗して何か実験したい事があるようで」
自慢の新型車をボロクソに言われた技術者が、拗ねたようにそう答えた。
その『上が求める実験』は、あらゆる予定を無視して、運用試験の初日に行われる事となった。
新型車のあらゆるデータを収集し、改良すべき数々を明らかにする運用試験──そのつもりで北東支部へと『出勤』した隊員たちを待っていたのは、一枚の命令書と、クリスマス当時の姿に塗装し直された赤い救急車だった。
どういうことだ、と『本社』に電話を入れる技術者。その勢いが見る間に失われていく。
命令書には、新型車輌と赤色救急車は同時に北東支部を進発し、『長城』内に進入。別々のルートを使用して、ウエノ公園キャンプにて『荷』を受け取り、救急病院陣地まで到達せよ、と書かれていた。
この『レース』に何の意味があるのか。彼等には全く分からなかった。
●出演者募集
以上が、ドラマ『武装救急隊 嵐の前に』の冒頭部分になります。
このドラマの制作に当たり、出演者を募集します。
PL(プレイヤー)のプレイングとそれに対する判定がドラマの脚本となり、
PC(キャラクター)がそれを演じることになります。
オープニングと設定を使って、ドラマを完成させてください。
皆で協力して、ドラマを作り上げる事が目的です。
●設定
1.トウキョウ封鎖地区
新型爆弾に汚染され、巨大な多層複合防壁『長城』によって封鎖された隔離地域。
無人の街並みや廃墟が広がるばかりの、クリーチャーの跋扈する危険地帯。
人々は各地の避難キャンプに集まって暮らている。
2.クリーチャー
新型爆弾の影響で発生した生物兵器的モンスター。
既存の生物を戦闘に特化した存在で、人間も『発病』するとクリーチャーになる。
人間型クリーチャーは、完全獣化状態で表現。
3.新型爆弾
現実にはありえない不思議爆弾。
劇中でこの新型爆弾について語られる事はありません。
4.各地の避難キャンプ
政府と民間団体の援助を受けてはいるが、しっかりとした自治組織が成立している。
避難の場から生活の場へと変わりつつあるが、常に『発病』の恐怖が人々に付き纏う。
キャンプの人々は、半獣化状態で表現。
5.武装救急隊
隔離された旧トウキョウ地区に取り残された人々を救済する為に結成されたNGO。
その医療・救急部門が『武装救急隊』。
危険地帯を突破して現場に到着する為に『装甲救急車』を複数台保持している。
6.装甲救急車(旧型)
非武装の救急車。装甲されており、小銃弾程度の攻撃には耐えられる。
足回りが強化されており、不整地踏破能力もある。
ある程度の医療機器を載せ、簡単な医療行為が車内で可能。
乗員は、機関員(運転士)、救急隊員(兼サブ運転士)、医師(兼救急隊長)、看護師の4名。
7.装甲救急車(新型)
運用などは旧型と同様。
詳細は、本文中で技術者が嬉々として語っている通り。
愛称の『白龍』は現場では殆ど使用されず、ただ『新型』とだけ呼ばれる。
実験中、やたらとクリーチャーの襲撃を受ける事になる。
8.装甲救急車(赤)
クリスマスにウエノ公園キャンプにケーキを運んだ車輌。
その色の為か、普段よりも多くのクリーチャーに襲われ、ボロボロのまま保管されていた。
今回、殆どクリーチャーに襲われる事はない。
9.護衛
武装救急隊に雇われた傭兵たち。
APC(装甲兵員輸送車)に乗り込み、救急車を護衛する。
今回、新開発のパワードスーツの運用試験を担当。
10.パワードスーツ
軍用に開発された装甲服。
その装甲は小銃弾をも弾き、背中のパワーユニットは筋力を補助・増強する。
武装は、信頼性の高い12.7mm機関銃を流用。弾種は対クリーチャー用に開発された『徹甲炸裂弾』。
11.ウエノ公園キャンプの『荷』
隊員たちは知る由も無いですが‥‥
赤い救急車の『荷』はダミー(空)で、新型車の『荷』はケーキです。
●リプレイ本文
武装救急隊北東支部、医師隊員控室階層。大学の教授棟か入院病棟を思わせる窓の無い長い廊下。
非番の女医、大曽根カノン(役:大曽根カノン(fa1431))は、今日も今日とて、同僚の弧木・玲於奈(役:白狐・レオナ(fa3662))に捕まっていた。
「御免なさいね。でも、本当、いい所に居てくれたわ。また甲斐君がいないのよ」
「まぁ、いい加減、もう慣れましたけどね」
すまなそうに苦笑する弧木と、諦めたような表情で引っ張られていく大曽根。休日にこうして弧木に駆り出されるのは、これで三度目だった。
廊下の端、階段脇にあるエレベーターに、弧木と、その腕を小脇に抱え込まれた大曽根が乗り込んでいく。それと入れ替わるようにして、廊下の奥の扉から看護師の甲斐(役:かいる(fa0126))が、その巨体を縮めるように扉を抜けて姿を現した。
「結局、何の検査だったんだ? 運用試験の前だってのに」
一人、廊下を歩きながら、難しい顔で首を捻る甲斐。見知らぬ白衣の男たちに呼び出されて様々な検査を受けたのだが、その理由に心当たりも無い。
「ま、いいか。考えて分かるもんでもなし‥‥それより、集合場所に急がんと」
中々来ないエレベーターを避け、階段を二段飛ばしで下りていく。
踊り場の窓からは、試作車へと乗り込む女医二人の姿が見えていた。
「先生たちの乗り込み、完了しました」
装甲板に囲まれた薄暗い運転室。助手席の天城 静真(役:天城 静真(fa2807))の報告に、運転席の水上 隆彦(役:水沢 鷹弘(fa3831))は頷き、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
エンジンが歓喜の声を上げ、その巨体がゆっくりと動き出す。まるで、バスかトラックを動かしているような感覚だった。
「やっぱり、視界は狭そうだな‥‥どうです、走りの方は?」
天城が、一ドライバーとして興味を向ける。水上は、自分の感覚を確かめるように、一つ一つ、言葉にしていった。
「そうだな‥‥取り回しは重いが、意外と小回りは利きそうだ。馬力は申し分なし。水平維持装置の性能も良さそうだし、車高も高くて視点も高い。だが、やはり窓が狭いのはもう少しどうにかしてもらいたいモンだな。周りが見辛くてかなわん」
そんな二人の視界の隅を、赤く塗装されたクリスマス仕様の救急車が飛び出していく。
「連中、路地裏や裏道を最短距離を走り抜けるんでしょうね」
「だろうな。図体のでかいこいつには真似できん」
遠ざかっていく赤い救急車。その姿をしばし無言で眺めやり‥‥天城は、これまで敢えて避けていた話題を口にした。
「‥‥今回の実験、一体何の意味があるんですかね?」
「さぁな。上の連中の思惑なんざ、俺の知ったこっちゃない。命じられた通り、きっちりと自分の仕事をするだけだ」
気だるそうにそう言うと、水上は先行した救急車との差を詰めるべくアクセルを踏み込んだ。
「その救急車、ちょっと待ったぁ! って、また乗り損ねるのか、俺っ?!」
走り出す新型車に向かい、甲斐が階段踊り場の窓から身を乗り出すようにして呼びかける。無論、聞こえるはずもなく、無常にも走り去っていく新型車。眼下には、動き出したオリーブドラブ色のAPCの天井。甲斐は、思い切ってその上へと飛び下りた。
ダァァンッ! と天井から聞こえてきた物凄い音に、APC内の装甲服姿の傭兵たちが思わず腰と銃を上げる。
「なんじゃ。何があった?」
ジャコン、と重機関銃のハンドルを引き、天井を睨み据える傭兵、土浦健一(役:如鳳(fa2722))。元軍属の、齢60を数えながら未だに第一線で現役を張る超ベテランだ。
「全員、銃を下ろせ。多分、いつものアレだ」
分隊長のベオ(役:ベオウルフ(fa3425))が、そんな傭兵たちを手で制する。その言葉に納得して緊張を解く傭兵たち。ただ一人、事情が分からぬ土浦だけが、不審そうに片方の眉を吊り上げた。
「アレ‥‥とは何じゃ?」
「あー、何でもないッスよ、おやっさん。知り合いが一人、遅刻してきただけで」
苦笑しながら答えるベオ。狙撃用の小銃と命綱を取り出すと、それを持って上部ハッチに顔を出す。
「よう。いつもすまんな」
しゅぴっ、と片手を上げる甲斐。ベオは小さく頭を振りながら、銃と命綱を受け渡した。
二台の救急車と護衛のAPCは、『長城』を越えてウエノ公園キャンプへと到着した。
ここで患者代わりの荷を載せて、救急病院陣地へと向かうはずだったのだが、肝心の荷の到着が遅れていた。
思いがけず空いた時間に、車外に出て羽を伸ばす弧木と大曽根。そこへ、ウエノ公園キャンプの顔見知り、自警団員の葛城 縁(役:響 愛華(fa3853))がやって来て、新型車を見て声を上げた。
「わー、これが新型の救急車‥‥なんだか、SF映画に出てくる『惑星探査車』みたいなんだよ! ‥‥で、肝心の乗り心地の方はどうなのかな?」
純粋な好奇心から訊ねる葛城。全力で疾走する装甲救急車の乗り心地がどのようなものか、それまでにも幾らか話は聞いていた。
「そうね。これまでと比べてほとんど揺れないのが良いわね。あれなら随分と治療がし易いわ」
「はい。ともかく、全く頭をぶつけなかったのはこれが初めてです」
ニコニコと喜ぶ大曽根に、それは言っちゃダメ、と弧木が突っ込む。そんなやりとりに、葛城は唇を綻ばせた。
「新型は色々と不安だけど‥‥でもね、少しでも患者を救い易くなるのなら、新型だろうが旧型だろうが何だって良いのよ、私は」
医者の顔をして呟く弧木。大曽根と葛城は、静かに頷いた。
「ところで、縁ちゃん、よくこんな所まで入れたわね?」
ふと気付いたように、弧木が葛城を見て言った。今日は運用試験があるので、駐車場への人の出入りは厳しいはずだった。
「食堂からケーキを届けに来たんだよ」
葛城が指差す先では、赤いリボンにラッピングされた四角い箱が、二台の救急車に載せられる所だった。
「あれ? あのケーキって、救急車に載せるんだ‥‥」
きょとんとした顔で、小首を傾げる葛城。弧木と大曽根は、力なく笑っていた。
「‥‥こ、これはデジャヴかしら‥‥嫌な予感がひしひしとするんだけど‥‥」
「‥‥奇遇ですね。私もあのクリスマスの事を思い出していましたですよ?」
積み込みが終わり、弧木と大曽根の二人が挨拶を残して去っていく。葛城は一人、小首を傾げたまま眉を顰めた。
用意してきたケーキは一つだけ。なのに、積み込まれた荷は二つ。救急車のうち一台は、クリスマスの時の塗装のままで、確かあの時は物凄い数のクリーチャーが襲ってきて‥‥
「‥‥何か‥‥嫌な予感がするんだよ‥‥」
むー、と唸る葛城。そこに、彼女の分隊の一員が駆け寄ってきて、哨戒任務の準備が整った事を告げた。
葛城は、クルリと部下に向き直ると、独断で命令を変更した。
「これより第2分隊は、武装救急隊新型車輌の追跡任務に入るんだよ。全員、殲滅用装備を整えて再集合。急ぐんだよ!」
ウエノ公園キャンプを出た時から、異変は皆が感じていた。
「何か‥‥良い匂いがする、よなぁ」
APCの上に座った甲斐が、クンカクンカと鼻を嗅ぐ。隣りのベオは何も感じない。ただ、少しずつ、路上のクリーチャーの数が増えていく。
「ボブ、少しの間、代わってくれ」
ベオは部下の一人にそう声を掛けると、車内に戻って装甲服を外し始めた。
「どうしたんじゃ、一体‥‥」
きょとんとする土浦に、ベオは作業の手を休めずに答える。
「いや、どうにも勝手が違うというか、敵を空気で感じられないというか‥‥とにかく、やりづらいんだよ」
全てのパーツを放り投げ、愛用の散弾銃を手に取るベオ。その時、APCの屋根の上で一発の銃声が轟いた。
ハッチから身を乗り出すベオ。甲斐が狙撃銃のボルトをスライドさせていた。
「来たぞ」
それだけを告げて構える甲斐。行く手には、夥しい数のクリーチャーが見えていた。
「こちらは火力が充実しとる。弾幕を前面に展開し、救急車の針路を確保したらどうじゃろう?」
屋根の上に出てきた土浦がそう進言する。その手には、どこから持ってきたのか、7.62mm口径のガトリング砲。
ベオは土浦の言葉を是とすると、運転手に新型車の前に出るように指示を出した。
新型車の狭い視界に、わらわらと湧き出すクリーチャー。それまでとうって変わった猛攻に、運転室の水上と天城が悪態を吐く。
「ちっ、やけにクリーチャーが多いな。やたらとモテモテじゃないか、この新型」
「いきなりなんだっていうんだ? キャンプで何かヤバいもんでも積んだのか!?」
いつも乗る救急車と同じ感覚でハンドルを切る水上。新型車は敏感に反応し、その針路を急激に変更した。
「きゃああっ!?」
遠心力に振り回され、模擬医療を行っていた弧木と大曽根の二人が思いっきり床面へと転がされた。
「結局、頭を打つことになるのね‥‥馬鹿になったらどうしてくれるのよ‥‥」
頭を振りながら身を起こす弧木。車内の壁面や床面はウレタンに覆われているとはいえ、機器や担架は剥き出しだ。危険な事に変わりは無かった。
「後席、大丈夫か‥‥っと、悪ぃ」
荷室を覗いた天城の頭が慌てて引っ込む。床に転がった大曽根がハッと気付き、飛び起きてスカートの端を押さえこんだ。半泣きの顔が見る間に真っ赤になっていき‥‥ご愁傷様、という風に、弧木は静かに頭を振った。
「この新型、『舵』が効き過ぎる。実践的じゃない。あくまで最高速で直進・突破する事がコンセプトか」
「たしかに、それで大丈夫な事は大丈夫みたいですが」
細かな瓦礫を物ともせず、車体を水平に保ったまま走り続ける救急車。高い車高と分厚い装甲に守られて、クリーチャーの攻撃は未だ届かない。
「なぁ。さっきから妙に甘ったるい匂いがするんだが‥‥あんた等、香水でも変えたか?」
水上の問いに、「仕事中は香水なんて付けないわよ」と答える弧木。
「キャンプでケーキを積んだそうだから、その匂いじゃない?」
「はあ‥‥!? なんだってケーキなんか積んでんだよ!?」
天城が素っ頓狂な声を上げる。水上が舌打ちした。
「ケーキ‥‥ケーキね‥‥畜生、そういうことか」
唸る水上。その横を、傭兵たちのAPCが追い抜いていった。
「攻撃開始! あの人たちを死なせたらダメなんだよ‥‥!」
新型車に追いついた葛城たちは、いつものように救急隊の援護をしようとしていた。救急車を追走し、近づくクリーチャーを撃ち払う。だが、集まったクリーチャーの数は尋常ではなく、苦戦は必至と思われた。
だが‥‥
もの凄い轟音と共に、先頭を行くAPCの火力全てが火を吹いた。
側方の銃眼から突き出された12.7mmが、屋根に乗った傭兵たちの持つ重機関銃が、夥しい数の弾丸を吐き出す。その弾種は徹甲炸裂弾。これまで尋常ならざるタフさを見せ付けてきたクリーチャーたちが、まるでボロ雑巾のように吹き飛ばされていく。
呆然と見守るベオ、甲斐、葛城たち。弾丸をばら撒きながら、声にならぬ哄笑を上げる土浦。針路上の敵全てを薙ぎ払いながら、APCと救急車は進行する。
やがて、危険地帯を突破した救急隊を見送り、葛城は分隊を停止させた。
「あんなの‥‥歩兵が持つ火力じゃないよ‥‥」
何かが確実に変わろうとしている。葛城はその手をギュッと握り締めた。
武装救急隊北東支部、医師隊員控室階層。
その中の一室に、実験を終えて帰還し、クリーチャー関連の資料に目を通す弧木と大曽根の姿があった。
「私たちって、一体何の為にいるんでしょうね‥‥」
不意にそう呟く大曽根。兵器関連の技術が上がる一方で、クリーチャー化に関する医師たちの研究は進まない。それが大曽根には歯痒かった。
弧木が淡々とした口調で言葉を紡ぐ。
「自分が医者である限り、やる事は変わらない。なにがあろうとも、一人でも多くの患者を救う為に自分はある。その点さえブレなければ大丈夫。確かに今は、病状の進行を遅らせる事しか出来ないけれど、人類はいつまでもそこに留まりはしないわよ」
「車外に展開する時の生存性は上がるだろう。瓦礫の除去などにも有用だ。だが、もう少し軽く、動き易くならないか?」
「そうじゃなぁ。重火器を保持できる点は魅力じゃが、攻撃にはともかく、装甲車の護衛には必要なかろう。装甲車を武装すればいいだけの話じゃからな」
装甲服の感想を担当者に報告するベオと土浦。
そこへ響いてくる天城の怒号。無理も無い、とベオと土浦は肩を竦めた。
「てめえ、ふざけるんじゃねぇぞ!」
実験を立案したという男の胸倉を掴み上げる天城。その手を男が振り払う。
「今回の実験で、クリーチャーが糖質や炭水化物に群がる傾向がある事が確認できた。上手くすれば、トウキョウからクリーチャーを一掃出来る」
「その為に俺たちを実験台にしたってのか!?」
「最新の装備は供与したはずだ」
遂に激昂し、拳を振り上げる天城。その腕を、それまで黙って聞いていた水上が掴んで止めた。やめておけ、と低い声で呟く水上に、不満そうに天城が下がる。男がホッとしたような顔をした。
「‥‥さて。実験は終わった事だし、このケーキは用済みだな。このまま捨てるのもなんだ、茶請けにでもしたらどうだ?」
そう言うなり、担当者の頭をケーキに突っ込む水上。天城が口笛を一つ吹き、甲斐は表情ひとつ変える事無く呟いた。
「どうせなら病院の子供たちに食べさせてやればよかったのに。背広に食わせるには勿体無い」
肩を竦めて立ち去る水上。それを天城が追いかける。
「上の命令通りに仕事をするんじゃなかったんですか?」
偶には虫の居所が悪くなる時もあるさ。そう水上はうそぶいた。