鷹司 追いかけっこ若葉アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
柏木雄馬
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
なし
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/25〜06/29
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●本文
「オジさ‥‥じゃなかった、教官は、現役には復帰しないの?」
奥州の森深く、人目の届かぬ森の奥。
通称『鷹司キャンプ』と呼ばれる対NW訓練キャンプの宿舎である洋風の山荘のリビングにて。
移動式の畳に腰を下ろし、小さなテレビをつけっ放しにして新聞を広げていた訓練教官・鷹司英二郎は、そんな言葉を耳にして、困惑したように振り返った。
視線の先に、お茶請けと湯飲みを二つ乗せたお盆を持った藤森若葉の姿があった。訓練キャンプで回復を担当する28歳の一角獣人であり、鬼籍に入った妻の末妹でもある。
「訓練とか見ていると、まだまだ現役でイケると思うけど」
そう言って無邪気に微笑む若葉。鷹司は、よしてくれ、と言う風に片手を振った。
「俺も今年で57だぞ? どう考えたって『年寄りの冷や水』だ」
「世の中には100km完走したり、140kmを投げたりする57歳だっているじゃない」
「そりゃそうだが‥‥俺なんかが戻らなくても、若くて活きの良い連中はたくさんいるさ。正直、五分の条件で殴り合ったら勝てるかどうか‥‥」
「よく言うわ。負ける気も無いくせに。『ワイルドホーク』が『五分の条件』で喧嘩なんてするわけないもの」
そりゃそうだ。殴り合いで勝てない相手と真正面から殴り合っても分が悪い。やるからには五分以上の条件を作り出す必要があるわけだが‥‥
「‥‥個人戦レベルでの戦士や勇者は数多くいるんだがなぁ‥‥」
鷹司は、腕を組んでそう唸ると髪の毛をバリバリと掻きむしった。
「あー、皆には今日、うちの藤森と『追いかけっこ』をしてもらう」
何回目かの訓練初日。
訓練生を前にして、教官・鷹司英二郎はいきなりそんな事をのたまった。
「えーと‥‥これはどういうことでしょう?」
話が通っていなかったのだろう。当の若葉本人が困ったように質問する。鷹司は頷いた。
「もちろん、ただの追いかけっこじゃない。以下の状況を設定する。
藤森はNW役だ。戦闘能力はあまり高くないという設定のな。不意を打って獣人を襲撃したものの失敗し、即座に逃走。訓練生は、それを追って山へと分け入る追撃隊となる。
『勝利条件』は『NW役・藤森若葉を模擬戦闘で死亡判定まで追い込む事』。
ただし、訓練である以上、守ってもらうべき『レギュレーション(規制)』が存在する」
1.NW役の一角獣人・藤森若葉は、完全獣化状態で『俊敏脚足』を使用した状態で逃走する。
2.訓練生の半獣化・完全獣化は自由。ただし、訓練である為、パーティー内の戦力格差は小さい方が望ましい。
特殊能力の使用も自由。だが、『俊敏脚足』や『高速飛行』等、移動力上昇系の特殊能力は禁止する。
これは、今回の訓練が『こちらより優速の敵に如何に対するか』を主旨とする為である。
3.訓練は、ウレタン製の近接武器やゴム弾装填の銃器等で行われる。(装備変更の必要はなし)
実際に負傷する事はないが、訓練では、命中すると『軽傷』ダメージとして扱い、判定する。
4.無線機など、道具・オーパーツの使用は自由。
5.NWには完全獣化状態の鷹司英二郎が『死神』として護衛に付く。
『死神』故、鷹司への攻撃は全て無効。しかも、『死神』からの攻撃は『重傷』判定扱いとなる。
ただし、『死神』の攻撃で『死亡判定』を受けた者はリタイアにはならず、その場で3分後に復帰する。
鷹司が述べた最後のレギュレーションに、訓練生の間から不満の声が湧く。スタッフである若葉でさえ、鷹司に有利に過ぎる設定だと思えるものだった。
鷹司は、意に介さなかった。
「反論は受け付けんぞ。これも意図があってやっている事だ」
それだけを言うと、鷹司は解散を宣言し、訓練の準備に入るよう皆に伝えた。
「若葉。NWの行動だが‥‥基本的に人の姿を見たら逃げる・遠ざかるように動いてくれ」
準備に追われる訓練生たちが行き交う中、鷹司が若葉にそう指示を出す。
だが、若葉には、そんなNWの思考ルーチンよりも気になる事があった。
「あの‥‥オジさん、じゃなくて教官‥‥NW役ってことはもしかして‥‥」
おずおずと、こめかみに汗を浮かべながら切り出す若葉。鷹司は悪戯な笑みを浮かべると、心底楽しげに頷いた。
「もちろん。『アレ』を着てもらうぞ?」
そう言って鷹司が『アレ』を取り出すのを見て、若葉が絶望したように肩を落とす。
鷹司キャンプにおけるNW役の証。白地のシャツに大きく『NW』と筆書きされた、通称『NWTシャツ』がそこにあった。
●PL(プレイヤー)情報
PCたちは、鷹司キャンプと呼ばれる対NW模擬戦闘訓練キャンプに参加する訓練生となります。
1.目的と制約
上記の通りです。OP本文を参照して下さい。
2.地形
訓練場所は、木々の生い茂る普通の山と、その周辺地域となります。
沢が流れていますが、洞窟等は確認されていません。
歩き易い場所もあれば、植生が濃くて歩き難い所や堆積物等で足場が悪い場所もあります。
山頂には展望台があり、深い木々の間を縫って、山荘まで続く登山道が通っています。
なお、周辺地帯は『私有地』とされており、獣人以外の目を気にする必要はありません。
3.訓練開始時状況
訓練開始と共に山荘を出発するNW役の藤森若葉は、山頂を目指して徒歩で移動を開始します。
その5分後、訓練生たちは山荘を出発する事となります。
4.NW役・藤森若葉
28歳の一角獣人。飾りっ気や化粧っ気のない、スラリとしたスタイルをした『体育会系モデル』。
訓練キャンプのスタッフで、普段は山荘で待機し、怪我人の回復や料理・清掃などを担当しています。
学生時代は陸上部やバスケ部に在籍しており、体力と身の軽さにはある程度の自信あり。
5.『死神』役・鷹司英二郎
かつては『ワイルドホーク』なる二つ名で知られた高LVの鷹獣人。
外見は、黒いジャージの上下にスニーカー履き、咥え煙草のやる気の無さそうな壮年のオヤジ。
訓練に限れば、『個』よりも『全』を重視する傾向があり‥‥
個人の能力や装備の優劣よりも、戦術や連携、状況把握といったソフト面を評価しがちです。
●リプレイ本文
山頂へと到る一本の登山道を、一組の男女がゆっくりと登っていた。
一人は、引きつったような笑顔で自らの『NWTシャツ』を見下ろすNW役・藤森若葉。もう一人は『死神』役の鷹司英二郎。シャツには躍動感溢れる筆運びで『死神』と書かれている。
「みんな、まだ来ないね。訓練はもう始まっているのに‥‥」
「地図を探していたからな。地形の確認と作戦の打ち合わせをしているんだろう」
とりあえず、闇雲に追ってくる様な連中じゃなくて安心した。鷹司がニヤリと笑う。
「厳しい制限内容。強力、と言うより反則な『死神』。さて、彼等はこちらの意図に気付いてくれるかな?」
誰にともなく呟く鷹司。視線の先の山荘に、未だ追っ手の影はない。
同時刻。山荘内のリビングにて。
鷹司の言葉に答えたわけではないが、訓練生たちは、鷹司の意図した所を正確に捉えていた。
「こちらより速い相手を捕まえるには、どこかに追い込まないといけないと思います」
テーブルの上に広げられた地図を前にして、大柄で背の高い訓練生たちに囲まれて。最年少の唄歌い、パトリシア(fa3800)は、そう自らの意見を披露した。まだ若い、というより幼い印象の小柄な少女だったが、場数は他のベテランたちに引けを取らない。
「複数に班を分け、空中から誘導。目標を袋小路に追い込んで一斉に‥‥か。なるほど、逃げる魚を捕まえるに網が要るは道理じゃな」
「‥‥こちらの優位は空を飛べる事だけ‥‥確かに、他の方法はないだろう‥‥」
パトリシアの提案した作戦に、天音(fa0204)と磐津 秋流(fa5271)の二人が大きく頷いた。
天音は時代がかった言い回しをする凛とした20代女性。磐津は物静かな‥‥というより、妙に無口な中年男性だった。
「‥‥その場合、追い込む場所は複数‥‥最低でも2箇所は必要だろう。逃がしたとしても、再度追い込む事が出来る」
腕を組み、顎に手を回した姿勢のまま、磐津が静かに呟いた。パトリシアは頷いて、地図にその視線を落とした。
「岩壁のような場所があればいいんですが‥‥なければ、囲むように山頂に追い込む事も考えないと‥‥」
「確か斜面が急になっている場所があったわよ? 岩壁とか絶壁とか言う程じゃないけどね。あれは‥‥どこだったかな?」
答えたのは、金髪碧眼の二十ウン歳、角倉・雪恋(fa5003)。こちらは磐津とは対照的に、いつも陽気にニコニコと笑っているような女性だった。以前に鷹司キャンプに参加した事があり、ある程度は地形に関して知識があった。
「それならば、ここか‥‥この辺りだろう。‥‥ふむ、上手く誘導すれば追い込めなくはなさそうだ」
角倉の言葉に、竜獣人の樋口 愛(fa5602)が地図上の幾つかの地点を指し示す。スタントという職業柄か、樋口は地形や機材には人一倍気を使う。今回も、注意が必要な場所については既にチェックを済ませていた。
「Ya! それでは、小まめな連絡と状況確認で追い込んだ後にgenocide! でOKね?」
作戦を確認し、ジョニー・マッスルマン(fa3014)がビシィッ、と親指を突きたてた。日焼けした肌、きらりーん、と輝く真っ白な歯並び。いつでもどこでも意味も無く、さわやかな笑顔を撒き散らすナイスガイだ。
「‥‥さって、と。作戦は了解、地形も把握した。それじゃあ、ま、頑張っていくとするか」
初めての訓練に気負う事もなく、若い神山・隼人(fa5827)は訓練用の得物を手に背筋を伸ばした。少し相談不足な感はあるが、と心中で呟く。神山のパートナーたるプロレスラー、タケシ本郷(fa1790)は、気が逸ったのか、間に合わなかったのか、山荘の外にいて入念にストレッチを始めていた。
かくして、『追いかけっこ』は開始された。
訓練生たちは二人ずつ四班に分かれ、それぞれがすぐに駆けつけられる程度の距離を取って散開した。時間的な距離にすれば30秒〜40秒。相互支援を失わず、各個撃破を防ぐ態勢で、樋口風に言わせれば、『変動的なフォーマンセル』となる。
神山・本郷組、樋口・角倉組、パトリシア・ジョニー組の各地上班を、空中の天音・磐津組が誘導、事前に決めたポイントに『NW』を追い込み、一気に勝負を決める作戦だった。
「見つけたぞ。『NW』、それに『死神』じゃ」
空高く舞い上がった空中班。上空から山道沿いを探索していた天音の双眼鏡の狭い視界に、若葉と鷹司の姿が飛び込んできた。
天音は無線機を取り出すと、地上の各班に向かって『NW』発見を報告した。次の瞬間、若葉たちは速度を上げ、森の中へと身を躍らせる。天音たちは見失わぬように高度を下げ、追跡を開始した。
「各班に連絡。これより拙者たちは『NW』の上空へと移動する。各班は我が班の位置から『NW』の位置を推定し、事前の取り決め通り、等距離を保って包囲、追い込みにかかるのじゃ。各班は状況を知らせよ」
「こちら樋口。目標を確認できない。これより飛行を開始、状況を把握する」
「こちら神山。見つけたぜ。少し遠いが‥‥森へと分け入り、茂みを掻き分ける音がはっきりと聞こえる」
「こちらパトリシア。こちらも同様に補足しました。でもこれは‥‥包囲態勢に入る前に離脱されそう」
若葉の移動方向は、半包囲態勢を取る為に伸ばした両翼の、その外へと外れるコースを取っていた。
このままでは追いつけなくなってしまう。磐津は翼をはためかせると、高度を下げつつ速度を上げた。待て、という天音の叫びは、風切る音に届かない。
高速で流れていく風景。疾走する若葉。磐津は銃を引き抜くと、若葉の移動を妨害すべく牽制射撃を開始した。
同時に、何かの人影が森の中から飛び上がってくる。その人影はあっという間に磐津の上方に占位すると、上空からゴム弾を撃ち下ろした。
「‥‥!」
身を捻って回避する磐津。だが、ゴム弾は磐津の背を強かに打ち据える。磐津は交戦を避け、離脱を開始。その人影、『死神』鷹司は追っては来なかった。
「シャアァァァッ!」
そこへ横合いから突っ込んでいく樋口。『波光神息』の光の息が鷹司を包み込む。そのまま突っ込み、手にした模擬槍を大きく振るう。それを避け、クルリと樋口の後ろへ回る鷹司。だが、その絶好の機会を放棄して、鷹司は若葉の進む方へと離脱していった。
「‥‥なんだ?」
「‥‥恐らく、『NW』を攻撃した者にのみ、反撃をするのじゃろう。あの『死神』は」
怪訝そうに呟く樋口に、天音が自らの予想を伝える。磐津は、無言で無線機のスイッチを入れた。
「‥‥こちら磐津。各員、『死神』との交戦は避ける事。近づかず、人員配置で若葉を誘導する」
「それが良かろう。迂闊に手を出しても各個撃破されるだけじゃ。皆、位置報告と相互の位置確認はマメにの。突入するタイミングはこちらで指示する故」
再び、配置を再確認する訓練生たち。
地上で、空中の戦いを見上げていた本郷が、嬉しそうに唇を吊り上げた。
「やるな、教官。さすがは『ワイルドホーク』。お互い『まだまだ現役』だな」
「角倉より飛んでる誰かさんへ。若葉さんをどこか足場の悪い所に誘い込めないかしら? このままだと追いつくのが難しそう」
角倉・樋口組は、地上班では最も機動力のある組だった。逃れようとする若葉の進路、その外縁を常に回り込み、中へ中へと若葉を誘導し続けた。だが、それも限界が近かった。優速な若葉は、いずれどこかで『移動する包囲環』を抜け出してしまうだろう。
角倉の言を入れ、訓練生たちはとりあえず、若葉たちを足場の悪い沢や斜面へと追いやった。若葉の移動速度を落とし、その隙に再配置。ついには、当初の目論見通り、若葉たちを急斜面の一角へと追い詰めた。
背後は急斜面。残る三方は攻撃陣。等速度で距離を詰めて来る訓練生たちに、鷹司は嬉しそうに「それでいい」と呟いた。
「遠慮はいらんぞ、若葉。全力で逃げ回ってやれ」
鷹司が若葉の前に出る。それを避けるようにして若葉へと突っ込んでいく訓練生たち。そこへ向かう鷹司に、天音と磐津が空中から模擬銃でゴム弾を撃ちまくる。たとえ攻撃無効を宣言していても、ゴム弾も当たればそれなりに痛い。完全に無視する事も出来ず、鷹司は辟易する。
そこへ、心底嬉しそうに雄叫びを上げながら、本郷が突っ込んだ。ブンッ、ブンッ、と派手なコンビネーションを見せながら、鷹司に組み付こうとする本郷。一度捕まえてしまえば、もう二度と放さない自信はあった。
「攻撃は無効でも、関節技による拘束ならば、長時間、身動きはとれんだろう! 死神! 俺と一緒に地獄を見ろ!」
勢い込んで掛かってくる本郷に、「まったくもってそのとおり」と答え、鷹司は大きく後ろへ跳んで距離を取る。左手にはゴム弾装填の模擬銃。『ワイルドホーク』が五分以下の条件で喧嘩する事などありえない。
「むっ!」
向けられた銃口の正確な照準に本郷が呻く。だが、それを、横から来たパトリシアが模擬刀で思い切り撥ね上げた。
「たとえ無敵の『死神』と言えども、これだけの数で襲われたら『NW』を守り切れないでしょう。『死神』は倒せませんし、また、倒す必要もありません。決着が付くまで、ここに釘付けにします」
鷹司を取り囲む天音、磐津、本郷にパトリシア。鷹司は参った、と言う風に両手をあげ‥‥だが、口から出た言葉は、敗北を認めるものではなかった。
「『死神』は倒せないし、倒す必要も無い。それは正しい。であればこそ。なぜ、こちらに四人も戦力を突っ込んだ?」
「若葉さん包囲網大作戦ー!」
「Go to Hell! なのですよー!」
逃走する若葉。その進行方向に向かって、ジョニーは三点バーストで模擬弾を撃ち込んだ。弾道を確認しやすいように白く塗装されたゴム弾が、若葉の側をかすめ飛ぶ。空気を切り裂くその音に、若葉は思わず仰け反った。
さらに、その足元へ角倉が弾を集中させる。包囲の薄い部分を突破されないよう、まずは足を止める必要があった。
「射撃での援護は任せた! いくぜ!」
足が止まった若葉に向かって、神山が突っ込んでいく。右手には模擬刀、左手には模擬銃。鷹司に近い戦闘スタイルだ。模擬刀での連撃から銃撃。体勢の崩れた若葉には避けられない。
さらに、横合いから樋口が追撃をかける。模擬槍を短く両手に持ち、棒術のように素早く繰り出す。右手側で頭部を、クルリと回って、左手側で足元を打つ。素早い連撃。回転する棒と身体が暴風となって、前へ、前へと追い込んでいく。
実戦であればとっくに戦闘不能になっていただろう。だが、訓練上、若葉はまだ『生きて』いた。
猛攻を前にして、若葉は下がらず、逆に前に出る。止まる銃撃。身体がぶつかるほどに接近し、フェイント。その身を一回転させすり抜ける。反撃はせず、ただ突破するだけの体捌き。それはまさに格闘技ではなく球技の動きだった。
突破しようとする若葉に、角倉が追いついた。突破されないように体を押す。だが、若葉の体勢は崩れず、逆に押し返され‥‥角倉は倒れつつも、走り去る若葉の足に狙いを定めて引き金を引く。
「間に合えっ!」
鷹司の所にいた天音が放った『飛羽針撃』が木々の間をすり抜けて若葉の脚部に突き刺さる。そのまま駆け去ろうとする若葉を、鷹司が呼び止めた。
「累計ダメージが大きい。それ以上は逃げられないだろう」
訓練の終了を宣言する鷹司。ギリギリのところで、訓練生たちは『追いかけっこ』に勝利した。
全訓練終了後。
山荘前の広場において、キャンプ打ち上げ恒例のバーベキューが行われていた。
「HAHAHAー! ジャパニーズビーフは最高デース!」
高らかに笑いながら、美味そうに焼き肉を頬張るジョニー。その横で黙々と食べ続ける磐津。この肉がスーパーで半額だった非国産牛である事は黙っておいた。
「若葉さんと同じ、若く、美しい女として! 『NWTシャツ』に抗議するわ! 教官、何考えてるのー!?」
若葉を庇うようにギュッと抱き締めながら、角倉が鷹司に抗議する。宴席から少し下がった所で煙草とビールを嗜んでいた鷹司は、女性にあんな変なものを着せる無神経さが許せない、と拳を突き上げる角倉に、ただただ苦笑した。
「‥‥そうか? そんなに酷いか? ‥‥俺には心惹かれるものがあるんだが‥‥他の柄はないのか?」
ウズウズと、落ち着かずに体を揺らす樋口。若葉たちが信じられないようなモノを見る目で振り返る。NW被害者用の『喰い散らかされた死体』Tシャツならある、と鷹司が告げると、樋口はその目を輝かせた。
そんな鷹司のところに、神山が訓練の総評を求めてやって来た。
「今回の教訓は次回に生かさないといけないしな。何が良くて、何処がダメだったのか、教えてくれ」
神山の言葉に、ふむ、と頷くと、鷹司は考え込むようにしながら言葉を綴った。
「そうだな。相手が何を考えてそのような状況を設定したのか、考えるのは大事だな。
例えば、今回の訓練は、『優速の相手をどう追うか』、その戦術面を問題にしていた。その面では、今回は良い解答だった。
ただ、『死神』を配置したのは、跳び抜けた能力を持つ個人がいきなり訓練を終わらせるのを防ぐ為だった。『死神』は倒せないし、倒す必要も無い。ある意味、『天災』だ。だから、最後の場面では、『死神』を無視して全員で『NW』を攻撃しても良かった。
そうやって勝つ為の算段を決めたなら、あとはその方針に沿って、自分が何をしたいのか。するべきなのか。しなければならないのか。能力やら装備やら周囲の状況やらで決めればいい。
もっとも、これはあくまで俺が考える一つの方法に過ぎないから‥‥後は各自の創意工夫だな」