クルトの戦記 王都潜伏アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
柏木雄馬
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/14〜07/18
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●本文
『ソルメニア王都に潜入し、密かにシンシア王女と接触。可能ならば、その身柄を確保せよ』
それがイストリアを離れる際し、亡国の姫クラリッサと、その『誘拐犯』たる私に与えられた『使命』だった。
無茶な話だ。私は一介の『山の民』に過ぎなかったし、クラリッサにしても亡国の、しかも、反逆者の娘として追われる身だ。平原を平らげた大国の王族、それも、近く王位を継承する王女を相手に、本来ならば目にする事すら叶うはずもない。
勿論、そんな事はまだ世間知らずな若造だった当時の私にも分かっていた。そも、与えられた『使命』自体が、逃亡を渋るクラリッサを説得する為の『動機付け』に過ぎなかったし、本気で成功を期する類のものでもなかった。
だが、それでも。私は本気で王宮に乗り込み、シンシア王女──いや、故郷の山地で共に暮らした『家族』、シンに会うつもりでいた。
自らの意思に因らずして山から連れ去られたシン。彼、いや、彼女を解き放つ事こそが、私の旅の中核だったのだ。
──老クルト・エルスハイム、自らの人生を振り返りて記す──
ソルメニア王都への『潜入』は、容易く済んでしまった。
クルトやクラリッサを運んで来たイストリアの偽装船『海を渡る焔』号は、正式な手続きを踏んで入港し、桟橋に接舷。クルトたちは、役人による簡単な審問を受けただけで呆気なく、『敵地』である王都イル・ソルメに降り立った。
「王都ほど大きな都となると、人の出入りも激しいからな。一々細かく調べてもいられないのさ」
余りのお手軽さに唖然とするクルトたちに、船長のエフレイアが笑いを堪えながら理由を教えてくれた。
「もっとも、それは商業が盛んで富み栄えている事も表しているがな。正直、北大河周辺の繁栄振りは、南大河のそれとはケタが違う」
エフレイアの笑みが苦笑に変わる。かの『剣王』が英雄と評される所以は、傑出した軍事的才能だけが理由ではない。
「‥‥さて。私たちの『任務』はこれで終わりな訳だが‥‥最後にもう一度だけ聞いておく。君たちは本当に『シンシア王女に接触』するつもりなのか?」
エフレイアの言葉に、クルトは黙って頷いた。
「他の皆がどうするかは知りませんが‥‥俺にとっては元よりそれが本来の旅の目的なんです、船長」
「分かった。もう何も言わん。幸運を祈るよ、クルト。‥‥それにしても、本当に王女と知り合いだったなんてなぁ」
クルトは『海を走る焔』号の面々に別れを告げると、王都郊外にあるというイストリアのセーフハウスへ向かった。エフレイアの話では、そこでイストリアの諜報員が王女派の貴族に『渡り』をつける手筈になっている、との事だった。相手はランベルグ伯オーギュスト。今回のクラリッサ逃走劇の片棒を担いだ男だ。
だが、いつまでたっても、イストリアの諜報員は現れなかった。クルトは、さらに二日ほど待ってから隠れ家を抜け出し、王都の中心街の、厄介事に巻き込まれない程度の安宿に逗留し、今後の方針に頭を悩ませた。
ソルメニアの王城は、数ヵ月後に控えたシンシア王女の即位式とそれに関連する祭典の準備の為、人の出入りが多くなっている、という話だった。クルトは、そちらの方面から何とか王城に潜り込めないか、自らの能力を内省し、可能性を探ってみた。
●今週のクルトくん
名称:カイツの息子クルト 種族:山の民 性別:男 年齢:19
体力:A+ 知力:B+ 敏捷:B− 魔力:E 魅力:C+ 加護:S(精霊の加護)
戦闘技能: 弓5 短剣3 格闘3+ 大剣4
肉体技能: サバイバル(山森5、海1) 気配遮断4
精神技能: 調理3 応急処置3 農業2 商業1+ 政治1 礼儀作法1
学術技能: 読み書き2 算術2 歴史5→戦略・戦術2+
装備品 : 大剣+3 短剣 森人の弓 森人の外套
所持品 : 小木箱(金貨) 青い石のペンダント(お守り) 開かずの小袋(謎)
狩り‥‥。確かに、祝宴に料理は付き物だろうが、獲物を取って来たからといって王城に入る事は出来ない。
剣術‥‥。仮に一兵士として採用されたとしても、流石に王城配備を期待するのはずうずうしい。まして、シン‥‥シア王女がいる王宮深部に辿り着くのは絶望的だ。
『平原の民』の料理など作った事も無いし、祭典に潜り込もうにも、芸事の類は全く不得手でどうしようもない。
「まいった。いきなり打つ手が無くなった」
クルトの前途は、多難であった。
●出演者およびスタッフ募集
以上がアニメ『クルトの戦記 王都潜伏』の冒頭部分となります。
このアニメの制作に当たり、出演者とスタッフを募集します。
オープニングと設定を基に、主人公クルトの人生を彩るキャラクターを作成し、
『クルトにどう関わるか』をプレイングに記述してください。
そのプレイングで、クルトの歩む人生が変わります。
今回は、『王城に出入りする手段を獲得』しようと奮闘するクルトのお話の脚本を作ってください。
●設定
『クルトの戦記』は、ファンタジー世界を舞台にしたアニメです。
山岳部族『山の民』でありながら、爵位を持つ貴族にまで上り詰めた英雄クルトの一代記です。
1.世界観
いわゆる普通の(?)、機械や銃などが登場しない剣と魔法のファンタジー世界。
ちょっと便利な人、程度の魔術師は珍しい存在ではないが、強力な魔術師は少ない。
2.『山の民』
ソルメニア王国東部のクライブ山地に住む少数民族。
王国に暮らす『平原の民』(ファンタジー世界に住む一般的な人間)よりも、頭一つ分大柄で頑健。
平原では殆どその姿を見かける事は無く、野蛮人と見られがちで、差別と偏見に晒される事が多い。
3.ソルメニア王国
19年前、割拠する小国のことごとくを平らげて平原を統一した『剣王』が建てた国。
英雄『剣王』も老いて、強力な魔術師である宰相が国を思うがままに動かしている。
数ヵ月後に、シンシア王女の即位式が行われる予定。
4.イストリア
19年前、ソルメニア王国と敵対した南方国家連合の一国。現在はソルメニアの一地方公領。
王国に恭順しているが、叛乱を起こして滅びたアリアスの姫クラリッサを逃がすのに尽力。
5.王都イル・ソルメ
平原北部を流れる大河ソルメの河口部に位置するソルメニア王国の王都。
一都市国家に過ぎなかったが、『剣王』が北大河を統一、河川貿易の関税の撤廃してより急速に発展。
現在では、陸上、海上、河川流通等の商業面、学問・魔術等の学術面での中心地である。
ただ、現宰相の統治下において、文化・芸術面での顕著な発展はみられない。
6.即位式
数ヵ月後に予定されている時期女王シンシアの即位式。
王城内の聖堂にて各国の王族を招いて行われる戴冠式、玉座の間にて行われる舞踏会‥‥
王宮南苑の庭園を開放して行われる臣民向けの祭典が予定されている。
●リプレイ本文
ソルメニア王城西苑、王女の館。
現状を憂えたシンシア王女(CV:星辰(fa3578))のハンストは、最初の一食で終わりを告げた。
「どんな時でも食べなきゃダメですっ! そんなことじゃ、あの宰相閣下と渡り合う事なんて出来ませんよっ!?」
乳兄弟でもあるお付きの侍女が、シンシアの両肩をがっしと掴んで言い聞かせる。挙句、「殿下が食事をなさるまで私も食事を取りません。ずっとお側に張り付いて、小言と恨み言を呟き続けます」などと言われては敵わない。
じーっ、と半眼で見続ける侍女に向かって、スープを一口、無理に啜ってみせるシンシア。野菜も、と言われてもう一口。そんな調子で全品を一口食べたところで、侍女はようやく許してくれた。
食事を終えたシンシアは、自室に戻ると寝台に仰向けに倒れこんだ。
状況は絶望的だった。王位についてしまえば、もう逃げ出す事は出来ない。背負わされる国の重みがそれを許さない。お飾りとして掲げられ、宰相と反宰相派の双方にいいように利用され、自分はその生を終えるのだろう。
溜め息。クルトとその家族たちと過ごした自由な日々が思い起こされる。この華美で高価な調度品に囲まれた部屋にいても、渇望するのはあの日々だけ。なのにそれが二度と手に入らないと知る故に、心は絶望で満たされる。
いっその事、自らの手で‥‥と思わぬ事もない。だが、クルトはそんな決着を許してはくれないだろう。
「クルト‥‥」
思わず呟き、枕の下に忍ばせている服を取り出す。それは狩猟用の衣服‥‥魔術師ガンジスを尋ねてグライブ山地を訪れた時の服だった。
「クルト‥‥貴方は今、どこにいるんだ‥‥」
シンシアは、服をギュッと胸に抱き入れた。
「それではよろしくお願いします」
「はい。姫様のことは任せて下さい。クルトさんたちは心置きなく」
長旅の疲れが出たのか、宿に落ち着いた途端、クラリッサは熱を出して寝込んでしまった。
クルトは、薬師のレン(CV:夕波綾佳(fa4643))に姫を託し、自分たちは王城へ入る方法を探して町に出る事にした。
「あ、カナンさん。帰りに、足りない分の薬草と何か滋養のある食べ物を買ってきて下さい。クルトさんは、姫に何かおいしい果物をお願いします」
きっとクラリッサが喜ぶから、と含みのある笑みを見せるレン。クルトは、はぁ、と生返事を返し、首を捻りながら宿を出た。
「私も商人仲間のツテを当たってみますが、あまり期待はしないで下さいね。この辺りには土地勘がなくて‥‥」
共に部屋を出た『山の民』の女商人、カナン(CV:大曽根カノン(fa1431))が申し訳無さそうにクルトに言う。その視線が微妙にずれていた。先のエタ島で妖花の香に高揚し、思わずクルトに抱きついてしまって以来ずっとこうだった。我に返っては赤面するカナンだったが、勿論というか、クルトは気付いていなかった。
市場に向かうカナンと別れたクルトは王城へと足を向けた。
城壁は高く、警備は厳重。『本職』ではないクルトにも潜入が容易ではない事がすぐに分かった。
その姿を怪しまれた。一組の衛兵がクルトの両脇に立ち、詰所まで来るように求めてその身を拘束しようとする。
「あらあら。あまり善良な一旅人をあまり苛めてはいけませんよ」
くぐもった様な若い女の声。その声に、それまで居丈高だった衛兵たちが直立不動の姿勢を取る。
まるで喪服のような黒いドレスに身を包んだ女性だった。ご丁寧に黒いヴェールまでかけていた。
女は、居心地悪そうに身じろぎする衛兵たちを追い払うと、「お久しぶりですね、クルトさん」などと声を掛けてきた。
ヴェールを外し、再びクルトに正対する。
それは神樹の森で出会った魔獣使いのフィーア(CV:孔雀石(fa3470))だった。
「今、私はソルメニアの第4軍で働いています」
王国第4軍は魔獣を使う邪道の軍として恐れられ、クラリッサにとっては故国アリアスを攻め滅ぼした仇でもある。
その第4軍に属する者が自分に何の用か‥‥身構えるクルトに、フィーアは微笑んだ。
「そう警戒しないで下さい。そうですね。今日はクルトさんをスカウトに来たんです」
余りにも意外な言葉にクルトが困惑する。とりあえず座りましょう、とフィーア近くのベンチに促した。
「申しました通り、私は第4軍でそれなりの地位を頂いています。つまり、色々と便宜が図れる立場というわけでして。‥‥例えば、王女殿下の屋敷の警護に配置する兵の選別、とか」
鉄扇で口元を隠し、あらぬ方を見やりながら呟くフィーア。驚愕に身を硬くしながら、クルトは、それで宰相に何の得があるのか、と呻く様に呟いた。
「この件に宰相閣下は関係ありません。純粋に私の好奇心です」
そのまま問いかけるような視線を向けてくる。クルトは身を固まらせたまま思考を巡らせた。
確かに状況は絶望的だ。何のツテも無い自分には、王城に入り込んでシンと会う事など夢物語。ならばいっそ‥‥
クルトの判断が傾きかけた時、どこからとも無く風が吹いた。優しく頬を撫でるように吹き抜ける風。
その先に見知った顔を見た。風を巻く異国の装束。星見の行商人、メリッサ(CV:姫乃 舞(fa0634))を。
フィーアがスッと立ち上がった。
「‥‥クルトさん。お返事はまた後ほど窺います」
声に抑揚が無い。だが、ヴェールを下ろし、鉄扇を広げて口元を隠すフィーアの顔色は窺い知れなかった。
(「あれはミルラ‥‥!? いや、別人‥‥そう、確かに別人だ。‥‥だが、あれは‥‥!」)
早足でこの場を去るフィーア。それをクルトはただ見送るしかなかった。
「‥‥遂にここまで辿り着いたのですね、クルトさん」
メリッサの言葉に静かに頷くクルト。半ば苦笑を浮かべつつ、今回は何の為に現れたのか聞いてみる。
「私ですか? 祭典の為の品物を王城に納めに行くのです。その為に私はここまで旅を続けて来たのですから」
少女っぽい悪戯な笑みを浮かべ、背中の荷をクルトに見せるメリッサ。クルトはそれを真に受けはしなかったが、敢えて反論はしなかった。どうせはぐらかされるばかりで答えは返ってこないだろう。
「王城へ行きたいのでしたら、ご協力いたしましょうか? 行商人が入れる範囲は限られていますけれど、ね」
メリッサの言葉にクルトは目を丸くした。これまでこの少女は謎めいた言葉を残すばかりで、直接的にクルトを助ける事はなかったからだ。
「私の連れの行商人として同行して下さい。‥‥そうですね、『山の民』ということが分からないようにしないといけませんね」
メリッサは荷から異国の装束を取り出すと、クルトに着替えるように言った。服はあつらえた様にピッタリだった。
「よくお似合いですよ」
クスクスと笑うメリッサ。俺で遊んでいないか、というクルトの問いに、そんなことありませんよ、と笑いながら答える。
「さて、これからは私について離れないで下さい。誰に話しかけられても、お教えした異国語以外は発しないようにして下さいね」
そうしてメリッサとクルトは王城の通用門へと足を踏み入れた。
石畳の廊下に高い天井。日の光が差し込む神秘的な情景。そこに響くのは自分と少女の靴音のみ。クルトは、城に入って以降、誰にも会っていない事に気がついた。
やがてメリッサは、小さな中庭に面した回廊の一角で、足を止めて振り返った。
「私に案内できるのはここまでです。貴方は良いお仲間にも恵まれています。後は運命が貴方を導くでしょう。貴方の信じる道を行って下さい」
そう優しく微笑み、風のように去るメリッサ。途端に、周囲から人の気配や話し声が聞こえてきた。
突然の事に戸惑いながら、クルトは警戒するように壁に身を寄せる。と、突然、その壁面のすぐ横の扉が開かれた。視線がぶつかる。それは懐かしい顔だった。
「‥‥クルト、君か‥‥なんだって、こんな所に‥‥」
グライブ山地を出立する際に世話になった行商人、アストル(CV:藤井 和泉(fa3786))がそこにいた。
「いや、懐かしい。あれからもう一年以上になるかな?」
王城内のこの一角は、謁見に来た者の中で、比較的、社会的地位の高い者たちにあてがわれる部屋らしかった。僕は『金魚の糞』だけどね、と自嘲してみせながら、アストルは、今回の件は兄弟子の計らいか、と尋ねてきた。
クルトはきょとんとした顔をした。もう兄弟子には何年も会っていない。
クルトは、アストルにこれまでの経緯を簡単に伝えた。王城へはメリッサの案内で‥‥と、そこまで言った時、アストルは合点がいった、と拳を打った。
「そういう事か、メリッサの奴‥‥まったく、王城はきな臭いから苦手だと言ったのに」
アストルが呟きながら、苦笑交じりに舌打ちする。クルトには訳が分からない。
「いや、こっちの話さ‥‥王城に入り込める立場が欲しい、だったね。そういうことなら、多分、力になれる」
アストルは立ち上がると、ここで少し待つように言って扉に手をかけた。
その背に向かってクルトは、メリッサとは何者なのか尋ねてみた。
「僕にも分からないよ、彼女の正体なんて」
帰ってきたのは、苦笑だけだった。
「いい商品があるのですが。よろしければ見て頂けないでしょうか?」
そう言って部屋に入ってきたアストルを、大商人・レーナス(CV:弥栄三十朗(fa1323))は上目遣いでねめつけた。
「‥‥それは生モノですかね?」
「すぐにでもご賞味頂きたいものではあります。‥‥事によっては『西苑』に一石を投じるかもしれません」
再び書類に視線を落とそうとするレーナスに、アストルはポツリと付け加える。魔術師ガンジス最後の弟子が王女に会う機会を欲している。
「‥‥なぜ、その弟子は王女に会いたがっているのですかね?」
「それは本人に直接尋ねられるがよろしいかと」
喰いついた。アストルは心中で拳を握った。レーナスは、ふむ、と書類から視線を上げる事無く‥‥
「その『山の民』は、クルトという名かね?」
と唐突に呟いた。
「‥‥ご存知で?」
「王国に引き渡されんとしたアリアス姫を誘拐した『山の民』の名がそうだったと記憶している」
それは聞いていなかったな、とアストルは心中でクルトに悪態をつく。勿論、表情には一切出さない。
「会いましょう。いや、これは面白いものが舞い込んできたものだ」
書類から一切顔を上げる事無く、レーナスが言う。一礼し、退室するアストル。喰えないオヤジ、との人物評を、より一層強いものにした。
「僕に出来るのはここまでだ。彼の協力を取り付けられるかどうか‥‥それはクルト君次第だよ」
アストルに呼ばれてレーナスの部屋に入ったクルトは、書類の決裁が終わるまでの間、そこで一分ほど待たされた。
「さて、クルト君‥‥だったかな。貴方は何の為にシンシア王女にお会いしようというのかね?」
クルトには交渉上の駆け引きなどできはしない。だから、ただ正直に自分の思いを語ってみせた。
レーナスは、面食らったようだった。どんな策士が来たかと思ったら、とんでもないバカ正直が来たので驚いたのだろう。御し易い、と思われたかもしれない。それでいい、とクルトは思った。
「‥‥まず、貴方を私の傭兵として雇います。その後、王女派の重臣を介し、王宮に潜り込めるように計らいましょう」
レーナスはクルトに助力を約束した。
「なるほど。御し難い若者のようだ」
クルトたちが出て行った部屋の中。
レーナスは書類の処理を中断して一人、窓の外の風景へと目を向け、そんな感想を口にした。
真っ直ぐすぎる。だが馬鹿でもない。最後の最後の所では、こちらの思惑に乗る事はないだろう。
だが、時代の行き足が不明瞭な今、多少の先行投資は必要だろう。
「宰相閣下の天下も永劫に続くとも限りませんし‥‥王女に恩を売っておくのも悪くないかもしれません。が‥‥」
もしかしたら、自分は思いがけず大きな石を投げ入れてしまったのかもしれない。
「時代が変革の時を迎える際には、その兆しが現れると言いますが‥‥さて‥‥」
書類を放っておいたまま、暫く、レーナスはそこに佇んでいた‥‥
「貴方はいったい何者なんですか?」
すっかり日も落ちた王城からの帰り道。
いきなり一人の女性に暗がりに引っ張り込まれたクルトは、その首筋を完全に抑えられていた。
「やっと探し当てたと思ったら、四団長にスカウトされるは、大商人レーナスの協力は取り付けるは‥‥私のこれまでの苦労は一体なんだったんでしょうね?」
「そんな事を淡々と冷静に聞かれても‥‥」
それもそうですね、と呟き、女がクルトを解放する。平凡な顔立ちの、だが、瞳の綺麗な女性だった。
「私はイーシャ(CV:楊・玲花(fa0642))と申します。イストリアの間諜です。ランベルグ伯からの伝言を伝えます。
『宰相派の目があるので表立っての行動は出来ないが、影からの支援は約束する。王女の為に最善の選択がなされる事を希望する』
‥‥だそうです。
王城へ入る手段は得たようですが‥‥伯との『繋ぎ』は私が行います。これだけは譲りませんから」
一気に言って、イーシャが大きく嘆息する。やはりどこかやり切れないものがあるのかもしれない。
「最後に一つ。なぜ反撃をしなかったのですか? 貴方が本気を出せば、私程度の膂力では抑えられなかったでしょうに」
殺気が無かったからな、と呟くクルト。どんなに消しても、獣じみた殺気は漏れてくるものだ、と。
イーシャは唇の端で薄く笑うと、闇へ溶ける様に消えていった。
「では、これからよろしくお願い致します、クルト殿」
そんな声だけが、闇を渡るように聞こえてきた。