武装救急隊 長き道の途アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 柏木雄馬
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/09〜10/13

●本文

 『長城』がウォールブレイカーによって破壊され、そこにトウキョウの人々が集まって来た時。彼等に対する『壁』の外の人々の視線は冷淡だった。
 当然の話ではある。新型爆弾に汚染されたトウキョウはクリーチャーの跋扈する危険地帯であり、そこにいる人々もいつクリーチャー化してもおかしくない存在だ。そのような者たちが、防壁たる『長城』を破壊し、自分たちを外に出せと訴える──それは、壁の外に生きる者たちにとって、到底受け入れられない要求だった。
 要求を拒否した州政府と、長城破砕部に立ち塞がった軍の部隊には喝采が送られた。集まった『難民』たちをクリーチャーが襲撃した時には、それ見た事か、さっさと避難キャンプに帰れ、との声が大勢だった。
 しかし、『難民』たちは恐れおののいて退いたりはしなかった。それどころか、その数は増え続けた。ろくに武器も持たず、クリーチャーの危険に怯えながらも、彼等は自分たちの解放を訴えた。
 なぜ自分たちのねぐらに帰らないのか。血を流し、命を危険に晒してまで、お前たちは壁の外を危険に晒したいのか。
 そんな折、報道規制中にも関わらず、メディアに長城域内の情報がポツポツと出回り始めた。それは、各地のキャンプに長期滞在したフリージャーナリストたちが取材した映像や写真、記事や手記など‥‥過酷な環境の下でも、泣き、笑い、食い、遊ぶ、人々の素朴な生活を淡々と記録したものや、トウキョウが隔離されるまでに何があったのかを探るインタビューやドキュメンタリーだった。中には、『発病』してクリーチャー化に苦しむ姿──四肢が獣のそれに変わっていくかなり生々しいもの──や、それを助けるべくトウキョウを疾走する武装救急隊や、それを襲撃するクリーチャーを納め続けた血生臭い映像まであった。
 それは、良くも悪くもトウキョウの真実を写していた。
 トウキョウに生きる人々が、そこにはいた。

 そして、あの日。
 それまでに無い大規模なクリーチャーの襲撃に、破砕地点に集まった人々は圧殺されようとしていた。
 ウォールブレイカーの奮戦も、怪物たちの攻勢を押し留めるは叶わない。多くの犠牲を出しながら、『長城』へと追い詰められていく人々。血を流し、逃げ惑う人々に、しかし、軍は道を譲らない‥‥いや、譲れない。それが州政府の命令であり、すなわち、州民の総意である。兵たちの葛藤は、そのまま、テレビの前の人々の葛藤だった。
 そんな時、無期限の待機命令が出されていたはずの武装救急隊が現場に飛び込んでくる。我が身の危険も省みずに救命活動を続ける救急隊‥‥だが、クリーチャーの攻勢は止まらず、一度防衛線が破れれば、待つのは虐殺の野だけだろう‥‥
 彼等を助けたのは、軍だった。彼等は『長城破断地区の防衛』という命令を遵守しつつ、現場の独自の判断で、避難民の保護とクリーチャーの掃討を開始したのだった。
 その瞬間、テレビの前でやきもきしていた人々が皆、喝采を叫んだであろう事は想像に難くない。

 クリーチャーの撃退後。
 生き残った人々は、軍に幾重にも取り囲まれて、ではあるが、戒厳令以降初めて『長城』の外に出た。
 これも『長城』修復部隊を率いる中佐の独断だった。
「緊急避難である。いつまでも危険な場所に彼等を置いておけば、彼等を守る兵たちにもいらぬ犠牲が出る」
 それが表立っての理由だったが、州政府や軍上層部にはとても認められるものではない。
 兵たちはその決断を支持した。壁の外の人々も納得はした。誰もが皆、中佐の真意には気付いていた。

 数週間後。州政府は、正式に『長城』破砕部分の修復中止を発表した。
 同時に、トウキョウ域内の人々の『長城』外移住を認めない事も発表された。その点に関してだけは、壁の外の人々の総意は変わらなかった。
 いつまでも、人々をクリーチャーのいる危険な域内に留めてはおけない。だが、実際問題、彼らを移す場所はなく、いつクリーチャー化するか分からぬ人々を外に出すわけにもいかない。つまりは、そういう事だった。
 『長城』破砕地区の外側周辺の一帯は、緩衝地帯として避難民たちに解放された。
 『長城』すぐの周辺地域は、自主的に避難した無人の地域が帯状に広がっており、その一部を使った実験的な試みだった。移動の自由もなく、軍に監視されて閉じ込められている事には変わりは無い。だが、ここ──セタキャンプに留まる人々に悲嘆の色は無かった。ここにクリーチャーの襲撃はなく、何より、ここには壁がない。外の世界と『地続き』だった‥‥

●出演者募集
 以上が、ドラマ『武装救急隊 長き道の途』の冒頭部分になります。
 このドラマの制作に当たり、出演者を募集します。
 PL(プレイヤー)のプレイングとそれに対する判定がドラマの脚本となり、
 PC(キャラクター)がそれを演じることになります。

●設定
1.トウキョウ封鎖地区
 新型爆弾に汚染され、巨大な多層複合防壁『長城』によって封鎖された隔離地域。
 無人の街並みや廃墟が広がるばかりの、クリーチャーの跋扈する危険地帯。
 人々は各地の避難キャンプに集まって暮らている。
 なお、『新型爆弾』については、結局最後まで劇中で語られることはありません。

2.クリーチャー
 新型爆弾の影響で発生した生物兵器的モンスター。
 既存の生物を戦闘に特化した存在で、人間も『発病』するとクリーチャーになる。

3.武装救急隊
 隔離された旧トウキョウ地区に取り残された人々を救済する為に結成されたNGO。
 その医療・救急部門が『武装救急隊』。
 護衛の傭兵たちと共に、装甲救急車を駆り、発病しかけた患者を救急病院陣地まで搬送する。
 現在、待機命令は解除され、今も変わらぬ活動を続けている。

4.救急病院陣地
 隔離地域内にある救急病院。患者を乗せた救急車の目的地。
 新型爆弾の影響を調査・研究する機関でもある。
 この施設の域外移転も認められなかったため、救急隊は今日もトウキョウを疾走する。

5.各地の避難キャンプ
 隔離された人々が集まる場。自治組織が存在し、政府と民間団体の援助を受けて暮らしている。
 現在、自警団は解散し、治安と防衛は軍が担っている。
 『発病』の恐怖は常にあるが、店を開くなど、明るく前向きな者も増えている。

6.軍
 初期の混乱時に多大な被害を出し、域内の人々と間に確執を生じさせてしまった正規軍。
 現在は、各キャンプの防衛と物資の輸送、クリーチャーの掃討などが任務。
 域内の人々への偏見を持つ者もいるが、時間を共にする内に溝は確実に小さくなっている。

7.武装勢力『ウォールブレイカー』
 外界への解放を求め、『長城』の破壊を目指すグループ。
 テロリストであると同時に、山賊化した武装勢力やクリーチャーを討伐する『自警組織』でもある。
 武力闘争を終え、表面上は解散。主要メンバーは文字通り地下に潜っている。

●今回の参加者

 fa1431 大曽根カノン(22歳・♀・一角獣)
 fa1526 フィアリス・クリスト(20歳・♀・狼)
 fa3225 森ヶ岡 樹(21歳・♂・兎)
 fa3425 ベオウルフ(25歳・♂・狼)
 fa3464 金田まゆら(24歳・♀・兎)
 fa3662 白狐・レオナ(25歳・♀・狐)
 fa3831 水沢 鷹弘(35歳・♂・獅子)
 fa3853 響 愛華(19歳・♀・犬)

●リプレイ本文

 定時の救急巡回。
 機関員・水上 隆彦(役:水沢 鷹弘(fa3831))の駆る装甲救急車6号は、『空中回廊』として整備される事が決まった旧首都高の上を、どこかのんびりとした風情で走っていた。
 車上に伝わる振動は殆ど無い。例の事件の際に整備部長(『忍足 千早』役:金田まゆら(fa3464))が独自に色々と車に手を加えているようだ。新人救急隊員・青木律子(役:フィアリス・クリスト(fa1526))は、幸せそうな表情を浮かべて助手席で熟睡している。水上は肩を竦めてそれを見逃した。
「‥‥静かなものだな。あの騒ぎがまるで夢のようだ」
 掃討作戦以降、クリーチャーとの遭遇件数は激減していた。特にトウキョウ外周部──『長城』に近い地域では、銃声が絶えて久しいと聞く。
「‥‥だが、何が解決したわけでもない。トウキョウの人間は相変わらず隔離されたまま。未だに発病の恐怖は拭われず、俺たちは今もこうして走っている‥‥」
 吸ってもいない煙草を灰皿に押し付ける。寝ている青木が身じろぎした。
 やがて道は直線になり、『長城』破砕部分が視界の正面に入ってきた。巨大な壁に刻まれた大きな亀裂。『長城』は封鎖の象徴であり、それが修復されないでいる、という事は、中々に感慨深い。
「そうだな‥‥こうして少しずつでも進んでいけば、いつかは──」

 6号車はそのまま、セタキャンプ内にある救急隊支部へと入って行った。西南支部と統合して作られた新しい、そして、初めてキャンプ内に作られた救急隊支部だった。
 例の一件後に行われた大幅な人事異動で、6号車の関係者は皆、こちらに移っていた。それが『懲罰人事』なのか、『粋な計らい』なのかは、正直、判断し難かった。
 地下駐車場へと車を進めると、整備部長の忍足が待っていた。
「お帰りなさい、水上さん。どうですか、車の調子は?」
 運転席から下りながら、水上は運転中に感じた諸々を忍足に伝えた。
「なるほど‥‥サスは今の方が感じはいいですか」
「『戦闘機動』はしてないから、なんとも言えんが‥‥おい、忍足。勝手にあんな弄くってもいいのか?」
「構いやしないですよ。どうせ私たち以外は面倒見ないんですから。隊の規格からは外れますが、今の6号車は間違いなくトウキョウ最速です」
 その時、駐車場にブザーが二回、鳴り響いた。アナウンスが救急車の緊急発進を告げ、駐車場内のスタッフに退避を呼びかける。
 それからすぐに、待機していた7号車が駐車場を飛び出していった。それを見送り、引き上げようとした水上の耳に、なにやらドタドタとした足音が聞こえてきた。
「ま、待ってくださ〜い‥‥お、置いてかないで〜‥‥」
 情け無い声を上げながら、白衣姿の太った大柄の男が、7号車を追いかけるように走っていく。大きな荷物を抱えて涙目でわたわたと‥‥あ、転んだ。
「‥‥誰だ、あれは?」
「あ、戸田くんだ。今度入った新人の看護師ですよ。私の後輩なんです、こーはい」
 青木が妙に嬉しそうに言った。
 戸田 海(役:森ヶ岡 樹(fa3225))は、今年になって新たに配属された看護師だった。『長城』破断地区での一件がテレビ中継され、救急隊には多くの志願者が殺到していた。戸田もそうした『ルーキーズ』の一人で、実務経験を買われて一足早く現場に出された‥‥のだが‥‥
「あのドジっぷりに比べれば、私の方がマシですよね〜?」
 にこやかな笑顔でそんな事を聞いてくる青木。水上と忍足は無言で視線を逸らした。
「‥‥さて、課長に巡回の報告しないとな」
「‥‥よーし、5号車の整備始めるよー。各自、確認作業は怠らない事。救急隊が実力を発揮できるか否か、隊員と患者の命が私たちに懸かっているんだからね。ちょっとでも手を抜く奴はすぐに無職にしてあげるから覚悟するよーに」
「あ、あれぇ〜っ!? み、水上さぁ〜ん!?」
 涙目で追いかけてくる青木。水上は軽く頭を振った。


 セタの支部の自室にて。
 医師の弧木・玲於奈(役:白狐・レオナ(fa3662))は、最後のダンボールにガムテープで封をした。
 額の汗を拭きながらダンボールだらけの自室を見渡す。荷物など殆ど無いと思っていたが、予想以上の大仕事になってしまった。
 部屋を出てお茶を買いに行く。自販機の並ぶ休憩室には先客がいた。同じ医師の大曽根カノン(役:大曽根カノン(fa1431))が、フォーク片手に即席麺の出来上がりを待っていた。
「こっ、弧木さん。おはようございます」
 少し照れた様に挨拶をする大曽根。この忙しい職場にあって、未だに自室から出る時は化粧を欠かさない。素晴らしい。いつまで保つか楽しみだったのだが。
 挨拶を返し、自販機へ。取り出したペットボトルに口をつけ‥‥
「あー‥‥大曽根さん。私、今日付けで救急隊を辞めたから」
 振り返り、そんな事を言っていた。

「へー! 貴方があの水上さんですか! 記事読みました。空中回廊とかクリスマスとか。ウェディングドレスを取りに行った人の話、あれには感動しちゃいました」
 支部の待合室。初めてシフトが一緒になった戸田が、水上の手を握り締めてブンブンと両手に振った。どうやら、戸田はかなりディープな救急隊マニアだったらしい。
「こら、戸田くん。離れなさいって」
 それを一生懸命引き剥がそうとする青木。だが逆に引きずられていた。
「いやー、実際に会って見ると男前ですねぇ。前にテレビで見た時は、何と言うか、もっと‥‥寒々しいというか、暗そうだったけど」
 正直すぎる感想を口にする戸田に水上は苦笑した。どうやら今度の新人は『率直』すぎる性格らしい。
「それにしても入れ替わりの激しい職場ですねー。あの人はいないんですか? ほら、いつも黒いコートを着た巨漢の看護師‥‥先生方に聞いても答えてくれないんですよ」
 水上の顔から笑顔が消えた。
「あいつか‥‥。あいつは隊を辞めたよ。以前は大型バイクで各キャンプを回っているのを見かけたが‥‥今はどうしているだろうな‥‥」
 そんな時、ばぁん! と勢い良く待合室の扉が開かれた。
 荒い息を吐きながら、大曽根が弧木を引っぱる様にして部屋に入ってくる。
「みっ、水上さん! こっ、弧木さんが隊を辞めたって言うんですけどっ!?」
 戸田を押し退け、物凄い勢いで水上に掴みかかる大曽根。
 色んな意味で、水上は驚いた。

 正直、意外な話ではあった。患者を救う事に一番情熱を傾けていたのが弧木だ。その弧木がまさか隊を辞めるとは。
「救急隊を続けている内に、やりたい事が出来たのよ」
「そんな‥‥!」
 反駁の声を上げようとするのを水上が手で制す。先を促す水上に、弧木は小さく頷いた。
「私はこのトウキョウで自分の病院を持つ事にしたの。今度の事で痛感したわ。一人でも多くの患者を救うには、もっと自由が利く場所が必要だ、って。壁の外の都合に振り回されない‥‥そう、救急隊のように、常に命懸けで患者を救えるような、そんな病院を作りたいの」
 室内に沈黙が舞い降りた。改めて、弧木の強い想いを見せられた思いだった。
「‥‥大変だぞ?」
「救急隊でシゴかれた日々に比べれば、大したこと無いわよ」
「‥‥『自分に出来る事』を見つけたんだな。ならもう何も言わん。精々頑張って、早く俺たちの仕事を楽にしてくれよ」
 悪態を吐きながら手を差し出す水上。弧木は、その手をギュッと握り締めた。
 感極まった青木が泣きながら弧木に抱きつく。その横で、戸田が感動した面持ちで手を叩いた。気圧された。強い人だ。これが武装救急隊員か‥‥
「弧木さん‥‥」
 少し恥ずかしそうにしながら近づく大曽根に、弧木は頷いて見せた。
「どう? ウチの病院に来る? 優秀で熱意のある医者は大歓迎よ」
 にこやかに苦笑しながら、予想通り、大曽根は首を静かに横に振った。
「私は隊に残ります。その方が治療薬の研究には都合が良いですから。
 感染したトウキョウの人々を治す‥‥いえ、このトウキョウにいるクリーチャーをも元に戻す特効薬を作ります。まだ全然先は見えませんけど、いつか、必ず、きっと叶えてみせます」
 弧木は、青木と大曽根を両手でギュッと抱き返した。
「今までありがとう。貴方たち‥‥隊のみんなのお蔭で、私は多くの事が学べた。私はここで貴方たちとは違う道を行くけれど、ホント、貴方たちの事を世界で一番、愛しているわ」


 ウエノ公園キャンプは、以前と比べて少し寂しくなっていた。破砕された長城に希望を感じた人たちがキャンプを移ったからだ。もっとも、残った人々にも悲壮感はない。以前にも増した情熱で、キャンプをより良いものにしようと人々は張り切っている。
 人事異動もない傭兵のベオ(役:ベオウルフ(fa3425))たちは、ウエノ公園キャンプに残っていた。6号車の連中と共に向こうに行きたい気持ちが無いでもなかったが、ここにはベオが許しを請わなくてはならない人たちが眠っている‥‥
 いつものようにキャンプの見回り(最近は、お年寄りの手伝いや子供たちの遊び相手ばかりだが)を終えたベオは、キャンプの片隅に設けられた共同墓地に足を運んだ。
「よう‥‥また来たぜ。俺の方は相変わらずだ。火薬の臭いが取れねぇよ。‥‥でも、最近はトウキョウも落ち着いてきたみたいだ。どうにかな」
 そのまま無言で立ち尽くす。伝えるべき言葉は中々口から出てこない。
「なぁ‥‥このままここが平和になれば、俺もいつか銃を置く日が来るのかな‥‥」
 人の気配を感じて、ベオは素早く銃を抜いた。照準の先に、花束を持った水上がいた。
「‥‥あんたか。っと、悪ぃ。家族の墓参りか?」
 銃を下げ、道を譲る。水上は頷くと、しばし墓前に手を合わした。
「‥‥救急隊、解散にならなくて良かったな」
「‥‥ああ。故郷であり、家族の眠るこの地を離れずに済んだ。‥‥このトウキョウにしか行き場が無い、って意味では、キャンプの連中も俺たちも同じかもな」
 そこへ、部下である傭兵の一人がベオを呼びに来た。二言三言言葉を交わして去っていく。
「出動か?」
「ああ。あんた達の後釜はみなヒヨッコばかりだからな。苦労してるよ」
 行ってくる、と呟くベオ。それは水上以外の者に向けられた言葉だった。


「わー、縁姉ちゃんだー!」
 路上で遊んでいた子供たちが、葛城 縁(役:響 愛華(fa3853))に気がついた。
 一人が走り寄ると、その場にいた全員がわらわらと寄って来る。遊んで、遊んでー、と群がる子供たちに、葛城は困ったように笑って見せた。
「ごめんね。お姉ちゃん、これからちょっと用事があるの。後で遊んであげるから、ちょっと待っててね?」
 えー、と駄々をこねる小さな子を、年上の子が我慢するように言い聞かせる。うん、いい子たちばっかりだ。
 子供たちに手を振り、先へと進む。この日、葛城は、弧木がセタキャンプに開くという診療所の引越しを手伝う事になっていた。
 診療所の入口で、葛城は少し躊躇った。ひょいと中を覗いてみる。そこに懐かしい顔ぶれが揃っていた。
 どこかつまらなそうな顔をしながらも、律儀に荷を運ぶ水上さん。
 元気良く走り回りながら、転んで荷をぶち撒けているのは律子ちゃん。
 整備班の皆さんと配電盤を弄くっているのが、確か、忍足さん。
 大きなロッカーを一生懸命運んでいるのは、新人さんだろうか。あ、ベオさんと傭兵さんたちもいる。
 そして、納入する薬品について話している玲於奈さんとカノンさん‥‥
 その弧木が葛城に気が付いた。
「縁ちゃん! 久しぶりね。元気にしてた?」
 笑顔で葛城を迎える弧木と大曽根。気付いた隊員たちもやって来る。
 葛城ははにかむ様に笑いながら、足を前へと踏み出した。

 水上の携帯が鳴った。続けて隊員たちのも順次、呼び出し音が鳴り響く。
「‥‥緊急待機命令が出た。バックアップだ」
 緊張した面持ちで水上が呟く。急いで戻ろうとする隊員たちを、忍足が呼び止めた。
「待て。こんな事もあろうかと、6号車を用意してある」
 呆気に取られたのも一瞬。すぐに乗り込みを開始する。再び水上に電話。出動命令が出た。
「こちらAMB6。これより現場に急行する」
 通信し、後ろを振り返る。弧木が当たり前のように乗り込んでいた。
「‥‥なんだ。もう救急隊が恋しくなったのか?」
「何か大変そうだしね。仕方が無いから手伝ってあげるわ!」
 なんというか、大人の笑みを交わす二人。それを見て、青木は思わず破顔した。やっぱり、救急隊はこうでなくてはいけない。
「今日も飛ばすぜ。しっかり掴まっていろ!」

 飛び出して行った救急車を見送って。
 窓から手を振る戸田に向かって手を振り返し‥‥葛城はいつまでも路上に佇んでいた。
 ギュッ、と、田舎から出てくる時に母から貰った御守りを握り締める。この世界は少しずつ良くなっている。いつか‥‥またお母さんに会える日も来るかもしれない‥‥
(映像。走り去る救急車と葛城の背中。視点が動き、着物を着た中年女性の背中がフレームイン)
「縁‥‥」
(無音。中年女性の声。ビクリと震える葛城の背中。葛城がスローモーションで振り向き、その目から涙が溢れ、喜びに見開かれる‥‥)
(そのまま視点が上方へ移動。キャンプの街並みと、富士の山、『長城』に、トウキョウがフレームイン)
(ナレーション)
 大きな絶望の闇の中に灯った希望の光。
 今は小さく弱々しいその光も、何時の日か眩く輝く時が訪れる。
 その時を信じ彼らは‥‥武装救急隊は今日もトウキョウを駆け抜ける。
 熱い志を胸に秘め、長く短い道を往く‥‥

(『武装救急隊』完)