新たな旅立ちドラマSPアジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
柏木雄馬
|
芸能 |
1Lv以上
|
獣人 |
1Lv以上
|
難度 |
やや難
|
報酬 |
1万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
1人
|
期間 |
04/07〜04/11
|
●本文
20XX年 東京──
世界情勢の多様化が進み、『国家』の役割と権限が小さくなった近未来。
この時代も警察は、社会の治安秩序の維持という役割を担っていたが、その捜査の前には、しばしば巨大企業の壁が立ちはだかるようになっていた。
深刻化する組織犯罪に対抗する為、警察は、訓練された潜入捜査官を各方面に派遣することを決定した──
潜入捜査官は、警察の捜査の届きにくいあらゆる方面に派遣された。
巨大企業は勿論、旧来の犯罪組織、宗教団体、病院、刑務所内に至るまで──
そして、その派遣先には教育機関、すなわち『学校』も含まれていた。
警官の子弟を中心に編成され、訓練を施され、各校に潜入捜査官として派遣される少年少女たち。
その通称を、『学生刑事(デカ)』 といった──
季節は春。入学期を迎え、新たな潜入捜査官が都内某校(名称他未設定)に派遣された。
桜舞い散る公園を、学生鞄を肩に担いで歩くブレザー姿の少年、『主人公男』(役名他未設定)。
彼こそが、某校に派遣される新たな『学生刑事』だった‥‥
まだ慣れぬ放課後の校内を『主人公男』が歩いて回る。事前に渡された資料で校内の見取り図は頭に入っているが、実際に見て回るのとではやはり違いがあった。
誰もいない校舎を回り終え、中庭に出る。
そこで、『主人公男』は、前方から来る『異様な集団』と遭遇してしまった。
夕日を背景に、男たちが歩いてくる。
その陰は漆黒。皆が皆、長ラン──裾の長い学ラン──を着た異様な集団だった。
特に、先頭を歩く男は目を引いた。
背の高い、筋肉質の大男だった。学ランを羽織り、つばに切れ込みの入った学生帽を被り、下駄の音を高らかに響かせながらて歩くその姿はまさに『番長』。
その『番長』(役名他未設定)の視線が『主人公男』へと向けられた。
「‥‥ぬ‥‥新入生か‥‥」
彼等の格好が演劇や罰ゲームなら、自分に話しかける必要などない。つまり、この『番長』たちは『ホンマモン』ということになる。‥‥いろんな意味で。
「貴様、何か武道を嗜んでおるな」
スッ‥‥っと目を細める『番長』。警戒する『主人公男』の僅かな体重移動を見て、『番長』はそれを看破したのだった。
「‥‥俺と戦え、小僧っ!」
同時に、岩のような拳が飛んできた。図体に似合わず雷光のような一撃。
潜入捜査官という立場上、目立つのはまずい。適当に伸されようと考えていたが、そのあまりの鋭さに『主人公男』は思わず避けてしまっていた。こんなもの喰らったら気絶ではすまない。
さらに連撃。続けざまに放たれた左右の正拳。続けて裏拳が放たれる。その全てを『主人公男』はかわしきった。
『番長』の背後の男たちがどよめいた。どうやら、いきなり目立ってしまったらしい。
「やはり、やりおる‥‥」
下駄を脱ぐ『番長』。どうしたものか、と『主人公男』が思案したその時。
‥‥新たな『それ』が、そこに現れた。
「そこまでよっ!」
少女の声が、夕闇迫る校舎に響きわたった。
ざわめく男たち。皆、慌てたようにきょろきょろと左右を見回す。やがて、その内の一人が「あれを見ろ!」と言って空を指差した。
そこに、一人の『魔法少女』が浮いていた。
「超絶! 至高! 学園の守護天使、破滅の使者、『アルティメットプリティ』、ここに見参!」
何かの決めポーズを決める『アルティメットプリティ』。切った見得の中に、聞き捨てならない単語があったように思えるのは『主人公男』の気のせいか。
「いたいけな一年生に、理由無き暴力振るうなんて‥‥堕ちたものね、番長グループっ!」
「ぬうぅっ、何度も言っただろう、アルティメットプリティ! 我々は番長グループではない! 学校非公認の応援団『○○団』(名称未設定)だっ!」
自分たちの正体を明かす『番長』、もとい『○○団』。
正直な所を言えば、彼等の正体が知れたことよりも、『番長』の口から『アルティメットプリティ』なる単語が出た事の方が衝撃は大きかった。
「問答無用っ! 喰らいなさい、正義の一撃! 『マジカルバズーカ』!」
アルティメットプリティは、どこからともなく巨大なバズーカを取り出すと、眼下の『○○団』に撃ち放った。
何か見えない空気の塊のようなものに打ち倒されていく男たち。それを見ながら、『番長』が震える拳で天を衝いた。
「毎度毎度、卑怯だぞ! この拳が届く場所まで下りて来いっ!」
「女の子に手を上げるつもりっ!? 『マジカルファイアー』!」
アルティメットプリティのスカートの中から、無数のマイクロミサイルが飛び出した。ミサイルは煙を吐きながら縦横無尽に飛び回り、『○○団』の上に降り注ぐ。
キュボボボボボッ!
閃光と小爆発。届いた爆風が『主人公男』を翻弄する。
やがて爆煙が晴れたとき、そこに立っている者は誰一人として存在しなかった。
「おのれ、アルティメットプリティ‥‥」
アフロになり、地に倒れ伏した『番長』が黒い煙を吐いて気絶した。
『番長』の沈黙を確認すると、アルティメットプリティはゆっくりと、天から降りてきた羽衣の天女のように、『主人公男』の前に降り立った。
「大丈夫? 怪我はない? あんなゴツい人たちに囲まれて怖かったでしょう?」
心配そうな顔で覗き込むアルティメットプリティ。ツッコミ所は山ほどあったが、『主人公男』は、とりあえず頷いておく事にした。
‥‥これが、『学生刑事』主人公男と、魔法少女風試作兵装少女『アルティメットプリティ』の出会いであり、騒動の日々の始まりであった‥‥
●PL情報
以上が、ドラマ「Boy meets girl」の冒頭部分となります。
このドラマの製作にあたり、学園関係者等の出演者を募集します。
PL(プレイヤー)のプレイングとその判定がドラマの脚本となり、
PC(キャラクター)がそれを演じることになります。
1.目的
冒頭部分で触れられた設定を使って、『第1話っぽいお話』の脚本を完成させてください。
皆で協力して、ドラマを作る事が目的です。
2.既存の設定:『アルティメットプリティ』について
『魔法少女』ではなく、『魔法少女風試作兵装少女』です。
学校内で困っている人がいると、どこからともなく現れます。
その正体(各種設定未定)は、誰にも知られていません。
3.ドラマ制作の制約
劇中では、以下の三つの要素を必ず使用してください。
a.『主人公男』が潜入捜査官であることが、『アルティメットプリティ』だけにバレる。
b.今回のメインの敵役は、自称硬派な『番長』たち『○○団』。
c.伏線として、より巨大な悪の存在を匂わせる。
●リプレイ本文
朝礼が始まる。
全校生徒・教師の居並ぶ体育館。
その壇上に、学生潜入捜査官こと麻井玲(志羽・明流(fa3237))の姿があった。
長身で紳士然としたドイツ人校長、マーク・ベイツ(結城丈治(fa2605))が、女子生徒の黄色い声援を受けながら演壇中央に進み出る。
「今日は新しく転校してきたお友達を紹介します」
校長が目で玲に合図を送る。居心地の悪さを覚えながらも、玲は校長の横に並んだ。
「‥‥キミ、高校生にしては老け顔だよね」
マイクに入らないように校長が小声で囁いた。
「それを言ったら、校長もドイツ人には見えませんが」
同じように小声で玲が返す。ハハハ‥‥、と校長はにこやかに笑い、やおら真顔でマイクに向き直った。
「彼が転入生の麻井玲君。仇名はスーパーダブリ君だそうだ。皆、ダブリ君と呼んであげるように」
ドッと沸く生徒達。
こうして、潜入捜査官・麻井玲は、転入初日からこの上なく目立つ存在となったのだった‥‥
それから、朝礼が終わって教室に帰るまで、いや、教室に帰ってからも、玲は好奇の視線に晒され続けた。
「気にすることないよ。みんなすぐに忘れるって」
右隣の席のポニーテールの女子生徒・天堂舞(RASEN(fa0932))が話しかけてきた。
前の席に座る長髪の男子生徒・フィミア(フィミア=イームズ(fa0036))も振り返って会話に加わる。
「何せ、この学校には他に濃い生徒達がいるから。番長達とか、魔法少女とか」
フィミアの言葉に、舞があはは‥‥と力なく笑う。
「ね、麻井君のこと聞かせてよ」
玲は二人に、潜入調査に際して用意された架空の身の上話を語って聞かせた。
「そうなんだ〜。へぇ〜、色々苦労してんだね〜。‥‥そうか。だから、そんな老け顔なんだ」
「老け顔言うな。ってゆーか、それで押すのか!?」
フィミアにつっこむ玲。
困ったような、寂しそうな。複雑な顔で、舞が笑った。
一時限目の始まりを告げるチャイムが鳴った。
教室の扉が開け放たれ、汗だくで髪を振り乱したライダースーツの若い女(結(fa2724))が飛び込んでくる。
「遅刻じゃないよね!? 間に合ったよね!? まだチャイム鳴り終わってないものね!?」
何事かと腰を浮かしかける玲。日直──左隣に座る小柄で眼鏡の少女(湯ノ花 ゆくる(fa0640))──が、平然と起立の号令をかけた。
二年目の春を迎えた国語教師、水木優。
バイク通勤の彼女は、遅刻しかけて着替える時間が無いと、そのまま授業を行うことが間々あった。
かくして授業が始まったが、転入したての玲には教科書がまだなかった。
「僕の教科書を見せてあげるよ」
「‥‥俺に後ろから覗き込めって言うのか?」
「じゃあ、あたしのを‥‥って、うわ、あたしも忘れてるし」
玲が困っていると、クイクイと左から制服を引っ張られた。先程の日直の少女、湯の花ゆくるだった。
「教科書、見ます?」
ゆくるは机をくっつけると、その真ん中に教科書を開いて置いた。
「‥‥‥‥。教科書見せてもらっといてなんだが、ここはツッコミ所か?」
そう言う玲の視線はゆくるの頭の上。
そこには、どこか脱力したようなデザインの、ディフォルメされたトラネコのぬいぐるみが乗っかっていた。
「‥‥?」
きょとんとした顔で首を傾げるゆくる。玲は、いや、いいんだ、と言って視線を教科書に戻した。
ゆくるが教科書をめくる。夏目漱石の写真。その頭の上に、猫のぬいぐるみが落書きされていた。
「そんな、嫌な顔しなさんなって! 僕がついてるから、大丈夫だって!」
玲の前の席に座る同級生、フィミア=イームズは、どうやら面倒見のいい性分らしかった。
弁当を持参しているのに、学食に玲を案内したり、好奇の視線に晒される玲を気遣って、まだ寒い屋上で食事を共にしたりした。
放課後にも、学校に慣れてない玲のためにと、校内の案内役を買って出ていた。
フィミアの案内を聞きながら、校内を巡る。クラブ活動を見学したりする内に、時間は過ぎていった。
夕日の差し込む、人気のない長い廊下。
その奥から、学ランを着た大柄な男達が近づいてくる。先頭は見知った顔だった。
「ほら、あれが番長(森里時雨)だよ」
のんきに案内を続けるフィミア。玲が廊下の反対側を確認する。そちらからも男達が迫っていた。
「ついて来い。お前に会わせたい方がいる」
「断ったら?」
「友人に迷惑はかけられまい」
それだけを言うと、番長はさっさと踵を返して歩き出した。他の男達が視線で玲を促す。
「‥‥すまん。連中につきあう事になった」
「気にするなよ。また明日な」
歩み去る玲と男達。その背中を、フィミアは視界から消えるまで見送った。
「‥‥知らなかったなあ。あんなに番長と仲が良かったなんて」
同級生、フィミア=イームズ。どこか天然な所のある男だった‥‥
その頃、中庭近くの奥まった場所で。
普通のスーツに着替えた国語教師の水木が、自分のバイクの洗車を行っていた。
「今日も綺麗にしてあげるからね♪ 学校の水道費でね♪」
機嫌良く即興の鼻歌を歌いながら、愛車へ丁寧に水をかける水木。
そこへ、玲を連れた番長たちが中庭に下りてきた。
仕事中に洗車していることがバレたらまずい。洗車を中止し、水木は慌ててバイクを物陰へと押していく。
そこに、ぬいぐるみを胸に抱いたゆくるが立っていた。
「あああ、湯の花さん、洗車の事は校長には内密に‥‥」
こっくりとうなずくゆくる。ぬいぐるみのガラスの瞳が光っていた。
「呼び立てて、すまないな」
凛とした声。その瞬間、番長達が一斉に休めの姿勢をとる。その人垣で出来た道を、一人の番長が玲の方へと歩いてきた。
屈強な男達の中にあって、そのもう一人の番長は、意外にも、小柄で華奢な美形だった。
「オレの名は、武田克巳(武越ゆか(fa3306))。影番とか裏番とか呼ばれている。昨日、キミの手並みは見せてもらった。更家鋪と渡り合える者はそうはいない」
サラヤシキ? 玲が眉をひそめる。番長が恐縮したように克巳に小さく頭を下げるのが見えた。
「単刀直入に言おう。我らが全国硬派番長連合‥‥硬連団に入団しろ」
そう言うと、克巳は玲に向かって硬派の道を説いた。
世の男どもは、軟派な惰弱者に成り下がっている。今こそ風紀を糺し、硬派の理想を世に示す時。
「全生徒制服を学ランにすべし! ブレザーなんて認めない! 着替えろ! 挨拶は押忍!」
拳を振り上げて熱弁する克巳。それに伴い、周りの男達のボルテージが上がっていく。
「ああ、硬派よ、永遠なれ! さあ、我々と共に来い、麻井玲! お前なら硬連団の幹部にだってなれる!」
「断る」
あっさりと拒否する玲。
「第一、さっきから硬派だ、番町だと言うが‥‥あんた、女じゃないか」
玲の言葉に男達は愕然とする。
「いや、あんたらも何で気付かない?」
当の克巳は、怒りで顔を真っ赤にして玲に殴りかかった。玲は、その腕を掴んで後ろ手に捻り上げる。
「こんなものか? 硬連団だか何だか知らないが、大したことないな」
そうして克己を突き放す。
「克美様!」
克巳を庇うように立つ更家鋪。気がつけば、男達が冷たい殺気を放って玲を幾重にも取り囲んでいた。
にじり寄る男達。さすがに数が多すぎる。
その時。
「そこまでよっ! 番長グループ!」
夕焼け空に少女の声が、昨日も聞いたあの声が響き渡った。
「超絶! 至高! 学園の守護天使、破滅の使者、『アルティメットプリティ』、ここに見参!」
「マジカルファイアー!」
マイクロミサイルが番長たちに降り注ぐ。
キュボボボッ!
爆煙の中から、克巳を抱きかかえた玲が飛び出した。
「なっ、なぜ助ける!?」
「なんだ、アフロになりたかったのか?」
そう答えて、玲が後ろを振り返る。爆煙が晴れると、アフロになって倒れ伏す番長達の姿が見えた。
「‥‥硬派も近代兵器には勝てないか」
「くっ‥‥オレにもっと力があれば‥‥!」
唇を噛み、拳を地に打ちつける克巳。
「チカラなら、あるよ〜♪」
歌うように、踊るように。どこからともなく、制服の上に白衣を着た日系アメリカ娘・ベッキー(ニモ・ニーノ(fa2996))が現れた。
「あなたのピンチは、わたしのチャ〜ンス♪ 科学ぢからで貢献します♪ 科学部部長補佐代理補佐? うん、合ってる。ベッキー、とーじょ〜♪」
ぱかぱぱっぱぱ〜ん♪ 自分でファンファーレを口ずさみながら、ベッキーは戸惑う克巳に金属製の腕輪を手渡した。
「これを装備すれば、飛行も出来るし、飛び道具も無効化できるよ〜♪」
半信半疑で腕輪を身につける克巳。すると、克巳の身体がフワフワと浮き出した。
「念じれば好きなように飛べるよ〜」
念願の翼を得て、笑みを浮かべる克巳。一躍、アルティメットプリティに向かって飛翔する。
初めての事態に焦りの表情を浮かべるプリティ。マイクロミサイルで迎撃するが、全て見えない壁に弾かれてしまった。
「そんなっ!?」
「もう好きにはさせない!」
殴りかかる克巳。格闘戦では克巳の方に分があった。飛び道具を封じられたプリティは苦戦する。
「もりあがってるね〜♪」
と、今度はベッキーがアルティメットプリティの方に向かってふわふわと飛んでいった。
「ピンチだね〜。でも、まだあきらめちゃ駄目だよ〜! 私の作ったこのイカレタ? イカシタ? そんな感じの『マジカルドリル』を使って形勢逆転だよ〜♪」
そう言って、プリティにドリルを渡すベッキー。
「これは、どんな力場の障壁も吹き飛ばすんだよ〜」
当然のように、克巳がベッキーに抗議をする。
「科学ぢからは平等であるべきなんだよ〜♪ 発明は人の役に立ってこそだよね〜」
戦場を離れるベッキー。そのまま、遠くから自らの発明品の攻防を眺めやった。
アルティメットプリティの右手に装着されたドリルが回転し、空気が渦を巻き始めた。
戦闘の様子を物陰で見る水木とゆくる。
ゆくるの持つぬいぐるみの目がアップになり、ズームするレンズの動きを映し出す。
マジカルドリルが作り出す風に押され、よろめいたゆくるが一歩、足を後ろに出した。さらにもう一歩。
「あれ? あれ? あれれ〜?」
そのまま、強風に押され、体重の軽いゆくるは後ろ歩きで飛ばされていく。
「湯の花さぁ〜ん、どこへ〜?」
膝を落として耐える水木が、乱れる髪を抑えながらゆくるに呼びかける。その水木の横で、愛車のバイクがゆっくりと傾いた。
ガシャン。
「ひゃあぁあああ!? バイクに傷がぁ〜!?」
水木の悲鳴は、風が発する唸りで霞んだ。
風は、それ程に強くなっていた。
風の渦の中心にいる克巳は、身動きが出来なくなっていた。
「マジカルトルネード。風の力で相手の動きを押さえ込むんだよ〜♪」
ベッキーが玲に解説する。やはり、誰かに聞いてもらいたいらしい。
そこに、高高度から急降下するアルティメットプリティ。その姿はまるで、天空から打ち下ろされた一本の槍だった。
「マジカルスピン・テンペストぉ!」
ギャキィィィン!
克巳の見えない防壁はドリルの衝撃を全て受け止め、結果、負荷に耐え切れずに爆発した。
空中に爆煙の花が咲く。それを見ながら、ベッキーはひとりごちた。
「砕かれた最強の盾‥‥技術の進歩、それは、常に儚い‥‥なんてね〜♪」
煙の中から、克巳が落ちてくる。それを玲は受け止めた。
「オカシイ? オイシイ? なんかそんな感じの人を亡くしちゃったね〜♪」
「一応、つっこんどくが、まだ生きてる」
「日本語って難しいね〜♪ 」
自分の役目は終わった、とばかりに立ち去るベッキー。
玲は、克巳を抱きかかえると、空中のアルティメットプリティに声をかけた。
「もう勝負はついた。こいつは保健室に連れて行く」
「うん‥‥大きな怪我はしてないと思うよ。爆発は逸らしておいたから」
ぼろぼろになったアルティメットプリティが力無く笑う。衝撃のほとんどをその身に受けたのだろう。
大丈夫か、と玲が問うた。
「大丈夫。早く連れて行ってあげて」
立ち去る玲。最後に一言、礼を言った。
その戦闘の全容を覗く者がいた。
いくつものモニターに囲まれた戦闘指揮所のような部屋。近代的な機器に囲まれながら、その部屋の主が座る椅子は、前時代的な玉座だった。
その玉座の主、マーク・ベイツ校長が、モニターを見ながら電話をかけていた。
「私です。今回の戦闘の様子は直接ご覧になったので? ‥‥そうですか、ならば記録を届けさせましょう。‥‥そちらは順調です。予定通りの性能を見せています。ただ、いくつかのイレギュラーな要素が‥‥つきましては『バイオノイド作戦』の前倒しを‥‥」
戦場跡に、アルティメットプリティが舞い降りる。
痛めた右腕を抱えるように、よろめくように、膝をつく。そして、落ちていた一冊の手帳を拾い上げた。
潜入捜査官手帳。潜入捜査官の身分を証明するものだ。正体が露呈すると危険な為、通常、潜入捜査中には携帯しないものだが‥‥
「ああ、やっぱり、そうなんだ‥‥」
手帳の持ち主を見て、アルティメットプリティは力なくうなだれた‥‥。