宇宙を駆ける海賊傭兵アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 柏木雄馬
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/30〜05/04

●本文

 宇宙を三分して覇権を争った大戦が終結し、全宇宙規模の統一政府が発足してより二十年‥‥
 100年に渡る戦乱の時代は終わりを告げ、人類は、その期間の停滞を取り戻すかのように、外宇宙への膨張を再開した。
 未知の世界を求めて、探検家たちが辺境外縁部の秘境を侵食し、日々、未開の惑星は開拓され、一攫千金を夢見る宇宙商人たちが、積荷を満載して駆け巡る──
 町は活気に満ち、人々は希望を胸に生きていた。
 それは、宇宙開拓時代の‥‥人類の黄金時代の再来だった。
 だが、そのような時代であってさえも、時代の恩恵を受けれない者たちは存在する‥‥

 宇宙海賊──
 それは、辺境に生きる者たちにとって、悪夢の代名詞だった。武力を以って商船から積荷を奪い、暴力で以って開拓村を恫喝する。ロマンとは無縁の犯罪者の集団だ。
 傭兵団『深遠の牙』は、一般には宇宙海賊と認識されていた。実際には、依頼主に変わって荒事を引き受ける戦闘系の『何でも屋』、いわゆる民間軍事会社なのだが、どちらにしても無法な存在である事は、当の本人たちが一番よく理解していた。

「大きな仕事だ、シルバー。やっと俺たちもここまできた」
 そう興奮気味に話す白狼獣人のフェイが、銀狼獣人『隻眼の』シルバーにはひどく危なげなものに見えた。シルバーは、この幼馴染の親友が好きだったが、『深遠の牙』のリーダーとしてのフェイを見るに、理想家で夢見がちな面があるように思われた。

 依頼内容‥‥惑星シャルディアを進発した輸送船を襲撃。積荷のコンテナを無傷で回収する事。
 なお、輸送船にはエルスハイム星系艦隊が護衛につく。戦力は以下の通り。
 目標:T500型輸送船×1。
 護衛:スレイプニル級軽巡航艦×1。ハンタードッグ級駆逐艦×4。

「依頼主は某大手総合企業。報酬は先払い。当座分のクレジットと新型のケルベロス級駆逐艦だ」
「‥‥星系艦隊に手を出すのか? 正規軍ではないとはいえ、仮にも警察艦隊だぞ?」
「貴族の道楽さ。それに、民間の輸送船に星系艦隊が護衛につくなんて、曰くありげじゃないか」
「危険すぎる」
「危険なのは分かっている。だが、俺たちの食い扶持は、これくらいしかないんだ」
 ‥‥『深遠の牙』は、獣人型人種のみで構成された傭兵団だった。
 獣人型人種は、地球人型人種に比べて身体能力に優れ、戦闘に向いた種族だった。そこに目をつけ、旧帝国は戦争中、獣人型人種を強制的に軍に徴収し、遺伝子改造を施し、戦闘に特化した奴隷兵士として最前線で使役し続けた。
 戦争が終わっても、奴隷として扱われた獣人型人種への偏見は根強く、色々な場面で差別が行われていた。
 そんな獣人型人種が自由に生きていけるのは、辺境だけだった。
 フェイは、そんな獣人たちを集め、『深遠の牙』を作った。最初は探検隊や何でも屋稼業をしていたが、噂を聞きつけた獣人型人種が集まって規模が大きくなるとそれではやっていけなくなった。
「大丈夫さ。『深遠の牙』ならやれる。護衛の艦隊を蹴散らし、目的のコンテナを手に入れる」
「戦力が違いすぎる」
 『深遠の牙』が保有する戦力は、ハンタードッグ級駆逐艦1隻とT500型輸送船1隻。ケルベロス級駆逐艦が一隻増えたとしても、焼け石に水の戦力差だ。
「そこは戦術‥‥いや、詭計でなんとかするさ。俺たちは『宇宙海賊』らしいからな」

●PL情報
1.『宇宙を駆ける海賊傭兵』について
 獣人型種族の傭兵団『深遠の牙』の襲撃を描くアニメです。
 宇宙を舞台にした艦隊戦です。

2.シナリオの内容
 アニメ『宇宙を駆ける海賊傭兵』に登場するキャラクターを作成してください。
 キャラクターは、傭兵団『深遠の牙』に所属する獣人型種族です。PCの完全獣化時の姿が、アニメのキャラクターとして登場します。
 職業・兵種などの設定は、ある程度自由に決めてもらって構いません。
 そして、『護衛の艦隊を蹴散らし、輸送船に接舷し、白兵戦でコンテナを奪取』する作戦を立案してください。
 その作戦の成否をプレイングを用いて判定し、その内容が脚本になり、放送されることになります。

3.艦船情報
 大まかな能力比較です。目安程度に。
 艦船の能力は、パワープラントの出力を、状況に応じて『攻撃』『防御』『移動』の三つに振り分けたものになります。
 スレイプニル級軽巡航艦:出力240
 アーチャードッグ級駆逐艦:出力150
 ケルベロス級駆逐艦:出力200
 T500型輸送艦:出力100

 軍艦は基本的に量産型。
 ケルベロス級のみ、技術実験艦です。搭載された特殊装備を設定しても構いませんが、あまりに有利な設定は修正、または却下されます。
 T500型輸送船は、この宇宙でもっとも利用されている輸送船です。武装商船として、探検隊や宇宙商人もよく利用しています。通称フィッシュボーン。鉛筆みたいに細長い本体の周りに、居住区やコンテナ、武装がくっついて船体を構成します。

4.代表的な兵装
a.主砲
 光学兵器。攻撃力は『攻撃』出力によります。
b.シールド
 遮光力場。防御力は『防御』出力によります。
c.ミサイル
 シールドの影響を受けません。防御側は迎撃しなければなりません。攻撃力は命中数によります。
 広大な宇宙の戦闘では、敵に到達するまで数ターンかかります。

●今回の参加者

 fa0658 梁井・繁(40歳・♂・狼)
 fa0745 ミーア・ステンシル(18歳・♀・小鳥)
 fa0911 鷹見 仁(17歳・♂・鷹)
 fa1206 緑川安則(25歳・♂・竜)
 fa1609 七瀬・瀬名(18歳・♀・猫)
 fa1718 緑川メグミ(24歳・♀・小鳥)
 fa1986 真田・勇(20歳・♂・猫)
 fa3020 大豪院 さらら(18歳・♀・獅子)

●リプレイ本文

 ケルベロス級駆逐艦『カタール』。
 依頼主である某大手総合企業より傭兵団『深遠の牙』に提供された技術実験艦である。
 『カタール』(短剣の一種)という艦名は、平べったい三角錐をした艦の形状より命名された。名付け親は『深遠の牙』の副司令を務めるサララ(キャラ作成:大豪院 さらら(fa3020))。仲間から『クィーン』と仇名される才媛である。
 攻撃・防御・隠密性など、各分野で最新技術を用いた試作兵装を持つケルベロス級だったが、その最大の特徴はコンピューターシステムとそのインターフェイスにあった。高度な擬似人格プログラムが、複数の戦闘・航法プログラムを統合的に運用し、その時々で最適なパフォーマンスを導き出す。そう設計された船だった‥‥だったのだが‥‥
 『カタール』のAIは、『性格』が極めて我侭だった。

 『カタール』のブリッジにあるコンソールの一つ。サララが、名づけた艦名をシステムに入力しようとしてコンピューターに入力を拒否された。
 けたたましいビープ音にブリッジ中の人間が振り返る。その視線の中心で、この艦のAI(キャラ作成:真田・勇(fa1986))のホログラムが派手なファンファーレとともに登場した。
「ダメダメ。『カタール』なんてありきたりな名前。もっとこうゴージャスでエレガントな名前にしてくれないと」
 あっけにとられるブリッジのクルーたち。もちろん『カタール』という名には何も問題はない。AIが、なんと『美意識』から拒否をしているのだった。
「あ、そこそこ。ムサい男に僕のコンソールは触ってほしくないなー。やっぱ色白の萌えっ娘じゃなきゃ」
 ふわふわとブリッジ中を浮遊して、あちこちのクルーに文句をつけるAIのホログラム。
 サララはコンソールの一つに取り付くと、カタカタとキーボードを打ち始めた‥‥
「おいおい、AIがコマンドを拒否するなんてありなのかよ」
 この艦の指揮を執るセイロン・グリーンリバー(キャラ作成:緑川安則(fa1206))が、困惑したようにつぶやいた。
「だってこれ、AIの、AIによる、AIのための艦ですから」
 ビシッと親指を立てるAIのホログラム。セイロンは大きくため息をついた。
「‥‥各部システムチェック」
 セイロンの命令に、オペレーター席に座る二人、セイロンの妹のメグミ・グリーンリバー(キャラ作成:緑川メグミ(fa1718))と、本来は陸戦隊員のマリス(キャラ作成:七瀬・瀬名(fa1609))がチェックプログラムを走らせる。
「チェック。光学兵器システム、起動」
「主砲〜? めんどくさーい。自分で開けて」
「チェック。光学兵器反射バリア、展開」
「あれ目がチカチカするからヤだ〜」
「チェック。誘導兵器発射シークエンス」
「ミサイル? 撃って撃って撃ちまくるよ〜」
 チェックプログラム上のシミュレーション。主砲やシールドは起動せず、ミサイルは過剰なまでの数が撃ち出された。ただ一度の攻撃で残弾数がゼロになる。
 セイロンはげんなりとした顔で頭を抱えた。
「‥‥こいつ、役立たずだ」
「なんだとコラー! そんなに宇宙遊泳したいんかー!」
 漫画的表現で怒りを表すAIのホログラフ。その姿がザザッと揺れて掻き消えた。
「‥‥あれれ? なに? どしたの、これ?」
 AIの、音声だけがブリッジに響く。
 自由気ままに振舞うAIを見て、サララが艦のシステムに介入し、その機能を大きく制限したのだった。
 今でこそ傭兵団に籍を置くサララであるが、以前は大手総合企業で活躍するバリバリのテクノクラートだった。偶然ではあるが、ケルベロス級の開発に携わっていた事もあった。

「いやー、あっちは大変な事になってるねぇ」
 艤装を進めるT500型輸送船『アンチョビー』。その狭い複座のブリッジで、ヤナイ(キャラ作成:梁井・繁(fa0658))は、『カタール』艦橋の混乱を他人事のように聞いていた。のんびりとグリーンティーのチューブを啜る。
「そんなのんびりしてないで、少しは手伝って下さいよ」
 そう言いながら『アンチョビー』の操舵手、ミーア(キャラ作成:ミーア・ステンシル(fa0745))が忙しそうに機器をチェックする。
 そこへ、『深遠の牙』リーダーのフェイ(キャラ担当:鷹見 仁(fa0911))が顔を出した。
「どうだい、二人とも。準備の方は?」
「順調だよ」
「ヤナイさんが言わないで下さい。でも、艤装はもうすぐ終わりますよ」
 今回の襲撃に当たって、『アンチョビー』は『トロイの木馬』の役割を担うことになっていた。強大な敵の内懐に入り込む危険な役割だ。
「すまない。二人には貧乏くじを引かせる」
「気にしなさんな。かえってこっちの方が安全かもしれないんだから」
 海賊には見えないという理由で『輸送船の船長』役になったヤナイだが、なかなかどうして度胸は据わっていた。
「この船がタンカークラスなら、『カタール』をコンテナに収めて奇襲するんだが」
 フェイが悔しそうに唇を噛む。ケルベロス級には攻撃力を増強させる特殊装備があるが、パワープラントが発生する全エネルギーが必要で、準備時間が長く発射後もすぐに行動できない装備だった。待ち伏せや奇襲には使えるのだが、T500型は探検家や商人が個人でも所有できる小型の輸送船で、ケルベロス級を収めるには大きさも出力も足りなかった。
「ミサイルの積み込み、及び外部破損コンテナの艤装が完了しました。あとは負傷したように見せるメイクだけです」
 ミーアの報告に、フェイがうなずく。
「分かった。俺は『ダガー』(ハンタードッグ級駆逐艦)に戻る。‥‥二人だけを危険にさらす事はないからな」

 ‥‥やがて、航路上に配置した無人偵察衛星が、近づくエルスハイム星系艦隊を捉えた。
「センサーに感。データ照合、エルスハイム星系艦隊と確認。スレイプニル級軽巡航艦1、ハンタードッグ級駆逐艦4、T500型輸送船1」
「事前の情報通りね‥‥」
 メグミの報告に、マリスがつぶやいた。
「痛いのやだ〜。おかな減るしー、やめようよー」
 AIの文句をよそに、セイロンがブリッジクルーに向かって語りかけた。
「敵戦力は大きいが、いつもどおりやれば問題ない。作戦通り‥‥実行出来ればな」
 艦橋内の皆に向かって語るセイロン。不安そうに見つめるメグミに頷いて、カップの紅茶を静かに口に運ぶ。表情には出さないが、口の中はカラカラだった。

 破損した外装コンテナを引きずるようにしながら、『アンチョビー』が星系艦隊に向かって疾走する。
 接近を感知した星系艦隊が警戒態勢を取り、停船命令を発すると、ミーアは映像つきで通信を送り返した。
「こちらは輸送船『アンチョビー』号。宇宙海賊の襲撃を受け逃走中。救援を乞う。繰り返す、救援を乞う!」
 そして現れる海賊船。フェイとサララの駆る『ダガー』と、海兵隊を乗せた『カタール』の二隻だった。二隻は『アンチョビー』に遠距離から砲撃を加えていたが、星系艦隊に気付くと急に減速した‥‥ように見せた。
 星系艦隊が戦闘陣形をとる。『アンチョビー』に急いで艦隊のシールド内に入るよう通信が入り、海賊船には停戦と武装解除が勧告された。
 それを聞きながらフェイは頷いた。作戦はうまくいっている。後は、威嚇攻撃をされたら二隻の駆逐艦を転進させ、『アンチョビー』の奇襲にタイミング合わせて反転、強襲すればいい。
 だが、その時、『カタール』の通信システムがとんでもない返事を打電した。
『バカめ』
 ‥‥一瞬の時間の空白。その後、星系艦隊がいっせいにミサイルを発射した。
「敵艦よりミサイル! 雷数不明!」
「防御システム起動。迎撃開始」
「艦砲向け! 目標、敵ハンタードック級! 1番2番、主砲一斉射!」
 メグミとマリスがコンソールを叩く。光学兵器が宇宙を切り裂き、遥か遠くに光の花が咲く。
『なんだ、今の返信は!』
「わからん! AIが勝手に‥‥!」
 フェイから通信に、セイロンが怒鳴るように返答した。
「ええ!? これが礼儀じゃないのー!? だってあの有名な艦長さんも言ってるじゃーん」

 ミサイルの斉射を終えた星系艦隊は、主砲を撃ち放ちながら前進を開始した。
「左舷、弾幕薄いよ、何やってんの!」
「いえ、敵は正面だから。それより光学兵器反射バリアの展開、急いで」
 何の脈絡も無く叫ぶAIと、真面目な表情で律儀に突っ込むマリス。
 『カタール』が周囲に無数のシールドを展開した。光線がその間で乱反射し、周囲を虹色に染め上げる。と次の瞬間、光線は星系艦隊の方へと跳ね返った。
 光学兵器を反射するケルベロス級の実験防御兵装だった。彼我の距離の二倍を進んだ光線は収束率の関係で威力を大幅に減じてはいたが、心理的な効果は大きかった。だが、パワープラントの負荷は大きく、被弾数が増えればすぐに捌き切れなくなるだろう。

「『カタール』には海兵隊が乗っている。失うわけにはいかない」
 そのフェイの言葉の通り、敵の攻撃を引き付けるべく前に出ていた『ダガー』は、ついに敵の猛烈な火力に捉えられた。
 必死の迎撃を掻い潜ってミサイルが直撃する。激しく振動する船体。そこに光の槍が二本、三本と命中し、シールドを突き破る。
 衝撃。爆風と爆炎とがブリッジ内を薙ぎ払う。奇跡的に軽傷で済んだフェイが顔を上げると、湧き出した爆煙がどこかに流れて消えていいった。どこかで穴が開いたらしい。
 フェイは、倒れ伏したサララに気がつくと、這い寄って抱え起こした。その手が血でべっとりと濡れる。サララはゆっくりと目を開いた。
「‥‥最悪‥‥だわね‥‥」
 それだけを吐き出すと、サララはガクリとその頭を垂れた。
「‥‥すまん。だが、俺にはこれしか‥‥」
 フェイは噛みしめるようにつぶやくと、サララの遺体を床に横たえ、クルーに総員退艦を命じた。

 もはや反撃も出来ず、サンドバッグのように叩かれる『ダガー』。やがて艦体から火を噴くと、そのまま爆発して火球となった。
「フェイ司令の脱出を確認。ですが、クィーンが‥‥サララ副司令が戦死の模様‥‥」
 『カタール』艦橋内は、戦闘中にも係わらず静寂に包まれた。
「‥‥飽きた。もう帰る。こんなの全然楽しくないよ」
 AIが通信回路を通じて本社に戻ろうする。だが、システムをロックされたAIは船のコンピューターから出ることが出来なかった。ロックしたサララは既に亡く、AIは永遠に『カタール』に閉じ込められることとなった。

 『アンチョビー』には、海賊の無線は届かなかった。ただ、爆沈する『ダガー』の映像と、星系艦隊の歓声だけが伝わってきた。
「ヤナイさん‥‥」
 不安そうに見るミーアに、ヤナイは励ますように頷いた。
「大丈夫だ。まだ『カタール』がいる。予定通りに行動するんだ」
 そう言って窓から外を見上げる。そこには、星系艦隊のハンタードッグ級駆逐艦の艦体がすぐ近くに見えた。『アンチョビー』を『海賊』から守るようにシールドを展開してくる。
 そのシールドの内側に入り、星系艦隊とすれ違った瞬間、ミーアは手をかけていたレバーを押し込んだ。
「外装パージ、全弾発射!」
 『アンチョビー』を覆っていた破損コンテナが弾け飛び、蜘蛛の巣のようにミサイルが射出された。ミサイルは不意を衝かれた星系艦隊に襲い掛かり、次々に命中しては爆発した。
 ミサイルは遮光力場では防げない。それをこの近距離から撃たれては迎撃のしようも無かった。瞬く間に駆逐艦2隻が爆沈し、1隻が大破した。一番遠くに位置していた1隻だけが、ミサイルを迎撃しながらバレルロールで距離を取る。
 その間に『アンチョビー』は、目標のT500型輸送船に接舷し、安全地帯に入り込んだ。

 被弾したスレイプニル級軽巡航艦。そこに、『カタール』が突っ込んでいく。
「艦首物理シールド、ラム状に展開!」
 メグミがコンソールを叩き、それに合わせて『カタール』の艦首が赤く光る。
 接近する『カタール』に気付いた巡航艦が砲撃を浴びせかける。遮光力場で防ぎきれず、光線が艦体を擦過していった。
 見る見るうちに大きくなる巡航艦。近距離でミサイルが撃ち出された。
「切り裂け!」
 セイロンが叫ぶ。
 『カタール』はその名の通り、ミサイルごと軽巡航艦を断ち切った。二つに分かれた軽巡航艦の艦体が、爆発して塵に消えた。

 護衛艦隊を撃破した『カタール』は、目標の輸送船を制圧すべく接舷した。白兵戦要員のセイロンとマリスが席を立つ。
 マリスは、得物の高密度ナイフを鞘走らせた。一点の曇りも無く重厚な光を反射させるその刀身を確認し、一つ頷いてから鞘に戻す。
「海兵隊、いくぞ! マリス隊は輸送艦のエンジンブロックを、シルバー隊はコックピットを、セイロン隊は貨物室を抑える。ひるむなよ!」
「‥‥兄様!」
 単分子ブレードを手にしたセイロンが、妹の呼び掛けに振り返る。思わず呼び止めてしまっただけで、かける言葉を持っていなかったメグミが、一瞬、瞳を揺らした。
「──ご武運を‥‥」
 ただそれだけを言葉として搾り出したメグミに、セイロンは刀を持つ手を上げて応えた。

 T500輸送船の制圧は、思ったよりも容易く終了した。船内に兵力はなく、ただガードロボットが配置されているだけだった。
 かくして『深遠の牙』は、依頼にあったコンテナを確保した。