武装救急隊、疾走!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
柏木雄馬
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
3.1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/12〜05/16
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●本文
陳腐な言い方をするならば‥‥青い空に白い雲、そして、その下に架かる一本の橋。
その片側二車線の大きな橋は、しかし、車の往来がまったくなかった。
土と埃で薄汚れた灰色のアスファルト。その上にぽつんと一台だけ、純白の救急車が所在無さげに佇んでいた。
通常のそれよりも大型で、ゴツい外見をした救急車だった。タイヤの大きさからして一回り違う。後部の窓は小さく、車体には赤十字ではなく赤いハートと盾のシンボルマークが描かれていた。
その日は春にしては蒸し暑かった。全開にした窓からは、河川敷に咲く花の香りと、そこで囀る小鳥の声。しかし、汗ばんだ肌に心地良いはずの川風はまったく入ってこなかった。運転席から突き出た腕の、その指先の煙草の煙が真っ直ぐに立ち上る。長くなった灰が、自らの重みでぽとりと落ちた。
助手席に座る若い男が、不機嫌そうに前方を見据えながら、コツコツと指でドアを叩く。ぼんやりと雲を見ていた運転席の中年男が、首だけめぐらせてそちらを見た。
「そうイライラするな、『ルーキー』。焦ったって仕方がねぇ」
「でも、『先輩』、毎回こうも待たされると‥‥。こうしている間に、我々を待っている人がいるかもしれないのに‥‥」
そう言って、ルーキーと呼ばれた青年は前方を見据えた。
その視線の先には、立ち塞がる巨大な灰色の門。数階建てのビルに匹敵する巨大な『壁』が、河川敷の土手に沿って上流から下流まで、見渡す限り続いていた。
それは、どことなく刑務所の壁を思い起こさせた。
その門の方から、オリーブドラブの野戦服に身を包んだ兵士がやって来た。兵士は運転席の横に立つと、進入許可が出た事を告げた。
「煙草、踏み消しといてくれ」
兵士にそう言うと、『先輩』が煙草を捨ててエンジンのキーを捻る。『ルーキー』は無線機の端末を取ると、進入許可が出た事を本部に伝えた。
「こちらAMB6。進入許可が降りた。これより『長城』内に進入、救急パトロールを開始する」
「本部よりAMB6。待機中に救急要請あり。場所は旧タイトウ地区ウエノ公園キャンプ。患者は12歳、女性‥‥」
言わんこっちゃない‥‥と、『ルーキー』は心中で舌打ちをした。
──20XX年。新型爆弾に汚染され、『長城』により閉鎖された旧トウキョウ地区。
隔離された内部には、新型爆弾の影響で異形の姿になった人々が見捨てられていた。
各地にキャンプを作り、身を寄せ合って暮らす異形の人々。
そんな彼等を救うべく設立された民間の武装救急団体。その救急部門において装甲救急車を駆る救急隊員。それが彼等だった。
救急車の前方で、巨大な門がゆっくりと開いていく。
門の向こう側に見えるのは、廃墟にも成り切れない無人の町並み‥‥かつての首都トウキョウ‥‥
「AMB6より本部。了解した。旧ショウワ通りを南下、現場に急行する」
「本部よりAMB6。旧ショウワ通りには多数の『クリーチャー』が徘徊している。ルートの変更を推奨」
「くそっ! AMB6より本部。GPSデータを送ってくれ」
そう言いながら、『ルーキー』はアナログの地図も引っ張り出す。
「‥‥大変そうだな。戦車を護衛に付けようか?」
慌しい車内の様子を見ていた兵士が言った。『先輩』がニヤリとして言い返す。
「そんな鈍重なもん、いらねぇよ」
「鈍重って‥‥ウチのは整地で70は出るぞ」
「鈍重じゃねぇか」
『先輩』は兵士に離れるように言うと、開いた門に向かってアクセルを大きく踏み込んだ。
「行くぞ、『ルーキー』! 舌噛まんように、歯ぁ、食いしばっとけ!」
●出演者募集
以上がドラマ『武装救急隊、疾走!』の冒頭部分となります。
このドラマの製作にあたり、出演者を募集します。
PL(プレイヤー)のプレイングとその判定がドラマの脚本となり、
PC(キャラクター)がそれを演じることになります。
●設定
ドラマには、既存の設定が幾つか存在します。
1.武装救急隊
隔離された旧トウキョウ地区に取り残された人々を救済する為に結成されたNGO。
その医療・救急部門が『武装救急隊』です。
危険地帯を突破して現場に到着する為に『装甲救急車』を複数台保持しています。
2.装甲救急車
非武装の救急車。装甲されており、小銃弾程度の攻撃には耐えられます。
足回りが強化されており、不整地踏破能力もあるが、当然、患者が収容されたら無茶は出来ません。
ある程度の医療機器を載せ、簡単な医療行為が車内で可能です。
3.装甲救急車の乗員
機関員(運転士)、救急隊員(サブ運転士を兼ねる)、医師(救急隊長を兼ねる)、看護士の4名。
4.護衛
武装救急隊により装甲救急車の護衛として雇われた傭兵たち。
APC(装甲兵員輸送車)に乗り込み、装甲救急車に対する脅威を排除する歩兵戦闘のプロたちです。
5.キャンプ
新型爆弾の影響を受け、隔離された人々が集まる場。
しっかりとした自治組織が存在し、政府と民間団体の援助を受けて生活しています。
比較的平穏ですが、常に『発病』の恐怖が人々に付き纏っています。
人々は、半獣化状態を基本に表現予定。
6.救急病院
隔離地域内にある救急病院。患者を乗せた装甲救急車の目的地です。
危険な地域にある為、防御陣地の中に存在します。
新型爆弾の影響を調査・研究する機関でもあります。
7.新型爆弾
現実にはありえない不思議爆弾。
劇中でこの新型爆弾について語られる事はありません。
この新型爆弾の影響で、トウキョウは『クリーチャー』の跋扈する隔離地域になりました。
8.クリーチャー
新型爆弾の影響で発生した生物兵器的モンスター。
既存の生物を戦闘に特化した存在です。
当然、人間も例外ではなく、『発病』すると‥‥
9.武装勢力『ウォールブレイカー』
外界への解放を求め、自分たちを隔離する『長城』の破壊を目指すグループ。
テロリストであると同時に、山賊化した武装勢力を討伐する自警組織でもあります。
●目的
以上のように多くの設定がありますが、ドラマの時間枠は限られています。
シーン数が多くなれば、それだけ個々のシーンに割ける時間は少なくなります。
設定の取捨選択をして『起承転結』(OPが『起』になります)に纏め、ドラマを完成させて下さい。
そのドラマをPCが演じることになります。
ただし、使われない設定も無効にはなりませんので、それに反するプレイングには気をつけて下さい。
●リプレイ本文
飛島竜弥(烈飛龍(fa0225))の駆る装甲救急車が無人の町を疾走する。
時速は120。対向車、併走車がないとはいえ、どこに亀裂や破片があるかわからない路面では危険な数字だった。
「次、400m先、緩やかな右カーブ!」
助手席に座る森 久美(ひさよし)(森木 久美(fa3489))が、ダウンロードした最新のGPSデータを基にルートを飛島に申請する。だが、飛島はそれを無視すると、急にハンドルを切って瓦礫の散乱する細い道へと車を乗り入れた。
「うきゃあぁあ!?」
シートベルトに押さえつけられ、ガクガクと振り回される久美。飛島は巧みにハンドルを捌くと、この難路を乗り切って大通りに出た。
「あ痛たた‥‥。先輩、相変わらず運転が荒いんだから‥‥無茶しないで下さいよ」
「クランケの命を救う為にはよ、一秒でも早く辿り着くのが重要だ。それぐらい養成所で習ったよな、クミ? こいつのスペックと俺の腕を信じろ」
「何度も言ってますが、ヒサヨシですっ。クミって呼ばないで下さい!」
言いながらも、右に左に車を操る飛島。襲撃しようと飛び出してきた熊人型クリーチャーがかわされて、ぽつりと路上に取り残された。
「おい、機関員! もそっと丁寧に運転してくれ! 機材がいかれる!」
その装甲救急車の『荷台』。あまりにも乱暴な運転に、簡易座席に座った看護師の甲斐(かいる(fa0126))が運転室に向かって怒鳴った。並外れた巨躯にシートベルトが食い込み、まるで縛りつけられているようにも見えた。
装甲救急車はその性質上、衝撃に強い設計がなされていたが、何事にも限度というものがある。
「まいったわ‥‥やっかいな機関員に当たったものね」
甲斐の向かい、同じく簡易座席に座る白衣の女性が唇を噛んだ。医師の狐木・玲於奈(こもく・れおな)(白狐・レオナ(fa3662))だった。
「有名なんですか?」
「いつもこんな調子らしくてね‥‥。『火の玉飛島』って、私たち医師からの評判は悪いわ」
その拍子に救急車が跳ねる。甲斐と弧木は後頭部を打ちつけた。
「──‥‥ともかく、まさかの事態なんて、冗談じゃないわ。気を引き締めていきましょう」
厳しい表情の弧木。甲斐が静かに頷いた。
その頃。装甲救急車が向かう旧ウエノ公園キャンプ。
救急車を護衛する傭兵の面々がそこにいた。ここで装甲救急車と合流し、『長城』内救急病院陣地へ向かうのだ。病院の周辺はクリーチャーが多く、それを蹴散らしてルートを切り開くのが傭兵隊の役割だ。
役割、なのだが‥‥その傭兵隊の面々は、今、大地に倒れ伏していた。
「おいおい、これくらいで伸びるほど外の人間は柔なのか?」
その横で呆気にとられる若い娘。半袖の野戦服に身を包み、ゴーグルを首から提げている。キャンプの自警団員を名乗るリュナ・ルーク(葉月竜緒(fa1679))だった。とても屈強な傭兵たちを伸すようには見えないが、『長城』内では見た目は当てにならない。
騒ぎを聞きつけた傭兵のベオ(ベオウルフ(fa3425))は、その『惨状』を目にして頭を抱えた。聞けば、武器弾薬を賭けて傭兵たちとリュナが格闘戦を行ったという。
ベオは倒れた同僚、ケーシ(相馬啓史(fa1101))の側に立つと、呆れ果てた顔で見下ろした。
「おい、ケーシ‥‥」
「いや、ほら、本気でやって仕事前に怪我するわけにもいかないだろう?」
倒れたまま動けず、ヘラヘラと笑うケーシ。
そこへ装甲救急車が飛び込んできた。ギリギリで開いたキャンプのゲートを掻い潜り、その巨体を横滑りさせながら停車する。機関員以外の3人が飛び出し、案内を受けて屋内へと入っていった。
やがて、一人の少女(月見里 神楽(fa2122))が担架で運び出されてきた。シーツから獣のそれに変化した少女の足が見えていた。頭部も一部獣化が進行している。壁の外の人間が『化け物』と呼ぶ姿になろうとしていた。リュナが痛々しそうにうつむいた。
だが、傭兵たちはその姿を見ても嫌悪感を見せなかった。
「‥‥女の子だ。今回は、あの小さい命を守るんだな」
起き上がったケーシに、ベオがそうだ、と頷く。
「じゃあ、俺らも命張らんとなぁ」
ケーシはニヤリと笑うと、自分たちのAPC(装甲兵員輸送車)へ走っていった。
「待ちな」
立ち去ろうとするベオに、リュナが声をかけた。
「外の人間は信用できない‥‥けど、仲間が危ないんだ。近道なら知ってるし、案内するよ」
こうして武装救急隊はキャンプを進発した。
先頭は案内人リュナの駆るオフロードバイク。空挺隊員用の自動小銃を提げ、後部には対戦車擲弾発射筒。キャンプの自警団にしては随分と質の良い装備だった。
その後ろを装甲救急車が走り、傭兵たちのAPCが最後尾についた。
「患者が乗っているのよ! 少しは穏便に運転はできないの!?」
相変わらずスピード優先で突っ走る飛島に、ガクガクと揺られながら弧木が文句を言う。
「ドクター。俺もクランケの命を最優先に考えているんだがね。ここでクリーチャーどもに邪魔されて貴重な時間を浪費すれば、その分、その娘の命が危険に晒されるんだ。それで間に合わなかった時、あんたはその責任を取ることが出来るのか!?」
珍しく感情的になって叫ぶ飛島。それに答えたのは、弧木ではなく久美だった。
「失われた生命に対して責任を取るなんてこと、出来る訳ありません。死んでしまったら、取り返しなどつかないんです」
どこか遠くを見るように語る久美。シンとした空気に気付いた久美が「すいません。生意気言いました」と慌てて謝った。
「‥‥時間が貴重なのはよく分かるわ。でも、こうも振り回されては投薬すら出来ないのよ‥‥。こちらも出来る限り手を尽くす。だから貴方もその腕で何とかして頂戴」
冷静さを取り戻した弧木が諭すように言う。飛島も大きく息を吐いた。
「‥‥OK、ドクター。俺もせいぜいお上品に運転させてもらうよ」
救急搬送対象者は12歳の少女。名を菊池未来といった。
未来という名前には、『長城』の中で生きる人々に明るい未来が来るように、希望を繋ぐ、そういう意味が込められていた‥‥
「もう少しだ。頑張れよ」
揺れる車内。飛び交う雑言。そんな中、甲斐は少女の手を手を握ってずっと語り続けていた。
「あたし、この足も嫌いじゃないよ。だって、裸足で家の中に入っても怒られないんだもん。‥‥でも、もう一度、靴を履きたいな。赤い靴、まだ一度も履いてないの」
薬が効いて幾分楽になったのか、年相応に無邪気に語る少女。だが、額に浮かぶ汗が予断を許さない事を物語っていた。
「お兄さんは、笑わない? あのね、あたし、壁が無い、どこまでも続く大地を走るのが夢なの」
甲斐は言葉を失った。このような少女にまで『長城』は影を落としている‥‥
「夢、叶うよね? お兄さん?」
「ああ、叶うよ。いつか必ず」
上擦った声を隠すのに苦労しながら、甲斐は頷いた。
先頭を行くリュナが擲弾を撃ち放った。
着弾、爆発。前方の虎人型クリーチャー何体かが吹き飛ばされる。クリーチャーたちが怒りの唸りを上げ、その身体に筋肉がみなぎった。
「言わんこっちゃない」
飛島が悪態をつく。そこへ護衛のAPCからの無電が届いた。見れば、後ろにいたAPCが救急車の横に並んでいた。
『AMB6、速度、進路そのまま。俺たちがいるからには、そっちにゃあ指一本触れさせねぇよ!』
APCを運転するケーシが思い切りアクセルを踏み込み、救急車の前に出る。何体かのクリーチャーが、巻き込まれて跳ね飛ばされた。
前方では、リュナが華麗にバイクを操りながら、片手で自動小銃を撃ち放っていた。速度の優位性を活かしつつ、前方のクリーチャーたちを巧みに誘導する。
そこをベオが、車体上部の重機関銃で撃ちまくった。軽装甲車両をも撃破する弾丸がクリーチャーたちを薙ぎ払った。
戦闘は武装救急隊が優位に進めていたが、クリーチャーの数は多く、その運動能力は高かった。
APC車内の傭兵たちが銃眼から自動小銃を撃ちまくる。一匹の猫人型クリーチャーが軽快な動きでその弾幕を突破すると、救急車の後部扉に取り付いた。
重機関銃では装甲救急車をも破壊してしまう。ベオはAPCの屋根を叩いてケーシに合図を送ると、近づかせて散弾銃を撃ち放った。
バンッ! という音と衝撃。救急車の荷台の小さな窓から覗く猫の顔。ひっ、と少女が小さく悲鳴を上げた。
クリーチャーはすぐに追い払われたが、いたいけな少女に与えた恐怖は十分に過ぎた。
「あたし、どうなるの? このまま、あのお化けみたいになるの!? そんなの嫌!」
泣き出して、半狂乱になる少女。少しずつ進む獣化の恐怖が彼女を捉えていた。
「大丈夫、私達がついているわ。貴女は助かる、絶対に助けるから」
少女を抱きしめ、慰める弧木。だが、現状、進行を止める以上の治療法は見つかっていなかった。そもそも原因すら分かっていない。そして、それが『長城』が存在する理由でもあった‥‥
狼人型クリーチャーが、疾走するリュナに向かって拳大ほどの石を投げつけた。
下手な銃弾よりも威力のあるそれをリュナはのけぞってかわし、結果、道の真ん中で転倒してしまった。
飛島は慌ててハンドルを切ってそれをかわし、救急車は川沿いのガードレールを擦り上げながら止まった。右側の車輪が完全に脱輪していた。
「くそっ、グズグズできねぇってのに!」
飛島がハンドルに拳を叩きつけた。
「先生、ちょっと行ってきます」
状況を理解した甲斐が弧木に言うと、コートを羽織って車外に出た。状況を見て取ると、甲斐は運転席に向かって声をかけた。
「機関員、俺がこいつをもちあげる。合図でハンドルを左に切ってくれ」
甲斐が後部バンパーを掴む。後輪二つが地面に掛かれば、後はなんとかなるはずだ。
筋肉が盛り上がる。甲斐は右側を重点的に持ち上げるようにすると、そのまま後ろに引っ張った。じゃり、と踏ん張った足元が音を立て‥‥後輪が大地の上に戻った。
「機関員、いいぞ!」
その合図と共に、救急車が左にハンドルを切る。脱輪していた右の前輪も戻り、装甲救急車は再び足を取り戻した。
「機関員!? 俺忘れてる!」
そのまま走り去ろうとする救急車に仰天して甲斐は後部に飛び乗った。
甲斐が扉を閉めようとすると、そこへクリーチャーの一体が取り付いてきた。
「お前まで来るな!」
甲斐は、そのクリーチャーを蹴り飛ばした。
「これぐらい掠り傷だ。構わず行ってくれ。あたしはここであいつらの足を止める! 必ずあの娘を助けてやってくれ!」
走り去る救急車を見て、リュナが傭兵たちに声をかける。転倒したリュナは、腰を落としたまま、左肩をだらりと下げ、銃を撃ち放っていた。
「バカ野郎、そんなことできるか」
ベオがそう言って飛び降りたのと、リュナが手榴弾を投げるのはほぼ同時だった。思いがけず近くに落ちたそれを見て、ベオが慌てて身を伏せる。
爆発。破片がぱらぱらとベオの上に降り注ぐ。
「まっ、巻き添えかっ!? 俺まで殺す気か!?」
ズカズカと歩み寄ってツッコミを入れるベオ。
「これ位で死ぬほど外の人間は柔なのか? ‥‥構うなと言っただろう。早く行け」
不貞腐れたように答えるリュナを、ベオは肩に担ぎ上げた。APCの中から傭兵たちが──リュナに叩きのめされた者たちが──降りてきて二人を援護する。
「あんたら‥‥!」
「もう護衛対象は離脱したんだ。こんな所に残る意味はない」
そう言ってAPCに飛び乗るベオ。傭兵たちも全員乗り込むと、ケーシはアクセルを踏み込んだ。
救急車の後を追うAPC。やがて戦場を離脱すると、銃声は途絶えた。残ったのは、火薬の匂いと耳鳴りだけ。
「‥‥外の奴らは嫌いだ。四角い箱庭にあたし達を閉じ込めて‥‥でも、あんたらは違うな」
リュナがつぶやいた。惚れるなよ、と誰かが混ぜっ返し、車内は爆笑に包まれた。
‥‥かくして、少女は救急病院に搬送された。
だが、治療法は確立しておらず、少女は病気の進行を抑えながら、いつ発病するのか、その恐怖と共に生きることになる。
「こんなの辛すぎますよ」
眠ったまま病棟に運ばれる少女を見て、甲斐がつぶやいた。
「必ず治療法を見つけてみせる。それが私の医者としての役目だから‥‥」
血を吐くように、弧木が言った。
「弟と同じ運命を辿る子が少しでも減ってくれる事を、僕は願っていますから‥‥」
血と埃と肉片と弾痕。それらにまみれた装甲救急車。その車内で、久美は小さくつぶやいた。
「‥‥お前、『長城』内出身者だったのか‥‥?」
「僕みたいに感染もしていない人は珍しいらしいですね。‥‥弟は発病して『処理』されたというのに」
そこで言葉を切る久美。飛島にも、かける言葉は見つからなかった。
(「こいつが男として生きているのも、そこいら辺に理由がある、か‥‥?」)
飛島は、火をつけない煙草を咥えると、ぼんやりと(した風を装って)夕焼け空を見上げた。
「‥‥先輩と僕は似ているって、勝手に思っているんですよ。‥‥先輩が搬送時間にこだわるのも、何か理由があるんでしょう?」
「‥‥言ってろ」
飛島は吸ってもいない煙草を灰皿にねじ込んだ。
そして、無言のまま、車を『長城』へと走らせた。