EtR:継続調査ヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/18〜09/21

●本文

●薄氷の上の平穏
 時は大掛かりな遺跡探索より、二週間が過ぎようとしていた。
 溢れ出したNMの影も、今はなく。また、探索に参加した獣人達の『キャンプ』もない。
 だからといって全てが終わった訳ではない事は、獣人達にとって周知の事実だ。得られた結果よりも明瞭となった謎の方が多く−−終わったどころか、始まってすらいないのかもしれない。
 NWの異常発生。そして、NWの『卵』ではないかと目されている、数メートルという大きさ−−忽然と消えた、謎の黒い塊。見え隠れし、あるいは直接対峙したダークサイドと呼ばれる獣人の存在。
 ギリシア神話の神々がその頂上に住んだと言われるオリンポス山で、慎重かつ地道な調査が始まろうとしていた。

「先日の大規模な探索で地下へ続く通路が発見された事は、皆さんも記憶に新しいかと思います」
 遺跡の監視・調査用に残された施設で、WEAの係員が集まった者達へと今回の『任』を説明する。
「今回の調査では、まず制圧したエリア‥‥恐らくは『第一階層』の現状を調査し、最奥にある問題の地下通路の『安全』を確保し、通路の先を確認する事が、目的となります。
 現在に到るまで新たなNWの大量発生もなく、以前よりも比較的安全とは思われますが、先の調査での特異な状況を踏まえると楽観視も出来ません。今後の調査の為にも、くれぐれも注意して下さい。また、記録装置の持込は許可はしますが、扱いには十分注意して下さい。前回の調査で持ち帰った記録の一部に情報体の潜入が認められ、現在も捜索が行われていますので」
 短いブリーフィングが終わると、メンバーは装備のチェックを始めた。
 再び‥‥もしくは、新たに踏み込む闇の、奥に潜むモノに備えて。

●今回の参加者

 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa1412 シャノー・アヴェリン(26歳・♀・鷹)
 fa1797 小塚透也(19歳・♂・鷹)
 fa2614 鶸・檜皮(36歳・♂・鷹)
 fa2830 七枷・伏姫(18歳・♀・狼)
 fa3126 早切 氷(25歳・♂・虎)
 fa4558 ランディ・ランドルフ(33歳・♀・豹)
 fa4622 ミレル・マクスウェル(14歳・♀・リス)

●リプレイ本文

●突入直前
「あ〜‥‥例の『黒い塊』の分析結果って、まだ出てないのか?」
 欠伸をしながら尋ねる早切 氷(fa3126)に、WEA係員は首を横に振った。
「何分にも、回収したサンプルが少ないので‥‥現状で予測されている以上の事は、何も」
「つまり、アレが『何か』が知りたければもっとサンプルを‥‥あるいは『黒い塊』そのものを、取ってこいって事か」
「それは、かなり危険な仕事になりそうでござるな」
 がしがしと頭を掻いてぼやく鶸・檜皮(fa2614)へ、赤い瞳を僅かに覗かせて七枷・伏姫(fa2830)。
「そんなに‥‥危ないのかな? あたし一緒に行って、大丈夫?」
 ややおっかなびっくりの表情で、ミレル・マクスウェル(fa4622)がベス(fa0877)を見上げた。
「ぴよ? でも、あたしも遺跡入ってないから‥‥大丈夫だよ!」
「説得力も何も、根拠レスだな。その主張」
 やれやれと嘆息する小塚透也(fa1797)だが、ベスには聞こえていないらしい。
「だけど『黒い塊』が卵なら、どんなNWが生まれたのかな? おっきなNWが一体とか? それとも蜘蛛みたいに、一つの卵からたくさんの子どもがワラワラ‥‥とか?」
「そんな、気持ち悪い事を言わないでよ〜っ」
 想像して青ざめる少女二人に頭痛を覚える透也は、最近何かと苦労性である。
「ところで、NWを探知する『ラーの瞳』みたいなオーパーツって、借りれない?」
 イメージのダメージから立ち直ったベスの質問に、思案顔を浮かべる係員。
「貸し出しは出来なくもないですが、ある程度進むと役に立ちませんよ」
「ぴぇ?」
「‥‥つまり‥‥それが使える程に‥‥『NWがいない‥‥空間ではない』‥‥と。故に‥‥私達が‥‥直接確認に‥‥赴くの‥‥です‥‥」
 ぽつりぽつりと喋るシャノー・アヴェリン(fa1412)の言葉を、係員が首を振って肯定する。
「あー、あと。遺跡の傍で大騒ぎを起こした張本人は俺です、ゴメンナサイ。よっぽどの事がない限り、『破雷光撃』とか使わないようにする。遺跡壊れそうだし」
 不思議そうにベスが首を傾げて、懺悔する透也を見上げ。
「ぴ? あたし、使う気まんまんだよ?」
「‥‥をひ」
「緊急時には、皆でタイミングを合わせて撃てば、バラバラで使うよりも効果があるだろうし、被害も少ないだろうな」
 鶸の呟きに、透也の背で冷たい汗が流れ落ちる。
「それは‥‥局地的に破壊するって、イイマセンカ?」
「万が一にもダークサイドが出れば、そうも言っていられない状況になると思うがな。そうそう。俺はビデオカメラを持ち込むつもりだから、一応申告しておく」
「‥‥私も‥‥撮影した画像は‥‥後程‥‥提出します‥‥」
 鶸とシャノーの申告を、係員は了承する。
「現状では、潜在する情報体を完全に検出する事は至難ですので。扱いには、くれぐれも気をつけて下さい」

●光届かぬ世界へ
 風雨で磨耗した石造りの階段を降りれば、背を照らす入り口からの光が遠くなる。
 足を止めて闇に目が慣れるのを待ち、一行は各自で持参した懐中電灯やヘッドランプのスイッチを入れた。
「ぴゃ〜。ここがNW大量発生の遺跡なんだ〜? 中に何があるんだろうね?」
「できれば、何もないに越した事はないのでござるが」
 きょろきょろと周囲を見回すベスと伏姫の声は、闇の中へと吸い込まれていく。
 人工の灯りが届く範囲に見えるのは、湿った土と所々に突き出した岩。
 壁には報告にもあった古い壁画が認められ、明らかに人の手が加えられた石材も見受けられた。
 完全に光と人の目が届かぬ場所まで進むと、そこで一行は不意の事態に備えて半獣化、あるいは完全獣化をする。
「では、尖兵隊‥‥無茶しない程度に、気張って行きますか」
 闇の中、光を返して目立つ白虎に姿に変えた氷が、のそりと一歩を踏み出した。
 彼の隣には、狼となった伏姫が。
 二人の後ろには鷹のベスと、これが『初陣』になるリスのミレルが並び。
 三列目はやはり鷹の三人−−鶸、透也、シャノーが側面と後方へ注意を払う。
「ああ、そうだ。知り合いが、探険時に壁歩いてたら変なもん踏んだ気がする〜、とか言ってたから、壁になんかあったら言ってほしいんだけど」
 氷の注文に、「はいっ」と元気よく最年少の少女が手を挙げる。
「『地壁走動』で調べてくるよ?」
「ミレルちゃんが調べに行くなら、『幸運付与』しよっか?」
「それ、その手でガシッと掴んで、嘴で突っつくとか!?」
 ベスが広げた鈎爪の手に、何故か言い様のない不安を覚えるミレルであった。
 −−幸い、掌や角で触れればいいので、不安は現実とはならなかったが。
 ふさふさの尻尾を揺らしながら、ミレルは重力を無視して壁面を暫く歩く。
「どの辺り?」
 天井近くから降ってきた声に、氷は無造作に頭を掻き。
「ん〜、判んない」
「それじゃあ、判らないよぅ」
「本人じゃないし」
 しれっと返ってきた答えに、「う〜ん」と逆さまで考え込むミレル。
「判らないなら、仕方ない。そろそろ降りて来い」
 透也に促され、仕方なしに彼女は壁から降りた。

 岩を避け、広い洞窟を奥へ進めば、まれに闇へと向けた光の輪の中を、慌てて何かが行き過ぎる。
「完全に掃討されたって訳でも、ないんだね」
 息を潜めて一行を見送る気配に、ぴこぴこと耳を動かしてミレルが呟いた。
「蝙蝠や鼠の類か。或いはNWなら、敵わぬと知っているが為に襲ってこぬのでござろう。数も多ければ危険なれど、小虫の一匹二匹では踏み潰されるのが落ち。こちらも、敢えて構う程でもござらぬ」
 日本刀を携えた伏姫は、振り返らずに答える。
 やがて、電灯の光を飲み込み闇の『底』が見えてきた。
 天井から続く冷たい岩肌が、行く手を遮る。
「で、どっち?」
 氷の問いに、共にここへ到るまでの殲滅戦に参加した伏姫と鶸、シャノーの三人が、互いの記憶に照らし合わせて、同じ方向を確認する。
 壁沿いに少し歩けば、やがて壁面に暗い穴がぱっくりと口を開けていた。
「これが‥‥」
 通路の奥へ光を差し込まぬように注意しながら、透也は始めて見る問題の通路を観察する。
 穴は、明らかに人の手が加わっていた。
 天井部は歪な形だが、側面はなだらかに研磨され、地面は階段状の段差が下へと続いている。
 時おり風が流れ、奥が行き止まりでない事を告げていた。
「えーっと‥‥降りる前に、少し休憩しない? おやつも持ってきたし!」
 重い沈黙を割って、明るくベスが提案する。
「‥‥通路の長さも‥‥この先に、何があるかも‥‥判りません‥‥。緊張の連続は‥‥逆に、判断力を‥‥鈍らせます‥‥」
 シャノーが提案に賛成し、ミレルも赤い髪を揺らして頷く。
「てか、おやつって‥‥まぁ、いいけど」
 深く追求せず、暢気に氷は一つ欠伸をした。

 伏姫が念の為に辺りの安全を確認し、一行は目立たぬ様に岩陰へ腰を下ろす。
「安全だって判ったら、電気とか道案内の看板とか、作れないかな〜。調査は続きそうだし、あれば便利だと思うんだけど」
 持参してきたおやつをミレルやシャノーと分けながら、ベスが暗闇へ目をやる。
「電線‥‥切られないかな? 看板は、情報体が潜みそうだし」
「あ、そっか」
 ミレルの指摘を受け、考え込むベス。
 声を落としての会話は、遺跡とダークサイドへの懸念が主だった。
「ダークサイドがNWを操れるとして、その気になれば世界の要人に憑かせる事も可能ではないか?」
 鶸の疑念に、透也が腕組みをして唸る。
「でも、情報体の宿主は操れるのか? 実体化したら、死んじまうだろうし‥‥もし、実体化しても死なない方法があるなら、めちゃくちゃ興味あるんだけど」
「どうだろうな。奴らには組織があるのか、それはどの程度の権力を持つのか。判らん事だらけだが、NWの研究においては明らかに奴らが上だと思う。奴らの目的は、いったい‥‥」
 彼の疑問に答える者は、今はなく。
「‥‥そろそろ‥‥行きましょう‥‥」
 喉を潤したシャノーが、水筒の蓋を硬く締めて立ち上がる。
「氷殿。時間でござるよ」
「んあ? あぁ‥‥」
 この状況でも寝ていた氷は、伏姫に起こされた。

●切り拓く道
 ヘッドライトの光が、岩肌を満遍なく舐めていく。
 通路は真っ直ぐではなく、下りつつ曲がっている。
 横幅は最後列の三人が並んでも余裕があるものの、天井は鷹獣人達が飛び回るには低い。
 ライトを掲げた伏姫は、拾っておいた石を緩やかな勾配の階段の先へ投げた。
 カツンカツンと乾いた音を立て、石は階段を転がっていく。
「どうやら、罠の類はなさそうでござる」
「じゃあ、行こうか」
 氷がゆるゆると歩を進め、光の届かぬ場所に全員が注意を払う。
 会話もなく、手探りでの慎重な前進を重ねて数分。
 光で照らされた影が一瞬、波の様にざわりと引いた。
「‥‥今の、見た?」
 息を呑むミレルを手で制した先陣の二人は、闇へとにじり寄り。
「上だっ!」
 這い登った影を捕らえて、鶸が警告する。
 ずむっと天井から落ちてきた4〜5mほどの長虫を、氷と伏姫が左右に飛んで避けた。
 隊列を割った形のNWは、獲物を選定するように鎌首を擡げる。
 その頭部には、独特の光がない。
「へ、蛇の心臓って、どこだっけ!?」
 思わずそんな事を聞くベスに、透也は数秒フリーズした。
「‥‥知らんっ。とにかく、コアを探すか動きを止めろ!」
 我に返った透也は、オティヌスの銃を構える。
 外骨格に覆われたソレは、百足の様にも見えた。だが、実際に存在する足は二対四本だ。
「‥‥正に蛇足」
「巻き付かれない様に注意しろ!」
 45口径のCoolガバメントMkIVを構えながら、鶸が後退する。
 骨格の隙間を狙って、氷がライトバスターの輝く刃を、伏姫が日本刀の白刃を突き立て、自分達へ注意を向ける。
 NWは苛立たしげに身を捻り、刃が折られる前に二人は素早く引いて怒りの尾の追撃をかわす。
「この状態で、『破雷光撃』は無理だ」
 鶸へ頷き、シャノーは背の翼より羽根を抜き取る。
 鷹獣人達が己の羽根を針と変え、次々と『飛羽針撃』を放った。
 狙うは関節の隙間、あるいは頭部の複眼。
 研ぎ澄まされた視覚が捉えた『的』を、曲線を描いて飛ぶ羽根が外す事無く貫く!
 叫びの代わりに、NWは甲殻をギシギシと軋ませて身体を捩り。
 捩れる胴体に張り付いた結晶が、鈍い輝きを放つ。
「氷、伏姫っ! できるだけ離れろ!」
 両手で銃を構えた鶸が、トリガーを引いた。
 シャノーもまた、構えたGlockenspiel17より38口径弾丸を容赦なく撃ち込む。
 着弾の衝撃にもがくNWの力を、透也が銃と流星剣で削ぎ。
 ガンガンと通路に響く銃声に、ミレルとベスは耳を押さえる。
 コア周辺の甲殻がヒビ割れて砕かれ、肉が弾ける。
 鶸が弾倉の8発を撃ち尽くして弾倉を取り替えた頃、漸く結晶化した命の源が崩れ去り、NWは長々とした屍を晒した。
「怪我はないか!?」
 死体を乗り越えて、五人は先頭の二人へと駆け寄る。
「あ、へーきへーき。そこら辺、すばしっこいから」
 氷はひらひらと手を振り、伏姫は刃を刀拭紙で拭って鞘へと収めた。
「今の騒ぎで、他のNWが騒ぎ出したやもしれん。先はまだ続いており、疾く進むが得策でござるよ」
「‥‥そうですね‥‥」
 ちらりと残骸を一瞥したシャノーは、進み始める仲間の背を追った。

 暗い通路を、目映い光が一瞬迸る。
 解き放たれた雷は、枝葉を伸ばしながらも直線状に伸び、蟲の群れを打ち砕いた。
「そろそろ、疲れてきたね〜」
 焼け焦げた臭気に眉を顰めて、ベスが額の汗を拭う。
「えぇ〜いっ!」
『破雷光撃』が撃ち洩らした小型のNWを、脚力を上げたミレルが気合と共に蹴り飛ばして粉砕し。
 静かになったところで、感電しない様にと預かったビデオカメラを鶸に返す。
「鶸さん。だいぶ進んだのかな?」
「どうだろうな」
「‥‥掃討しながら‥‥ですので‥‥幾らも進んでは‥‥いないかと‥‥」
「そっか」
 シャノーの見解に、小さくミレルは苦笑する。
 伏姫と氷は再び、前方を警戒しながら歩を進めていた。
「でも、おっきいNWは最初のヤツだけで、後のは小さいね」
 なんでだろ〜と、ベスが首を傾げる。
「中くらいのは、あの蛇が喰ったとか?」
「NW同士の共食いは、考えにくいが」
 茶化した氷の推論に、真剣に考え込む鶸。
 不意に伏姫が足を止め、腕を伸ばして一行へ停止を知らせた。
「どうかしたか?」
 ライトを下げ、腰を落として身を屈める伏姫へ、訝しげに鶸が声をかける。
「どうやら、この先は広い場所になっている様でござる」
 振り返る伏姫の意図に気付き、透也と氷が『鋭敏視覚』を発動させ、氷は更に先へ進む。
「何が見える?」
 囁き声で、透也へ尋ねるミレル。
「ああ、遮蔽物が少ない広い場所だ。上と同じくらいの‥‥どうやら、通路は終わりらしい」
 一歩を踏み出した氷の足の下で、ざくと乾いた音が鳴り。
「‥‥砂地か」
 しゃがんで足元を確かめる。
 その時、おぉ‥‥ん‥‥と低い唸る様な音が響き。
 どぅと押し寄せ風が彼を煽り、砂が音を立てて舞い上がった。
「どうする?」
 誰に尋ねるでもなく、振り返る氷。
「NWがいるかどうかを確認したいところだが‥‥ここで最初の時みたいに襲われると、不味いな。能力も回数を使ってるし、弾薬も限りがある」
「‥‥洞窟の掃討は‥‥完了しました‥‥次のフロアがある事も‥‥確認できましたし‥‥」
「今は、退くか」
 鶸の言葉に反対する者は、おらず。
 報告の為に出口付近の乾いた砂の風景をカメラに収め、一行は通路を引き返す。

 彼らの背を追う様に、また低い音が−−まるで地底から唸る様に−−響いた。