EtR:深淵への一歩ヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 フリー
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/23〜09/26

●本文

●地中の闇へ
「今回のチームは、先の探索チームが赴いたギリシャ遺跡の『通路の先』を調査する事が目的となります」
 簡素なブリーフィング・ルームで、監視及び調査の為に現地へ駐留しているWEA係員が今回の調査目的を告げる。
 ギリシャのオリンポス山。そこで発見された地中遺跡を、WEAは『ギリシャ遺跡』と名付けた。獣人達による一斉探索によって、ある程度の様相が明らかになったと思われた遺跡だが、しかし氷山の一角に過ぎず。
 その最奥で更なる地下への通路が発見されたところで、数々の謎を抱えたまま一斉探索は終了となった。
 不明な点の多いギリシャ遺跡に、WEAは少人数によって慎重に調査を進める方針へと転換。地中での調査を進める有志を募ったのである。
「とはいえ、先のチームも探索を開始したばかりで、通路の先についての詳細な情報はまだ入ってきていません。また、先のNW大量流出のような事が起きうる可能性もあります。十分に注意して、探索を行ってください。特に、問題の『黒い塊』が他にもあるのか。その手がかりはあるのかを‥‥」
 ふっと一息おくと、係員は先のチームへと同じ注意を加えた。
 曰く、記録装置の持込は許可するが、過去の探索で記録への情報体潜入が認められ、また今後も同様の事態が発生する危険が高い。故に、その取り扱いには十分注意する事−−。
 そして、その場は解散となった。

●今回の参加者

 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa1077 桐沢カナ(18歳・♀・狐)
 fa1412 シャノー・アヴェリン(26歳・♀・鷹)
 fa1797 小塚透也(19歳・♂・鷹)
 fa3126 早切 氷(25歳・♂・虎)
 fa4468 御鏡 炬魄(31歳・♂・鷹)
 fa4478 加羅(23歳・♂・猫)

●リプレイ本文

●砂の世界への足掛かり
 長く重い残骸をずるずると引き摺り上げて、通路の外へ放り出す。
 現場到着早々に『重労働』を強いられた男達は背を伸ばし、腰を叩いた。
「コアが破壊されたら、跡形もなくキレイサッパリ消えてくれると有難いんだけど」
 眠たげな目つきの早切 氷(fa3126)に、加羅(fa4478)が苦笑する。
「休んでる時に、上から転がってくるのも困りますしね」
「でも、キャンプを張るのもなぁ。砂地で休んで、気がついたら埋まってるとかは避けられるだろうが‥‥「ここを拠点に動いてますよー」って宣伝してるようなもんじゃないか? ‥‥ところで」
 言葉を切ると、小塚透也(fa1797)はサングラスの位置を正す御鏡 炬魄(fa4468)を見やり。
「それ‥‥見えてんのか? この暗い中で、サングラスって」
「ああ、気にするな。慣れている」
「慣れると、暗くてもサングラス越しで見えるのか‥‥」
 妙な感心をする透也に、くっくと面白そうに炬魄は笑う。サングラスにはそれなりの由があるのだが‥‥それは置いて。
『作業』を終えて擦り切れた階段を下り切ると、女性陣四人は砂の地面や岩壁へ懐中電灯やヘッドランプの光を投げていた。
「皆さんあまり離れないよう、注意して下さい」
「あ、おかえり〜!」
 声をかけた加羅へ、無邪気にベス(fa0877)が手を振った。懐中電灯で足元を照らしながら、富士川・千春(fa0847)も通路の出口‥‥第二階層の入り口へと戻ってくる。
「お疲れ様でした。上の方は、どうだった?」
「んや、変わりなし。荷物はさすがに重かったけど、これで寝床は完備だ。で、そっちは?」
 サムアップサインの氷が聞き返し、千春は背後の闇へと振り返る。
「特には‥‥あの『音』も、聞こえたり聞こえなかったりだし」
「『鋭敏聴覚』を使う時は気をつけないと、煩かったり‥‥しないのかな?」
 白い狐の耳をぴこぴこと動かす桐沢カナ(fa1077)が、素朴な疑問を口にする。
「説明しにくいけど‥‥『ボリュームを上げて』聞く訳じゃないから、支障はないと思うわ」
「そっか。よかった」
 ほっとして微笑むカナ。
 そこへまた、おぉ‥‥と低い音が空気を震わせ。
 オティヌスの銃を手に周囲を警戒していたシャノー・アヴェリン(fa1412)が、吹き付けてくる風に灰色の髪を遊ばせたまま、じっと暗闇と対峙していた。
「‥‥シャノー? どうかしたか?」
 透也が声をかけると、すぐに彼女は仲間の元へ戻ってくる。
「‥‥あの音‥‥特に‥‥何らかの周期は‥‥なさそうです‥‥」
「そうか。ギリシャの地下迷宮で最初に出くわす障害って言ったら、やっぱりケルベロス‥‥だっけ? あんなのでなけりゃあ、いいんだけどなぁ」
 何か気がなりな事でもあるのか、シャノーはさらさらと形を変える砂地を見つめていた。

●未踏への前進
「さて、とりあえず何から調べたものか」
 ぶらりぶらりと砂地に足跡を残しながら、氷が呟く。
「やっぱり、変わった形の岩や人工物‥‥でしょうか。黒い塊が発見できれば調べるのは勿論の事ですが、遺跡が作られた目的の手がかりを示すような壁画でもあれば‥‥遺跡について更なる推測ができる材料になるかもしれません」
 加羅の提案に、炬魄も腕を組んで思案を巡らせる。
「確かに、『黒い塊』に関する知的好奇心は尽きない‥‥それは他の者も同じだろうがな。だがここが『冥府』、もしくは冥府の下にある『タルタロス』に相当する遺跡なのか。それが判れば、遺跡自体の目的も推し量る事ができる」
「ぴ‥‥ぴよ?」
 二人の会話についていけないベスが小首を傾げ、『通訳』して欲しそうにカナや千春を上目遣いで見る。
「えーっと‥‥つまり、この遺跡が作られた理由が判れば、自ずとこの先に何があるか、『黒い塊』が何なのかを予想できるよね‥‥って、話だよね?」
 説明したカナが更にシャノーに確認を求め、彼女は長い髪を揺らして肯定した。
「あれ、シャノー。カメラは?」
 片時も手放さない彼女の『相棒』がない事に気付いて、透也が尋ねる。
「‥‥何かあると‥‥困りますので‥‥」
「そっか。俺も、自前の記憶器官を酷使するつもり‥‥だけど、やっぱ昔の吟遊詩人とかって凄いよな。ほとんどが口承だろ‥‥」
「現代の記者も、カメラや筆記に頼らず探索の記録を描写しきってみせるぞ? もっとも‥‥実際の記事に出来ないのは、残念だがな」
 砂の世界へ視線を投げる炬魄の表情は、窺えない。
「ともあれ、行きましょう。ここで世間話をしていても、探索は進まないわ」
 軽機関銃IMIUZIを手に、ラメ入りのガウン『ウォリアーズ』の裾を翻して、千春が歩を進めた。
「じゃあ、探検隊しゅっぱ〜つ♪ あ。『躍動する獣脚』使った方がいいかな?」
 明るい声と共に拳を上げたベスは、ハテと首を傾げる。
「急いで飲む事もないだろう。しっかし、探検隊か‥‥そんなのどかなモンならいいけどな」
 苦笑する透也は、仲間達の持つ僅かな光源を頼りに鷹の目で周囲を見回した。

 散開しすぎないように注意しながら、砂を踏んで岩壁に沿って歩く。
 砂上を歩き、時おり砂中から這い出してくる蟲−−正に、昆虫を思わせる多足の蟲を切り捨て、撃ち抜き、打ち砕きながら、一行は広い空間を進んでいた。
「飛び回れる程に広いのはいいが、入り口からの距離感がなくなりそうだな」
 広大な空間が透也がぼやきを吸い込み、氷も溜め息をつく。
「障害物がないのもな‥‥これじゃ、『紛潜陰行』を使ってもバレそうだ‥‥ま、とりあえず分岐路なんかは今のところナシっと」
 岩壁に近づけば、まだ凹凸部や砂から覗く岩もあるが、隠された通路や仕掛けは見当たらず。そして広場の中心へ向かうほどに、障害物は減っていた。
「‥‥あれ? ね、これって‥‥」
 シャノーが照らす懐中電灯を頼りに壁を調べていたカナが、声を上げる。
「‥‥何か‥‥ありました‥‥?」
 カナの肩越しに覗き込むシャノーに気付いて、他の者達も集まってきた。
 その間にも、カナは壁の何かを指で示すように辿っている。
 それはぐるっと回って、最初に彼女が気がついた地点へと戻ってきた。
「これ、壁画じゃないかな?」
『アウトライン』を確認して、改めて彼女が振り返る。
「ねぇ、こっちにもあるわ」
 少し離れた場所で、千春が壁にヘッドライトをかざしていた。
 近付いて見ると判り辛いが、少し距離を取るとそれが人の形、あるいは牛か何かの四足の獣を象っている事が判る。
「もっとあるのかな?」
 半獣化‥‥あるいは獣化した者達は、明かりを持つ者を中心に手分けをし、連なる壁の確認を始める。
 その結果、壁の平面になっている箇所に、様々な壁画‥‥恐らくは当時の人々の暮らし振りを描いたであろう壁画が見つかった。
「ん〜‥‥上にあった壁画と、似てなくない?」
「うん、確かに‥‥似てると思う」
 しげしげと岩壁を眺める氷に、風に乱された銀髪をかき上げながらカナが答える。
「何かを特別意味するものでは‥‥あれ?」
 壁を見ながら数歩下がった加羅が、硬い感触を踏んで足元を見やる。
 半分砂に埋まったうねる刃が、鈍く光を反射していた。しゃがんで確かめる彼の様子に、カナが緊張した表情を浮かべる。
「どうかしたの?」
「いえ‥‥ナイフ、です。誰か落としました?」
 問うてみても、返事はなく。
「何でこんな所に、そんなもんが?」
 考え込む炬魄の傍らでベスが足で砂をより分けると、一枚の紙片が出てきた。
 壁画のある場所を中心に探索を行えば、他にもオーパーツと呼ばれる物が数点、砂に埋もれている。
「これって‥‥『誰かがいた』って事か?」
 特殊な38口径弾を拾い上げ、透也が手の内でそれを転がす。
「‥‥でも‥‥いつ、誰が‥‥何の目的で‥‥ここに‥‥いたんでしょう‥‥?」
 シャノーが黒檀の表面に彫られた模様を、指でなぞる。
 だが万年筆は、それを使っていた持ち主の事を語る筈もなく。
 ただ唸るような音がして、風が一行を煽った。

●『音』を辿って
 低い唸る様な音。
 そして、次に風が吹き寄せてくる。
 間隔は変わっても、それだけは変わらない。
「音の正確な発生源は、判るか?」
 研ぎ澄ませた聴覚で『音』を辿る千春に、彼女の前を歩く氷が尋ねる。
「広場全体に反響して、上手く‥‥聞こえないわ」
 眉根を寄せて、答える千春。
「ただ、広場の奥から‥‥としか」
「‥‥気になって‥‥いたのですが‥‥」
 ぽつりと切り出すシャノーに、「ぴ?」とベスが聞き返した。
「‥‥生き物の‥‥唸り声や‥‥罠の可能性も‥‥捨てられませんが‥‥この音は‥‥風‥‥のような‥‥気がするのです‥‥」
「風‥‥?」
 暗闇の奥へと、透也が目を細める。
「‥‥『音』と‥‥『風』は‥‥常にセット‥‥です。私達が最初に‥‥一層目から‥‥通路に入った時も‥‥」
「‥‥そうだっけ?」
 眠そうに氷がぽしぽしと髪を掻き、透也は貯め置いた記憶を辿る。
「確か‥‥風が流れてくるから、奥があるって‥‥思ったんだよな」
「ぴよ? つまり、吹いてくる風がどこかで音を立ててる‥‥のかな?」
「‥‥はい。それが‥‥どこかは‥‥判りませんが‥‥」
 思案の沈黙が、暫し辺りを支配する。
 それを破ったのは、炬魄だった。
「まぁ、今ここで可能性を論じても、埒があかないのは確かだ。音の原因が風かどうか、行ってみれば判るだろう」
『モウイング』−−『刈り取るもの』の名を持つ鎌を肩に担ぐ炬魄に続いて、氷が一歩を踏み出す。
「だな。考え過ぎると、眠くなる」

 目標物がない中、通路や壁画の壁まで明かりが届かない位置まで来ると、自分がまっすぐ進んでいるかも不安になる。
 バラけないよう、NWを警戒しながら進んでいくと、やがて前方に砂以外の何かが見えてきた。
「あれって、例の『黒い塊』‥‥か?」
 強化された視覚でそれを確認した透也が、目を細める。
「『黒い塊』にしては‥‥平べったい‥‥ような?」
 同じく、『鋭敏視覚』の持ち主である氷が呻き。
 ヴォォンと、耳障りな音を千春が捕捉する。
「‥‥羽音‥‥?」
 それが何かを確かめる間もなく 飛来した音の群れが一行を襲った。
「っいたぁーっ!」
 悲鳴を上げて、ベスがぶつかってきた痛みの『元凶』を確かめる。
「ぴゃぁぁぁぁ、おっきな虫ぃぃぃ〜っ! 取ってぇ〜っ!」
「ベスさん、動かないで下さい!」
 翼や着衣に張り付き、喰い千切ろうとする黒い甲虫を、加羅が次々と爪やナイフで引き剥がし。
「これ、NWの群れです!」
 手の内でもがく蟲に輝く石を見つけた加羅は、爪で引き裂きながら警告する。
 咄嗟にカナが『飛操火玉』で呼び出した火の玉を群れへとぶつけて牽制するが、群れは再び『獲物』へと向かって旋回し。
 その群れに千春もIMIUZIの引き金を引いて応戦するも、二度目の『襲撃』を受ける。
「明かりを潰されるな!」
 ライトバスターとクローナックルで蟲を叩き落す氷は、仲間へ呼びかけ‥‥そして、硬直した。
 行く手に見えていた塊のようなモノが、身をもたげたのである。
「透也君! アレ、『見える』か!?」
 強張った声で氷に名を呼ばれた透也は、彼の視線の先を辿り。
 息を飲んだ。
「なんだ、あれ‥‥っ!」
「やっぱ‥‥俺の見間違いじゃないよな?」
「何が見えるんだ!」
 炬魄の問いに、ベスが黙って‥‥思い切って、懐中電灯で行く手を照らす。
「ぴ‥‥」
「な‥‥」

 −−頼りない光に浮かび上がったのは、少なくとも彼らよりは長躯の蟲。

 持ち上げた頭部と長い二本の前肢から、その姿はカマキリを思わせた。
 普通のカマキリと違うのはサイズだけではなく、全身を鎧う黒い甲殻が鈍く輝き、前肢はカマではなく大きなハサミ状となっている。
 ソレもまた、小型の蟲の群れと同様に『獲物』の存在を嗅ぎつけたのか。

 −−ソレは甲殻の下から、薄い一対の羽根を広げ‥‥。

「‥‥まずい‥‥です‥‥」
「判ってるわっ、とにかく退こう!」
 こんな時にでも淡々としたシャノーに奇妙な感嘆を覚えつつ、千春が空になったIMIUZIの弾倉を打ち捨て、新たに弾倉をセットした。
 銃や武器、あるいは持てる能力で餓えた蟲を牽制しながら、砂に足を取られるように−−その砂からも這い出す蟲達を踏み越えながら−−退却する。

 仲間が揃っている事だけを確かめ、後ろを振り返らずに、ただ『出口』へと向かって。

 追い縋る蟲の群れを振り払い、通路を登って一層目まで退却した頃には蟲達も追撃を諦め。
 誰もが座り込み、あるいは武器を支えに寄りかかり、荒い呼吸を整える。
「‥‥怪我は?」
 透也が仲間を見回せば、弱々しい笑顔が返ってきた。
「あちこち噛まれて痛いけど、かすり傷だよ」
「‥‥酸などを吐く‥‥蟲ではない事が‥‥幸いでした‥‥」
 お互いの無事を確かめて、安堵の息を吐き。
「今回の調査は、ここまでですね‥‥あの蟲と蟲の群れの事を、WEAに報告した方がいいでしょう」
 加羅が通路を振り返り、炬魄は身体にまだ張り付いていた蟲を岩壁に叩きつけて粉砕した。

 報告を受けたWEAは、即座にNW討伐の準備を始める。
 そして一行が砂の中から見つけた物品は、所有者不明の為、当人達へそのまま譲渡される事となった。