Limelight:Joy Noise 3アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 1人
期間 09/29〜10/03

●本文

●ライブハウス『Limelight』(ライムライト)
 隠れ家的にひっそりと在る、看板もないライブハウス『Limelight』。
 看板代わりのレトロランプの下にある、両開きの木枠の古い硝子扉。
 扉を開けたエントランスには、下りの階段が一つ。
 地下一階に降りると小さなフロアと事務所の扉、そして地下二階に続く階段がある。
 その階段を降りきった先は、板張りの床にレンガの壁。古い木造のバーカウンター。天井には照明器具などがセットされている。そしてフロア奥、一段高くなった場所にスピーカーやドラムセット、グランドピアノが並んでいた。

「それで、競技には参加しねぇんだろ? 例の『運動会』」
 オーナーの佐伯 炎(さえき・えん)が、鉄製のハンドルをごりごりと回しながら尋ねる。
「ああ。今回も、裏方の予定‥‥かな」
 答える音楽プロデューサー川沢一二三(かわさわ・ひふみ)は、いつもの様にコーヒーカップを傾ける。
「まぁ、表で暴れるガラじゃあねぇしな。俺も、テレビで見物しとくよ。出入りする連中も張り合いが出るよう、『ちょっとした』事も考えてるしな」
 にんまりと笑う友人を、川沢は上目遣いで見上げ。
「‥‥いま、とてつもなく嫌な予感がしたんだけどね」
「ほ〜ぅ? 気のせいじゃねぇか?」
 白々しくしらばっくれる佐伯に、やれやれと川沢は一つ溜め息をついた。

●今回の参加者

 fa0186 シド・リンドブルム(18歳・♂・竜)
 fa0441 篠田裕貴(29歳・♂・竜)
 fa0475 LUCIFEL(21歳・♂・狼)
 fa1796 セーヴァ・アレクセイ(20歳・♂・小鳥)
 fa1814 アイリーン(18歳・♀・ハムスター)
 fa2495 椿(20歳・♂・小鳥)
 fa2521 明星静香(21歳・♀・蝙蝠)
 fa3328 壱夜(15歳・♂・猫)

●リプレイ本文

●久し振りの練習
「楽器の練習にくるのも、もう3回目ですね」
 シド・リンドブルム(fa0186)の呟きに、篠田裕貴(fa0441)は指折り数え。
「ボイスレッスンも入れれば、俺は5回目になるかな。でも今日は、川沢さんがいないんだよね‥‥」
「川沢さんなら、赤組で忙しそうにしていたわ。少し残念ね」
 思い出して、くすりとアイリーン(fa1814)が笑う。
「そういやPSFじゃあ、嬢ちゃんと同じ組か。お疲れさんだな」
 禁煙煙草を咥えた佐伯 炎が、ひらひらと手を振った。
「あ、佐伯さんとは、ちゃんと挨拶するのは初めてですね。音楽はまだまだ駆け出しですけど、お世話になります♪」
 にっこりと笑顔で挨拶するアイリーンは、思い出したように鞄を開ける。そして、ラッピングした立方体を取り出した。
「これ、練習の合間にでも‥‥お茶菓子を用意する人がいるって聞いて、持ってきました。あと、『あんまりコーヒーばっかりに偏っちゃ駄目ですよ』って、伝えといてください」
 意味深な彼女の笑みに、佐伯は思い当たったように「あ〜」と声を上げ。
「ま、聞くかどうかは判らんが、伝えておく。でもって、気遣いすまんな。ここじゃあひとつ、気楽によろしく」
 紅茶の缶を渡したアイリーンは、差し出されたがっちりした大きな手と握手をする。
「そういえば、裕貴さんはコーヒー苦手なんでしたっけ?」
 思い出したようなシドに、裕貴は遠い目をする。
「うん、コーヒーより、紅茶派。あと、チョコとかもね‥‥」
「おはようございます」
 明るい挨拶と共に明星静香(fa2521)が会釈をし、彼女の後ろから壱夜(fa3328)がひょっこり顔を出す。
「『Limelight』来るの、ヒさしぶり、だー。サエキエンサン、2度めまシテ。ヨロシクおねがいしマス」
「ああ。久し振りだな、坊主。元気か?」
 軽く手を上げて答える佐伯へ、壱夜は軽く頭を下げた。
「うん。ちゃんとアイサツしなさイ、て、アルにゆわれた。コレであってル?」
「上出来上出来。だが、いちいちフルネームで呼ばなくていいからな」
 不思議そうに首をかしげる壱夜。
「あ、裕貴さん来てたのね。ちょうど良かったわ」
「え?」
 驚いて目を瞬かせる裕貴に、静香はススッと小さな紙袋を掲げた。
「スウィートポテトパイを作ってきたの。良かったら、食いしん坊が万歳しないうちに『物々交換』しない?」
「あ、いいね。多めに用意してても、油断してると食べられちゃうし。俺は、秋って事でパンプキンパイとパンプキンプリンを持ってきたから‥‥」
 成立した『密談』によって然るべき等価交換が行われる様を、じーっと物欲しそうに壱夜が見つめる。それに気付いた静香は、微妙な罪悪感に駆られ。
「『確保』した分は、後で皆で分けるわね」
「うん。ちゃんと、壱夜の分も別に取ってあるから」
 静香の提案と裕貴の気遣いに、見て判るほどにパッと少年の表情が輝いた。
「おれ、自分じゃ作れナイかラ、バウムクーヘンかってきたヨ。みんなで食べヨ〜! 裕貴、切って切って〜」
「判ったよ。後で、お茶の時にね」
 懐く壱夜に、笑顔で答える裕貴。
「相変わらず‥‥またぞろ、お菓子の品評会か」
 やれやれと肩を竦めつつ、LUCIFEL(fa0475)が事務所に現れる。
「といっても、折角のレディの手作りを無碍にする気はさらさらないがな」
 ウィンクを投げられた静香はくすくすと笑い、LUCIFELはと言えば事務所のソファ−−勿論アイリーンの隣へ、ちゃっかりと腰を下ろした。それからぐるりと事務所にいるメンバーの顔を見回してから、おもむろに口を開く。
「男の事なんぞ知ったこっちゃあねぇが、来てるメンバーと荷物が合わなくないか?」
「セーヴァか? 随分前に先に来て、もう練習してるぞ」
「凄く練習熱心なんですね、セーヴァさん」
 感心したように、シドは恐らくセーヴァ・アレクセイ(fa1796)が練習しているであろう楽屋へと続く扉を見やった。
「まぁ、クラシック楽器は練習場所を見つけるが大変だからな」
「あ、みんなもう来てる。おはよーございますー!」
 裕貴と静香の『物々交換』が終わった頃、食いしん坊仲間の胡都と連れ立って椿(fa2495)が現れる。
 そして、約一週間の練習場所開放期間が始まった。

●練習時間
 練習スペースは、人数と使用する楽器によって大きく3つの場所に振り分けられる。
 ピアノやドラムセットといった移動できない大型楽器は、地下二階、ステージのあるメインフロアにLUCIFELと椿。
 地下一階の事務所では、静香とアイリーンがキーボードを練習する。
 そして楽屋では、一番大きな部屋でシドと壱夜、裕貴の三人がギターとベースを練習し、別の楽屋ではセーヴァがチェロに打ち込んでいた。

「熱心だな。少しばかり、休憩したらどうだ?」
 かけられた声と紅茶の香りに、セーヴァは弓を持つ手を止めた。
「久し振りに、思い切りチェロが弾けるから‥‥つい」
 弓を置き、飴色の光沢をした瓢箪型の弦楽器を丁寧にスタンドへ立てかける。
 それから佐伯へと礼を言って、テーブルのティーカップを取り上げた。
「佐伯さん、早朝練習の件だけど‥‥」
「朝の5時だろう? 寝てるぞ、俺」
 苦笑する相手に、セーヴァは眉根を寄せて考え込み。
「なんだったら、いま俺が凝ってるラム酒もつけるんで‥‥ブランデーでも、ウォッカでも良いけど」
「こらこら、人を買収しようとすんな」
「買収じゃなく、交換条件だから」
「俺の睡眠時間と酒を、交換しろって?」
 くつくつと佐伯は笑いながらも、首を横に振る。
「鍵貸してやるとかも、無理だしな。一応、店の責任者って立場もある」
「でも、ステージでの音の広がりも体感しておきたいんだ。人のいないときに練習したい曲だし、練習時間が重なると他の人の邪魔になるし」
「‥‥なぁ。ちぃと思ったんだが‥‥」
 腕組みをして壁に寄りかかった佐伯は、ちちと人差し指を振り。
「お前さ。『誰』の為に『何で』、ソイツを弾いてるんだ?」
「‥‥え?」
 突然の質問に、セーヴァが怪訝な顔をする。
「自分が弾きたいから、自分の為に弾く。それはそれで構わないだろうが、じゃあそれで客は客の聞きたいモンが聞けるのか? 迎合していくのは違うが、耳を塞いで頭が高いのもまた違うんじゃないか‥‥と、客と直接やり取りをする俺は、思ったりする」
 トレイを手にしたオーナーは、扉のノブへと手をかけ。
「Even if there is art, there is not a heart.てな。ま、お前一人に限った話じゃあねぇが。あと店だが、朝の9時頃には開ける様にしといてやるから、それで譲歩しろ」
 扉を開けてひらりと手を振りながら出て行く後姿を、カップを手にしたセーヴァが見送った。

 もう一つの楽屋では、アコースティックギター手にしたシドと裕貴、そして壱夜はベースギターを爪弾いていた。
 ギターの二人は過去の経験の積み重ねから指もかなりスムーズに動くようになってきている。
「三人で合わせるのも、楽しいですね」
「おれ、アシひっぱってナイ? ベース、最近買って、練習始めたばっかリだし」
 心配そうに尋ねる壱夜に、裕貴が首を横に振った。
「そんな事ないよ。俺も、漸く少し上達したかなってレベルだし」
「はい。僕も、まだ自分の楽器すら買ってませんし」
 レンタルしたギターを手にしたシドも、苦笑を浮かべる。当初は椿から借りる予定であったが、佐伯からは敢えて練習用のレンタル楽器を使うようにとシドへ告げていた。
「今あっためてル曲あって、いつかベース弾きながら歌うんダ。でもネ、歌いながらダとリズム狂っチャうし、まだうまくデキナイ。何かコツ、あル?」
「コツ‥‥か」
 問われた裕貴は、弦を弾く指を止めて少し考え込む。
「やっぱり、練習かな」
「アルにも、「積み重ねが大事なんだよ」ってゆわれた。やっぱ、そぉかな‥‥」
「まず、弦を押さえても指が痛くならないよう、慣れないとね」
「うん。がんばル。練習、裕貴とシドといっしょでヨカッタ♪ こころづよい」
 頷いて壱夜は気合を入れ、その様子に裕貴とシドは顔を見合わせて笑った。
「そう言ってもらえると、嬉しいよ。俺も、今までの成果を胸を張って佐伯さんに聞いて貰えるくらい、頑張らないと」
「そうですね。僕は人前で弾く自信が持てるくらいのレベルに、上達したいです」
 互いの目標を確認した三人は、再びそれぞれの楽器のネックを握り。
 そしてまた、のんびりと弦の音が響く。

「‥‥何が哀しくて、男とサシで練習しなきゃならないんだ」
「LUCIFELサンがドラムの練習交代してくれたら、アイリーンサンを呼んでくるよ?」
 嘆息しながら、LUCIFELはスティックの『懐かしい』感触を確かめる。だが、長らく触れずにいたドラムは、なかなか思うように「回せ」ない。
「直接レディに譲るなら諸手を上げるが、間に挟むのが男だとなぁ」
 愚痴るLUCIFELに対し、椿はピアノで『ねこふんじゃった』をジャズ風にアレンジしながら弾いていた。
「それに、初日は胡都もいたから譲ったし」
「LUCIFELサンも隣で聞いてたじゃない。でも、ドラム叩けたんだねー」
「それはそれ、これはこれ。ドラムは、学生の頃に一時期やってたんだよな〜。ま、ちょっと齧った程度だから、アマチュアもいいとこなレベルだな」
「へぇ?」
「あのまま続けてたら、今頃はドラマーになってたか‥‥いや、それはないか、うん。愛を詞(コトバ)にするのが俺の使命だし♪」
「あー、ハイハイ」
「真面目に聞けよ」
 そんな掛け合いを繰り返しつつ、二人は練習を続ける。

 そして、女性陣二人は並んでキーボードに取り組んでいた。
「ギターとまた違って、指運びが難しいわね」
 初級の楽譜を手に、静香が一つ一つ音を確かめている。
「私なんか、楽器自体あまり触る機会がなかったから‥‥でも、ピアノもキーボードも同じ鍵盤楽器なのに、音や感触が違うから楽しいわ」
「ピアノの鍵盤は、重いものね」
 アイリーンは、同意する静香にうんうんと頷いた。
「私は作詞が先で、作曲は後にする方なんだけど、歌詞に合わせた音の選び方が上手くいかないのよね‥‥人の作曲を見ると、特にそう思うの。皆、上手いなあって」
「あら、私もよ。上手い人の歌を聞くと、私も負けてられないって思うの」
「ま、向上心ってヤツは大事だからな」
 事務所の扉を開けて入ってきた佐伯は、白い調理場用のエプロンを外して丸める。それを見て、静香は壁にかけた時計に目をやった。
「佐伯さん、時間があれば、少し今日の練習の方を見てもらえません?」
 彼女の申し出に佐伯も時計を確認し、無精髭の顎を撫でる。
「そうだな‥‥じゃあ、一人づつ順番に、詰まっても構わんから通しで弾いてみるか」
「はい」
「お願いします」
 事務椅子へと腰を降ろす佐伯に、二人は揃って返事をした。

●緩やかな時間に
 忙しいピークの時間を越えると、店内には落ち着いた空気が流れる。
「ココ、お店としても良い雰囲気よね。レンガの壁とか、なんか落ち着くわ」
 大人びた化粧にダテメガネをかけたアイリーンは、厨房へ食器を下げると改めて店内を見回した。
「そうだね‥‥練習に来る時はいつも厨房だけど、たまにはホールに入ってゆっくりと雰囲気を眺めてみたいような」
 しみじみと呟く裕貴は、まだフライパンを振っている。髪をアップに纏めた静香もまた、パスタパンから離れず様子を見。
「遠慮せずに、ホールに出てくれてもよかったのに。もしかして裕貴さん、私だけじゃ切り盛りが心配だったとか?」
 悪戯っぽい笑みで聞かれて、「そんな事ないよ」と裕貴は急いで否定する。
「静香の料理は美味しいから。それに、どう転んでも俺って器用ではないし‥‥料理するのも好きだし」
「おれコトバ、うまくナイ。りょうり、デキナイ。みんな、すごいヨ?」
 皿洗いに専念していた壱夜が、小首を傾げて裕貴を見上げ。
 ぐきゅるー。
「みぅ‥‥イロイロおいしそぅで、イイにおいすルから‥‥ムシがないた」
 俯いて腹を抑える壱夜に、『料理人』二人が顔を見合わせて笑う。
「はいはい。賄い、すぐ出来るからね」
「こっちもこっちも〜。お腹すいた〜っ!」
 黒く染めた髪を後ろで一つに纏めた三つ編みを揺らして、椿が主張した。
「‥‥さっき、つまむ物あげた気がするんだけど」
「もう消化したよ?」
 しれっと答える相手に、頭痛を覚える裕貴。そこへ、ダテメガネをかけたシドがオーダーシートを手に戻ってくる。今回はホールのメンバーが少ない為、シドもホールに回っていた。
「オーダー、いいですか?」
「「はーいっ」」

「佐伯さん、氷はコレで大丈夫?」
「ああ。ソコに置いといてくれ」
 氷を詰めた小さなワインクーラーをセーヴァが持ってくると、佐伯はカウンター内の一角を指差す。後は果物を用意したりグラスを用意したりと、あまり手に負担のかからない仕事を担当していた。
「頑張って働いてるねぇ」
 そんなセーヴァを見上げながら、カウンターの端に腰掛けたLUCIFELがグラスの液体を揺らす。
「頑張っているから、邪魔をしないでくれると有難いが」
「判ってるって。女性以外には、ちょっかいをかけないから」
 二人のやり取りに、佐伯は肩を竦めて苦笑する。
「シャンパン・グラスに、スノースタイルを用意してくれるか」
「判った」
 バーテンの仕事は、ある意味でチームワークが必要である。
 佐伯がシェーカーを振る間にセーヴァはグラスを取り出し、その縁にレモンの切り口を当てて一回りさせる。小さい平皿に盛った塩にそれを押し付け、縁を白く飾ったグラスに、佐伯が白い液体を注ぎ入れて注文した女性客の前に置く。
 その一連の流れを、頬杖を付いたLUCIFELは興味深そうに眺めていた。