EtR:Coin Toss−Headsヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 フリー
獣人 3Lv以上
難度 やや難
報酬 8.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/02〜10/05

●本文

●砂上を這いずるモノ
「目撃情報から分析した結果、第二階層で発見されたのは体長が2m前後か、それを越える中型から大型のNWとみられます。
 比較物のない目測の為、正確な数値は出せませんが‥‥」
 状況を説明するWEAの係員が、言葉を濁す。
 闇に包まれた遺跡の中、地を砂で覆われた第二階層で発見されたのは、蟷螂を思わせるNWだった。
 探索の障害となるため、この蟷螂型NWを排除するのは勿論だ。
 しかしその際に問題がある事も、先の探索チームは指摘している。
「蟷螂型NWの他に、そのの周辺で多数の小型NWが発見されました。小さくとも数が多ければ、蟷螂型NWの討伐において非常に危険な存在となるでしょう。
 そのため蟷螂型NWを討伐するに当たり、攻撃に専念するアタック・チームと、アタック・チームを援護して小型NW群を排除する、スィープ・チームを編成する事となりました」
 係員が言葉を切り、ブリーフィング・ルームに緊張が降りた。

●迅速なる死を与えんが為に
「アタック・チームが討伐する蟷螂型NWの、現在判明している特長ですが‥‥」
 係員の説明によれば、体長は2m前後かそれ以上。
 六本の足のうち四本で体躯を支え、前肢二本が鋏状になっているという。
 甲殻で覆われた細長い体の頭部にコアがあると推測されるが、はっきりとは言い切れない。
 だが、それだけの情報を得られただけでも僥倖だろう。
「アタック・チームの目的は、言わずもがな『蟷螂型NWの撃破』。ただしアタック、スィープの2チームのうち、どちらかの崩壊した時点で『撤退』と考えて下さい。
 状況が状況ですので、残ったチームでチーム戦闘を続行をする事は認めません。速やかにもう一方のチームの援護に当たり、撤退して下さい。以上です」

●今回の参加者

 fa0203 ミカエラ・バラン・瀬田(35歳・♀・蝙蝠)
 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa1412 シャノー・アヴェリン(26歳・♀・鷹)
 fa1797 小塚透也(19歳・♂・鷹)
 fa2010 Cardinal(27歳・♂・獅子)
 fa2830 七枷・伏姫(18歳・♀・狼)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)

●リプレイ本文

●準備
「おはようゴざイます♪ 劇団クリカラドラゴン裏方裏頭目、ミカエラ・バラン・瀬田でス。ナイトウォーカーを破壊する為だけに参リマした♪」
 この『場』に相応しくない程の明るい口調で、ミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)がしゅたっと片手を挙げて挨拶をした。
 この『場』−−即ち、陰鬱なモノ達の蠢く、暗い地下世界の一角である。そして砂が覆うだけの殺風景な空間に面した洞穴通路には、総勢18名の獣人たちが集まっていた。そのうち10名が小型NW群を掃討(スウィープ)し、残る8名が蟷螂型NWへ攻撃(アタック)する算段となっている。
 ミカエラの物騒ながらも陽気な挨拶に軽く会釈をし、あるいは身振りで返答する者達は、みなアタック・チームのメンバーだ。
「遺跡に関しては新参者デすからね。わたしのエゴで『お邪魔する』ことになっているのは自覚しテマス。どうぞ、好きに使ッテやって下サイ♪」
「新参も何も‥‥あんま、関係ないと思うけどな。俺達も、二層目を調べたのは一回きりだし、その調査も完全とはいえないし」
 苦笑いを浮かべて小塚透也(fa1797)がフォローし、富士川・千春(fa0847)もこくりと首を縦に振る。
「この遺跡が『何』なのか。この先に何があるかも、予想や予測すら出来ないものね。NWを封印するものじゃないかなーとは、思ってるんだけど」
「‥‥事を構えるに‥‥あたって‥‥情報は、欠かせない‥‥ものです。‥‥先駆か否かは‥‥重要な問題では‥‥ありません‥‥」
 ゆったりと語りながらも、シャノー・アヴェリン(fa1412)は装備の点検に余念がない。
 −−可能ならば、事前にスィープ・チームとの入念な打ち合わせを。
 そう考えていた彼女だが、既にその時期は逸し、『コイン』は投げられた。双方の行動に綿密な連携はなく、あるのは「片方が崩れれば、撤退」というWEAが付けた最低条件だけである。
 表と裏が乖離している以上、その『背中』は自分で守らなければならなかった。
「刀を振るう事に専心する者は、ミカエラ殿だけではないでござるよ」
 日本刀を抱いた七枷・伏姫(fa2830)が、低い声で呟く。
 そんな、どこか緊迫した空気の中。
「ぴーっ、抜けないよ〜っ!」
「‥‥なにしてるんや、ベス?」
 青白色の棒を地面に突き刺したベス(fa0877)を、敷島ポーレット(fa3611)が不思議そうに眺めていた。
「砂がどれだけ深いのかなって、調べようと思っただけなんだけど‥‥」
「けど。で、そうなるんや‥‥」
 どこか感心したようなポーレットの隣に、ぬっと長身の影が立つ。
 そして、棒−−『ルドラの槍』の柄を握るベスよりも更に上の部分を持ち、容易く穂先を砂の中から引き抜いた。
「ぴよ? ありがとう、Cardinalさん!」
 見上げて礼を言うベスに、Cardinal(fa2010)は首を振り。
「槍に、振り回されないようにな」
 忠告された側は、「えへへ」と照れ笑いをして頷いた。

「そろそろ、時間だな」
 透也が確認すれば、「はい‥‥」とシャノーが返答する。
「じゃ、張り切っテ行きますカ」
 ミカエラがサングラスを外して、『意思』をしなやかな四肢の隅々まで行き渡らせ。
 準備−−半獣化、あるいは完全獣化した獣人達は、砂地へと足を踏み出す。
 低い唸る様な音が響き、乾いた風が一行の間を吹き抜けた。

●牽制

 −−獲物ガ、キタ。
 視覚でも聴覚でもなく、彼らの本能がそう告げた。
 −−獲物ガ、キタ。
 首を巡らせ、節足を蠢かし、羽を広げ、『死』が闇の中から這いずり出す。
 −−タクサンノ、獲物ガ、キタ。
 その空腹を満たす為に、『生』という光に向かって。

 ヴォ‥‥ン。
 周囲を漂う雑多な音の中から、鋭くなった聴覚が羽音の群れを拾い上げた。
「小型NWの群れがくるわ!」
 千春の警告に、スィープ・チームが足を止め。
「こっちは任せてよ!」
 仲間達の間から返ってきた言葉に、ミカエラがウィンクで答える。
「上手く、引きつけてくれるといいね」
 響く銃声にベスが振り返るのも、僅かな時間。
 砂を蹴って駆ける彼らの先で、黒い影−−蟷螂のようなNWが鎌首をもたげた。
 僅かな光でも見通せるほどの視覚を持つ者達は、その頭部に淡い輝きを見出す。
 足を止めた千春は黄金に輝く木の枝を砂地に深く突き立て、祈りを捧げるように瞑目した。
「OKよ。範囲は10m、効果は1時間。この『黄金の枝』を動かすと結界の効果が切れるから、気をつけてね」
 やがて瞳を開いた彼女の説明に、Cardinalは「ふむ」と唸る。
「状況が状況だからな。保険程度に考えておこう」
「足場が頼りない状態でござるからな」
 伏姫が足元の砂を蹴り。
「では、私達は上かラお先に」
 ミカエラが暗褐色の蝙蝠の翼を広げた。
「シャノーもみんなも、気ぃつけてな〜」
 翼を打ち、広い空間へと飛び立つ五人に、ポーレットが手を振る。
「あまり、動き回らないようにな。『枝』の目印になってくれると、助かる」
「うん。うち、飛ばれへんし前に出るタイプやないし」
 Cardinalの気遣いに、彼女は小さく笑い。
「うちは、うちの出来る事、判ってるから」
 ランプの光を反射して、猫種の黒い瞳が輝いていた。

「その鋏が邪魔なんだよ、その鋏がっ! この○ル○ン蟷螂っ!」
 透也が両手に持ったCappelloM92とオティヌスの銃のうち、38口径銃の引き金を引く。
 放たれた弾丸は黒い甲殻を穿つが、貫通には到らず。
「硬いんだよ、こいつ!」
「‥‥甲殻の下を‥‥直接攻撃か‥‥甲殻自体を‥‥損傷させるべき‥‥かと‥‥」
 毒づく透也に、シャノーが淡々と答える。
「敢えて、羽を出させるって事ネ」
 ミカエラは親指を立て、五人は蟲を囲む様に散開する。

 捕食される側にも拘らず、『獲物達』は捕らえようとする大鋏の前足を逃れて、煩く飛び回る。
 忌々しい身軽さに甲殻の羽を広げ、薄羽を伸ばし−−。

 四本の後足をぐぅと曲げ、弾みをつけて、NWが飛び上がる。

●瀕するは何れか
「避けてーっ!」
 千春の叫びに、注意をひきつけていたシャノーと透也が身を翻した。
 弾丸の様なスピードで飛来した黒い甲殻は標的を失い、勢い余って岩壁へと激突する!
 衝撃で落盤でも起きるかと、誰もが息を呑んだ。
 が、期待に反して蟲は岩を足で削りながら反転し、再び飛ぶ。
 その速さは、シャノー達が通常に飛ぶ速度を上回っていた。
「舐めるナ‥‥っ!」
 胸元で小さく十字を切ったミカエラは、相対するように飛来するNWへと飛ぶ。
「ぴっ、ミカエラさん!」
 思わずルドラの槍を構えるベスを、僅かに振り返った彼女の不敵な笑みが制する。
 激突する直前、翼を打ってミカエラは速度を上げ。
 NWの更に上へ急上昇すると、すかさず急降下に転じた!
「ミカ!」
「お仕事は、全うします」
 胴部に取り付いたミカエラは、ソーンナックルを装着した右腕を伸ばし。
「その為に、キタのダカらっ!」
 薄羽の片方を掴み、渾身の力で毟り取る!
 片羽を失った蟲はバランスを崩し、砂を巻き上げ、どぅと音を立てて墜落した。
「今のウチに!」
 流れる血を拭ってミカエラが叫び、離脱して即座に無色透明の液体を干す。
「判った!」
 取り出したタブレット−−『揺るがぬ指先』を喉へ落とした千春が、オティヌスの銃を構え。
 シャノーと透也もまた、同じ銃の引き金を引く。
 大口径の銃が一斉に火を吹き、残る薄羽と硬質の羽と、剥き出しになった腹へ弾丸が打ち込まれ。
 蟲は六足をもがき、顎をガチガチ鳴らして憤怒を訴える。
 だが体勢を整える前に、その前足の一本がミシリと音を立てた。
 本来、獲物を捕らえるべき大鋏を筋肉が隆起した太い腕が押さえ、こじ開け、押し広げる。
 残る鋏でCardinalを排除しようとするも、その毛並みと『霊包神衣』に護られた獅子男の巨躯は、びくともせず。
「七枷伏姫、参るっ!」
 普段は閉じたような細い目をカッと見開き、伏姫が砂を蹴った。
『俊敏脚足』で強化した足運びで接敵し、鞘に収めた白刃をCardinalが抑えた節足の節へと抜き放つ。
 伸びた節がざっくり裂けるが、断ち落とすには到らず。
 しかしCardinalには、それで十分だった。
 大鋏を掴んだ腕を捻れば、ブチブチとそれが裂け広がり。
「うおぉぉぉぉぉっ!」
 雄叫びを上げて、彼は前足を捻じ切った!
 更に報復で踏み付けようとする後足を、Cardinalががっちりと受け止め。
「‥‥今や!」
 牽制に銃を−−当たらないのを承知で撃ちながら、一部始終を見守っていたポーレットが『瞬速縮地』で空間を飛び越える。
 小柄な身体が、NWの頭部−−淡い結晶の光を帯びたコアの前に現れ。
「ポーレットっ!?」
 誰もが驚きの声を上げる中、少女は両手で構えたCoolガバメントMkIVの銃口を、握り拳大のコアに押し当て。
 その冷たいトリガーを引く。
 ガンッッ!!
 殴られるような衝撃に細い腕が痺れ、ポーレットが顔を顰めた、次の瞬間。
「ポー‥‥ッ!」
 手を伸ばして飛んだシャノーが青ざめた。
 振るわれた大鋏に、吹き飛ばされた小柄な身体は−−ふたつ。
「ぴえぇぇっ。千春さん、ポーレットさんっ!」
 砂を舞い上げて堕ちた二人に、慌ててベスが駆け寄る。
 半身を起こした千春は、咄嗟に庇ったポーレットの無事を確かめる。
「大丈夫‥‥砂が逆に、クッションになったわ。痛いのには、変わりないけどね」
 ヒーリングポーションを取り出し、瓶が割れていない事にほっとし。
「あ、ポーレットさんには、あたしのを」
「う‥‥ごめんなぁ、二人とも」
 謝るポーレットに微笑んで千春は回復の薬を干し、水晶の45口径弾を装填したオティヌスの銃を、苦悶しながら大鋏や鎌首を振り回すNWへと構えた。
 仲間の無事を確認してほっとしたシャノーは、『ある事』に気付く。
 スィープ・チームの明かりが見えないのだ。
(「‥‥そちらは‥‥大丈夫‥‥ですか?」)
 別チームに加わっている筈の友人へと、『知友心話』で語りかけた彼女は、きつく口唇を噛み。
 急いで、同じアタック・チームのメンバーへと意識を飛ばした。

●苦渋の選択
「撤退でござるか!?」
 声を荒げて、伏姫がCardinalに問い返す。
「シャノーの話だと、スィープ・チームが不味いようだ。弾薬が尽きている者もいる」
 引き千切った後足を無造作に放り投げ、彼はじりじりと後退していく蟲を見やる。
『鋭敏視覚』を持つ者は、その頭部に見えるコアに亀裂が入っている事を確認していた。
「承知‥‥ならば、拙者が殿(しんがり)を勤めるでござるよ」
「ああ。こいつは俺達で抑えて、飛べる者達には先にスィープ・チームの援護に回ってもらおう」
 複眼で睨む捕食者は、じりじりと後退っている。
 それに背を向ける事無く、二人も威嚇しつつも注意深く退き始めた。

 群れる小型の蟲を射落とし、あるいは広域の能力で怯ませる。
 アタック・チームの明かりと援護に導かれて、スィープ・チームは無事に拠点である通路まで戻り、そのまま第一階層まで引き返す。
 敗因は、火力及び連携、認識不足。
 一方の蟷螂型NWについては飛行能力、大鋏の片方、それに後脚の一本を損失させ、コアも損傷させるまで到っている。相当のダメージを与えている為、これ以上の捕食は避けるだろうが、情報体となる前に接触できれば、今回ほどの戦力でなくとも討伐は可能だろう‥‥。
 任を終えた者達へ、WEAは報酬を支給した。

 そして再び闇が満ちた砂の世界を支配するのは、淀んだ空気と冷たい静寂−−。