EtR:Coin Toss−Tailsヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 フリー
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 3.2万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 10/02〜10/05

●本文

●砂上を這いずるモノ
「目撃情報から分析した結果、第二階層で発見されたのは体長が2m前後か、それを越える中型から大型のNWとみられます。
 比較物のない目測の為、正確な数値は出せませんが‥‥」
 状況を説明するWEAの係員が、言葉を濁す。
 闇に包まれた遺跡の中、地を砂で覆われた第二階層で発見されたのは、蟷螂を思わせるNWだった。
 探索の障害となるため、この蟷螂型NWを排除するのは勿論だ。
 しかしその際に問題がある事も、先の探索チームは指摘している。
「蟷螂型NWの他に、そのの周辺で多数の小型NWが発見されました。小さくとも数が多ければ、蟷螂型NWの討伐において非常に危険な存在となるでしょう。
 そのため蟷螂型NWを討伐するに当たり、攻撃に専念するアタック・チームと、アタック・チームを援護して小型NW群を排除する、スィープ・チームを編成する事となりました」
 係員が言葉を切り、ブリーフィング・ルームに緊張が降りた。

●彼の背を守らんが為に
「スィープ・チームの目的は、蟷螂型NWの周辺に群れている小型NW群の掃討です」
 係員が言うには、小型NWの詳細な数は不明ではある。
 以前の大掛かりな探索でのNW流出には遠く及ばないが、侮る事もできない。

 蟷螂型NWとの戦闘が長引いてアタック・チームが消耗すれば、小型NWは容赦なく彼らを襲うだろう。
「遺跡内の環境から、徘徊、飛行の他に砂中に潜伏している可能性も考えられるでしょう。アタック・チームが蟷螂型NWを倒すまで持ち堪え、出来うる限り小型NW群の掃討をお願いします。
 ただしアタック、スィープの2チームのうち、どちらかの崩壊した時点で『撤退』と考えて下さい。
 状況が状況ですので、残ったチームでチーム戦闘を続行をする事は認めません。速やかにもう一方のチームの援護に当たり、撤退して下さい。以上です」

●今回の参加者

 fa1616 鏑木 司(11歳・♂・竜)
 fa1761 AAA(35歳・♂・猿)
 fa2429 ザジ・ザ・レティクル(13歳・♀・鴉)
 fa2572 キング・バッファロー(40歳・♂・牛)
 fa3126 早切 氷(25歳・♂・虎)
 fa3425 ベオウルフ(25歳・♂・狼)
 fa3797 四條 キリエ(26歳・♀・アライグマ)
 fa3957 マサイアス・アドゥーベ(48歳・♂・牛)
 fa4077 槙原・慎一(17歳・♂・鷹)
 fa4468 御鏡 炬魄(31歳・♂・鷹)

●リプレイ本文

●早々の重労働
「‥‥どうして、こんな事になってるんでしょう」
「‥‥何故かしらねぇ」
 肩を並べて歩くのは、鏑木 司(fa1616)とAAA(fa1761)。
 岩が転がる道の先で、軽々と歩を進めていたベオウルフ(fa3425)が振り返った。
「どうした。もうバテたか」
「バテるわよ。重い荷物に、山歩き‥‥これでもあたし、か弱いオトメなんだから」
「‥‥すまん。今のは、聞こえなかった事にしておく」
 踵を返し、ベオウルフは再び歩き始める‥‥肩には自分の荷物を担ぎ、両手には水の入ったポリタンクを提げて。そしてAAAと司もまた、同じようなポリタンクを一つずつ運んでいた。
「ごめんね。遺跡まで、バイクが入れないとは思わなくて」
 苦笑して謝る四條 キリエ(fa3797)は、自分の荷物で手一杯で。
 他の6名も半獣化や完全獣化を前提とした装備量の為に、他の荷物を運ぶ余裕はなく。
 必然的に、比較的荷物が少なめで身軽だったAAAと司、ベオウルフの三人がタンクを運ぶ事となった。
「遺跡に入るまで、獣化する訳にはいかないしね」
『目的地』を前に、ザジ・ザ・レティクル(fa2429)が小さく呟く。
 山腹の建造物。その地下に続く、石の階段。
「足元、気をつけてね」
「はい。ありがとうございます」
 AAAの気遣いに頭を下げた司は、タンクの中の水を揺らしながら一段づつ闇への階段を降りた。

「作戦は確か、囮を以て誘導し、四條と槙原が銃で迎え撃つと言う物だったか」
 揃ったスィープ・チームのメンバーへ、御鏡 炬魄(fa4468)が確認する。
 第一階層から第二階層へと続く通路の出口部分が、現状での拠点となっていた。
 槙原・慎一(fa4077)は、Coolウッズマンのグリップを確かめるように軽く握る。
「俺、完全獣化するのって初めてだなぁ‥‥そういえば」
「ん〜‥‥まぁ、気楽にやればいいだろう」
 岩壁にもたれた早切 氷(fa3126)がひらりと手を振り、顎に手を当ててキング・バッファロー(fa2572)が考え込んだ。
「早切、マサイアス、ベオウルフ、そして俺がアタック・チームへ小型NWが向かわぬよう、防衛線を張る形だな」
「わしらを越えては行けぬと、判らせればよいのだ。もっとも、それだけの事を考える頭があれば、であるがな」
 緊張を吹き飛ばすように、呵呵とマサイアス・アドゥーベ(fa3957)が笑い飛ばす。
「その前に、水を撒かないとね。足場がマシになるかどうか、ちょっと判らないけど」
 キリエが目をやった先では、時おり吹きつけてくる風が砂を舞い上げていた。
「効果、出るといいですね」
 苦心して持ってきたポリタンクを、司が見やる。
「えーっと、じゃあ囮はアタシと司君と、AAAさんと‥‥炬魄さん?」
 指折り数えるザジに、炬魄が首を横に振った。
「いや、俺は四條と槙原のサポートに回ろう」
「あ〜‥‥そっか、その方がいいね」
 件の二人の表情からザジは意図を察し、納得する。
「銃を使う者は、せいぜい味方の背中を撃たない様に気をつけることだな」
 炬魄の軽口に慎一は真剣な表情で頷き、キリエは微妙な表情を浮かべた。
「あたしとしては、もー少しアタック・チームと話を詰めたかったところだけど」
 もう一団の仲間を見やって、AAAは嘆息する。
 交換できたのは、作戦の基本趣旨のみで−−双方の行動に綿密な連携はなく、あるのは「片方が崩れれば、撤退」というWEAが付けた最低条件だけであった。

 やがて、作戦開始の時間となり。
 必要な『準備』を終えた10名は、アタック・チームの8名と共に『行軍』を開始する。
 低い唸る様な音が響き、乾いた風が18名の間を吹き抜けた。

●分かつもの

 −−獲物ガ、キタ。
 視覚でも聴覚でもなく、彼らの本能がそう告げた。
 −−獲物ガ、キタ。
 首を巡らせ、節足を蠢かし、羽を広げ、『死』が闇の中から這いずり出す。
 −−タクサンノ、獲物ガ、キタ。
 その空腹を満たす為に、『生』という光に向かって。

「小型NWの群れがくるわ!」
 アタック・チームから飛んだ警告に、スィープ・チームが足を止めた。
「こっちは任せてよ!」
 蟲の群れに邪魔をされるより先に駆け出した仲間の背へ、ザジが声援を送れば。
 彼女の友人が振り返り、ウィンクを投げる。
「‥‥コインの表、ミカ姉さまの背中は、アタシが守ってみせる‥‥!」
 遠ざかる背を見送る彼女はGlockenspiel17を握り直し、闇色の翼を広げた。

 ワァァァンと耳障りな羽音の群れが近づき、あるいは遠ざかり。
 ヘッドランプの光が交錯し、マズルフラッシュが閃く。
 そんな中、ポリタンクの水を撒きながら、キリエが愚痴をこぼしていた。
「まだ準備が終わってないのにーっ!」
「得てして、そういうものだ。槙原、まだ水の入ってるタンクをあっちへ投げろ」
「え‥‥これを?」
 炬魄の指示に表情に疑問符を浮かべつつ、慎一は水の詰まった−−それでも、獣化した腕には軽いタンクを宙へ投げ。
 振るわれた大鎌が、そのタンクを空中で両断する。
 水を撒き散らしながら、真っ二つになったタンクは砂の上に落ちた。
 乾いた砂は水溜りを作る事もなく、見る間にそれを吸い込んでいく。

「いった〜いっ! もうっ、こいつらムカツク〜っ!」
 小型の蟲の群れに、ザジが38口径の軽量銃を乱射する。
 黒い甲虫が飛ぶスピードは翼を持つザジや司よりも若干早く、油断すると群れにあっという間に囲まれてしまう。
 高速で激突してくる甲虫も痛いが、身体に止まった蟲はもっと厄介だ。
 空中の囮役二人が苦戦する一方で、地上の囮役AAAは上手く群れをやり過ごしていた。
 飛び回る相手だけに、『飛行ルート』を避けてしまえば反転してくるまでの時間が稼げる。
「こうなると、多少『足』が遅い方が囮はやり易いわね‥‥二人とも、無理はしないで!」
 彼の呼びかけが、二人にちゃんと届いているかは、判らない。
「こりゃあ‥‥虫取り網でも持ってきた方が、早かったんじゃないか?」
 苦々しげに、氷がそんな冗談を口にし。
「まぁ、あの速度と硬度では破られるのがオチであろうな」
 冷静にマサイアスが分析する。
「そんな、暢気な事を言ってる場合かっ。これでは、壁とか包囲とかいうレベルじゃあないだろう!」
 声を荒げ、ベオウルフは口唇を噛む。
 群れる蟲の群れは既に雲霞のようで、小柄な姿を覆い隠さんばかりの状態だった。
「これでは、キリエや慎一が撃てない。もういい、二人とも降りて来い!」
 キングが叫ぶが、返ってくるのは銃声ばかりで。
「こっちもお願いねーっ!」
 自分に向かう群れを上手く誘導してきたAAAが、彼らの元へ駆け込んでくる。
「うおぉぉぉーっ!」
 雄叫びと共に、マサイアスは『高揚炎気』−−周囲の者の気分を高揚させ、行動を能動的にさせる能力を発動した。
 巨躯から炎を思わせる赤い陽炎のようなオーラが吹き上がり、彼を中心として波の様に広がっていく。
「アタック・チームへ向かうNWは、一匹残らず叩き潰してくれる!」
 ソードとオーラソードを携えたキングが吠え、蟲の群れへと切りかかる。

 慎一とキリエも銃の引き金を引き、少しでも蟲の群れを減らそうとしていた。
 もっともキリエの腕では、群れた相手でも次々と打ち落とすに到らないが。
「水を撒いたのはいいけど、前より動き辛くないかな?」
「全部吸い込まれちゃったし、ぬかるんでないと思うけど‥‥」
 不意に慎一から言われたキリエは、手を止めて足元の砂へと視線を落とし。
「なっ‥‥何これぇ!?」
 素っ頓狂な声を上げるキリエに、鎌を振るって蟲を叩き落していた炬魄が振り返った。
「二人とも、そこから離れろっ!」
「え、うわっ!」
 慎一もバランスを崩しかけ、慌てて翼を打って舞い上がる。

 水を撒いた砂の中から、次々と黒い蟲が這い出していた。

●暗転

 −−パンッ。
 乾いた炸裂音と共にガラスが割れ、砂の上に倒れたランタンの炎が消える。

 −−パンッ。
 激突した甲虫はプラスチック版と薄いガラスを割り、電灯が消える。

 −−パンッ。
 −−パンッ。
 一つ音がするたびに。
 飛び交う蟲によって、次々と光が奪われていく。

 ぽぅと現れた淡い光が一瞬のうちに扇状に広がり、その群れの一角を切り開く。
 不本意ながらも完全獣化していた司だが、今だけはその選択に感謝していた。彼の唯一の広域攻撃手段『波光神息』は、完全獣化でないと使えないのだ。
 煩い蟲の群れを振り払った司は、一緒に囮をしていた少女の明かりが見えない事に気付く。
「ザジさんっ!」
 呼べど答えはなく、ただ銃声が暗闇に響く。
 自分の在り処を知らせるように、司は銃声の方向に『波光神息』を放った。

 今や、頼りになる灯りは二振りの剣の光のみだった。
 氷の振るう『ライトバスター』とキングの持つ『オーラソード』が、鋭い視覚を持つ者達を助けている。
 だが、それでも彼らは引かず。
「くっ‥‥弾切れ!?」
 いくら引き金を引いても黙したままの銃に、慎一は武器を十握剣に持ち替え、砂に蠢く蟲達を切り払う。
「こっちも打ち止めだ。だが、まだまだぁ!」
 44マグナムを湧き出る蟲の群れに打ち込んだキングが、砂に突き立てたソードを掴み、再び蟲へと突き立てる。
「しつこく沸いてくるんじゃねぇ!」
 ベオウルフは、飛び交う蟲を正確な拳で次々と叩き落し。
「面倒だから、しつこく寄ってくるな‥‥いや、寄ってきた方がいいのか?」
 眉根を寄せて考えながらも、氷はその手を止めない。
「何としても、こいつらはわしらが引きつけるのだ!」
 漆黒の槍『黒十字』を振り回しながら、マサイアスは『高揚炎気』を繰り返し発動させ。
 取り付いた蟲が負わせる傷も些細な事と、彼らは構わず武器を振るい続ける。

「これでは埒が明かない‥‥四條、明かりの予備はあるか!」
 足を這い登ろうとする蟲達を踏みつけながら、炬魄がキリエを呼ぶ。
「え‥‥持ってないよ。割られた、ヘッドランプだけ‥‥」
 キリエは銃を撃ち続けて痺れた腕を庇いつつ、取り付く蟲を払い落としていた。
「ねぇ、ツカサとザジは戻ってない!?」
 囮役で若干息が上がったAAAが、二人の元へ走ってくる。
「いや、まだ戻っていない‥‥判らないのか」
 炬魄の返答に首を横に振り、いつになく真剣な表情で彼は眉を顰めた。
「明かりもなく、弾薬もなく、体力も消耗しているわ‥‥みんな少しエキサイトし過ぎているけど、この状況は宜しくないと思うわよ」
「どうすれば‥‥」
 妙案も浮かばず、キリエはとにかく集ってくる蟲を払い落とす。
 その間にも慎一が膝をつき、慌てて彼女は助け起こしに走った。
 他のメンバーも無数に傷を作り、表情には疲労の色が滲んでいる。
「あたし、あの子達を探してくるわ!」
「待て、AAA。バラバラになるのは不味い」
 踵を返すAAAを、炬魄が呼び止め。
 そこへ淡い光の波動が走り、彼らに群れる蟲を吹き飛ばした。
「AAAさんっ!」
「ザジっ、ツカサ!」
 肩を貸し合いながら歩いてくる少年少女に、AAAが急いで駆け寄る。
 小柄な身体のあちこちに、蟲による噛傷が残されていた。
「よかった。『波光神息』‥‥もう、今のが最後で‥‥」
「ライトが割られて、明かりが見えなくて‥‥ごめん」
 悔しげにぎゅっと唇を噛むザジの肩へ、元気付けるようにAAAが手を置く。
 そして、不意に‥‥闇の奥へと振り返った。
「どうした?」
 彼の様子に、炬魄が怪訝そうに尋ねる。
「『知友心話』‥‥アタック・チームのコが、こっちの異常を心配しているわ」
 一瞬の、重い沈黙。
 そしてAAAと炬魄は、決断を下した。

●撤退
 人工の明かりが舞い降りる。
 放たれた『破雷光撃』が砂の上に広がる蟲達を焼き、弾き飛ばす。
 疲れ、弱った『獲物』へと群がっていた蟲達は、僅かな充足と新手の出現を天秤にかけ、生きるためのごく自然な判断を選んだ。
「地上に戻ったら、救護班を呼ばねばな」
 重々しくマサイアスが呻き、キングは黙って頷く。
 重い怪我を負った者はいないが、無傷の者もおらず。
 痛む身体を叱咤しつつ、誰もが無口に先を急ぐ。

 −−そして彼らは、砂の世界から撤退した。