EtR:戦痕の後ヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 フリー
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/07〜10/10

●本文

●状況確認
「今回の探索では、先日行われた蟷螂型NW討伐の後の状況確認と、引き続いての第二階層の調査が目的となります」
 ブリーフィング・ルームで説明を行うWEA係員は、「ただ」と言葉を濁す。
「現状では、まだ蟷螂型NW討伐についての成果報告が上がっていません。あまりあってほしくない事ですが、先の蟷螂型NW討伐が失敗に終わった場合は、残存するNWの動向を確認し、把握しなければなりません。
 調査続行が可能な場合は、第二階層の更なる調査と、調査の障害となるNWの排除を。もし再度、中型あるいは大型NWと遭遇した時には、次のアプローチの為の情報を集めなければなりません。
 その為、状況によってはその場の判断で、臨機応変に行動していただく事となります」
 言葉を切った係員は、ひと息置いてから先を続ける。
「最後に、現在までの状況を纏めておきます。
 過去の探索においては、第一階層からの通路の終点、即ち第二階層の入り口をキャンプとしています。
 第二階層は探索範囲全域が砂に覆われており、岩壁には第一階層と同じく壁画が発見されました。また、遺留されたオーパーツも数点報告されています。
 なお第一階層で発見された『黒い塊』ですが、第二階層での発見報告は−−欠片を含めて、未だありません。ただ地面が砂地ですので、欠片を探索する事は容易でないと考えられます」
 仲間によってもたらされた情報を、集まった者達はじっと耳を傾け‥‥あるいはメモを取り、探索への準備を始めた。

●今回の参加者

 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa1797 小塚透也(19歳・♂・鷹)
 fa2010 Cardinal(27歳・♂・獅子)
 fa2572 キング・バッファロー(40歳・♂・牛)
 fa3161 藤田 武(28歳・♂・アライグマ)
 fa3843 神保原和輝(20歳・♀・鴉)
 fa4468 御鏡 炬魄(31歳・♂・鷹)

●リプレイ本文

●Set a trap
「やっぱり、よく判らないのよね‥‥この場所が、何なのか」
 人工の灯りの下で、富士川・千春(fa0847)が枝を組み合わせてつくられた冠−−ペルセポネの冠をひっくり返し、透かし見たりしていろいろと検分していた。
「ここが『冥府』なら、ハデスの妻のペルセポネとも何か関係あるかなって思うんだけど‥‥今のところ、何もないのよね‥‥」
「ここが『冥府』だと仮定するなら、『ケルベロス』に相当するモノとも遭遇していない事になるな。それに‥‥少なくともここでは、『冥府のザクロ』すら育ちそうにない」
 相変わらずのサングラス越しに、御鏡 炬魄(fa4468)が一面に広がる砂を見やり、装備を確かめるCardinal(fa2010)も手を止めた。
「この状況はむしろ、『パンドラの箱』のようなモノが開いた‥‥といった感が近いと思うがな。俺は」
「『パンドラの箱』って、アレだろ。様々な災厄が飛び出した後、最後に希望が残ってるっていう‥‥希望、残ってそうかなぁ」
 ぽしぽしと、小塚透也(fa1797)は頭を掻いた。遺跡には死と静寂が満ちるばかりで、希望に値するような気配は、砂の粒ほども感じられない。
 這い回る捕食者、異形の蟲の群れを踏み越えて行った闇の先に、何があるのか−−。
「雰囲気的にはむしろ『冥府』か、それを飛び越えた奈落、『タルタロス』‥‥そんな感じよね。やっぱり」
 冠を再び黒髪に載せ、千春は一つ嘆息する。
「結局は、先に進んでみないと判らないって事よね」
 黙って推論の一部始終を聞いていた神保原和輝(fa3843)が顔を上げた。
「その為にも‥‥」
 眼前に広がる圧倒的な闇を見据えるように、彼女は黒い瞳を細める。

「えーっと、コレをコッチに引っ掛けて、アレをアッチに‥‥あれ?」
「‥‥何をしてるんだ?」
 棒と黄金のマントと紐を相手に苦戦していたベス(fa0877)は、声をかけるキング・バッファロー(fa2572)と「ぴよ?」と小首を傾げて見上げた。
「相談、しないの?」
「ああだこうだと判らん事を論じるよりは、ガツーンと殴る方が性に合っているからな」
「ふ〜ん。あ、キングさんのそれは、何するの?」
 彼が大量に持ってきた木の束に、今度はベスが問い返す。
「キャンプファイアーのように出来るだけ大きな炎を作って、それでNWを誘き出せないかと思ってな」
「それって、可燃性のガスとか大丈夫かしら」
 ちょっと不安げに、藤田 武(fa3161)が聞く。
「‥‥ガス?」
「下の僕らには問題なくても、広場の上の方に溜まっている可能性とか‥‥そうでなくても、空気の対流し難い閉鎖空間で大きな炎を長時間維持し続けるとなれば、急速に空気が汚れる気がするね」
「そこまでは、考慮していなかったな」
「ぴえ〜。武さん、物知り〜」
 感心してベスがしげしげと見上げ、照れたように武は首を横に振った。
「戦闘とかは、苦手だけど‥‥演出とか道具作りとかの裏方仕事なら、ね。そういえばそれ、もしかして何か作ろうとしてたり?」
 今まで格闘していた物体を指差され、ベスはこくんと頷く。
「うん! 黄金のマントに光を反射させてキラキラさせたら明るくて、小型NW寄せにならないかなって。でも、上手く作れなくて」
 小さく舌を出しておどける少女に、武が腕組みをして少し考え。
「よかったら、僕も手伝っていい?」
「ぴよ? いいの?」
「うん。上手く出来るか、判らないけど‥‥」
 控えめに言う武に、きらきらと目を輝かせるベス。
「ぴ! 手伝って手伝ってー! さっきからこんがらがっちゃって、ぐちゃぐちゃでごちゃごちゃなんだよ」
「どれどれ?」
 慣れた手つきで、武はまず骨組作りから手伝い始める。
「でも、コレに反射させる光は?」
「ぴ? 一応、懐中電灯を持ってきたけど‥‥壊されるかな」
「う〜ん‥‥壊れない灯り‥‥ねぇ」
 彼は周囲の『材料』を見ながら、考え込んだ。

●Encounter
 調査は緩やかに−−『黒い塊』の破片が微量でも落ちていないか、あるいは砂の中から小型NWが現れないか、確認しながら進む。
 だが以前に調査した以上の新たな結果は得られず、小型NWや蟷螂型NWによって遮られたエリア‥‥第一階層と体感で比較するならば、階層のほぼ中央か、それより少し手前まで進む事となる。
「といっても、第一階層より狭い可能性も広い可能性も、両方あるんだよな」
 最近脳みそをフル稼働し続けて熱が出そうな透也が、砂に足で簡単な図を描いた。
「灯りを消して静かに移動しても、蟷螂型NWやそれ以外のNWが出る可能性もあるよね。となれば、灯りがない状況は不利‥‥と」
 岩壁に描かれた壁画を眺めながら、和輝が呟く。
「そうなるな。いくら『鋭敏視覚』でも何らかの光源がないと暗視も届かないし、それがない者は尚更、か」
 大きく息を吐いて、炬魄がモウイングを肩に担いだ。
「いずれにしても、行かねばならぬものなら、行かねばなるまい」
 どこか、哲学者めいた言葉をCardinalが紡ぐ。
「命あっての物種だから、手に余るようなら何をおいても皆で脱出、ってことで。それから、タケ。これ、持っててくれ」
 透也の差し出す小瓶に、武は不思議そうな顔をする。
「ヒーリングポーション。何かの時は、よろしくな」
「怪我したら‥‥飲ませるの?」
「いや、違う。違うからっ!」
 不穏な想像が一瞬頭に過ぎって、真っ青になった透也がブンブン頭を振る。その様子に、思わず武は明るい声で笑い。
「ごめんごめん。逃げて‥‥外に知らせろって、事だね」
「ああ、よろしくな」
「うん。預かっとくよ」
 やや緊張気味に、丁寧に武は無色透明の瓶を荷物に納めた。

 移動を始めた者達に続いて、和輝も壁画から離れ‥‥ライトの光が掠めたモノに、ぎょっとして身を竦める。
「‥‥和輝さん?」
 彼女が付いてこない事に気付いて千春が振り返り、透也も足を止めた。
 何かを警戒しながら、ゆっくりと和輝は後退り‥‥そのライトが示す方向、光が照らしきらぬ先を見て、透也もまた息を飲む。
 反射して、黒光りする甲殻。
 その所々に、擦れたような傷や弾痕が見受けられる。
 薄羽を覆う硬い羽は捻じ曲がり。
 見える後足のうち一本は、途中で千切れ‥‥。
 じっと静かに伏せて動かずにいたソレは、一行に気付いたように鎌首をもたげる。
 動き出した蟷螂と透也の声に、他の者達も気付いて振り返った。
 手負いのNWはのそりと一歩を踏み出し、すぐに光の届く範囲−−誰もが認識できる距離まで接近する。
「ど‥‥どうしよう!?」
「どうするもこうするも」
 不意の出現に驚く武に、キングは双剣を抜き。
「気付いちまったモンは、やるしかないだろう」
 起き上がった蟷螂は、獣人達を牽制するように一本しかない大鋏を向ける。
「何で、こんな所に‥‥例の、小型NWは?」
 透也の問いに、千春が首を横に振る。
「羽音らしいのは、今のところ聞こえないわ」
「ならば、状況はこちらが有利だな」
 翼を広げ、炬魄が大鎌を構える。
「念のため、小型NWにも備えてもらえるか。今はいないが、いつ現れるか判らない」
 一時的に闘争本能を引き出す粉末『アクセル』を使うCardinalに、千春は頷いた。

●Revenge
 振り回される大鋏を避け、鷹の翼を広げた透也が限られた空間を飛んで蟷螂型NWを牽制する。
 一方、灯りも研ぎ澄まされた視覚も持たない炬魄は、地上の格闘家二人を援護する形となっていた。
「登ってやるから、大人しくしろっ!」
 無茶な注文をつけながら、キングが蟲の後足の一本を掴む。
 が、彼は元より身軽ではなく、動き回る相手はプロレスのように組み伏せられる様な体躯でもない。
 飛べないにも関わらず羽をばたつかせ、蟷螂は動きを封じようとする者達を踏みつけ、蹴り飛ばそうとする。
「先ず、動きを封じよう。いくら甲殻が頑丈でも、関節の節目はそうでもない‥‥断てるか?」
「判った」
 Cardinalの言葉に、炬魄は大鎌を構えた。
 一本しかない側の足を、Cardinalがタイミングを見て掴み。
「やれ!」
 曲がった関節の部分を狙って、すかさず炬魄がモウイングを振るう。
 ガッキと硬い音がして、湾曲した刃が甲殻で止まるが。
 翼を打って飛び上がり様、切っ先を引っ掛けるように、関節の隙間に潜り込ませる。
 ブツッと、柔らかい箇所を裂く手ごたえ。
 その破損をCardinalが怪力で捻り、節が引き伸ばされ。
「喰らえっ!」
 鎌の重さと体重を乗せて、炬魄は追い討ちの刃を振り下ろす。
 そしてバランスを失した蟲は、どぅと砂の上に腹を落とした。
 足掻く大鋏をキングが掴まえて、更に抵抗を封じ。
「これで終わりにしてやる!」
「いっくよ〜っ!」
 透也とベスは翼から抜き取った数本の羽根を束ね、蟲の頂に輝くひび割れたコアへと放つ!
 放たれた『飛羽針撃』は、楔の如く亀裂を穿ち。
 ヒビが拳大のコア全体に広がったかと思うと、あっけなくソレは砕け散った。
 力を失い、重くのしかかる大鋏を、キングが脇へと放る。
「終わったか」
「こいつは、な」
 Cardinalが緊張をほぐす様に肩を回し、炬魄は動かなくなった死骸に深く息を吐いた。

 円に組んだ木々へ、Cardinalが用意したランタンから和輝が火を移す。
 やがてパチパチと木が爆ぜる音が響き、武は黄金のマントを張った傘のような物体の向きを調整し、取り出した『黄金の枝』を千春が砂に差した。
「くるかな〜、どうかな〜」
「上手くいくといいね‥‥そろそろ、灯りを消すよ」
 キョロキョロと辺りを見回すベスに告げて、武はヘッドランプのスイッチを切る。
「きたわ」
 耳障りな音を千春が聞きつけ、『ライトオンターゲット』の粉末を服用した。
 間もなく、小さな蟲達は炎に突っ込み、あるいは光を反射する金色のマントに激突し。
 そこへ雷が走り、銃弾が打ち込まれた。
 群れのうちの、幾らかの蟲が弾き飛ばされる−−だが。
「‥‥当たってない弾も多いようだが、気のせいか」
「質より量よっ」
 状況を観察していたキングに、千春が反論した。
 両手に持った二丁のIMIUZIを同時撃ちで掃射する彼女だが、薬の力を借りても銃口は明らかに『踊って』いる。
 狙いのつけきらない弾丸が、反射板代わりのマントに幾つもの穴を開け、骨組みの一部を砕き。
「あいつらが灯りを俺達だと思っているなら、囮としては十分だろう」
 群れから離れて飛来する蟲を叩き落しながら、炬魄が千春の肩を掴んで止める。
 NWは雲霞の如く‥‥という様な規模の群れではないが、能力の回数と弾数から考えると、完全に掃討するには些か時間がかかりそうだった。それに、地中のNWも群れて現れる程でもなく、この先にどれだけのNWがいるかも判らない。
「まぁ、確かにこの先が気になるよな‥‥今後の調査の足がかりを、見つけないと」
 闇を見透かすように、透也が目を細めた。

『仕掛け』が持つ間に一行は先へと進み、注意深く再び明かりを点ける。
「ぴ〜‥‥『黒い塊』が卵だとして、蟷螂なら木の枝とかに産み付けるし、天井に張り付いたりとかしてるかな?」
 背伸びをしながら、砂地や天井に明かりを向けるベス。
「木、見当たらないけどね。それに蟷螂の卵なら、もっとこう‥‥ぶわっとしてる気がするわ。第一、あのNWより『塊』の方が大きかった‥‥のよね?」
 千春の指摘に、ベスは「う〜ん」と唸って考え込む。
「それにしても‥‥代わり映えのしない光景だな」
 相変わらず変化の少ない砂地を、キングが踵でならす。
「壁とか、調べてもいいかな‥‥さっきの蟷螂みたいなNWも、壁の方にいたし」
 透也が提案し、漠然と進み続けるよりはと一行は中央部を離れた。

●Lost man
 岩壁には、特に異常や仕掛けなど見つからず。
 そして、壁画も描かれてはいなかった。
 ただ‥‥。

「あれ、何だろう?」
『望遠視覚』で可能な限りの距離を『見て』いたベスが、首を傾げる。
「蟷螂の卵でもあったか?」
 冗談めかす炬魄へ、少女は首を振り。
「何だろう‥‥あれ」
 そんな呟きを、繰り返す。
「気になるなら、行ってみるか? どっちだ」
 Cardinalとベスが前に立つ形で、奥へと進む。
 そして、一行はソレを発見した。

 小さな像が、一振りの刀を支える様に置かれている。
 明らかに何かの意図を持って置かれた物は、砂ばかりの世界で異質に見えた。
「何かしら‥‥これ」
 和輝が注意深く近づき、透也は特徴を頭に叩き込む。
「あの、こんな物が‥‥落ちてたんですけど」
 スコップで砂をさらってみた武が、一枚の紙を光にかざした。
「‥‥メモ帳か?」
 炬魄が武から受け取った紙の、裏と表を返してみる。
「他にもあるかな?」
「土の中のNWに、気をつけて」
 砂を探ってみる透也に、和輝が注意を促す。やがてボロ布や壊れた筆記具、そして黒い手帳が砂中から見つかった。
「なんて書いてある?」
「う〜ん‥‥英語かな。これ」
 乱れた筆記体で綴られた文字は、透也にもよく読めない。
「それに、ノドがボロボロで‥‥ページが外れてるんだけど」
 丁寧に拾い上げた手帳は、分解しかけた状態だった。武が最初に見つけたのは、外れたページのうちの一枚だろう。
「どうしよう、これ‥‥地上に持ち帰る?」
 思案顔の千春が一同に問うが、炬魄は首を横に振った。
「文字‥‥という事は、この中に情報体が潜伏している可能性もある。このまま地上へ持ち帰るのは、得策ではないだろう」
「そうだな‥‥ひとまず元に戻して、後の事はWEAと相談するとしよう」
 キングが腕時計を確認する。調査に与えられた時間は、残り少ない。
「じゃあ、飛んでいかないように‥‥埋めておきますね」
 武が拾ったボロ布で丁寧に閉じた手帳を包み、像の傍に埋めた。