世界祭探訪録 秋の特番ヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 1.4万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 10/19〜10/24

●本文

●一年を経て
「今回は秋の特番という事で、二度目の『再会スペシャル』になります」
 資料を配り終えると、いつもの担当者がいつもの口調で説明を始めた。
 通常は、現地へ赴いて開催されている祭をレポートする『世界祝祭奇祭探訪録』だが、今回は趣向が違うらしい。
「タイトルは、『世界祝祭奇祭探訪録 春の特番 再会スペシャル』。
 ご存知の通り、当番組ではヨーロッパの各地でレポートを行ってきました。今回は当時お世話になったステイ先へ、再びお邪魔するという特別企画です。二月に行った特番と主旨は同じですが、放映時間がいつも通りですので、行ける箇所は一箇所か二箇所となるでしょう。
 旅程の順番などの一切は、皆さんにお任せします。無論、必要な手配などはこちらで致しますので
 それでは、どうぞよい旅を」

*参考資料:過去の祭と滞在先
 第1回:ハロウィーン。場所はイギリス、エディンバラのホットフィールド家(会社員)
 第2回:アドベントの魔法。場所はオーストリア、ウィーンのハイドン家(プチポワン職人)
 第3回:ルシア祭。場所はスウェーデン、ムーラのストゥーレ家(ダーラヘスト職人)
 第4回:ジルベスタークロイゼ。場所はスイス、ウルネッシュのケラー家(牧畜業)
 第5回:カルネヴァーレ。場所はイタリア、ヴェネチアのガッティ家(マスケラ職人)
 第6回:サン・ホセの火祭り。場所はスペイン、バレンシアのロマン家(ギター職人)
 第7回:ヴァルプルギスの夜。場所はドイツ、ヴェルニゲローデのボレル家(カフェ)
 第8回:バラの谷の祭。場所はブルガリア、カザンラクのアーレン家(バラ農家)
 第9回:夏至祭。場所はフィンランド、サーリセルカのヴァロ家(国立公園巡視員)
 第10回:レデントーレ。場所はイタリア、ヴェネチアのガッティ家(マスケラ職人)
 第11回:トマティーナ。場所はスペイン、ブニョルのアルバ家(公務員)
 第12回:オクトーバーフェスト。場所はドイツ、ミュンヘンュのゾエ家(ビール醸造)

●今回の参加者

 fa0095 エルヴィア(22歳・♀・一角獣)
 fa0259 クク・ルドゥ(20歳・♀・小鳥)
 fa1032 羽曳野ハツ子(26歳・♀・パンダ)
 fa1851 紗綾(18歳・♀・兎)
 fa2141 御堂 葵(20歳・♀・狐)
 fa3255 御子神沙耶(16歳・♀・鴉)
 fa3728 セシル・ファーレ(15歳・♀・猫)
 fa3846 Rickey(20歳・♂・犬)
 fa4061 寸沢嵐 野原(18歳・♀・アライグマ)
 fa4478 加羅(23歳・♂・猫)

●リプレイ本文

●小さな町での再会〜ブニョル
 バレンシアから列車でほぼ1時間西へ移動すれば、ブニョルへと到着する。
 その短い移動時間にも、羽曳野ハツ子(fa1032)は車窓の光景に夢中になっていた。
「ねぇ、セシルちゃん。あれも、あっちに並んでるのも、全部オレンジの木かしら? 凄いわね〜っ!」
「そうですねぇ」
 一面に広がる果樹園を眺める感想の一つ一つに、笑顔でセシル・ファーレ(fa3728)が相槌を入れる。すっかり『観光気分』の会話を聞くRickey(fa3846)は、笑いを堪えていた。
「大はしゃぎだね、ハツ子さん」
「ええ。でも、気持ちは判るわ」
 頷くエルヴィア(fa0095)も、窓の風景に目を細める。
 幸い天候に恵まれて、緑も眩しい陽光に照らされていた。
「そろそろ、ブニョルでしょうか」
 寸沢嵐 野原(fa4061)が携帯を取り出し、時間を確認する。
「野原さんは、スタッフさん‥‥なのよね。いいのかしら? この番組って『素のまま』を撮るから細かい段取りもないし、むしろ行き当たりばったり上等な感じよ?」
 エルヴィアに気遣われ、携帯を仕舞った野原は急いで緊張気味に頷く。
「はい。それに今回は、『再会スペシャル』ですから」
「でも『再会』という意味なら、私もアルバさん達に会った事もないのよね。バレンシアなら、来た事もあったんだけど‥‥」
 しみじみとハツ子が呟き、返事に窮した彼女は苦笑する。
 やがて列車は開放的な−−言い換えれば、いかにも田舎なブニョルの駅に着いた。

 スペインのブニョルは、8月最後の水曜日に行われるトマトをぶつけ合う奇祭『トマティーナ』で有名になった、小さな町だ。
 ステイ先のアルバ家は両親と息子のキケ、娘のパオラという四人家族。アルバ家があり、『トマティーナ』の会場となったシド通りは、静かな風景が佇んでいる。
「まぁまぁ。皆さん、いらっしゃい! 元気そうで何よりだわ!」
 扉が開かれると、満面の笑みでアルバ夫人が前回と同様に来訪者達を迎えた。
 我が子が帰ってきたように喜ぶ夫人の熱烈な歓迎に、Rickeyも軽くハグを返す。
「お久しぶりです、またお世話になります」
「そんな、遠慮しないで。我が家と思って、寛いでちょうだいな。そちらのお嬢さんも」
「はい、お邪魔します」
「よろしくお願いします」
 ハツ子に続き、野原も「スタッフとして」一礼した。

 お茶を飲み、祭での出来事や近況など取りとめもない話をして寛いでいると、やがてアルバ家の子供達が帰ってくる。
「ただいまー」
 キッチンの母親へ声をかけつつ、リビングにキケが足を踏み入れると。
「だーれだっ!」
「ぅわっ!?」
 突如として現れた、もさもさアフロ頭のピエロ仮面に驚き、思わずキケが飛び退く。
「えへへ。驚きました?」
 仮面を外したセシルが、悪戯っぽくぺろっと小さく舌を出す。
「え‥‥えぇ〜っ?」
「久し振り、また会えて嬉しいよ〜!」
 調度の影から現れたRickeyが両手を広げ、隠れていた他の者達も顔を出す。
「あ〜、びっくりしただろ! も〜‥‥」
 照れを隠すように苦笑いを浮かべて、キケはRickeyと再会の抱擁を交わした。
「私も騙されちゃった‥‥お母さん、黙ってるのずるいよー」
 どうやら、夫人は子供達に再訪を知らせていなかったらしい。兄に先だって騙されたパオラが悔しそうに母親を見やれば、彼女は楽しげに笑う。
「人生にも、たまには『ハプニング』というスパイスがなくちゃね」
「嬉しいハプニングって、素敵ですよね!」
 アフロカツラを外したセシルが、笑顔でデジカメのシャッターを切った。

 無論、アルバ氏も驚かされる羽目になったのは、言うまでもない。

●普通の日常風景
 市場には、スーパーと違って新鮮な野菜や果物、それに肉や魚が剥き出しのまま売り台に並べられている。
 観光を兼ね、アルバ家の子供達と町に出た四人は−−野原はフレーム外で待機している−−市場へ足を伸ばしていた。
 以前に世話になった礼も兼ねて、食事を作ろうというのだ。
「祭の時は凄かったけど‥‥普段は、ゆったりした町なのね」
 こじんまりとして落ち着いた町の風景を、エルヴィアがゆっくりと歩きながら眺める。
「私なんか、『もうトマトまみれはイヤなのですー!』っていう夢を見ましたよ」
 緩やかに波打つ髪を左右に振るセシルに、パオラが笑顔をみせ。
「祭になると、ホントにいっぱい人がくるんだもの」
「聞けば聞くほど、楽しそうなお祭りね。私も参加すれば良かったわ」
 彼女らの会話を聞くハツ子は、残念そうに苦笑する。
「ホント、嬉々として両手のトマトを握り潰すハツ子さんも、見てみたかったわよ」
「エルヴィアさんっ。でもその想像は、間違ってないけど」
 否定しつつも肯定するハツ子に、エルヴィアがくすくす笑う。
 石畳の道を歩くRickeyが不意に足を止めれば、食材を詰めた紙袋を抱くキケが振り返った。
「どうかした?」
「いや‥‥小さいけど落ち着いた、綺麗な町だなって」
 地元のキケは、少し困惑気味の表情で。
「普通の、田舎町だよ」
「その普通さが、いいんだって」
 笑顔で答えるRickeyは、再び歩き始める。

 アルバ家へ帰ると、来訪者達は早速キッチンを借りて料理を始めた。
 夫人の手も借りず、互いに助け合いながら自分達の手で全てを仕上げる。
 そしてアルバ氏が帰宅する頃には、趣向を凝らした料理がテーブルに並んでいた。

「私の故郷ノルウェーの郷土料理、『グラーブラクス』を作ってみたわ。スモークサーモンを使ったマリネなの。砂糖と塩で味付けして、マスタードで食べるっていう‥‥ちょっと独特の味を、是非味わってもらおうと思ってね」
 スライスしたサーモンを、エルヴィアが小皿に取り分ける。
 そしてRickeyは、湯気の立つスープ皿を運んできた。
「俺は、ニューイングランド・クラムチャウダーを作ったよ。これから寒くなるし、具沢山のスープは体も暖まっていいかなと思って」
「セシルはデザートに、焦がしバターとはちみつをたっぷり染み込ませた一口サイズのパンケーキを作ってみました! 美味しく出来てると、いいんですけど」
 熊を模したパンケーキを前に、セシルが少し不安げにクマのヌイグルミを抱く。
「大丈夫。ちゃんと、美味しくできてるはずさ」
 笑いながら、アルバ氏はセシルの頭を撫でる。
「私は、食前酒を用意したわ。勿論、トマティーナにちなんで、コレね」
 ハツ子はその場で、ウォッカとトマトジュースを軽くステアしたブラッディマリーを作る。
「リクエストがあれば、他にもカクテルを作っちゃうわよ。でも、子供達はトマトと野菜のジュースね」
 セシルやパオラ、それに野原に向けてウィンクするハツ子。
 それに野原の作ったイカ飯を加えて夕食が始まり、セシルがカメラのシャッターを切る。
 ブニョルの夜は、賑やかに更けていった。


●迷ひ路都市〜ヴェネチア
 一方、もう一つの『再会地』となったヴェネチアでは、五人が仲良く迷子になっていた。
「帰りに、迷子になると思ったんですけど‥‥そこの橋は、渡りましたよ」
 道を覚えながら歩く加羅(fa4478)が、率先して迷いに行く女性陣へ声をかける。
「だって、迷うのも楽しいし!」
「あはは、だよね〜っ」
 力説するクク・ルドゥ(fa0259)に、紗綾(fa1851)が声を上げて笑う。
「ねぇねぇ、ゴンドラに乗りませんか?」
 運河を滑る舟へ、御子神沙耶(fa3255)が手を振って主張し。
「いっそゴンドラを使った方が、市場に着けそうですね」
 不意に呟く御堂 葵(fa2141)に、加羅も頷いた。
 一家への礼に食事を作ろうと、材料を買いに市場へ向かったはいいが、観光気分もあって道はなかなか進まず。過去の滞在で多少の『土地勘』がある葵も、感覚が狂う。
「折角ですし、俺も色々な建造物をのんびり眺めたいです。街全てが、まるで芸術品ですから」
「それなら、水上バスのヴァポレットに乗ろうよ! 運河沿いに歩いていけば、乗り場に出るんじゃない?」
「それも楽しそうです」
 やはりククと紗綾が連れ立って先頭を切って駆け出し、沙耶が後に続く。
 葵と加羅は苦笑を交わすと、三人の後を追った。

「帰りました〜!」
 マスケラが並ぶ店の扉を開ければ、若い主が顔を上げる。
「おかえり。遅かったね」
「うん。また、迷いましたっ」
「おやおや。お疲れ様」
 明るく報告するククに、笑ってガッティ氏が肩を竦めた。
 誰もが知るイタリアの観光都市ヴェネチア。ステイ先となったガッティ家は、マスケラ職人の一家で、老ガッティと夫婦、そして春に生まれた一人息子の四人家族である。
 五人が店からリビングに移動すれば、夫人が息子の揺り篭を揺らしていた。
「あら、おかえりなさい」
「ただいま〜。カルロ君もただいま‥‥って、うしゃぎの耳は齧っちゃダメだよぅ〜」
 揺り篭を覗き込んだ紗綾が、さめざめと泣く。
 やっと首が据わった赤ん坊は、以前に紗綾があげた黒兎のぬいぐるみの耳を咥えて遊んでいた。夫人曰くは、「そろそろ歯が生える頃で気になる」らしい。気に入ってもらえるのは嬉しいが、兎獣人の彼女にとっては何だか身につまされる。
「それでは、キッチンをお借りします」
 食材が入った紙袋を抱えた加羅が会釈をすれば、夫人は「ええ」と笑顔で答えた。
「お昼、楽しみにしているわ」

「ククさんが惣菜三品で、俺が栗御飯とデザート。お昼御飯なら、十分でしょうか」
「あたしは、お抹茶を淹れるね。お料理は苦手だけど加羅さんがいるし、お茶ならお腹‥‥壊したりしないよね?」
 段取りを確認する加羅に、おずおずと紗綾が尋ねる。
「はい。それに、お茶の事なら任せて下さい」
「それでは、こちらは料理のお手伝いだけですみそうですね」
『味見役』は不要とあって、葵はいささかほっとした様子をみせた。
「あの、私はもう少し街を散策してきます」
 料理に関わらない沙耶は、いそいそとガッティ家から出て行く。その後姿に、四人は奇妙な表情を浮かべ。
「彼女はどうやら、本当に『観光』にきたようです」
 やれやれと、加羅が苦笑した。

●アルターナの上で
 足元に気をつけながら階段を登ると、暖かい陽だまりに出る。
 細長い建物の屋上に設置された『アルターナ』と呼ばれるバルコニーでは、ガッティ家の人々が既に席についていた。
「お待たせしました。栗御飯です」
 鍋を別のテーブルに置いた加羅が蓋を取れば、湯気と共に香りが膨らみ、興味深げにガッティ氏が鍋を眺める。
「いい匂いだね」
「茶碗代わりに、こちらを使わせて貰っていいですか?」
「ええ、どうぞ」
 夫人の快諾を受けた葵は、持ってきたミルクボウルを加羅に渡す。
「はい、こちらもお待たせ〜」
 次に大きなトレイに小鉢を並べて、紗綾とククが現れた。
「これは、出汁に漬け込んだ鴨ローススライスと水菜を、別の出汁で一煮立ちさせた後に冷ました「鴨のハリハリ」。
 それから、湯通ししたナメコ、塩もみしてゆでた後で冷やして薄切りにしたオクラ、大根おろし、イクラを三杯酢で和えた「イクラとナメコとオクラのおろし和え」。
 全部、ククさんが作ったんだよ」
「こっちが、茹でた白菜の芯と熱湯をかけた干し海老を、柔らかくなるまで出汁の入った鍋で煮込んだ「白菜の白煮」。柚がないから、代わりにレモンを絞って入れて、レモンの皮の千切りをのせてみたの。
 和風出汁を使って仕上げたけど‥‥お口に合うかなぁ?」
「なに、同じ人間が喰うモンだ。おかしい事もあるまい」
 老ガッティの言葉にククは嬉しそうに笑い、陽光の下で和やかな昼食が始まった。

「アクア・アルタって、そろそろシーズンなんだよね」
 カルロに構いながら問う紗綾に、ガッティ氏は「ああ」と答える。
「今夜は新月で大潮だから、明日の朝にはたぶん水位が上がってるよ」
「本当に?」
 目を輝かせる紗綾だが、一方のガッティ氏の表情は芳しくなく。
「凄くないんですか?」
「確かに、水に浸かったサンマルコ広場は綺麗で、観光客は集まるけど‥‥実際は大変だよ? 広場のカフェや他の店は、水が引くまで休業。ゴンドラも禁止。移動も荷物を持って、木板の上を歩かなきゃいけない。それが、年に40回もあれば‥‥ね」
「あ‥‥そっか」
 今更ながらに、ククもぽむと手を打つ。
 観光ならばともかく、住む者の苦労は並々ならぬものだろう。なにせ、水位一つに街全体の将来がかかっているのだ。
「大変なんですね」
 赤茶色の屋根の波へ、沙耶が視線を投げた。
「では、後で工房にお邪魔してもいいですか? 明日がお休みなら、なおの事」
 丁寧に加羅が聞けば、老ガッティはフォークで栗御飯や惣菜を口へ運びながら頷いた。
「好きにするがいい。ああ、それからこの料理、見慣れぬが美味いものだな」
「ありがとうございます」
 頭を下げる加羅。そして。
「あ、あたしも工房を見たい〜!」
「私も〜!」
 次々と、紗綾とククが手を上げた。

「では、食休みを兼ねて‥‥お礼の曲を、一曲演奏するね」
 食事が終われば紗綾がキーボード、沙耶はギターを取り出した。
「ならば私は、合わせて一指し舞いましょうか」
「え、舞うの?」
 目を丸くするククに葵は広げた扇で口元を隠し、くすりと微笑む。
「こちらが『本業』ですから」
「その間に俺は、デザートの柔らかスイートポテトを‥‥カルロ君も、食べられるといいんですが」
 席を立つと、始まった演奏を聞きながら加羅は階段を降りる。

「 沢山の幸せを 風と共に運ぶ船
  澄んだ空に輝くのは 白き導きの光
  星の沈む波間を縫って 辿り着こう
  夢の街へ 貴方の元へ

  Grazie 素敵な時間を過ごせた事 忘れない 」

 穏やかな日差しの中で、伸びやかな歌声が広がっていった。