EtR:更なる前進ヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 フリー
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/22〜10/25

●本文

●Reclamation
 幾度に渡る戦闘を繰り返し、完全でないながらも砂上に蠢くNWは徐々にその数を減らしていると目されている。
 だが未だに第二階層の踏破には到らず、遺跡そのものの全容となると更に推し量る事すら難しい。
 何故、これほど多数のNWが存在しているのか。
 第一階層で発見された『黒い塊』は『何』なのか。どうして出来、何故あの場所にあったのか。
 僅かな手がかりを残した生存者は、『何』を見たのか。
 そして、この遺跡がどれほどの規模と如何なる意味を持つのか。

 −−数多の疑問の答えが、その暗い闇の奥底に待っているのか。

 異形蠢く世界にそれを示す標はなく、答えを得る為には道を切り拓かねばならなかった。
 故に、探索を行う者をWEAは募る。
 隠され続けた答えに到達できる者がいる事を信じ、あるいは祈って。

「今回は、引き続き第二階層の調査を行います」
 ブリーフィング・ルームで、WEA係員は当初より変わらぬ目的を告げる。
「先の討伐によって、NWの数も当初よりは減っているとは思いますが、先の状況が明瞭でない事には変わりはありません。また遺跡や『黒い塊』に関する手がかりを見つけ、あるいは障害となるNWと遭遇した場合は、討伐へ備える為にもその情報を持ち帰る事。
 もしも思う成果が上がらなくても、闇雲に前進するのではなく『無事に帰還する事』を前提に考えて、行動して下さい。皆さんが進んだ一歩、見て聞いた事柄の全てが、次に進む者にとっての重要な手がかりとなります。
 それに、万が一遺跡内部で連絡が途絶えたとしても、すぐさま救出に向かう事は困難でしょうから‥‥」

●今回の参加者

 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa1206 緑川安則(25歳・♂・竜)
 fa1412 シャノー・アヴェリン(26歳・♀・鷹)
 fa2010 Cardinal(27歳・♂・獅子)
 fa3126 早切 氷(25歳・♂・虎)
 fa4468 御鏡 炬魄(31歳・♂・鷹)
 fa4554 叢雲 颯雪(14歳・♀・豹)

●リプレイ本文

●たまには頭の体操を?
「第一階層の壁画って‥‥これよね」
 岩壁に描かれた壁画を前に、富士川・千春(fa0847)は腕組みをして考え込んでいた。
 そのモチーフは、主にギリシャ神話に関するものというのが、WEAの公式見解だ。そしてもう一つ、壁画にはおそらく獣人が残したと思しき爪跡が刻まれている。この痕跡は不思議な事に、『壁画よりは年代が新しいが、暗号解読によって遺跡が発見されるより前』に残されたものであると判明していた。
「で、ここからずーっと奥に進んでいって‥‥『黒い塊』があったんだな」
 暗い空間を眺める緑川安則(fa1206)が、当時の記憶を紐解く。
「そういえば、あなたも参加していたのね」
「ああ。この『ホワイトブローチ』が、その証」
 身に着けた銀で装飾された天然石のブローチを安則が示せば、千春は荷物を探り、無言で手を広げてみせる。掌では安則と同じブローチが、懐中電灯の明かりに鈍く輝いていた。
「まぁ、今も遺跡に出入りしている者は、少なからず‥‥あの探索に協力していたようだしな。かといって探索に参加していた、いなかったは、大した問題じゃあないが」
 一緒に第一階層を見て回っている早切 氷(fa3126)が、暢気に一つ欠伸をした。
 遺跡に足を運ぶ理由は、人によって様々だ。
 探求心や好奇心に、義務感や功名心。
 あるいは、強力なオーパーツのような力を求める−−欲望。
「そういや、救出した調査員達の情報ってのは‥‥公開されてたっけ?」
『黒い塊』の話から不意に思い出して、氷は千春へ尋ねる。
「ええ。でも途中で襲われて、『黒い塊』には辿り着いていないみたいよ」
「ありゃ」
「どちらにしても、あのNWの大発生‥‥元からいたなら、大襲撃かしら。ともあれ、異常らしいけど」
 頭に載せた冠に手をやる千春。その『ペルセポネの冠』も、先の大規模な探索の結果として得たものだ。
「それを言えば、この『下』の状況も異常だな」
 苦笑交じりに、氷が湿った土を踵で蹴る。
「下にも‥‥沢山、NWがいるんだよね」
 不快感を露わにするように、叢雲 颯雪(fa4554)が眉根を寄せた。
「ん。ちっこい蟲が、わんさと」
 氷の解説で想像したのか、ますます颯雪の表情は険しくなる。少女の反応としては、それが普通だろう。
 そんなやり取りを聞きながら、再び千春は岩壁に視線を戻した。
「この壁画が、遺跡が何かを示唆しているものなら‥‥判りやすいのにね」
 だが壁に描かれた人物達は、何も語らない。
 嘆息し、千春はダウジングマシーンを取り出した。
 L字型をした金属製の二本の棒を、右手と左手に一本ずつ握る。
 そのまま意識を集中する事、約6分。
 平行になった棒は、揃ってある方向へ、静かに動いた。
 クロスしたり、広がったりする棒の動きを頼りに歩き回ってみるが、示すのは仲間達が持つオーパーツか、あるいは掘り起こしても何もない場所。ダウジングマシーンの特性は『半径100m以内で、最も近いオーパーツの方向を指し示す』以上、仕方がない。
「手がかりなし‥‥ダメね」
「ん〜‥‥そろそろ、向こうの作業も終わる頃じゃないか?」
 地面に置いた−−結界を張っていたパラディオンへ氷がぽんと手を乗せ、安則が腕時計で時間を確かめる。
「そうだな」
「じゃあ、戻ろっか」
 手頃な岩に登って辺りを見回していた颯雪が、ぴょんと湿った土へと飛び降りた。

●こちらも頭脳労働中
 透明のフィルムを手にしたシャノー・アヴェリン(fa1412)は、それを見つめたまま身動き一つしない。
 否、注意深く見れば、彼女の青い瞳は左から右、右から左へと忙しく動いていた。
 フィルムに挟まれた手帳のページの最初から最後までを黙読し終えると、それを裏返してもう片方のページに視線を走らせる。
 そんな作業を、彼女は既に十数分は繰り返していた。
「‥‥次を‥‥」
 短い言葉に、御鏡 炬魄(fa4468)はシャノーから既読のページを受け取り、代わりに未読のページを手渡す。
「この効果時間が終わったら、一休みかな。明るい場所じゃないし、ずっと集中しっぱなしだとシャノーさんも疲れるよね」
 両手に持った懐中電灯とペンライトでページを照らすベス(fa0877)が、同じようにヘッドランプを点けたCardinal(fa2010)へ小声で尋ねる。
「それに、ランプを持つ手も疲れるだろう」
「えへへ‥‥ちょこっとね」
 ちらりと、ベスは小さく舌を出す。
 この状況下ではページの解析が難しいとみた者達は、『知友心話』が使えるシャノーの申し出に応え、彼女に『外』への伝達役を一任した。
 既存の情報伝達手段に依らず、意識のみで会話する『知友心話』には、情報体となったNWは潜り込めない。シャノーだけに負担をかける事になるが、『知友心話』で遺跡の外に控えたWEAの係員にページの内容を伝え、データ化する作業を行っていた。
「時間がかかっちゃうし、大変だね」
 見守るベスに、次のページを用意しながら炬魄が頷く。
「俺としては、できれば自分の手で解析したいところだがな」
 やがて『外』との会話が切れたのか、シャノーが深い息を吐いた。
「休憩か?」
 短くCardinalが問えば、シャノーは黙って首を縦に振る。
「‥‥10分ほど‥‥その間に向こうも‥‥データをバックアップ‥‥するそうです‥‥」
「そうか」
 疲れた目を休めるように、彼女は座ったままで目を閉じた。
「そういえば、手帳には書いた人の名前とかないかな? 名前と英語圏の人で、物書きだったらしい事をWEAに問い合わせれば、新しい情報が出てきたり‥‥?」
 小首を傾げるベスだが、無事な方の手帳を注意深くめくる炬魄からは期待した答えは返らず。
「名前に関しては、幾つかの記述がある。目に付いた名前だけでも、メアリ・アン、アーニー、エリザベス、キャサリン‥‥あとはロング、アーノルド。だが、残念ながら全て本人の名前ではあるまい。
 あるいは、スケジュールをより細かく読み解けば、何か素性が読み取れるかもしれんが。後は、遺跡が開いて今までの間に、行方不明になった獣人をリストアップするか‥‥思いつかないな」
「う〜ん」
「‥‥しかし‥‥手帳を残した人の‥‥他に‥‥少なくとも‥‥二人の人物が‥‥いたようですね‥‥『彼』と‥‥『彼女』としか‥‥表現されて‥‥いませんが‥‥。このフレーズは‥‥何度か‥‥出てきますが‥‥同じ人物を‥‥示している‥‥ようです‥‥」
 ぽつりぽつりと、シャノーが単に文字を追った結果を口にする。
「最も多いのは、『奴等』という複数を示す言葉だな。NWを示唆しているんだろうが」
「‥‥はい‥‥私もそう‥‥思います‥‥」
「ぴ? でも何で、名前は書かなかったんだろうね?」
「普通の人間が手帳を拾う可能性を、危惧したのかもしれない」
 更に首を傾げる角度が深くなるベスに、Cardinalは静かに伝え終わったページを整えながら呟く。
「だとしても、この状況でそんな仮定は想像し辛い事だが‥‥」
「お〜い。終わったか?」
 炬魄の言葉を遮って、氷が四人へ声をかけた。人工の光をちらつかせながら、壁画や『黒い塊』があったと思しき場所を調べていた四人が戻ってくる。
「今日の分は、あと少しだ」
「そっか。んじゃ、こっちもそれまで休憩っと」
 手頃な岩陰にどっかりと座り込んだ氷に、「寝ちゃだめだよ」と颯雪が釘を刺した。
「‥‥どうか、しました‥‥?」
 ぼんやりと二人のやり取りを見ていた炬魄の意識を、シャノーの声が現実に引き戻す。
「いや、なんでもない。再開するか」
 そうして、再び寡黙な作業が続けられた。

●遅々とした歩み
 バラけたページのデータ化に関しては、一行にとって計算違いの事柄が、三つあった。
 まず、『知友心話』が届くのは10km以内である事。
 伝達役はシャノー一人で、約50枚のページのうち白紙やスケジュールを除いた約30枚60ページ以上のメモに対し、会話可能時間のトータルが36分しかない事。
 そして内容を聞き取り、それをデータ化し、データに間違いがないかを確認する作業がある事だ。
 故に、第二階層の入り口に置いていた手帳を第一階層まで持って戻り、比較的安全かつ『知友心話』が届く場所から手帳の内容を伝えていた。
 残る時間は第二階層の探索に回すが、行きつ戻りつな為にこれまで以上の探索には到らず。少しでも小型NWを排除する−−という程度に、留まっている。
「行ったりきたりがなければ、もう少し腰を据えて探索できそうだが」
 砂地を踏みつつ物足りなさそうな安則へ、炬魄が左右に首を振る。
「作業をする数人を、置いていくわけにも行かないだろう。ここよりNWの数が少ないとはいえ、襲われる可能性がないとはいえない。ダークサイドが現れる危険もある。それに、情報は正確さが重要だ。慌てて、間違ったデータを教える方が問題じゃないか?」
「でも、手帳のデータをWEAに登録してもらって、後はどうするのかな。WEAで解析してもらうとか?」
 問うベスだが、答える者はなく。
「ま‥‥その辺は、後でどうするか決めるって感じか?」
 沈黙の後、ようやく氷が返事をした。

 光を頼って襲撃してくるNWを、囮の灯りや焚いた炎でやり過ごし、あるいは掃討する。
 先のチームの討伐もあって、小型NWは最初の敗走の時よりも明らかに数を減らしていた。
 以前に倒した蟷螂型NWのような体躯の大きなNWとの遭遇もなく、砂の階層は不気味な静けさを保っている。
「そういえば、風が‥‥ないね」
 風を調査の頼りにしようとしていたベスが、きょろきょろと暗い空間を見回した。
 足を踏み入れた当初は、不定期に風が吹き抜け、唸る様な音が響いていたが、今は羽音や銃声以外に聞こえる音がない。動かない空気は、場所によって臭気をはらんで淀んでいる。
「‥‥そう言われて‥‥みれば‥‥確かに‥‥そうですね‥‥」
 シャノーが呟き、千春は改めて『耳をすませて』みる。
「手帳の記述も、『どこからここに来たかは判らない』みたいだし、別の入り口があるのかとも思ったけど‥‥風がないと、判らないわね」
 パズルのピースと仮定、疑問ばかりが山積し、推論すら立たない。
 ただ漠然と進むだけで、手探りの道程。
「‥‥ここだった、かしら?」
 千春が足を止めたのは、像と刀と手帳があったと思しき場所。
 地理的特徴がないこの空間で、全てを取り除き、目印も置かなかったため、簡易の地図による目測と感覚が頼りだ。
「像と砂の間に何もなかったのに、像をどけたらNWが現れたのよね」
「上で言ってた、小さい蟲がワサワサってアレ?」
「ええ」
 嫌そうな颯雪に、短く千春が答える。だが砂の上には、何かを仕掛けたような痕跡は見当たらない。蟲が現れた為に、砂が『動いた』後だからなのか、あるいは‥‥。
「掘ったら、またワサワサ出てくるのかな‥‥」
「試してみるか?」
 真面目な表情で袖を捲り上げるCardinalに、少女は急いで首をぶんぶんと横に振った。

 結局、何かに絞る事無く散漫に行われた探索は、目新しい発見も新たな情報もないまま、刻限を迎えた。
 唯一の進展は、バラバラになったページがデジタルデータ化された事で、遺跡内部に残された手記の解明が行いやすくなった事だろう。