EtR:回帰するモノヨーロッパ
種類 |
ショート
|
担当 |
風華弓弦
|
芸能 |
フリー
|
獣人 |
3Lv以上
|
難度 |
普通
|
報酬 |
8万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
10/27〜10/30
|
●本文
●深夜の出来事
その夜、『彼』はたまたま外に出ていた。
テレビ局での一仕事終え、スタッフと一杯ひっかけた帰り道。
少し危うい足取りで、帰路についた『彼』だったが。
ばさばさと羽根撃つ音と舞い降りる影に、酔いが引いた。
たまたま、カラスか何かが羽根を打った程度なら、驚かなかったろう。
だが近くの街路樹を揺らして降りてきたのは、翼をもつ異形のモノどもだった。
大型の猛禽類の羽根はそのままに、『変貌』を遂げた胴からは長い節足が伸びている。
そして、その足は小さな人影を掴み−−。
ばさりと、羽根を打つ音がまた響く。
凍りついた『彼』を尻目に、ソレらは夜の空へと再び舞い上がっていく。
数秒後、『彼』は震える手で携帯を取り出し、WEA支部へのボタンを押した。
●異常行動
「WEAより連絡! NWが複数、こちらへ接近しているようです!」
『オリンポス遺跡』の監視所に、緊張の声が響く。
「すぐに、襲撃に備えた用意と監視を!」
指示が飛び、係員達が慌てて動き出す。
だが、飛来したNWの群れは緊迫した監視所を越えて、そのまま遺跡の方向へと飛んでいく。
−−その昆虫のような節足に、何かを抱えるようにして。
「数は!?」
「3‥‥いえ、4体。形状から、どれも大型の鳥に感染した類だと思われます」
人の域を超えた視覚を持つ者から、次々と報告が上がる。
その緊張の中で、また別の一報が入ってきた。
「WEA支部から連絡! NWの飛来より数時間前に、同じNWを目撃したらしいという情報が」
「どこでだ?」
「イタリアのターラントです」
場がどよめく。ターラントは、オリンポス山から海を越えて400kmも西に位置している。
「目撃者の情報によれば、数匹のNWは子供を抱えていたらしいと」
「確かか!」
「現在、WEAイタリア支部がイタリア国内に住む、あるいは滞在中の獣人の家庭へ連絡をしていますが、まだ行方不明情報は入っていないようです」
「確定情報が出るまで、待っていられないな。万が一、本当にNWが子供を浚っていたとしたら‥‥」
指示を飛ばしていた係員は、キリと爪を噛む。
子供の生死が判らぬ以上、最悪の可能性も考えられはするが−−。
「NW達が、遺跡入り口に現れました! どうやら、内部へ侵入する模様です」
次なる報告がそれ以上の思考を妨げ、決断を下す。
「至急、付近の同胞に招集をかけてくれ。NWを排除し、子供を助けるんだ。優先事項は子供の生死を確認し、生きているなら救い出す事。急げ!」
●リプレイ本文
●準備と確認
遺跡の監視所に集まった者達は、取るものも取り合えずNW追跡の準備に取り掛かっていた。
「あ‥‥と、忘れないうちに、ベスちゃんにコレを貸しておく。視覚での探索範囲はベスちゃんが一番だからね」
「ぴよ?」
早切 氷(fa3126)から黒いフレームにぶ厚いレンズがはまった『ぐるぐるの眼鏡』を渡されて、ベス(fa0877)は首を傾げる。
「おもちゃ?」
「つけりゃ判るって」
毛布や水筒を詰め込んだ重い鞄を背負う氷を、『パートナー』の御鏡 炬魄(fa4468)が見やる。
「随分と、重そうな荷物だな」
「まぁ‥‥飲まず喰わずで、消耗してそうだしな。心細かろうし」
「それなら、その毛布あたりを預かろうか? 少しなら、余裕がある」
横からCardinal(fa2010)に声をかけられ、眼を瞬かせる氷。
「そりゃあ、助かるが‥‥いいのか?」
「ああ。構わない」
「力持ちだもんね。あ、Cardinalさん、お願いしまーす」
大男のCardinalとは対照的な小柄のベスが、しゅたっと手を挙げる。
「こちらこそ、よろしく頼む。後は‥‥そっちは、大丈夫か?」
気遣ってCardinalが尋ねれば、富士川・千春(fa0847)が苦笑しながら重い荷物を手にする。
「遺跡の中なら、半獣化できるから問題ないんだけどね」
「遺跡に辿り着くまでが、問題でござろう。千春殿の荷を助けるほど、拙者の荷も軽くはござらん」
千春と組む七枷・伏姫(fa2830)も、移動の弊害にならないギリギリに荷物を調整していた。
「荷が軽い者で分けて持つのは、どうでござろう?」
「でも、細かい物が多いのよね‥‥氷さんの毛布みたいに、大きな物なら良かったんだけど。時間が惜しいし、置いていってもいいわよ。せめて、伏姫さんだけでも」
「そういう訳にもいかんでござるよ。他の者ならいざ知らず、拙者は千春殿と『組み』でござる」
見えているのかいないのか判らぬほど細い目の眦を下げて、彼女は微かに笑った。
「あ〜、そうだ」
用意が整い、仲間達に続いて監視所を出ようとしたヘヴィ・ヴァレン(fa0431)が、急に足を止めて見送るWEAの係員へ振り返る。
「戻る迄に、暖かい寝床と料理用意しておいて貰えねえかな。子供に」
「そっか。もうすぐ、ハロウィンの楽しいお祭りも始まるし‥‥出来れば、おやつも。絶対、助けてくるからね!」
元気よく角倉・雨神名(fa2640)もぶんぶん手を振り、ヘヴィの後に続いた。
「はい。七枷さんからも、子供が負傷した際の事も頼まれてますし、そちらは準備しておきます。みなさん、お気をつけて」
再び振り返って係員へ手を振ってから、雨神名は前を見据える。
行く手には、連なる山々を這う山道と、その先に立ち並ぶ石の柱が見えていた。
●飛影を追って
「飛べる獣人さんって、いいなぁ〜‥‥」
雨神名はちらりと、ヘヴィの背の翼へ目をやる。
「いざとなったら、抱えて飛んでやるよ」
「『空飛ぶ救急箱作戦』だね。あ、でも‥‥うかな、重くないかな‥‥?」
多感な年頃の少女らしい悩みに、どう答えたものかとヘヴィは苦笑を浮かべ。
「もしかして今、『重いだろうな〜』とか、思ったり‥‥?」
「思ってねぇよ。暢気にお喋りしてたら、見落としちまうだろう」
「あ、そうですね」
慌てて雨神名は自分の口元を手で押さえ、苦笑を張り付かせたままヘヴィは人工の光で出来た影にも目を凝らす。
作戦は、単純明快だ。
広いオリンポス遺跡を二人一組、八人四組に分けて虱潰しに調べる。
第一階層で発見できれば、御の字。
まだ踏破されていない第二階層でも探索経験者がいる為、既知の範囲なら問題ない。
問題は、子供を攫ったNWが『彼らがまだ知らぬ場所』へと逃げ込んだ場合だった。
『それにしても‥‥その場で襲わず、攫ってったってのは妙だよな。理由や結末は、想像したくもねぇが』
トランシーバー越しの、苦々しげなヘヴィの言葉に「ああ」と相槌を打つ炬魄の表情は、サングラス−−ハードナイトで隠れてよく判らない。
「何故、少なくとも400kmは離れたターラントから、ここまで飛んできたのか。それとも、『子供』自身に何かあるのか‥‥興味は尽きないがな」
「単に、大人だと重かっただけかもしれないけどな。とりあえず、生かしたまま連れてったって事は、だ。すぐには殺されない可能性も、高い訳だ‥‥口を動かす暇も時が惜しいや。さっさと進もうぜ。あ、何かあったら、先に行ってくれて構わないからな」
いつもの眠たげな様子と違い、氷はキリキリと歩いていく。
「判ってる。そっちも気をつけてな」
言葉の後半は通信相手に投げて、炬魄は急ぐ氷と肩を並べた。
『中に入ったから、こっちもすぐに後を追うわ』
「判ったよ。よろしくね〜!
到着が遅れた千春達に明るく返事をして、ベスはトランシーバーのボタンから指を離す。
「でもさ。ターラントって、イタリア半島の『踵』にあたる場所だよね。踵って最初の遺跡探索の暗号文にもあったけど、何か関係あるのかな‥‥?」
「どうだろうな。その辺りの細かい推論は、どうも俺には‥‥」
言葉の代わりに肩を竦める大男に、ベスは笑顔を向けた。
「ちゃんと、『見』ないと見落とすぞ」
「は〜い」
ライトで照らせる限りの視界を『拡大』して調べるベスは、黒縁の眼鏡のツルに手をかける。
氷が貸したそれは、衰えた視力を矯正する物ではなく、更に『よく見る』為のものだ。
「今のところ、異常な〜し」
歩きながらあちこちを見回す少女の邪魔にならぬよう、Cardinalは歩調を落として少し後ろを歩く。
「四匹のNWが同じタイプで、なおかつ同じ目的で行動を共にしている‥‥という事は、今までよりも遥かに明確な統率性よね。肝心の目的は、不明だけれど」
遺跡の内部に入ると、千春は聴覚を研ぎ澄ませる『音捉える耳』を服用した。子供の声や翼の音など、少しでも居場所の『音』で探す為だ。
「目的、でござるか‥‥もし、敵がその目的とやらを既に達しているならば、向こうからの奇襲もありえるでござるな」
伏姫は、日本刀の鞘を握る手に力を込める。
「できれば、達していない事を祈るけどね」
遅れを取り戻すべく、しかし見落とし聞き落としのないよう注意しながら、二人は遺跡の奥へと進んだ。
●強襲
大きく広げた翼が、風を打つ。
牽制を‥‥あるいは、新たな獲物を狩ろうと、向かってくるのは二匹。
そして、既に捕まえた獲物を持ち去ろうとするのが、二匹。
「こっちは何とかする。アレを行かせるな」
「ぴ! こっちも何とか何とか‥‥何とか〜っ!」
急いでベスは翼から羽根を抜き取り、逃げるNWへと放つ。
当初は動向を見極めるまで監視する予定だったが、遭遇は即、襲撃となった。
灯りや匂い、あるいは捕食者の本能が、獲物の気配を告げたのか。
湿った土から突き出した岩の上で、翼を休めていたNW達が一斉に飛び立ち、二手に分かれたのである。
矢の如く飛ぶ羽根は、飛んで逃げようとするNWを追撃し、針となって胴に突き刺さる‥‥が、射落とすには至らず。
一方で襲撃してくるNWは、足の鉤爪と鋭い嘴でCardinalを引き裂こうとするが、獅子種のしなやかな獣毛と『霊包神衣』によって、毛筋程の傷も与えられず。
「急いでくれ!」
Cardinalが急を知らせると、トランシーバー越しに仲間達の声が返ってきた。
「あたし、あっち追いかけるね」
「ああ、無理はするなっ」
翼を広げる鷹の少女へ、念のために声をかける。
二匹のNWがそれぞれ掴んだ『獲物』はぴくりとも動かず、生死は判らない。
「待てーっ!」
速度を上げて、追い縋る。
獲物が重いのか、遠距離飛行で疲弊しているのか、NWの飛行速度は伸びず。
僅かに躊躇した後。
ベスはオリハルコン製といわれる短剣『オレイカルコス』を、一匹のNWの胴へと突き立てる!
だがバランスを崩したNWが彼女へ体当たりをし、二人と一匹は土の上へもつれ落ちた。
「ベス、大丈夫かっ?」
突付こうとするNWと格闘するベスの元へ、翼を持つ仲間達が追い付くが。
「追いかけて! あと一匹、逃げてるーっ!」
炬魄と千春はすぐさま示された先へと飛び、ヘヴィは抱えた雨神名を地面に降ろす。
「子供は?」
「判んな‥‥痛い、痛いってー!」
「往生際が悪いぜ」
ベスを引っかいて悪あがきをするNWを、ヘヴィが掴んで引き剥がし、押さえつけた。
そして刺さったままのオレイカルコスを引き抜き、コアを抉り出す。
「ありがとう、ヘヴィさん! うかなちゃん、子供は?」
「まだ、何とか‥‥息があるようです」
雨神名の腕の中で、青白い顔の子供が淡い優しい光に包まれている。ヒーリングポーションすら与えられない状態では、一角獣の治癒の力が頼りだ。
「次は、ベスさんの傷を治しますね」
「うん。ありがとう」
手持ちの薬を使う事も出来るが、ベスは友人の好意を有難く受ける事にする。
その間に、ヘヴィは宝石のようなコアを粉砕し、遠い仲間へと思念を飛ばした。
「邪魔するな、逝っとけっ!」
氷の罵声と共に光の軌跡が弧を描き、鳥と蟲を足したような生き物を両断する。
それでも、まだコアの付いている方はバタバタともがき。
ざむっ!
振るわれた白刃が、コアの輝く首を刎ねた。
更に二度三度とコアに刃を打ち当てれば、硬質なソレは漸く崩れ去った。
そこへ、目も眩むような目映い光が満ち。
怪力で翼をもぎ、逃れる力すらなくなったNWに、Cardinalが止めを差す。
「そちらも、終わったようでござるな。後、二匹‥‥でござろうか」
軽く刀を振ってから日本刀を鞘へ収める伏姫に、獅子はたてがみを横に揺らす。
「いや、三匹だ。ベスが追ったNWのうち一匹は倒し、子供の一人は無事らしい」
「あと一匹は?」
緊張した表情の氷に、Cardinalはもう一度首を振って否定の意を表した。
「炬魄と千春が追った。追い付ければいいが‥‥」
「ともかく、子供を保護しに行くか」
荷物を拾い上げて、氷は奥へと足を進める。
威嚇の射撃にもひるまず、NWは逃げ続けていた。
「こっちが当てられないのを、知っているのかしらね」
苦々しげな千春に、「さてな」と炬魄は短く返す。
「追い付いて、何とか子供だけでも取り返す。援護を頼んでいいか」
「判ったわ」
大きく翼を打ち、炬魄が飛行速度を上げた。
白い髪と漆黒のマントを風が翻し、前方の飛影が近くなる。
−−最小の攻撃で、最大の効果を。
刀身に風を帯びたソニックブレードを構えた炬魄は、細心の注意とタイミングを計り、それを振るう。
硬い手ごたえがして、
足が落ちた。
「くっ‥‥!」
放り出された子供は、千春が何とか受け止める。
バランスを失してそのまま地に落ちるが、落下点に柔らかい土を選んだ為、致命的なダメージはない。
「想定と逆だけど、結果オーライ‥‥ね」
抱えた子供の体温に安堵して、千春はそっと乱れた髪を撫でてやった。
「無事か」
舞い降りた炬魄へ、彼女は頷く。
「相当消耗しているようだけど、息はあるわ」
「‥‥富士川は」
更に問いを重ねられて、千春は眼を瞬かせ。
「あ、うん、私も大丈夫。薬飲んだら、すぐ動けるから」
「そうか。子供は、俺が運ぶか?」
「お願いするわ‥‥NWは?」
受け取った子供をダークマントで包んだ炬魄は、入り口の方向へ顎をしゃくる。
「逃げた」
「‥‥そう」
それ以上は問わず、彼女はトランシーバーを取り出した。
●『戦果』
救出された子供二名については、意識が回復しないものの命に別状がない事が確認された。高速飛行による外傷や、心身にかかった負担によるショックもあるだろうが、時間をかければ癒していけるものだろう。
そして獲物を失い、足を失ったNWは、再び遺跡からどこかへ飛び立った事を、監視所が捉えていた。
一ヶ月前の調査で持ち帰った記録の一部から抜け出した情報体は、未だ欧州各地に潜伏していると推測されている−−。