Limelight:Free Wordsアジア・オセアニア
種類 |
ショートEX
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
6.6万円
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参加人数 |
15人
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サポート |
0人
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期間 |
10/28〜10/30
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●本文
●ライブハウス『Limelight』(ライムライト)
隠れ家的にひっそりと在る、看板もないライブハウス『Limelight』。
看板代わりのレトロランプの下にある、両開きの木枠の古い硝子扉。
扉を開けたエントランスには、下りの階段が一つ。
地下一階に降りると小さなフロアと事務所の扉、そして地下二階に続く階段がある。
その階段を降りきった先は、板張りの床にレンガの壁。古い木造のバーカウンター。天井には照明器具などがセットされている。そしてフロア奥、一段高くなった場所にスピーカーやドラムセット、グランドピアノが並んでいた。
オーナーが『元芸能人』な事もあってプロを招いてのライブも多いが、インディーズとさえ呼べないような趣味レベルのアマチュア・バンドへも、ステージをレンタルしている。
それ故、学生バンドや社会人バンドの出入りもあるのだが‥‥。
「学祭で、ライブを?」
苦笑交じりで、音楽プロデューサーの川沢一二三(かわさわ・ひふみ)がコーヒーカップから視線を上げる。
クロスでグラスを磨く『Limelight』のオーナー、佐伯 炎(さえき・えん)は、溜め息をつきながら一つ頷いた。
「そ。頼んできた相手は、ちょくちょく出入りしている学生バンドなんだが‥‥何でも、学園祭に出演を頼んでいたトコが、急に無理になったらしい。で、泣きつかれてなぁ」
−−学園祭に、有名な『アーティスト』を呼ぶ。
その慣習がいつの頃から始まったかは定かではないが、大きな大学ではそれが校外からの客を呼ぶ『目玉』の一つとなっている。要請を受ける芸能人も、いわゆるお笑い系から音楽系まで幅広く、そのレベルもインディーズからプロまで様々だった。
「どうやら、連中も運営委員会から頼み込まれたようでな‥‥ま、呼べなかったのを理由に、来年の学祭からその手の企画がポシャっても、困る話なんだそうだ」
じっと話を聞いていた川沢が、やたら熱くて濃いブラックコーヒー−−佐伯曰くは『泥珈琲』−−の湯気を吹く。
「それは、彼らにとっても一大事だろうね‥‥で、募集はかけるとして、僕も駆り出されるのかい?」
「来てくれると、ありがたい。先方との話は、まぁ‥‥俺が引き受けるとしてもだ。ちゃんとした『音』が作れる手は欲しいかねぇ。あ、作業にかこつけて、学生いぢめんなよ?」
「そんな、誰かさんじゃあるまいし」
白々しくカップを傾ける友人に、佐伯は微妙な苦い笑いを浮かべた。
●リプレイ本文
●前日はお祭気分で
門にはハリボテのアーチが作られ、窓には垂れ幕がかかっている。
キャンパスのあちこちに簡易テントが張られ、模擬店の屋台や青空フリーマーケットが軒を連ねていた。建物内は主に展示スペースで、屋外ステージは音源を使わないステージ・パフォーマンスを披露する。
爽やかな、そして暖かな空の下、その『祭』は賑やかに繰り広げられていた。
「楽しそうだね〜」
「神楽、大学くるって初めてです」
控え室代わりの教室の窓から、アリエラ(fa3867)と月見里 神楽(fa2122)が並んで顔を出していた。
ステージは翌日なのだが、打ち合わせと学祭の雰囲気を知る事も兼ねて、出演者達は大学へと集まっていた。有り体に言えば、それを口実に遊ぼう−−というハラである。
「そうか。月見里は、まだ中学生だったか」
そんな二人の後姿に、しみじみと佐武 真人(fa4028)が呟く。
「中学かぁ‥‥歳から言うと、大学生‥‥のハズなのだろうか、俺」
スプレーで染めた茶髪をぽしぽしと掻く嶺雅(fa1514)は、いつもより『地味』な服装だ。トレードマーク化しつつある大量のアクセサリは可能な限り外し、染めた髪を一つに束ね、服装はブルーデニム系に纏めて路線のチェンジを図っている。
「少なくとも、中学生には見えないね」
冗談めかして笑うラシア・エルミナール(fa1376)もまた、大人し目の服装に三つ編み、ダテメガネと、『変装』に余念がない。
「あたしも高校入ってすぐに辞めちまったから、学祭未経験なんだよな」
「じゃあ、ドキドキの初体験なんだっ! 学祭楽しいよ、学祭!」
力説しながら柊ラキア(fa2847)が飛び跳ねていると、いつも身に着けているゴーグルが帽子からずり落ちて、ぶらんと首にぶら下がる。
「それ、外さないとバレ易いんじゃないか?」
「え〜っ、バレる? バレるかなぁ? バレないよね?」
黒羽 上総(fa3608)にゴーグルを指差され、いささかショックなラキアは小首を傾げて周りのメンバーに繰り返し問う。
「どーしても、外すのは嫌って顔だな、兄上様」
ぷくぷくと、珂鴇大河(fa4406)がラキアの頬をつっつく。ちなみに大河とラキアは兄弟ではなく、大河の所属するバンドのリーダーが、ラキアの兄だ。
「なんだよーっ」
「顔一緒なのに、おもしろいなぁ‥‥あ、学祭巡りで奢ってくれたら、バレそうになった時に誤魔化してやるぜ、兄上様」
「う‥‥奢り?」
心の中で、何かを天秤にかけているのか、ラキアは難しい顔で悩む。どうやら難題のようだ‥‥が、やがて決心がついたらしい。
「あんまり高いのは、ダメだから。財布にこれだけしかないし!」
覗き込んだ先に最少額の紙幣が3枚しかないのを見て、大河の目が遠くなった。
「貧乏過ぎ」
「だって、ダディに奢ってもらおうと思ってたから〜」
佐武を横目で見るラキアだが、がっしと大河に肩を組まれる。
「ま、いいか。行こうぜ、兄上様! どうせなら、アイツと一緒にきたかったが‥‥そだ、土産にタコヤキとか買って行ってやろ。コンビニ食に、レンジでチンが毎日らしいからな‥‥」
「誰に?」
「ヒミツ」
「じゃあ、お金足らない分は大河が奢るって事で!」
「ヤだね」
漫才のような掛け合いをしつつ、二人は部屋を出て行く。
「‥‥あの二人は、仲が良かったのじゃな」
どこか感心したように、冬織(fa2993)がそれを見送った。
「え〜と、保護者、よろしくお願いします。佐武パパさん、嶺雅兄さん」
「私の保護者も、よろしく〜」
神楽がぴょこんと一礼し、アリエラは笑顔で手を振る。
「兄さん‥‥いい響きデス‥‥」
何故か感激に浸る嶺雅の肩を、労わる様にラシアがぽむぽむと叩いた‥‥視線を逸らしているが。
「いいよ。可愛い娘なら、歓迎だ」
演奏者の中では最年長の佐武は、すっかり周りから『父親』呼ばわりされていた。だが、私生活でも既に子持ちな為か、『父親』と懐かれる事に問題はないらしい。
「では保護者もいる事だし、遠慮なく模擬店回りに出発ね。完全制覇は難しいから、甘い物中心で回ろうかしら。ね、シドさん」
策略を練る明星静香(fa2521)に、シド・リンドブルム(fa0186)は少し困ったような表情を浮かべた。
「そうですね‥‥でも、俺は甘い物以外も‥‥出来れば混ぜてほしいです」
腕をぐるぐる回して気合を入れている彼女に、その言葉が届いたかどうかは謎である。
「しかし‥‥これだけのメンバーで移動するとなると、どう変装しても目立たないか‥‥?」
ごくごく客観的な意見を述べる、美日郷 司(fa3461)。
「ま、興味がある方へと適当に散ってくんじゃないか? 俺としては、迷子になって戻ってこれない方が心配だがな」
微妙な笑みで、佐伯 炎が賑やかに部屋から出て行くメンバーを見送る。
「そうか。そう言えば‥‥佐伯氏は、うちの女帝に『もふ』られたらしいな‥‥」
「あ〜‥‥まぁ、ナンだ。忘れとけ」
「そうするか」
がっくりと脱力する相手の反応に察して、司は一つ首を縦に振った。
「それじゃあ、こっちは三人で行こうか。あんまり固まらない方が、いいみたいだし」
慧(fa4790)は、今回の演奏でバンドを組む玖條 奏(fa4133)と渦深 晨(fa4131)に振り返る。
「そうですね。俺達の方は、あんまり変装も必要ないでしょうし‥‥顔の売れた人と別行動の方が、バレないかもしれません」
キャスケットを被る奏に倣うように、晨もまた同じ帽子を深く被った。
「カナの言い方だと、なんだか自分で『売れてない』って言っちゃってるみたいで、ちょっとアレですけど」
「そうですか?」
「特権だよ、特権。それじゃあ、行ってくるね」
慧は責任者の二人へ手を振り、奏と晨の後に続く。
「ああ。迷子になったり困った事があったら、戻ってこいよ」
「は〜い」
そうして静かになった教室で、やれやれと嘆息する佐伯が乱雑に髪を掻いた。
「まったく。仕事しにきてんだか、遊びにきたのか‥‥暢気なモンだな」
「いいんじゃないか? 折角の『お祭』なんだし。普段は縁のない世界に触れるのも、いい息抜きと経験になるよ」
ライブ自体の進行と、各グループの段取りを纏めた進行台本を元に、ライトの指示などの演出を書き出しながら川沢一二三が答え、佐伯は肩を竦める。
「そういや、コーヒーは紙コップか缶の自販機しかないが、文句言うなよ」
「薄くても、我慢するよ」
笑いつつ、友人のコーヒーを買うために佐伯は部屋を出た。
キャンパス内へと繰り出していったメンバー達は、それぞれの興味と人間関係によって少しづつ小さなグループへと分かれ始めていた。
食べ物と面白そうなものへ率先して走っていくラキアに、半分振り回されている大河。
奏と晨、慧の三人は他のメンバーとかち合わないよう、上手く店を回っていた。
神楽とアリエラ、静香、シドの四人は、佐武の引率で、食べ歩きつつフリーマーケットを冷やかす。変装とあまりに自然体なためにぱっと見では、学祭見物に来た家族連れにも思えなくはない。
その後ろを冬織がぶらぶらとついて歩き、出店で何かを買う時だけ先の『家族』の輪に加わり‥‥有り体に言えば、佐武にたかっていた。
嶺雅はラシアとの『デート』に張り切っていた。が、彼女が足を運んだ先が明日の舞台となる講堂のステージで、のんびりとマイペースで様子を見にきた上総と司の二人組と鉢合わせ‥‥野望は脆くも崩れ去ったとか。
入念な変装と独特の高揚感や賑やかさが幸いしたか、騒がれる事なく15人は学生達の祭を楽しみ。
−−そして、『本番』がやってくる。
●お仕事もきちんと
ライブ当日。
控え室ではリハーサルや打ち合わせの合間を縫って、誰もが折り紙で紙飛行機を折っていた。
「何してんだ?」
その一つを指で摘んで持ち上げる佐伯に、折り紙を用意したアリエラが「えへへ」と笑う。
「紙飛行機を、折ってるんだよ」
「それは、見れば判る」
「それで、その中にサインした紙で折った紙飛行機も混ぜて、ステージの最後にみんなで飛ばすんだよね」
「誰の紙飛行機が遠くまで飛ぶか、競争じゃの」
何故か競争意識を燃やして、冬織はより滞空時間の長そうな飛行機を折っていた。
「でも、名前が見えるように折らねぇと、捨てられるぞ。あと、細かく折り過ぎるのもな」
「俺のサインでも、喜んでもらえるかな‥‥」
期待と不安が半々のシドに、「心配するな」と穏やかな笑みで上総がフォローを入れ。
「いっそ、折った状態で翼の部分に書いた方がダイレクトでいいかしら」
サインペンを手にした静香は、仄かに悩み。
「でも広げてみて、わ〜っ! ていうのも、楽しそうだよ」
びっくり箱的な意見を、神楽が述べる。
「う〜ん‥‥どっちがいいかなぁ、佐伯さん」
「どうせなら、どっちもやっとけ」
答える佐伯はアリエラの髪をガシガシと乱し、隣の神楽の髪も同様に撫でた。
「あぅ‥‥佐伯さんが、髪ぐしゃぐしゃにする〜っ」
「うみ〜っ」
「ま、頑張ってな」
恨めしそうな二人へからからと笑う佐伯を、佐武がしみじみと見上げる。
「それにしても‥‥ガタイ良いな。人を見上げるのは、久しぶりだ」
「ん? ああ‥‥」
佐武を見、それから他のメンバーを見てから、理解したように佐伯は頭を掻いた。
「ツブシが効くのはいいが、可愛げはないモンでな」
「佐伯さんに‥‥可愛げ‥‥」
会話を耳に挟んで想像したのか、思わず嶺雅が忍び笑う。
「ウケるな、そこ」
「‥‥えい」
びしっと差された指を、彼は脇にどいて避けて誤魔化した。
「オーロラマシン、川沢さんに頼んでセット終わったから‥‥って、何してるんだ」
講堂から戻ってきた司が、その光景に首を傾げる。
「あ、ツカちゃ〜ん! 髪、綺麗に結ってあげるよ」
諸手をあげて、嶺雅は司へと駆け寄り、一連の様子を見物していたラシアが苦笑した。
「凄いメンバーと一緒なはず‥‥なんですが、そんな気がしないですね」
騒がしい会話を聞く奏が、晨へと振り返る。
「うん。緊張感とか、ありませんし‥‥」
「楽しく演奏するには、いつも通りのリラックスが一番だよっ」
ぴょ〜いとラキアが二人の間に出現して、困惑気味に慧が笑う。
「そうだね。てか、ラキアさん、元気だね」
「うんっ。奏も晨も慧も、楽しくライブ、がんばろー!」
「おー」
両手を広げるラキアの調子に合わせて、慧も拳をあげる。
「声がちいさーいっ!」
「え〜っ」
「芸風、強制すんじゃねぇよ。兄上様」
大河が無防備なラキアの脇を突付き、奇声が控え室に響いた。
●そして、舞台の講堂
それは大急ぎで、学生達が作ったのだろう。
講堂には、出演者達のバンド名や名前の書かれた横断幕がかかっていた。
どこかくすぐったい気分になりながら視線を移せば、スタンディングのホールは満員状態で、誰もがステージへの期待に目を輝かせている。
その手には、はやり急遽作られたライブ・パンフレット。
カラーのコピー用紙には出演者のリストと、大学の校歌がプリントされている。
学祭運営委員会のスタッフが、開始のMCを入れ。
それが終われば、一つ二つと照明が落とされていき。
歓声と共に、ライブは始まった。
●『ksk』〜autumn leaves
慧、晨、奏。
三人の頭文字からつけたユニットが、アピールしつつ舞台袖から躍り出た。
慧はインナーは深緑のカットソーを着て、トップスに赤のVネックカーディガンを羽織り、ボトムはカーキとベージュのチェックのパンツ、帽子はベージュのキャスケットで、紅葉モチーフの飾りを付けて、秋のイメージで纏めている。
晨は黄色のワンポイントTシャツに、ワインレッドの上着。そして赤と黒のチェックのパンツを履き、ダンスの邪魔にならないよう、サイドの前髪を残して銀色の髪を一つに束ねていた。
奏は、オータムカラーでワイシャツにジャケット、スラックスを統一し、ジャケットのボタンは留めずに、ラフに着こなしている。
三人が最初の歓声を全身に浴びている間に、バックをサポートするドラムの佐武、アコースティックギターのアリエラ、フルートの神楽がポジションについた。
慧がステージ中央に立ち、晨と奏が彼を挟んで対照的に立つ。
そして力強く確かな、それでいて軽快なドラムのリズムから、アップテンポなポップスが始まる。
フルートは爽やかな秋風の如く、リズムの上に滑り込み。
伸びる音をギターのストロークが押し上げてから、ふっと引き。
ホリゾントを照らす橙と赤系の中間のようなライトの光を背景に、奏が切り出す。
「 じんわりと色づき始める木々の傍
おとなしく留まってるのも悪くないけど 」
ふっとスポットが奏から晨へと移り。
歌う奏と、軽くタップのステップを踏む晨が、その役を交代する。
「 あいにくと聞き分けのいい子じゃないんだ
赤く赤く燃えて風の中へ 」
次にライトは慧を明るく照らし、零れる陽射しのような暖かな声が繋ぐ。
「 琥珀色のスポットライトは
僕らを照らすためにある そうさ 」
暖色の光が、柔らかくステージに溢れて、旋律も膨らみ。
晨が銀髪を揺らして二転、三転と軽やかなバク転をみせ。
降る紅葉を思わせるように奏がひらひらと掌を翻し、上着の裾を翻す。
「 軽やかに舞ってみせようか
目にも鮮やかに autumn leaves 」
慧の繰り返すフレーズに、今度は奏がアクロバットを披露して。
「 華やかに舞ってみせようか
目にも鮮やかに autumn leaves 」
軽くターンした二人は、慧を間に挟んで立ち。
三人は聴衆へと手を差し伸べて、フィニッシュとなる。
消える音と共にライトが静かにフェードアウトし、後には拍手が残った。
●『S u g a r S t o r y』〜Train
打って変わって、シドと静香の二人だけがステージに立つ。
二人とも、普段着に近いパーカーやジーンズといった服装で。
軽く視線を交わして呼吸を整え、緩やかにシドがアカペラで唄い始める。
「 今日もまた朝が来る
きみに会える朝が来る 」
一拍置いて、静香が山吹色のトップをしたサン・ライトの弦を弾く。
リズムが走り過ぎないように注意しながら、優しく軽やかにゆったりとメロディを奏でる。
「 何も知らない 名前も知らない
だけど電車で顔を合わせる
それだけの関係
きみが好きだよ 笑顔が好きだよ
だから電車で顔を合わせる
それだけが嬉しい
声をかけてみたいけど
ちゃんと話せるかな?
仲良くなれるかな?
不安で潰されそうだよ 」
ユニットのイメージは、ストリートミュージシャン風。
目の前の聴衆が、もっとも身近に感じるであろうスタイルだ。
聞き手とも年齢の近い二人は、肩肘を張らずにリラックスして。
「 けど声をかけなきゃ始まらない
勇気を出さなきゃ始まらない
きみとの僕とのロマンスは
幕が開くのを待っているから 」
学園祭の成功を願い、心を込めて。
シドは最初のフレーズを、繰り返す。
「 今日もまた朝が来る
きみと笑える朝が来る 」
アルペジオの余韻から、六弦をストロークして、演奏をそっと締め括る。
拍手と歓声に、二人は頭を下げて応えた。
●『リバティ・ダッド』〜平行線
甲高いホイッスルが、鋭く空気を裂いた。
そこから笛音は、三三七拍子へと続き。
クラッシュ加工されたジーンズにアーミーブーツの足を蹴りだせば、腰の大振りなベルトでチェーンとかジャラリと揺れる。青タンクトップに重ね着にした黒の長袖ガーゼシャツの袖をまくったラキアが、前に出てエレキギターを掻き鳴らせば。
黒ベロアのタートルネックに、グレーのバイカーパンツ、そしてアンクルブーツと渋く纏めた佐武も、背合わせで同じくエレキギターを唸らせる。
走り回るベースギター−−アイスブリザードを提げたアリエラと、小柄ながらも力強いドラムを叩く神楽は、インナーに黒いハイネック、黒いレースのマイクロミニショートパンツにニーソックス、白いウエスタンショートブーツとモノトーンカラーで揃えていた。
アクセントは、大きなボタンが3つ並んだアシメントリーなショート丈のホワイト・ジャケットだ。
そして冬織は、白と黒、グレーの三色タータンチェックのビスチェに、黒絹のオリエンタルスタイルのロングコートを羽織り、黒に近い濃い青色をしたベルベット地のミニタイトスカートとロングブーツ姿で、胸元に銀色のホイッスルを揺らしている。
溢れる音と交錯するライトの中で、ラキアと冬織が共に唄う。
『 君と僕とは平行線
どんだけ行っても交わらない
A(エー)とZ(ゼット)の関係みたい
遠くて近い 近くて遠い つかず離れず同じ距離
僕と君とは平行線
X(エックス)Y(ワイ)にはなれないけれど
いっしょの方向 向いてれば
隣のレーンで進めばいいよね
おなじ道を走れなくても 』
要所にアリエラがコーラスを入れて、二人の歌声をサポートし。
明滅する光の中で、右へ左へと動きながら、ラキアと冬織の歌声は続く。
『 平行線は続いてゆくよ
地平の彼方に 空のむこうに
まっすぐ伸びても曲がっても
重なることは奇跡だけれど
何時だって僕は隣にいるよ
伸ばした指先 触れる体温
君を感じて歩いていこう 』
サビの半ばから勢いは減速して尻すぼみとなり、ライトもトーンダウンして。
フレーズが終わる頃には、何もかもが完全に沈黙する。
そして、一呼吸を待ち。
『 僕達の線(ライン) 消えない想い
君を信じて歩いていこう 』
蘇った光と音で荒々しく短いフレーズを演じ切って、ステージはフェードアウトした。
●『 flicker + II 』〜GO!
最後のユニットは、ステージに上がった瞬間から歓声がおきた。
コールされる名前とその熱気に感心したように、大河が短く口笛を吹く。
「さっすがだな。てか、このメンバーん中入れるの、嬉しいもんだな」
くたびれジーンズに黒いジャケット、黒のTシャツとラフながらも真っ黒に統一した彼は、歓声の中心となっている三人の『flicker』を見やる。
「大河クン、謙遜。てゆーか、俺もびっくりデス。だよね、ラシア」
その割には飄々とした口ぶりの嶺雅は、グレー地に蜘蛛の巣プリントが入ったYシャツにネクタイを結んで、黒ジャケットを纏い、パンツも黒系のジーンズを履いている。そして何より、トレードマークとばかりにピアスに指輪、チェーンなど、銀色に輝くアクセサリを大量に着けていた。
普段と変わらず、ベアトップとジーンズ、ロングコートの全てを黒で纏めたラシアは、少し驚いた風に頷く。
「うん‥‥ちょうど、オーディエンスの歳とファン層が、運良く重なったって感じ?」
「期待に反しないステージを、魅せないとな」
白のノースリーブハイネックに黒ジャケット、黒いGパンとシンプルな衣装の上総は、二人の肩を軽く叩いてキーボードへと向かい。
愛用するシルバーカラーのエレキギターへいつもの『儀式』を施す司は、二重ベルトの黒いショートブーツにダーク系のスキニージーンズをブーツインさせ。上は細身なブラックレザーのライダースジャケットに、インナーの白いボタンダウンシャツのボタンを二つほど外してはだけさせ、掛けた十字架を覗かせている。
「じゃ、頑張りマスッ!」
嶺雅が気合を入れて、ラシアと共にポジションについた。
『今日は学祭へのお招き、ありがとう!』
マイクを通した上総の第一声に、歓声が返ってくる。
『実は俺達も、昨日色々と構内を回らせてもらった。やはり、祭りは楽しいな。
そんな熱い盛り上がりに負けないよういくから、乗り遅れるなよ?
「flicker+II」で、「GO!」』
タイトルコールが告げられると、大河が確かなリズムで切り込む。
それにキーボードと、エレキギターが追随し。
そこへ、SHOUTを握る嶺雅の声が飛び込んだ。
「 どんなに嫌な事でも 跳ね除けるその力誰も持ってる 」
「 押しつぶされそうでも 弱気になって気づけないだけ 」
同じくSHOUTを手にしたラシアも、彼に劣らぬ声で続く。
旋律を繋ぐ上総のキーボードプレイを、司のエレギがサポートして。
アップテンポながらも飛ばし過ぎないよう、しっかりと大河がリズムをキープする。
「 弱いこと受け入れなきゃ 」
「 いつまでも掴めやしない 」
今度はラシアのフレーズを、嶺雅がしっかりと受け取り。
飛び出す後押しをするように、重くバスドラムが踏み込まれ。
全ての音と声が、重なる。
『 意地の一つだって張ってみればいい 小さくても
悔しいと思うプライドあるなら 誰だって強くなれるよ 』
演奏メンバーを紹介するように、二人のボーカリストは聴衆から背後へと振り返り。
オーロラマシンがホリゾントを鮮やかな七色に照らし出す中で、まずは司が前に出て持てるテクニックを駆使したアドリブを聞かせ。
次に大河が、切れのあるタム回しを披露する。
そして上総が滑らかな演奏から、次のフレーズへの予感を繋いで、再び音が呼吸を合わせ。
「 辛い事さえもねじ伏せられるほど強く 」
伸びやかな声を紡ぎながら、嶺雅は聴衆へと握った拳を突き上げるアピールをして。
パワフルなラシアの声が、勢いをつけるように鼓舞する。
「 弱気な自分に心のコブシを叩きつけ 」
そして、力を貯めるように膝を曲げ。
演奏の途切れる一拍の間に、二人は拳を天へと突き上げて。
合わせて、ライトがパフォーマンスに応える観客達を明るく照らし出す。
『 吹き飛ばそうよ! 』
そして、後奏は短くカットアウトし。
『激励』の歌を唄い上げた嶺雅とラシアは、大きく手を振って歓声に応えた。
●『All−Star』〜校歌斉唱!?
鳴り止まぬアンコールの拍手に、15人の演奏者達が全員で舞台に現れる。
おもむろにキーボードについた上総が、授業の『起立・礼・着席』を和音で奏れば、他のメンバーは揃って礼をして。
ラキアと佐武がエレキギター、アリエラはアイスブリザード、静香はアコースティックギターを爪弾き。
司はバイオリンで音を刻んで、神楽がフルートで囀る。
厳かに奏でられる大学校歌のイントロに、会場からは驚きの声や笑い声がおきた。
そこへ、大河がハイハットを合図するように軽く叩けば、曲は軽快なポップス調のリズムとなり。
嶺雅と冬織、そして晨と奏が、メインのフレーズを唄い。
一歩引いたスタンドマイクでシドとラシア、慧の三人が。そしてそれぞれの楽器を演奏しながら、静香とラキアがコーラスに回る。
1番を唄い切れば、2番はジャズ。そして、3番ロック調にアレンジをして披露する。
講堂は、オーディエンスの和やかな笑い声と歌に包まれて。
最後まで唄い終えたメンバーは、締めとばかりに一斉に、用意した紙飛行機を宙へ飛ばした。
空を滑る紙飛行機を取ろうと聴衆はジャンプして手を伸ばし、幸運にも手にした者は大はしゃぎで。
その中で、何人が掴んだ更なる『幸運』に気付くかと、含みのある笑みを交わしつつ、出演者達は別れの手を振ってステージを後にした。
●後夜祭
星空に、次々と炎の花が咲く。
後夜祭に招かれたメンバー達は、混乱を避ける為に運営スタッフ用のテントで花火を眺めていた。
「楽しかったですね。学祭」
こっそり奏の袖を引くと、晨が嬉しそうに笑う。
構内を回っていた時にはアレコレと強請られた奏だったが、晨のそんな顔を見ていると、我侭もまた一つのいい思い出だと思う。
「最後の校歌もウケて、よかったのう」
満足そうな冬織に、花火に夢中の神楽とアリエラに目を細める佐武が一つ頷く。
「しかし、「flicker」も有名になったものだな‥‥いい刺激になった」
「まだまだ、だがな」
しみじみと呟く司に上総は苦笑し、嶺雅があっけらかんと笑う。
「兄上様も、ぼーっとしてると俺らが追い抜くからな」
「ぼーっとしてないし!」
からかう大河に、ラキアが頬を膨らませた。
「そこは互いに、切磋琢磨だね。ともあれ今日は、お疲れ様でした」
「ありがとうございます。あ、回しますよ」
川沢が差し出す缶ジュースを、礼を述べてシドが受け取り、静香やラシアに回す。
「いつもと客層もステージも違ってて、なんだか新鮮だったよ」
「ええ。私達も、まだまだ頑張らないとね」
「はい!」
ラシアと静香は、シドと缶を打ち合わせて乾杯した。
「今度は、できれば『Limelight』で歌いたいですね。また、機会があればお願いします」
改めて慧が一礼すれば、佐伯は軽く缶を掲げ。
「そうだな。つっても、お願いすんのはこっちの方だがな。仕事な訳だし」
オーナーの返答に、彼は笑顔をみせる。
そしてまた花火があがり、振動と共に空に鮮やかな大輪の花を咲かせた。