燃ゆるは冬告げる焔ヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
0.6万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
10/31〜11/02
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●本文
●一時休息
「いやはや‥‥ようやく、人心地が付いた感じであるな」
窓から差し込む陽光を受けてソファで寛ぎながら、小さな映像製作会社アメージング・フィルム・ワークスの監督レオン・ローズは紅茶を啜った。
その上に、不穏な空気をはらんだ人影が落ち。
「なに、悠々としてるんだ」
「のあっ!?」
ティーカップをひっくり返しそうになり、慌ててカップを持ち直す。
それから驚かせた相手を、恨めしそうに見上げた。
「驚かすでない」
「ソッチが勝手に驚いてるんだろう。ほら、手紙」
白い封筒をぽんとレオンの頭に乗せると、同居人であり仕事の相方でもある脚本家フィルゲン・バッハは、ぼやきつつキッチンへと向かう。
「第一、人心地も何も‥‥半分、大叔父さんに振り回されてるってのに」
「浮いたり沈んだりと、フィルゲン君も忙しい身分であるな」
からかってみるものの、今日の相方は反論する気力すらないらしい。つまらなそうにレオンは唇を尖らせながら封筒の封を開けて、内容に目を通す。
そして、数分後。
「フィルゲン君、フィルゲン君」
「キッチンの扉からそうやって顔半分出して覗き込んでも、可愛くないから却下」
「えー!」
「えー! とか言っても、却下」
「えぇい! 却下する前に、人の話を聞けと!」
「はいはい」
仕方がないという風に頭を振って、フィルゲンはコーヒーを淹れる。
「で、何だ?」
「うむ。実はお祖母様より、ハロウィンの誘いだ」
胸を張るレオンに、何度か眼を瞬かせるフィルゲン。
スコットランドはハイランドの都インヴァネス。
かのネス湖も近いその街に、レオンの祖母は一人で住んでいる。
本来、そのスコットランドやアイルランドに住んでいた、ケルトの民の儀礼が『ハロウィン』の発祥なのだが、キリスト教の力が強かった欧州では異境の祭であり、(現在においても)大してメジャーなイベントではない。
しかしアメリカでは、アイルランド系移民が入手し辛い白カブの代わりにカボチャでジャック・オー・ランタンを作り、先祖よりの習慣を守り続けた。
やがてそれは盛大な仮装の祭となり、今のハロウィンの形となる。
一方、アイルランドやスコットランドに住むケルトの民の末裔もまた、細々と祭を守り続けていた。そもそも、彼らの間では「この日より冬を迎える」という、夏至や冬至と並ぶ大切な季節の節目である為だ。
もっとも、近年になって逆輸入された『アメリカ流ハロウィン』が今では盛んとなり、古い形式は消えつつあるが‥‥。
それはさておき。
「へぇ‥‥いってらっしゃい?」
とりあえず返答をするフィルゲンだが、相方は口を『への字』に曲げる。
「馬鹿を言え。私一人が行っても、子供に菓子をたかられるばかりでつまらん」
「それはつまり‥‥たかる側に回りたいという事か?」
疑わしげな目で見られて、レオンは胸を張ったまま笑って誤魔化した。
●リプレイ本文
●悪戯準備中
「ハロウィンハロウィン、何に化けようかな〜っと」
口ずさみながら、楽しげに紗綾(fa1851)が衣装を選ぶ。
「オーソドックスな仮装でも、いいですよね」
セシル・ファーレ(fa3728)もまた、先の尖ったつば広のとんがり帽子へ、何やらひと手間を加えていた。
「二人が仮装をするのは、判るけど‥‥」
面白そうに準備の様子を眺めていた深森風音(fa3736)は、二人と同じく仮装の用意をするシャノー・アヴェリン(fa1412)へ振り返った。
「シャノーさんも、仮装するんだね」
「‥‥はい‥‥折角ですから‥‥ハロウィンの間は‥‥これで‥‥」
どちらかと言えば、シャノーの目は嬉しげに輝いている−−ような気がする。
「で、男で参加するのは、俺とレオンだけなんだ」
「そうみたいです。でも「あげる方」も、みんな仮装する気は満々ですけど」
ちょっと寂しそうなRickey(fa3846)に、加羅(fa4478)が笑って小さく肩を竦める。
彼も、今この場にいる篠田裕貴(fa0441)も、用意周到に『準備』にかかっていた。
「僕は純粋に、「もらう方」に回りたかったなぁ‥‥そやけど、大きいお友達すぎるし‥‥」
デジタルビデオカメラを手にした蕪木ラシェイル熊三郎萌(fa4042)は、羨ましそうにRickeyを眺める。
「回っても、いいんじゃないか? フィルゲンも、さっきの様子だと逃げ場なさそうだし」
笑顔の裕貴が、蕪木をそそのかす‥‥もとい、助言する。
「じゃぁ、ちょぉ〜〜〜っとだけ、ええやろか」
「うん。だって、こういうのは楽しまないと損だもんね」
仲間を得たRickeyは、嬉しげに胸を張った。
そこへ、レオンの祖母がトレイにティーカップを載せて持ってくる。
「どう。みんな上手に、化けれそうかしら?」
「‥‥はい‥‥いつも、レオン監督には‥‥お世話になっています‥‥」
膝を折るシャノーに、老婦人は柔らかく笑んで首を振る。
「いいえ。こちらこそ、いつもありがとうね」
「お祖母様、久し振りだね」
茶の用意を手伝いながら、裕貴も軽く会釈をした。
「ええ、お久し振り。元気そうで、何よりよ。ご家族は、お元気?」
「うん。実家に顔見せに欧州に来たんで、こっちにも顔を見せようと思って」
「あらあら、有難い事ねぇ。ご家族も、さぞかし喜ばれたでしょう」
穏やかに微笑む相手に、裕貴は微妙な表情を浮かべる。
「‥‥家族揃って、俺に対して超過保護だから‥‥」
「おやまぁ。こんな立派な『紳士』なのにねぇ」
困ったように苦笑しつつ、裕貴はポットから紅茶をカップへ注いだ。
「ところで、お菓子を貰う子達はハロウィンの歌を、知っているかしら?」
「ハロウィンの歌?」
首を傾げるセシルに、「そうよ」と老婦人は頷く。
「家を訪ねた時に、『Trick or treat』の歌を唄うの。どれ、一つ教えてあげましょうか」
歌の練習を聞きながら、キッチンでは早河恭司(fa0124)とCardinal(fa2010)が揃って『作業』をしていた。
「ハロウィンか‥‥日本の『ファンタジーランド』でも、毎年ハロウィン・イベントをやってるけど、遊びに行った事はなかったなぁ」
呟きながら、恭司はごりごりと飴を棒状に細く伸ばしていく。
「確か、ファンタジースタジオの遊園地だったか。アメリカにもあるが‥‥確かに、俺も行った事はない」
答えるCardinalもまた、ナイフで器用にゴリゴリとカブを削っていた。
「アメリカにもあるって‥‥アメリカが、本場だろう?」
「そうだったか?」
そんな会話をしながら作業を進める二人の元へ、バタバタとレオン・ローズが駆け込んでくる。
「どうした?」
尋ねる恭司へ、レオンは忙しく冷蔵庫や戸棚の扉を次々と開けては中を確認し、閉じていき。
「諸君、フィルゲン君を見なかったかね?」
「さすがに、そんなトコには入らないと思うが‥‥逃げられたのか。ドッチも大変だな」
苦笑する恭司の隣で、ナイフを置いたCardinalがゆらりと立ち上がった。
「探すのを、手伝うか?」
「うむ。助かるぞ、レッド君」
猫系獣人、あるいは狩猟系民族の本能なのか、どこか楽しげなCardinalと共に、レオンはキッチンを出て行く。
やがてフィルゲン・バッハの悲鳴が聞こえたような気もしたが、彼は聞こえなかった事にした。
戻ってきたCardinalは再び黙々とカブを掘り、そして恭司だけでは力が足りない太目の飴の『練り』を手伝った。
●貰う側、貰われる側
街には、街路を飾る派手な電飾も、始まりを告げる花火もなく。
ただ太陽が西の果てに消えると、白カブやカボチャ提灯に蝋燭を灯した『お化け』達が、あちこちの家から姿を見せ始めた。
小さな魔女やモンスター達は、近所の仲間や学校の友達同士で小さな徒党を作り、家から家へとそぞろ歩く。
「こっちも、そろそろ出陣かな?」
準備が終わっている事を確かめるように、『不思議の国のアリス』に扮した紗綾が振り返り。
「ダメだよ‥‥何度見ても笑っちゃうっ」
レオンとフィルゲンの格好を見て、思わず笑い出した。
「よく似合うであろう」
「似合うも何も、ないだろう‥‥」
げんなりとした『女王』フィルゲンは、レオンが扮する『首なし従者』の頭をボールのように手の内でぽんぽんと投げる。ぶっちゃけ、フィルゲンは単なる女装の延長で。一方のレオンは、自分の頭の上に『首穴』がある−−子供が上着の襟をつまんで、頭まですっぽりと上着の中へ隠したような−−状態になっていた。ちなみに前が見えるよう、ちゃんと目の穴は開いている。
「こら。人の頭で遊ぶな」
「知るかっ」
「でっかいコンビだよね」
面白そうに笑うRickeyは、黒のサスペンダー付きのズボンに黒マントを羽織り、上顎に牙のある模型の歯をはめて、『ドラキュラ伯爵』に化けている。
そして、半獣化して『猫の魔女』の仮装をしたセシルは、楽しげにデジカメのシャッターを切っていた。膝丈より少し長めでボリュームのあるスカートに、白い手袋をはめ、とんがり帽子からは自前の耳を出して、尻尾の先っぽを鈴とリボンで飾っている。
「可愛いアリスと魔女さんは、意地悪妖精に浚われないように」
笑いながら風音が籠とカブのランタンを差し出し、紗綾とセシルは仲良く「は〜い!」と答えた。
「フィルゲンさんは、その格好では‥‥流石に逃げられませんね」
冷やかすように加羅が笑い、Cardinalはしげしげとその姿を眺めてから、口を開く。
「気をつけてな。女装陛下」
「女装いうなーっ!」
フィルゲンが反論するも、全く説得力がなかった。
「じゃあ、いってきます」
「誰が沢山お菓子を貰えるか、競争だね」
Rickeyが手を振り、紗綾が気合を入れて。
「ふっふっ。負けるでないぞ、フィルゲン女王」
「女王いうなーっ!」
無駄に気合を入れるレオンを、速攻でフィルゲンが否定した。
「ラスカルさんも、頑張りましょう〜!」
「ちょっとだけやけど、頑張るで」
セシルに激励され、半獣化してアライグマの耳と尻尾を出し、賢者のようなローブを纏った蕪木が後に続く。
「 Trick or treat.
Trick or treat.
I want something good to eat.
Trick or treat.
Trick or treat.
Give me something nice and sweet.
Give me candy and an apple,too.
And I won’t play a trick on you! 」
唄いながら家の灯りへと歩いていく六人を、残る者達は笑って見送った。
「Trick or treat!」
無邪気な声が、あちこちから聞こえてくる。
家の前に焚かれた暖かい炎を頼りにするように、街の中心部からも子供達がやってきていた。
「さぁ、どれがいいですか。ミニマフィンに、キャンディ。コウモリ型のチョコレート。『魔法使いの杖』のキャンディステッキもありますよ」
黒いコートを身に付けた加羅が、子供達に小さな袋を選ばせている。半獣化した上で、片手や顔の半分を隠すように斜めに包帯を巻いた姿は、何の仮装かちょっと不明だ。その為に‥‥。
「それじゃあ、『ミイラ男になった狼男』!」
「残念、違います〜」
−−などと、いつの間にか、何の仮装かの当てっこネタにされていた。
「おにーさん達も、仮装してるの?」
小さな魔女達に聞かれ、銀縁眼鏡をかけてタキシード姿の裕貴は「そうだよ」と笑顔で答える。
「さぁ、お嬢さん達。好きなお菓子を、どうぞ」
彼が恭しく身を屈めて銀色のトレイを差し出してやれば、趣向を凝らしたラッピングの数々に少女達が目を輝かせた。そしてジャック・オー・ランタンの型に抜かれたジンジャークッキーと、パンプキンクッキーのどちらかを選ぶか、相談を始める。
「どっちか一つだけ?」
「うん。一つだけだよ」
裕貴の言葉に悩む少女達へ、恭司が笑顔で『折衷案』を出す。
「別々のを貰って、後で分けるのもいいかもね」
「そっか。ありがとう、おねーさん!」
無邪気な礼に、恭司は少し微妙な笑みで応じる。いつも束ねた髪を解き、シークレット豹耳に少し寒そうな浴衣で『猫又』風に興じてみた彼だが、改めて女性と間違われると喜ぶべきかそうでないかは‥‥心境的には微妙だ。
「これなにー?」
見慣れぬ紅白の棒に、好奇心の強い別の子供達が質問を投げた。
「これはね。日本のキャンディで、細い方が千歳飴っていうんだ。それからコッチの太いのは、金太郎飴。輪切りにすると、同じ模様が中に入ってるんだ」
「キンターロー?」
子供達は飴を手に取り、不思議そうに観察する。
ちなみに金太郎飴作りは恭司の力だけでは足りず、Cardinalの手も貸りていた。素人作の模様は、ジャック・オー・ランタンかウィル・オー・ウィスプかというような、怪しげな形ではあったが、初めての飴細工を目にする子供達には、新鮮だったようだ。
「‥‥好きなだけ‥‥掴み取りです‥‥」
「やったーっ!」
黒いローブにとんがり帽子の魔女姿のシャノーが、器代わりにしたジャック・オー・ランタンを差し出せば、少年達が喜んで手を伸ばした。
だが大量に掴もうとしても、小さな手に掴みきれない菓子がぽろぽろと容器に落ちて。
「両手を突っ込んじゃダメかな」
「両手は、入らないんじゃないかな」
同じく黒尽くめの魔女の風音が、悔しそうな少年にジンジャーブレッドを差し出した。
「さぁ、林檎も持っていきなさいな」
子供達が重くないよう、老婦人が小振りの林檎を帰る子供達に手渡す。
「その林檎は‥‥何か意味があるのか?」
魔除けの炎の番をするCardinalが純粋な興味で尋ねれば、「ええ」と老婦人は一つ頷き。
「ハロウィンの日の林檎には、特別な力が宿るのよ。この日に林檎を食べれば病を退け、災いを退けるっていうわ」
そう言って、彼女はCardinalの手にも赤い林檎を一つ置いた。
「ありがとー!」
籠にお菓子を入れてくれた家人へ、紗綾が手を振って礼を述べる。
「凄いな。もう、籠いっぱいになってきたね」
『豊作』の紗綾に、Rickeyも自分の籠を示した。
子供達が多くの家を回れるよう、そして沢山の子供達にお菓子を配れるようにと、渡される菓子は小分けされている。が、それでも結構な量になっている。
「お菓子集め競争は、誰が一番かよく判んないですね」
「誰が一番でも、ええんとちゃうか。皆楽しそうやし、競争するのももったいないと思うなぁ‥‥」
セシルと共に写真を撮りながら、蕪木はお菓子を貰ったり、持ってきたお菓子をすれ違う子供達に配ったりしている。
「お菓子、頂戴よ〜!」
「えぇぃ、コッチにたかるな。逆に搾取するぞ〜っ!」
物珍しさで集まってくる子供達をレオンがあしらい、その大人気なさにフィルゲンは苦笑しきりで。
明るい笑い声。そして、笑顔。
柔らかく街を照らし出す、大小様々な炎。
「なんかこう、じーんとくるもんがあるなぁ‥‥」
シャッターを切る手を止めて、しみじみと蕪木は呟いた。
●大人の時間
『子供の時間』は、日没から約3時間程度で。
子供達が帰った後は、飲んで食べての宴の時間となった。
暖かい料理が饗され、酒やジュースが振舞われる。
陽気な音楽が始まれば、掛け声に手囃子足囃子で、セシルが風音と一緒に、黒い小さな蝙蝠羽根を付けたクマのヌイグルミを片手に踊ったり。
「賑やかですね」
見守る加羅に、レオンが「うむ」と頷く。
「昔は、この日が一年の終わりでな。日が沈むと、新しい日が始まるという考え方から、こうして新しい年を祝う。そして古い一年と新しい一年の狭間にのみ、この世と霊達の世の境の「門」が開くのだ」
「へ〜。そうなんや‥‥あ、飲みはる?」
そんな講釈を聞きながら、蕪木は裕貴に酒を勧めるが、「弱いから」と辞退され。
「じゃあ、俺が貰おうか」
恭司がコップを差し出して、酌を受けた。
「‥‥ここだけの話ですが‥‥もしかしたら‥‥ネッシーは、巨大水棲NWかも‥‥しれません‥‥」
「え〜っ、ホントに!?」
シャノーの疑惑に、酔った紗綾が目を丸くする。
「こちらの妖精が、ある一家にくっついてアメリカに渡ったという、ハロウィン伝承もあるらしいな」
「そうなんだ。じゃあ今度は、アメリカのハロウィンも見に来てほしいね」
Cardinalの話を聞いたRickeyが、フィルゲンに話をふれば。
「あ〜あ。ここで寝たら風邪引くよ、フィルゲンさん」
相手がすっかり酔い潰れている事に気付いて、Rickeyが苦笑する。
「寝かせてきてやろう」
「あらあら、ありがとう‥‥それじゃあ、ベットの用意をしようかしら」
Cardinalがフィルゲンを背負うのを見て、老婦人は家の中へと入っていく。
「それにしても、大晦日と正月やって言われると、なんか納得できるなぁ」
蕪木の感想に、Rickeyはグラスを掲げて応えた。