Knights of Middle Agesヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや難
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
11/07〜11/10
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●本文
●新たな作品のために
「フィルゲン君。パイロット・フィルムを作るぞ!」
「はあぁ!?」
イギリスの映像製作会社アメージング・フィルム・ワークス(AFW)所属の監督、レオン・ローズの突如の宣言に、彼の相方である脚本家フィルゲン・バッハはゲームパッドを握ったまま呆気に取られる。
「お、add」
「ちょぉぉ!?」
ディスプレイを指差され、慌ててフィルゲンはゲームの操作に戻った。
ちなみに「add」とは、戦っている敵と別の敵が、加勢に加わったという意味である。
「呼ぶなぁぁぁ!」
「頑張らねば死ぬぞ」
「というか、リアルタイム・ゲームの時は口出しするなっ」
「何を言うか。これもまた、試練であるぞ。そして、真なるプレイヤー・マスターとなるのだ。マイ・サン」
「そんな試練いるかっていうか、そもそも真なるプレイヤー・マスターって何だ。それに息子じゃないっ」
ご丁寧にボケどころに全て突っ込みを入れるフィルゲンに、カンラカンラとレオンが笑う。
そして、十数秒後。
ディスプレイのキャラクターは、見事にポリゴンの壁に埋まって、前のめりで昏倒していた。
「‥‥石の中にい‥‥」
「違っ!」
怒りをぶつけても仕方ないので、フィルゲンは眉間を押さえて深く溜め息をつく。
「で、何の話だよ?」
「だ〜か〜ら〜、パイロット・フィルムを作ると言っておるのだ」
椅子の前後を逆にして座るレオンが、背もたれを掴んでガクガク揺すった。
「‥‥子供か、君は」
「フィルゲン君が、ちゃんと話を聞かんからだ」
偉そうに胸を張るレオンに、フィルゲンはまた肩を落とす。
「で、パイロット・フィルムって、『幻想寓話』の?」
「いや。また、別種のものであるのだが‥‥WWBへの売り込み用にと思ってな。素案は幾つかあるのだが、一つのパターンとして題材を『中世の騎士』としてみた。積み重ねが生かせるものがよかろう。」
「‥‥珍しく、普通の意見だな」
「私だって、普通の意見を言うぞ。76年に1回くらいはな」
「それ、なんてハレー彗星?」
とりあえずお約束っぽく、フィルゲンは諸悪の根源をハリセンでぶっ叩いておく。
「しかしまた、何で急に‥‥もうすぐ、『幻想寓話』の撮影だろう?」
「うむ。確かに『幻想寓話』はファンタジー・ヒューマン・ドラマとして、それなりの評価はある。『永劫回帰交響曲』も然り。だが、それが全てと思われるのもな。こう、血吹き肉咲かれるようなアクション的な分野にチャレンジしてみるのもよかろう」
「ソレを言うなら、『血湧き肉踊る』だろ」
「モノは言いようと言うではないか」
あっけらかんと笑う相方に、フィルゲンは痛む頭を抑えた。
本題をまとめれば、『中世の騎士を題材として、アクション風の映像を作ってみよう』という企画である。
試験的な意味合いもあるため、尺は10分〜15分ほどの短編物。
ただガチガチに史実と合わせてしまうと、エンターテイメントとしての面白味がなくなるため、突飛な事にならない限りはある程度のアレンジもOKとする(例えば女装や男装、東方や中東の異人、決闘の儀礼、戦闘の様式など)。
また半獣化するか、もしくは獣化せずに撮影を行うかどうかは、アクターの希望も考慮するとの事である。
●リプレイ本文
●吟味と代役
見渡せる平原を、気まぐれに風が吹き抜けていく。
美しくもどこか寂寥感の漂う空間を、久遠・望月(fa0094)は歩いていた。時おり、足を止めて冬枯れた草に触れ、あるいは風化した石造りの古い建造物を細部まで注視し。
思案を巡らせつつ進む彼の足は、やがて撮影拠点のテントへ向かった。
「状況は万全とは言えないが‥‥是が終わりじゃないから。始まりの一本にしよう」
ほぼト書きで占められ、役名の記されていない台本を、望月が役者達に渡した。
「本業が音楽方面であるマリーカ君も半獣化で補うとして、女性陣の方は演技面では問題なかろう。まぁ、体力は少々‥‥気にせねばならぬところであるがな」
ボールペンの底で、監督のレオン・ローズがぽしぽしと頭を掻く。
「少し気になったのが‥‥騎士が『神の御前』で忠誠を誓うとしても、仕える相手は人たる『君主』かなぁ」
難しい顔で、脚本家のフィルゲン・バッハがその内容に赤を入れる。
「『神に仕える騎士』を討つという行為は、『神への冒涜』にもなる。それだと討つ相手側の理由が『異教徒だから』か、『同じ宗教間での対立』という宗教抗争になってしまう。なので、叙任式は修道女のマリーカさんではなく、貴族の風音さんが中心となる形で‥‥いい?」
「それなら、領主‥‥辺りかな」
貴族役の深森風音(fa3736)が、苦笑いで台本をめくった。
「ではわたくしは、修道服を翻してカッコ良く戦ったりは、出来ないのかしら」
何に感化されたのか、修道女役のマリーカ・フォルケン(fa2457)の『無邪気な』問いに、フィルゲンは微妙な表情を浮かべる。
「聖職者が戦う相手は、『神に反するもの』が相応なんだけどね‥‥それ故に、聖職者なんだし。その辺を譲歩しても、『神の家を守る』形で武装する感じかな」
「そういえば、鎧なんかは、出来るだけ頑丈に見せつつ、軽くしてくれる‥‥のかな?」
描くイメージと、立ち回りでの負担を思案しながら従騎士役の月居ヤエル(fa2680)が呟き、正騎士役のエルヴィア(fa0095)が「そうね」と同意した。
「重くて頻繁に休憩を取ってると、集中力も切れるものね。鎧に振り回されるのを誤魔化してもらうのも、ちょっと‥‥」
「折角だし、生身の演技で挑戦したいわよね」
いつぞやの『コスプレ』を思い出し、正騎士役の羽曳野ハツ子(fa1032)は楽しげに笑う。もちろん、前は遊びの延長線上で今回は仕事であるから、その大変さも覚悟しているが。
「できるだけ、角や耳はデザインで生かす形かな。無理がある分は画像処理で取って、後は細かいデティールを補って‥‥」
提案しながら、甲斐 高雅(fa2249)は硬筆の鉛筆を忙しく紙の上で走らせていた。
メモを取っているわけではなく、白い風景の上には出演者達のイメージを元にした兜や紋章の素描が、彼の思いつくままに幾つも描かれている。
「わぁ‥‥綺麗ですねっ」
傍らからそれを覗き込んでいた従騎士役のセシル・ファーレ(fa3728)が急に声を上げ、一瞬驚いた甲斐の表情が照れ臭そうな笑顔に変わる。
「そうかな。ありがとう」
「じゃあ、そっちはその線で纏めるとして‥‥問題は、相対する方か。どうすっかなぁ」
がしがしと乱暴に、望月は赤毛の髪を掻き回した。
「さすがに、俺一人で‥‥という訳にも、いきませんよね」
相手側の副官役の加羅(fa4478)が、困ったように腕を組んで考え込む。
現状では、女性陣と対比して描かれる側が加羅一人しかいない。このままでは、絵的にも相当に寂しい事になるだろう。
「となると、甲斐君は‥‥」
ぎぎっとフィルゲンが首を回し、目が合った甲斐は即座に首を横に振った。
「僕は、完全裏方だから‥‥撮る方はともかく、撮られる方はちょっと」
「先に断っておくが、俺も『役者』じゃあないから」
不穏な気配を察知した望月も、両手を挙げて予防線を張る。
「という事は、だ」
ぽむと相方の肩にレオンが手を置き、フィルゲンが嫌そうに背後へ振り返る。
「待て。僕の意思は尊重‥‥」
「当然、されんと決まっている。幸いに、今回はシナリオライターの望月君もいる。心置きなく、代役を頑張ってくれたまえ」
レオンがパチンと指を鳴らせば、待ちかねていたメイク係や衣装係が現れて。
「ちょっ‥‥待てぇぇ〜〜っ!」
「最近のアライグマさんは、攫われ属性が強いですね‥‥」
ずるずると拉致られていくフィルゲンを、セシルが持ち歩いているぬいぐるみのクマの手を振って、見送る。
「じゃあ、切り結ぶ組み合わせは‥‥」
何事もなかったように、望月が話を再開した。
●Knights of Middle Ages
馬の蹄が、土を蹴り上げた。
一頭の後に二頭が続き、四頭八頭と進む毎にその数は増えてゆく。
そして行く道の先には、質素な石造りの礼拝堂が佇んでいた。
両刃の剣が冷たい音を立てて鞘から引き抜かれ、鈍く輝く切っ先は礼拝堂へと向けられ。
画面は暗転し。
−−誰が為に‥‥剣を取るのか−−
浮かび上がった文字は、砂の如く散っていく。
傷一つない鎧を身に着けた若い二人の従騎士が、緊張と喜びの面持ちで祭壇へと跪く。
二人の前を静かに横切った修道女が、脇に座る貴族へと剣を捧げ持ち。
再び、映像がフェードアウトして。
−−誰が為に‥‥命捧ぐのか−−
木の閂を渡した扉の両脇は貫禄ある二人の正騎士が固めていた。
後進達の『晴れ舞台』を前に、二人は僅かに笑みを交わす。
十字架の上方に作られた丸窓から祭壇へと、柔らかい光が降り注ぎ。
三度、風景は消えて、文字が浮かび上がる。
−−それは‥‥忠義か‥‥献身か‥‥信仰か‥‥それとも‥‥己の武勲か?−−
「彼女らも、いよいよ一人前の騎士‥‥か」
祝福を受けるように、窓からの暖かい光を浴びる従騎士二人を、主たる貴族は優しい表情で見守っていた。
「それでは、よろしいでしょうか」
祝福を施した二振りの剣を用意した修道女が、風音へ声をかける。
彼女が一つ頷くのを見て、マリーカは静かに口を開く。
「ではこれより、新しい騎士となる者達へ叙任式を執り行います」
その宣言に、扉を守る二人の正騎士は表情を引き締めた。
教会に、六人以外の参列者の姿はない。
静寂の中、静かに風音は立ち上がり、祝福された剣を手に取ると峰をヤエルの肩に乗せた。
「主の御名において、我、汝を騎士とす。勇ましく、礼儀正しく、忠誠であれ」
「十の訓戒を守り、恥ずべきところない騎士になる事を誓います」
肩に当てられた剣を、恭しくヤエルが受取り、騎士となる誓いの言葉を口にする。
誓いを聞き届けた風音は、次にセシルへも同様に剣を授けた。
「弱き者を守り、正義を貫かんとする若き騎士達に、大いなる主の祝福があらん事を」
マリーカが祈りの言葉を述べ、風音は表情を和らげて、二人へ手を差し伸べる。
「さぁ、お立ちなさい。略式ではあるが、これで二人とも立派な騎士と‥‥」
ドンッ!
風音の言葉を遮り、封じた扉が重い音を立てる。
ドンッ!
震える扉から離れたエルヴィアとハツ子は、祭壇の者達を守るよう剣に手をかけて身構え。
ドンッ!
三度目の衝撃の後、バキッと音を立てて木の閂が折れた。
それを見て、先達の二人の騎士は細身の剣を抜く。
打ち破られた扉から重い一歩が敷石を踏めば、僅かに砂埃を舞い上がり。
扉から、黒尽くめの厳つい甲冑がぬっと現れた。
兜のフェイスガードを下ろした黒騎士が、スリット越しに立ち塞がる者達を見下ろす。
同様に黒い鎧の加羅が、一つに束ねた黒髪を揺らして傍らへと進み出て。
更に黒い鎧の男達が、次々と足を踏み入れて取り囲むように散開する。
「神聖なる場所へ、騒がしく乗り込むとは‥‥礼儀知らずも甚だしい。恥を知りなさい!」
剣に手をかける主と、咎める修道女を背に庇うかの様に、正騎士となった二人も新たな剣を手にして、身廊へ一歩踏み出した。
鋼のぶつかり合う音が響く。
振り下ろされる大降りの剣を、ハツ子が盾で弾き。
エルヴィアが切り込む剣を、加羅が両刃の剣でいなす。
その防衛の間隙にも繰り出される剣を凌ぎ、交錯する刃を、ヤエルとセシルは青ざめた表情で見つめていた。
戦鎚を手にしたマリーカが、牽制するように回り込む黒い鎧の一団を睨み。
風音は険しい表情で、じっと打ち合う騎士達を見つめる。
−−だが。
弾き飛ばされたエルヴィアが、壁に打ち付けられ。
「‥‥甘い!」
体制を整える間も許さず、加羅が剣を構えて更に踏み込む。
「‥‥っ!」
一瞬縺れ合う、白い髪と黒い髪。
白い鎧の隙間へ深々と抉り込んだ刃から、赤い滴りが敷石と落ちる。
身体を貫く冷たい感触に戦慄しながらも、エルヴィアは剣を構えたまま凍りつく二人の騎士へと目を向け。
「我らが主を‥‥安全な場所まで、お守りしろっ!」
血を吐くような叱咤に、身を竦める二人の少女は弾かれた様に風音へと駆け寄る。
無表情に剣を引き抜き、祭壇へ足を向けようとする加羅へ、エルヴィアはなおも剣を手に、黒い鎧を掴んで追いすがり。
それをちらりと一瞥した加羅は、無造作に両刃の剣を振り下ろした。
重い剣を受けながらも、ハツ子はそこから一歩たりとも退かなかった。
身廊に立ちはだかり、既に用を成さなくなった盾を捨て、両手で大降りの剣の一撃一撃を受けきる。
その身と剣をもって、黒騎士の歩を食い止めていた彼女だったが。
重い一撃の連続に、誇りと守護の剣が悲鳴を上げ、遂には砕けた。
銀色の破片が、床に散らばり。
後を追うように、優雅なラインの兜が、落ちる。
大降りの剣が振りかざされ‥‥だが、振るわれる事なく、刃はゆっくりと下ろされる。
倒れる事無く、なおも立ち塞がるハツ子の足元には、鮮血の海が広がり。
黒騎士はそれを踏み越えて、彼女の脇を通り過ぎる。
彼女は倒れなかった。
しかし、その手からは折れた剣の柄が滑り落ち、赤い海に沈んだ。
その光景を目の当たりにしたセシルは、震える手で一点の曇りもない剣を構え直し。
「ここは‥‥通しませんっ」
迫る相手を睨み上げて、行く手を阻む。
「お逃げ下さい。ここは、私達で食い止めます!」
守るべき相手に振り返って告げると、ヤエルもまた後に続く。
しかし騎士になったばかりの二人に、多勢を破る程の技量はなく。
重く、あるいは鋭い剣を受けきれず、打ち据えられ。
真新しい鎧には無数の傷を作り、祝福を受けた剣も砕かれて、二人は地に倒れ伏す。
「く‥‥っ」
霞む視界の中で、マリーカの金髪が窓からの陽光を受けながら一瞬広がり、崩れ落ちる。
身を守る『盾』を失したものの、風音は相手に背を向けず、剣を振るって抗うが。
−−力量の差は、虚しく。
窓や扉から煙が立ち昇る石造りの教会を、黒い鎧の一団が後にする。
−−そして。
セシルに肩を貸すヤエルが、教会から姿を現した。
エルヴィアの剣を杖代わりにする彼女は、外へと逃れるとそのままその場へ座り込む。
視線を上げれば、目的を達した黒い一団は、軍旗を翻して遠ざかっていく。
満身創痍の二人は、支えとなる剣に手をかけたまま、決意の瞳でそれを見つめ。
煙が吸い込まれる空は、ただ何事もなかったように静かに青く広がっていた−−。
●撮影終了後
「軽くしてもらっても、やっぱり鎧は重い、わ、ねっと!」
窮屈な胸当てを外したハツ子は、大きく一つ深呼吸をした。
「今回はパイロット・フィルムということだけど、次回があるようなら馬上での合戦シーンなんか、是非やりたいね」
そんな感想を話しながら、血糊で汚れた衣装を脱ぐ風音だったが。
「ひゃぅっ!」
突然、脇を『攻撃』されて、奇妙な悲鳴を上げる。
「はははははは、ハツ子さん!?」
決して、笑っている訳ではない。
いきなり風音の脇腹をつまんだハツ子は、微妙に納得の行かない表情をして。
「え〜いっ!」
「ちょっ‥‥ハツ子さん!?」
今度は、エルヴィアに『被害』が及んだ。
「急に、どうしたのよっ」
「だって、何で風音さんやエルヴィアさんって、太らないか気になって気になって気になるんだもん」
ぶーと頬を膨らませるハツ子に、エルヴィアはやれやれと白い髪を揺らす。
「ハツ子さんだって、出てるところは出て、引っ込んでるところは引っ込んでるじゃない」
「え!? ちょっと待って、やめなさいよ、やめてってば、やめて〜っ!」
エルヴィアから『報復』されて、今度はハツ子が悲鳴を上げた。
「‥‥なんだか、賑やかだね」
賑やかな女性陣の声を聞きながら、甲斐が苦笑する。
「ところで、フィルゲンさんは?」
「あ〜、まだ『帰ってこない』みたい‥‥でしょうか?」
加羅が控えのテントを振り返れば、フィルゲンは背中を丸めて頭を抱えていた。
「いや、あれは‥‥凹んでおるとみた」
「凹んでんのか、あれは」
呆れたように、望月が改めて丸い背中を見やる。
「役回りとはいえ、ハツ子君達に害をなす役であったからな」
「ふ〜ん。やっぱり、騎士道精神‥‥自らの魂の気高さって、レオン監督やフィルゲンさんにも伝わっているんだろうね‥‥あと、監督。編集が終わったら皆に試写を見てもらって、最終の調整でいいですか」
どこか納得した風な言葉の後に甲斐が問うが、場には沈黙が降りていた。
「‥‥え? 僕何か変な事いった?」
「いや。気高い‥‥のかねぇ?」
笑い出しそうになるのを堪えながら、望月が肩を竦める。
「しかし‥‥本分は『ローランの歌』の土台になればと思ったが、いっそ『男女逆転劇』も面白そうであるな」
撤収を始めた現場を眺めるレオンは、そんな事を呟いた。