Limelight〜秋の夜長にアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 6.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/15〜11/17

●本文

●Limelight(ライムライト)
 1)石灰光。ライム(石灰)片を酸水素炎で熱して、強い白色光を生じさせる装置。19世紀後半、欧米の劇場で舞台照明に使われた。
 2)名声。または、評判。

●ライブハウス『Limelight』(ライムライト)
 隠れ家的にひっそりと在る、看板もないライブハウス『Limelight』。
 看板代わりのレトロランプの下にある、両開きの木枠の古い硝子扉。
 扉を開けたエントランスには、下りの階段が一つ。
 地下一階に降りると小さなフロアと事務所の扉、そして地下二階に続く階段がある。
 その階段を降りきった先は、板張りの床にレンガの壁。古い木造のバーカウンター。天井には照明器具などがセットされている。そしてフロア奥、一段高くなった場所にスピーカーやドラムセット、グランドピアノが並んでいた。
 フロアには、控えめなボリュームでオールディーズが流れている。

「こないだの文化祭は、なかなかに好評だったらしいぞ。バンドの連中が、礼を言ってたよ」
「それは、私じゃなく出演したミュージシャン達に報告すべきだよ」
 コーヒーカップを傾ける音楽プロデューサー川沢一二三(かわさわ・ひふみ)に背を向けたまま、モップを手にした『Limelight』オーナー佐伯 炎(さえき・えん)は苦笑いを浮かべた。
「で、次のライブは?」
 そんな友人の素振りも知らず−−あるいは知っていても関せず、川沢が『本題』をふる。
「ああ。ま、ここんとこずーっといい陽気で忘れそうだったが、もう秋なんだなぁ‥‥って、思ってな」
「今更‥‥もう、11月だよ」
「そうなんだよな。で、あっという間に12月で今年も終わりな訳だ」
 モップの柄にもたれて佐伯が嘆息すると、川沢も微妙に奇妙な表情を返す。
「年末、か‥‥」
「あ〜、それでだな。とりあえず今月は、『秋』っぽいライブでもやろうかと」
「何だよ、それは」
「オレ流、秋の夜長の過ごし方‥‥みたいな? 静かな夜にしんみり聞かせるようなのもよし、仲間と集まるパーティ・ソングもよし」
「秋の夜長の過ごし方‥‥ねぇ」
 思案を巡らせつつ、川沢は再びやたらと熱くて濃いブラック・コーヒーを口に運ぶ。

 そうして、『Limelight』でのライブ出演者募集が告知された。

●今回の参加者

 fa0259 クク・ルドゥ(20歳・♀・小鳥)
 fa0595 エルティナ(16歳・♀・蝙蝠)
 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa1814 アイリーン(18歳・♀・ハムスター)
 fa2993 冬織(22歳・♀・狼)
 fa3861 蓮 圭都(22歳・♀・猫)
 fa4790 (18歳・♂・小鳥)

●リプレイ本文

●秋の一夜を華やかに
「事務所‥‥は、こちらでいいのかしら?」
 扉を押し開けて姿を見せたエルティナ(fa0595)に、禁煙煙草を咥えていた佐伯 炎が挨拶代わりに軽く片手を挙げる。
「ああ、いらっしゃい。よろしくな」
「わ〜っ。ここが、『Limelight』なのね!」
 事務所のガラスに張り付いた蓮 圭都(fa3861)は、下のメインフロアを眺めていた。
「初『Limelight』で緊張するけど‥‥でも素敵なパートナーも一緒だし、頑張らないとね!」
 振り返った彼女の笑顔に、照れを隠すように慧(fa4790)が少し困ったような表情を浮かべる。
「素敵って‥‥こっちこそ、圭都さんと唄うの楽しみだよ。あ、佐伯さん。みんなで食べようと思って、老舗の大福と緑茶葉を差し入れ持ってきたから。それから、川沢さんと佐伯さんと飲もうと思って、月見酒用に白ワインも」
「そりゃあ‥‥気ぃ遣わせたようで、すまんな」
 苦笑しつつも、有難く慧の手土産を受け取った佐伯は、早速茶を淹れる準備を始めた。
「ぴぇ、大福〜っ。佐伯さん、手伝うね」
 ソファーで飛び跳ねて喜ぶベス(fa0877)が、待ちきれないのか手伝いに向かう。
「秋はいろいろと美味しくて、困るわよね‥‥でも、ステージでは体力も必要だし」
 老舗の大福と聞いて、何やら自分を納得させている富士川・千春(fa0847)へ、「そうだよ!」とベスが更に背を押す。
「何やら、良い香りがするのう」
 茶が入った頃、冬織(fa2993)が事務所へと姿を見せた。
「柊が咲いておったで、良ければ何処ぞへ飾ってくれ。木犀には劣るが、秋の夜の香じゃよ」
 棘のある緑の葉に小さな白い花を咲かせた柊の枝を、彼女は佐伯へ渡す。
「わざわざ、すまんな」
「おはようございます。皆、もう揃ってるんだね」
 PA席への扉を開けて川沢一二三が現れると、アイリーン(fa1814)が会釈をした。
「おはようございます、川沢さん♪ あの‥‥年末の予定って、何か入りそうですか?」
「年末の予定?」
 鸚鵡返しに聞く川沢に、アイリーンは少しはにかんだ笑顔を見せて。
「はい。もし、空いてるならデートを‥‥って展開なら素敵なんだけど、アイベックスさんから年末に何か企画とか出るのかな〜って」
「ああ‥‥アイベックスに限らず、年末はいろいろと企画モノが多くなるんじゃないかな。忙しくなると、いいね」
 笑いながら、川沢は含みのある表情をしている佐伯の顔面へ、バインダーを押し付けた。
「そうそう、何だかみょ〜にしんみりしてる二人に、こんなの渡しに来ましたよ?」
 びろんと、クク・ルドゥ(fa0259)が長い綴り券を披露する。そこには、丸い文字で『肩叩き券』と書かれている。
「全部で10枚、1枚で20叩き! と言う訳で。おとーさん、いつもありがとー!」
「‥‥腕に飛び込んでみるか、娘?」
 冗談めかす佐伯へ、ククは笑顔でタックル紛いの突撃をかました。

●事前打ち合わせ
「演奏順の希望があるんだけど‥‥私は、最初と最後は外してもらえないかしら」
 大福と緑茶を囲んでの打ち合わせで、千春は希望を口にする。
「曲はノリ系だけど、歌詞がしんみり系なのよね」
「曲調と内容が、必ずしも合致しない‥‥というのは、演出方法としてアリなんだけどね。本人からのリクエストなら、考慮しておくよ」
 進行のメモに川沢が書き加えるのを見て、千春は軽く頭を下げる。
「お願いします」
「で‥‥少しばかり気になったんだが‥‥嬢ちゃん、完全獣化してステージに立つのか?」
 鳩尾の辺りを擦りつつ佐伯が尋ねれば、エルティナは「おかしいかしら」と首を傾げる。
「客との距離はソコソコ近いし、『危険』は避けんとな。『着ぐるみ風パフォーマンス』がしたいとか‥‥あるいは、客に顔を見せたくねぇとか理由があるなら別だが」
「いえ、特に理由はないわ」
「それなら半獣化に留めて、羽を動かさんよう頑張ってくれ」
 言い含める佐伯に、彼女は一つ頷いた。
「あの‥‥川沢さん」
 会話の切れ間に、いつになく神妙な面持ちで、ベスが居住まいを正した。
「初めてお世話になった時から、ちょうど一年経ちました。この一年、本当にありがとうございました。そしてご迷惑もたくさんかけてしまい、申し訳ありません」
 それから笑顔と共に、ぴしっと敬礼してみせる。
「これからも、よろしくお願いします♪」
「こちらこそ、よろしく。それから‥‥振り返って反省し、時に人の言葉に耳を傾け、良くしようと努力を続けるなら、何も迷惑な事などないよ。誰でも、最初から100%完璧じゃない。この歳になっても、そうだからね」
 おどけたベスの肩を、励ます様に川沢は軽く叩いた。
「はいっ。この一年で少しは成長した所、見てて下さいねっ?」
「じゃあ、『特等席』で楽しみにしているよ」

●エルティナ〜無題
 静かな熱気の満ちたホールに、澄んだ音が降り注ぐ。
 物悲しげなニュアンスを含んで、ゆったりとピアノを指を滑らせて。
 エルティナはセッティングされたマイクへ、に語りかける。

「これは、哀れな王子様のお話。
 王子様はある年の晩秋、1羽の小鳥を失いました。
 小鳥は優しい言葉と楽しい話で、王子を慰める唯一の友人でした−−」

 語りと共に、メロディは加速しながら膨らんでいき。
 崩れる波頭のようなクライマックスを迎えると、序盤の静けさへと立ち返る。
 文字通り一つの物語を描いて、エルティナは小曲に幕を引いた。

●『Keys』〜猫と帰り道
 物語の余韻が残る中。
 スポットライトが、グレーのタートルニットにベージュのフレアスカートを纏って白のカーディガンを羽織り、アコースティックギターを提げた圭都を照らし出した。
「わざとゆっくり歩く僕と、気まぐれ猫のような誰かさんとの秋の夜長の帰り道。
 これから寒くなる季節、隣同士の温もりに尽きないおしゃべり。
 静かな夜にほのぼの、あったかい二人をイメージしました」
 マイクを両手で持つ圭都のMCを受けて、ライトは慧の姿を浮かび上がらせる。
 紺のシャツに白のセーターを重ね着にし、黒のジーンズパンツといったラフな服装の彼の首には、猫をモチーフにしたトップのシルバーネックレスが揺れていた。
「『Keys』で、『猫と帰り道』‥‥聞いて下さい」
 曲名が告げられると、スポットライトは消えて。
 代わりに柔らかな月光のような光がステージを照らせば、圭都がギターをストロークする。
 歩くようなミディアム・テンポを身体で取りながら、慧は優しく歌を重ねる。

「 今夜は誰にも会わず 水たまりに映る月
  はしゃぐ僕と気まぐれ猫の静かな雨上がり 」

 慧は右手を胸の前にかざし、指切りをするように立てた小指へ視線を落とす。

「 小指をじっと見つめ 赤い糸を辿る
  思い出 そしてこれからが絡まる手ごたえ 」

 そして、笑顔と共にその手を聴衆へ差し出して。
 圭都は時おりギターのトップを軽く打って、アクセントを挟み。
 暖かな慧の声へ、傍らを歩くようなコーラスをそっと添える。

『 糸じゃ頼りない 手を繋ごう
  話しが尽きない僕にかえる相槌でさえ愛しい
  何だかくすぐったくて 笑ってしまう 』

 その歩みを振り返るように、慧は一つ一つ言葉を手繰り寄せて。

「 ゆっくり時間をかけ 歩いた帰り道
  惜しむのは時間じゃなくて 静かな温もり 」

 緩やかに止まるアルペジオを聞きながら、慧は愛しむように右手を胸元へ引き寄せる。
 ライトが絞られ、フェードアウトするステージを、拍手が包み込んだ。

●富士川千春〜カシオペア
 リズムマシンの鼓動に合わせて、真紅のエレキギター「フレイムストーム」を掻き鳴らしながら千春がステージ前方に出る。
 バックはベースギターをアイリーン、コーラスはククがフォローしていた。
 背に悪魔山羊が描かれた皮ジャンに袖を通した千春は、ネックを振りつつスイングで聴衆を煽り。
 反応を確かめると、スタンドにセットされたSHOUTに向かう。

「 寒さにかじかむ指先 暖かくなるように
  そっと息をかける
  何を書こうかな? あの星にしようかな
  迷った末に贈る「星物語」

  夏の夜には気がつかなかった
  澄んだ空気には
  綺麗な星たちが たくさん輝いてて
  私の中まで 透き通る気がしたよ
  光に包まれ 優しくふわり

  あなたが書くならば どんな夜を過ごしますか
  少し浮かぶよ
  恥ずかしがりながら小刻みに書いてる姿
  そうだったら嬉しい「流星雨」

  薄暗い夜に消えそうになっている
  涼しい風に
  消されないように 必死で瞬いている
  星座のように 離れていても繋がってる
  寂しくないよ 夜空にゆらり

  澄んだ空のささやき すうっとなびく淡栗毛
  深みだす季節に 北を向いたブランコも寂しそう
  秋の吐息が この胸をかすめてく

  また夏のように一緒に見ようね
  今は織姫も彦星もないけれど
  一人ぼっちで 夜空にゆらり
  北を見上げて ブランコふわり 」

 ノリで一気に唄い切った千春は、サポートの二人と手を打ち合わせ。
 歓声の残るステージを、後にした。

●『絢』〜花占
 四番手で姿を見せたのは、ククと冬織の即席ユニット『絢』。
 楽器は持たず、淡いブルーに染まったホリゾントの前に立つ二人を、ソフトに抑えたスポットが照らした。
 ククは淡い黄色のクラシックなドレスで着飾り、冬織は白を基調としたレトロ風のワンピースにショートブーツで纏めるという、『お嬢様』を意識した衣装だ。加えて二人の彩りも、獣化した時のカラーをイメージしているのだろう。
 声のチューニングをするように、短いスキャットで互いの声を確かめて。
 先ず、冬織がミディアム・テンポで唄い始める。

「 鈴音に似た虫の聲 長夜に響く調べ
  天には弦の月ほのか 夜闇は蒼い幻想 」

 辿る旋律は大らかで明るく、軽やかに。
 メインの冬織と高音のスキャットで飾っていたククが、その立場を入れ替える。

「 眠れぬ夜は誰の所為 玉響の音色 淡い月華
  それとも胸に宿った 柔らかな想いの所為ですか? 」

 そして、二人は呼吸を合わせ。

『 窓の外には真白な菊 眠れぬ夜には花占を
  父様ゴメンと1本手折り 悪戯猫の仕業にするの
  丹精こめた父様の菊 有効活用いたしましょ 』

 ククはドレスをつまんで、淑女の如きお辞儀をして。
 詫びるように、冬織がしおらしく胸に手を当てる。

「 好き嫌い好き 」
『 一枚とっては はらはら散し』
「 嫌い好き嫌い 」
『 貴方の気持ちは未だ見えない 』
『 好き嫌い好き 白い花弁に埋もれる私
  嫌い好き どっち−− 』

 ひらりひらりと、手を左右に振るたびに。
 はらりはらりと、菊の形に切った紙の花弁が散る。
 舞い落ちる花弁の中で、二人は立てた人差し指を口元に当てて。

『 花の薫で目覚めた 花弁まみれの悪戯猫
  貴方の心は夜のよう 見えないままの秋の花占 』

 最後は優雅に、一礼をして。
 あくまでも『お嬢様』らしく、二人は締め括った。

●Aileen〜Remember Friends
 目蓋を閉じても暖かいライトの光を感じながら、彼女は呼吸を整えた。
 スタンドマイクを前にして、自分の内に在る『役』を切り替えて、ゆっくりと目を開く。
 フロアのライトもステージの照明も、互いの顔がはっきりと見える程に明るく照らしている。
「1年の終わりが近づくこの時期に、今頃どうしてるだろう。
 そんな風に思い出された友達を想う気持ちを、歌にしてみたの」
 Aileen−−アイリーンは、友人へ語りかけるように気さくにMCを纏めた。
 スピーカーから、ピアノの旋律をメインとしたスローテンポのオケが流れ始め。
 金の髪を揺らして−−千春のバックでは半獣化して帽子を被ったが、今は獣化を解除して−−自然体で、リズムを取る。

「 時雨が窓打つ音に耳を傾け
  不意にキミの声が聞きたくなって
  電話をかけてみる

  久しいね懐かしい声はとても優しい
  なんだかキミの声に温かさ感じて
  電話を頬に寄せる

  今は遠いけれど 」

 不意に一拍、呼吸を置いて。
 それまでのなだらかな演奏から転調し、メロディとリズムが強く響き。
 その勢いにのせて、彼女は遠くへと声を思いを放つ。

「 今は遠いけれど
  キミの声だけは近くて

  いつかまた会おうね
  約束の言葉
  必ずキミに伝えよう 」

 明るく伸びやかに唄い上げたアイリーンは、拍手と歓声に手を振って応えた。

●Please −ココロのこゑ−
 エルティナのバイオリンに、冬織のピアノの綾なす旋律が、フロアに広がった。
 圭都がギターででリズムを刻み、千春がサックスでアクセントを加える。
 抑え目のミドルテンポなジャズ調のビートに、ベスも何とかベースギターで拍を取りつつ、ククと共にマイクの前に立つ。

『 この気持ちを 現す言葉を知らない
  愛しい貴方 抱きしめて

  怖い唄は聞かせないで
  哀しい唄は歌わせないで
  月光が揺らす 秋夜の窓辺で 静かな時を暖めよう

  今を 笑顔で生きてください
  どうか‥‥

  秋風に凍える 私を暖めて
  何時までも傍にいて
  この手を ずっと離したりしないで 』

 二人が通して唄った後は、同じ歌詞を英訳したバージョンで。
 更にアイリーンと冬織がコーラスに、そして慧がテノールのパートでボーカルに加わり、深みを与える。

 織り成すメロディとハーモニーは、秋の夜にゆったりと広がっていった。