飛んで火に入る‥‥?ヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
11/24〜11/27
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●本文
●心地よい安眠の為に?
「‥‥やっぱり、気になるなぁ」
むぅと眉根を寄せてぽつりと呟いた同居人に、ボリボリとハロウィンでの『戦利品』であるショートブレッドを齧っていたレオン・ローズが首を傾げた。
「元より日持ちのするものであるから、まだ大丈夫だと思うがな」
「‥‥何が?」
「これが」
レオンがぶら下げてみせた袋を、フィルゲン・バッハはしばし凝視して。
「ソレの事じゃないっ」
「では、ドレの事だと言うのだっ」
「この間の、黒森の遺跡だよ」
「なんだ。そんな事であったか」
何事もなかったように再びブレッドを食べ始めるレオンに、脱力してフィルゲンが肩を落とす。
「そんな事ってナンだよ‥‥気にし始めると、寝られなくなりそうだっってのに」
「そう、恨めしそうな顔をするものではないぞ。第一、私には関わりの薄い事であるからな」
「それはそうだけど‥‥でも、気になるんだよなぁ‥‥アレ。何か聞いてみて‥‥」
遺跡の行き止まりで見たものを思い出し、また思案顔を浮かべる相方を、レオンは目だけを動かして見上げた。
「一言、言っていいか?」
「ん?」
「それは‥‥まんまと、大叔父殿の策にはまっていると思わんか?」
「う‥‥」
言葉に詰まったフィルゲンの表情が、すこぶる嫌そうなものに変わる。
「そ、それは‥‥アレだけどさ。幸い、数日間は大叔父さんもベルリンだかミュンヘンだかに出かけるとかで、不在みたいなんだよね。
この隙を狙って、城の執事に聞いてみるか‥‥それか、城の資料を漁ってみるか、もう一度あそこへ行ってみるか‥‥アレが何か判らないと、あの場所の意味や何故アレを見せようとしたのかという意図も、判らないし‥‥」
一人、むぅむぅと唸るフィルゲンを他所に、レオンはブレッドを平らげた。
「まぁ、私が関わる事ができる事柄でもない故に、どうこうは言わん。が、一つだけ言っておくぞ」
「へ?」
手を打って粉を払う相方に、フィルゲンが驚いたように眼を瞬かせる。
「先方に赴く際は、一人で行くでない。また帰ってこられなくなると、主に私が激しく困る事になるのでな」
思いっきり胸を張って断言した監督に、脚本家は頭痛を覚えた。
●リプレイ本文
●水辺の城
ネッカー川の支流を望んで立つ、古城。
そこを訪れた一行は、来賓室−−以前に訪問した者達が通された部屋へと案内されていた。
部屋を飾る豪奢な調度に、ある者は興味深げに目を輝かせ、またある者はクッションの効いた椅子に居心地悪そうに辺りを見回した。
「ぴぇ〜、凄いね〜っ」
「はい。ティーカップまで、猫足です!」
ベス(fa0877)とセシル・ファーレ(fa3728)が、あらゆる物に感嘆している。
「‥‥壊さないようにね」
あまりに無邪気な反応の二人に、見かねた神保原和輝(fa3843)が一応注意しておく。
「「は〜い」」
揃って仲良く返事した後、少女達はまた精巧な作りの飾り時計や壁に掛けられた絵などに、気を取られていた。
「これまた、とんだ『謁見の間』だな」
指を組んで唸るシヴェル・マクスウェル(fa0898)に、動物を模った細工彫りを観察していたCardinal(fa2010)が顔を上げる。
「財力による、威嚇か」
「後は、撹乱だね。現実離れした空間に放り込んで気を散らし、自分のペースに持ち込むんだ」
声を落として、ぼそりとフィルゲン・バッハが呟く。
「もっとも‥‥効かない人もいるけど」
「‥‥はい?」
フィルゲンの視線を感じたのか、寛いで紅茶を飲んでいた加羅(fa4478)は笑顔で小首を傾げた。その隣では、刀を懐へ抱く様にして七枷・伏姫(fa2830)が目を伏せ、微動だにしない。
「アレが、日本人的ムガノキョーチってヤツ?」
「残念ながら、かなり違うかと」
たおやかな笑みと共に、ロイス・アルセーヌ(fa0357)は誤った認識をバッサリと切って捨てておく。
やがて、ホールに通じる扉が音を立てて開き。
「大変長らく、お待たせ致しました」
一同の前に現れた執事は、折り目正しく一礼した。
●交渉
「あの‥‥この間の遺跡にある物が何か、すんなり教えてくれたりは‥‥しませんよね?」
いつも持ち歩くクマのヌイグルミを抱きながらセシルが尋ねれば、予想通り執事は渋い顔と、短い否定の肯定という鉄壁の防御を返す。
「だから、もう一度遺跡に入ってみたいと思ったんだけど‥‥バッハ家の者抜きで遺跡に入っても、いいかな?」
フィルゲンの言葉に、立ったままの執事は彼へと向き直った。
「残念ながら、それは禁じられております」
「あ、やっぱり」
きっぱりとした返事に、やり取りを見守る者達も肩を落とす。
「じゃあ、それは僕もついていくとして‥‥書庫にある文献も、調べたいんだけど。文献は、僕じゃない人が見る事になるけど」
「‥‥」
「無理?」
沈黙へ問いを重ねれば、冷たい表情で執事が口を開いた。
「何か、勘違いをしておられませんか? ここは、市井の図書館などではございません」
「いや、それは判ってるけど、頼むよ。僕の身体は一つしかないし時間もないし、お願いだからっ」
頼み込むフィルゲンと値踏みする様に逡巡する執事は、すっかり上下関係が逆転して見える。
そして、どちらが先に折れるかの『我慢競争』の末。
「承知致しました。では、図書サロンを開放致しましょう」
諦めた様に執事が折れ。だが、フィルゲンはフィルゲンでその返答に焦る。
「いや、あそこは‥‥」
「何かご不満でも?」
じろりと見据えられ、『敗者』はふるふると頭を振る。
「でしたら、お部屋の準備と明日の手配をして参ります。もうしばらく、こちらでお待ち下さい」
恭しく頭を下げて、執事は退室した。
「あまり‥‥良い結果では、ないようですね」
ほっと息を吐く様子に、城へ残る予定のロイスが声をかける。
「うん、ごめん。サロンは来賓が退屈しない様に配慮して、時間が潰せそうな本を揃えた部屋だからね」
「つまり、遺跡の手がかりになる資料は、見れないんだね」
艶やかな黒髪をかき上げて、和輝が考え込んだ。
「急いで遺跡に行って、帰ってくる‥‥とか?」
もどかしそうなシヴェルが、前回の『試験』で遺跡に踏み込んだ者達へ問う。
「日帰りが可能な場所では、ないからな」
Cardinalの返事に、鷹揚に頷いて伏姫が同意した。
「それに中からは開けられぬ故、執事殿に外で待って頂く事になるでござろう」
「面倒だな。予定を繰り上げて、すぐ出る訳にもいかないのか」
腕組みをしてシヴェルは思案を巡らせるが、妙案は浮かばず。
「悩んでも埒が明かない以上は、ドーンと構えましょう。急いては事を仕損じるとも言います‥‥明日の出立するなら、今日はゆっくり休んで英気を養った方がいいかと」
皆を落ち着かせる様に告げた加羅は、静々と紅茶を飲み。
「うん! なるようになれ、だね!」
手を挙げて、ある意味で至極端的にベスが纏めた。
●再び、黒森の下へ
執事の運転する大型のバンで黒森へ到着した一行は、そこから徒歩で遺跡まで赴き、三つの鍵で封じられた分厚い扉をくぐって内部へ入った。
一度は往復したルートではあるが、気を抜く事なく‥‥何かが隠されていないか、調べながら。そして、やはりどこからか入り込むのか、それとも洞窟内の生物に感染して潜んでいるのか、時おり実態化して襲ってくるNWを排除して、奥へと進む。
地下川の傍らを通り、そして川から離れて更に下った先。
通路の行き止まりとなる小さな部屋に、その奇妙な物体がある。
念の為ベスから『幸運付与』を受けた一行は、その入り口に立っていた。
「何でしょう。あれは」
先端だけを青く染めた様な黒い猫尻尾を揺らしながら、加羅が奥を覗き込む。
下から上へ向けて、太い木の根を思わせる乳白色のオブジェが伸びていた。
「ぴぇ〜‥‥」
気の抜けた声をあげながら、ぎゅむっとベスが半獣化したフィルゲンの尻尾を掴み。
「ちょぉ!? 掴むなーっ‥‥て、アレ?」
驚いて飛び上がったフィルゲンが振り返れば、鷹の少女はその場にぺたんと座り込んでいた−−アライグマの尻尾を掴みつつ。
「なんだか〜‥‥気持ち悪ぅい〜‥‥」
「大丈夫か、ベス?」
大きな熊の手で支えて気遣うシヴェルも、やや顔色が優れない。
「前と、同じでござるな。さて‥‥どうしたものでござろう」
「少し離れて、様子を見てみるか」
元気のない少女に背中を貸して、Cardinalは部屋から離れる。
ある一定の距離を置けば、奇妙な気分の悪さも少し和らぐらしい。
「アレと、関係しているんでしょうね」
肩越しに、加羅が奇妙なオブジェを振り返った。
「『薬物抵抗』や『光心耐幻』で、どうにかならないかと思っていたが‥‥どーも、ガスや飛散物質、精神幻惑や暗示の類って訳じゃあなさそうだ」
忌々しそうに、シヴェルが通路の隅へ生唾を吐く。
「俺がここで様子を見ているから、三人は調べてくるか?」
「あ、いや‥‥僕は‥‥」
何やら俯いて言い辛そうなフィルゲンの視線を追えば、ベスが片手で彼の尻尾をがっちり掴んでいた。
「ならば、拙者と加羅殿で調べてくるでござるよ」
腰の刀の柄に手をやりながら、伏姫が踵を返す。
「多分‥‥触らない方がいいと思うよ。できれば、あまり近づかない方がいいと思う。前の時に、あれを『見るだけ』だって言われた意味が、まだ判らないからね」
「注意します‥‥近づかないと調べられないので、ある程度は近づきますが」
そして、二人の日本人は部屋へと向かう。
「不甲斐ないな‥‥こんな、気分が悪いくらいで」
不機嫌そうに、シヴェルが低く唸った。
「原因がよく判らない以上、無理をするな。ところで‥‥あの執事はほとんど必要な事以外は話をする余地がなさそうなので、おまえに幾つか質問をしてもいいか」
Cardinalに聞かれて、フィルゲンはハテと首を傾げる。
「僕が知ってる事ならいいけどね」
「ああ。『ニーベルンゲン』に関する口伝や‥‥あの城の歴史なんかが、判ればと思ったんだがな」
「口伝、か‥‥おそらく、一番正確に知っているのは大叔父さんだろうけどね。僕は一族でも末席だから、詳しい事は判らない。でも、純粋に興味で『ニーベルンゲン』の話を読み漁っていた事はある」
「ぴ〜‥‥それで?」
尻尾を放す様子も見せずに、ベスが尋ねる。
「結果から言うと、ニーベルンゲンの宝が何なのかは、『ニーベルングの歌』では正確には判らないんだよね。単なる財宝って説もあるけど‥‥」
「どう見ても、アレが財宝には見えないな」
肩を竦め、シヴェルが苦笑を浮かべた。
「うん。13世紀初頭に『歌』ができたなら、その元になった話は13世紀以前にあった話。で、この『ニーベルンゲンと関わりのある物』を守っている『古き竜』が、退治された竜。あるいは財宝を守る竜として残っているなら、発祥は少なくてもそれ以前。で、この洞窟が人工に掘られた物ではなく、既にあったモノに蓋をしただけなら‥‥コレそのものは、『古き竜』より更に前から、ここにあった事に‥‥」
「ぴす〜」
暢気な寝息が、フィルゲンの『独壇場』に水を差す。
「あ。ややこしかったか‥‥」
尻尾を掴んだまま、ベスが寝こけていた。
「‥‥鬣より、尻尾の方がもふりやすいのか」
「何か言った?」
小さく低い呟きに、フィルゲンが目を瞬かせる。
「いや。逆に言えば、先にアレがこの場所に在って、それを見つけた『古き竜』が何らかの理由で、少なくとも12世紀より前に封印し、今に至る‥‥という訳か」
「うん。そうなるね」
要領よく纏めたCardinalにフィルゲンは拍手をし、やれやれとシヴェルは頭を抱えた。
「それから、もう一つ」
付け加えるフィルゲンに、シヴェルは顔をあげる。
「黒森の遺跡は、ここだけじゃない。僕らが見ているアレは、恐らく一端だと思うよ」
彼はじっと、更に地下の方向を見つめていた。
「これは‥‥ここに『置かれている』のではなく、ここで『露出している』ようですね」
近づいて周りを観察していた加羅が、その検分の予測を述べる。
「ふむ?」
「ほら。地面の下にも続いてますし、天井もそうです。ここに見えているのは、一部でしょう」
「しかし、この様に意味の判らぬ奇怪な物‥‥一体、何でござろうか」
鋭い視覚で調べても、何らかのトラップは見当たらず、奇妙な物体の表面には傷一つない。
伏姫は注意深く手を伸ばし、光沢のあるソレに触れてみる。
見た目に反して、仄かに暖かい感触。
手を当てた周辺の色が濃くなった様にも見え、そこからちらちらと小さな光が表面に浮かび‥‥。
「伏姫さんっ!」
加羅の声と同時に、彼女は勢いよく後ろへ引っ張られた。
そのまま、バランスを崩して尻餅を付き‥‥加羅を下敷きに転倒する。
「申し訳ないでござる、加羅殿!」
慌てて謝罪しながら立ち上がる伏姫に、彼は笑って「いいえ」と首を振った。
「呼んでも、手をはがそうとしても、動かないので‥‥でも、大丈夫そうでよかったです」
「‥‥何と?」
怪訝な顔をする伏姫に、加羅は土を払って立ち上がる。
「手を当てたまま‥‥何分くらいかは判りませんが、ずーっとそのまま動かないので。少し、心配しました」
「アレが面妖に光ったのは、見ておらんのでござるか?」
彼女の問いに、尻尾を揺らしつつ首を横に振る加羅。
「何も。伏姫さんが触っても、変わりありませんでしたが」
「二人とも、何かあったのか?」
心配してCardinalが様子を見にくるが、伏姫はじっと自分の手とソレを、睨みつけていた。
●闖入者
一方。城に残った者達の作業は、停滞していた。
「お城暮らしって、素敵ですね‥‥豪華な部屋にふかふかのベットで、起きたらほかほかの朝食が用意してあって‥‥なんだか、お姫様な気分です」
ヌイグルミとグリム童話を読むセシルは、すっかり目的を忘却し。
「どれも、当たり障りのない本だね」
並べられた様々な本を手に取りながら、和輝が嘆息する。
「ところで‥‥ダーラント老は、どこへお出かけなのでしょう。帰城されたら、フィルゲンさんや私達が来た事を、話すんですか?」
顔を上げてロイスが問えば、三人を『監視』しているメイド長が「当然です」と答えた。
「旦那様がご不在の間、ここをお守りするのが私どもの仕事ですから。それから、旦那様が出かけられた先は、皆さんが知る必要もございません」
メイド長の受け答えは、短い言葉や沈黙で拒否する執事とは違った方向ではあるが、結果はあまり変わらない。
その時。不意に外が騒がしくなったかと思うと、バンッと音を立てて図書室の扉が開かれる。
「何事ですか、お客様の前で騒々しい‥‥!」
叱咤しようとするメイド長の表情が、次の瞬間には強張った。
「邪魔をする。面白い話を、小耳に挟んだものでな」
扉を開けた30代前後の人物は、軽く手を振る。背後では、数人のメイド達がその一挙一動を警戒していた。
「何の御用でしょうか?」
「心外だな。一族だというのに、そんな怖い顔をされては‥‥それに、お客さんは丁寧に扱わなくてはいけないだろう?」
メイド長をあしらい、闖入者は呆気に取られた三人へと歩み寄り、鍵付きの一冊の分厚い本を和輝へ差し出す。
「‥‥これは?」
本と相手の顔を見比べながら、和輝は戸惑いの表情を浮かべた。
「メイド達に、意地悪をされている様だからな。これを、俺の従兄弟に渡してもらえるか? もっとも、今は鍵がないが」
「あなたは?」
相手を見ながら、横からロイスが注意深く本を受け取る。
「渡せば、判る」
それだけ告げると、メイド達に視線で威嚇されつつ闖入者は部屋を出て行った。
「フィルゲンさんに渡してって事かな? 帰ってきたら、渡せばいいんだよね」
ロイスの脇から、セシルが本を覗き込む。
「何の本‥‥でしょう。随分と、古い本ですが」
標題も何も記されていない本は、ずっしりと重かった。