幻想寓話〜AliceInXmasヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
10.9万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
12/11〜12/16
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●本文
●年末が侵攻中
「いよいよ、今年も残すところ僅かとなったな‥‥」
先日の日本観光で購入した『湯飲み』を両手で持ち、暖かいホットチョコレートの湯気を吹きつつ、映像制作会社アメージング・フィルム・ワークス(AFW)所属の監督レオン・ローズはしみじみと呟いた。
「その、『残すところ僅か』の間に、仕事が立て込んでいる訳だけどね」
相方が寛ぐ一方で、レオンと同じくアメージング・フィルム・ワークス所属の脚本家フィルゲン・バッハがパソコンのキーボードを忙しく叩く。
「『幻想寓話』は次の話で年内分が終わるけど、クリスマス向けのドラマを作る話も持ち上がってるんだから」
「ほ〜ぅ?」
他人事のように、レオンは合いの手を入れ。
「だから、君もキリキリ仕事するっ!」
キッとフィルゲンが、暇そうな相手を睨んだ。
が、抗議の視線も及ばず、レオンはほぇほぇとホットチョコレートを堪能する。
「残念であるな。脚本や必要資料をまとめる作業は、私では手伝えん」
「たまには手伝えっ! でないと‥‥」
ずびしっと、フィルゲンが同居人を指差した。
「おやつあげないからな〜っ!」
「待て。ソレは死活問題であるぞーっ!」
速攻の反論に、思わず差す指が勢い萎える。
「死活なのか‥‥」
「労働意欲を起こす為には、必要不可欠であろう!」
胸を張って当然の如く力説するレオンに、毎度の事ながらフィルゲンは頭を抱えた。
●幻想寓話〜Alice in Xmas
『暖かい火が灯されたアリスの家では、クリスマス・パーティの準備が進められていた。
そんな寒い夜、不意の来訪者が家を訪れる。
扉を開けると、そこに居たのは外套に身を包み、時計を手にしたあのウサギ。
ウサギは恭しく頭を下げる。寒い夜に暖かい家へ招待いただき有難う、と。
そしてウサギの後ろには、何故か古今東西の妖精精霊達が集い。
皆は声を揃えて、こう告げる。お招きいただき有難う、と。
不思議な客が訪れた、不思議な一夜の物語−−』
「不思議の国のアリス」をテーマとした中世風ファンタジー・ドラマの出演者・撮影スタッフ募集。
とはいえ、「不思議の国のアリス」をそのまま踏襲したものではなく、むしろファンタジックなセッティングをする為の、エッセンス的程度なものである。アリスの家に訪れる妖精や精霊は、「不思議の国のアリス」や「鏡の国のアリス」に出ないものでも可。
俳優は人種国籍問わず。アリス役、アリスの姉役、時計ウサギ役、アリスの家にやってくる妖精役や精霊役などを募集(ただし、時計ウサギ役は兎獣人を希望。毛色や耳の形は問わない)。
ロケ地はイギリス、オックスフォード州のオックスフォード郊外を予定しているが、必要に応じてロンドンにあるAFWの撮影所を使用することも可能。
●リプレイ本文
●Cast
アリス‥‥セシル・ファーレ(fa3728)
アリスの姉‥‥深森風音(fa3736)
時計ウサギ‥‥月居ヤエル(fa2680)
帽子屋‥‥羽曳野ハツ子(fa1032)
妖精の女王ティターニア‥‥エルヴィア(fa0095)
ブラウニー‥‥伝ノ助(fa0430)
ジャックフロスト‥‥加羅(fa4478)
吟遊詩人『深紅の唄い手』‥‥篠田裕貴(fa0441)
●Staff
カメラ‥‥ウルフェッド(fa1733)
小道具・大道具‥‥重杖 狼(fa0708)
他
●月に誘われ
雲が切れ、欠けた月が丘に佇む白い影を照らし出した。
それを振り仰ぎ‥‥髪を揺らす僅かな風に、目を細め。
そして月を背に、膝の上に置いたリュートへと彼は視線を落とす。
「今宵も、『深紅の唄い手』が語りましょう。
‥‥これは、以前に不思議の国に迷い込んだ少女の、不思議な聖夜の物語」
祭服の白い衣を揺らす冷たい風へ、緩やかに爪弾く弦の音が浮かべられ。
漂う音に誘われるように、列を作る影が丘を進む。
その光景を、流れる雲が覆い隠し−−。
暗く青い灰色の空を、窓の枠が切り取る。
伏せた猫のように重ねた両腕の上に顎を乗せた少女の後ろで、彼女の姉がふっと嘆息した。
「アリス、風邪をひくわよ」
名を呼ばれた少女は振り返り、「だって」と唇を尖らせる。
「そろそろ帰ってくるかなって‥‥父さんと母さん」
「ええ、そろそろね。だから、いつ帰ってもいいように手伝ってくれる?」
テーブルに料理を並べる姉が、やんわりと妹を促した。
エプロンドレスの裾を揺らして窓から離れたアリスは、片方の手にウサギのヌイグルミを抱き、もう片方の手で皿を運ぶのを手伝って。
「早く帰ってこないかな。ねぇ、姉さん。今年のプレゼントは、なんだと思う?」
ソワソワと尋ねてくる妹に、姉は優しい笑みで答える。
「そうね‥‥何かしらね」
そこへドアがノックされる音が響き、姉妹は顔を見合わせた。
「帰ってきたよ!」
皿をテーブルに置くと、弾かれた様にアリスは身を翻してドアへと走る。
もどかしく鍵を開け、ノブを捻って、ドアを開け放ち。
「おかえりな‥‥さ‥‥」
勢いのある言葉が、急速に尻すぼみになる。
そして急いで、バタンと後ろ手に扉を閉めた。
「あら? お父さん達じゃなかったの?」
様子を見に来た姉に、彼女はふるふると金色の髪を左右に振って。
そこへ再びドアがノックされ、驚いたアリスが飛び上がった。
そーっと後ろを振り返り、改めて注意深くドアを開けて、隙間から外を覗く。
ドアの向こうには、黒い外套に帽子を被り、白手袋をはめた手にはステッキを持った来訪者が、もう片方の手の懐中時計をパチンと閉じて、チョッキのポケットへと仕舞う。
「いやはや、よかった。時間びったりだよ」
言いながら彼は鼻と髭をひくひく動かし、帽子からは黒い兎の耳が垂れ下がっていた。
眉根を寄せた少女は、その仕草をじっと見つめて。
「‥‥白ウサギじゃない」
「今日は、黒くキメてみたんだよ」
誇らしげに、時計ウサギは白いカッターの襟を軽くつまんで。
「今宵、寒い夜に暖かい家へのご招待、ありがとう」
「はい?」
帽子を取り、恭しく一礼する時計ウサギに呆気に取られたアリスは、その後ろに続く者達に気付く。
「あの‥‥」
さっさと家の中へ上がりこむ時計ウサギに問おうとする彼女へ、来訪者達が唱和する。
「お招きいただき、ありがとう」
「あら。お客さんだったのね。さぁ、どうぞ」
アリスの姉は動じる事もなく、笑顔で来訪者達を招き入れた。
●賑やかな客人
「やぁ、アリス君。久しく御目にかかれませんでしたが、あまり‥‥変わり栄えしないようですね」
大きなシルクハットを軽くあげ、片眼鏡の帽子屋が挨拶をし。
「‥‥」
その陰に隠れていた、茶色の帽子に茶色の上着に茶色のズボンの小柄な妖精が、じーっと彼女を見つめながら、帽子屋の後に続いた。少女と目が合うと慌ててぺこんとお辞儀をして、家の中へと駆け込む。
「あの子は‥‥」
次の『客』へ尋ねようとしたアリスは、顔を上げてそのまま固まった。
「ああ。彼は、ブラウニーだよ。ちょっとデリケートで、シャイだから」
彼女よりも背の高い雪ダルマが、明るく答える。
それから、目を真ん丸くして自分を見上げるアリスの様子に、雪ダルマの後ろから悪戯っぽい表情がひょっこりと顔を出した。
「俺はジャックフロスト。ジャックでいいよ。よろしく、アリス」
白いスーツに赤いタイのジャックフロストは、緑の柊の葉っぱを飾った白いシルクハットのつばに手をやり、軽く傾けて礼をする。
「さぁさぁ。遠慮せず、席についてくれたまえ。折角の料理が冷めてしまう」
いつの間にかテーブルに陣取った帽子屋が、主の如く胸を張って他の者に椅子を勧め。
「‥‥何で、真っ先に座ってるんだよ」
時計ウサギが肉球のついた手で、ぽむとお調子者の肩を叩いた。
「あらあら‥‥皆さんも、座ってね。ほら、アリスもいらっしゃい」
特に動じる事もなく、アリスの姉は笑顔でワインや紅茶を用意をし、その後ろではブラウニーがカップやグラスの用意を素早くこっそり手伝っている。
「ひぃふぅみぃ‥‥おや、一人遅れているようだね?」
席を数える帽子屋に、時計ウサギは再びチョッキのポケットから懐中時計を取り出して、時間を確認する。
「ええ。そろそろですよ」
「まだ、誰か来るの?」
問うアリスに、時計ウサギは緑の目を細める。
「すぐに判るよ」
奇妙な来訪者達がテーブルを囲めば、先ほどと違ってドアが控えめにノックされる。
「‥‥父さん達かな」
来訪者達をどう説明しようか悩みながら袖を引くアリスに、姉はいつもの笑顔を浮かべ。
「そうね。出てくれるかしら?」
「はぁい」
不承不承、椅子から立ち上がった妹は、ドアへと向かった。
そして、おっかなびっくりで扉を開ければ。
春の花のような黄色のワンピースドレスを纏った女性が、背から伸びる大きな四枚の薄羽を揺らして優雅に膝を曲げれば、肩からからさらりと白い髪がひと房滑り落ちる。
「遅れて申し訳ありません。皆様、今回はお招き頂き、どうもありがとう」
見惚れたように立ち尽くすアリスに、女性は穏やかな笑みのまま小首を傾げた。
「‥‥アリス様?」
「あ、はいっ。あの、どうぞ」
名を呼ばれた少女は慌てて居住まいを正し、女性を迎え入れる。
「これはこれは、妖精の女王ティターニア君。心配しておりましたぞ」
両手を広げる帽子屋を、ジャックフロストがじーっと横目で見やり。
「だから、何で帽子屋が仕切ってるんだよ」
「おおっと! これは失敬失敬。いやはやクリスマスというのは、実に人を狂わせるものでしてな」
侘びながらも、さして悪びれる様子もなく、帽子屋は鷹揚に頭の帽子を軽く掲げた。
その間にもブラウニーはさりげなくティターニアの為に椅子を引き、時計ウサギは懐中時計をポケットへと収め。
「時間も頃良ければ、お茶を始めるとしよう」
「だから、仕切るなよぅ」
さぁさぁと勧める帽子屋に、時計ウサギはやれやれと頭を抱える。
「やはりここは、アリス様が適任だと思いますわ」
ティターニアから柔らかい笑みで促されたアリスは、恐縮しながらもカップを手に取り。
「それでは‥‥クリスマスに乾杯」
「「「乾杯!」」」
明るい唱和に、テーブルを飾る蝋燭の炎がゆらりと揺れた。
●小さなプレゼント
帽子屋は相変わらず主賓気取りで場を仕切っては、時計ウサギにたしなめられ。
ジャックフロストは、アリスの姉から人間の−−特に冬の楽しみ方を聞き。
ティターニアは、静かに紅茶のカップを傾ける。
細々と動き回って、いつの間にかお茶のお代わりや次の料理を用意するブラウニーは、じーっと観察するアリスと目が合うたびに、慌てて陰に隠れ。
隠し切れずにちょこりと見えている尻尾に笑いながら、そっとアリスは彼の席にミルクやクッキーを置く。
風変わりなお茶会は賑やかに進み、そしてクリスマス・プレゼントへと話も進む。
「折角だから、交換会をしようと思ったんだけどね」
「楽しそうですね」
テーブルに包みを取り出す時計ウサギに、アリスの姉はにっこりと笑む。
その一方で。
「やぁやぁ。みんな、私のためにありがとう。気を遣わせてしまい、申し訳ないね」
「これは、皆でお互いに交換するんだよ」
相変わらずマイペースに並べられたプレゼントへ手を伸ばす帽子屋を、頬を膨らませてアリスが睨んだ。
「いえ、判っております。判っておりますとも。私もちゃんと、用意して参りましたので」
ズレた片眼鏡を直すと、帽子屋は大きなシルクハットをひょいと持ち上げて。
その中から、手品のようにラッピングされた包みを取り出す。
「それでは‥‥せっかくですから、妖精のダンスで決めませんこと?」
ティターニアがやんわりと微笑んで提案し、誰もがそれに賛成した。
一列に手を繋いで輪になって。
クリスマスの歌を唄いながら、軽やかにくるりとダンスを踊る。
歌が終わるまで、輪は回り。
そして歌声が途切れたところで、七人はそれぞれ自分の前にあるプレゼントを手に取った。
時計ウサギには、ジャックフロストから。
モミの木の飾りを1つ添え、青いリボンがかけられた真っ白のラッピングからは、雪ダルマの形をしたランプが出てくる。
枝で出来た腕もガラス製で、手の部分は赤い手袋をはめて。
明かりを灯せば、雪ダルマは柔らかい光が辺りを包む。
「帰りの道行きは、これで安心だね」
そう、彼は嬉しげに語る。
帽子屋へは、アリスから。
「いやぁ、これは雪の如く美しい。うむ、実に美しい!」
スノーフレイク模様のタグと、ホワイトストーンリングのペンダントに大喜びした彼は、気取ってそれを首へと飾る。
ティターニアには、時計ウサギから。
フワフワモコモコの愛らしい子羊のヌイグルミの、首についたオーナメントのベルを、彼女は楽しげに細い指で揺らして鳴らす。
ブラウニーへは、帽子屋から。
控えめにそれを拾ったブラウニーは、いつもの茶色い帽子を取って、渋い色味のハンティング帽をそっと頭へ載せる。
「ふふ、お気に召して頂けたのなら光栄ですよ」
満足そうな帽子屋に、周りからも似合うと褒められれば、恥ずかしげに茶色い帽子で顔を隠す。
ジャックフロストには、アリスの姉から。
包みの中から出てきたのは、色とりどりの鮮やかなリボン。
「綺麗で賑やかで、素敵だよ」
喜ぶジャックフロストに、アリスの姉は櫛を手にして更に笑み。
「もっと、綺麗で賑やかになるわよ」
手馴れた様子で、ジャックフロストの髪は結わえたリボンで飾りあげられる。
アリスの姉には、ブラウニーから。
そっと置かれたそれは、シックながらも柔らかな上質の皮で出来た、茶色の靴。
「ありがとう。冬の外歩きでも、暖かそうだわ」
お礼を言われ、小柄な職人はまた仲間の背中に隠れる。
最後に、アリスへはティターニアから。
包みを解いて出てきたのは、兎を模して作られた不思議な形の懐中時計。
「あなたがいいひと時を過ごせますように」
にっこりと微笑む妖精の女王に、アリスはスカートをつまんで精一杯の御礼をした
互いに、心の篭った贈り物を貰い。
寒い夜にも、暖かな笑みがこぼれる。
お茶とお喋りを楽しむ傍らで、アリスは初めて時計ウサギに問いかけた。
「でも‥‥どうして皆で、うちにきたの?」
その問いに、紅茶のカップを手にした時計ウサギは、目を細めて意味ありげに笑う。
「だって、待っているからさ。皆、待ってるんだ。キミだって、待っているんだろう?」
そして彼は髭を揺らし、楽しげに歌を口ずさむ。
『久しく待ちにし』。その、待つ歌を。
賑やかな灯りと笑いのこぼれる家を、『深紅の唄い手』は暫し眺め。
「少女と聖なる夜の来訪者との物語‥‥私が語るは、此処まで」
踵を返し、歩み始めたその先に、白い小さな塊がふわりと空から舞い落ちた。
由来を辿るように、彼は空を見上げ。
二つ三つと続く綿のような雪に、右手を差し出してそれを受け止め、そっと微笑む。
−−降り始めた雪は、シャンシャンと鈴の音をたてた。
「おやおや。待ちくたびれて、寝てしまったようだ」
苦笑気味の呟きと大きな手が、ソファに座って眠る姉妹へ毛布をかける。
人影が去ると、茶色い服にハンティング帽を被ったブラウニーが毛布を丁寧に姉妹へとかけ直して、すぐにまた物陰へと隠れた。
●裏方では
「裕貴さんと重杖さんと、ウルフェッドさんにもプレゼントです。先日の日本観光の後、遊びに行った先で購入したんですよ」
はいっと、満面の笑みでセシルがクリスマス用にラッピングされた小さなアクセサリーを差し出した。
無邪気なプレゼントに、裕貴はともかく重杖とウルフェッドは顔を見合わせ。
「ああ‥‥ありがとう」
「気を遣わせて、すまないな」
苦笑交じりで、二人は礼を述べた。
「良かったではないか。三人とも」
いつものお茶会代わりに、撮影に使われた消え物でお茶をするレオン・ローズがにんまりと笑う。
「そうだ。この間の日本旅行の写真を持ってきているから、ちょうどいい」
話題をそらしつつ、ウルフェッドが私物の鞄を持ってきて、セシルからのプレゼントを突っ込むついでにごそごそと探す。
「京都観光の機会があるなら、また声をかけてくれ。生まれは違うが、俺はどっちかってぇと関西の方が本拠なんでな」
言いながら、ウルフェッドはフィルゲン・バッハへと封筒を手渡す。
「そうだね。次の機会が、いつかは判らないけど‥‥ありがとう」
「構わんさ。ほら、皆の分もあるから配るぞ」
礼をいうフィルゲンに肩を竦めると、彼は女性達へも写真を配り始めた。