恐怖の古城ホテル!?ヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや易
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報酬 |
0.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
11/27〜11/29
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●本文
●怖い物、見たい?
『ドナウ川の畔に立つヒルシュブルクは、10部屋の客室を備えた古城ホテルである。
中世の時代に領主が鹿狩りの為に建てたという噂があり、城の内装には「鹿の角」や「鹿の頭の剥製」などが飾られている。
この古びた小さな城には、かつて恐ろしい逸話があったとかなんとか。
そんな城に足を踏み入れちゃった美女達の運命や如何に?』
「この、『とかなんとか』は何でしょう」
「実際に怖い話は、残ってないそうだ」
プロデューサーにじろりと睨まれ、ディレクターの水上は背中を丸めて「ヤラセですか」という台詞を飲み込んだ。
「しかし、怖い話が完全にないとは言い切れない。地下には拷問部屋とか簡単な拷問道具とかもあるそうだ。無論、そんなモンが使えるかどうか判らんが」
ソレもコレも、スポンサーの要望というヤツらしい。どこからどういうツテで流れてきた話か知らないが、古城ホテルのオーナーが経営不振に困った挙句に「日本のテレビで紹介してもらって、日本人観光客を呼ぼう!」という壮大な他力本願を考えついたらしい。
「それで、わざわざヨーロッパまで‥‥ロケですか」
「それに丁度、『もも☆きゃぶ』から舞 麻衣という新人を使ってほしいという話がある」
となると、新人の名前を売る方がメインかもしれないと、水上は思案した。この手のグラビアアイドルの売り出しに、深夜番組のトンデモ系企画をやらせるケースもある。特にもも☆きゃぶは最近『巨乳アイドル』を売りにしている。
「まいまい、20歳。特徴はウッカリさん‥‥身長156cmでサイズは上から89・57・85‥‥」
プロデューサーから渡された麻衣のプロフィールの資料を見ていると、ちょっと意識が遠のきそうだった。いろんな意味で。
「とにかく、古城ホテルで恐怖企画を立てろ。宣伝に入れる点は、ドナウ川を望むロケーションと中世の面影漂う客室、石造りの部屋を一つ潰した屋内テルメ(温泉プール)だそうだ。色気と悲鳴で、頑張って『恐怖の城』に仕上げてこい」
どうやら、プロデューサーの頭の中では水上の拒否権は考慮されていないらしい。
「ホテルは支配人と四人の従業員がいる。必要があれば協力してくれるが、全員人間だ。その辺りも、気をつけておけよ」
●リプレイ本文
●お知らせ
「こんばんは、舞 麻衣です。今回は怖いお城に行ってきます。素敵なお友達と一緒なので、頑張って探検したいと思います☆
この番組は、あなたのはぁとにピ〜チなショックをお・と・ど・け♪ 『もも☆きゃぶ』の(以下略)」
●恐怖の古城へようこそ
木々の紅葉は、終わろうとしていた。
逗留する古城ホテル「ヒルシュブルク」は、ドナウ川の川縁にある。ホテルに着いた5人は、まず談話室で風景を堪能していた。
「道楽で建てただけあって、窓からの眺めは申し分ないわね」
アピールするように、フゥト・ホル(fa1758)がカメラに目を向けた。オレンジの色味が強めの赤い髪をかき上げて、タンジェリン(fa2329)はにっこり微笑む。
「せっかくだし、夕食までテルメを楽しまない?」
「素敵な提案ね」
そして荷物の整理と着替えの為に、5人は各自の部屋へと分かれた。
ギギッと重い音を立て、木製扉が開く。
「うわぁー!」
歓声を上げて、人形を抱いたあずさ&お兄さん(fa2132)は客室へ駆け込んだ。中世のテイストを出来るだけ残した内装に、あずさは目を輝かせる。
「ふかふかベットー。お姫様になったみたい!」
ベットの上で跳ね、スプリングの感触を無邪気に楽しむ(見た目)姫君。一応、彼女と呼称しておこう。
『小さくても、ちゃんとお城ね』
彼女の持つマッチョでオカマさんな人形が喋る。曰く、芸名の「お兄さん」がこの人形。誰も見てなくても『二人』は腹話術で会話する。素晴らしい芸人魂だ。
お姫様気分を楽しんでいると、ノックの音がした。慌ててベットの上に正座して「どうぞ」と答えれば、羽曳野ハツ子(fa1032)が顔を出して手を振る。
「そろそろ行くわよ」
「うん、すぐ準備するね」
湯気の漂う石造りの部屋は、思ったより暖かかった。
「ひろーい! わー、ここからもドナウ川が見えるー!」
ざぶざぶとあずさは湯に入っていく。その背中に、ハツ子が声をかけた。
「転ばないようにねー」
「はーい。ね、泳いじゃうよー?」
返事を待たずに、あずさは水飛沫をあげる。ここは温泉プールなので、5人とも水着着用だ。
「ふふ。流石、もも☆きゃぶ所属ね、舞さん」
タンジェリンの口振りに、舞は「いえ〜」と首を振る。
「胸ばっかり育っちゃって。タンジェリンさんは大人っぽくて、素敵です。あと、フゥトさんは身体の均整が取れてて、羨ましいです。エジプトの人って、目が印象深くて神秘的ですよね」
「うん。確かハトホルって、エジプトの女神様よね」
「さすがハツ子、物知りね」
「いいえ、タンジェリンさん。千の趣味を持つ女とは、私の事だから」
手の甲を口元に当てて、「ほほ」と笑うハツ子。ひとしきり皆で笑った後、タンジェリンは急に声のトーンを落とした。
「そういえば、この城には怖い噂があるらしいけど‥‥」
「うん。ここ鹿でいっぱいだよね。剥製とか生きてる生首とか」
テルメから上がったあずさが、ティーブレイク中の彼女達の話に加わった。
「ここを建てた領主の趣味が、鹿狩りだったらしいわ。それからあずさちゃん‥‥あれは生きてないし生じゃないわよ」
「えー。でも見た時、鹿の目が動いたよ」
一瞬の静寂。
「‥‥地味」
「またまたぁ! あずさちゃんの見間違いよ。光の加減とか」
フゥトの呟きを、慌ててハツ子が隠した。陰でグッジョブと舞が親指を立てている。
そう‥‥コレは「やらせ」である。放映に合わせて編集されるが、出来るだけ「らしさ」を保たなければならない。故に『恐怖の一夜』で何が起きるか、5人は知らされていないのだ。
その頃の舞台裏。
彼女らが表の主役なら、彼らは裏の主役。恐怖の仕掛け人達は、暗躍を開始していた。
「‥‥とはいえ、女性の部屋に忍び込むのはどうかと思うが」
Cardinal(fa2010)のもっともな意見に、頷く壬 タクト(fa2121)だが。
「見つかった時が怖いから、さっさと仕掛けた方が良いよ」
「それもそうだ」
タクトでは届かない箇所を、Cardinalが手伝う。客室の主は判らないが、やるべき事をやって二人は早々に退室した。ポケットの振動にタクトが携帯を取り出す。
「デルタより入電。目標はテルメを出る模様っと」
「OK、こちらの準備は完了だ」
「了解。ブラボーからアルファへ‥‥と」
手早くメールを送るタクト。いつの間にか、メールでのやり取りはフォネティック・コードで行われている。アルファがダン・クルーガー(fa1089)、デルタが高邑雅嵩(fa0677)。そしてチャーリーはCardinalで、ブラボーがタクト。年齢順らしい。
ともあれ支配人に頼んだ資料で城の構造は把握したし、するべき仕掛けも完了した。
そして、恐怖の夜が始まる。
●Beast’s Night‥‥?
「きゃぁっ!?」
短い悲鳴が響いた。普段なら聞き逃したかもしれないが、気付いた者から隣に声を掛け合い、悲鳴の部屋へ集まる。
そこは、タンジェリンの部屋だ。
「どうかした?」
フゥトがノックをすると、バスタオルを胸に巻いただけのタンジェリンが扉を開けた。
「ごめんなさい。シャワーを使っていたら、急にお湯が真っ赤な水になったの」
急に冷たい水を浴び、彼女は思わず悲鳴を上げたらしい。
「‥‥定番ね」
腕組みするハツ子。舞はおどおどと周囲を見ている。
「こ、怖いですね」
「大した事ないわよ。でもタンジェリンさんが着替えたら、少し話をしましょうか」
タンジェリンを待って、5人は談話室に移動した。
「フゥトさん、確か城について下調べをしていたわよね。話してもらえるかしら」
ハツ子に促されて、フゥトが頷く。
「ホテルの従業員から聞いた話だと、この地方は2つの『逸話』があるわ。
まず、ムオーデル。白馬に乗った男が角笛の吹きながら先頭に進む、幽霊の軍勢よ。夜になると四辻を地面から数十センチ浮かんで飛んでいくとか。その軍勢を見てしまうと、目を潰されるの」
コレは実際にオーストリアに伝わる亡霊話だ。あずさと舞が、ごくりと唾を飲む。
「2つ目。この城の領主には『仕留めた鹿の生肉を密かに食べていた』という噂があるの。耳まで裂けた口には鋭い歯がぞろりと並び、黒い毛に覆われた領主の正体を見た者は、地下の拷問部屋で‥‥」
その時、前触れもなくいきなり全ての照明が消えた。
「ひぇ〜んっ!」
「落ち着いて、舞さん。大丈夫よ」
驚いた舞を、急いで宥めるタンジェリン。何かを蹴飛ばしたら大変だ。
空に月はなく、星だけでは光量が足りない。
息を潜めて灯りが点くのを待っていると、あずさはその音に気付いた。音と言うより、唸る様な振動に近い。断続的に響くソレは、誰かがやっていると思ってもちょっと怖い。
『なにビビッてるのよ、あずさ!』
「だってお兄さん〜っ」
人形を動かしながら、とりあえず自分を元気付けてみる。
間もなく、照明に光が戻った。すっくとハツ子がソファから立ち上がる。
「何かあったか、ホテルの人に聞いてみましょう」
5人はフロントや厨房を探したが、どこにも人の姿はなかった。
「みんな、どこへ行っちゃったんでしょう」
タンジェリンの腕に、ぎゅっと舞がしがみつく。本気で怖いらしい。
「面白いわね。私達で城の謎を暴くわよ」と気炎を吐くハツ子。
「それなら、わたくしがランタンを準備するわ」
フゥトが一人で部屋へ戻ろうとするが、服の袖はハツ子ががっちり握っていた。
「‥‥ハツ子さん?」
「皆で行きましょう」
有無を言わさぬ一言だった。
また、照明が消えた。
慌てず騒がずフゥトがランタンを掲げる。と、いきなり光の中に鹿の顔が浮かび上がった。
「イヤーっ!」
「いちいち騒がないっ。ただの剥製よ」
大声を出す舞を、ハツ子が注意する。「でも」とフォローするようにあずさが言った。
「さっきまで、ここに剥製なかったよね?」
またしても、暫し静寂。
「い、行きましょう」
ハツ子は聞かなかった事にしたようだ。フゥトからランタンを借りて、率先して歩き始める。
「それで、どこへ行くの?」
フゥトの問いに、ハツ子の足が止まる。考えていなかったらしい。
「何かあるとしたら、やっぱり地下かしら。フゥトさんの話だと、そこに領主さんがいたのよね」
段取りを思い出しながら、冷静にタンジェリンが言う。
「じゃあ、さくっと行きましょう」
少し上擦った声で、ハツ子は前を歩く。歩く‥‥が、後ろからヒタヒタと裸足で歩くような音が聞こえてくる。皆、靴を履いている筈なのに。
気にしない事にして階段を降り、廊下に出る。と、暗い廊下の先には光る白い影。
「ちょ‥‥」
そういえば、さっきナニカを先頭に現れる亡霊達の話を聞いたような‥‥。
一声高く嘶くと、光る白い影は突進を始めた。
ガガッガガッと荒々しく蹄が廊下を蹴る音。
そう、猛烈な勢いで近付くソレは、幽鬼の軍団ムオーデルを先駆する白馬ではないのか‥‥!?
「きゃあぁぁぁぁぁっ!」
絶叫したハツ子は階段を駆け上がり、そこでぺたんと腰を落とした。
「どうしたの、ハツ子さん!」
タンジェリンが駆け寄り、フゥトはランタンを確保する。
「いま‥‥馬が‥‥」
「‥‥鹿の剥製ならあるけど?」
どうやらハツ子が先頭を歩いていた為、誰も白馬を直接は見ていないらしい。がっくりと、彼女は肩を落とした。
「‥‥ごめん。誰か先頭、変わって‥‥」
●拷問部屋へ
地下から聞こえてくる、陰気なバイオリンの音。
星の光を遮って、窓を横切る何か。
後ろから近付く二本足の獣の影。
それらに怯えながらもフゥトが先頭を進み、あずさとハツ子と舞は手を握り合って歩き、タンジェリンは最後をついていく。
間もなく、地下室だ。
軋みながら、表面に鋲が撃たれた鉄製の扉が開く。
そこは今までと違って、岩盤をくり抜いただけの通路。
彼女達は顔を見合わせたが、入らないと終わらない。
前へ、前へ。
終着点の鉄の扉は、すぐに現れた。
フゥトとタンジェリンは顔を見合わせ、錆の浮いた扉に手をかける。
「二人で開くかしら」
「やってみましょう」
体重をかけて押すと、さっきの扉よりも更に騒々しい音を立てて、扉は開く。
「‥‥うわぁ」
湿った臭いに、あずさが嫌そうな声をあげた。
ランタンの光に浮かび上がったのは、天井から下がった数本の鎖。壁に立てかけられた鎌や火掻き棒。床に転がる鞭や、沢山の棘が刻まれた平らな岩。
それらを繋ぐように、無数の蜘蛛の巣が‥‥。
「ひゃぁっ!」
ぽとりと何かが袖口に落ちて、フゥトは初めて悲鳴を上げた。
咄嗟にソレを振り払おうとして、彼女は舞とぶつかる。
「ひぇぇっ!?」
壁際に立った鉄の棺桶のようなモノを見ていた舞が、押された拍子によろめいて棺桶の中へつんのめる。
「舞ちゃん!」
「ちょっと、それって‥‥!」
ギギッと、鉄の軋む音。タンジェリン達が助けようと咄嗟に手を伸ばすが。
ソレより先に、観音開きの鉄の扉が閉まった。
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
悲鳴とともに、棺桶の下から赤い染みが広がっていく‥‥。
‥‥。
‥‥‥‥。
‥‥‥‥‥‥。
「‥‥なんちゃって」
「え?」
「え〜ん、出して下さい〜」
ゴンゴンと、中の舞が『鉄の処女』を叩いている。
「見事に閉まったな‥‥刺さってないか?」
スプレーした偽物の蜘蛛の巣を払いつつ、拷問器具の陰から雅嵩が出てくる。
「今、開けてやる。少し待て」
雅嵩に続いて姿を見せたCardinalが手招きすると、彼女達の後ろから完全獣化した狼男状態のダンがのそりと現れた。
「あ、あなた達‥‥!」
呆気に取られたタンジェリンは、それ以上言葉も出ない。
舞が無事だと判って、フゥトは我に返った。
「く、蜘蛛が‥‥誰か取ってっ」
「ああ、大丈夫だよ」
フゥトの手を取って、タクトは地下室に住み着いている小さな蜘蛛を払ってやる。
「みんな‥‥よくも騙してくれたわねー!」
『わねー!』
「わねー!」
憤慨するハツ子に、お兄さんとあずさが続く。居並ぶ面々を見て、あずさもやっといつもの調子を取り戻したようだ。
「それが、今回の仕事だしな」
言いつつダンはCardinalと協力して扉を開き、鉄の棺桶から舞を解放してやる。
「棘がなくても怖いですよ、これ!」
むぅと鉄の処女を睨む舞に、タンジェリンが抱きついた。
「舞ちゃん、ドッキリでよかったわ!」
「は。心配させてごめんなさい、内緒だったんです」
素直に舞が謝る。最後のオチだけは、打ち合わせで男性陣と申し合わせていたらしい。
「さて。オチが付いた所で、ここから出ないか。裏で散々走り回っていたんだ‥‥テルメに入って、サッパリしたいんだが」
雅嵩の提案に、誰も異論はなかった。
●打ち上げ
「生き返るなぁ」
「ああ」
暖かい湯に浸かって、一日労働に明け暮れた男性達は身体をほぐす。
打合せて隠れていたホテルの従業員達も、一仕事が終わった彼らの為に軽食をプールサイドに用意してくれた。叫ぶと体力を消費するらしく、女性達も食事に手を伸ばしている。
ぷかぷかと湯に浮いたあずさが、彼らの方へ漂ってきた。
「ね、剥製の鹿の目ってどうやって動かしたのかな? 微妙に驚いたんだけど」
「そんなの、あったか?」
ダンに聞かれて、タクトは首を傾げる。
「さぁ、僕はやってないけど。雅嵩かな?」
「いいや。俺も携帯のバイブレーションと、馬で脅かしたくらいか。剥製は触ってない」
「‥‥俺が謝っておいた」
渋い表情のCardinalが、さり気に問題発言をする。
「‥‥そうか。ありがとう」
それ以上は深く問わない方がいいだろう。世の中には、知らない方がいい事もタマにあるのだから。