Limelight：開店一周年アジア・オセアニア
| 種類 | ショート |
|---|---|
| 担当 | 風華弓弦 |
| 芸能 | フリー |
| 獣人 | フリー |
| 難度 | 普通 |
| 報酬 | 0.8万円 |
| 参加人数 | 10人 |
| サポート | 0人 |
| 期間 | 12/14〜12/16 |
●本文
●Limelight（ライムライト）１）石灰光。ライム（石灰）片を酸水素炎で熱して、強い白色光を生じさせる装置。19世紀後半、欧米の劇場で舞台照明に使われた。
２）名声。または、評判。
●ライブハウス『Limelight』（ライムライト）
隠れ家的にひっそりと在る、看板もないライブハウス『Limelight』。
看板代わりのレトロランプの下にある、両開きの木枠の古い硝子扉。
扉を開けたエントランスには、下りの階段が一つ。
地下一階に降りると小さなフロアと事務所の扉、そして地下二階に続く階段がある。
その階段を降りきった先は、板張りの床にレンガの壁。古い木造のバーカウンター。天井には照明器具などがセットされている。そしてフロア奥、一段高くなった場所にスピーカーやドラムセット、グランドピアノが並んでいた。
フロアには、控えめなボリュームでオールディーズが流れている。
地下一階の小さなフロアでは、脚立に腰を下ろしたオーナーの佐伯 炎（さえき・えん）が壁に掛けた写真を眺めていた。
そんな彼の様子に、地上への階段を降りてきた靴音が止まる。
「さすがに、12月ともなれば寒いね」
「ん？ そうだなぁ‥‥」
声をかける友人の音楽プロデューサー川沢一二三（かわさわ・ひふみ）に、咥え煙草の佐伯は煙をふかしながら答えた。その様子を見上げてから、川沢もまた並んだ写真へ目をやる。
その一番先頭にあるのは、ちょうど一年前の開店公演で撮られた写真だ。
「一年‥‥早いものだね」
「まったくだ。色々と思う事ばかりが山積みになって、なかなか進みやしねぇ」
「歳をとればとる程、時間ってのは容赦ないものだよ」
嘆息する川沢に、佐伯がからからと笑う。
「確かに。若い頃は、時間が無尽蔵にあるような気がしたモンだが」
言葉の代わりに吐き出される紫煙を、苦笑しながら眺めて‥‥川沢は話題を変えた。
「それで、開店一周年はどうするんだい。内々でするのか、それとも？」
「普通に、ライブをやる予定だがな。記念のサービスって事で、入場料は安めにするとかして‥‥だが、ソッチも忙しいんだろ？ ナンか、アイベの方でチャリティ・ライブをやるって話だし」
「うん。でもまぁ、コッチの方も手伝うよ。後でドコかのダレかに「友達甲斐のないヤツだ」とか、言われかねないし」
「誰だろうなぁ‥‥ンな事を言うのは」
あらぬ方向を見ながらしらばっくれる友人に、脇を通りつつ川沢は脚立を蹴っておく。
「こら、蹴るなっ」
揺れる脚立から、佐伯がぼやきつつ降りた。
「じゃあ」
一方の張本人は、さっさと事務所の扉を開けてひらと手を振る。
「珈琲を淹れてもらえるかな？」
「いつもの、『泥珈琲』かよ」
やれやれと肩を竦めると、佐伯は『仕事の話』をする為に脚立を担いで事務所へ戻った。
●リプレイ本文
●Openingライトが照らし出すステージの上には、10人のアーティストが揃っていた。
視線を交わし、「せーの」とベス（fa0877）が音頭を取って。
『Limelight、開店一周年おめでとーございまーすっ！』
合わせた声に、フロアを埋めた観客から拍手と歓声がおきる。
「今夜はお祝いモードで、よろしくね！」
「ちなみに今日のチケット代は、佐伯さんが奢ってくれるそうです」
明星静香（fa2521）が手を振り、笑顔の豊城 胡都（fa2778）が空恐ろしい事を言う。
「お前、一周年の祝いに身代潰す気かっ！」
カウンターからオーナーの反論に、一斉に笑い声が響き。
「みんな、楽しんでいってねー！」
呼びかける慧（fa4790）に、再び聴衆は声をあげて応えた。
●ベス〜HOME
キーボードが緩やかに音を切り出し、エレキギターがそれにアクセントを加えて。
椿（fa2495）と静香が奏でるのは、昔のクラブに流れていたような、ゆるいテンポのメロディ。
サンドリヨンの裾を揺らしてリズムを取りながら、ベスはスタンドマイクへ手をかけて。
「 石灰光の明かりを抜けて 両手で扉を開けると
ふわり広がる珈琲の香り 『お帰りなさい』と言われた気がする
『ただいま』と心の中で返事をしながら
いつもの合図でライブを始めよう 」
テンポは一転して、アップテンポへと変わり。
スタンドからSHOUTを外したベスは、いつもの明るさでステージを所狭しと飛び跳ねる。
「 ここは私のもう一つのHome！
遠くに居ても 帰ってくるところ♪
ここはみんなが集まるHome♪
あなたもおいで 新しい仲間！ 」
手を差し伸べて、呼びかけて。
元気に彼女は、トップバッターを飾った。
●姫乃 舞〜says thank you．．．
ベスと入れ替わりでステージに立ったのは、姫乃 舞（fa0634）。
胡都が軽やかなフルートで繋ぐ間に、椿はピアノへと移動した。
ゆったりと鳴るピアノに、舞はそっと柔らかな歌声を重ねる。
「 ふと気付くと傍に居て 寄り添ってくれていた
喜びも切なさも みんなあなたが教えてくれた
それは 出会いと言う名の最高の奇跡 」
曲は、語りかけるようなバラードで。
共に唄うように、優しくフルートがさえずる。
「 Thank you for the birth
Thank you for meeting me
Thank you for being here
Thank you．．．
これからも 共に歩んでいきましょう 」
彼女にとって初めての『Limelight』は、芯のある伸びやかな歌声をしっかりと受け止めて。
大らかに歌い上げた舞は、白いドレスを軽くつまんで一礼をした。
●椿〜Be myself
続いて、ピアノの前に座ったままの椿が、打って変わって歯切れよく音を弾ませる。
「本番前、厨房カラ盗み食いゴメンナサイ！ でもお陰で大きくなりマシタ‥‥と感謝を込め、これからも俺らしく♪」
どこかコミカルな旋律に合わせた『懺悔と決意表明（？）』に、笑い声が満ち。
ツッコミを入れる様に、バスドラムが空気を震わせた。
「 おっかな吃驚 そしてドキドキワクワク
最初の一歩はそんなものだよね
前へ踏み出す度に 僕の中に生まれていく何か
大きな失敗 だけど小さな大成功！（え？）
幾つも重ねて出来たこの轍
振返れば誇らしく 思っても
いいよね？ 」
コーラスでサポートする慧が、大きく両手を広げてクラッピングをアピールし。
さながら、鳴り響く手拍子に負けるものかとピアノの音を弾ませ、椿は唄う。
「 僕らしくx2 これからも頑張ってくから
（Be myself）
君らしくx2 見捨てず見守っていてね
（Stand by me）
少しずつx2 胸を張っていけるよに
（Day by day） 」
軽快な演奏で締め括った椿は、観客に笑顔を振りまいてステージを降りた。
●『Meilenstein』〜memories
抑えめなライトが、仄かに暖かくステージを照らし出す。
ステージには、明るめの色調でカジュアルな衣装に纏めた三人の姿があった。
リズムマシンが規則正しい鼓動を刻み、スモーキー巻（fa3211）のベースが奥行きのある低音を響かせ。
エレキギターを弾く静香は、旋律に少しパンチを効かせ、勢いを作り出す。
リズムを強めにした明るめのポップロックを聞きながら、シド・リンドブルム（fa0186）はマイクを握り。
各々の、そして一周年という一つの区切りを示すべくその名をつけた三人は、それぞれに初めてこのステージに立った時の事を思い出しながら、ライトを浴びる。
「 冬の花 咲き乱れる頃
その花のようにこの場所が生まれた
何故だかわからないけれど
この場所にいたいと思い始めた
僕たちがここにやって来たのは
示し合わせたわけじゃない
偶然集まった人たちが
いつの間にか仲間になったね 」
それはセンチメンタルな懐古ではなく、明るく語る思い出。
レンガ壁に包まれた、落ち着いた空気の中で。
一語一句を確かめながら、シドは心を込めて朗々と唄う。
「 ここで出会えた事を感謝しているよ
お互いぶつかり支えあい
色々な思い出を作ってきたね
なんて事ないものですら愛しいくらい
あなたと出会えたこの場所が
かけがえのない思い出に変わったね 」
フロアの一番奥で耳を傾ける二人へ−−そして、自分自身の内へ。
それぞれの「Meilenstein」を、しっかりと刻み付ける様に。
今できる最大限の歌と演奏を披露した三人を、柔らかな拍手が包み込んだ。
●『wind flower』〜空のメロディ
メロディアスなコードが、フロアに響く。
ピアノ系以外にもキーボードへプリセットした様々な音を駆使し、黒鍵と白鍵に指を滑らせる胡都は、白いシャツとジャケットにジーンズ姿で、胸には赤いアネモネの造花を飾っている。
その傍らで、リラックスした風に耳を傾ける慧は、オフホワイトのゆったりニットに白のスラックス、白い靴と全身を白で統一し。手にしたマイクの、白いリボンで結ばれたアネモネの造花までもが白く。
その身を包む白の中で、唯一違う色−−銀のネックレスと、その先で揺れる羽モチーフのトップが、明るいライトに小さく反射する。
爽やかでポップながらも、ミディアムテンポのバラード調の旋律を聴きつつ。
不意にトーンダウンしたキーボードに促されるよう、慧は一つ一つの言葉を大切に囁く。
「 裸足のまま歩き続けた
ひどくつらい道程だけれど 夢を重ねた
君はまるで神様のように
僕をそっと見守ってくれた 星が流れた
ありがとうで紡がれるメロディ 駆け上がるよ空に 」
冬の空を思わせる淡い青のライティングの中で、慧は手を天へとかざし。
控え目だったキーボードのメロディが、勢いをつけるよう僅かに音を落とすと。
慈しむ様な歌声と共に、ふわりと広がる。
「 どれだけ言葉を尽くしたとしても足りない 溢れる僕の想い
祝おう この世で君に出会えたことを 君が生まれた奇跡を 」
楽しげに唄う慧と目配せをして、胡都はコーラスを重ね。
旋律が誘う大空へと、二人は声の翼を広げる。
『 いつでも誇らしく帰れるように歌うよ 僕らのできる限りで
いつでも見届けてほしい 僕らが空へと飛び立つ姿を 』
電子音が、静かな余韻を残して途切れ。
「 どうか‥‥ 」
音のない空間に、祈るような慧の歌声が、優しく紡がれる。
その祈りの先にある、小さな星の煌くようなキラキラとした音を、胡都が零し。
儚く吸い込まれた音を追って、歓声が響いた。
●ラシア・エルミナール ＋ 早河恭司〜memory
「そういえば、俺も始めてなんだよな‥‥ライム」
タキシードを纏った早河恭司（fa0124）が、タイを調整しながら不意に呟き、彼と組むラシア・エルミナール（fa1376）が首を傾げた。
「そうだっけ？」
「うん。うちのリーダーや胡都は、よく顔を出してるけど」
「そっか。初ライムで、トリだねぇ」
悪戯っぽい笑顔を見せるラシアは、いつものワイルドな髪型を丁寧に押さえてストレートにしていた。衣装もハードっぽい物ではなく、白いドレスと長手袋で、ハイヒールパンプスを履き、イメージを大幅に変えている。
「まぁ‥‥どこでも変わらず、俺らしくやるだけだけど。ラシアと組んで、失敗も‥‥な」
ふっと息を吐いて肩の力を抜いた恭司は、エスコートするようラシアへ手を差し出した。
艶のあるメロディが、息を潜める空間へ滑り出す。
恭司が奏でるグランドピアノに、ラシアは軽く手をかけて。
抑揚のあるしっとりとしたバラードのメロディを聞いて、彼女はピアノを離れ、ステージの前面へと歩み出た。
SHOUTを手にしたラシアの声は、低いキーのフレーズへゆっくりと入る。
「 生まれてから時流れ ふと空を見上げた
白く輝く雪が 静かに降り始める
まるで砂時計 零れ落ちる時間
それぞれの砂粒に刻まれているmemory 」
声を聞いて、漸く彼女だと判った者もいたのか。
微かにさざめくフロアに、ピアノの音色が大きく膨れ上がる。
視線を落としていたラシアは、ライトを振り仰ぎ。
いままで低音域の歌声が、一気に高音域へ柔らかく伸びる。
「 たとえ溶けて流れても
カタチを変えずっと残っている 」
イメージは、ここより生まれたものと、これから生まれるものへ‥‥そんなニュアンスで。
そして高らかな歌声は、緩やかに終息へ向かい。
「 決して消えることのなく これからも刻み続けて
そう いつまでも刻み続けて 」
最後は、最初のキーと同じ低音で、しっかりと聴衆へ声を届ける。
それを見届けたように彼女の歌を彩るピアノが、静かに幕を引いて。
拍手の中、ゆったりと音は消えていった。
●All Artists〜Happy Birthday to Limelight
光が満ちたフロアに、手拍子と明るいメロディが響く。
胡都のピアノと、恭司のベースがリズムを取り。
静香はエレキギターを、椿はアコースティックギターの弦を、軽やかに弾く。
軽快な旋律にのせて、誰もが声を合わせて、祝いの歌を賑やかに唄う。
『 優しく柔らかく 僕らを照らす白色光
いつしか側にいた 包み込んでくれていた
淡い街灯照らしてる 輝くことはないけれど
Remember Day 静かに迎えるありがとう
初めましての驚きと これまでの道
そしてこれからも道が続いていく喜び
迎えてくれる場所があること
それが僕らに勇気をくれた
前を向いて 安心して歩んでいけたのは
側にいてくれたから
これからも歩んでいけると思うのは
道を照らしてくれているから
あの頃は小さな雛だった僕ら
少しは大きく羽ばたけているのか
まだまだ不安でいっぱいだけど
優しさで支えてくれたから
小さい僕らも強くなれた
今度は僕らが支えてあげる
小さいけれども支えてあげる
支え見守り時に諭して 共に歩んでくれた日々に
心からの喜びと 精一杯の感謝を込めて
今日 この特別な日に
ここにいられる幸せを
そっと 抱きしめながら
今までのありがとうと これからのよろしくを込めて
溢れる言葉を歌に乗せて おめでとう！ 』
胡都はピアノをグリッサンドで鳴らし、ギターを握る三人はジャカジャカと音をストロークして。
『Happy Birthday to Limelight！』
全員でコールした後、息を合わせてカットアウトし。
パンッ！ とクラッカーが一斉に音を立てて紙吹雪を散らし、歓声と拍手が巻き起こった。
●After Ending
「改めて一周年、おめでとうございます」
笑顔で胡都は赤いアネモネを佐伯 炎へ手渡し、慧は白いアネモネを川沢一二三に差し出す。
「ありがとう。いいステージだったよ」
「いえ‥‥佐伯さんには、これも」
照れながら、慧は白薔薇の花束を取り出した。
「男に花貰っても、嬉しくねぇ」
「え〜っ」
冗談めかして顔を顰める佐伯に、慧も笑いながら抗議する。
「じゃあ、私からも‥‥こちらに伺うのは初めてでしたが、皆様の仰る通りの素敵な雰囲気のライブハウスですね」
フリージアの花束を手にした舞へ、「ありがとうよ」と佐伯は目を細めた。
「花束を持ってくる人が多いと思ったので、俺は花瓶を持ってきました。これ、飾りますね」
何度もバイト経験のあるシドが、慣れた調子で花瓶へ水を入れに行く。
「あと、これは皆から。エプロンに寄せ書きしたから、『是非』使ってね」
何故か『是非』を強調して、静香が代表して二人へ箱を渡した。
「エプロンに寄せ書きしたら、洗えなくないか？」
そんな感想を言いつつ箱を開けた佐伯は、蓋を手にしたまま固まり。
テーブルに伏した川沢は、肩を震わせて笑っている。
「お揃いだから、仲良く使ってネ！」
強く椿が念を押し、巻は心の内で爪の先程度に同情する。
「お揃いって‥‥コレで店に出れるかーっ！」
寄せ書きの入ったフリフリの可愛らしいエプロンを片手に、立ち直った佐伯が反論した。
「はいはい。カリカリした時は、一服ね」
叫ぶ佐伯と困惑思案顔の川沢の様子を目に焼きつけつつ、ラシアは箱からケーキを取り出す。
「誕生日には、やっぱケーキでしょって訳で、特製のチョコレートケーキを持ってきたよ。ちなみに甘くないチョコで作ったから、甘いどころか苦いかもね〜。『泥珈琲と合わせてどうぞ』なんつって」
にんまりと笑って説明しながらラシアがケーキを切り分け、恭司がそれを皆に配る。
「まぁ‥‥なんだ。心意気はしっかりと覚えとくからな、てめぇら」
苦虫を噛み潰したような渋い笑いと共に、佐伯が音頭を取り。
「かんぱ〜いっ！」
誰もが声を揃え、ジュースや紅茶のカップを掲げた。
