世界へ届ける愛の声アジア・オセアニア
| 種類 | ショート |
|---|---|
| 担当 | 風華弓弦 |
| 芸能 | 5Lv以上 |
| 獣人 | フリー |
| 難度 | 普通 |
| 報酬 | 24.6万円 |
| 参加人数 | 8人 |
| サポート | 2人 |
| 期間 | 12/17〜12/19 |
●本文
●チャリティ・ライブ12月を迎えたある日、アイベックス内である企画が持ち上がっていた。
チャリティ・ライブ−−ライブを行い、チケット代の一部を義援金として寄付しよう−−という内容である。
奇しくも、アイベックスは昨年クリスマス向けのチャリティアルバムを制作しており、CDの販売促進の一環としてTOMI−TV局エントランスを使ったライブも行われた。
その過去の『実績』を、踏まえたのか。チャリティ・ライブの話を聞きつけて、CETよりライブ中継のオファーが舞い込んだのである。
それも日本国内だけに留まらず、海外中継も織り込んで‥‥という大規模な話だ。
かくして、大掛かりな『チャリティ・ライブ』が、動き出した。
●世界へ届ける愛の声
「よもや、こんな大風呂敷を広げるとはね‥‥」
やたらと熱くて濃いブラックコーヒーを啜りつつ、音楽プロデューサー川沢一二三（かわさわ・ひふみ）はしみじみと企画書を読む。
「世界へ、貴方の愛と歌声を届けよう‥‥と、いったところですか」
湯気の立ち上るコーヒーには手をつけず、アイベックスの企画担当者は川沢の反応を窺っていた。
「で‥‥どうでしょう？ トップをやっていただいて、ヨーロッパに繋いで‥‥そこからまた、日本の中継に戻るんですが。その進行のトップパートを、川沢さんに担当していただく形で」
「いや。私の方からは、特に異論も注文もないよ。『Love song for the World』を使うかどうかも‥‥今年のアーティスト達が、判断するところだと思うからね。そのまま使うか、使わないか。あるいは、2006版を作ってしまうか」
企画書を置くと、どこか楽しげな川沢は再びコーヒーのカップを傾ける。
「チャリティ・ライブだし‥‥アーティスト達が出来るだけ、自由な形で演じられるステージを整えるのが、今回の僕の仕事だろうしね」
事務所には、去年のチャリティ・アルバムが抑えたボリュームで流れていた。
●リプレイ本文
●リハーサル風景明るいコンサートホールには、セットやステージの仕掛けを調整する人々が忙しく行き交い、人の声や機材を組み立てる音で賑やかだった。
「そっか‥‥テレビ中継、入るんですよね」
客席の左右から、ステージに向かってせり出すカメラクレーンを眺め、改めてパトリシア（fa3800）がその『事実』を口にした。
「CETの中継で、しかもゴールデンという事は、家族で晩御飯を食べながらだったり、お爺ちゃんやお婆ちゃんがのんびりとお茶を飲んでる時に、わたくし達の歌や演奏が流れる‥‥という事になるんですよね」
「なんだか、凄く『お茶の間』って感じがするけど、そうだね」
目を輝かせている雛姫（fa1744）に、慧（fa4790）が笑いながら頷く。
「つまり、失敗したらそれだけ見ている人も多いと‥‥あ、いえ。もちろんライブの成功、ひいてはチャリティの成功が一番ですが。というか、ぜひとも成功させましょう」
言葉の中ほどで、潤んだ瞳で訴える雛姫と目が合ったミッシェル（fa4658）は、慌てて言い回しを変更し。
「頑張りましょう！」
雛姫は彼の手を取って、気合を入れるように力強くぶんぶんと上下に振った。
「みんなとっても頑張ってるから、きっと最高のライブになるよっ！ 皆で楽しくやれば、会場にきてくれる人にも、テレビの向こうで見てくれる人達にも、きっと楽しさは伝わるよねっ！」
ぴょ〜いとベス（fa0877）が雛姫へ飛びつき、白い羽根がトップになったお揃いのネックレス−−友人の新井久万莉が作った物だ−−を手渡す。
「はい。ベス様の仰る通りですね」
ネックレスを手に笑顔を取り戻した雛姫に、様子を見ていた諫早 清見（fa1478）が安堵の息を吐いた。
「やっぱり、場数を踏んでる人は違うなぁ」
「ぴよ？」
感心した風の清見へ、不思議そうにベスは首を傾げる。
「だってほら、琢磨さんや椿さんは落ち着いてるし」
清見が振り返った先には、精神統一をしているのか腕を組んで目を閉じ、じっと客席に座る陸 琢磨（fa0760）と、対照的に袋入り煎餅をポリポリ齧る椿（fa2495）がいた。
「ん？ 清見サンも、食べる？」
視線に気付いた椿が残りわずかな袋を掲げ、「遠慮しておきます」と清見は苦笑で答える。
それから彼は改めて、準備が整いつつあるステージを見上げた。
「あそこから、世界へ‥‥楽しみだな」
手をかざし、目を細めて。
「そろそろ、カメラと音声テストを始めるよ。準備をお願いできるかな」
番組ディレクターと話をしていた音楽プロデューサー川沢一二三が、声をかける。
「は〜い！」
「判りました」
一様に、出演者達は返事をして。
「テスト、入りま〜すっ。持ち場スタンバイ、お願いします〜っ！」
メガホン代わりに手を口に当てて呼ぶADの声を聞きながら、清見が川沢を捉まえる。
「あの‥‥もしできれば、これと同じネックレスを販売とか‥‥できないかな？ 販売して一部を義援金として寄付ができたら、ライブ来てくれた人だけじゃなくて視聴者の人も、楽しくチャリティに参加できるんじゃないかなって‥‥」
「ふむ‥‥？」
白い羽根のネックレスを手に訴える清見に、川沢はしばし考え。
「相談するだけ、相談してみるよ。直販は当然間に合わないから、受注販売になるだろうし。生産ラインが確保できるかの問題もあるしね」
「お願いします」
勢いよく頭を下げると、清見は踵を返してステージへと向かう七人を追った。
●開演
ブザーが鳴ってライトが落とされ、満員のホールからはざわめきが消えた。
静かに緞帳が上がると、雲の様な白いスモークがゆっくりと客席へ流れていく。
暗いステージには、八個の小さな火−−実際の炎を点すキャンドルではなく、芯の部分がLEDで光るキャンドル−−が灯っていた。
ゆったりとしたスキャットで、『Love song for the World』を唄う中。
ステージ上部からは、一つ二つと細く絞られたライトが雲間からこぼれる陽光のように数を増やす。
その一方で、キャンドルの灯りもステージ奥から左右と中央の三方に分かれて進み出て。
白いローブの裾を揺らし、柔らかな光をかざせば。
ステージ両脇にセットされた沢山のキャンドルへ次々に火が点いて広がり、観客から感嘆に似た吐息が漏れる。
アカペラで唄い終えた中央のメンバーがキャンドルを掲げると、光量を増したライトがステージの全景を照らし出し。
幻想的な演出に、拍手が巻き起こった。
●陸 琢磨〜NONZERO
明るくステージを照らす光が、トーンダウンする。
キャンドルを持った七人は、左右に分かれて袖へと引き上げた。
キャンドルとローブをスタッフに渡し、ステージに一人残った琢磨の姿をライトが照らす。
スピーカーからは、彼が用意したオケ（カラオケ）のイントロが静かに流れ始め。
背面には白いスクリーンが降りて、大きなクリスマスツリーと淡く落ちる雪の影を映し出す。
アコースティック・ギターをメインに、ベースギター、ドラム、バイオリン、ピアノで構成されたバラードに、琢磨はゆっくりとSHOUTを握った。
「 やがて時が過ぎて
いつしかキミに逢えるなら
やがてこの手に抱き締めたなら
いつしかキミに伝えたい
この言葉を‥‥ 」
控えめにアレンジしたサビのフレーズから一転し。
テンポアップしたメロディに、琢磨は身体でリズムを取る。
「 答えが見つからない
でもキミに伝えたい
矛盾した想いが空回りしている
僕から去る君を背に
届けたい言葉を噛締めて
震える掌を握り締めながら
僕は歩き出す
やがて時が過ぎて
いつしかキミに逢えるなら
やがてこの手に抱き締めたなら
いつしかキミに伝えたい
今なら言える
BECAUSE IT IS SIGNIFICANT TO ALL．．．NONZERO
To YOU WHO LOVES SOMEWHERE 」
歌い上げた彼を照らすライトが絞られ、スモークの狭間に黒い革ジャケットを纏ったシルエットが残り。
その影も、ゆっくりと消えた。
●『Angela』〜snow feather
拍手の中、入れ替わりで二つの人影がステージに姿を見せた。
シンプルなジャケットを羽織り、襟から胸へと繊細なフリルで彩られたビクトリアシャツに、細身のパンツまで白で統一した衣装のミッシェルが、アコースティックギターで一節を奏で。
やはり袖口や襟をゴシックレースで飾った白いシャツに白のリボンタイを付け、オフホワイトのストレッチパンツを履いた慧が、広いステージの前面へ進み出て、大きく手を振った。
彼が動くたび、頭の上で偽装の天使輪が揺れ、半獣化して現れた翼−−羽先のみがうっすらと金に見える白い翼も相まって、天使のようにも見える。
ステージの広さを確かめる様に右へ左へとアピールしていた慧が、ミッシェルへ振り返り。
それを見て、彼はギター用にセッティングされたマイクへと歩を進める。
演奏の予感に、歓声や拍手は潮が引くように静かに失せて。
少し切なく優しい雰囲気を漂わせたミドルテンポの旋律が、弦から零れ落ちた。
穏やかなミッシェルの人柄そのままの音に、笑顔を見せて。
手にしたビートへ、慧が柔らかな声を吹き込む。
「 忘れない想いがある 空を見上げた
ひらひらと舞い降りる 白い天使たち
叶うなら側にいたい そっと触れたい
その瞳（め）の輝きを どうか消さないで 」
舞い上がる翼の如く、ギターの旋律がメロディアスに膨らみ。
白い幕を暖かく淡い青に染めるライトに、小さな光がちらちらと降る雪の様に舞う。
「 雪よどうか届けて この祈りを
隣にはいないけど 幸せを願うよ
君の涙を掬う 僕でありたい
世界のどこにいても君を見つけてみせる
いつか手を取り合って笑えるように
背に降る雪がふわり きらめく翼になるよ 」
穏やかなリズムで刻まれる弦の音が、変化をみせて転調し。
やんわりと二人へ降り注ぐ光が、鮮やかなものになる。
「 この声は 愛を歌うために響く
白い羽となって 悲しみを埋め尽くして
君の夢を繋ぐ 僕になりたい
世界のどこにいても君を見守り続ける
おとぎ話じゃないさ 聖なる夜に
祝福を捧げよう きらめく翼の元で 」
明るく大らかに唄う慧は、翼を広げて遠くへ手を差し伸べ。
歌声が消えると共に、増した光もまた消えていく。
最後には、柔らかな弦が残り。
最後の一音がゆっくりと空間へ吸い込まれると、歓声が二人を包んだ。
●『Joyful Choir』〜ORACION
光を抑えた暗いステージに、五本のスポットライトが降り注ぎ。
五人の胸元では、揃って白い羽根のネックレスが揺れる。
おろした金の髪をパールの髪飾りで飾り、瑠璃色の小鳥の翼を広げた雛姫と、鷹の翼を広げたベスは、二人仲良くサンドリヨンを纏い。
半獣化した狼獣人の二人−−パトリシアは尻尾まで隠れる白いロングドレスに、やはり白のフワモコしたイヤーウォーマーで耳を隠し。清見は中東のゆったりした白い長衣を、ファンタジーっぽくアレンジし、その影で青緑灰色の尻尾が覗いている。
ハンドベルを手にした四人は、軽やかな音でフレーズの一部をそっと鳴らして。
澄んだ音の余韻が漂う中、白い司祭風の服の背から萌黄色の翼を広げた椿が、ピアノのキーに指を落とす。
奏でるメロディは、リズムを効かせたスウィング・ジャズの明るい曲調で。
ベルを置いた四人は、手拍子でリズムを取り。
揃えた歌声と共に、ライトがステージを明るく照らし出す。
『 雪の花と共に舞い落ちる
白く輝くひとひらの羽根
落としたのは誰？
急いで空を見上げたけれど
一瞬見えた気がした影は
サンタクロース？ それとも天使？
Sha La La，Sha La La La
夜風に響く鈴の音にのせて
一音一音 紡ぐように口ずさむ
自由の街に伝わる伝説の歌
聖なる夜に澄み渡る 幻想の調べは
貴方の元へ届くでしょうか
誰もが知っているはずなのに
ポケットにしまいこんだまま
いつしか忘れてしまったあの歌を 』
コーラスを織り成し、楽しげに唄う五人。
その声が一転し、粛々としつつも柔らかな雰囲気を纏う。
『 Sha La La Sha La La La
白い羽根を胸に抱きながら
高く低く 織り成すように奏でる
幻の森に伝わる幸せの歌
雪降る夜に染み渡る 悠久の調べは
銀の世界に響くでしょうか
ツリーに輝く星のような
喜びも悲しみも全てをそっと
優しく包み込んでくれるあの歌を 』
そして、ピアノの音色が静かに息を潜め。
それに合わせて、ステージから見える限りの聴衆の表情が判る程に、ライトの光が満ちる。
『 唄いましょう 静かな祈りが
大切な人に 届きますように
まだ会えずとも 離れていても
伝えたい想い この歌に込めて
Sha La La Sha La La La Sha La La La‥‥ 』
最初のテンポと打って変わって、最後はゆっくりとアカペラで締め括り。
響く拍手に、五人は頭を下げた。
●『Love song for the World in 2006』
ミッシェルのギターが、オープニングでのスキャットの一部を紡ぎ。
背面からの光を受けて、六人のシルエットが浮かび上がる。
『 求めよ さらば与えられん
尋ねよ さらば見出さん
門を叩け さらば開かれん
すべて求むる者は得 尋ぬる者は見いだし
門を叩く者は開かるるなり 』
歌声が広がると、全てのライトが一斉にステージへ光を投げかけた。
先の『ORACION』の様に、遅れてピアノが滑り込み。
テンポを一転させ、メンバーは明るいハーモニーを響かせる。
『 おお 天にまします我らが神よ
そちらから見た世界はどう？
ああ きっと地上一杯の 素敵な愛が見えるはず 』
六人は、電気仕掛けのキャンドルを手にして。
オープニングと同じように、ステージの前方と左右へ広がって進み出る。
『 少しずつ 少しずつでも 歩き出した未来には
みんなが望んだ世界が あるよ 』
ギターとピアノの演奏が、歌の間を繋ぎ。
『 おお 天にまします我らが神よ
そちらから見た世界はどう？
ああ きっと地上一杯の 素敵な愛が見えるはず
ここから貴方へ贈る Love song for the World！ 』
ギターとピアノの音色が、余韻を残してゆっくりと消える中。
同時に六人が、手にしたキャンドルを前方に差し出す。
座席の間やクレーンにセットされたカメラが、それらを正面から捉え。
ステージ上方からは、雪を思わせる紙吹雪が舞い落ちる。
そして、全てのライトが息を潜め。
最後に、暗いステージに灯った六個のLEDライトが役目を終えたかの如く、音もなく静かに消えた。
チャリティ・ライブの19時代は、全般アコースティックな印象を強く残して、幕を閉じる。
CETのチャンネルでは、中継の合間を繋ぐ様に『CETホームページにて、特別アクセサリ限定受注販売』のテロップが流れた−−。
