Maybe he’s SantaClausヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや難
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報酬 |
8.4万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/24〜12/27
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●本文
●バイトと子供
−−求む、サンタクロースのお手伝い。夢のある方、夢を忘れた方、歓迎します。
そんな奇妙なバイトの張り紙を見て、集まった者達がいた。
彼らの前に現れたのは、白い髭もたくわえておらず、赤い服すら着ていない一人の青年。
−−大抵、子供たちがお願いするプレゼントは『物』なんだけど、そうじゃない子供達もいる。そんな子供達にも、『プレゼント』を届ける仕事なんだ、と。
彼は白いカードを、トランプのように広げてみせた。
−−それから。サンタクロースの手伝いなんだから、みんなそれなりに『夢のある格好』をしないとね、と。
彼が指を鳴らせば、彼らにトナカイならぬ翼や角や耳や尻尾が生えてくる。
−−さぁ、行こう。子供達へ、夢を運ぶために。そして、子供達が夢を忘れなければ。
世界は、きっと−−。
・キャサリン
太陽の下に出ることが出来ない13歳の多感な少女は、「夜のロンドンで自由に遊びたい」と願う。
・フレッド
事故で走れなくなった9歳の少年は、「ロンドンマラソンのゴール、ザ・マル(バッキンガム宮殿とトラファルガー広場を結ぶ道路)を走ってみたい」とカードに書いた。
・キャロル
里親待ちの一番幼い4歳の少女のカードは塗り潰されているが、かろうじて「Mum’s k」と書かれた文字が読み取れる。
・ジャック
カードに「サンタクロースなんか大人のウソだ」と書き殴った、10歳の弱視の少年。
●撮影に関しての注意点
募集するのは、「サンタクロース役」「サンタクロースの手伝い役」であり、撮影は半獣化して行う。ただし本人が希望する場合は、半獣化以外に『シークレット系アイテム』を使った仮装での撮影も認める。
願い主の子供達は、みな素人で普通の人間である。
素の反応を狙う為、できるだけ一発撮りで行う予定。
なお、子供達の『友達』を演じる事は可能。
●舞台裏
「出来る手配は、全部社長経由で手配するっていうし。クリスマスにはロンドン中の交通機関も止まっちゃうしね。思う存分、撮れる‥‥かな」
脚本家のフィルゲン・バッハは、束になった申請書類や資料などを一つ一つ確かめる。
「で、我々と俳優スタッフ諸氏のクリスマス休暇はないというわけだ。日本人の如く、勤勉に働けというヤツだな」
監督レオン・ローズは、微妙な表現に微妙な表情で視線を泳がせている。
「で、この子供らは何者なのだ?」
「台本の通り、慈善団体が集めるサンタへの願い事の中で、『物を書かなかった』子供達。病院やリハビリセンター、児童保護施設から『選抜』したそうだよ」
「‥‥ふむ」
小道具用の無地の白いカードをつまみ上げ、ぴらぴらとレオンはそれを振る。
「俳優スタッフ諸氏にも書いてもらうのも、面白そうであるな」
「来年用かい?」
「もしくは、タナボタに吊るすとかな」
「‥‥七夕だって」
真顔のレオンへ、一応お約束的にフィルゲンが突っ込んだ。
●リプレイ本文
●暖かな夢と冷たい現実
雪は望めないものの、ロンドンは穏やかな晴天に恵まれていた。
「いい天気であるなぁ」
「そうね」
暖かい陽だまりでは、暢気に監督のレオン・ローズが紅茶のカップを傾ける。その隣では、羽曳野ハツ子(fa1032)が緑茶の湯飲みを手にしていた。
そんな二人に、久遠・望月(fa0094)は奇妙な表情を浮かべる。
「何してんだ、あの二人。まだ3時じゃないし、監督の隣がハツ子だし」
AFWのスタッフと共に撮影準備を進めるウルフェッド(fa1733)は、望月に声をかけられて手を止めた。
「ああ。フィルゲンは、ホンの手直しで手が放せないらしい」
「あの件か」
ウルフェッドの答えに、望月は少し考え込む。
当初の予定では『サンタの元に、複数人が手伝いのバイトにやってくる』予定だったが、現状では手伝い役よりサンタ役の希望者の方が多く−−中には『幻想寓話』のイメージから離れていない者もいて、フィルゲン・バッハは大急ぎで脚本の修正に取り組んでいた。
「じゃあ、俺は子供達と話をしてくるかな」
現状で手伝える事はないと判断した望月は、子供達の控え所へ向かった。
「可愛いね」
「はい。人参、食べるんでしょうか」
急作りの厩舎では、月居ヤエル(fa2680)とセシル・ファーレ(fa3728)が興味深げに草を食む馬を眺めていた。
そんな二人を、御堂 葵(fa2141)と深森風音(fa3736)が少し離れて見守る。
「あまり大きな声を出すと驚きますから、注意して下さいね」
「「は〜い」」
声をかける葵に、仲良く声を揃えた答えが返ってきた。小さく笑いながら、彼女は少し心配そうな視線を風音へ向ける。
「それで、そちらの『お願い』の方ですが‥‥上手くいきそうですか?」
おずおずと尋ねる葵に、一つ頷く風音。
「うん。優しいコだからね。大丈夫だと思うよ」
幸い、風音の属する一角獣の獣人は馬との意思疎通が可能で、それには獣化の必要もない。
「それでしたら、安心ですね。子供達に一夜の奇跡のプレゼント、うまく出来れば良いですけれど」
ほっと葵は安堵の息をつくと再び馬に目をやり、風音も彼女に倣う。
「少しでも、子供達の夢に近い願いを叶えられるといいね」
「直しは、これで」
車からへろへろ現れたフィルゲンは、脚本をレオンに手渡した。
内容を確認したレオンは、軽く相方の肩を叩いてスタッフの元へ急ぎ、フィルゲンはレオンの椅子にへなりと座り込む。
「‥‥フィル? 少し相談があるんだけど‥‥いいかしら」
その彼へ、躊躇いがちにハツ子が声をかけた。
●Four miracles
鐘が、ミサの時間を告げて鳴った。
家々から現れた人々は、家族や親しい人と揃って教会へ向かう。
そんな人込みの中から、一人二人と流れを抜け出す者の姿があり。
抜け出した者達は、一箇所に集まって顔を合わせる。
「そろそろですね」
「そろそろだね」
ひそひそと、そんな会話を交わした後。
「では、そろそろ行きましょうか‥‥今年も」
また、三々五々と夜の街へ散っていった。
●1st miracle
おいでおいでと、囁く声が聞こえる。
その声に誘われるように、少女は部屋を出た。
廊下の向こうを、影がさっと曲がり。
眉を顰めた少女は、そっと後を追う。
追いかける影は、扉を開けて玄関を抜け。
少女はそこで、足を止めた。
暫く扉を見つめた後、踵を返し。
「おいで。上着を着て、外へおいで」
呼びかける声に振り返れば、猫の耳の少女と兎の耳の少女が、扉からひょこり顔を覗かせた。
「あなた達‥‥誰?」
「それはね」
「出てくれば、判るよ」
悪戯っぽく笑い、二人は扉の向こうへと消える。
コート掛けには、ポケットに手袋を挟んだ厚手のコートと帽子にマフラー。
まるで彼女の心を知っていて、それを促すかのように。
恐る恐る、扉の外へ姿を見せた彼女へ、白い縁取りの赤い帽子を被った二人の少女が笑顔で手を差し伸べる。
「行こう、キャサリン」
その手を取って。
三人の少女は、夜の街へと駆け出した。
「私は『メリエル』。まだまだ駆け出しのサンタなの。よろしくね」
「えぇと‥‥じゃあ、猫の妖精にちなんで『ケット・シー』で。駆け出しの見習いくらいのサンタだよ」
自己紹介をするヤエルとセシル−−メリエルとケット・シーに、キャサリンは面白がる表情を見せ。
「最近のサンタは、トナカイのソリの代わりに車なの?」
紫外線をカットするフィルムを窓に貼った車内を、ぐるりと見回す。
「それは、見習いだから」
「ソリ免許試験って、とっても難しいんだよ」
顔を見合わせ「ねー」と声を揃える二人に、キャサリンはくすくす笑う。
その間に、いつもより車通りの少ない道を走っていた車は、路肩に寄せて止まった。
「さぁ、行こう」
車のドアを開けて外へ出たサンタ達が、手を差し出してキャサリンを誘う。
二人の手を借りて車を降りた少女は、輝くイルミネーションに息を呑んだ。
ネルソン記念柱がそびえるトラファルガー広場では、大きなクリスマスツリーが瞬いていた。
人々の祈りで満ちた通りを抜け、ハンガーフォード橋を渡って、ジュビリー・ガーデンズを眺めて歩き、川面に遠く映るビッグ・ベンに歓声をあげて。
小さな『夜の散歩』は、ロンドン・アイで終着点となる。
巨大な観覧車を独占した少女は、眼下に広がる夜景をじっと見つめて。
「こんな素敵な夜の街は、初めて見たわ。昼はもちろんだけど、夜も街中になんてこれないから‥‥」
嬉しそうに窓を眺めるキャサリンだが、やがて重そうに瞼を閉じて、微かな寝息をたて始める。
ヤエルはキャサリンのコートのポケットへ、小さなサンタの人形を滑り込ませた。
観覧車の扉が開くと、待機するウルフェッドが眠る少女を抱き上げて車へ運ぶ。
密室でセシルの『誘眠芳香』の影響を受けたヤエルも、少し眠そうに目を擦り。
今日の事を忘れないでね−−と囁いて、少女を自宅のベットへと送り届けた。
●2nd miracle
「メリークリスマス♪」
突然現れた黒髪の女性に、ベットの上で足のマッサージをする少年は目を丸くした。
「‥‥誰?」
困惑した問いに、風音は笑顔で頭に被った白い縁取りの赤い帽子を指差す。
「サンタだよ。あ、その顔は信じてないね?」
これまた普通の反応に、楽しげに風音は笑い。
「嘘だと思うなら、ついてきてごらん。ザ・マルを、風の様に駆け抜けたかったらね。ただし‥‥こっそりと、だよ?」
そして、彼女は先に部屋を出た。
壁に貼ったランナー達のポスターに目をやり、フレッドは松葉杖へ手を伸ばす。
風音に追い付いたフレッドは、街灯の下に佇む姿に足を止めた。
そこには、背に椅子のような鞍を乗せた、一頭の栗毛の−−。
「‥‥馬?」
「残念ながら、トナカイくんにはサンタさんが重いって断られたのでね」
冗談めかした風音が首を撫でれば、馬は答えるように四本の足を踏み鳴らす。
「重いんだ‥‥」
自分の言葉と他人の言葉では、やはり重みが違うのか。
風音の笑顔に、微妙な棘が滲む。例えば、引きつるこめかみ辺りに。
改めて一つ咳払いをし、彼女は少年を見下ろした。
「じゃあ、行こうか。大丈夫、今日は特別な日だからね」
蹄が舗装を蹴る硬質な音が、静かな夜のセント・ジェームズ・パークに響く。
海軍門とバッキンガム宮殿を繋ぐ直線を馬は並足で往復し、風音と共に馬上で揺られるフレッドは、熱心にロンドンマラソンの説明をしていた。
「最後は向こうのバードケージ・ウォークから宮殿の前を横切って、ザ・マルに入るんだ。だからザ・マルは、皆が一番輝いた笑顔を見せる場所なんだよ」
「じゃあ、少し速度を上げてゴールを駆け抜けてみようか。よろしくお願いするよ」
馬に呼びかけてから、風音は手綱を取った。
宮殿へ向かって馬は駆け出し、ビクトリア女王記念碑を左回りして、マラソンのゴール地点を風の様に駆け抜けて。
小さな夢との決別を実感したのか、少年は馬上で嗚咽を押し殺していた。
●3rd miracle
現場を抜け出した望月は、『難問』を書いた少年の家を訪れた。
突然の来訪者に少年は怪訝な顔をするが、構わず彼は話を切り出す。
−−ねぇ、ジャック。クリスマスの意味って知ってるかい?
クリスマスは‥‥幸せって意味なんだってさ。
サンタは、皆に幸せを届けるのが役目かもしれないよ。
どんな小さな形でもいい。
皆が嬉しいと思う事をしてくれる人は、皆サンタなんだ。
何もそれが物ばかりとは、言い切れないよね。
実は俺の親父‥‥『サンタさん、サイン下さい』って枕元に書いておいたら、本当にサインを置いておいてくれたんだ。
普段は手紙でお礼だけだったから、びっくりしたらしいけど‥‥夢を壊さないようにしてくれた。
あの時の俺の親父は俺にとって、間違いなくサンタだったよ。
ジャックは何がしてみたい? 何が欲しい?
俺にできる事があれば、俺がジャックのサンタになるよ。
それじゃダメかな−−。
視線を合わせず、じっと話を聞いていた少年だが、望月の問いに頬を膨らませ、口を尖らせる。
−−じゃあ、サンタがいるっていうのは、やっぱりウソなんだ。
ホントのサンタは、いないんだから−−。
その言葉に、望月はやっと少年の望みが少し見えた気がした。
サンタは大人の嘘。そうでないなら‥‥。
眉根を寄せた少年は、ぎゅっと葵の狐耳を引っ張った。
「あの‥‥痛いです、ジャック」
苦笑する葵の言葉に、口をへの字に曲げるジャック。
「ホントに、耳なんだ」
「はい。これで、信用してもらえました? サンタの見習いだと」
耳から手を放した少年は、手を握ったり開いたりしながら少し考え。
「でも髭がないし、お爺さんじゃない」
「見習いですから」
少年の疑問に、そう葵は押し通した。
ジャックは極端に視力が弱い為か、おぼろげな視界を触感で補完するらしい。
葵の姿に驚かず、彼女が「サンタの見習い」と主張すれば、少年は触って確かめると言い出した。
そして、頭から生えた『人間にはないはずの動物の耳』の存在に驚き。
やっと、少し大人しくなった。
「プレゼントのお願い、あります?」
優しく葵が問えば、ジャックはふるふると首を左右に振る。
「いい」
「じゃあ‥‥私が決めても、いいですか?」
頷く少年に、彼女はにっこりと微笑み。
「では、目を閉じて‥‥そう。それから、ゆっくりと目を開けて下さい」
促されて目を開いた少年は、そのまま目を見開く。
『ありえないもの』を幻覚で見せる事を、疑問に思った葵。
彼女が『狂月幻覚』で見せたのは−−彼女自身が見てきた、ロンドンのクリスマスの街並み。
直接ジャックの心に送り込まれる為、五感に頼らずに『見る』光景は、おそらく少年が初めて目にするクリアな世界。
「とってもキラキラして、眩しいや‥‥」
瞬きする事も惜しむように幻の光景を見つめるジャックの手に、葵はそっと小さなサンタ人形を握らせた。
●4th miracle
ベットや棚には、人形やヌイグルミ。
クローゼットには、リボンやフリルが愛らしい少女向けのドレス。
テーブルには手作りの菓子が、可愛い皿に盛り付けられている。
そんな小さな女の子には夢のような部屋で、ハツ子は膝にキャロルを抱いて、絵本を読み聞かせていた。
最初は、何が何やら判らずにおどおどしていた少女だが。
ハツ子が『平心霊光』で動揺を拭ってやり、それから一緒に遊ぶ事で、かなり打ち解けてきたらしい。
彼女が絵本を読む間に、少女は膝の上でうつらうつらと舟を漕ぐ。
眠りに落ちかかったキャロルを、そっと抱き上げてベットへ寝かせ。
前髪をかきあげて、額に一つキスをして。
「サンタクロースの魔法は、クリスマスが終わると解けてしまうけど‥‥それまでは、ママはここにいるからね」
優しく声をかけてやると、聞こえているのかいないのか定かでないものの、少女は寝顔にあどけない笑みを浮かべた。
クリスマスが終わると、サンタの仕事も終わる。
集まったサンタ達は、澄んだ夜空に赤い帽子を放り投げた。
●問いの続き
「‥‥良かったのかなぁ」
映写室でフィルムのラッシュを見ながら、不意にフィルゲンが呟く。
「良かったと思うがな。個人的な意見ではあるが」
ガシガシと髪を掻きつつ、レオンが同意する。
クリスマスツリーには普通の飾りに加えて、スタッフが書いたサンタへのメッセージカードが揺れていた。
「‥‥フィル? 少し相談があるんだけど‥‥いいかしら」
問われたフィルゲンは「へ?」と眼を瞬かせ、ハツ子は思い切って口を開く。
「キャロルを、養女に出来ないかしら」
突然の提案に、真っ白になるフィルゲン。だが数秒後には立ち直り、そして−−首を横に振った。
「それは、ダメだよ」
「どうして? 里親待ちなら‥‥」
「あの子は、普通の人間なんだよ?」
言いかけた言葉を遮るフィルゲンに、彼女は頬を膨らませ。
「それは判ってるわよ」
「なら、養女に迎える事で、あの子の『感染』の危険が上がるなら。僕は‥‥」
その言葉は、尻すぼみに途切れ。
言わんとする処を、ハツ子も理解する。
「僕らと一緒じゃない方が、あの子の幸せだと思うよ」
肩を落とすフィルゲンを見つめるハツ子は、おもむろに隠していたニット帽をずぼっと被せ。
「ちょぅっ!?」
不意打ちに奇声をあげる恋人を、彼女はぎゅっと抱きしめ、囁いた。
「メリー・クリスマス」