EtR:もぐら叩きヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 フリー
獣人 3Lv以上
難度 普通
報酬 8万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 12/26〜12/29

●本文

●行く手を塞ぐもの
 外見上は沈黙を保ったままの、『オリンポス遺跡』。
 探索期間の空白を埋めるための前回の調査によって、遺跡の内部は以前と変わらぬ静けさを保っていた事が確認された。
 しかし第二階層の探索は、思わぬ壁−−その表現の通り、物理的な『壁』によって遮られた。
 異質な『壁』は、トリモチのような粘性の高い物質で出来ており、その向こうにはおそらくまだ第二階層の空間が続いていると目されている。しかしその粘性のため一般的な刃物類では刃の通りが悪く、切り裂いて進む事は容易ではない。
 しかも『壁』の周囲では、二匹のNWが確認された。
 一匹は『壁』の向こう側で行動し、もう一匹は『壁』の下、砂中に身を潜めている。
 砂中のNWは長く鋭い錐状の尖った足を持ち、その姿は蜘蛛を思わせた。
『壁』の向こう側のNWも、やはり壁を穿つ鋭い錐状の足をしており、おそらく同種のNWではないかと予想される。
 これらを放置したまま『壁』を排除する事は、難しく。
 よって、NWの排除が先決となるのだが−−。

「ちょうど、『表舞台』が何かと忙しいシーズン‥‥なんですよね」
 説明をするWEAの表情は、浮かなかった。
 世間一般的にはこの時期、クリスマスに年末に大晦日にお正月にメッカ巡礼と、多種多様なイベントが目白押しなのだ。
「芸能活動を裂いて、大掛かりに‥‥というのは難しいですし、必然的に少人数で事態に当たらなければなりません」
 ほぅと係員は一つ、溜め息をついた。

●今回の参加者

 fa0614 Loland=Urga(39歳・♂・熊)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa1890 泉 彩佳(15歳・♀・竜)
 fa2640 角倉・雨神名(15歳・♀・一角獣)
 fa2830 七枷・伏姫(18歳・♀・狼)
 fa3126 早切 氷(25歳・♂・虎)
 fa3843 神保原和輝(20歳・♀・鴉)
 fa4351 紫縁谷 真木(23歳・♂・狼)
 fa4468 御鏡 炬魄(31歳・♂・鷹)
 fa4892 アンリ・ユヴァ(13歳・♀・鷹)

●リプレイ本文

●作戦確認

 26th Dec.06 (Tue.)
 有志の調査によって、遺跡の内部情報は少しずつではあるが解明されてきている。
 今回、第二階層を探索するに当たっての任務は、『壁』とその周辺のNWを排除し道を切り拓くこと。
 この調査にしても僅かな一歩に過ぎないのだろうが
 その一歩一歩が積み重なり、いつか実を結ぶのだと信じたい。
                     −−紫縁谷 真木(fa4351)、探索出立前に記す。

「ぴ〜‥‥動き回っているのか、ちゃんと場所が特定できないね。でも風が止まったのって、きっとあのNWが壁で塞いじゃったから‥‥なんだよね?
 簡単に書いた地図とサーチペンデュラムで蜘蛛型NWの位置を探していたベス(fa0877)が、集中をといて小首を傾げた。
「そう考えるのが、妥当だろうな。あのような壁を作られては、風が吹き抜ける事などできよう筈もない」
 答える御鏡 炬魄(fa4468)に、手を休めて腕組みをしたベスは更に首の角度を傾ける。
「でも、どうして塞いだのかな? しかも、あたし達が近づかないように護ってるみたいだし。もしかして、命令されている‥‥とか?」
「確かに、通常のNWは『捕食者』のイメージが強いですけれど‥‥皆さんの話ですと、『守護者』といったイメージの方が、先に立ちますね」
 ポリポリと辛味の効いた菓子を食べながら、アンリ・ユヴァ(fa4892)もまたベスと似た疑問を抱いていた。
「‥‥何、食ってんだ」
「おやつです」
 平然とアンリが答えを返して、問いかけた早切 氷(fa3126)はやや脱力し。
「まぁ‥‥何だかんだ言って、NWの事ってのはあんまり判ってないみたいだしなぁ。こないだ中国で出た、白いのやトウテツしかり‥‥それにしても」
 暢気に一つ大欠伸をしてから、氷が先を続ける。
「蟷螂の次は、蜘蛛‥‥よっぽど、この遺跡の中は媒体に恵まれて‥‥ん?」
 言葉の途中で不意に眉を顰めた氷に、銃をチェックしていた神保原和輝(fa3843)が手を止めた。
「どうかした?」
「いや、なんかこう‥‥引っかかるモノが。喉の奥の方で」
「あの、もしかして魚の骨‥‥とか? でも、魚の骨が喉に引っかかったのとかって、『治癒命光』とかで治せるのかな‥‥?」
 おろおろしながら角倉・雨神名(fa2640)が自問自答すれば、七枷・伏姫(fa2830)が傍らに置いた日本刀を示し。
「喉に骨が引っかかった程度ならば、軽く一打ちすれば取れるでござるよ」
「いや、それ取れる以前に、俺の身が危ないから! てか、骨が刺さったとか、物理的にナンかが引っ掛かってる訳でもないからっ!」
 我が身に迫る危険を察知して、慌てて首を横に振る氷。
「それは‥‥残念でござるな」
「残念‥‥なんですか?」
 日本刀へと伸ばした手を引く伏姫に、素朴な疑問を真木が投げたりする。
「それで氷さん、何が気になったのかな?」
 改めて泉 彩佳(fa1890)に聞かれて、がしがしと氷は頭を掻き。
「‥‥忘れた」
「じゃあ、ショック療法で思い出してみますか☆」
 すこぶるニコヤカな笑顔で、彩佳がパキパキと指を鳴らした。
「いや、忘れるくらいだから、大した事でもないんだ‥‥うん、きっと」
 氷は強張った笑いで誤魔化し、それでもヤる気十分の彩佳の肩を、Loland=Urga(fa0614)がぽんと軽く叩いて宥める。
「まぁ、その辺で‥‥な。後は、NWをぶっ飛ばすのに取っておけ」
「そうだね」
 年長者の意見を汲み、少女プロレスラーは茶の髪をかき上げた。
「ところで、今回の蜘蛛型NWなんだけど。それよりも先に、飛行している小型のNWの群れを、完全に排除してしまった方がいいんじゃないかな」
「あの、蟲の群れを? でも、強い光でやり過ごす事も出来るみたいですけど‥‥」
 雨神名が不安げに彩佳を見やるが、彼女は譲らず。
「でも、戦闘している間に飛んできたら、厄介だと思うな。暗いと危険だし‥‥あ、大丈夫。ちゃんと作戦を考えてきたから、アヤ一人ででも‥‥」
「あなた一人おいて、NWと戦わせる訳にもいかないわよ。探索が進んでいるとはいえ、どんな不測の事態が起きるかも知れないんだから」
 凛とした和輝の言葉が、その先をきっぱりと遮った。

●前哨戦
 手馴れた様子で、真木とLolandが岩壁にレフ板を固定する。
「板は一枚だけか?」
 彩佳が頷く様子を見て、Lolandが唸った。
「なら、コレが壊れたら代わりがないな」
「少し湾曲させて、光を集めやすくしますか?」
「そうだな‥‥光源の方向も考えて‥‥」
 少ない機材で最大の効果が得られるよう、二人は相談しながら『仕掛け』のセットを続ける。
「じゃあ、俺は不測の事態に備えるってコトで‥‥」
 欠伸をしながら砂地に座り込む氷へ、アンリが口をへの字に曲げた。
「サボるんですか」
「だって、俺は飛び道具も広域攻撃方法もないし、足も早くないし」
 飛び回る群れの相手は向かないねぇと、氷は肩を竦める。
「となると‥‥灯りの囮は、私の役目でござるか」
『俊敏脚足』が使える伏姫が、ヘッドランプを確認した。伏姫には、更に真木がサポートに付く事になっている。
 光でできるだけ多くの小型NWを集めて、範囲攻撃タイプや射撃タイプの特殊能力で倒す‥‥という、シンプルな戦法である。
「あとは、レフ板を突き抜けて壁に当たって自滅とか、してくれるといいかなーって」
「甲虫の類は硬いからな‥‥」
 あっけらかんと希望的観測を述べる彩佳に、炬魄が嘆息し。
 そして、『長期戦』は幕を開けた。

 光源を持つ伏姫と真木を追ってきた小型の蟲達が、雲霞の如く光へ突っ込んでくる。
 故意に集めればまだそれだけの数がいる事に誰もが驚きつつ、蟲の群れへと闇の玉や雷、光を放ち、群れの数を確実に減らしていく。
 レフ板が使い物にならなくなる程にひしゃげた後は、ライトそのものを誘導の終着点として。
 その『作業』にはそれなりの時間を有したものの、ある程度の−−少なくとも、光を手にして歩き回っても蟲の群れに囲まれない程度にまで、成果をあげる事は出来た。

●砂の下の害意
 暗い空間に飲み込まれていたライトの光が、やがてその『障害物』を照らし出す。
 誰もが足元に注意を払いつつ、ゆっくりとその『壁』へと近づいた。
「これが、件の『壁』ですか」
 始めてソレを目にしたアンリが、しげしげとそびえる壁を見上げる。
「ぴぇ‥‥この間あけた穴が判らないくらい、綺麗になっちゃってるね」
 壁に沿いながら歩くベスに、「はい」と雨神名が頷く。
「それにしても、砂中のNWをどう引きずり出すかが‥‥問題ね。出来るだけ、短期決戦といきたいところだけれど」
 歩きながら、和輝が靴で軽く砂をならしてみたりする。
 砂の中に潜むNWと、壁の向こう側にいるNW。
 相談の結果、一行は二匹の蜘蛛型NWのうち、砂の中に隠れている方を先に排除する事を結論とした。壁を突破する間に、文字通り足元をすくわれる事を懸念した為である。
「コレだけ接近して、動きはナシか‥‥たぶん感知してるのは「音」か「重量」だろうから、少し壁を傷付けながら動き回ってみるかね」
「じゃあ、今の間に『幸運付与』をしておくか」
「そうだね!」
 Lolandとベスは手分けをし、良き運が味方に付くようにと願いつつ、仲間達の頭を順番に手で触れていく。
「後は、ベスの『瞬間予知』が頼りだな」
「ぴ? でも一瞬先の事だから、みんなに知らせる暇もないかもだよ?」
「じゃあ、ベスが囮で」
「ぴえぇぇ!?」
 あっさりと言い放つ氷に、動揺するベス。
「まぁ‥‥頼んだぞ」
 フォローするかと思いきや、炬魄もまた励ますように細い肩に軽く叩き。
「あたし、か弱い女の子なのに〜っ!」
「いや。きっと、多くの実戦経験を積んできた結果でござるよ。それだけ、信頼されていると思えばいいのでござる」
 主張するベスに、くつくつと伏姫が笑った。

 前回と同じように、氷がライトバスターを壁に突き立てる。
 他の者達は壁から距離をとり、氷自身も壁の向こうからの不意打ちに備えて、できるだけの間隔をあけて移動する。
 そうして、動き回る事しばし。
「氷さんっ!」
 ベスが警告を発するのと同時に、ざらりと氷の足元の砂が崩れ。
「この‥‥っ」
 ライトバスターを氷が振りかざすも、次にベスの脳裏に過ぎったのは予想と違うイメージ。
「あ、後ろ‥‥っ!」
 慌てて、ベスは一行を振り返り。
 彼らの背後で、砂が吹き上がった。
「く‥‥っ。背後からとは、不意打ちもいいトコだなっ!」
 砂の中より伸びた長い節足を、『金剛力増』で腕力を増したLolandの腕が、がっちりと受け止めている。
 その僅かな間に『東方の霊鈴』を手にした彩佳が、鈴を鳴らしつつ軽やかに踊る‥‥というよりはどこか軽業に近いが、とにかく踊る。
 しかし砂地の足場では、しっかりと踏ん張って押さえきる事は難しく。
 砂中からの襲撃者は、鈴の効果が現れる前にまた砂を巻き上げて足を引っ込めた。
「やれやれ。これは‥‥本気でもぐら叩きだな」
 振り切る一瞬を狙って『モウイング』を構えていた炬魄が、眉を顰める。
「モグラさんみたいに可愛ければ、まだいいですけれど‥‥蜘蛛とか、可愛くないですっ」
 どこか緊張感のない雨神名の訴えに、アンリは目をぱちぱちと瞬かせて。
「モグラって‥‥可愛いかなぁ」
 ぽつりと、そんな疑問を呟いた。

 その後は、再び緊張が続く長期戦となった。
 砂の中の相手に直接有効なダメージが与えられない以上は、砂中からの襲撃を待ち、その一瞬に攻撃を集中させる。
「今度は、逃がさない!」
 舞い上がる砂に、和輝が闇の玉を飛ばした。
 その甲殻に傷を与える事はないものの、一瞬遅れて砂へ引っ込んだ足の鈍った動きに、和輝は手ごたえを感じる。
「相手の体力にも、限りはあるのね‥‥みんな、頑張って!」
 彼女の激励に、何人かは片手を挙げ、声をあげて応えた。
 砂中からの足の攻撃以外にも、壁と同じような粘質のクッションで仕掛けられた『落とし穴』のようなものがあちこちにあり、それがまたNWの襲撃かと一瞬見紛わせる。
「砂の中から引きずり出せれば、後は簡単でござろうが‥‥」
 刀の柄に手をかけて呟く伏姫は、また意識を砂へと集中し。
「当たっても当たらなくても、やってみるしかないよね‥‥」
『ルドラの槍』を構えたベスが、次の攻撃を察知すべく意識を凝らす。
「槍の風圧で、砂が散るかもしれないしな‥‥その辺、任せた」
 鷹揚に氷が肩をぐるぐると回し、雨神名は祈るように指を組む。
 誰もが、息を殺して次の襲撃を待つ中で。
 何度目かの砂が舞い上がり、現れようとしていた足へベスは槍を突き立てる!
 一日に一度のみ使える、暴風の威力が開放されて、周囲に砂を散らし。
 そこへ更に、風の爆発が加わった。
 彩佳が加えたソニックナックルの爆発力が、一瞬彼女の周囲から音を奪う。
 無音の中で、Lolandが咆えながら長い足を掴んで、NWを砂中から引きずり出し。
 伏姫が日本刀を、炬魄が鎌を、氷が光の刃を振るい。
 アンリと真木、それに和輝が至近距離でそれぞれの銃の引き金を引く。
 そして、聴覚が回復した頃には。
 全力で『叩き潰された』蟲が、その残骸を晒していた。

「大丈夫ですか?」
 声をかけながら、雨神名が癒しの力で傷の手当てを施す。
 幸いにも大きな負傷を追った者はいなかったが、長期戦での消耗は激しく。
「壁のNWは、次のお楽しみだな‥‥」
 そびえる壁を見上げて、苦々しげに炬魄が呟いた。