年末年始行事、再びヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
なし
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
12/30〜01/02
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●本文
●思わぬ知らせ
その日。
一通のクリスマス・カードを手にしたフィルゲン・バッハは、真っ白になっていた。
「何か、愉快な脅迫状でも届いたか?」
興味深げに、同居人レオン・ローズが開いたままのカードを覗き込み。
反射的に、招き猫の如く上げた右手の裏拳が、綺麗に顔の真ん中にメリ込んだ。
「おぶはっ!」
「あ‥‥ごめん。つい」
奇声をあげて顔を抑えるレオンへ、あまり申し訳なくもなさそうに謝るフィルゲン。
「前触れナシの奇襲は、卑怯であるぞっ!?」
「いや‥‥前触れがないから奇襲だし、奇襲は卑怯じゃないと思うんだけど」
ごく当然な答えに「むぅ」とレオンは唸り、珍しく自ら話を本題に戻す。
「それで、何の用件なのだ。そのカードは」
「あ〜‥‥両親がさ。年末年始はドイツの邸宅に戻るから、顔を出せって」
「ほほぅ?」
その言葉に、レオンの目が興味深げに輝いた。
「そういえば、フィルゲン君の親御殿とは面識がなかったな」
「‥‥そうだっけ?」
「うむ。何かと、語らぬであろう?」
その言葉に腕組みをし、眉根を寄せてフィルゲンは真剣に考え込む。
「そういえば、そんな気もする」
「ああ、一つ聞いておこう。親御殿は、親日家であるか?」
「ん? 普通に、スシバーでスシを食べる程度には」
「また、よく判らぬ基準であるな」
今度はレオンが腕組みをし、その様子にフィルゲンは嫌な予感を覚える。
「もしかして‥‥今年はウチで、『日本の正月』がやりたいとか言う?」
嫌そうな質問に、我が意を得たりとばかりにレオンがにんまりと笑んだ。
「同然。息子がどのような仕事をしておるか、親御殿にもしっかと見てもらわねばな」
「ぎゃぁぁぁぁぁ〜っ! 本気かぁぁぁぁぁぁぁ〜っ!?」
相棒の叫びを他所に、楽しげにレオンは自室のパソコンへと向かった。
そして、『関係者諸氏』にメールが届く。
今年はフィルゲンのたっての願いで、彼の両親と共に日本流の正月を過ごそうという−−。
●リプレイ本文
●家庭訪問
『お邪魔しまーす!』
ネッカー川を望む高台にある小さな邸宅に、明るい声が響く。
「やぁ、皆の衆。遠路ご苦労で‥‥うぼっ」
さも主賓の顔で迎えたレオン・ローズを、背後からフィルゲン・バッハが張り倒した。
「ごめんよ。今年も最後まで、レオンの我侭につき合わせて‥‥」
「今から日本に帰っても、帰省ラッシュに巻き込まれまくるだけやし。誘ってもろて、逆に有難いですわ」
蕪木ラシェイル熊三郎萌(fa4042)が笑顔で軽く会釈をするが、その一方でCardinal(fa2010)の表情は冴えない。
「今更だが、俺も来てよかったのか? 二人の仕事には、関わってないが‥‥」
「その辺は、気する事もない。レッド君とはナローボートの時や、夏のチャリティ・イベントなどで、世話になったからな。最近はフィルゲン君の『厄介事』にも、手助けしているようであるしな」
早くも立ち直ったレオンが、腕組みをして一人頷いた。
「皆さん、寒かったでしょ。さぁ、火の傍へどうぞ」
リビングから、金髪の中年女性が一行を呼ぶ。その暖炉の傍らでは、白い髪の中年男性が客人達を待っていた。
「初めまして、お招き有難うございます。フィルゲンさんとは、いつも楽しくお仕事をさせていただいてます」
「ええ。いつもお世話になってます」
緊張気味の羽曳野ハツ子(fa1032)とは対照的に、笑顔で深森風音(fa3736)が続く。更に、ベス(fa0877)も「お世話になります!」と元気よく頭を下げ。
「今回はドイツのバッハ家で、日本のお正月を紹介したいと思います! バッハ家は音楽関係の仕事をされているご両親と、長男のフィルゲン君の三人家族で‥‥」
何故かそのまま、テレビのレポートモードに入るベスに、御堂 葵(fa2141)がくすくす笑う。
「ベスさん、今日は『世界祝祭奇祭探訪録』のお仕事じゃないですよ?」
「ぴよ? そうだっけ」
「雰囲気は似てますけど、カメラないですし」
そういう問題ではない気がする問題をセシル・ファーレ(fa3728)が指摘し、ウルフェッド(fa1733)は鞄を軽く叩く。
「カメラなら、ここにあるぞ」
「皆して、レポートしなくていいから‥‥ヤエル君は、気になる事でも?」
脱力気味で辞退するフィルゲンは、興味深げにきょろきょろと辺りを見回す月居ヤエル(fa2680)に気付く。
「いえ。フィルゲンさんには、専任メイドさんがいるって聞いたので」
「ハウスキーパーは出入りするけど、うちは普通の家庭だから‥‥ね?」
好奇心に満ちたヤエルの返事に、フィルゲンは力尽き。
「そうそう、人生の先輩としての忠告だが‥‥両親に紹介したりとかは、よーく考えてからしろよ、まだ若いんだしな」
ぼそりとウルフェッドが呟く『忠告』が、更に追い討ちをかけた。
●穏やかな年越し
「味はこんな感じで‥‥どうかな?」
「ええ、いいお味ですね。それにねじり梅人参なども、ちゃんと‥‥お上手なんですね」
「そうでもないよ。ちょっと、歪んじゃったしね」
和やかな言葉を交わしつつ、キッチンで風音と葵が『正月料理』の準備に勤しむ。
出来上がった料理は、ヤエルが重箱へと丁寧に彩りよく詰めていた。
「日本の料理は、とても繊細で綺麗よね。まるで、絵画みたい」
呟きつつ、料理を運ぶヤエルの箸を夫人はしげしげと眺める。
「あの、お母さんも並べます?」
見物される側のヤエルが箸を差し出すものの、夫人は首を横に振り。
「折角の色彩を壊すのも、悪いもの。私なんかこう、ドーンと作って、バーンと皿に乗せるだけだから」
悪戯っぽく肩を竦め、小さく舌を出しておどける女性に、ヤエルは笑顔をみせて、また作業に戻‥‥ろうとして、手を止めた。
好奇心に満ちた視線が、チクチクと刺さる。
「じゃあ‥‥セシルさん、やってみる?」
「うん!」
じーっとヤエルを見つめていたセシルは、満面の笑みで頷いた。
「日本の年末の恒例行事なら、紅白に分かれての歌合戦‥‥とか、あるそうだな。それにちなんで、皆で派手な衣装で唄うのはどうだろう」
「それなら、赤組が女性で白組が男性になるけど‥‥このメンバーだと、赤組が有利よねぇ」
Cardinalの提案に、ハツ子がぐるりと一同の顔ぶれを見回す。
「ぴ? Cardinalさんも、唄うの?」
期待に目を輝かせるベスに、「むぅ」と低く唸るCardinal。
「これ、持っててくれへん? それから、出場辞退したらあかん?」
テレビの上のくったりした熊のヌイグルミをCardinalへ預けた蕪木が、質問しながら日本から取り寄せた真空パック式の鏡餅を飾る。
「僕も、専門外だし‥‥レオンはそれ以前に唄わせない方が‥‥」
「なんだとーっ!?」
フィルゲンの警告にレオンが抗議の声を上げ、息子と友人のやり取りを父親は楽しそうに眺めて。
「なんか、戦う前から勝負が見えた気がするな。それより、盛り上げ役にこういう物を用意したんだが」
客室へ自分の荷物を取りに行っていたウルフェッドが、ビデオテープ片手に戻ってきた。
「蕎麦が茹で上がったから、手伝ってくれるかな」
2006年も残すところ僅かとなった頃、風音が雑談に興じる暇そうな者達へ声をかける。
手分けをして、瞬く間に年越し蕎麦が食卓のテーブルに並んだ。
「一年ぶりのアレであるな」
楽しげに、レオンがフォークを握る。
「ウドンは知っていたが、ソバはまた違うものなんだね」
興味深げなバッハ氏は、下手ながらも箸に挑戦し。
「じゃあ、これの出番だな」
ウルフェッドがビデオを再生させれば、深々と雪の降る光景に「ごぅん」と重い鐘の音が響く。
「ソバの早食いのゴングですか?」
「‥‥なんで、そうなるんや」
セシルの素朴なボケに、思わず蕪木がツッコミを入れる。
「あの鐘は除夜の鐘といって、人間が持つ108の煩悩を払うんだ。そして、清い心で新年を迎える‥‥という訳だ」
ウルフェッドの説明に、レオンは隣の相方を見。
「108‥‥で、足りるのか?」
「その台詞は、鏡を見ながら言ってくれ」
「二人とも、今年の最後まで相変わらずね」
交わされる会話に笑いながら、ハツ子も蕎麦を啜り。
日本の年末年始の風景をウルフェッドが特別編纂したビデオを見ながら、バッハ家は穏やかに年を越した。
●お正月を楽しもう
「葵さん、風音さん、手伝って下さい〜っ」
正月早々、セシルが二人へ泣き付きに行く。
「あらあら、大変‥‥ちょっと待って下さい」
「葵さん、私も手伝うよ」
セシルを挟んで忙しい二人へ、ヤエルも遠慮がちに声をかける。
「よかったら、私の方も見てもらえないかな‥‥上手く出来たか、心配で」
「ええ、いいですよ」
笑顔で、葵はヤエルの『用件』も手伝い。
「あたしも、あたしも〜!」
それに、ベスが賑やかに加わった。
「なんだか、女性方は慌ただしいようだね」
まだ眠そうに階段を降りてくる息子へ、母親が笑いながら珈琲を淹れる。
「女性は、色々と忙しいものなのよ」
「ふぅん?」
暖かいカップを手にほっとフィルゲンが一息ついたところへ、玄関の扉を開けて重装備のCardinalが入ってきた。
「まぁ、おかえりなさい。寒くなかった? 珈琲を淹れるわね」
コートを脱ぐCardinalへ声をかけた夫人は、返事も待たずにカップを用意する。その彼へ、珈琲片手にフィルゲンが歩み寄った。
「えらく早いね。外、行ってたんだ」
「近くの山まで、初日の出を拝みに行っていた」
「山って‥‥僕らが寝てる間に?」
「ああ。清しい一年の始まりだった」
フィルゲンが眼を瞬かせる一方で、Cardinalはどこか晴れ晴れとした表情で語った。
『あけまして、おめでとうございます』
男性陣が寛ぐリビングへ、声を揃えて六人の娘達が現れた。
平時も和装が多い葵や風音は勿論、慣れた二人に着付けを手伝ってもらったセシルとヤエル、ベスも着物で纏めている。
「では、お雑煮の仕上げをしてきますね」
「私も手伝うわ。着物、大変でしょ」
キッチンへ向かう葵の後を、ハツ子が追う。
「じゃあ、僕はお屠蘇を‥‥未成年の人は、ジュースやけど。それから、CDデッキか何かあるかな」
準備を始めつつ蕪木が尋ねれば、「取ってくるよ」とフィルゲンも席を立った。
やがてテーブルにはお屠蘇とお雑煮、そしておせち料理が並び、BGMには尺八のCDが流れる。
「日本流の新年の迎え方というのは、慎ましやかで厳かだな」
杯を傾けながら、バッハ氏は夫人と共に異国情緒を楽しんでいた。
「じき、賑やかになると思うけどね。それにしても美味しいね、このお雑煮」
雑煮を堪能する風音の言葉通り、迎春の静けさは後でがらりと趣を変える事となる−−。
「新春心機一転という事で、書初めなど如何でしょう」
墨と筆と半紙を用意した葵が、にっこりと笑んだ。
「‥‥漢字で?」
「無理でしたら、英語などでもいいですけど」
小首を傾げるセシルへ、葵は筆を差し出す。
「そうだね。レオンは漢字書けないし。僕も、読めるけど書くのは難しいし」
「それ以前に、筆を使うこと自体が‥‥難しそうかも」
フィルゲンの言葉に、ヤエルは真新しい筆で不思議そうに遊ぶレオンへと目を向けた。
「じゃあ、まずは私からお手本でも」
こほんと一つ咳払いをして、ハツ子が筆を取る。
そして、ダイナミックに筆を走らせて。
満足げに彼女が筆を置くと、白い紙の中央に大きく一文字『和』と書かれていた。
「どんなに優れた人でも、一人で番組を作る事はできないわ。そんな当たり前の事を再確認しつつ、2007年が飛躍の年としながらも、原点回帰を忘れない心構えよ」
胸を張るハツ子に、「ほぅ」と感心した風の声。
「じゃあ‥‥私は、これかな」
続いて風音が、さらりと筆を運ぶ。
書き上がったのはハツ子と同じく一文字で、『好』であった。
「好きな事を、好奇心を持ってやりたいな‥‥と思ってね」
「そうね。好きこそ物の上手なれとも、言うわね」
腕組みをして、感心した様に頷くハツ子。
「シンプルに纏めましたね。私は、お恥ずかしながら‥‥」
静かに筆を置いた葵の半紙には、『悠々自適』の文字が。
「‥‥年に、似合いませんよね」
「そうかしら。落ち着いた葵さんらしいと思うわ」
苦笑気味の葵に、ハツ子が笑顔を返す。
「今年の抱負なら、僕はこれやろか」
悩みながらも蕪木が丁寧に書いたのは、『十分前行動』。
「やっぱ、仕事の基礎やしな」
「敬虔な心がけであるな」
大仰に賞賛するレオンへ、フィルゲンは「自分も見習え」と言いたげな微妙な表情で。
「あたしはこれ!」
ビシッとベスがつきつけた紙には、元気よく『お年玉』の字が躍る。
「くっ‥‥悪魔の三文字がっ!」
たじろぐレオンに、誰もが笑い。
「そうだね。後で、用意しないと」
「はい」
風音と葵は、意味ありげに視線を交わした。
「あ。でも、目標はこっちね!」
もう一枚、『上達』と書いた紙もテーブルに広げる。
「演技とか音楽の方とかも、いろいろと上手くなりたいなーって」
楽しげに語る者達を、ウルフェッドはカメラに収め、セシルはデジカメのシャッターを切った。
コロンと、ダイスがボードの上を転がる。
出た目の数だけ駒を進めて、止まったマスの文字に注目が集まった。
「‥‥氷のカケラを、背中に入れる」
「なんだとぉぉぉ〜っ!?」
読み上げた風音の言葉に、レオンが絶叫し。
「は〜い!」
「ちょっ、待ったベス君! そのサイズは、カケラじゃないぃぃ〜っ!」
レオンの抵抗も意に介さず、ベスは手にした大き目の氷をその背中へ放り込む。
悶絶している一人を放って、他の者達は順番を次へと回した。
盤のマスに書かれた内容は、普通のものから「全員にお茶を入れる」「一人だけ美味しいお菓子を頂く」「フィルゲンをもふる」「レオンの写真を使った福笑いに挑戦する」といった個人的な趣向に「駆け足で邸宅の周りを一周する」ハード系、「右隣の人の頬にキスをする」恥ずかしい系まで、実にバラエティに富んでいる。
戦々恐々としながらも、順番がくればダイスを転がし。
『気力と体力勝負』な戦いの結末は、一番にゴールしたベスが勝者となり。レオンが『賞品』と称して、巨大クラッカーを授与した。
●贈り物
ハードな双六が終わった頃。夫と夫人は、色とりどりの包みを用意していた。
「楽しい新年を迎えられた事だし、私達からも『お年玉』をと思ってね」
笑顔と共に、夫人は一人一人へ包みを渡していく。
蕪木には、ライター。
ウルフェッドへは、ハードワーク向きなジャケット。
Cardinalはシルバーピアス‥‥と、何故かテレビの上にいた、くったりした熊。
そして風音がショール、葵はニットのカーディガンを。
着物姿の熊のヌイグルミを抱いていたセシルには、白くまの大きめなヌイグルミを受け取り。
「お年頃の女の子は、こういうお洒落もしなくちゃね」
楽しげに主張する夫人は、ヤエルとベスに女性用の下着を進呈し。
そしてハツ子にも、包みを手渡した。
賑やかな『お年玉品評会』の中で、フィルゲンは別の包みをハツ子へ差し出す。
「フィルも、お年玉?」
「というか、クリスマスのお礼というか‥‥ほら。君の誕生日、12月31日だろ」
包みを解けば、暖かそうなマフラーが現れて、ハツ子の表情が綻ぶ。
「ありがとう。それから、あけましておめでとう。今年も宜しくね、フィル」
「こちらこそ、よろし‥‥げぶっ」
「そこ、ひっそり収賄するでないっ!」
先の仕返しとばかりに、レオンが相方の後頭部を張り倒し。
「む? もしや、取り込み中であったか?」
今さら気付いたらしいレオンに、ハツ子は思わず笑い出した。