エピファニー〜公現祭ヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 なし
参加人数 10人
サポート 0人
期間 01/06〜01/09

●本文

●降誕節の終わり
 1月6日は、キリストが人々の前で神性を表した事を記念する『エピファニー』の日である。
 降誕節の始まりであるクリスマスに対し、この日は降誕節の締めくくりの日とされ、6日までにクリスマス飾りを片付けなければ、魔女が家にやってくるという説もある。
 地方や宗派によって祝う由来や名称、習慣に多少の違いはあれど、この日は『第二のクリスマス』とも呼ばれている。

 その日。イルマタル・アールトは、妙に積極的だった。
「クリスマスも新年も、お祝いが出来なかったので‥‥誕生日を祝っていただいたお礼も兼ねて、エピファニーに招待したいんです」
 ぐっと握り拳で無駄に気合の入った訴えに、中年男のマネージャーは目を何度か瞬かせる。
「そりゃあ‥‥別にいいんじゃねぇ?」
「でもですね。イナリの家は雪深いですし、いつも寝袋で転がってお話してっていうのも‥‥楽しくはあるんですけど、ちょっと申し訳ないかなって思うんです」
「だが‥‥あの家に、あれ以上のベッドを入れるのはなぁ」
 微妙な苦笑を浮かべるマネージャーに、イルマタルはこっくりと頷く。
「ですので、もう少しこう‥‥楽しんでもらえる所でと、思ったんですが。あまり‥‥イナリ以外は、詳しくないものですから」
 心もとない表情で、彼女は言い辛そうに切り出した。
「じゃあ、スタンダードにロヴァニエミがいいんじゃないか? 交通の便もイナリよりはいいし、サンタ村やスキー場もある。観光客はそれなりに多いだろうが、郊外のサウナ付の大型コテージでも借りれば、賑やかにやれるだろう」
 煙草の煙を吐きながらのマネージャーの提案に、少女は顔を輝かせ。
「そうですね‥‥ありがとうございますっ」
 ぺこりと勢いよく一礼をして、携帯電話を取り出す。
 都合伺いでメールを出すつもりらしいが‥‥相変わらず、打ち込みのスピードは素晴らしく遅く。
「俺が、パソコンでメール送ってやろうか」
 遅々とした様子に見かねたマネージャーは、肩を落としつつ申し出た。

●今回の参加者

 fa0124 早河恭司(21歳・♂・狼)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa1412 シャノー・アヴェリン(26歳・♀・鷹)
 fa1814 アイリーン(18歳・♀・ハムスター)
 fa2010 Cardinal(27歳・♂・獅子)
 fa2141 御堂 葵(20歳・♀・狐)
 fa2457 マリーカ・フォルケン(22歳・♀・小鳥)
 fa2670 群青・青磁(40歳・♂・狼)
 fa3736 深森風音(22歳・♀・一角獣)
 fa4832 那由他(37歳・♀・猫)

●リプレイ本文

●東方より来たる?
 北極圏より8km南のロヴァニエミ。
 太陽が姿を見せる短い時間を補うかの如く、コテージは暖かなイルミネーションで飾られていた。
「イ〜ルマっ♪ 呼んでくれて、ありがとねっ!」
 暖かいコテージへ飛び込んだベス(fa0877)が、荷物を放り出して真っ先に友達へ飛びつく。
「はい、お久し振りです」
 抱き着かれつつ、イルマタル・アールトは笑顔で答えた。
「明けましておめでとうございます、イルマさん。ベスさんは‥‥随分と大きな荷物ですね」
 お辞儀をした御堂 葵(fa2141)は、自分の身長より大きなベスの荷物に驚く。
「ぴ? 中は‥‥内緒〜♪」
 誤魔化すベスは、重そうにソレを部屋の片隅へ引き摺っていった。
「‥‥勝手に開けると‥‥きっと、世にも恐ろしい事が‥‥起きるのです‥‥」
「そんな、物騒な物でもないだろう?」
 ぽつぽつと呟くシャノー・アヴェリン(fa1412)にイルマの表情が少し強張り、見かねたCardinal(fa2010)がフォローを入れる。
「‥‥はい‥‥軽い冗談です‥‥」
 安堵するイルマに、深森風音(fa3736)はくすくす笑った。
「真顔で言ってたら、本気にするよね。今日はお招き、ありがとう」
「いえ。お忙しいのに、ありがとうございます」
 改まって頭を下げるイルマの髪を、くしゃくしゃと早河恭司(fa0124)が撫でる。
「こちらこそ、お誘いありがとう。年越しまで仕事してたし、思いっきり楽しませてもらうよ」
「新年おめでとう、イルマ。えっと、ひゅ‥‥ヒュ‥‥Hyvaa uutta vuotta‥‥かな? 三博士じゃないけど東方から来たわよ〜♪」
 慣れぬフィンランド語を披露するアイリーン(fa1814)へ、少女はまた「はい」と答える。
「素敵な御友人ばかりね。アールトさん、どうぞ宜しく」
 穏やかな笑みで見守っていた那由他(fa4832)が会釈をすれば、照れながらイルマは返礼した。
「初めまして。今日はありがとうございます。あの、私の事はイルマと‥‥呼んでいただければ」
「そう? では、そうさせてもらうわね、イルマ」
「そういえば、初見の方もいらっしゃいますね。お初にお目にかかります、マリーカと申します。どうぞ、よろしく」
「わん♪ ‥‥じゃなくて、よろしくな」
 一礼するマリーカ・フォルケン(fa2457)に、何故か群青・青磁(fa2670)は軽いノリを返し−−慌てて、挨拶を訂正した。

●子供は雪の子
「一つ、聞いていいですか?」
 旅の荷を解き、誰もが落ち着いたところで、シャノーがイルマへ切り出した。
「‥‥ロヴァニエミを復興させた‥‥アルヴァル・アールトですが‥‥イルマと同じ姓なのですね‥‥。こちらでは、よくある姓なのでしょうか‥‥?」
「そうですね。Aaltoには『波』という意味がありますから、海や大きな湖の近くだと多いかもしれません」
「‥‥波、ですか‥‥」
 呟いて、思案するシャノー。そこへ、ぱんぱんと那由他が両手を叩く。
「さて。昼の時間は短いんだから、折角のお日様がもったいないわ。夜の準備はあたしに任せて、子供達は外で遊んでらっしゃい。ほら、あんたも一緒に」
「でも‥‥お呼び立てしたのは私ですし、ナユタの方こそゆっくり‥‥」
 遠慮がちながらも渋る様子のイルマに、那由他はにっこりと笑い。
「あたしは、身体を動かしてる方が落ち着くのよ。ほら、仲良くお行きなさい」
「あの‥‥っ」
 若く見えるが、妙に言動に貫禄がある彼女に背を押され、友人達と外へ放り出される。
「‥‥どうしましょう」
「そうね。折角ですし、ご好意に甘えて遊びましょう」
 困った顔のイルマへ、白い息を吐いて葵が誘い。
「雪を見てると、何だか1年前の「Allstar運動会」で、ベスさんと開会式の宣誓をしたのを思い出すわね。あの時、マイクの前でクシャミしてディレクターに睨まれてたよねー」
「そうだね!」
 アイリーンとベスは、既にサラサラの雪を散らして走り回っていた。

「そういえば、こっちの雪だるまは三段だっけ? 大変だし、二段にしようか」
 湿度が低い為に固まり難い雪へ軽く水を含ませ、手袋をした手で恭司が雪を握っていた。
「でも二段では、足がありませんわよ? 上から頭、胴体、足ですから」
 ぎゅむぎゅむと雪を丸めるマリーカが、『欧州流』の三段雪だるまの構成を説明し。
「なるほど。となると足ナシの二段では、少しばかり猟奇的になる訳だね」
 感心しながら、風音も雪玉を作り始める。
「せんせーこーげきー! えーいっ!」
 手早く作り上げた数個の玉を、ベスがまだ雪を丸めるメンバーへ投げ。
 それらはシャノーや、大きな体躯で的になりやすいCardinalへ当たって砕けた。
「‥‥射的の腕なら‥‥負けません‥‥」
 当たった雪もそのままに、ゆらりとシャノーが立ち上がり。
「ぴや〜っ、冷たいぃ〜!」
 正確無比無情な雪玉が、正確にダメージの多い箇所−−すなわち、頭や襟元といった、肌が冷気に晒されている辺りにぶつけられ、ベスは慌てて恭司の影に隠れる。
「ベスっ、こっちにきたら俺にも被害が‥‥って、ちょっと待っ‥‥!」
 急いで距離を取ろうとするも、時既に遅く。
 Cardinalが無造作に放り投げた雪玉(複数)が、ぼこぼこと恭司へぶち当たった。
「ぴ。ゴメンね、恭司さん☆」
 半壊した恭司に、ぺろりと小さく舌を出して謝るベス。
「くっ‥‥何か仕掛けてくるならアイリーンだろうと思ったのに。いいけどよくないって言うか、この雪玉、何でこんなデカい上にぎっちり硬いんだっ」
 目論見の外れた恭司は、とりあえずCardinalへ反撃する。
「どうして、ソコで私なのよっ」
 更にアイリーンが雪を投げて、恭司へ抗議する。
「だけど、Cardinalさんは避けないタイプなのね。格闘家さんだから、ひょいひょい避けるのかと思ってたわ」 
「そうですね。夏の番組でトマティーナをレポートした時も、豪快に的になっていましたから‥‥」
 夏の記憶を思い起こしながら、楽しそうに葵が答える。
「なるほどね」
 頷くアイリーンの視界に、ふと無防備な友人の背中が入り。それに気付いた葵へ、彼女は人差し指を立てて内緒という素振りをした。そして、そのまま足音を忍ばせ‥‥。
「隙ありっ」
 気取られぬよう接近したアイリーンは、すくった雪を風音の首筋へサバッと投げた。
「ひゃっ‥‥アイリーン! 寿命が縮まったよ‥‥」
「あはは、ゴメンね〜!」
 身を竦めて振り返った風音へ、アイリーンは満開の笑顔で謝るが。
「ダメ。許さないから、覚悟はいい?」
「よくないわっ」
 彼女とは別種の笑顔で迫る風音に、アイリーンは逃げ出す。
「あら。皆、張り切ってるわね」
「那由他さん。油断していますと、ぶつけられる一方ですわよ」
 飛び交う雪玉の中から、マリーカが手招きした。
 雪原に雪が飛び交うたび、賑やかな声が響く。
 それを聞きながら、そろそろ年齢的にいろいろとキツい群青は、暖炉の傍で暢気に一つ欠伸をした。

 日が落ちると、一行はボードや板を手に−−持参していない者はレンタルして、ライトアップされたゲレンデへと繰り出す。
「‥‥良い雪です‥‥」
 目を細めるシャノーは、黙々とスノボでの滑りに打ち込み。
「もし、スキーが得意でしたら、教えてもらってもいいですか」
 板をつけた葵の言葉に、イルマは目を丸くする。
「え、私が‥‥ですか? でも、もっぱら『歩き』ですから、高い場所からやスピードのある滑りといった感じのものは、あまり‥‥」
「ええ、いいですよ。私も、スキー経験は少ないんです」
 にこやかに葵が返事をし、雪合戦とは別の意味で雪と戯れながら、銀世界を堪能した。

●王冠ケーキを囲んで
 夕食の時間になれば、一日を遊んでお腹を空かせた者達がテーブルを囲む。
 那由他やイルマが用意した料理に加え、中央には王冠を載せた丸いケーキ『ガレット・デ・ロア』がデンと鎮座している。
「それじゃあ、あたしがケーキを切るね!」
 既にケーキナイフを手にしたベスが、切り分け役の立候補をした。
「分けるのは、あたしがしてあげるよ」
 人数分のケーキ皿を、那由他が用意する。
「うん。11人分に切るから、皆で一つずつね! アタリ、コッチかな。それとも、アッチかなぁ‥‥」
 それなりに均等になるようケーキがカットされ、順番に皿に盛られる様子を割と真剣な表情でベスが追った。
「小さな陶製の人形が入っていたら、アタリなんだよね」
 自分の皿を取った恭司は、ケーキの断面を観察し。
「皆一緒に、食べ始めようか」
「そうね。誰に当たるか、楽しみ〜」
 風音がフォークを手に取り、ケーキを前にしたアイリーンは嬉しそうで。
「では、いただきますわね」
 全員に行き渡ったのを確認してから、マリーカはケーキに手をつけた。
「‥‥これは‥‥美味しいです‥‥」
 嬉しそうなシャノーは、ゲーム云々より前に純粋に味を堪能している。
 少しずつ口へ運んでいく者。無造作にフォークを指す者と、その様子も様々で。
 そんな中、フォークに硬い手ごたえを感じる者が一人。
 注意深く手ごたえを探って行くと、皿に小さなフェーヴ(そら豆をモチーフとした陶器人形)が転がり出る。
「‥‥どうしましょう‥‥当たってしまいました‥‥」
 淡々とした表情に少し笑みをにじませて、シャノーがフェーヴをフォークでつつく。
「おっめでとー♪」
 バ ン ッ ッ ッ !!
 ベスが紐を引けば、全長3mの巨大なクラッカー『満漢全席』が大きな音を立てて炸裂し。
 256色のカラフルな色テープが美しい曲線を描いて、空間を一瞬、鮮やかに染め上げる。
「これまた‥‥凄いな」
 色テープの海で呆気に取られたように、群青が呟き。
「シャノーさん、おめでとうございます」
 紙の王冠を、イルマがシャノーへ手渡した。
 王冠を被ったシャノーは、王妃を気取るかの様に悠然と椅子へ座り直す。
「おめでとう、シャノ。それで、『女王様』の最初の命令は何かしら」
 わくわくと期待に満ちた目で、アイリーンが友人へと問えば。
「‥‥ガレット・デ・ロワを‥‥」
「‥‥はい?」
「‥‥もう一つ‥‥皆で食べましょう‥‥」
 ケーキ好きの女王様は、うっとりとそう命じた。

「これで当たったら、もう一人王様が誕生するのかしら」
 急遽追加されたもう一つのケーキを前に、冗談めかすマリーカ。
「シャノーさんが女王様でいいんじゃないかな。食べ切るの、大変だし‥‥量的にもまた、シャノーさんになりそうだよ」
 ケーキが主食かと思えそうなシャノーの食べっぷりを、風音が見やった。
「あ〜あ、残念。折角、恭司さんにトナカイ鼻を付けて、シャノーに写真を撮ってもらおうと思ったのに‥‥」
「‥‥いいですね‥‥それ‥‥」
 残念そうなアイリーンの言葉を聞きつけて、青い瞳がきらりと輝き。
「やるの? 女王様」
 その反応に笑いつつ那由他が改めて問えば、おもむろにシャノーは愛用のカメラを持ってくる。
「待った。命令を吹き込むのは、アリか?」
「ぴ? でもシャノー女王様、撮る気まんまんだよ?」
「よね」
 慄く恭司へベスがすこぶる笑顔で小首を傾げ、アイリーンはワンタッチ式トナカイ鼻が仕込まれた眼鏡を手に迫り。
「イルマも見たいよね? トナカイよ、トナカイ」
「え‥‥あの‥‥」
 迷っているのか、頬を染めながらイルマは返事に窮していた。
「ふふ。観念した方が、よさそうですわよ」
 面白そうにマリーカが頬杖を付き、Cardinalがのそりと席を立つ。
「では‥‥手伝うか」
「Cardinalまでっ!」
 四面楚歌な恭司に、どうやら逃げ場はなさそうだ。

「エピファニーの名は、日本ではほとんど聞きませんでしたが‥‥楽しいですね。誘ってくれて、ありがとう。イルマさん」
 ああだこうだと騒ぐ一同を眺めて葵がイルマへ礼を言えば、少女は嬉しそうに微笑む。
「あの‥‥エピファニーのお祝いに、贈り物をしてもいいですか?」
 おずおずと尋ねるイルマに、那由他は首を傾げる。
「あたしは初対面だけど、いいの?」
「はい。これも、何かのご縁‥‥ですし」
 遠慮がちながらも、早速プレゼントの包みを持ってくるイルマの様子に、シャノーは目を細める。
「‥‥イルマは少し‥‥変わりましたね‥‥。以前は‥‥初対面の人に対して‥‥とても、引っ込み思案‥‥でしたが‥‥」
「ええ。そうですね‥‥」
 その成長に、どこか感慨深げに葵も頷く。ぐるりとテーブルを回ってプレゼントを配る少女は、やがて二人の元にもやってきた。
「受け取っていただけます? 流行や皆さんのお気に召す物かどうか、よく判らないですけど‥‥」
「もちろん、喜んで」
「‥‥ありがとうございます‥‥」
 まず男性三人が包みを解けば、違ったフォルムのサングラスが現れた。
 続くベスとシャノー、それにアイリーンにはそれぞれに帽子。那由他は、白鳥をモチーフとしたブローチ。マリーカへは、汎用性のある暖かなパーカー。そして風音には女性用サングラス、葵は瑞々しく暖かな春を思わせる香水の瓶を受け取り。
「なら俺も、これを皆に進呈しよう。人数分、作ったからな」
 おもむろに、Cardinalが蜘蛛の網のようなドリームキャッチャーを配り始める。
「これ、Cardinalが作ったのか。器用だな」
 感心した風に、群青が平べったい飾りを裏表に返し。
「ありがとうございます」
 不思議そうに見つめるイルマも、Cardinalへ礼を告げた。
「折角ロヴァニエミに来たんだし、明日は皆でサンタ村に行くのはどうかな」
「あ、賛成〜!」
「犬ぞりも、乗ってみたいかも」
 風音の提案に、次々と賛同の声があがる。
 そんな相談を楽しげに聞きながら、こっそりと那由他は空いた皿を片付け始めた。