Limelight:青年の主張アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
0.8万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
01/10〜01/12
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●本文
●Limelight(ライムライト)
1)石灰光。ライム(石灰)片を酸水素炎で熱して、強い白色光を生じさせる装置。19世紀後半、欧米の劇場で舞台照明に使われた。
2)名声。または、評判。
●ライブハウス『Limelight』(ライムライト)
隠れ家的にひっそりと在る、看板もないライブハウス『Limelight』。
看板代わりのレトロランプの下にある、両開きの木枠の古い硝子扉。
扉を開けたエントランスには、下りの階段が一つ。
地下一階に降りると小さなフロアと事務所の扉、そして地下二階に続く階段がある。
その階段を降りきった先は、板張りの床にレンガの壁。古い木造のバーカウンター。天井には照明器具などがセットされている。そしてフロア奥、一段高くなった場所にスピーカーやドラムセット、グランドピアノが並んでいた。
フロアには、控えめなボリュームでオールディーズが流れている。
ライトを抑えたカウンターで、音楽プロデューサー川沢一二三(かわさわ・ひふみ)は友人であり『Limelight』のオーナーである佐伯 炎(さえき・えん)と、グラスを傾けていた。
「おとそ機嫌も抜けてきたところで、新年一発目の本格的なライブなんだが」
琥珀色の液体に浮かぶ氷を揺らしつつ、佐伯が話を切り出す。
「そうだね。ニューイヤーライブっていうのも、特にやっていないし‥‥となると、新春イベントっぽく?」
「とも思ったんだが、ちょうど8日に『成人の日』があるだろ? んで、折角だから毛色を変えて『元青年の主張』とか『未成年の主張』といったモンでもやろうかと、思ってさ」
「で、佐伯も何か主張する‥‥と」
「しねぇよ。俺の主張はアレだ。お前の、俺に対する風当たりをもうチョイだな‥‥」
「という事は、アレだね。大声大会みたいに、日頃の憂さを晴らすイベント‥‥と」
「それ、主旨が違うぞ」
頭を抑えてぼやく佐伯に、川沢は楽しげにグラスを傾けた。
「まぁ、ソレは置いてだな。成人の日を絡める事も考えて、成人は入場料ナシとかな」
「それだと、厳しくないかい? 半額ぐらいに抑えるとかした方が、混乱にならなくていいと思うけどね」
「タダより高いモンはねぇか‥‥」
苦笑しながら、佐伯はぷかりと紫煙を吐いた。
●リプレイ本文
●初見と久闊(きゅうかつ)
「おはよーございまーす」
挨拶と共に事務所へ顔を出した珂鴇大河(fa4406)は、目を瞬かせた。
「あれ? 皆、まだ?」
「下のフロアにいるよ。初めての人もいるから、説明を兼ねてね」
シールドを束ねる川沢一二三に、大河は奇妙な表情をする。
「じゃあ‥‥」
その先を言いよどむ大河の視線を川沢が追い、「ああ」と苦笑した。
「僕らも、すぐ行くよ」
会釈で答えた大河は首を引っ込め、ソファでくすぶるLUCIFEL(fa0475)が溜め息をつく。
「どーも、今日は調子がイマイチだが。俺のファンの為に、頑張るか」
口説く相手がいない『愛の歌い手』は、憂鬱そうに立ち上がった。
「あれ、全部お酒ですか?」
「綺麗な色だよね。お店も素敵な感じだし!」
仲良くスツールに座るミズホ(fa4826)とあずさ&お兄さん(fa2132)−−今回のあずさはピンで、『お兄さん』は留守番である−−は、カウンターへ身を乗り出す。
「酒を使わないカクテルもあるから、後で作ってやるよ」
佐伯 炎の言葉に「本当?」と、『少女達』は目を輝かせた。
「いいな〜。俺、今日が誕生日なんだよね〜っ」
にこにこと期待の笑顔で、希蝶(fa5316)が佐伯へ主張し。
「おめでとうございます、希蝶さん。では、お祝いに剣山ケーキですね‥‥蝋燭は29本で」
加えて豊城 胡都(fa2778)も楽しげに佐伯を見やり、希蝶は目を丸くした。
「蝋燭29本?」
「ええ、楽しみです」
「楽しみなのはケーキか、剣山っぷりか?」
苦笑いの黒羽 上総(fa3608)へ、胡都は「どっちも」と当然の如く答える。
「あと、僕も成人式なんですよね」
物言いたげに付け加える胡都に、佐武 真人(fa4028)は倭和泉(fa5320)へ視線を向けた。
「そういえば、倭は成人式自体は去年になるのかね? うちの倅は今年だったが」
「はい。えぇと‥‥UNさん、佐武さん、珂鴇さん、今日はよろしくお願いします。マスターさんや皆さんも、よろしくお願いします」
緊張気味の和泉は一々丁寧に頭を下げ、「挨拶おわりっ」と満足げに息を吐く。
「うちのと一つ上の学年には‥‥見えないなぁ」
しみじみ呟く佐武に、UN(fa2870)がからからと笑った。
「ともあれ、良いメンバーだ。期待して、楽しいライヴになるよう頑張ろう」
「そうか、佐武は子持ちだったか」
禁煙煙草を咥えた佐伯に、佐武は肩を竦める。
「ああ。しかし、見渡せば同年代‥‥滅多にないな」
「なんか佐武に同世代だと言われると、妙に引っかかるのは気のせいか?」
UNは微妙な表情を浮かべ、ぽしぽしと佐伯が髪を掻いた。
「というか、川沢も若作りなクチだが‥‥」
「別に、作ってる訳じゃないけどね」
フロアに降りた川沢の含んだ言葉に、顔を引きつらせ。
「ギャーッ」
突然、悲鳴を上げた和泉は、がっくりとテーブルに突っ伏した。
「どうした。壊れたか?」
驚いて一瞬身を引いた上総が、和泉を突付き。
「エレキギター、忘れた」
涙ながらの告白に、大河がやれやれと嘆息する。
「仕方ねぇな。佐伯さん、借りれるか?」
「構わんぞ。しかしまぁ」
前代未聞だなと、佐伯は笑った。
●LUCIFEL〜REVEAL ALL OF YOU!
薄暗いフロアに、歓声が上がった。
パンチの効いたリズムの旋律が、スピーカーから流れ。
いつも通りにトップを切ったLUCIFELは、ステージを独占して右へ左へと動き、聴衆を煽る。
「 どんな惨めなときも笑う
とりあえず周りに合わせる
悪くもないのに謝ってばかり 」
スローなフレーズから、テンポアップし。
「 UNBELIEVE それでイイのか
自分隠し仮面被るのが大人なのか?
確かに在る魂 奮わせろよ
REVEAL ALL OF YOU!
REVEAL ALL OF YOU! 」
サビの後には、インターバルを入れて。
彼の主張は「退屈な大人になるな、退屈な大人のままでいるな」。
「 世間に流されなんとなく過ごす ニセモノばっかり並べて生きる
オレもオマエもアイツも 今この人生 一度きり
UNBELIEVE それでイイのか
夢や希望を捨て去るのが大人なのか?
確かに在る魂 響かせろよ
REVEAL ALL OF YOU!
REVEAL ALL OF YOU! 」
客を退屈させずに盛り上げて、LUCIFELが華やかに幕開けを告げ。
続いて、愛らしい二人組がステージを引き継ぐ。
●『TWINkle』〜Seesaw Heart
「やっぱり、コレ使った方がいいかな」
淡いピンク色のタブレット「澄み渡る声」が入ったポーチを、あずさは手にしていた。
「でも川沢さんも佐伯さんも、なくても平気って言ってましたし。あずささんなら、大丈夫ですよ!」
にっこりと微笑むミズホに励まされ、ポーチを置いたあずさは差し出された手を握った。
「『TWINkle』ですっ。私達の小さな『主張』、聞いてね!」
ステージへ出た二人は、オーディエンスに大きく手を振ってアピールする。
アップテンポでポップなメロディを、ミズホがエレキギターを奏で。
ライトの光が絞られ、ふっとステージが暗がりに包まれる。
「 綺麗なドレスを纏って 唇にはルージュ
ねえ 夜はまだまだ 始まったばかりでしょ? 」
曲のボルテージに合わせて、光が増し。
光が増すごとに、あずさがアグレッシブに声を伸ばす。
「 だけどあなたは一言 苦笑いして言ったね
「まだ早いんじゃないか」って 何よそれ!?
子供扱いしないで! こんな時だけ
私たちだってもう 立派なレディー 」
間奏を挟んで、再びライトが静かに陰り。
「 まだまだ夜は長いから もっと楽しみたいの
だからあれもこれも 我慢なんてできないわ
するとあなたは一言 呆れたように言ったね
「子供じゃないんだから」って 何よそれ!? 」
左肩にのみ白いリボンが付いた黒いドレスの裾を、ミズホが翻し。
白黒チェック模様のドレスのあずさが、精一杯胸を張る。
「 大人扱いしないで! こんな時だけ
私たちはまだまだ 夢見る少女
いつかは子供の自分にサヨナラする日が来るけど
今はまだ大人じゃないよ でも子供じゃないわ
子供っていうのもイヤだけど 大人っていうのもイヤなの
私たちそんなビミョウなお年頃
だって私は私だもん 」
大人と子供の境界線で揺れる『女の子ゴコロ』を、歌い上げて。
発展途上ながらも精一杯やり遂げた二人を、ライトの眩しい光と拍手が包み込んだ。
●『Burst mode』〜宜候
『TWINkle』と入れ替わりで、ステージ上の平均年齢が一気に上がる。
シンプルなシャツにパンツスタイルのラフな格好の四人の足元を、フットライトが青い光で照らし。
大河が合図を送り、ダンッ! と力強い音の圧力がフロアを吹き抜けた。
強く確かなリズムを刻む大河のドラムに、佐武がピアノで賑やかさを加え。
和泉がエレキギターでアクセントを入れて、UNがSHOUTを掲げて。
経験と経年によって磨かれた力強い声が、フロアに響く。
「 船出の朝を数えていくつ
丸太じゃ怖いな せめてボートで背水の陣さ 」
少し力を抜いたドラムワークに変わって、ピアノとエレギが掛け合う様に音を交わし。
おどけた様なニュアンスも混ぜて、鷹揚にUNは言葉をのせる。
「 曜日の海を泳いでいつか昼夜も逆転
ハタと気づいて 」
『 これはイカンよなあ 』
和泉が陽気に合わせれば、またドラムが弾ける。
「 決めてかかれば そもそも青い大広海
蛇行運転も気分次第で寄り道ナシの一直線
一に前進 二に前進
三、四はともかく 」
『 オールはどこだ 』
再び、UNと和泉が揃って声を上げ。
『先輩』ならではの味を利かせて、UNがぶっきら棒に唄い。
軽快にピアノの音が跳ねる。
−−『大人』は大変だけど、楽しくやってこう。
自分の行動に責を負い、舵取りは己次第だが、陽気に楽しむ事が進む力だと。
わざと、がなる様なニュアンスも混ぜて。
「 帆を張って 陽気に歌え
枕より先にピアノつみこんで
音が続く限り この旅は終わらない 」
言葉を追って、ドラムが駆け上がり。
エレギを弾く和泉もシールドが絡まない程度に飛び跳ね、危なっかしく駆け回る。
余韻を残さず、音を切り上げて。
鮮やかな印象を残して纏め上げた四人へ、歓声が響いた。
●『Blessed』〜REAL
そう広くないステージに、白や黒の布をかけた椅子やテーブルが並び。
胡都が紺、上総と希蝶は黒のスーツを纏って、進み出た。
「成人式な胡都に、誕生日の俺で祝事多いから『祝福されし者』って意味で、『Blessed』です! 他に幸せとか楽しいとか、音をBreathにかけたりで、生きてる、息するように音を奏でる‥‥そんな想いも込めて命名しました!」
干支のうり坊柄のタイを締めた希蝶が明るくMCを終えると、ステージは暗転した。
一本のスポットライトが、胡都のみを照らし。
すっと胸に空気を落とした彼は、ゆっくり言葉を切り出す。
「 僕はある日「大人」になった 」
それを合図に、緩やかなテンポで上総のピアノが滑り出す。
落ち着きながらもスタッカートな旋律に、希蝶のアコースティックギターと胡都のフルートが加わり。
音を絶やさないまま、希蝶は上総と口を開く。
『 背が伸びたとか歳を重ねたわけじゃなく
起こったのは小さな小さな心の変化
ずっと回り続けている地球から見たら
気付かないくらいだったでしょう 』
ヘッドセットマイクをつけた希蝶は、ギターを弾きつつおどけた風に布の間を歩き回り。
その足取りに合わせた様に、曲もテンポアップしてスウィングする。
『 小さい頃憧れてた大人の称号は
簡単に手に入ってしまったけど
期待して鏡を見ればいつもと変わらない顔
何が変わったの?
昨日までの自分と違う所を探す 』
布のかかったテーブルに腰掛けたまま、胡都のフルートが囀り。
希蝶の伸びやかで大らかな高音と、上総のしっかりとした低音が、ハーモニーを織り成す。
『 子供はnonstop 駆け上がり
大人はendless 歩んでいく
golelineは人それぞれ
ただそこに向かって進み続ければいい
途中にあるいくつもの扉
想いとともに打ち開け 』
声へ僅かに、郷愁の思いをこめて。
大人と子供の境界線の曖昧さと、それ故の戸惑いや新たな旅立ちを、三人は旋律で紡ぐ。
余韻を残して、音は去り。
ステージの後方より客席へと差し込む光が、三人のシルエットを浮かび上がらせて。
拍手と歓声の中で、それも静かにフェードアウトした。
●青年じゃなくても主張
「お疲れ様でしたー!」
ケーキや料理を囲んで、賑やかな声と共にグラスが打ち鳴らされる。
「もう俺、緊張して右手と右足が一緒に出てたー! 佐武さんが手を引いてくれなかったら、暗いトコでコケてたかもっ」
「そうか。ギター提げたままコケなくて、良かったな」
白状する和泉に、からからとUNが笑う。
「うん! えーとえーと、三人とも一緒にしてくれてありがとうございました! 楽しかった楽しかった! ぎゃー、大好き!大好き!!」
叫びながら突撃する和泉を、慣れた様に回避するUN。
「抱きつくなっ」
「え〜っ! UNさんがいぢめる〜!」
UNに逃げられた和泉は、佐武へ抱きついて訴え。笑いながら、佐武は和泉の頭を撫でる。
「転ばなくて、良かったな」
「うん!」
「和泉さんって、面白いね〜」
「うん。未成年はもうすぐ帰らなきゃだけど、まだ楽しみたいよ」
「「ね〜っ」」
フルーツジュースのカクテル、サンドリヨンを手にしたあずさとミズホが、仲良く声を揃える。カクテルの名の如く、遅くまで打ち上げに参加できない二人だった。
「胡都は成人、希蝶さんはちょうど誕生日だし、二人へささやかながらプレゼントを持ってきたんだが」
楽しげに会話を見守っていた上総が、胡都と希蝶へ細長い箱を差し出す。
「ありがとうございます」
「え、俺にも? ありがとう!」
早速、二人が包みを解いて箱を開ければ、落ち着いた風合いのネクタイが姿を現した。
「こういったものはあって困るものでもないし、何より俺が他に思いつかなかったというか‥‥二人共、おめでとう」
再度、二人は上総に礼を述べ。
希蝶は何かを思い出して、鞄から白いフリルの付いた三角巾を引っ張り出した。
「店一周年の素敵噂を聞いたから、初Live記念に両氏に献上っ!」
何事かを確かめてから、希蝶は佐伯と川沢へそれを突き出す。
「炎、一二三、って夜鍋で二人の名前も刺繍したから、使って! 遠慮なく使って! あと胡都の成人式祝に、綺麗で美味しそうなカクテル。俺の奢りで!」
「うわぁ‥‥有難くねぇけどありがとよ」
川沢は困り顔で、佐伯はさも嫌そうにそれを受け取る。
「そうそう。俺は二人の主張、聞きたいねぇ♪ キキタイネ! 日頃どんな鬱憤が溜まってるのかとかさ。佐伯さんは川沢さんからの風当たり以外で〜」
にやにやと笑いながら聞くLUCIFELに、佐伯は渋い顔をし。
「川沢絡み以外で、文句があるかよ。強いて言えば、いい女がいねぇなーとか?」
「女絡みなら、俺も叫ぶぞ! 百万溜まったから結納しようぜ、俺のにゃんこーっ! 愛してるぞーーー!!」
既に出来上がっているのか、大河が握り拳で叫び。
「ああ、言っちまった‥‥くそっ、今から行くぜ俺のにゃんこ! お先に!」
「ここで主張するくらいなら、本人に言えば良いものを‥‥」
そのまま、猛ダッシュで階段を駆け上がる大河を、UNが笑って見送る。
「言っていいなら、俺も! 可愛い彼女がほしいー!! ギャー、言っちゃった!」
「言わずに後悔より、言って後悔だな」
和泉の主張に、妻帯者の佐武がくっくと笑い。
打上げと祝いが交錯した宴は、深夜に及んだ。