EtR:Wall Breakersヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 フリー
獣人 3Lv以上
難度 やや難
報酬 8.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 01/17〜01/20

●本文

●越えるべき『壁』
『オリンポス遺跡』第二階層の探索を阻む『壁』。
 トリモチのような粘性の高い物質で出来た『壁』の向こうには、まだ第二階層の空間が続いている。しかしその高い粘性のため、一般的な刃物類では刃の通りが悪く、切り裂いて進む事は容易ではない。
 その『壁』の周辺では、二匹のNWが蠢いていた。
 一匹は、壁の向こう側。もう一匹は、砂の中に−−。

「砂中に潜んでいたNWは、先の討伐で無事に撃破されました。ただ、戦闘の際に見受けられた‥‥『トラップ』と言うべきものでしょうか。砂の下に張られた、粘質の『膜』のようなものが、他にも残っていると考えられますので、注意して下さい」
 集まった者達へ説明をするWEA係員は、いったん言葉を切り‥‥そして、先を続ける。
「残った『壁』の向こう側のNWですが、砂の中にいた蜘蛛型NWと同様に鋭い錐状の足を持っている事が報告されています。おそらく、同種のNWではないかと予想されてはいますが、あくまでも想定範囲ですので、気をつけて下さい。この『壁』を修復するNWを倒せれば、後は『壁』の撤去となります。ただ、範囲が広い上に厄介な材質のようですけど、できるだけ全面排除をお願いしたく‥‥広範囲な空間の行き来できる箇所が狭いという事は、それだけそこに危険が集中しますし‥‥また、別のNWが塞ぐ可能性もありますので」
 しかし、それが困難な仕事だと判っているのか、係員の言葉も歯切れが悪く。
 それでも、それが誰かがやらねばならぬ事だけは、確かであった

●今回の参加者

 fa0614 Loland=Urga(39歳・♂・熊)
 fa0760 陸 琢磨(21歳・♂・狼)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa2010 Cardinal(27歳・♂・獅子)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa3126 早切 氷(25歳・♂・虎)
 fa3392 各務 神無(18歳・♀・狼)
 fa4468 御鏡 炬魄(31歳・♂・鷹)

●リプレイ本文

●壁は壊す為にある?
「いよいよ、か。あの『壁』の先に何があるか‥‥せいぜい、今までの労に酬いるものならいいがな」
 呟きながら、御鏡 炬魄(fa4468)は手帳にペンを走らせる。
「何があるとしても私達に後退はなく、先を切り開いて進むのみ‥‥です」
 前方の遺跡を見据えるイルゼ・クヴァンツ(fa2910)が、自身に言い聞かせるように淡々と言葉を口にした。
「ここで気分良く挽回して、前回手間取った分の遅れと借りを返すってトコだな」
 慣らすようにぐるぐると肩を回すLoland=Urga(fa0614)は、どこか楽しげににやりと笑みを浮かべる。
「血気に逸るのはいいが、生還が第一。任務より、自身の命だがな」
 釘を刺すような陸 琢磨(fa0760)にも、Lolandは様相を崩さず。
「言われなくとも。その辺は、百も承知しているさ」
 厚い胸板をドンと叩いて、胸を張る。
 やがて見えてきた遺跡の入り口に、各務 神無(fa3392)が赤い目を細めた。
「随分と久し振りに、足を運びましたが‥‥静かになったものですね」
 彼女がここを訪れるのは、探索当初の大掛かりな第一階層探索の時以来。
 こういった小チーム形式の探索となってからは、初めてになる。
「ところでさ‥‥」
 蚊の鳴くような声におもむろに振り返れば、早切 氷(fa3126)が一番後ろをよろよろと歩いていた。
「重いんだけど‥‥何で誰も、ヘルプしてくれないんだ〜っ」
「ぴよ? 遺跡の中に入るまでだから、ファイトだよっ!」
 握り拳を突き上げて、無邪気にベス(fa0877)が氷を応援し。
「‥‥いまチョット、ベスちゃんに殺意が芽生えた」
「ぴ〜?」
 恨めしげな氷に、笑顔で首を傾げるベス。彼女も同様に大荷物だったが、見かねたCardinal(fa2010)がパラディオンのような重い物を、肩代わりしていた。
「遺跡に入るまでは、獣化も半獣化も控えた方がいいからな。日頃のトレーニングが足らないなら、いいメニューを考えてやろうか?」
「いや、遠慮しとく。俺は、パワーファイターなタイプは向かないと思うし」
「あたしなんか、最近力こぶが付いてきちゃったよ‥‥か弱い女の子なのにぃ」
 しょげるベスは、自分の二の腕をむにむにと触り。
「そりゃあ‥‥毎回ベスちゃん、大荷物だしな」
「ぴぇ〜っ!?」
 妙にのどかな会話に苦笑しながら、炬魄は手帳をたたんで鞄の奥底に仕舞い。
 そして一行は、入り口の階段を降りた。

 第二階層は、相変わらず静寂に包まれている。
 かなりの数がいた飛行型の蟲の群れも、今ではその数を大幅に減らし。
 少数では太刀打ちできないと察しているのか、灯りを掲げて砂の上を歩いても、その羽音は遠い。
 それでも注意を怠らず、八人は砂の上を進んでいく。
 やがて前方を照らす灯りが、障害物を照らし。
 初見の者達は、くすんだ白い不気味な『壁』を眉を顰めて見上げた。

●足場固めと誘導作戦
 一列に並んだ者達が、手にした長物で砂を突く。
 砂中に潜んでいたNWが残した『トラップ』を探し、あれば潰していくのだが。
「なんか、こういうシーンってたまーにテレビで見るよな」
 カンテラで照らすLolandが苦笑いを浮かべ、火炎槍を突き刺すイルゼがぽそりと答えた。
「‥‥刑事ドラマか、何かで?」
「そうそう。川や池で遺留品を探す時の、アレ」
「ある意味で、遺留品か‥‥」
 見つけた粘質の『蓋』をCardinalが突き破り、残った穴を足で砂を集めて埋める。
 作業は最低限、戦闘で必要と思われる範囲に集中して行う事となっていた。
「蛍光スプレーなんかで、場所ココって目印じゃダメかなぁ」
 ライトブレードで砂を探りながら、ベスが提案する。
「砂に被って埋まったら、判らなくなるだろう。そもそも蛍光塗料は光などを受ける事によって励起を引き起こし、その結果として光を放つものだからな」
「ぴ‥‥ぴよ?」
 炬魄の説明を少女は大人しく聞くが、その表情に疑問符が飛び交っていた。
「‥‥判りやすく言うえばだ。自分で光らず、当てる光が届かなくても光らない。だから目印をつけても、気付く可能性が低いという事だ」
「そうなんだ」
 判ったのか判っていないのかよく判らないが、ひとまずベスは納得した風に頷き、また単調な作業に戻る。
「あとは、砂の小蟲が出てこなけりゃあ万々歳‥‥ところで、そこのオニーサン。暇?」
 背を伸ばす氷が、立ち塞がる『障害物』を眺める琢磨へ視線を投げた。
「いや。何か亀裂か、仕掛けでも見当たらないかと思ってな?」
「そもそもコレ、人工物じゃないし。ダークサイドならともかく、NWが手の込んだ仕掛けを作るとは思えないが」
「報告を聞く限りでは、この辺りのNWがそれ以上の知恵を持っているとは考え辛いですね。もしかすると、『壁』を作る事はダークサイドが命じたのかもしれませんけど」
 氷に続いて、神無が『仕事』の手を休めずに見解を述べる。
「という訳で、今は『壁』よりもこちらを手伝って下さい。人手が多ければ、それだけ早く作業が終わります。そして、私は早く一服したいんです」
「判っている」
 じーっと神無に睨まれた琢磨は、嘆息しながら水鏡の刃を抜いた。

 この『壁』の周辺には小型NWが少ないのか、砂中の蟲もあまり数を見せぬまま程なく『作業』は終わり。
「では、取り掛かるか」
 重い声で、Cardinalが『壁』を見上げた。
「いよいよ、ココからが本番だぜ」
 つなぎの袖を捲り上げて、Lolandはパキパキと指を鳴らし。
 全員の準備が整ったところで、『壁』の破壊に取り掛かる。
「どりゃぁぁぁっ!」
 氷やイルゼ、炬魄が、粘性に影響されにくい武器でまず穴を穿ち。
 気合を入れたLolandが、果敢にも『壁』を掴んで『引き伸ばす』。
 一方、ベスと神無、琢磨の三人は、あらかじめ決めた位置と方向で直線的に壁を切り開き。
「はぁっ!」
 左右と天面に切込みを入れた『壁』へ、渾身の力で拳を打ち込む。
 二種二箇所の攻撃で、『壁』がたわむ様に揺れ。
 そして、ソレは現れた。

●Breakers vs.Repairer
 弾力のある『壁』から、何の前触れもなく。
 ぞむっ! と鋭い錐のような足が、打ち込まれた。
「Lolandっ!」
 炬魄が鋭利な鎌モウイングを振るうが、刃が断ち落とすより先に足は引っ込み。
「手を放した方が、良くないですか? それとも‥‥」
 火炎槍を構え、次の襲撃に備えるイルゼが促すが。
「ああ。コイツの粘着力は、思った以上に強力なようだ」
 力を抜けば、反動でそのまま『壁』にベッタリ貼り付いてしまいかねず、熊獣人は引き摺られぬよう、砂の上で踏ん張っている。
「‥‥腕を落とすか」
「や、冗談もホドホドにネ?」
 ちゃきっと鎌を構え直す炬魄に、引き摺られそうなLolandを後ろから引っ張りつつ、氷がふるふると灰色の髪を振り。
「次が来る前に、『壁』を切り取りましょう」
 イルゼは、一番真っ当な案を出した。

 最初の襲撃を見た残る四人は、壁を突き破るペースを早めた。
 一番小柄なのはベスだが、たたんでも翼が断面に触れる可能性があり。
 従って次に体躯の小さい神無が、先んじてCardinalの作り出した『穴』を抜ける事となる。
「襲撃の阻止と、足止め程度でいい。頼んだぞ」
「判ってます」
 Cardinalの言葉に、白い尻尾を揺らす神無はするりと『穴』をくぐり。
「レッド、急げ!」
「判ってる」
 急かす琢磨へ答えながら、Cardinalは更に穴を広げにかかる

 壁の向こうのライトは、影絵のように向こう側の様子を浮かび上がらせるが、こちら側を明るく照らすには至らず。
 視界を確保するために、神無は灯り代わりにライトバスターをかざす。
 緊張で、肢体を覆う毛がざわりと逆立つような感覚が走り。
 耳をピンと立て、狩猟者の瞳で神無は辺りをうかがう。
 地上に、NWの姿はなく。
 かといって、壁に張り付いてもおらず。
 ソレは、上から降ってきた。

「くっそ〜、ベタベタするっ」
 二度目の襲撃がないまま、無事に『壁』から開放されたLolandが、手に残った粘り気をとりあえずつなぎに擦り付けて拭う。
「どうする。こちらに引きつけていない以上、Cardinal達に協力して向こうの穴を広げるか」
『壁』に警戒しながら炬魄が問えば、「そうですね」とイルゼも彼の提案に賛同した。
「神無が向こう側に抜けたようです。一人にしておくのは、まずいかと」
「そうと決まれば、さっさとぶち破るぜ!」
「あ〜‥‥今度は、素手で掴まないようにな‥‥」
 勢い込んでもう一方の仲間達へ向かうLolandの背へ、氷が小さく釘を刺した。

 初弾は、不意を打たれた神無は。
 続く二弾三弾を、その足捌きと跳躍力で回避する。
 音もなく飛来したトリモチのような物は、彼女の腕に絡んで動きを鈍くしたが、足はまだ自由だ。
 喉の奥で低く唸り、高い天井を見上げるが、『敵』の姿は目視できず。
 暗闇の中から落ちてくる粘質の塊を、神無はまた跳躍して避けた。

「よし、通れ!」
 漸く広がった『穴』を、CardinalとLolandが更に押し広げて仲間達を急がせる。
 先ず、小柄な者が。
 続いて、翼を持つ者達が『穴』をくぐり。
「先に」
「すまんな」
 年長者のLolandが先を譲られて、『壁』の残骸を跨ぎ越え。
 向こう側からLolandが『穴』を押さえる間に、一番最後のCardinalが向こう側へ足を踏み入れた。

「神無!」
「ヤツは、上に!」
 駆け寄ってくる者達へ、神無は何よりも先に状況を伝える。
「厄介だな‥‥天井に、張り付いてやがる」
 唯一薄闇でもある程度は目が利く氷が、天井を振り仰ぎ。
「叩き落すか。行くぞ、ベス」
「もっちろん!」
 蟲を叩き落すために、二人の鷹獣人が翼を広げて舞い上がる。
 その間に、氷は改めてパラディオンの結界を展開し。
 Cardinalは上の二人の助けとなるよう、あるだけのライトを全て天井へ向けた。
「じっと見てるのは性に合いませんね。私も、いきます」
 壁へ砂を撒いたイルゼが、ぐぅっと足を曲げて力を溜めて。
『地壁走動』の壁走りと『俊敏脚足』の瞬発力を生かし、放たれた矢の如く『壁』を駆け上がる。
 天井付近では、炬魄とベスがダメージを加えて、蟲を地面に落とそうとし。
 蟲は粘糸と岩へ突きたてた足で、岩肌にしがみつく。
 そこへ。
「てぇーいっ!」
『壁』を蹴ったイルゼが、勢いをつけて蟲へ飛びつく!
 背中に飛び掛られた蟲の身体が、天井から離れ。
 足の届かぬ背にぶら下がったイルゼが、蟲と共にゆらゆらと振り子のように宙を漂っていた。
「イルゼさんっ!」
「大丈夫ですっ」
 翼を打って近づくベスへ、イルゼが笑顔で答える。
 彼女と蟲を支えるのは、一本の太い粘糸のみ。
「落として下さい。私は、『壁』に取り付きます」
「判った。断つぞ、ベス」
 斧をかざす炬魄に、ライトブレードを手にしたベスが「はい!」と頷き。

 天井から繋がる蜘蛛の糸を、断つ。

 落下するNWを蹴って、軽やかな身のこなしでイルゼは『壁』に『着地』し。
 蟲は牙と爪と刃が待ち受ける地上へと、堕ちた。

 暗い中に、赤い炎が点る。
 おもむろに煙草に火をつけた神無は、深い溜め息と共に紫煙を吐いた。
「どうやら、この一匹だけのようだな」
 警戒してLolandと周りを調べていた琢磨が、足元に転がる奇怪な死体−−コアを破壊された蟲の成れの果て−−を見下ろし。
「もっとも、まだ仕事は残ってるがな。それも一番、難儀なのが」
 憂鬱そうに、氷は残った『壁』を見やる。
「適当にやって、次に来た時にまた別のNWが埋めていても、困るしな」
 励ますように、Cardinalはぽんと氷の肩を叩いた。

●風を追って
 さすがに、全ての『壁』を排除‥‥とはいかないものの、出来る限りの時間を費やして、出来うる限りの広範囲を『壁』を撤去する。
 地味な作業に務める八人の脇を、思い出したように時おり風が吹き抜けて。
「やっぱり、『壁』で風が止まってたんだね」
 何故か嬉しそうに、風に煽られたベスが目を細める。
「ここの目処はついたから、いよいよ‥‥だな」
 琢磨の言葉に、神無は風の来る奥の闇をじっと見つめる。
「しかし‥‥」
 くんと鼻から風を吸い、不意に氷が眉を顰めた。
「なんかこの風、少し湿った匂いが混ざってるな。こんな所を吹く風だから、もっと渇いていると思ったが」
 鋭くなった嗅覚が彼に告げたのは、乾いた砂の階層にはない、水の気配。
「行ってみれば、判るだろう」
 炬魄が、表情を隠すハードナイトの蔓を押し上げた。

 緊張を纏いつつ、人工の灯りを頼りに砂を踏み、風を追って進む。
 やがて広大な空間の左右が狭まり、目の前には今度こそ本物の岩肌の壁が一行の行く手を遮った。
「‥‥こっちだ」
 空気に混ざった匂いを、氷が辿る。
「氷さん虎なのに、犬か狼さんみたいだね」
「ベスちゃん、剥がした『壁』の残骸に放り込むぞ?」
「ぴ!」
 感心するベスに冗談を言いつつ、氷は壁を伝って歩き。
 そして一行は、そこへ行き着いた。
「‥‥なんだこりゃ」
 実に有体な感想を、Lolandが口にする。
 天井の岩肌の一部が崩れたのか、そこには砕けた岩が山となり。
 それを、あの『壁』を構成していた粘糸に似た白くくすんだ物体が、絡めて固めている。
 奇妙な岩の塊と壁の間−−大人が二人ほど並んで通れそうな隙間から、また風が吹いてきた。
「塞いでるのか?」
「塞ぐにしては、もっときっちり隙間を埋めるだろう?」
 炬魄は灯りを隙間に滑り込ませるが、その先はカーブしているのか、岩壁が浮かび上がり。
「更に、奥へ続く通路かもしれないな。だがひとまず‥‥NWの排除と壁の撤去の進行状況も含めて、報告に戻った方がいいだろう」
 心はやる表情の者達を、Cardinalが落ち着かせ。
 一行は静かに、来た道を引き返した。