Sound Junctionアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
2万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
01/20〜01/23
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●本文
●音楽解放区
「いつもライブだと、こっちからテーマなんかを提示する事が多い訳だが‥‥コミュニケーションてのは、基本が『キャッチボール』な訳だよな」
紫煙を吐きつつ、佐伯 炎(さえき・えん)がポツリと呟いた。
いつものやたら濃くて熱いブラックコーヒーを傾けつつ、川沢一二三(かわさわ・ひふみ)は友人を見やる。
「‥‥で?」
「や。若い連中が、今どんな音楽を表現しようとしてるか、純粋に気になってな。つーわけで、『音楽プロデューサー』に一つ仕事を頼んでいいかねぇ?」
「モノによっては、アイベックスに掛け合ってみるとか?」
「いや、そこまで大々的にしなくても、な。逆に、大手が絡むと表現し辛いって事もあるかなぁ‥‥と」
「という事は、インディーズ・レーベルという形だね」
「そうなるか」
呟きつつ、佐伯は煙草の灰を灰皿に落とした。
数日後、川沢より音楽系プロダクションに告知が届く。
その内容は、「新進気鋭のアーティストの音楽を集めた、インディーズのオムニバス・アルバムを作る為、自分の音を表現したい『有志』の参加を求む」というものであった。
●リプレイ本文
●Preface
都内のスタジオで、10人は収録に臨む。
「テーマは『自分の音楽を表現する事』だし、何よりインディーズだからね。私は良し悪しを含めて手を加えず、CD構成のみ行いますので。皆さんが納得する『音』重視ですから、頑張って下さい」
集ったメンバーを前に、川沢一二三はそう『激励』した。
●Track 1:Daylight tone:PANACHE【慧(fa4790)=ケイ・エインズワースx希蝶(fa5316)】
「オケ音源、準備してきたよ」
楽しげに、希蝶はCDをぶんぶん振り回す。
「川沢さんに渡す前に、落とさないでね」
笑ってケイ−−彼は今回『慧』ではなく、本名で参加する−−が注意をすれば、いい笑顔で「ぬかりなし!」と希蝶は謎のポーズを決めた。
雲間から差す光の様に、キーボードが入り。
光を増す如く、彩る音の数が増える。
その神秘的な雰囲気を払い、エレキギターとベース、ドラムがミドルテンポで軽快に現れ。
サックスと、キーボードにプリセットされたピアノが続く。
アクセントのバスクラリネットが、変化を持たせ。
柔らかなケイの声に、陽気なハミングを希蝶が添える。
「 朝焼けが滲む頃街に響くのは
鼻歌交じりのコーラス(Un〜)
生憎と目は顔の正面にあって
前を向いてしか進めない
硝子ケースに並ぶだけの
オブジェになんかなるつもりはない 」
『 晴れ渡る空 踊る風 微睡む影 』
ケイの言葉に、カノンの様に希蝶も同じ言葉で追復し。
軽やかに、キーボードが低音から一気に駆け上がる。
『 耳を澄まして 』
「 自分の中の音を探る
どれだけ背伸びをしてみたところで 」
『 所詮は自分でしかないさ 』
広がる音に負けぬよう、呼びかけを強める様にコーラスを加え。
『 ちっぽけな羽音 世界を彩る 』
ラストは、二人のハーモニーで纏め上げる。
静かに楽曲を構成する音が一つ二つと減り。
最後に残ったケイと希蝶のスキャットが、消える。
ユニット名は『混ぜ合わせ』。二人の個性のコラボレートは、鮮やかに昇華した。
●Track 2:blue wish:鈴木悠司(fa5189)
「 君が居たこの場所から
今も途絶える事無いblue road
青い青い想い達は
何一つ捨てられ無いから重く
それ引き摺り僕は歩いてくのさ 」
リズムを効かせたポップな曲が、いきなりサビから飛び込んだ。
聞こえる旋律は小気味いいが、彼曰くは「笑顔で前を向いて歩く様に見えて、実は後ろ歩き」らしい。
エレギが明るい旋律で煽り、テンポを取りつつ悠司はマイクへ言葉を吹き込む。
「 君は遠く届く事はもう無く
何故僕は此処にいるの?
幾ら考えても答えないのさ
blue wish
何時かまた出会える予定さ
何時かまたやさしい呪文さ 」
ふっと一呼吸を置いて、再びサビのフレーズを繰り返し。
願う様に、付け加える。
「 また出会うの
blue wish 」
彼の言葉を追う様に、エレギがサビをなぞり。
歯切れよく、音を合わせて締め括った。
●Track 3:P−Jewel:tech−C【麻倉 千尋(fa1406)】
電子音が、リズミカルに跳ねた。
ポップなメロディラインへ、エフェクトを効かせたボイスが重なる。
「 ダンスはもう飽きたヨ 変わんなイ流行
似たようナ曲エンドレス つまんなイ毎日
お買い物ノ最中 聞こえてルBGM
さっき流れたあノ曲 今の曲とどう違ウ? 」
作ったオケのテンポを遅らせて歌を録音し、ミックスする際に戻す。
必然的に歌声は高くなり、更にラジオを通した様なエフェクトをかけ。
「名前の通り、『テクニックはCクラス』で‥‥テクノミュージシャンとしては、まだまだなのですが。一回やってみたかったんだよね‥‥こういうの」
真剣な瞳を煌めかせ、千尋はモニタの波形を見つめる。
「 皆と同じじゃ嫌なノ あたしはアタシ
きっと産み出して見せるヨ 自分色ノ世界
MDに詰まってル あたしだケの宝石
おすそ分けするにハ まだ早いけド 」
『麻倉千尋』ではないけれど、『tech−C』もまた自分の内に在る一つとして。
彼女は単身で、曲を仕上げた。
●Track 4:break out the door:ジェンド(fa0971)
ギターの弦が、愁いを帯びて哀しげに響く。
短調のノスタルジックな旋律が、緩やかにイメージを膨らませ。
不意に、途絶える。
静寂に割って入ったのは、機械仕掛けの隙のないリズムと、メリハリをつけたアクセントのドラム。
ディストーションをかけた電子音を、エレギが次々と吐き出す。
うねる様な早弾きの狭間に、低音弦で重いリフを弾き。
ハードな音に負けぬ勢いで、ジェンドはシャウトする。
「 break out
break out the door
becomes the leader of music 」
叩きつける言葉の後ろで、玩具の銃声が飛び交い。
それは、急速に反転する。
レコードの針が飛んだ様に、音はアコースティックに引き戻され。
哀愁のメロディが、何事もなく漂う。
やがて音が消える中、ギィと扉の開く音が幕を引いた。
●Track 5:雪月華:アマラ・クラフト(fa2492)
金属弦が、強くストロークされた。
フォークシンガーの如く提げたエレギ一本で、アマラは唄う。
「 空は陰り空気は凍え 灰色の雲が覆う
天を見上げれば 舞い降りる白き輝羅星
掌に一粒触れたならば 露となり消え去る
幾千幾萬の輝羅星は 街や大地 山々に舞い降り
全て白一色に染めあげる
雲は去りゆき 空には輝く日輪
光を浴び輝羅星は 金剛石の如く煌めく
美しき煌めきの 瞬間は正に刹那
日輪の暖かき光は 輝羅星を融かし
海と天に還される
幾重の時が過ぎて 再び空は灰色に染まる
凍える空気と共に
幾千幾萬の輝羅星が舞い降りる
華に喩えるならば それは正に雪月華
それは正に雪月華‥‥ 」
イメージは降雪と雪解け、また降雪。緩やかな入りから中盤は加速し、最初のテンポへ回帰する。
アマラは、情景を意識した歌詞と緩急で−−今の彼女の『和風ロック』を−−仕上げた。
●Track 6:嘘つき!:マリーカ・フォルケン(fa2457)
鍵盤へ、静かに指を落とす。
いつものクラブでそうするように、しっとりとした雰囲気を滲ませてマーリカはメロディを奏でる。
「 Meeting is a start of the separation.Who said the word first? 」
スタンスは、弾き語り。
彼女は恋人を亡くした女となって、張り裂けんばかりの慟哭を吐露する。
「 ”Let’s live together by two people at one time”.
Suddenly,the word aspect doesn’t change,and the hasty dialog that you said.
However,the dialog that permeates through the mind.
As for your such word,I am ...though believed by me.
You are a liar!
Why should I meet your corpse?
You said that you were for a long time by me for a long time.
Though it was said that it was together even if it dies.
You are a great liar!
How should be done my sadness?
...Selfish,to the last minute dear person! 」
場所は変われど変わらぬ演奏を、マリーカは終えた。
●Track 7:Miracle or necessity:ミズホ(fa4826)
ヘッドフォンから、エレギの硬質な音が流れ出す。
バラードのアクセントにホルンが加わり、スティックを振るうミズホは、落ち着いたリズムを刻む。
「 今ここにいられること それは奇跡?
この出会い それは必然?
奇跡でも必然でもいい 出会えたことに『アリガトウ』
もしかして 本当は
とってもとっても 小さいものなのかな
それでもいい 私には
とってもとっても 大切なタカラモノ
奇跡も 必然も そして出会いも
ここにいられることやたくさんの出会い
それは全て奇跡? それとも必然だった?
奇跡でも必然でもいい 出会えたことに『アリガトウ』 」
そして、彼女は手を止め。
音が絶えた中、響く自身の声を聞く。
「 Even necessity is good by a miracle.
It is ...to the treasure which it was able to come across,
Thank you. 」
声を待って、再び音が蘇り。
余韻を残す弦のストロークで、曲を終えた。
●Track 8:夢音:Onyx【紗綾(fa1851)x柊アキラ(fa3956)】
「歌うの、久しぶりかな‥‥ちょっとドキドキするよ」
少しばかり緊張気味のアキラに、操作室から紗綾が抱いたステップバニーの手をぴこぴこ振る。
『音楽大好きって気持ちの曲だから、音楽大好きって気持ちで唄えば大丈夫だよ。シンフォニアさんと一緒に、応援してるから!』
「そうだね。楽しんでやるね」
笑顔で答えたアキラは、マイクへ向き直ると一つ深呼吸をした。
ドラムの合図をきっかけに、アップテンポな明るい旋律が広がる。
軽快なドラムワークに、エレギが確かなメロディを奏で。
響くベースに、元気よくキーボードが跳ねる。
その一つ一つは、二人が賑やかに積み上げてきた音。
それを思い起こしながら唄うアキラの声は、自然と伸びやかになる。
「 こっそり隠し持ってた 古い古い宝の地図
約束の丘に印をつけて 冒険に出かけよう
伝説の楽器を探す 終わることのない旅へ 」
旋律は、半音階上がり。
音をぶれさせる事もなく、アキラはそれに合わせる。
「 溢れ出す この気持ち 両手に抱えきれない
どこまでも高く青い空 流れていく白い雲
どんなに迷っても 歩き続けていくから 」
リズミカルなマラカスの『合いの手』を挟んで、最初の音階に立ち返り。
アキラは大らかに唄う。
「 不安が枷になって 心が潰されそうな時も
夢を追いかけ続ける勇気を忘れずにいこう 永久に
想いが雫になって 瞳から零れ落ちる時も
幸せを求め続ける強さを歌い続けていよう きみと 」
唄い切った声を追って、絡み合った音が収束していく。
シャラリと涼やかに、ウィンドチャイムが鳴り。
続いてキーボードのグリッサンドで、そっと幕を引いた。
●Track 9:Sound Junction:SJ−MIX
「この曲は、通しで録るかい?」
川沢の問いに、ジェンドが腕組みをして唸った。
「一応、伴奏と歌は別録りで考えてるんだが」
「その方が、間違えても誤魔化せるしね」
悪戯っぽく舌を出す希蝶に、紗綾がくすくす笑う。
「SEとは、後であたしが追加すればいいのかな」
手を挙げて千尋が確認すれば、「ぜひ、お願いします」とアキラが改まった笑みで答えた。
「音が馴染んできたら、本録りですね」
気合を入れる様にミズホが元気にスティックを掲げ、アマラはエレギを調弦する。
「その間、僕らはしっかり練習して、本番を一発で決めちゃおう」
笑顔で提案する悠司に、ケイが拳をコツンと打ち合わせた。
雑踏の街に漂う雑多な音が、ふっと息を潜め。
ミズホのドラムが、その底の鼓動を早鐘の如く打つ。
続いて、アキラのベースと希蝶のキーボードが浮かび上がり。
ジェンドとアマラのツイン・ギターが、競う様にリフを刻んで現れる。
アップテンポなリズムを取りつつ、先ず声を解き放つのはケイ。
「 枕木が刻む 急行のベースライン
踏み切り上がれば 走り出せる 」
「 音が交わり 紡ぎ出るメロディー
赤信号なんかじゃ 止まらないよ 」
それを受けて、希蝶が楽しげに言葉を繋ぎ。
膨らむ旋律に合わせ、ケイが再びソロが引き継ぐ。
「 響き渡るのは 踏み砕いた星屑のかけら
軽快に足音立てて どこまで走って見せようか? 」
先の二人に、悠司が呼吸を合わせ。
『 心の赴くまま 自由を目指し羽ばたく
空駆ける天馬のように 力強くリズムを刻んだ 』
三人のハーモニーを追って、それぞれの音が一斉に弾ける。
フィドルスタイルで奏でる紗綾のバイオリンが、のびのびと自由な翼を広げ。
ケイと希蝶、悠司の声に、アキラとミズホ、そして千尋がコーラスを重ねる。
『 世界に溢れる音 かき集め 撒き散らし 』
そして、最後は上手い下手を問わず、全員で声を合わせ。
『 いつか辿りつく
僕ら交わる場所 』
誰もが、高らかに歌い上げ。
その勢いそのままに、ラストは鮮やかなカットアウトで演奏が締め括られる。
OK版のマスターを聞き届けた一同は、笑みを交わし、ハイタッチを交わした。
●Afterword
「うしゃ子さんには、一緒にお仕事記念でおにぎり。ツナマヨを沢山作ってきました。後は手作りでシフォンケーキ。えと、食べる人〜?」
アキラの問いに、次々と手が挙がる。
「ありがとう! でもあたしも、シフォンケーキ持ってきちゃった。手作りじゃないけど」
「食べる。そっちも食べる!」
少し気後れ気味の紗綾へ、悠司が手を振って主張した。
「隅っこにいないで、ミズホも一緒に食べようよ」
「え? あぁぁ、あの‥‥っ」
隅でひっそり持参した弁当を取り出すミズホを、希蝶が引っ張ってくる。
「じゃあ、僕は紅茶を淹れるね。川沢さんは泥珈琲?」
「その表現は、佐伯に倣わなくていいから」
立ち上がる慧に、川沢は苦笑し。
「川沢さん。この子、シンフォニアって名前にしたよ」
兎のヌイグルミを手に紗綾が報告すれば、彼は『普通の』笑顔で答えた。
「気に入ってもらえて良かったよ。風の噂で、兎好きって聞いたから」
「はい! あ、写真いいかな? ジャケ写やブックレット用にと思って、収録中も撮ってたんだけど‥‥」
「そうだね、記念撮影しよう。僕も撮るよ」
「プレスするなら、二人とも気合入れて撮ってくれよ?」
デジカメを取り出すアキラへ、ジェンドがにっと笑い。
賑やかに、収録は終わった。