誘うは第二の扉ヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 1Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 普通
報酬 8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 01/27〜01/30

●本文

●老ダーラントよりの招待?
 一通の手紙を開いたフィルゲン・バッハは、そのまま固まっていた。
「‥‥また。であるか?」
 なんだか去年の年末辺りにも見たような光景に、同居人のレオン・ローズが距離を取りつつ尋ねる。
「今度は、誰からなのだ」
 それでも、好奇心の方が先に立つのか。しゃがみ込んで、手にした封筒の差出人を覗き見ようとし。
 ど げ し っ。
「ごはぁっ!」
 ヤクザキックの如く前蹴りにされ、レオンは床に転がった。
「あ‥‥ごめん。いたんだ」
「フィルゲン君、君は時々この私の所在を忘れるようだが、それはワザとか? アウトオブ眼中とかいうヤツなのか!?」
 訴えるレオンに、フィルゲンは嘆息し。
「てかさ。そもそも何で、そんな場所でしゃがんでるんだよ」
「そこを問われると、さすがの私もぐうの音が出ない」
「出せ。出してみろ」
「ちょ‥‥待て、蹴るなっ。蹴るでないぃぃぃぃっ!」

●二つ目の遺跡
「こちらが今回、旦那様よりご案内するよう仰せつかった『遺跡』でございます」
 老ダーラント付の執事が、フィルゲンへ恭しく頭を下げた。
 彼らがいるのは、黒森の奥深く。
 最初に案内された遺跡と同様、人目につきにくい狭い洞窟の奥に、分厚い金属製の扉が三重の鍵で閉じられている。
「今回‥‥って事は、この間のとは違うとか。でも、遺跡自体の目的は同じ? 見た感じ、あの遺跡の一番奥にあったヤツは、全体のホンの一部が露出しているんだと踏んでるんだけど」
「如何様に推測されるかは、お任せ致します。私めは、案内を仰せつかったのみでございますから」
 相変わらずの返答に、嘆息するフィルゲン。
「じゃあ、それは中を見てから考えるとして‥‥『二番目』に案内されるって事は、最初の遺跡よりそれなりに厄介だったりする? それによっては、手助け頼みたいし」
「はい。先の遺跡より、内部はいささか変化に富んだ状況となっているそうでございます。もっとも、私どもが足を踏み入れる事はございませんので、それ以上の事はお答えしかねますが」
「まったく、大叔父さんも何がしたいんだか。何かやらせたい事があるならズバッと言ってくれって、伝えてもらえる?」
「それは‥‥私どもからは、何とも‥‥」
 言葉を濁す老執事に、「だろうね」とフィルゲンはまた溜め息をついた。

●今回の参加者

 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa0898 シヴェル・マクスウェル(22歳・♀・熊)
 fa1032 羽曳野ハツ子(26歳・♀・パンダ)
 fa1616 鏑木 司(11歳・♂・竜)
 fa3728 セシル・ファーレ(15歳・♀・猫)
 fa3736 深森風音(22歳・♀・一角獣)
 fa4478 加羅(23歳・♂・猫)
 fa4840 斉賀伊織(25歳・♀・狼)

●リプレイ本文

●出立の前に
 どんと、簡易テーブルの上にスタンドライトが置かれる。
「さぁ、フィルゲンさん。吐いてもらおうか」
 テーブル越しにずぃと詰め寄る深森風音(fa3736)に、ライトで顔を照らされたフィルゲン・バッハは思わず身を引いた。
「‥‥は?」
「は? じゃないよ。証拠はあがってるんだからね」
「そうそう。だから、素直にゲロッちまった方が楽になるぞ」
 ずずぃと、風音の横からシヴェル・マクスウェル(fa0898)も身を乗り出す。
「ななな、なにを!?」
「決まってんだろ!」
 ハクのついた声でシヴェルは一喝し、狼狽(?)する相手に顔を近づけると茶の瞳をすっと細め。
「ハツ子と、ドコまでイッたんだよ」
 べぶっ。
 ずんがらがらどしゃ。
 密かに耳を欹てて、それとなく話を聞いていた羽曳野ハツ子(fa1032)が茶を吹き、フィルゲンは椅子ごとひっくり返った。
「しししし、シヴェルっ!?」
「いや。その質問、今は違うから。私も気になるけど」
「そうか? 私はてっきり‥‥」
 動揺するハツ子と落ち着いた風音の指摘に、ハテとシヴェルが首を傾げる。
「それで、アライグマさんとハツ子さん、内緒でどこかへ行ったんですか?」
 めきょきょきょっ。
 判ってるのか、いないのか。素でセシル・ファーレ(fa3728)が更なる追い討ちをかければ、パイプ椅子ごと悶絶する奇怪な音が響き。
「何か、素敵な破壊音がしてますけど?」
 彼女らのキャンピングカーへ入ってきた鏑木 司(fa1616)が、不思議そうに尋ねた。
「ああ、良くある事ですよ。きっと」
 何でもないという風に、彼の後ろに続く加羅(fa4478)が答えれば、ますます理解しがたいと言いたげな司の表情が濃くなる。
「‥‥カツ丼がないので‥‥メロンパン丼で‥‥どうですか‥‥」
 一方で湯ノ花 ゆくる(fa0640)は、怪しげな新丼物メニューを開発しようとしていた。
「あの‥‥ゆくるさん。炭水化物の上に炭水化物を載せるのは、栄養価的にどうかと思いますが」
「‥‥メロンパンは‥‥バランス栄養食なのですよ‥‥伊織さん‥‥」
 −−ただし、約一名に限ってだろうが。
 ともあれ、斉賀伊織(fa4840)のフォローも、激しい脱線状態を引き戻すには至らず。
「話が見えなくなっちゃったね。じゃあ、始めから‥‥」
 どんっと簡易テーブルの上にスタンドライトを置いて、風音が話を仕切り直した。

●鍵付き本を巡って
「え〜っと、目の下に鼻があって、その下に口があって‥‥」
「少しアバウトね‥‥何か、特徴とかないかしら」
 千の趣味の一つらしい似顔絵を描くべく、ペンを手にするハツ子が問い。聞かれたセシルは猫の耳を伏せて、片手でぎゅっとクマのヌイグルミを抱きしめる。
「だから、そんな感じなんですってば。本を持ってきた人」
 もう一方の手で指差した紙には、芸術的には味わい深いかもしれない似顔絵が描かれていた。
「ね、加羅さん!」
「あ〜‥‥え〜っと‥‥」
 少女から同意を求められ、さしもの加羅も返答に窮する。
「それで、本と従兄弟って人に、心当たりは?」
 まだライトを片手に風音が『尋問』を続け、後ろではゆくるがメロンパン丼を出すタイミングを窺っている。
「一口に従兄弟って言っても、多いんだよね。でも、同世代でそんな従兄弟‥‥いたかな」
 フィルゲンもまた、思案顔でこつこつと分厚い本の表紙を指で叩いていた。
「これ、見てもいいですか?」
「あ、どうぞ」
 興味深げな伊織に、フィルゲンは本を取って差し出す。受け取ったB6判程度の大きさの本は、凝った装丁のせいか見かけより重かった。
「表面は、銅板でしょうか。この大きさだと、鍵の作りはそう複雑ではないと思いますし、こっちの蝶つがいの軸を抜けば‥‥開くかもしれませんけど」
 本の作りを分析する伊織に、フィルゲンは唸り。
「うちの社長と相談して、『合鍵』を作ってもらうよ。それくらいの『小道具』なら、スタッフでも作れそうだし‥‥中身は僕も、凄く気になるけどね。あ、執事さんには本の件は内緒で」
「あ、そうだ。見てて気になったんだけど、この模様ってウロボロス‥‥です?」
 様々に彫られた文様の一つを、思い出したようにセシルが細い指で示す。そこには翼のある四本足の竜が翼を広げて身体を反し、頭で尾を噛んで輪を作っていた。そしてその尾にも、目や口がある。
「いや、アンフィスバエナだよ。尻尾にも頭がある竜で、よくある意匠だけど‥‥形からすると、バッハ家の物で間違いないかな」
「これ、どっちも頭なんですか」
 竜の意匠と聞いて興味を持ったのか、司も横から覗き込む。
「バッハ家の紋章という事は、やっぱり渡した人はバッハ家と縁のある人に‥‥?」
「司君の言うとおり、可能性は高いね。誰なのか、ほんっとに思い出せないけど」
 伊織が返す本を丁寧に布で包み、フィルゲンは自分の荷物へ仕舞い込む。
「やっぱり、アライグマさんの日記‥‥じゃないですよね。なんだか禁忌の魔道書みたいで、呪われていそうです」
 本を預かっていたセシルは、残るはお菓子ばかりとなったリュックの口を閉じ。
「そろそろ、もう休むぞ。明日は、例の遺跡に入るんだから」
 シヴェルが軽く伸びをして、一同に休息を促した。

●三つの鍵の奥
「ちょぉぁぁっ、ナンカデターっ!」
「さがって下さい!」
 投げナイフのようにクリスナイフを構える司が、腰を抜かしたフィルゲンの前に出て。
 他の者達も、銃器や刃物を手にする。
 トカゲの類に感染したのか、そこそこの大きさのNWが四つの足で壁を這い、長い尾を揺らしながら、ライトを反射する複眼で九人を窺う。
 が、さしもに多勢に無勢とみたか、そのままするすると岩の陰へ姿を消した。
「ぅ‥‥なんかこうしてみると、改めて足手まといだね。僕って‥‥」
 自分よりずっと年下の少年に庇われて、さすがにこたえるのか。凹むフィルゲンの髪を、慰めるように「よしよし」とハツ子が撫でる。
「しかし‥‥何だろうね、ここは」
 ちらとそれを横目で見てから、風音は行く手の『通路』を見上げる。
 そこは、地面が隆起して作った壁のような坂で。
「進むしかないですね。僕が上がって、ロープを下ろします」
 進み出た司は伊織からロープを受け取り、軽い身のこなしで坂を上り始めた。

 件の遺跡は、先に老執事がフィルゲンへ告げた通り、最初の遺跡と比べると実に「変化に富んだ状況」となっていた。
 最初は第一の遺跡と同じ洞窟だったが、やがて人の手が作り上げた明確な通路へと変わり。だがそれらは、あらかたが何らかの形で破壊されていた。天井からは岩が突き出し、壁は崩れかけ、床は隆起し、あるいは陥没して裂け目が口を開ける。かつて整然としていたであろう空間は、秩序のない力でズタズタにされていた。
 通路の中には、稀に壁に突き立った長い槍や、明らかに落ちるようになっていた天井といった、何かの罠らしきモノがあったと思しき痕跡も見受けられる。
 NWと思しきモノの姿もあちこちに見受けられ−−ただ感染する個体が小さい為か、あるモノは実体化せずに通り過ぎ、あるいは先のように実体化しても諦めて、襲ってこない場合もあった。
 壁にはところどころ文字が刻まれているが、フィルゲン曰くは現在の新高ドイツ語より古いドイツ語で、大半ははっきり読み取れない。辛うじて判ったものも、「侮るな」「驕るな」「囚われるな」といった戒句のような短い言葉で。
「迷路みたいですけど‥‥一体ここは、何なんでしょう」
 休憩の合間にぽりぽりとお菓子を齧りつつ、セシルが疑問を口にする。
「少なくとも、居住空間ではなさそうだな。ずっと迷路のような通路が続くばかりで、部屋の類が見当たらない。もっとも、崩れていたら判らないが」
 答えるシヴェルは水筒の水を一口含み、乾いた口唇を湿らせた。
「竜の獣人の一族が、守っていた場所‥‥ですか」
 呟く司は、自身の言葉の意図を探るように目を細め。
 うみゃ〜。
 休憩中とはいえ緊張した空気を、気の抜けた鳴き声が打ち砕く。
「‥‥何ですか、その怪音」
「‥‥オヤツです‥‥」
 笑いをこらえながら加羅が音源を見やれば、虎猫型なヌイグルミの口からゆくるがメロンパンを取り出していた。そしてヌイグルミを頭に乗せ、メロンパンを齧りつつ、彼女は何故か金属探知機で瓦礫を探り始める。
「なんて言うか、こう‥‥個性的な人ですね」
「そうだね」
 微妙に表現に迷う伊織へ、風音がくすくす笑った。
 そこへ、ひょぃ〜んと頼りなく甲高い音が響く。
「今度は、何ですか?」
「‥‥金属探知機が‥‥」
 再び加羅が視線を投げれば、ゆくるは注意深く土を掘り返し。
 やがて土にまみれて、獣刻印の首輪が現れた。

 見つかったオーパーツは、それだけに限らず。
 一行が進む先々の土や岩の間に、メダリオンや羽の類が落ちていた。
 人が持っていても用を成さないそれらは、明らかに過去に獣人がこの場に居た痕跡であり。
 やがて一行は、迷路の『終点』へと辿り着いた。

●禁忌を犯す代償
 その円形広間は、石造りの床がぱっくりと口を開けていた。
 上から下。あるいは下から上へ何かが貫いたように、天井にも似た角度の穴がある。
「すみません。ちょっと下の方、照らしてもらえますか?」
「は〜い」
 完全獣化した加羅が何かに気付き、セシルが穴にヘッドライトを向ければ。
 2mほど下に、乳白色の塊が見えた。
「あれが、問題のモノですか?」
 見慣れぬ物体に伊織が尋ね、その隣からハツ子もランタンを掲げて覗き込む。
「ええ、そうだけど‥‥あんな所にあるのね‥‥」
「う〜ん‥‥降りるの、難しそうだね」
 着物姿の風音が、その灯りで周りの岩肌を確認する。
 人の手に寄らない穴は、当然、人が降りるための便宜など考慮しておらず。
「とりあえず、ロープを結べる場所を探してみるか」
「あ、僕も手伝うよ。それくらい、しないとね」
 辺りを見回すシヴェルに、フィルゲンがついていく。
「飛んで降りれる位のスペースはありますから、見てきましょうか」
 竜の翼を持つ司が、遠慮がちに申し出る。
「そうね‥‥気分が悪くならないようなら、これで表面を削り取ったりできないか、見てもらえるかしら」
 ハツ子がアウトドアナイフを手渡し、司は一つ頷く。
「私も、行ってきます。ちょっと、いろいろ試してみたい事があるので‥‥」
 ゆくるもまた、蝙蝠の羽を広げた。

「この瓦礫なら、大丈夫か」
 崩れ落ちた天井と思しき岩の先を掴み、押したり引いたりしてシヴェルが具合を確かめる。
「ところで、シヴェル君。気分は大丈夫かい?」
「ああ。この距離なら、まだ大丈夫みたいだ。あと、アレについてはちょっと自分なりに仮説を立ててみた」
「仮説?」
 興味深げにフィルゲンが聞き返し、シヴェルは作業を続けながら話を続ける。
「ある程度、魔力が強い者が何らかの影響を受けてるんじゃないかと思ってな」
「魔力か‥‥」
 思案を巡らせるように考え込むフィルゲンを、シヴェルが突付いて遮り。
「ロープが解けないか、試しに引っ張ってもらえるか?」
「あ、はいはい」
 二人でロープを引っ張って、固定の具合を確認する。
 その時。
 キシ。と、空気が軋み。

  キ イ ィ ィ ィ ィ ィ −−‥‥           ‥‥−− ッ ッ !!!

「うわっ!」
「耳が‥‥っ!」
「いやーっ、耳がいたぁーいっ!」
 突如、カン高い音ならぬ音が広間を覆い、誰もが耳を抑えて苦痛を訴える。
 耳鳴り。
 頭痛。
 吐き気。
 骨が振動するような感覚。
 実際には数秒の事だが、ソレが収まった時には数名が倒れていた。
「大丈夫ですか、しっかり!」
 最初にダメージから立ち直った加羅が、隣で呻くセシルを助け起こす。
「風音、聞こえる? 大丈夫?」
 続いてハツ子が、風音に呼びかけ。
 そしてシヴェルがロープを使って、穴の底にいる司とゆくるを助けに降りる。
 だがそこで、彼女は一瞬言葉を失った。
「シヴェル、どうしたの?」
 異常に気付いてハツ子が声をかければ、シヴェルはゆっくりと首を左右に振り。
「アレが‥‥例の『白いの』が、なくなっている」
「本当ですかっ!?」
 思わず加羅も身を乗り出すが、そこに先ほど確認した乳白色の物体はなく。
「伊織さん‥‥フィル!」
 切迫したハツ子の声に、シヴェルは急いで司とゆくるの状態を確認する。
「シヴェルさん、今の‥‥?」
「動けるなら、ここから離れるんだ。少しばかり、不味い事になったらしい」
 互いを気遣いつつ、急いで三人は穴から出て‥‥底には、折れたアウトドアナイフが取り残されて転がっていた。

 風音が手当てを尽くしたお陰で、一番状態の酷かった伊織とフィルゲンも、数時間後には意識を取り戻した。
 しかし状態は万全とは言えず、更に探べるべき物も失われ。
「一体、何があった?」
 ようやく一行が落ち着いたのをみて、シヴェルが『オブジェ』の一番近くにいた司とゆくるに直前の状況を問う。
「ハツ子さんに頼まれて、アレのサンプルを取ろうとナイフを当ててみたんですけど‥‥刃こぼれして。力を入れたら、折れたんです。それで‥‥」
「‥‥反応を‥‥見ようと思って‥‥いろいろ能力を‥‥ぶつけたら‥‥壊れて『音』が‥‥」
「こ‥‥っ」
 淡々と告げるゆくるにシヴェルは絶句し、肩を落として盛大な溜め息をついた。
「どうしましょう? 壊したなんて‥‥」
 セシルはおどおどと、伊織と共に風音とハツ子が様子を見ているフィルゲンへ振り返る。
「今は、こんな状態です。どうするかは、外へ出てから考えましょう‥‥壊れてなくなった話も、フィルゲンさんにも内密で」
 加羅の提案に、反論はなく。
 一行は、のろのろと外への帰還を始めた。