EtR:一歩、また一歩ヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
フリー
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
8.4万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/28〜01/31
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●本文
●終着点か、それとも‥‥
蜘蛛のようなNWが、粘性物質で作り上げた『壁』。
それを越えた向こうに、砂の世界の終わりが待っていた。
風を追って辿り着いた第二階層の奥には、崩れ落ちたような幾つかの岩が、粘糸のような物で固められ、一個の塊にも見える。
その奇妙な岩の塊と壁の間に、大人が二人ほど並んで通れそうな隙間があり。
風は、そこから吹いてきていた
「先のNW討伐と『壁』の排除の結果、残る『壁』は現状の探索での大きな障害となる可能性は低くなりました。ひとまず‥‥ではありますが」
遺跡の監視を続けるWEAの係員が、次の段階へ進もうとする者達を前に、緊張気味に告げる。
「第二階層の全てが調べ尽くされた訳ではありませんが、今回の探索では『壁』の先で発見されたという『隙間』について、調査していただく予定です。そこから空気の流れがあるという事は、その先が行き止まりではないという証でもあります。
先に何かがあるならば、それが何なのかを調べねばなりません。この辺りは、改めて言うまでもないとは思いますが」
僅かに係員は、苦笑を浮かべた。
そもそも、探索に向かおうとする者達が、未知への好奇を持ち合わせていない筈はない。
「もちろん現場では、直接調査にあたる皆さんの判断を重視していただいて、構いません。未踏の調査という点では、従来の調査も同じですが‥‥くれぐれも注意して、調査にあたって下さい」
何よりも、先に何があるかの情報を持ち帰る事が大事だと。
係員は、そう説明を締め括った。
●リプレイ本文
●疑問と理由、原因と結果
暗闇の中を、7つの光が右へ左へと揺れながら進んでいた。
遺跡の入り口から、湿った土と岩の第一階層を通り抜け、最奥の通路へ。
磨り減った階段状の通路を降りて、砂の第二階層へ到達する。
目的の場所は第二階層の更に深部にあり、そこまで進むだけでもそれなりの時間がかかる。
闇に閉ざされた遺跡内部では、活動サイクル以上は昼夜を気にしないため、時間の経過概念が微妙に狂う。
「暗い中をただ歩くだけって、結構大変だね〜」
へふ〜とベス(fa0877)が溜め息をつき、角倉・雨神名(fa2640)は思わず小さな笑みを零す。
「探索の間は気も張ってますし、NWの攻撃に備えたりと忙しいですから」
「最初に足を踏み入れた時と比べれば、随分とNWの数も減ったからな。とはいえ、油断は禁物だが」
重い鎌を担ぎながら歩く御鏡 炬魄(fa4468)の隣で、「そ〜だな〜」と同意しながら早切 氷(fa3126)は大きな欠伸を一つ。
「‥‥言動が一致してないように見えるが、気のせいか?」
「気のせい。細かい事は気にしない」
Cardinal(fa2010)に淡々と突っ込まれた氷は、手をひらひら振った。
「ところで‥‥撮影、するんですか?」
火を点けていない煙草を咥えた各務 神無(fa3392)が、歩きながらもデジタルビデオカメラをチェックするセルゲイ・グラズノフ(fa4965)へ問う。
「ああ、目視頼りで遺跡を見て回るのもつまらんしな。客観的な記録があった方が、後の資料になるだろう?」
「あ〜、そりゃ止めた方がいいぞ。後で誰かが‥‥あるいは自分が、厄介なケツを拭く羽目になる」
おどけた風にLoland=Urga(fa0614)が肩を竦め、セルゲイは意図を計りかねる様に首を傾げた。
「実体化してるNWばかりでなく、潜伏してる情報体もそれなりにいると考えるのが妥当だからな。だからここで発見された『手帳』も、持ち出さずに遺跡内部で保管している」
初めて遺跡へ足を踏み入れる者へ炬魄が説明し、渋面の氷はぽしぽしと髪を掻く。
「それに最初の大規模な探索で、情報体が流出してるしな‥‥それも、獣人達自身の手で」
NWの流出を防ごうと、感染したと思われる小動物の排除までした一方で、自分達の手で記憶装置を遺跡内部で使用し、持ち出し、情報体をばら撒いた。それらはおそらくヨーロッパの各地へ−−最悪の事態を考えるならば世界中へ−−散り、時限装置のようやがて獣人達へ累を及ぼす。例えば、先の子供を浚った鳥型NW達の如く。
−−喜劇だ。
そう嘲笑ったDSらしき相手の言葉の意味が、今なら判る気がする。
「そうか。思ったより厄介なんだな‥‥ま、一筋縄でいかない方が、楽しめるが」
苦笑しつつも、セルゲイはデジタル式の記録装置を鞄へ戻した。
前回、破壊した『壁』の跡を越え。
やがて一行は、問題の場所へと辿り着いた。
●暗い穴へ
「前に立つのが氷と神無。次がベスと俺で、その後ろが雨神名と炬魄。最後尾がセルゲイとLolandだな」
奇妙な岩の塊を前にして、Cardinalがメンバーに確認をした。
鋭い感覚を持つ者達が前後を固め、不測の事態を素早く発見し、対応する案なのだが。
「全員で入っちまって、大丈夫か?」
不意に、氷が不安を口にする。
「三人か四人ほどで穴を先行して調べた方が、安全だと思うが‥‥人数が多いといい的だし、皆で入って撤退できませんでしたってのも、不味い気がするんだけど」
「今から、予定変更ですか?」
風下で紫煙をくゆらせる神無が奇妙な表情を返し、Lolandは腕組みをして唸った。
「分かれて行動して、連絡が取れなくなるのも厄介だと思うが」
「ぴ〜‥‥誰か『知友心話』が使える人、いる?」
ベスの質問に、誰もが首を横に振り。
「トランシーバーがあれば、連絡つけられるだろ?」
氷の提案にも、反応は薄い。
「車には、積んであるんだがな‥‥」
神無と共に煙草をふかす炬魄が、煙を吐きながら答える。
「となると‥‥連絡手段、ナシですね。携帯の電波も、届きませんし‥‥」
思案しながら呟く雨神名に、セルゲイが肩を竦める。
「そもそも、こういう場所で携帯使うのって、ヤバいんだよな?」
「はい。メモリーなどに潜伏される可能性も、あるそうですから‥‥」
「確かに、先んじて調べた方が後に続く者は安全だ。だが手練れが多いとはいえ、連絡手段がないまま分かれて行動するのは‥‥逆に危険じゃないか?」
改めて、今度はCardinalが氷へ問いを返し。
「‥‥だなぁ。助けを求めようにも、上まで遠いしな」
肩を落とした氷は、がしがしと髪を掻く。そんな彼の丸めた背中に、ぴょいとベスが飛びつく。
「ぴぇ〜いっ!」
「ちょわっ! なんだーっ!?」
「えへへ。氷さんなりに、いろいろ考えてくれてたんだよね。サボろうかな〜とか、いつ寝ようかな〜とかじゃなくて」
無邪気なベスの言葉に、氷は口をへの字に曲げ。
「羽根持ちの二人は翼をたたむか、半獣化ナシでな。あん中、狭そうだから」
「は〜いっ!」
ベスを背負ったまま氷はのしのしと岩の隙間へ歩き、神無は煙草をもみ消して彼に並んだ。
「もし前が見えなかったら、言ってくれ。できるだけ、善処する」
後ろの雨神名へ言葉をかけてから、Cardinalも後に続く。
そして八人は、注意深く狭い空間へと足を踏み入れた。
ライトで照らされる岩肌は、あちこちに粘糸のようなモノが貼り付いていた。
「段差があるから、足元に気をつけて」
目の効く者が、仲間へ注意を呼びかける。たまに湾曲した空間を抜けて風が吹き、それに混ざって漂う臭気には、変わらず水の気配があった。
「どうです?」
「あんまり『いい匂い』じゃないが、腐ったモノとかそんな感じの『悪臭』でもないんだよな」
「ぴ〜?」
先頭を歩く二人の会話に、ベスもくんくんと匂いを意識して空気を嗅いでみるが、よく判らない。
「溜まった水や岩、あるいは土。それ以外には、この糸みたいなヤツの匂いも多少ありそうだがな」
同じく、鋭い臭覚を有するLolandも、最後尾から氷の意見に同意した。
「少なくとも、砂ばっかりのあそこよりかは、ナマモノの匂いがする」
「ナマモノか‥‥化け物とかじゃない事を祈るがな」
苦笑しながらセルゲイが手にしたIMIUZIの安全装置を確かめ、彼の前を歩く雨神名の顔色は少し青白い。
「安心しろ。中国に出たトウテツ並のヤツがいたとしても、少なくともこの通路は通れない」
「はい‥‥そうですね」
冗談めかす炬魄に、雨神名が少し笑顔を取り戻す。
「そういえば、炬魄さんはサングラスをかけたままで、大丈夫なんですか?」
「ああ。慣れているからな」
彼が短く答えれば、見上げてくる少女は感心した様な表情を浮かべた。
「それにしても‥‥子供を浚う理由‥‥あるいは、『手帳』の持ち主が生かされていた理由‥‥それが、この先にあるのか‥‥」
狭い空間は、ずっと下りになっている。
「ここは‥‥最初の階層から降りてくる通路に、似ているな」
周囲を注視していたCardinalが、抱いた印象を口にする。
確かに、踏む岩は階段状で下りになっており‥‥進むうちに、道幅も同じような広さに変わっていた。
「パンドラの箱の底には、希望があったが‥‥この遺跡の底には、何があるんだろうな」
セルゲイの呟きが、静かな空洞へと響いた。
第一階層と第二階層を繋ぐそれと同じように、分岐はなく。
ただ風だけがごぅごぅと鳴る、狭い空間を注意深く歩く。
やがて、不気味な『トンネル』はいきなり終わりを迎えた。
現れたのは、また広い空間。
そして。
「なんだ‥‥こりゃあ‥‥」
思わず氷が視覚から得た感想そのままを言葉にし、後に続いた誰もが一様に目を見張る。
通路を抜けた八人は、発育の良くない草を踏んでいた。
●異質な世界
ライトの光を、鏡面のような水が反射する。
どこか遠くで、ぱしゃんと水音が跳ねた。
「どういうこった、これは」
他の者達が照らす灯りを頼りに、Lolandが数歩進む。
通路から十数メートル離れた場所には、水があった。
「砂の次は、水か。それにしても‥‥」
低く、セルゲイが呻く。
ある程度の水溜りや地下川ならば、迂回するか飛び越えればいい。
だがそこに広がるのは、行く手を阻むかのような‥‥一面の、水。
奥へと光を投げれば、飛び石のように水面へ突き出している陸地が幾つか浮かんでいた。
一転した光景に入り込んだ者達は、言葉少なげにあちこちに目を向け。ライトを片手に、Cardinalは水辺へ近づく。
灯りか、あるいは音に反応したか。水の中を幾つかの−−おそらくは魚か何かの−−影が、すぅっと岸から離れたように見え。
「水の流れは、ないようだな。波も立っては‥‥うわっ!」
ずぶんっ。
突然、岸の縁が抜け落ちたように崩れ、重い水音と共に足が水に飲み込まれた。
その音と声に、炬魄が急いで駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「驚いただけだ。それほど深くはないが‥‥」
答えるCardinalは水へ光を向けるが、踏み抜いたはずみで泥が舞い上がって、透明度は低い。試みに水の中を数歩進んでみれば、再びガクンと身体が沈み、ずぶずぶと腰の近くまで水に浸かった。
「前言撤回だな。急に深くなってる場所もあるようだ」
「そうか‥‥ともかく、一度上がった方がいい」
「ああ」
まとわりつく水から上がろうと、Cardinalは足に力を込めるが。
ずっぽりと泥濘に嵌まったかのように、一歩も動かす事が出来ない。
「何だ‥‥?」
訝しむのも、束の間で。
今度は明確に、彼を引っ張り込もうとする力が足にかかる。
「掴まれ。他の連中も、手を貸してくれっ!」
Cardinalの『異変』に気付いた炬魄が、水に入って彼へ手を伸ばしつつ、仲間達を呼んだ。
「どうした!」
「もしかして、底なし沼かナニカか?」
Lolandや氷も炬魄に手を貸し、セルゲイは銃を構えて万が一に備える。
三人の助けを借りて、Cardinalは深みから抜け出し。
「すまん。だが、急いで離れた方がいい」
「何か‥‥」
いるのかと言いかけたLolandへ、揺れる水面から突如、蔓のようなモノが伸び。
彼が慌てて身をかわす一方で、セルゲイはサブマシンガンの引き金を引く。
絶え間ない銃声が空間に響き、弾丸が水面に次々と小さな水柱を上げ。
濁った水へ、とぷんと蔓は沈んだ。
「何か、いるようだな」
「そのようだ」
その間に水辺から離れたCardinalは、靴を脱いで溜まった水を捨てる。
念のために裾を捲って確認すれば、浅黒い肌の足首から脛にかけて、かなりの力で巻きつかれた痕跡が残っていた。
「手当て、しますか?」
様子を見ていた雨神名が気遣えば、Cardinalは首を横に振る。
「いや、大丈夫だ。痺れも痛みも特にない」
「なら、毒は持っていないようですね」
波紋の残る水面へ、神無が目を細めた。
「ぴぇ。みんな、びしょびしょだね〜。『破雷光撃』使ったら、感電するかも?」
悪戯っぽく小首を傾げるベスに、濡れた靴やズボンが少しでも乾くよう、ぷらぷらと足を振る氷が溜め息をつく。
「やるなよ、ベスちゃん」
「‥‥えへ?」
「えへ? じゃない」
「ぴ〜! 痛いよ、氷さんっ」
ぐりぐりと拳骨を頭に押し付けられ、ベスが逃げ出す。
笑みとも呆れ顔ともつかぬ表情でそれを横目で眺める神無は、不意に表情を引き締め。
「ともあれ、歓談するならもう少しここから離れた方が、よさそうです」
彼女の視線の先で、あの蔓状のモノが鎌首をもたげた蛇のように、音もなく水面から立ち上がっていた。
「そのようだな」
鎌を構え、少女達を背に庇いながら、炬魄がじりじりと後退する。
蔓の付け根、すなわち『本体』が潜む筈の水底は、まだ濁った水で見通せず。
得体の知れない蔓がゆらと動く素振りがすれば、セルゲイは威嚇射撃で牽制する。
銃弾から逃れるように、再び不吉なソレは水中へと姿を消して。
蔓がどこまで届くかは判らないが、一行はできるだけ岸から距離を取った。
「服が乾いたら、念のため通路に見落としがないか、探してみるか。ここが遺跡なら、隠し通路や迂回する道があるかもしれん」
Lolandの提案に、異論のある者はいなかった。
岩肌を叩き、粘りつく塊に悪戦苦闘しながらも、壁を探っていく。
しかし、これといった仕掛けは見つからず。
「ボートの類を何とかするか、浅いところを探しながら進むしかなさそうだな。脚力に自信があれば、向こうの小島までジャンプするとか‥‥」
「飛べる人が、羨ましいですね‥‥あと目とか耳のいい人とかも、羨ましいです」
セルゲイが憂鬱そうに嘆息し、雨神名はしゅんとしょげた。
「ぴ〜‥‥元気だして、皆で渡れる方法を考えてみよ? WEAに、ポケットサイズ超小型マイクロミニマム持ち運び簡単組立式ボートとか、あるかもしれないし!」
「いや、ないない。まず、技術的に無理だから」
励ますベスに、冷たく氷が突っ込みを入れた。