Limelight:仁義無節分アジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 風華弓弦
芸能 2Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 なし
参加人数 12人
サポート 1人
期間 02/02〜02/04

●本文

●春立つ前に
『なぁ。ここんとこアレだから、ちぃとハメを外した事を考えてるんだが‥‥』
「わざわざ、電話をかけてきたと思ったら‥‥何の話だよ。それに、年明け早々に騒いだだけでは物足りないのかい?」
 携帯を片手に、音楽プロデューサー川沢一二三(かわさわ・ひふみ)が呆れ顔で答える。
 もっとも、電話の相手である『Limelight』のオーナー佐伯 炎(さえき・えん)には、その様子は見えず−−ある意味で見えないからこそ−−楽しげに話を続けた。
『いやまぁ、アレはアレでコレはコレって事で。そういや最近は節分の時に、巻き寿司一本を丸かじりするといい事があるんだって?』
「話をそらさない」
『だからさ‥‥折角の縁起事だし、一人でぼーっと豆食ってもつまらんし‥‥なぁ』
 同意を求めんばかりの返事に、深々と川沢は溜め息をつく。
「じゃあ‥‥佐伯が鬼で」
『マテ。俺的には、お前の方が遥かに鬼向きだと思うが』
「ほぅ‥‥一度じっくり、話し合う必要がありそうだね」
『いや、遠慮しておきマスヨ? とにかく、アレだ。面白そうなヤツに声かけてみたり、適当に知らせ出しとくから。ソッチも予定、よろしくな』
「よろしくって‥‥おい、待て‥‥」
 一方的に要件を告げ、言い逃げの如く切られた携帯に、川沢は頭痛を覚えた。

●今回の参加者

 fa0475 LUCIFEL(21歳・♂・狼)
 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa2837 明石 丹(26歳・♂・狼)
 fa2847 柊ラキア(25歳・♂・鴉)
 fa3328 壱夜(15歳・♂・猫)
 fa3500 有沢 黎(20歳・♂・狼)
 fa3867 アリエラ(22歳・♀・犬)
 fa4790 (18歳・♂・小鳥)
 fa5189 鈴木悠司(18歳・♂・犬)
 fa5241 (20歳・♂・蝙蝠)
 fa5316 希蝶(22歳・♂・鴉)

●リプレイ本文

●来訪はいつも賑やかに
「「おっはよーございまーっす!」」
 元気のいい挨拶と共に、ベス(fa0877)と富士川・千春(fa0847)が仲良く事務所へ現れた。
「よぅ、風の子。元気そうだな」
「風邪の子?」
「数の子?」
「ちげーよ」
 揃って首を傾げる千春とベスに、笑いながら佐伯 炎は少女達の頭をがしがしと撫でる。
 そんなやり取りを、事務所の扉に隠れてこっそりと覗く影が一つ。
「アリー、どうしたの?」
「もしかして、かくれんぼとか!」
「えぅっ!?」
 不意に声をかけられたアリエラ(fa3867)は、思わず飛び上がって背後の明石 丹(fa2837)と柊ラキア(fa2847)へ振り返った。
「び、びっくりしたぁ」
「もしかして、驚かせた? ごめんね」
「ううん、平気!」
 謝る丹に笑顔で首を振るアリエラだったが、再び背後に別の気配を感じ。
 すすっと二人の後ろに隠れたアリエラは、丹とラキアの間から店のオーナーを見上げた。
「‥‥なんで逃げんだ」
「だって佐伯さん、すぐ髪ぐしゃぐしゃにするんだもん。私もう28なのに、なんだか子供扱いされてる気がする〜っ」
 ぶっと頬を膨らませるアリエラに抗議された佐伯は、じっと自分の手を見つめ。
「うりゃっ」
「ちょっ、佐伯さん!? 次のターゲットは僕? 僕なの!?」
 毛先に青みを帯びた髪をぐりぐりと撫で繰り回されて、ラキアがもがく。
「佐伯さん、お久し振りです」
 一連のやり取りを笑顔で眺めていた丹は、改めて佐伯へ頭を下げるが。
「‥‥誰だっけ?」
「‥‥泣いていい?」
 肩を落とす丹へ、佐伯がからからと笑った。
「冗談だ、丹。ナンか見ねぇうちに、色々と精力的に頑張ってるそうじゃねぇか。最近は、ドラマとか出てるって?」
「僕も出てるよっ、僕もーっ!」
 はいはいと、横からラキアが手を挙げる。
「そうか。そのうち、飯でも奢れ」
「え〜っ!」
「え〜、じゃねぇよ。とりあえず、寒いトコで話すのもナンだから、中に入れ。茶でも淹れてやるから」
 改めて、事務所の扉を開ける佐伯の背中へ。
「エンサン、おひさしーブリだー!」
 どむんっ。と、壱夜(fa3328)が『激突』した。
「こら、壱っ。すみません、佐伯さん。お久し振りなのに、来た早々‥‥」
 壱夜の後を追ってきた有沢 黎(fa3500)が、慌てて頭を下げる。
「あぁ、構うな。変わらず元気そうで、何よりだ」
「うん、おれもアルも元気。エンサンも元気?」
「おぅよ、見ての通りだ。ま、お前らも入れ。ちょうど、茶を淹れようかって話をしてたところだ」
「はい、ありがとうございます」
「お茶〜、おかし〜っ!」
 楽しげな壱夜に目を細めつつ、黎も久し振りに訪れた事務所へ足を踏み入れた。

「お、アリエラは随分とめかし込んできたんだな。俺の為に」
 春らしい紅梅色の着物姿のアリエラを見つけたLUCIFEL(fa0475)は、嬉しそうに彼女の前に陣取って座る。アリエラの両脇は、丹とラキアがしっかりちゃっかりガードしているのだ。
「えへへ。せっかくだから、春らしくって思って」
 LUCIFELの台詞の後ろの方にはあえて触れず、アリエラはにっこりと微笑む。
「でもアリエラさん、鬼やるのよね。着物で大丈夫?」
 女性らしい気遣いをする千春に、「うん」と彼女は頷いた。
「せっかく持ってきたから、ギターも弾いちゃうつもりだし!」
「それなら、楽しみね」
「豆を撒くのが? それとも、演奏がか?」
 尋ねるLUCIFELに、千春は悪戯っぽい笑みで「両方よ」と答える。
「そういえば、佐伯さん。今回は歌や演奏の他に、好きな事もやっていいんだよね? ね♪」
 何故か目をキラキラさせて、ベスが佐伯に問い。
「却下」
「ぴぇぇぇぇ〜っ!? まだ何も言ってないのにぃ〜っ」
「何か‥‥もう、賑やかなんだね」
 ひょっこりと川沢一二三が事務所へ姿を見せれば、その後ろへ急いでベスが逃げ込んだ。
「ぴ〜っ。川沢さん、佐伯さんがいぢめる〜っ」
「いじめてねぇって」
 二人の間に挟まれて苦笑する川沢は、ばたばたと賑やかに階段を降りる足音に振り仰ぐ。
「いらっしゃい」
「あ、おはようございます。もしかして、皆もう来てるとか」
 事務所を覗き込む慧(fa4790)の後ろでは、初めて事務所を訪れる欅(fa5241)と鈴木悠司(fa5189)が、珍しそうに店内を見回し。更に続いて現れた希蝶(fa5316)は、何故か大欠伸をしていた。
「妙に眠そうだね‥‥大丈夫かい?」
 見上げる川沢に気付き、希蝶が慌てて開けっ放しの口を押さえる。
「うん。夜鍋仕事してたから!」
「夜鍋って?」
 不思議そうに首を傾げる慧へ、何故か彼は自信ありげに胸を張り。
「力作は、後のお楽しみで!」
「お楽しみ‥‥ね」
 先日のプレゼント−−白いフリルの付いた三角巾(名前刺繍入)−−を思い出したのか、川沢が微妙に苦笑を浮かべた。
 その一方で。
「うわ、この写真すげー。有名な人、いっぱいいるよ」
 壁に飾られたパネル写真をしげしげと眺める悠司に、欅がつぃと事務所の中へ視線を投げる。
「すぐそこに‥‥生で有名な人がいると思いますけど」
「そういえば、そうだよな。遊びに来てから言うのもなんだけど、もしかして僕ら、場違いっぽくない? 大丈夫?」
「大丈夫だよ。誰でも皆、最初は同じだからね」
 にわかに不安げな顔をする悠司に、川沢は笑って中へ入るよう促した。

●仁義なき豆合戦
 ひとしきり事務所で和んだ者達は、メインフロアへ移動する。
「それじゃ、第一回Limelight杯、豆まき合戦を開始しま〜す!」
「合戦なの? で、第一回なんだ?」
 笑顔で宣誓するベスに、思わず慧が突っ込んでみる。
「で、鬼役は‥‥欅さんと希蝶さん、アリエラさんに佐伯さん?」
「俺もかよ」
 確認する千春に、佐伯はがっくりと肩を落とした。
「元気出してよ。佐伯さんの為に、鬼の仮装用にシークレット獅子鬣も用意したわ」
「するなっ!」
 笑顔の千春に、佐伯は全力で否定する。が、追い討ちをかけるように、希蝶が黄色と黒の虎縞の物体を差し出した。
「それから、コレもつけてもらわないとね」
「‥‥ナンだコレは」
「縞々マント、あーんど縞々パンツ。俺とお揃いだよ!」
 すこぶる楽しげな希蝶と裏腹に、どんよりとした空気に潰される佐伯。
 オーナーを放置して、彼は欅とアリエラにも同様の虎縞衣装を渡す。
「欅には縞々ちゃんちゃんこで、アリエラのは縞々フリルエプロンだから! 着て着て!」
「‥‥ちゃんちゃんこ‥‥」
 ショックを受けたような欅が、手渡された縞々を凝視し。
「欅さんは、さしずめ『ぐおにっ太郎』さんね!」
「何です、その愉快な名前は」
 片目を隠す程に長い前髪の下から、欅は少しだけ恨めしそうに千春を見やった。
「これ、希蝶さんが作ったの? 器用だね〜」
 そんな野郎ドモの一方で、アリエラは早速エプロンを広げて胸に当ててみる。
「うん。夜鍋して!」
 笑顔でサムアップサインを見せる希蝶の指には、あちこち絆創膏が巻かれていたりもするが。
「佐伯さん、鬼仲間ですね。よろしくお願いします」
「あ〜‥‥よろしくな。お互い、災難っぽいな」
 改めて会釈をする欅に、縞々の物体に嘆息しながら佐伯がひらりと手を振り。
「わ〜い、鬼仲間〜!」
 楽しげに、アリエラは着物の上からエプロンをかけた。

「豆は、枡に入れればいいかな」
「その方が、雰囲気あるよね」
 炒った大豆を、丹と慧が人数分の木の枡へと分けていく。
「ま〜めっ、ま〜めっ」
「豆豆豆〜っ!」
 壱夜とラキアが、仲良く主張しながら順番待ちをし。
「君は、いいのかい?」
 賑やかな光景を目を細めて眺める黎へ、川沢が声をかけた。
「はい。俺は、壱夜が目いっぱい楽しむ顔が見られれば、それで」
「それならいいけど‥‥彼は、それでいいのかな」
 黎が小首を傾げていると、壱夜が豆の入った枡を両手で持って、駆け寄ってくる。
「ミテミテ、いっぱいもらったー!」
「ああ、よかったね」
 髪を撫でる手に、嬉しそうに壱夜が白猫の耳を伏せて尻尾を揺らした。
「アルは豆、もらわない?」
「俺は見てるだけでいいよ」
 黎の答えに、無邪気な少年は「う〜ん」と唸り。
「じゃあ、あとで一緒に食べヨ?」
「うん、判った」
 返ってきた答えに、壱夜はまた大事そうに枡を抱えて、戻っていった。

「節分といえば、やっぱりMAMEMAKIだな。腕が鳴るぜ」
 何故かぐるぐると肩を回して、LUCIFELがウォーミングアップをする。
「洒落た風に言っても、豆まきは豆まきだぞ」
 諦め気味の佐伯が溜め息混じりに言うが、LUCIFELは人差し指を振り。
「そこは、気分だって」
「豆まき、何年ぶりかなぁ。思いっきり投げられるなんて、嬉しいな」
 枡の豆をすくっては戻す悠司に、佐伯はがっくりと脱力する。
「思いっきり投げるな」
「え? でも、後片付けするし」
 悠司の後ろで、「うん!」とベスが代わり(?)に答えて。
 どう足掻いても覆らない状況に、『言いだしっぺ』はそれ以上言及する気力を失った。

「そ〜れっ。おにはぁぁぁぁぁっ、そとぉぉぉぉぉぉぉっ!」
 渾身の力で、ラキアが豆を『鬼達』へぶつける。
「ちょっ‥‥待て! 思いっきり投げるなっ!」
 当然、『的』として狙いやすいのから狙われ。
「でも手加減したら、邪気を追い払いきれないじゃん? だから全力投球、多粒入魂!」
 ラキアだけでなく、LUCIFELも嬉々として豆を投げる。
「あはははは〜〜! 投げて投げて、もっと投げて〜!」
 逆に、虎縞マントを袋状に広げて豆をキャッチする体制の希蝶は、率先して豆に当たりに行く。
「希蝶さん‥‥マゾ?」
「ううん。明日のおやつ! もしくは、非常食!」
 思わず問う慧に、いい笑顔で希蝶が答えた。
「じゃあ、遠慮なくぶつけるよ? オニは〜ウチ! ふくは〜ソト!」
「壱、それ反対」
 黎の指摘に、豆を握ったポーズのまま壱夜が首を傾げる。
「えぅ? 反対?」
「鬼は外、福は内。鬼を外に追い出して、幸福を呼び込むって意味だからね」
「じゃあ、やり直し! オニは〜‥‥えっと、ドッチ?」
 振り返って尋ね直す壱夜に、思わず黎はくすくすと笑った。

「あれ? 豆まき、もう始まって‥‥るんだよね?」
 鬼の面を斜めにつけたアリエラが、きょとんと不思議そうな顔で鬼の凸凹コンビを眺め。
 それから、後ろを振り返る。
「う〜ん。可愛い鬼なら、鬼も内でいいかも」
 頭を撫でる丹に、アリエラはつられて微笑み。
「って、マコ兄様。それだと豆まきにならないよ?」
「大丈夫。その分、他の鬼さんが頑張ってるから」
 丹の言葉に、アリエラは表情に疑問符を浮かべた。
 そこへ。
「アリエラさん、覚悟〜っ!」
 構えた千春が、一掴みの豆を投げ。
 二人の間に、すっと長身の影が割り込む。
 投げた豆は、バラバラと割り込んだ相手に当たり、アリエラまでは届かない。
「あ、もう。欅さん、それズルくない?」
「‥‥でも怪我をさせたら、保護者二人が怖そうですから」
 欅がちらりとアリエラから視線を上げれば、笑顔の丹と目が合う。
「盾になってくれて、ありがとーっ」
 ぎゅーっと、アリエラが欅へ抱きつく。
「‥‥掴まれると、動けません。アリエラさん‥‥」
「というか、あれだよね。みんな、アリエラに投げないし。てぃ」
 そう言う悠司も、やはり欅へ当たるように豆を投げ。
「ぴよ? みんな、紳士だね〜」
「ですね」
 感心するベスに、欅が同意をし。
「でも、あたしは男の人じゃないし〜」
「そうよね」
 続いて千春が、賛同する。
「という訳で」
「やっぱりアリエラさん、覚悟〜っ!」
「あの‥‥挟み撃ちとか、ずるいですって」
 少女達の連携作戦に、慌てる欅。
「うりゃぁぁぁぁ、避けるなぁぁぁぁぁぁ! マコ兄は俺が護るんだぁぁぁぁぁっ!」
「むしろ、当てにこぉぉぉぉぉぉぉい!」
 その横を、豆を撒きながら追いかけるラキアと、逃げながらも迎え撃つ(?)希蝶が熾烈な戦いを繰り広げている。
「ラキ‥‥追い回す方が、鬼みたいだよ‥‥」
 眺める丹が、ぼそりと呟いた。
「それじゃ、僕も佐伯さんにぶつけてくるかな」
 まだ豆の残った枡を手に、丹が『戦線』へ繰り出す。
「ホント、元気だね。皆」
 すっかり傍観体制に入っている最年長者は、賑やかな『豆合戦』を眺めながら、のんびり緑茶を啜った。

●厄除け魔払い験担ぎ
 ようやく、ほぼスタミナ戦となった豆まきが終わった後。
 12人は恵方巻を作る組と、撒き散らした豆を掃除する組に分かれた。
「落ちたのを、ひとしきり集めてくれればいいからね。あんまり、バタバタ掃除しないように」
 川沢から掃除道具を受け取った壱夜は、黎の袖をくぃくぃと引く。
「おれは、アルと一緒にそ〜じ〜!」
「そうだね。二人で頑張ろうか」
「うん!」
「じゃ、私は向こうからラキ君と二人でするね」
「負けずにピカピカにするからーっ!」
 意気揚々と、ラキアとアリエラの二人も箒やモップを手にする。
 四人を見送ったLUCIFELは、一人残り。
「俺は、適当に‥‥川沢さんと?」
「そうなるね。女のコでなくて、残念だけど‥‥それとも、佐伯の方がいいかい?」
「どっちも‥‥チョット」
 そんな会話を交わしながら、こちらも掃除に取り掛かった。

「米と海苔とスダレと。あと、適当に具材を用意してあるし、なかったら作っても構わんから。ちゃんと、喰えるモン作れよ?」
「「「は〜い」」」
 疲れ気味に厨房の説明をする佐伯へ、仲良く声を揃えた答えが返ってくる。
 ひとしきり遊んだ者達は、厨房で恵方巻作りに取り掛かっていた。
「恵方巻って、七福神に倣って七つの具材を入れるのよね。何がいいかな〜」
「へぇ、そうなんだ」
 業務用冷蔵庫の中身をチェックする千春に、巻き寿司用のスダレをひっくり返していた慧が感心する。
「あれ? もしかして、慧さんは恵方巻って初めて?」
 酢飯を用意しながら丹が聞けば、スダレを透かし見ていた慧は一つ頷き。
「うん。うち、父親がイギリス人だからさ。正月は親戚で集まるから何となく判るけど、それ以外の日本の伝統行事ってあまりやらないから‥‥節分も、ちゃんとやった事なくって。だから、豆まきも恵方巻も初めてだよ」
「僕も、恵方巻は初めてかな。やった事ないから凄く楽しみ! 料理は、全然できないけど!」
 満面の笑みでカミングアウトする悠司に続いて、ベスもしゅたっと手を挙げた。
「あたしも、料理しないけど〜っ! 御飯と海苔と巻くだけなら、お握りみたいで簡単だよね? よね?」
「それを言っちゃうと、僕も料理は得意じゃないけど‥‥」
 ここへきて次々と明かされる『事実』に、丹は軽く目眩を覚える。
「まぁ、巻き寿司なら簡単といえば簡単‥‥かな? でも、恵方巻は全国共通だと思ってたなぁ。豆まく時間はなくても、太巻きはラキと絶対食べてるし」
「でもさ。集団で同じ方角向いて、無言で太巻きかじる姿は‥‥シュールだよなぁ」
 海苔の上に酢飯をのせ、巻く具材を思案する希蝶へ、うんうんと首を縦に振って丹が同意する。
「そうそう。切り分けてあるのと、そのまま一本丸かぶりじゃ、精神的に何かが違うよ。子供の頃、泣きながら食べたしね‥‥顎疲れるし、声出せないし、食べても食べても終わらなくって」
「泣きながらって‥‥想像すると、ちょっと可愛いかも」
 くすくす笑う千春へ、「子供の頃だよ?」と困惑顔で丹が念を押し。
「確かに‥‥子供で太巻き一本は、プレッシャーでしょうね」
 シーチキンとキュウリといった、あっさり系の具をあしらっていた欅が呟いた。
「でも縁起物だから、切っちゃうとダメなのよ」
 思う具材が足りないのか、千春がコンロに火を入れて調理を始め。
「切らないって事は、何が具に入ってるか判らないって事で、楽しいけどね! えっほえっほ、えっほ〜まっきまき〜っと」
 珍妙な鼻歌を歌う希蝶の手には、納豆のパックが握られていたりする。

 美味しそうな香りが漂う厨房には、何やら怪しげな気配も一緒に漂っていた。

●恵方巻耐久完食競争
「はい、おまたせっ!」
 ホールの中央へ集められたテーブルへ、千春が通常の1.5倍はボリュームがありそうな巻き寿司の皿を置く。
「これが鬼のように具をまいた、富士川流『具鬼巻き』よっ!」
「ぴ〜。これが具鬼巻きなんだ?」
 純粋にベスは感心し、自らネタとなった千春は完全に開き直っていた。
「おいしそう‥‥な、気がスル!」
「壱‥‥」
「だって、アル。巻いてあるから、中身わからないヨ?」
 苦笑してたしなめる黎に、壱夜は恵方巻を指差し、くっくとLUCIFELが笑う。
「そりゃあ、もっともだよな。俺達は厨房見てないし」
「食べられるかな‥‥」
 食が細めの慧が不安げに呟けば、厨房へ引き返す千春が「大丈夫よ」と答える。
「ちゃんと、細目のもあるから」
 そして次に出てきた皿には、直径5cmほどのスタンダード・サイズな恵方巻が並んでいた。
 もっとも『具鬼』の隣に並べれば、細巻きに見えるのだが。
「で。これ、どう見ても人数分より多いけど?」
 ひぃふぅみぃと本数を数えるラキアに、希蝶が胸を張った。
「うん。何故なら人生は、勢いと刺激で出来てるから!」
「そうだね。一本づつ丸かぶりしたら、残りは切って分けようか」
 丹が人数分の取り皿を配り、ドレを取るか迷うアリエラの指が右へ左へうろうろしている。
「鬼が食べても平気だよね。太いのは一本でお腹いっぱいになりそうだから、小さめにしようかな〜。どれを誰が作ったかは、内緒?」
「内緒の方が、面白いかな?」
 意味ありげに悠司が笑って、恵方巻の山からひょいと一本を取り上げた。
「今年は壬の年だから、北北西‥‥かな?」
 きょろきょろと店内を見回す悠司に、緑茶を入れながら慧が「そうだね」と頷き、川沢は佐伯を見やる。
「店だと、どっちになるかな」
「あ〜‥‥ステージ辺りになるか」
「じゃあ皆、ステージにちゅ〜も〜っく!」
 ビシッ! と、ベスがステージを指差し。
「最初に願い事をしてから食べて、食べ終わるまで喋ってはいけないんですよね」
 慧と共に茶を配っていた欅が確認し、うりゅ。と微妙に壱夜が不安をみせる。
「ニコニコしながら 無言で食べルの、タイヘンそう‥‥」
「つべこべ言わず、一本丸ごとを休まず食べきるべし。これ常識! って事で、Let’s eat!」
 賑やかに、LUCIFELが音頭を取り。
 集まった十四人は、それぞれチョイスした恵方巻を一斉に食べ始める。
 それは確かに、ある意味でかなりシュールな光景だった。

 もぐもぐ。
 もきゅもきゅ。
 がふがふ。
「ぅ‥‥げほっげほっ」
 はぐはぐ。
 もしゃもしゃ。
 むぐむぐ。

 茶の助けなどを借りつつ、誰もが恵方巻を頬張る。
 ある者は、巻きの大きさに苦戦し。
 またある者は、思いがけない具にむせる。

「う〜ん‥‥やっぱり無理。これ一本丸ごとは、きついね‥‥」
 女性に配慮して大き目の巻きを選んだ丹が、まずギブアップする。
「ていうか、このネバネバな具、なにーっ!」
 むせながらも何とか食べ切ったラキアが訴えれば、特大の『具鬼巻』をぺろっと平らげた希蝶が挙手する。
「それ、俺が巻いた〜」
「お前かっ、お前かぁぁぁ〜っ!」
 希蝶の肩を掴んでがくがく揺するラキアに、笑い出しそうになりながらも悠司は巻きを飲み込んだ。
「佐伯さんが止めてなかったら、もっと凄いのが出来てたよね」
 ようやく話せた悠司に、寿司の手を休めて茶を飲む佐伯が頷く。
「せっかく、ロシアン巻きにしようと思ったのに。ワサビとか辛子の効いた激辛巻きに、各種ジャム入りの甘いヤツに‥‥」
 ついえた野望を指折り数える希蝶に、最後の一口を口へ放り込んで、佐伯は口を開いた。
「ある程度は美味しく喰えるモノを作らんと、材料がもったいないだろうが」
「あ〜、顎が疲れたぁ〜。で、『具鬼』の具は何だったの?」
 やっと食べ終えたアリエラが問えば、同様に口直しの茶を飲む千春が指折り数える。
「玉子焼きにきゅうり。ハムにカニカマ、レタス、豚しょうが焼き。あとは紅しょうがと‥‥」
「凄いね、僕じゃ食べきれないや。というか、案外食べるんだね‥‥皆」
 残った恵方巻を少しずつ食べながら苦笑する丹に、一仕事終えたLUCIFELがふぅと深く息を吐いた。
「そこは、気合だろ」
「ごめん。僕もちょっと‥‥さすがに無理だった」
 善戦していた慧も、遂に音をあげる。
「う〜、うぐ〜っ」
「ほら、無理しなくていいから」
 口にいっぱい頬張って何やら訴える壱夜に、黎が笑いながら茶を渡した。
「さすがに、一本丸ごとは堪えますね。量的なものはともかく、黙って食べるというのが‥‥」
 一息ついた欅に、ベスが首をぶんぶんと縦に振り。
「やっぱり、食事は皆で楽しくお喋りしながら食べるのがいいよね!」
「‥‥ベスさん。まだ終わってないよ」
「ぴ〜っ! 願い事が逃げちゃった‥‥」
 にこやかに川沢から指摘され、まだ恵方巻が残っているベスは肩を落とす。
「まぁ、あくまでも験担ぎだからね」
 慰める川沢の横から、壱夜がにゅっとコンビニのビニール袋を出す。
「コレで一緒にエホウマキ、やり直す?」
「ぴよ?」
 袋の中身を見たベスが、珍しく困った顔をした。
「ロールケーキ1本は‥‥ちょっと無理かも‥‥」
「そっか。おれはやるヨ〜。だって、おかしは「ベツバラ」だから〜」
 嬉しそうに壱夜はフルーツ入りのロールケーキを取り出し。
「私も買ってきたから、欲しい人がいたらデザートにどうぞ」
 千春もまた、持参したフルーツ・ロールケーキをテーブルの上に追加する。
「とりあえず、まだ巻き寿司が残ってるし‥‥切って皆で食べようか」
 残った恵方巻を切る為に丹が立ち上がり、ラキアがキラキラした目で彼を見送る。
「うん。残ったら、持って帰るからね。家で天ぷらにしてもらうんだ〜!」
「俺も! 食費浮くし!」
 希蝶もまた、手を上げて主張した。
「あ、豆も28個食べなきゃ‥‥」
 思い出したように、アリエラが枡に残った豆を一粒一粒数え始める。
「ついでに、川沢の分も数えてやってくれ。40個」
「自分の歳の数くらい、数えられるから。何なら、佐伯が多めに食べておくかい?」
 横目で見やる川沢に、佐伯は「遠慮しとく」と嘆息した。

●『戦い』終わって‥‥?
「でさ。外見だけなら佐伯さんの方が鬼っぽいけど、中身は川沢さんが佐伯さんより鬼だろ」
「お前なぁ‥‥そんな話をしたら、ヤバいだろ。俺の身が」
「そうかな〜。実に興味深いと思うんだがな」
「それなら、サングラス外せ。」
「え〜。直で目が合ったら‥‥だし」
 LUCIFELと佐伯の会話を聞く慧は、笑い出しそうになるのを押さえている。
 節分の『二大イベント』を終えた後は、いつも通り賑やかな会話と食事が進みんでいた。
「セツブンってたのしーね、アル。あ。エンサン、デザートない〜っ?」
「壱‥‥まだ、食べるんですか?」
「うん! ベツバラのベツバラだし!」
 にっこりと笑って答える壱夜に苦笑しつつ、黎は口の端についたロールケーキのクリームを拭ってやる。
「お前んトコのは、どんだけ喰う気なんだよ。まぁ、なんか見繕ってきてやる」
 席を立つ佐伯を、「わーい!」と万歳して壱夜が見送り。
「そうそう、慧さん。今のうちに『縁起物の被写体』、もらってもいい?」
『当事者達』の目を盗みながら、千春がUSBフラッシュメモリを手に、慧へ『密談』を持ちかける。
「音響のセットはしておいたから、いつでもどうぞ」
 PAブースでセッティングをしていた川沢が、階段を降りながら声をかければ、まだ『慣らし』中のアイスブリザードを片手にアリエラが立ち上がった。
「じゃあ、せっかく集まったから、皆で演奏しよっ」
「そうですね。腹ごなしも兼ねて、一曲」
 欅がギターケースを取りに行き、他の者達も準備を始める。
「じゃあ、俺は聴く側にまわるかな。いつもは聴かせる側だし、レディの華麗な演奏と歌もじっくり注目したいしねぇ♪」
 テーブルに肘をつき、LUCIFELはアリエラ達へウィンクを投げた。

「れでぃーす&じぇんとるめん♪
 節分は豆を蒔いて厄を払うけど、ここでそれだけじゃ物足りないよね♪☆
 Limelightの節分はステージの上で 楽しく音を蒔き散らそーっ!!」
 ライブさながらに、明るいベスのMCを待って。
 まず欅がベースギターで、土台のリズムとコードを作り上げる。
 それに合わせて、アリエラはシャープな旋律を奏で
 希蝶が軽妙に、エレキギターの金属弦を弾いた。

「 春を呼ぼう声を併せて
  明ける空に鼓動を感じるから 」

 ベスが一節を唄い出し、フルートで千春は暖かい春の空気を添える。

「 明の方を遠く眺めてみれば
  雪の向こうに笑顔が見えた

  ヒイラギの葉はかさかさ鳴って
  季節の変わり目教えてくれる 」

 丁寧に、注意深くピアノのキーを抑えながら、柔らかな声で唄う慧に。
 続く悠司は、手拍子でリズムを取る。

「 凍える季節は日差しに融けて
  眩しい輝きに目が眩むほど 」

 慧のピアノがリズムを引き継いだのを確認した欅は、ベースをヴァイオリンに持ち替えて。
 深く響く弦の音へ、フルートの代わりに千春が自身の喉を重ねる。

「 花と空が顔合わせれば
  種が芽吹く 雨が還ってくる
  暖かい木漏れ日の奏でる鼓動を聞こう 」

「 花咲き鬼の 置きみやげ
  笑顔ほどけて ほら、春が来る 」

 笑顔でアリエラが、その後を受けて。
 そして最後に全員で、もう一度フレーズを繰り返した。

『 花咲き鬼の 置きみやげ
  笑顔ほどけて ほら、春が来る 』

 そのまま曲は幕を下ろさず、それぞれの腕を競うように、即興のメロディが繰り出される。
 テーブルに両手で頬杖をつくラキアは、身体でリズムを取りながらステージを眺めていた。
「皆楽しそうー。楽しいのいいよねー。そういえば当時、全員集合初リバティーってここだったね! 懐かしい!」
 振り返るラキアに「そうだね」と笑みを返し、思い出に丹が目を細めた。
「あの時は、四人で‥‥皆で、リバティ号に乗り込んで」
「うんうん! フリジア歌ったの、覚えてるー。あれホワイトデーだっけ。もうすぐ一年、たっちゃうねー。時がたつのは、早いもんだ! 僕、あれからちょっとは成長してるかな。してるよね?」
 無邪気にラキアが問えば、『アドリバティレイア』のリーダーは弟分の頭を撫でる。
「してるよ、ちゃんと」
「そっか。これからも、よろしくね!」
「うん。六人、皆でね」
 騒々しくも華やかな演奏が終われば、ステージのメンバーへ丹とラキアも拍手を送った。