Chain Reactionヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 3Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 普通
報酬 6.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/10〜02/13

●本文

●竜の古城
 微かに、高い音が響いた。
 鈴の音にも鐘の音にも似たそれは、細い残響を部屋にたなびかせ。
 書面をめくる節くれだった指が、止まる。
「共振が、狂ったか‥‥」
 静けさを取り戻した空間に、短く低い声が重く落ち。
 止めた手で、テーブルの傍らにある呼び鈴を二度、押す。
 澄んだ音が消える前に、木の扉が重々しく開き、不在の執事に代わってメイド長が恭しく一礼をした。
「お呼びになりましたか」
「うむ。アレが黒森より戻り次第、出かけねばならん用ができた」
「承知致しました。では、用意をさせておきます」
 理由も行き先も問う事なく、メイド長は『アルタードラッヘン』の長に再び頭を下げ、部屋を辞去した。

●燃える家
 床に放り出されて蓋のずれた箱から、束になった写真が散らばり、床に広がる。
 棚に綺麗に収められた本は、取り出しぱらぱらとめくった後、写真の上へ投げられて、山を作り。
 引き出しの中身はベットの上にぶちまけられ、クローゼットの中も全て放り出され。
 それでも満足しないのか、部屋を飾る額入りの絵や写真まで剥ぎ取られる。
 全ての部屋が、そうして調べ尽くされた末。
「‥‥悪く思うな。少々、予定が変わったからな」
 雪に包まれた森の中、舞い上がる赤い炎を前に、抑揚ない声が淡々と呟く。
 燃え盛る炎は、家人不在の木造家を舐め尽くし、燃やし尽くし。
 極夜の空には、ゆらゆらと赤い光の帯が輝いていた。

●予定変更
「それで、体調の方はどうなのだ」
 尋ねる相方に、フィルゲン・バッハはしみじみと溜め息をつき。
「君の顔を見てたら、また頭痛がしてきた」
「なにをーっ!?」
 その返事に、レオン・ローズが驚愕する。
「こうして、見舞いに来てやったというのに!」
「ルームシェアしてて、見舞いもへったくれもあるか。てか、叫ぶな。また頭痛がぶり返す」
 自室のベッドで横になるフィルゲンは、自宅療養を言い渡されていた。
 先の黒森の地下探索より戻ってから、頭痛や眩暈、耳鳴りが取れずに体調が優れず。WEA御用達の病院にて検査の結果、しばらく様子を見る事となったのである。
「そもそも、僕が居なくても撮影自体は出来るだろ? 撮影スケジュール自体を止めなくても‥‥」
「だが、大事は取った方がよいであろう? 撮影が始まれば、どうせ大人しく寝てはいまい」
 珍しく真顔のレオンに、フィルゲンも返す言葉はなく。
「それよりも、だ。社長より、見舞いの品を預かってきた」
「マーカス社長から?」
 レオンはごそごそとポケットを探ると、ソレをつまんで取り出した。
 キーホルダーの金属製の輪っかに、小さな鍵がぶら下がっている。
「本の鍵の、合鍵か」
「うむ。どうせ気になって、ゆっくりしておる気もないのだろう? ならば、気になる事をさっさと片付けるべきであろうというのが、社長の弁である」
 鍵を相方に渡すと、レオンは乱雑な机の上から鍵付きの本を取ってきた。
 様々な文様が刻まれた銅版で装丁された、小さな本。
 その小さな鍵穴に、フィルゲンは小さな鍵を注意深く差し込む。
 軽く捻ると、カチリと小さな音がして。
 本を封印する帯が、外れた。
 ぎゅっと唇を結び、息を詰めてフィルゲンがページを開けば、古びたページには黒いインクで文字が綴られている。
「これは‥‥なんと書いてあるのだ?」
「‥‥判らない」
「む!?」
 眉根を寄せるレオンを他所に、フィルゲンは注意深くページを一枚一枚めくる。
「これも、今のドイツ語じゃない。中高ドイツ語か、それとももう一代古い古高ドイツ語か‥‥」
「だが読めぬとなると、内容が判らぬではないか」
「多分、城へ行けば‥‥調べられると思うけどね。古い文献も、沢山保管していたと思うから」
「また、あそこか」
 今度はレオンが嘆息し、やれやれと肩を落とす。
「ま、仮にも病人を、一人でやる訳にもいかんしな」
「レオンもくるのか?」
「助力を頼んでおいてやる」
 胸を張る友人に、フィルゲンはまた頭痛がぶり返す気がした。

●今回の参加者

 fa0898 シヴェル・マクスウェル(22歳・♀・熊)
 fa1032 羽曳野ハツ子(26歳・♀・パンダ)
 fa1616 鏑木 司(11歳・♂・竜)
 fa2010 Cardinal(27歳・♂・獅子)
 fa3728 セシル・ファーレ(15歳・♀・猫)
 fa3736 深森風音(22歳・♀・一角獣)
 fa3843 神保原和輝(20歳・♀・鴉)
 fa4478 加羅(23歳・♂・猫)

●リプレイ本文

●秘密ぶっちゃけ会議
「さて‥‥城へ行く前に、話し合わねばならん事があるようだが」
 険しい表情のCardinal(fa2010)が、腕組みをして事情を知る者達の前に立ち塞がっていた。
 いや、現実には立ち塞がっている訳ではないが、どうしてもガッチリとした体躯と長身に見下ろされると、蛇に睨まれた蛙な気分で。
「私は状況が判らないから、立場的にはCardinalさんと同じかな。といっても‥‥ね」
 神保原和輝(fa3843)も前回の仔細を知らぬ側だが、別方向の知識欲が疼くのか気にする風ではない。
 一方で、居合わせた六人は顔を見合わせ、複雑な表情を浮かべた。

「え‥‥壊れた?」
 目を瞬かせ、フィルゲン・バッハは思わず鸚鵡返しに聞き返す。
「ああ。能力を当てて調べていた時に、あっさりと。跡形もなく」
 赤い髪をぽしぽしと掻きながら、溜め息交じりでシヴェル・マクスウェル(fa0898)が深森風音(fa3736)を見やった。彼女の言葉を裏付けるように風音も頷き、改めて頭を下げる。
「説明が遅くなって、すまないね。いろいろと慌しくて、話しそびれてしまったんだよ」
「あ‥‥いや、まぁ。僕もノビちゃったしね。そうか、あの時それが原因で‥‥皆‥‥」
「それで、フィルゲンさんの体調の方は、どうですか?」
 心配そうに鏑木 司(fa1616)が尋ねれば、バツが悪そうにフィルゲンは苦笑した。
「うん、大分いいよ。ほら、皆と違って日頃鍛えてないからね」
「不摂生の賜物というヤツであるな」
 ニヒルっぽく顎に手をやって笑ってみせるレオン・ローズに、相方が頭を抱える。
「なんで、君がいるんだ」
「セシル君の、たっての願いでな」
「はい。暇そうなので、こき使おうと思って」
「なにーっ!」
 笑顔で答えるセシル・ファーレ(fa3728)に、衝撃を受けるレオン。どうやらその辺りの事情は、聞いていなかったらしい。
「レオン監督が暇かどうかは、さておいて。この件は、城の人達には内密にしておこうと思うんですけど‥‥」
 どうでしょうと提案する加羅(fa4478)だが、Cardinalとシヴェル、風音はやや微妙な表情をしていた。
「何か‥‥あったりなかったり?」
 微妙に体温の違う様子に、フィルゲンは首を傾げる。
「隠蔽するよりも、速やかにダーラント老に知らせた方がいいんじゃないかと思ってな」
「ぅ‥‥大叔父さんに?」
 Cardinalの言葉を聞いて、当事者も何ともいえない顔をした。
「僕、どうも苦手なんだよな‥‥あの人」
「気持ちは判らんでもないが、些細な事にこだわって取り返しのつかない事になる方が問題だと思うが」
「うん。Cardinal君の言う事は、もっともなんだけど‥‥けど‥‥!」
「はいはい。それをどうするかは、また後でね。あまり思い詰めると、体調に響くでしょ」
 ぺちと、フィルゲンの額を羽曳野ハツ子(fa1032)が叩く。
「持っているカードは先方の方が多いのは確かなんだから、馬鹿丁寧に事の一部始終を説明する事はないわよ。それに、仮にも遺跡の『監視役』を名乗っているなら‥‥」
「既に知っている可能性もあるか。ならば尚更、知らせておくべきではないか?」
「そこはもう、堂々巡りですね‥‥」
 加羅が嘆息し、司は心配そうに話の流れを見守っていた。
「ともあれ、本が開いたから私達が来た訳だ。フィルゲンとしては、もうちょっと看病されていたいだろうが‥‥まじない程度に、コレを貸しといてやるから」
 湯気を吹く勢いで、フィルゲンがぼふんと赤くなり。からからとシヴェルは笑いながら、魔除けになるという蝶が封じられた琥珀を手渡す。
「あ、それから和輝さんに、お願いがあるんだけど‥‥急がないけど、いいかな」
 おずおずとセシルが尋ね、和輝は不思議そうな顔をした。

●古城の資料室
 主のいない城を訪れた一行を、メイド長や執事は特に動揺や拒絶もなく迎え入れた。
 古い文献を閲覧したいというフィルゲンの『注文』に、疑問や目的を問う事もなく。案内された部屋−−古紙の匂いが充満した資料室で、10人は小さな本の『解析』に取り組む事となった。
「バッハ家の人の頼みなら、何も言わずに聞いてくれるのね‥‥私達の時は、なしのつぶてだったけど」
 和輝が窓のない部屋を見回し、積もった埃に注意しながら本棚の書物のタイトルを眺める司は苦笑した。
「そうですね。少し意外でした‥‥てっきり、当たり障りのない対応をされるのかと思ってましたから」
「といはいえ、フィルゲンが一緒でないと、それ以上の自由行動は難しそうだけどね」
 シヴェルは、面白そうなモノへすっ飛んでいきそうなレオンの首根っこを、しっかと掴まえている。
 ずらりと並んだ本棚は、時代ごとに様々な文献が収められていた。物によっては時代ごとにその都度、当時の言語で編纂し直されているものもある。
「この短期間で本の内容全部を翻訳し直すのは、ちょっときついわよね。とりあえず、どの言語か目処をつけた方がいいかしら」
 封緘していた鍵が外された本を前に、ハツ子が呟く。
「といっても、さすがに私達はドイツ語が読めないからね。セシルちゃんと、フィルゲンさん頼みになるな」
 興味深げに本のページをそっと捲っていた風音が、頼りになりそうな二人を見やった。
「中高ドイツ語か、もう一代前の古高ドイツ語だと思うんだけど‥‥どちらも黒森近辺でも使われていた言語で、いま使われているドイツ語とは少し文法が違ってね」
「ニーベルンゲンの歌が出来た頃に使われていたのが、中高ドイツ語だったわよね」
「ほへ〜‥‥そうなんですか」
 素直に感心するセシルに、「私なりに下調べしたのよ」とハツ子は胸を張る。
「体調が微妙なフィルゲンさんに、無理させる訳にはいかないからね」
 ぼそりと横から突っ込む風音を、ハツ子はじーっと横目で見。
「でも、古い言葉ならそっちの専門家さんにお願いしたら、ダメでしょうか?」
 素朴なセシルの疑問に、加羅は思案顔で腕組みをした。
「それはさすがに‥‥本の内容が内容だと、問題がある気がしますね。その専門家さんが人間なら、いろいろと不味い事になるかもしれません」
「あ‥‥そっか。いい考えだと思ったんですけど‥‥」
 がっくりと肩を落とすセシルの頭を、和輝が撫でて慰める。
「残念だけど、仕方ないからね」
「まぁ、何だ。八つ当たりは、レオンにぶつけて解消する‥‥という事で」
「ストレス解消用かー!?」
「ほらほら、騒がない」
 がっしとレオンの首に腕を回したシヴェルが、キリキリと締め上げた。その表情は、どこか楽しげで。
「‥‥物理的に黙らせるのはいいが、死なない程度で頼む。一応は、素人だからな」
 ガッチリと見事にキマッっている首締めに、Cardinalが苦笑する。
「ともあれ、相談しているだけでは進まないからな。その本を読み解く力になるのは難しいが、この棚の高い場所にある資料を取るなら遠慮なく言ってくれ」
 腰に手を当てたCardinalは、天井まで届く本棚を見上げ。
 地味で面倒な作業が始まった。

●疑問は山積する
 文献をそのまま読み解く事は、時間的にも読解力的にも難しく。
 従って似た表現や、言い回しを探してアタリを付けていく。
「同じ文字の羅列を探すパズルなら、私達で出来ますね」
「そうだね。体調が悪い人に、無理をさせるのも悪いし」
 文字を見比べる和輝に、どこか楽しそうな風音が頷く。件の人物を振り返れば、休憩中のフィルゲンにハツ子が『妻』として甲斐甲斐しく世話をしていた。
「風音さんが薬湯を煎じてくれたから、ちゃんと飲んでね。フィル」
「そしてここは日本の伝統に倣って、『いつもすまないねぇ。げほげほ』『それは言わない約束よ』という、三段展開であるなっ!」
「いっぺん、死んでみろ」
 相変わらずマイペースなレオンを、げしげしとフィルゲンが蹴った。

 アタリをつけた言葉は、他の書籍と照らし合わせて現代の言葉へ置き換え。
 判る箇所は現代語に書き直し、判らない場所は飛ばし。
 最初は順調に見えたその作業だったが、中盤から後半にかけては飛ばす箇所の方が増えてきた。

「そもそも、この本は何の手がかりで‥‥どこから持ってきた物なのかしら」
 不意に、ハツ子がそんな基本的な疑問を口にする。
「ね、どんな人なの? その本を持ってきた『従兄弟』さん。顔を知ってるっぽいメイド長に聞いても、答えてくれないのよね。『妻』なのに」
 困った様に、彼女は溜め息をつく。
「一族と深い付き合いはないし‥‥それに、調べれば籍が入ってないのがモロバレだし。何より、僕はアライグマだからね」
 自分の縞模様入り尻尾をフィルゲンが掴み、ふりふりと振ってアピールする。
「竜が守る事。それが一つの、決まり事なんですよね」
 竜の獣人としては気になるのか、司が考え込み。
 セシルはヌイグルミを抱き、猫の尻尾を揺らしながら、お菓子をつまんでいた。
「遺跡の中は、迷路な造りだし‥‥もしかして遺跡とお城の地下が繋がってる事は、ないですよね? 古い時代の脱出路とか、想像したんですけど」
「それにしては、随分と距離がありますけどね」
 加羅の指摘に、セシルは「う〜ん」と唸ってヌイグルミの手を振り。
「でも、遺跡自体も‥‥白いので一つの塊なら、凄くおっきくないです?」
「ええ。あの後、全体がどうなったか気になりますが‥‥破片一つないのも不思議です。シヴェルさんの推測ですと、魔力の強い人が気分が悪くなったようですし。もしかして、何らかの力の集まりとか‥‥その類な気はしますが。
 それにアレが人工物だった場合、作った目的がありますよね。遺跡にあんな物を作る意味というと‥‥遺跡内の防御の為か、封印の為のどちらかくらいしか、思い浮かびませんけど」
「『ニーベルングの指輪』と照らし合わせて『竜が守る』という一点で考えれば、『ラインの黄金』に相当するんでしょうけど‥‥それで、フィルゲンさんの体調が崩れる理由とか。『古き竜』が、ニーベルンゲンにおけるどの存在に当たるかとか、気になりますね。遺跡の鍵を持っている訳ですし」
 更に司が疑問を重ねて、シヴェルが一つ大きく背伸びをした。
「バッハ家の役割と、遺跡そのものの目的‥‥か。最初のは天然洞窟に近い感じだったけど、二番目のは確実に人工物だったからな。見た感じ、オブジェと遺跡の関係が、いまいちピンと来なくてな」
「最初の遺跡に関しては、扉は『出さぬ為の物』だと執事が言っていたからな」
 Cardinalの指摘に、「そうなんだ」と改めて彼女は納得する。
「遺跡との関係はともかくとして。壊れた時の状況を考えると、アレは音が関係ありそうな感じはするね」
 風音が嘆息し、レオンはセシルの持参したおやつを摘む。
「フィルゲン君の体調で言えば、『バッハ家の血筋』だから体調が崩れた以外に、単にそういう事態に慣れていないからという単純な線もあるがな。そもそも、我らは荒事と縁がなかった故に。それに、『バッハ家の血筋』が反応するならば、何もない時にもある程度の影響が出るのが自然ではないか?」
「‥‥レオン監督が、凄く真っ当な事を言っている気がします。明日は雨でしょうか‥‥」
 毛繕いする様に、セシルが猫の耳の毛並みを手で整えた。

●過去との遭遇
「内容はともかくとして。書かれている言葉は、どうやら中高ドイツ語でほぼ合っているみたいだね。古高ドイツ語が混じってるような表現もあるから、1050年より少し後かな」
 フィルゲンの説明に、暇を見ては個人的に図書サロンの本を読んでいた司が首を傾げる。
「確か『ニーベルンゲンの歌』は、1200年付近に纏められたんでしたっけ?」
「うん。それよりも前の物なんだろうけど、出てくる言葉は『歌』に共通するものが幾つかあるね。『ニーベルング』『ジークフリート』『クリームヒルト』『ブルグント』‥‥」
 現代ドイツ語に置き換えた紙を読み上げるフィルゲンに、誰もが顔を見合わせた。
「確かに、聞き覚えのある言葉ばかりだね」
 興味深そうに、風音が目を輝かせる。
「ただ、内容は僕らの知っている話とは少し違っているようで‥‥ニーベルング族と、ブルグント族が戦った‥‥という事になってる。詳しくはちゃんと読み通してみないと判らないけど」
「それは、おかしいのか?」
 Cardinalの質問に、フィルゲンは頷き。
「『歌』にしても『指輪』にしても、ニーベルング族はブルグント族と戦わない。同時には、出てこないからね」
「なるほどなるほど。その辺に一つ、謎を解く手掛かりがあるかもしれないってコトね」
 腕組みをして、ハツ子が唸り。
「で、遺跡との関係は‥‥」
「フィルゲンさん、できたよ〜!」
 シヴェルの言葉を遮って、一枚の紙を手にセシルが駆け寄ってくる。本を解読する一方で、セシルは和輝の協力も得て、再度似顔絵へ挑戦していた−−暇そうなレオン相手に、である。
「この男の人が、本を渡した人。ですよね?」
「ええ。かなり似ていると思うけど」
 紙を受け取ったフィルゲンの表情が、にわかに曇る。
「本当に、この男の人?」
 再度確認し、セシルと和輝が首を縦に振るのを見て、彼は頭を抱える。
「どうかしたんですか?」
 加羅が問いを重ね、強張った表情でやっとフィルゲンが口を開く。
「この絵の『彼』は、僕の知る限りバッハ家には‥‥いないんだ」
「でも、メイドさん達は知ってるみたいだったよ?」
 眉を顰めて思案するフィルゲンの肩に、そっとハツ子が手を添えて。彼女を見上げた後、フィルゲンは一同の顔を見回す。
「遺跡の件も含めて‥‥一度、大叔父さんに会わなきゃな。気が重いけど」
 そして彼は、深く息を吐いた。

●ピンナップ


深森風音(fa3736
PCツインピンナップ
瑞貴進