Limelight:旅立つ日へアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
6.6万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
1人
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期間 |
02/23〜02/25
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●本文
●Limelight(ライムライト)
1)石灰光。ライム(石灰)片を酸水素炎で熱して、強い白色光を生じさせる装置。19世紀後半、欧米の劇場で舞台照明に使われた。
2)名声。または、評判。
●ライブハウス『Limelight』(ライムライト)
隠れ家的にひっそりと在る、看板もないライブハウス『Limelight』。
看板代わりのレトロランプの下にある、両開きの木枠の古い硝子扉。
扉を開けたエントランスには、下りの階段が一つ。
地下一階に降りると小さなフロアと事務所の扉、そして地下二階に続く階段がある。
その階段を降りきった先は、板張りの床にレンガの壁。古い木造のバーカウンター。天井には照明器具などがセットされている。そしてフロア奥、一段高くなった場所にスピーカーやドラムセット、グランドピアノが並んでいた。
フロアには、控えめなボリュームでオールディーズが流れている。
「そういや、ガッコはそろそろ卒業シーズンになるのか」
紫煙を吐きつつ、不意に呟いたオーナーの佐伯 炎(さえき・えん)に、音楽プロデューサーの川沢一二三(かわさわ・ひふみ)は奇妙な表情を返す。
「急に、何かあったのかい?」
「いや。店に来る途中で、見かけない中学生連中がいてな。こう‥‥セーラー服に、白襟っての? 正装になるヤツつけて、固まってたんで気になった」
「そうか。実は、そういう趣味が‥‥」
「ねーよ」
友人の冗談を速攻で否定して苦い笑いを返し、佐伯は灰を灰皿へ落とした。
「ただまぁ、公立高の試験とかって、そろそろだっけかなぁと思っただけだ」
「そういえば、そういうシーズンだね。大学入試はセンター試験の報道が多いから、風物詩っぽくなってるけど。中学の時ってのは、確かに‥‥あまり記憶にないな」
「もう、20年‥‥くらいになるか。ま、俺もあんまり覚えてねぇが」
煙草をくゆらせつつ、腕組みをして佐伯が考え込む。
「最近の高校かなんかは、3月だと生徒がこねぇから2月中に卒業式をやっちまうって話も、聞いた事があるしな。次のライブは、卒業にすっかな」
「随分と、気が早いね」
「ま、善は急げってやつだ」
笑いつつ佐伯は、川沢へ毎度の珈琲を出した。
●リプレイ本文
●旅立つ日へ
メインフロアには、観客の会話がさざめいていた。
客層は既に『卒業』して久しい者、『卒業』がまだの者、そしてこの春に『卒業』する者と様々で。
出演者に年少者がいる事を考慮し、いつもより早くライブは幕を開ける。
●マリーカ・フォルケン〜恋の終わり
「『卒業』。その言葉は、日本語では別の意味もありますよね。場違いかもしれませんけれど、そんな意味を歌に込めました。
聞いて下さい、『恋の終わり』」
白のドレスを着たマリーカ・フォルケン(fa2457)が、静かなメロディを奏でる。
すっかり彼女のライブスタイルとして定着した、ピアノの弾き語りで。
声には少し、甘えた雰囲気をのせて。
「 あの桜舞い散る公園で あなたに出会えた事
それは一つの奇跡
あなたと出会って どれだけの日々を過ごしたのかしら?
辛い事 悲しい事 嬉しい事 一杯一杯あったわね
あなたと一緒にいる事
それは私にとって当たり前の事よ
あなたも同じ気持ちで居てくれる そう信じていたのに
『何時までも二人でこうしていたいね』
ある日私が呟いた言葉。
でも あなたはゆっくりと首を振る
『もう恋人同士は終わりにしよう』って‥‥
驚く私に あなたは言うの
『だって、恋人という不確かなままで
君と居る事にもう耐えれそうもないから』
相変わらず 身勝手ね
もう 『イエス』としか言えないじゃないの
だから 黄昏の刻までそばに居てよね
あなたのもっとも大事な人として 」
ゆったりとした曲を終えると、演奏は一転して明るく軽快になり。
マリーカのピアノに歩調を合わせ、美森翡翠(fa1521)が月見里 神楽(fa2122)と共に、緊張気味にステージへ上がった。
●美森翡翠〜旅立つ前の
白襟に紺という学校の制服に、紺のベレーの制帽。
左右二つに結い上げた団子の髪型と服装で、尻尾と耳を苦心して隠す。
同じ衣装で揃えた二人とマリーカは、さながら学校の先生と生徒の様で、「可愛い〜」などと観客から声が飛ぶ。
かかとを揃えた翡翠と神楽は、身体でリズムを取り。
幼さの残るあどけない声を翡翠が響かせて、神楽がコーラスを添える。
「 今年は暖冬だと大人達は言っている
学校前の並木の桜が日々花開いていく
今年の入学生にはちょっと悪いけど
『花吹雪の中の卒業式も悪くないわよね』
級友の誰かが微笑んで言った
小さな箱庭の中で笑ったり泣いたり怒ったり
大人になるまでの猶予期間
慣れ親しんだ場所と人達と離れるのは寂しいけれど
段々世界が広がるのは怖くて楽しみ
春風の中を私達は駆けて行く
それぞれの目指す光に向かって
桜色の並木を抜けて
輝く緑の並木の先へ 」
アップテンポ気味の明るい『卒業歌』を、朗らかに唄い上げて。
贈られた拍手に、二人はぴょこんと頭を下げた。
●雪架〜ハルソラ
雪架(fa5181)はマリーカと入れ替わりで、ピアノの前へ腰を下ろした。
白い七分袖のTシャツに、濃灰色の五分袖Tシャツを重ね、ストレートのビンテージジーンズという、春めいたラフな服装で。
学生風のダテ眼鏡をかけ、銀の指輪を嵌めた指を鍵盤に落とす。
短く和音が、軽く二つ跳ね。
「 サクラ舞ウ Good−bye today,and... 」
爽やかな印象を纏って、よく通る歌声を追い。
リズミカルな機械仕掛けの音源が、ピアノの音を邪魔しない程度に続く。
「 この日が来ると知ってた
でもまだ遠いって思ってた
立ち尽くすとアシタは消えてた
振り返るとキノウしかなかった
また会えるねって 少し泣いて
また会えるよって そっと笑って
君はいつだって そんな風で
僕は一人 この場所で立ち尽くす 」
ハイスピードなテンポを背景に、語りかける雪架。
メロディラインは勢いをつけるように、軽やかに転調する。
「 (サヨナラ) 言わないで行ってね
(サヨナラ) 春の嵐が君を浚っても
花びらのあと 芽吹く緑があるように
僕も歩き出すよって 強がり言うよ
サクラ舞エ I go to tomorrow... 」
その想いを届ける様に、強く言葉を繋ぐ雪架は視線を彼方へ投げる。
余韻を残す様に、短くスキャットを入れて旋律を重ねて。
端正な指が、最後の一音を鳴らした。
●『azure』〜Dear Smiles
「卒業か‥‥僕は大学行ってないから、高校の卒業以来かな。あの時は寂しかったけど、思い出すと何だか温かい気持ちになるよね」
「私は、日々が門出よ。で、都合の悪い事は昨日に置いていくのっ」
きっぱり言い切る千音鈴(fa3887)に、慧(fa4790)が微妙な笑みを返した。
「日本では3月が卒業式だけど、他の国では違うんだよね?」
神楽が質問すれば、彼は一つ頷く。
「イギリスは、7月が卒業シーズンだね」
「それだと、桜がないからちょっと寂しいですね」
「そうだね」
答える慧は、神楽の襟元を飾る桜色のスカーフマフラーを整えて。
「じゃあ、行こうか」
言葉と共に、勢いをつけて立ち上がった。
暖色系の光が、ステージ全体を照らす。
オフ白の地に、裾に桜の花びらを散らしたワンピースに、桜色のシフォンロングスカーフを首に巻いた千音鈴が、アコースティックギターを弾き。
紙飛行機が一つ置かれたキーボードを、膝下丈の白いワンピースに着替えた神楽が奏でる。
アップテンポの明るいポップスに、白のシャツとスラックス、大き目のクリーム色のカーディガンを着た慧は、兎をモチーフにした銀のペンダントを揺らし、桜色のスカーフを手首に巻いた手を振って、ステージ上を動き回る。
「 鼻をくすぐるのは 優しい陽だまりのにおい
そこにあるのが当たり前の親愛なる笑顔たち
透き通る空気に溶けていく 賑やかなざわめきが
身体の奥まで染み込んで 取れてくれそうにない 」
ノスタルジックな雰囲気の旋律が、伸びやかに転調し。
「 僕らはそう 駆け抜けていくんだよ
未来へ続くステップを 高らかな靴音立てて 」
その場で慧が、軽くジャンプする。
それを合図にして、演奏は膨らみを持たせ。
暖かみのある慧の歌声に、千音鈴がコーラスを加える。
『 春風に乗って軽やかに 青空のその先越えていく(LaLaLa) 』
「 圏外からのラブレター 紙飛行機にして投げた
行方は誰も知らない でもそれでも構わない(LaLaLa) 」
『 つぼみが綻ぶ頃にはきっと 新しいステージへ 』
神楽のキーボードの傍らで足を止めた慧は、飾られた紙飛行機を取って、熱気へふわりと乗せる。
その先を拓く様に、神楽が大らかなメロディを紡ぎ。
それが絶えた後、ギターがサビのフレーズをゆっくりと弾いて、消えた。
●椚住要〜無題
白いシャツとジーンズに、明るい色のジャケットを羽織った椚住要(fa1634)が、慧と千音鈴の二人と入れ替わりにステージへ上がる。
軽くアコースティックギターの弦をストロークし、調律を確かめて。
少し早めのミドルテンポで織り成す音に、神楽はドラムの呼吸を合わせる。
「 うつろい変わり続ける時間の中
変わらない物を探してきた
やっと見つけたと思っても
記憶の中に消えてしまいそうで
旅立つ君に別れの歌を
寂しさを隠す別れの歌を
せめて涙は見せぬように
僕らの上にいつかと同じ雨が降る
それは舞い散る桜の雨 」
淡々と言葉を旋律に重ねる要は、一つ深く息を吸い。
その声へ、僅かに期待と強さを込める。
「 この日の僕らに春の歌を
暖かさに満ちた春の歌を
いつか再び出会えた時に
笑って話が出来るように
この優しい桜の雨を思い出せるように 」
久し振りに、『仕事』で一曲を唄い切って。
歓声と拍手に包まれながら、静かに要はステージを後にした。
●『Liberty+』〜風がつなぐ明日
何度か、深呼吸を繰り返す。
「大丈夫?」
笑顔で問う明石 丹(fa2837)に、椎葉・千万里(fa1465)は慌てて頷いた。
「なんか、緊張してしもて。明石さんらの持ち歌、うちのバイオリンで雰囲気わやくちゃ! みたいにならんよう、頑張らんとあかん思たら‥‥」
「チマちゃん。そゆ時には、「ひっひっふー」で息するといいよ!」
柔らかい千万里の髪を撫で、自信たっぷりにアドバイスする柊ラキア(fa2847)だったが。
「ラキ‥‥それ、妊婦さんだから」
「え〜っ」
丹に指摘されたラキアはうろたえ、千万里はくすくす笑う。
「お手をどうぞ、お姫様。綺麗なグリーンで、よく似合ってるよね」
若草色のミニワンピース−−スカート下はパニエとドロワースでカバーしている−−の千万里へ手を差し伸べて、丹が褒めれば。
「マコ兄! 俺は、俺は〜?」
ゴーグルを弾ませ、白いカジュアルスーツに若草色のシャツを着たラキアが横合いから主張する。
「勿論、ラキも似合ってる。すごく可愛いよ」
丹の服装も、ラキアと揃いの白のカジュアルスーツに若草色のシャツで。
千万里を二人がエスコートして、三人はステージへと向かった。
暖かな光に満ちたステージで、千万里は四つ葉のクローバーの栞を二人へ手渡し。
三人三様の弦楽器を手にして、ポジションへ着く。
千万里のバイオリンが、涼やかな音を軽やかに響かせて。
ラキアのエレキギターと、丹のアイスブリザードのベース音が、しっかりとそれについていく。
明るく弾む曲は、去年の同じ頃、同じ『卒業』をテーマとしたテレビのライブ番組で披露した一曲で。
−−今年も、色んな人の旅立ちの背中を、この歌で励ませたら。
そんな思いを込めて、丹は純銀のマイクへ声を通す。
「 何も言わなくても 手を伸ばせばそこにあったもの
フィルムの青空の下 鮮やかな笑顔がよみがえる
動き出した
さよならの応え お別れの音 風がつなぐ明日へ
握って ひらいて 踏み出して 」
『 手を繋ぎ 登ることはできないけれど
背を押した 僕らもっと強くなれるはず 』
丹とラキアの重なる声に、リズムを取る千万里がくるりとターンをし。
翻るスカートの裾が、風を起こす。
「 これからの未来 出会いの歌 風がつなぐ明日へ 」
そして、丹は二人を視線を交わし。
『 握って ひらいて 踏み出して 』
しっかりと確かめるようなハーモニーを、バイオリンの音が彩る。
暖かく、颯爽とした春風を吹かせて。
旋律がライブを締め括れば、拍手が沸き起こった。
●裏話
「お疲れ様でした! あの、これ、皆さんで食べて下さい!」
翡翠が持ってきた重箱を開けば、色とりどりの華やかな手巻き寿司が並んでいる。
「綺麗で、美味しそうね」
千音鈴の感想に、翡翠は照れた笑みをみせた。
「家では桃の節句の、恒例晩御飯メニューなんです。今日は、ありがとうございました」
「え〜っと、じゃあ神楽がお茶を入れるね。桜茶と梅こぶ茶を持ってきたけど、翡翠さんどっちがいい?」
お茶を飲む時間あるよねと、急いで神楽が厨房へ向かい。
「手伝いますわ、神楽さん」
その後を、マリーカがついていく。
「川沢さんや佐伯さんの学生時代って、どんな感じだったのかな? 僕はブームだったのもあって、バンド一色だったけど‥‥おかげで、いま歌ってる訳だけどね。思えば、あれも一つの旅立ちだったのかな」
丹の質問に、佐伯 炎と川沢一二三は顔を見合わせた。
「私達の時は、校内暴力とかが問題になり始めた頃だからね」
「卒業式ボイコットとかな。今なら、速攻で槍玉に挙げられそうな教師もいたぞ。態度が悪いの一列に並べて尻を蹴っ飛ばすとか、授業一時間丸ごと説教で潰したりとかな」
「そんな話‥‥実際にあったのか」
どこぞのドラマのような話に、要がぼそりと呟く。
「ところで川沢さんと佐伯さんはセーラー服派、ブレザー派? あ、違う。学ラン派、ブレザー派?」
茶を運ぶ神楽が、更に問いを重ね。
「セーラー服の、佐伯さん‥‥っ」
何を思い出したか、慧が必死で笑いを押し殺している。
「言っとくが、セーラーは鑑賞する方が好きだからな。で、制服は学ランだったな」
佐伯の返事に、ラキアが黒い瞳をうるっと潤ませた。
「佐伯さん、僕‥‥セーラー服着てきた方が良かった? そういう趣味だって知っても、僕は変わらず佐伯さんが好きだからねっ! 好きだからねっ!! 好きだからねっ!!!」
「三回も言うなっ!」
「ぎゃ〜、痛い〜っ!」
ゴーグルを掴まえた佐伯がその頭に拳骨を押し付け、ラキアが悲鳴を上げる。
「第二ボタン‥‥誰にあげたのかなって、気になったり」
そんな二人を見ながら、ぼそりと神楽。
「やっぱり、好きな人‥‥とか?」
聞きつけた千万里も、呟きに加わり。
「好きな人‥‥」
意味ありげに、慧も川沢を見た。
「内緒です」
「「「え〜っ」」」
抗議の声を聞かず、川沢は桜茶を啜る。
「次は、ホワイトデーだよね! 都合つけて、僕くるよ、くるよ! くるよ!! フリジアが歌いたい!! 他の皆もこれるといいなー、マコ兄は意地でも連れてくるけどっ!」
主張するラキアに、「意地でも連れてこられるの?」と丹が笑った。
「だけど、派手な衣装! 派手な舞台! みたいのより、こういう雰囲気の方がよっぽど緊張するよな。一人でやるの、久しぶりだったし‥‥」
今日の感想を口にする雪架に、慧も頷き。
「お客さんとの距離も、近いしね。ホワイトデーのライブ‥‥可愛いアクセサリーとか売ってるお店、ないかなぁ‥‥」
「ふ〜ん?」
思案する慧を、意味ありげに千万里が眺め。
「そういえばベスさん、昨日会ったけど卒業おめでとうって言ったら、逃げちゃった‥‥どうしたんだろうね」
神楽の報告に、彼女を知る者達は思わず茶を吹いた。