EtR:横たわる水ヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
フリー
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獣人 |
4Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
20.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/28〜03/04
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●本文
●難題
「先の通路らしき箇所の探索の結果、その下にまだ三つ目の広い空間があり、そこには一面の水‥‥が、確認されました。困ったものです‥‥」
思案顔で、WEAの係員が嘆息する。
砂で占められた第二階層を抜けた先には、迂回できない程の規模の−−地底湖とも思えるような水が、行く手を塞いでいた。
水面上には点々と島のようなものがあるが、一番近いものは水を飛び越えて進める間隔ではない。
水深も均一ではなく、確認されただけでも最大で腰の深さ程度はあると、先の探索では報告された。更に水が深い場所がある可能性は、もちろん否めない。
問題は、それだけでない。水に足を踏み入れた者を、意思を持って深みへ引き込もうとする『何か』が水中に潜んでいる事も、合わせて報告されていた。
「ここから、二つの階層を抜けて三つ目まで降りるだけでも、体力と時間が必要ですし‥‥通路の幅などを考えると、モーターボートのようなものを持ち込む事は難しいでしょう。かといって、ここで探索を断念する訳にもいきません。
潜水能力、あるいは飛行能力を有する獣人で探索チームを組んでしまう事は可能ですが、後々の探索を考えた場合、やはり水上の移動手段を確保する事は不可欠だと思われます。
こちらとしても出来る限りの協力は致しますので‥‥何とか、道を切り拓いて下さい‥‥」
重い口調で、係員はそう締め括った。
●リプレイ本文
●計画倒れ
「あのぅ‥‥利便性は判りますが、ゴムボートをここまで持ってくるのは、ちょっと‥‥重いですし、取材だ撮影だと誤魔化しても無理がありますよ」
嘆息するWEAの係員に、『注文』をつけたベオウルフ(fa3425)は、モーター・マウント(エレキ・モーターなどを取り付ける台座)付のゴムボートを希望した七枷・伏姫(fa2830)と顔を見合わせた。
ギリシャの神々が棲む山、オリンポスの遺跡に整備された道路は通じていない。必然的に車での乗り入れは出来ず、荷物を運ぶには二通りの手段をとらねばならない。すなわち自分で歩いて運ぶか、もしくは地元ポーターのロバに荷を乗せて運ぶ方法だ。
加えて、多くの者が半獣化を想定した装備でこの場へ臨んでおり、余分な荷物を運ぶ余裕はほとんどない。湯ノ花 ゆくる(fa0640)に到っては、人の姿では自分の荷物で身動きが取れないという有様である。
‥‥当然、動けない彼女の荷物も、仲間達で手分けして運ぶのだが。
ともあれ、この状態でゴムボートを用意し、遺跡まで運ぶ事は、二人が思うほど容易ではなかった。
「そんなに沢山、何を持ってきたの‥‥」
ゆくるの荷物をちらりとみて、富士川・千春(fa0847)が肩を落とす。
「私、自分の分でいっぱいよ?」
「俺も手を貸してやりたいが、無理だな」
ヘヴィ・ヴァレン(fa0431)が腕組みをして唸り、Loland=Urga(fa0614)も困り顔で黒髪をがしがしと掻いた。
「遺跡の入り口までは、半獣化も控えた方がいいよな」
「となると、見た限り‥‥持てるのは俺か、伏姫くらいだな」
「そうなるでござろうな」
苦笑しながらベオウルフが『立候補』すれば、仕方なく伏姫もそれに続く。
「‥‥じゃあ、これ‥‥お願いします‥‥」
当のゆくるは、いそいそと荷物を小分け作業に勤しんでいた。
「やっぱり、俺の荷物は持ってもらえそうにないのか‥‥今回は大荷物でくるの、俺くらいだと思ってたのに」
心なしか打ちひしがれた早切 氷(fa3126)の肩を、御鏡 炬魄(fa4468)がぽむと叩き。
「上には上がいたという事だ。大人しく、自分で運べ」
それとなく、希望的観測にトドメを刺しておく。
「人の夢と書いて、儚いか‥‥なんだか、物悲しいよな」
どこぞのナニカの台詞を呟きつつ、がっくりと氷は項垂れた。
●方策と調査
既に目にした事のある者は、改めて溜め息混じりで。
初めて目にする者は、やや呆然として。
とりあえず地下へ足を踏み入れた者達は、目の前に広がる光景を眺めていた。
「で、どうするんだ?」
毎度の如く暢気に大欠伸をしながら、氷が水辺へ座り込んだ。
ただし、水際ぎりぎりには近づかない。岸を踏み抜く可能性があり、水中には足を踏み入れた者に害を成そうとする『何か』が潜んでいた。
「ここでこうして眺めていても、埒があかないのは確かだな」
慣らすように、ぐるぐるとヘヴィが肩を回す。
「現状の障害は、このどーしよーもない水と、こないだの探索で仕掛けてきた蔓みたいヤツの二つか。で、今回の顔ぶれは飛べる者と飛べない者が、丁度半々。ここは大人しく二手に分かれて、片方が上から偵察、地上は例の蔓みたいなのを調べる‥‥ってな感じになるか」
顔ぶれを眺めて、Lolandが各自の方針を確認した。
「それで、その襲ってきたっていう蔓の本体は、島だったりしないかしら」
「どうだろうな。ドコから襲ってきたか、判りそうか?」
千春の指摘に、ヘヴィが前回の探索者達へ尋ねる。
「それが判っていたら、苦労しないな‥‥」
炬魄の言葉に、「ああ」とLolandが相槌を打った。
「水に足を踏み入れた者が、何かに足を掴まれた。でも水で濁っていたせいで、掴んだ本体‥‥というか、そういうのは見えなかった。助け上げたら蔓のようなモノが水の中から出てきて、銃を撃ったらソレは水に消えた。それだけだ」
見たままの事実のみをLolandが告げ、炬魄がその後を続ける。
「その後は出来るだけ水辺に近付かず、他の道がないかを探してみたが‥‥隠し通路のようなものは、見当たらなかった。で、今に至る‥‥という訳だ」
その場にいなかった者は、改めて説明される経緯を黙って聞き。
うつらうつらと舟を漕ぐ氷に、ヘヴィが鋭い目を向けた。
「なら、そこで眠そうにしてるのを餌に放り込んで、再現してみるか」
「‥‥へ?」
なんとなく振られた不穏な話題に、氷は眠そうな眼を瞬かせ。
集まった視線に、なんとなく現状を察する。
「と、とりあえず、飛べない俺達は『陸地』の確認、飛べるソチラは上から偵察、ソレでいいんだろ? マット型の浮き輪も持ってきたし、一番近い『陸』くらいは調べられるからな」
視線の矛先を避けるように手を振った氷は、急いで話を纏めた。
水面と空洞の天井の真ん中ほどを、翼を持つ四人が飛んでいた。
動かぬ水は、第二階層の砂と同じく洞窟内の広い範囲を覆い。
波一つない水面に、ぽつんぽつんと『島』が浮かんでいる。その大きさはまちまちで、形状も山状の物もあれば、平らな物もあった。共通するのは、表面がなだらかな点。光がないせいで樹木の様なしっかりとした植物が生えず、岩盤も露出してはいない。
ヘヴィはランタンを掲げるが、光が照らし出せる範囲は狭い。オイルランプの光をサポートするように、千春とゆくるが右へ左へとヘッドランプの光を投げた。ライトダガーの光はそれらより弱いため、鋭い視覚を持たない炬魄は三人の灯りが頼りである。
「島と島の距離は、均等‥‥という訳でもなさそうね」
後で地図を作ろうと、千春は指を広げて、水面に顔を出している島の間隔を測る。
その一方でゆくるは島を見つけるたび、そこへ45口径の弾丸をぶち込んでいた。それでも、何かが起きる気配はなく。そのうち一発では『刺激』が足らないと見たか、次第にその数が増えている。
「光に音、それに振動で、蔓が現れる訳でもなさそうだな」
濃い色付レンズ越しに水面を観察しながら、炬魄が呟いた。試みに十分な距離をとって『破雷光撃』を撃ち込んでみても、水にぶつかった雷は水面を走るように拡散し。やがて数匹の小さな魚が−−暗い水の中でも棲息しているのか−−白い腹を見せて、浮かび上がってきた。
「水に接近しすぎるのは危険だし、水中までは見通せないのがね‥‥」
千春が水をライトで照らしても光は拡散し、底までは見通せない。
また『超音感視』も、光源がなくとも周囲の状況を『視覚的』に捉える事は出来るが、それ以上の超感覚−−透視や探索能力は有していない。
よってそこに『水面』がある事は判っても、『水面下』に何があるかまでの把握は無理だった。
「かといって島に降りるのも、問題ありか。だが‥‥水に嵌った奴が、蔓に掴まれたんだよな」
ナンか引っかかるよなと、ヘヴィは首を傾げる。
振り返れば、遠くに仲間達の明かりが小さく見えた。
「‥‥ん?」
「どうかした?」
何かに気付いたのか、目を擦ってから再び広がる水面を注視するヘヴィに、千春が声をかける。
「いや。いま、水中を何かが動いていったような‥‥気がしてな。だがこの暗さだし、確証はないが」
暫く意識を凝らして観察するものの、水面は波も立たず穏やかなままだった。
「しっかりとした『地面』があるのはここまでで、縁の方は草なんかが積もった腐葉土みたいだな。だから、脆いんだ」
片膝をついた氷は、ヘッドランプで照らしながら土を調べていた。
「そーっと端っこまで行って、あとは浮き輪頼みか」
「ホントにやるのか」
Lolandが苦笑して、膨らませた長さ2mほどの浮き輪を見やる。長さは何とか足りるが、幅は50cm程度しかなく、『ボート』としての使用には不安が大きい。
「やらなきゃ、仕方ないだろ? ろくに、作戦らしい作戦もないんだし‥‥誰かがやんないとなぁ」
はふと、いつもの様に大きく口を開け、氷は欠伸をしながらぼやいた。
個々に策はあっても、必ずしも現実的ではなく。探索の段取りは、全く取れていない現状にLolandは複雑な表情をし。そんな彼に、氷は太いロープの端を渡した。
「炬魄達が、戻ってくるようだ」
伏姫が照らす灯りを頼りに、飛び立った仲間達の動向を見ていたベオウルフが告げる。
「んじゃ、もう一仕事頼むか」
氷はしっかりと、身体にロープを結び始めた。
一番近い島へ、ゆくるが念入りに『確認作業』を行い。
ヘヴィと炬魄は注意深く、直径3〜4mほどの起伏の少ない島へと降り立った。
何十年もかけて萎びた草が積もったのか、踏んだ感覚は柔らかく。
「よし、いいぞ」
ロープの片端を身体に巻きつけて固定したヘヴィが腰を落とし、岸のメンバーに声をかける。
岸では、Lolandが同様にロープを自分の身体で固定し、ベオウルフがサポートに回る。
ピンと張られたロープの間では氷がロープを握りながら、そろそろと浮き輪を水上へと乗り出した。
「気をつけるでござるよ」
「判ってるって。できるだけ、水に浸からないように‥‥と」
注意を促す伏姫に答え、服を濡らさない様にしながら、氷はロープを伝っていく。
「‥‥飛べないって、不便ですね‥‥」
苦心する氷の様子を、ドリルアームを片手にゆくるが見守っていた。
「自分でもアレな格好だなーとは思うけど、仕方ないだろ」
愚痴をこぼしつつ、氷はロープを掴み。
真ん中を過ぎた辺りで、ソレは現れた。
●みなそこより
水を跳ねて伸びたのは、件の蔓のようなモノ。
それも一本ではなく複数本が前触れもなく水中から伸びて、一斉に浮き輪や氷へ巻き付き。
ロープを引く力に、その端を掴むヘヴィとLolandが引き摺られた。
「踏ん張れっ!」
「氷、手を放すな!」
声をかけつつ、二人は柔らかい足場に苦戦しつつも踏み堪え。
「伏姫、代わってくれ!」
「承知」
遠隔攻撃の手段を持たない伏姫は、ベオウルフとLolandを支える役目を交代した。
「‥‥えーっと‥‥とりあえず‥‥蔓を切らないと‥‥」
スイッチを入れて直径10cmのドリルを回転させたゆくるは蔓を切ろうとするが、ソレは逆にドリルと篭手へ巻きつき。
「‥‥あれ‥‥?」
「ゆくるさん、それを放して!」
促しつつ島側へ降りた千春が、氷を掴む蔓の根元へ向けてIMIUZIのトリガーを引く。
引き込まれたアームは、水に引き込まれてバチッと火花を散らし。
「こいつを使え、千春っ」
ロープを引きつつ、ヘヴィがハミルトンM870を少女に放る。
試みに足元へショットガンを撃ち込んでも、蔓が緩む気配はなく。
残弾を、伸びる蔓の空気と水の境界に向けて、叩き込む。
千切れた蔓は、怯んだ様にするりと解け、水中へと落ちた。
「骨、折れるかと思ったぞ‥‥」
開放された氷は、ぜいぜいと荒い息を吐く。
「また来る前に、渡り切った方がいいぞ。次がきたら、手が滑るかもしれんからな」
炬魄に軽口を叩かれ、彼は再びロープを辿る。
「‥‥あら?」
ヘヴィに散弾銃を返しにきた千春は、不意に怪訝な表情をで首を傾げた。
「どうした?」
「うん。なんだか‥‥島が向こうに近付いた気がして‥‥変よね?」
「‥‥ふむ」
その間に氷は、炬魄の手を借りて水に濡れながらも何とか『上陸』を果たす。大の字に寝転んで息を整える相手に、炬魄は苦笑を浮かべた。
「囮、お疲れさん。目も覚めたろう?」
「つーか‥‥褒美に寝かせてくれ‥‥むしろ、療養休暇希望‥‥」
「もうひと働きしてからな」
軽く肩を叩いて立ち上がる炬魄を、恨めしそうに氷が視線で追う。
「まだ、何かやらす気か」
「ああ。ちょっとした『綱引き』をな」
「いくよー! せーの!」
千春の音頭で、六人がロープを一斉に引いた。
島では、ロープを掴んだヘヴィと氷が踏ん張る。
引っ張られた島は水面に波紋を浮かべながら岸へ近付き、ゆっくりと『接岸』した。
「この島は‥‥陸地ではなく、水に浮いているだけでござったか」
興味深げに伏姫が島の縁を踏むと、ボコッと足元が抜ける。
「‥‥あまり、頑丈そうではないようだがな」
腰を手でとんとんと叩きながら、Lolandが嘆息し。
寝っ転がった氷は、暢気にいびきをかいていた。