あたまのひとやすみヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
やや易
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報酬 |
4.2万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
03/06〜03/08
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●本文
●温泉へ行こう
「‥‥フィルゲン君。少し、休んではどうかね?」
ナイトキャップを被ったレオン・ローズが、眠そうに相方へ声をかけた。
「ん〜‥‥もうちょっと」
「いい加減にせぬと、身体を壊すぞ。『幻想寓話』の制作も近づいておる訳だし、少し休まねばなるまい」
「判ってるから」
スタンドライトの下、例の『本』と首っ引きになっているフィルゲン・バッハは、生返事をしながらテーブルから離れる気配がない。それが、前回の『探索』の結果が芳しくなかった事が原因なのは、『部外者』である彼から見ても明らかだった。
相方の丸めた背中を眺めるレオンは、一つ溜め息をつき。
スリッパを鳴らして、自室へと戻った。
「休むぞ!」
翌朝、朝食の席で。
どんとテーブルを片手で叩いたレオンが、突然高らかに宣言した。
相方の奇行に慣れたフィルゲンだが、パンにかじりついたまま呆然とそれを見上げる。
「‥‥ほへ?」
「だから、休むのだ!」
「なんで?」
「私が休みたいから、休むといったら休みなのだーっ!」
相変わらずの突飛な論を繰り出すレオンは、ばさりとプリントアウトした案内をテーブルの上にばら撒いた。
そこには、黒森に近い温泉地の名が綴られている。
「‥‥バーデン・バーデン‥‥に、行きたいのか?」
「うむ。『カラドリオス』の撮影を行った場所である。そして行きたいのではなく、行くのだ。休暇プランは、昨夜のうちに社長に出しておいたからなっ! ホテルも予約済みである故に、安心するがいいっ!」
「‥‥なにっ!?」
「ゆっくりと充電して英気を養い、仕事に備えるのだよっ!」
「‥‥休養しっぱなしで放電して、備えられないのは誰だよ‥‥」
理由はともあれ、ここまでアクセル全開気味でアクティブになった相方を止める術はなく。
両手を広げて「は〜っはっはっ!」と高笑いするレオンに、フィルゲンは頭を抱えた。
●リプレイ本文
●御一行様到着
高級温泉保養地は、良好な天気に恵まれて暖かかった。
「『カラドリオス』の撮影では、雲が多くて寒かった記憶があるけど‥‥いい天気ね」
一面の青い空を、羽曳野ハツ子(fa1032)が見上げる。16度まで上がる気温は、この時期にしては暖かい。
「サイクリングとか、楽しそうです。郊外には葡萄畑もあるそうなので、行ってみたいですね」
鏑木 司(fa1616)のアクティブな少年らしい意見に、アイリーン(fa1814)が周りの街路樹に目を向けた。暖かいとはいえ、まだ枝には春の気配が行き渡ってはおらず。
「フランスが近いし、ワインも美味しいらしいわね。でも、葡萄の木の芽が出るのは、もう少し先じゃないしら?」
「そういえば、そうですね。でも冬枯れの葡萄畑も、あまり見れませんし」
「若い人達は、活動的でいいわね」
会話を聞く那由他(fa4832)が着物で口元を隠し、ふふっと笑った。
「あたしは、リラクゼーション目当てで付いてきちゃったわよ」
「夜には、クアハウスでカジノに興じるのもいいね。ナンと言っても21歳未満入場禁止の、大人の世界だし」
藍の着物を纏った深森風音(fa3736)もまた、悪戯っぽく目を細める。
「大人の世界、なんですか‥‥!」
「ぴぇ〜。いいなぁ‥‥こっそり入っちゃダメかな」
いつもの大きなリュックを背負ったセシル・ファーレ(fa3728)が目を輝かせ、ベス(fa0877)は羨ましそうにじーっと成人達を見上げた。
「いっそ‥‥メイドの服を着て‥‥メイドと誤魔化し通すとか‥‥」
「あんまり、悪巧みを吹き込まないようにな」
眠そうに目を擦りつつも怪しげな計画を立てる湯ノ花 ゆくる(fa0640)へ、シヴェル・マクスウェル(fa0898)が釘を刺す。
「主催者であるレオンの意向としては、フィルゲンの休養が目的だというからな」
言いながら、Cardinal(fa2010)がぱきぱきと指を鳴らし。
「何だか、力ずくでも休ませそうだな。『抵抗』するようなら、私も手伝おうか」
Cardinalの仕草を見て、楽しそうにシヴェルは協力を申し出た。
「あ! レオンさん、フィルゲンさん、ひっさしぶり〜っ!」
待ち合わせ場所に二人の姿を見つけて、アイリーンが手を振りながら駆け出す。
「おぉ、アイリーン君。『リャナンシー』撮影以来であるか。息災だっおぶぁっ!?」
両手を広げたアイリーンからラリアットを喰らった形になって、レオン・ローズが奇声をあげた。
「レオンさんは、ちゃんと出番もらえてる? フィルゲンさんは、悩みで白髪増えてない? アイリーンは立派になって綺麗になった? もう、そんなことあるわよー♪」
突っ込みどころの多い挨拶の勢いに、置いていかれたフィルゲン・バッハは強張った笑みを返す。
「聞くまでもなく元気だね、アイリーン君。なんか、テンション上がってる?」
「あはは‥‥ちょっとね。噂は色々聞いてるけど、今日は身体も頭もリフレッシュしましょ?」
「はい! 以前は良く、家族で旅行とかしてたんですけど‥‥最近では難しくて。だから、今回は楽しみです。それからそれから、アライグマさん! ハツ子さんがムチャキングなのです〜っ!」
元気よく答えたセシルが、ずびしっとハツ子を指差して報告し。
「ナニシタノ‥‥」
「さぁて、お風呂に入ってびばびば〜っと」
呆然と聞くフィルゲンに、当の本人は唄って誤魔化した。
●温泉三昧
「バーデン、ドイツ語で『入浴』を意味するこの保養地、何といってもまずは温泉よ! 有名なとこだと、カラカラ浴場。フリードリッヒ浴場は、大理石で装飾されたすごい立派な浴場らしいわ。興味はあるけど、ここでも水着OKなのかしら」
ホテルへチェックイン後。街に繰り出した一行の先頭を歩くアイリーンに、フィルゲンが首を横に振った。
「いや、フリードリッヒ浴場は水着禁止だよ。男女別の箇所もあるけど、最後の大浴場は混浴だからね」
「そっかぁ。いきなりはちょっと恥ずかしいから、ここは安全に水着OKなところ優先ね」
「やっぱり、入る前には準備体操しないとね!」
「プールみたいだけどプールじゃないわよ、ベスちゃん」
嬉々としたベスに、ハツ子が笑いながら指摘する。
「そうそう。みんな、合言葉は『請求先はAFW、レオン・ローズで♪』よ。はい、復唱!」
「人を破産させる気か、アイリーン君ーっ!」
にこやかに告げるアイリーンの後ろで、レオンがせめてもの抵抗を試みた。
そんな会話をしながら市庁舎の脇を抜け、石造りのどっしりした外観を持つ、ルネッサンス様式フリードリッヒ浴場を通り過ぎ。
やがて街を散策する一行の前に、ガラス張りのカラカラ浴場が現れた。
一階部分は、大きな温水プールで占めている。
他にも水浴や高温浴、サウナといった施設があり。時間によっては温泉保養地らしく入浴指導医が見回って、正しい入浴療養法を指導していた。
「ホントにプールだね〜っ!」
手を翳し、爪先立ちでスクール水着姿のベスが一面の湯を見渡した。
「いっちばんのりです〜!」
ワンピース水着を着たセシルが、『かけ湯』もそこそこにプールへ入る。
「じゃあ、にば〜んっ!」
洒落たタンキニ水着のアイリーンが、水飛沫を上げた。
「ぴぇ〜っ、二人ともずるいよ〜! ほら、司君も早く早く!」
「え‥‥あの、僕は‥‥」
わたわたと慌てたベスは、出遅れている司の手を引いて友人達に続く。
「子供は元気ねぇ」
笑って見守る那由他はプールの縁に腰掛け、暖かい水を混ぜるようにゆらゆらと足を動かしていた。
「でもこれだけ広いと、はしゃぎたくなるのは判るかな‥‥ところで、フィルゲンさんは?」
風音が尋ねても、ハツ子は首を横に振る。
「まだ、着替えてるみたいね」
「ご主人様、遅いですね‥‥手伝ってきましょうか‥‥」
モノトーンでフリル付の−−早い話がメイド風−−タンキニ水着のゆくるが、更衣室への通路を見やった。
「やめとけ。つーか、なんでご主人様なんだ?」
シヴェルの素朴な疑問に、おもむろにゆくるは指を折り始め。
「御主人様‥‥旦那様‥‥フィルゲン様‥‥おにーちゃん‥‥どれがいいかと‥‥」
「‥‥フツーに呼んでいいわよ」
苦笑気味のハツ子が、悩める相手にアドバイスをする。
「でも、謝罪にと思って‥‥遺跡、壊しましたし‥‥」
「でも、そういう事をしても喜ぶ人じゃないからね」
なだめる様にゆくるの頭を撫でるハツ子を、シヴェルがつついた。
「それなんだけど‥‥老ダーラントの様子では、深刻な事態と取れなかったんだよな。あれ一つでは、壊した影響ってのはそれほど出ないのか‥‥」
周りに聞こえぬよう声を落として告げるシヴェルに、ハツ子は僅かに考え込む。が、思考は奇声によって中断された。
「ちょぉぁぁぁっ!? だからマズイ、それはマズイって言ってえぇぇぇ!?」
「‥‥騒いだ方が、注目が集まると思うがな」
Cardinalに連れられて現れたフィルゲンの姿に、居合わせた女性陣は思わず口元を押さえて笑いを隠す。
手を引くでもなく、かといって背負いもせず。いわゆる『姫抱っこ』でフィルゲンを『運んできた』Cardinalは、そのまま水際へと歩き。
「ほら、降ろしてやるから」
「のへぇぇぇ〜っ!」
ぽんと放り出されたフィルゲンは、奇声と水飛沫を上げて湯の中へ落っこちた。
「フィルゲンさん‥‥生きてる〜?」
沈んでいく相手へ、試しに風音が呼びかけてみる。
「ま、アレだ。良い子の皆は、真似をせぬようにな」
その後からついてきたレオンは、指をふりふりプールに入り。
「折角リゾートに来て、眉間に皺を寄せてるのもアレか。ハツ子も、どうだ?」
「そうね。フィルが沈んだままだと、困るし」
鮮やかなプロポーションをタンキニとビキニで彩る二人もまた、後に続いた。
定期的に激しい水流が起きる渦流浴で、洗濯物の如くもみくちゃになりながら歓声をあげ。
あるいは、のんびりとサウナで汗をしっかり流し。
三時間程度の入浴時間を心行くまで楽しんだ後、一行はホテルへと戻った。
●お楽しみの時間
「ふぅ〜‥‥いい湯だったな。ホテルの風呂だと、あんまり足を伸ばせないんだよな」
ゆったりとソファへ延びるシヴェルに、ベットへ着物を広げる那由他が「ええ」と同意する。
「明日はフリードリッヒ浴場で、マッサージやリラクゼーションを堪能したいわね。せっかくの機会だから、古き王族貴族たちの美肌を保ったという技術の数々を、存分に堪能しなきゃ」
「そう言えば、ハツ子が女の子達でタラソテラピー(海洋療法)へ行こうって」
「いいわね。どうせ、レオンさん持ちだし」
「本気なんだね。『幻想寓話』の予算、減らなければいいけど」
二人の会話に、着付けをしながら風音も冗談めかして笑った。
「ところで、二人は随分めかしこんでるな」
「いい機会だから、クアハウスでバーデンワインを片手に楽しもうかと思って。財布が空になるまで、遊び倒す気満々だよ」
「ええ。悩み事は若い人達に任せて、思いっきり羽根を伸ばさなきゃ」
いそいそと準備をする二人に、シヴェルはソファから立ち上がる。
「じゃあ、私は仲のいい二人の邪魔でもしてくるかな」
「あてられない様、ほどほどに」
風音の忠告に、部屋を出ながらシヴェルは「了解」と手を振った。
「ついでに、隣のウェンディ達の様子も見てくるよ」
「ああ。いってらっしゃい、ピーターパン」
ノックをして扉を開ければ、賑やかな笑い声が零れ出した。
「部屋にいないと思ったら、こっちに集まってたのか」
「あ、シヴェルさ〜ん。おやつ食べます?」
クマのヌイグルミを膝の上に乗せたセシルが、テーブルの上に広げたお菓子の数々を指差す。
「すっぽんメロンパンも‥‥あります‥‥」
ゆくるは亀を象ったメロンパン持参で、ベスは地元のケーキやクッキーに目を輝かせていた。
「ぴぉお〜っ。幻想寓話に出演すれば、毎日こんなのが食べれるんだね〜」
「そうそう。他には地元のお菓子なんかも、お茶請けに出てくるわよ」
アイリーンの言葉に、ベスは「いいなぁ」を連呼しながら何やら葛藤し。
「おまえら、こんな夜に喰ってたら太るぞ」
ソファーでお菓子大会に盛り上がる少女達に、シヴェルは肩を竦めた。
部屋を見回せば、Cardinalとレオンはシャーマニズムなんぞについて語り合い。
ベットでは、ノビたフィルゲンの上に、半獣化したハツ子が乗っかっている。
「‥‥何してるんだ」
「マッサージだそうです。ついでに『平心霊光』でリラックス効果抜群! だとか‥‥」
おそらくはハツ子の台詞を代弁する司は、なんとも言えない表情でベットの上の二人を眺め。
「そのうち‥‥羽曳野さんを『お義母さん』と呼ぶ日がきたり‥‥するんでしょうか」
子供ながらに、真剣に悩んでいるらしい。
「ちょっと‥‥何よ、ソレ!?」
件の話を、聞いていなかったのか。
素っ頓狂な声をあげたハツ子が勢いで力加減を誤り、フィルゲンが声もなくじたばたと泳いでいる。陸で。
「あら、ごめんなさい、フィル。眠くなったら寝ちゃっていいから、楽にしててね」
髪を撫でるハツ子の後ろで、ゆくるがブラシを手に立ち上がり。
「尻尾のブラッシング‥‥しますよ‥‥」
「疲れた時はもふもふすると、元気になるよね!」
尻尾と聞いたベスが、獲物を狙う鋭い鷹の目を輝かせる。
「今日は疲れているだろうから、明日にでもな」
故郷のパイプを片手にCardinalが少女達を取り成し、「それで?」とハツ子が話題を引き戻す。
「また‥‥大叔父さんの横暴がね」
「司が、フィルゲンの養子にならないかと、言われてな」
へふと嘆息するフィルゲンにCardinalが付け加え、ハツ子は苦笑した。
「それはまた、難題ね。ごめんなさい、大事な席なのに行けなくて」
「気に病まなくていいよ。司君も」
「はい‥‥」
うつ伏せで慰めるフィルゲンに、司は力ない笑みで答える。
空いたベッドに腰掛けたシヴェルは、燃えるような赤毛をかき上げた。
「で、今後どうするんだ? 作品も作る。黒森も調べる。それは結構だが、あまり根詰め過ぎるなよ? レオンにまで気を遣わせるとなると‥‥とてもとても重症だと言わざるを得ないぞ」
「根を詰め過ぎても、袋小路になってしまうからな。焦っても結果は逃げるばかりで、こうしてパイプでも吸って一服した方がいい」
モノ言いたげなレオンを置いて、Cardinalが煙を吐く。
「‥‥うん」
「さ〜て、レオン監督。遊び足りないなんて言えないくらい、遊びに行くよ〜! Cardinalさんも、一緒にどうかな?」
ばーんとドアを開けて、風音が『夜遊び』への勧誘に参上し。
「アレもソレも、難しい事は今は忘れて。明日も、ぱーっと遊ぶわよ!」
「お〜っ!」
「です‥‥」
音頭を取るアイリーンに、ベスやゆくるが拳を挙げた。
部屋へ戻る、あるいは出かける為に、メンバー達は三々五々と部屋を出て。
ヌイグルミを抱いたセシルが、フィルゲンのベット脇に腰を下ろす。
「ママのお家も‥‥アライグマさん家ほどじゃないけど、厳しいんですよ? 兄弟が亡くなって、ママが一人娘になっちゃったから‥‥パパとの結婚も反対されてたの」
「でも‥‥セシル君がいるという事は、結婚したんだよね‥‥。じゃあ‥‥『めでたしめでたし』まで、もう少し‥‥だ‥‥」
セシルの頭を撫でた手が、ぱたりとベットに落ちた。
「‥‥アライグマさん、寝ちゃいました?」
「みたい。そ〜っとしてあげてね」
寝入ったフィルゲンを起こさないよう、ハツ子も静かにベットを離れる。
「折角だから、一杯やるか。セシルや司は、ジュースでな」
備え付けのウィスキーボトルとグラスを取り出して、シヴェルがハツ子を誘った。