Limelight:恋花咲くやアジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 風華弓弦
芸能 4Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 13.8万円
参加人数 15人
サポート 2人
期間 03/08〜03/10

●本文

●Limelight(ライムライト)
 1)石灰光。ライム(石灰)片を酸水素炎で熱して、強い白色光を生じさせる装置。19世紀後半、欧米の劇場で舞台照明に使われた。
 2)名声。または、評判。

●ライブハウス『Limelight』(ライムライト)
 隠れ家的にひっそりと在る、看板もないライブハウス『Limelight』。
 看板代わりのレトロランプの下にある、両開きの木枠の古い硝子扉。
 扉を開けたエントランスには、下りの階段が一つ。
 地下一階に降りると小さなフロアと事務所の扉、そして地下二階に続く階段がある。
 その階段を降りきった先は、板張りの床にレンガの壁。古い木造のバーカウンター。天井には照明器具などがセットされている。そしてフロア奥、一段高くなった場所にスピーカーやドラムセット、グランドピアノが並んでいた。
 フロアには、控えめなボリュームでオールディーズが流れている。

「で‥‥バレンタインは『応援』だった訳だけど、今回はどうするんだい?」
「告白の返事をするのを応援っていうのもアレだし、ヤローの応援をしても、面白くない」
 割と真剣に主張するオーナー佐伯 炎(さえき・えん)の様子に、音楽プロデューサー川沢一二三(かわさわ・ひふみ)は苦笑しながらコーヒーカップを傾けた。
「男は応援したくないんだね」
「そりゃあ、女性が勇気出して告ったんなら、正々堂々となぁ‥‥って、ナンでソコで笑うんだ」
「いいや。相変わらずだと思ってね」
「褒めてんのか、貶してんのか?」
「さぁ?」
 何事かを言いたげな佐伯へ笑って誤魔化し、川沢はコーヒーを干した。

 数日後。先月行われた、『Limelight』でのバレンタイン・ライブに対して、ホワイトデー・ライブの出演者募集が告知された。
 バレンタイン・ライブ同様、演奏者が独り身かカップルであるかは問われず、また観客としての来店も歓迎するという。

●今回の参加者

 fa0475 LUCIFEL(21歳・♂・狼)
 fa0760 陸 琢磨(21歳・♂・狼)
 fa1102 小田切レオン(20歳・♂・狼)
 fa1646 聖 海音(24歳・♀・鴉)
 fa1851 紗綾(18歳・♀・兎)
 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa2161 棗逢歌(21歳・♂・猫)
 fa2457 マリーカ・フォルケン(22歳・♀・小鳥)
 fa2521 明星静香(21歳・♀・蝙蝠)
 fa2837 明石 丹(26歳・♂・狼)
 fa2847 柊ラキア(25歳・♂・鴉)
 fa2899 文月 舵(26歳・♀・狸)
 fa3661 EUREKA(24歳・♀・小鳥)
 fa4339 ジュディス・アドゥーベ(16歳・♀・牛)
 fa4790 (18歳・♂・小鳥)

●リプレイ本文

●恒例行事
「わ〜ん、逢いたかった〜!」
 早めに事務所を訪れた棗逢歌(fa2161)は、待ち合わせた明星静香(fa2521)に抱きつき。
 勢いついでに、川沢一二三と佐伯 炎も抱擁した。
「川沢さん、炎さんも、お久しぶりです〜!」
「てか、抱きつくなー!」
「炎さん、つれない」
 くすんと鼻を鳴らす逢歌に、静香はくすくすと笑う。
「で、早くからどうした」
「うん。楽屋を早めに借りても、いいでしょうか?」
 改まった申し出に、佐伯は静香へ視線を移す。
「髪、切るんだって」
「丸坊主か」
「ちが‥‥っ!」
 あえてボケる佐伯に逢歌は全力で否定し、その理由を打ち明ける。
「ここも静香も、僕にとってはこの上なく大切で‥‥だからこそ、感謝の気持ちをこめて新しい気持ちで望みたい。それに安易だけど、今日の瞬間、静香の横には男の人として寄添いたくて」
「私に切って欲しいって話だから‥‥その気持ちを大事に受け止めて、切らせてもらおうと思ったの。だからこれ‥‥皆に渡してもらえます? ラキアさんと椿さんのリクエストのマドレーヌ。それからどんぶりサイズのブラマンジェは、打ち上げで作るからって」
「構わんが‥‥二人きりだからって、やましい事はするなよ?」
 冗談めいた許可を貰った逢歌と静香は、楽屋へと向かった。

「それで、いらっしゃらないんですか」
 静香達が見えない訳を聞いた聖 海音(fa1646)が、納得する。
「今日は揃って、観客席なんだね」
 確認する川沢に、小田切レオン(fa1102)は「ああ」と答えた。
「たまには良いかって、な」
「それにしても、随分と早くに来たんだね」
「差し入れ、ありますから。それにレオン様も、用があったとかで早くて」
 いそいそと、海音が差し入れの包みを解く。
 ハニーロールケーキに、プレーンとチョコに抹茶の三種のスコーン。苺大福に、ミックスフルーツ入ワイン風味と、コーヒー風味の『バケツDEゼリー』。そしてお土産用には、レモングラスのゼリーに薔薇ジャムがけと、いつもながら多彩だ。
 なおバケツゼリーは重過ぎるので、先に宅配で送りつけている。
「わー! お菓子いっぱーい!」
 察知したのか、歓声をあげて柊ラキア(fa2847)が事務所へ飛び込んできた。その後から、明石 丹(fa2837)と文月 舵(fa2899)が揃って姿を見せる。
「お。引き摺られずにきたか」
「うん、自分の足でね」
 禁煙煙草を咥えた佐伯に、丹は笑って答えた。
「フリジアフリジア! 一年ぶりに歌えるって幸せー! またここでフリジア歌えるの嬉しすぎるー!」
 既に盛り上がっているラキアを、舵は楽しげに見守り。
「記念のホワイトデーやし。二人からのお返しも楽しみやわ〜♪」
「ちゃんと、用意してあるよ。キャロットシフォンケーキと、お返しにはクッキー。ケーキは一人一ホールじゃないから、佐伯さんよろしくね」
 丹に続いて、ラキアも鞄を持ち出す。
「僕は弟からお土産でー、黒糖饅頭、すごいよねー、アイツこんなの作れるんだ」
「うわ〜、美味しそう〜!」
 横合いから、第二の歓声が上がった。
 目を輝かせたあずさ&お兄さん(fa2132)の袖を、ジュディス・アドゥーベ(fa4339)が遠慮がちに引っ張っている。
「勝手に食べちゃ、ダメですよ。あずささん」
「それに、お菓子ならマリスもあげるよ。ホワイトデーのお返しもあるし」
「‥‥お菓子‥‥」
「椿君、子供のお菓子を取らないの。後で、ご褒美にチョコレートをあげるから」
 菓子という単語に釣られ、怪しい足取りの椿をEUREKA(fa3661)が餌付けしている。
「今日も、差し入れ大量だな」
 既に始まっている『展示会』に、LUCIFEL(fa0475)が肩を竦めた。
「あ、海音さん。バレンタインのお返しに‥‥ハーブクッキー、どうぞ」
「ありがとうございます、慧さん」
 慧(fa4790)が差し出す小さな紙袋を、海音は嬉しそうに受け取る。
 そんな彼の後ろから、紗綾(fa1851)がひょっこりと顔を出し。
「一二三さんと炎さん、おはようございます〜!」
 川沢と佐伯へ、挨拶代わりに抱擁をして。
「ところでお2人は、妹分いりません?」
「そりゃあ、随分と年の離れた妹分になるが。急にどうした?」
 何故か目を輝かせて聞く紗綾の頭を、笑いながら佐伯がぐりぐりと撫でた。

●LUCIFEL〜FELICITA
「バレンタインには、沢山の『愛』をありがとう! 俺からのお返しに、ファンの皆へ捧ぐこの『幸福』を、受け取ってくれ」
 マイクスタンドに手をかけたLUCIFELは、サングラスo−z32のフレームをずらしてウィンクを投げ。
 スピーカーから流れるアップテンポなリズムを取りつつ、スタンドからSHOUTを外す。
 曲は、グルーヴィーなアッパーチューン。
 ステージの縁まで聴衆に近づき、彼はこの場の女性の為に唄う。

「 旋律を重ねて世界に音色を刻む 物語の欠片

  流れる髪も 滑る指先も 綺麗だったよ
  でも気付かなかった 気付けなかった 出逢う日まで
  甘い言葉を囁けば 驚き恥じらい背ける
  けれど君を抱き寄せて 心の奥深く キスをする
  幾千幾億の言葉を集めたって 伝えきれるはずはないから
  降り積もる淡い光に 心は宿ってる
  Amore sincero それだけさ 全て叶う夢の刻よ

  喜びも悲しみも苦しみさえ 二人で抱きしめたい
  全部抱きしめたい Primavera
  世界中の宝を探しだしたって これ以上のモノはないから
  例え誰も知らなくても 必ず其処にあるさ
  どんな大きな対価を払ったって 代えられるはずはないから
  降り積もる眩い光に 運命は宿ってる
  Amore sincero それだけさ 全て叶う夢の刻よ 」

 ノリのいい曲とパフォーマンスで、フロアを盛り上げ。
 いつも通り先陣を切ったLUCIFELはオーディエンスにキスを投げ、レザーオーバーの裾を翻してステージを後にした。

●陸 琢磨〜JOJOに‥‥
「誰かを想う事、それは恥ずかしい事じゃない。伝えるとなれば其れ相応の覚悟も居るだろう。
 だが、それを言葉と形で示す事は絶対に必要な事だ。誰にしろ、応えが如何であろうと、な?
 この歌で後押しできるなら、其れは其れで悪くないと思う」
 陸 琢磨(fa0760)が言葉を切るとライトが絞られ、ほの暗く青いライトに変わった。
 それから一呼吸置いて、オケが流れ出す。
 サビをなぞった明るいメロディは、シンプルなピアノの音をメインに入れ替わり、琢磨はSHOUTを握る。

「 明日キミと出会ったなら
  新しい自分になってみよう
  思い見上げる夜空は眩し過ぎる
  ただ思い返すだけで 妙に懐かしい
  明日が来たら 此れを渡そう

  もっと優しくなれる気がした 」

 ライトが光量を増せば、リズムは加速し。
 メロディが、イントロのフレーズへと立ち返る。

「 JOJOに JOJOに 進めば良いさ
  手を取って 足を踏み出して 噛締めて
  キミと出会いたい
  JOJOに JOJOに 想い描こう
  これはその一歩
  誰の為でもない 2人手を繋いで
  JOJOに‥‥ TOWARD THE FUTURE! 」

 そして、ステージは暗転した。

●マリーカ・フォルケン〜my dear‥‥
 一ヶ月前と同じく白のドレスに銀細工のアクセサリー、薔薇のコサージュをマリーカ・フォルケン(fa2457)は胸に飾り。
 一本のスポットライトに照らされる同じ演出で、同じくピアノを弾き語る。
 静かに滑り出した曲は、背を押す鼓舞の歌ではなく。

「 何時までも二人はこのままで居られると
  信じていたのに
  変わらない関係なんて無いんだね

  あなたとわたしは気付いた時から側にいて 何でも話し合える仲
  慶びも悲しみも 悩みも二人で分け合ったね
  だから あなたは 親より兄弟より 誰より近い人
  男とか女とか関係なくて
  二人は本当に親友同士だったね

  いつかあなたに好きな人が出来たら
  親友として 素直に祝福してあげる
  あなたの選んだ人に間違いはないし
  彼女ともきっと友人になれる
  そう思っていたのに‥‥

  気付かないふりをしていただけなの?
  無くしかけて 気付くなんて、馬鹿なわたし
  そんな気持ちで贈った今年のヴァレンタイン
  もうこんな気持ちじゃ親友で居られないから‥‥

  その答えがこれなの?
  もう 何時サイズなんて調べたの?
  いきなり指輪なんて‥‥
  『バカ』

  もう親友じゃ居られないんだよね わたしたち
  だから 改めて宜しくね
  わたしの一番愛おしい人 」

 この場にいない相手の笑顔を、胸に描きつつ。
 マリーカは最後のフレーズを、恋人の為に唄った。

●『soeurs』〜Dreaming Heart
 明るいステージに、ポップなメロディが弾む。
 ステージ中央のキーボードには、オフ白のスプリングセーターの襟元に巻いたクリームイエローのスカーフを、白マーガレットのコサージュで留めたEUREKAが立ち。
 左手のあずさは、可愛らしい白のワンピースの襟元を淡いピンクのスカーフで飾り、スズランの小さなコサージュでワンポイントに留めている。
 右手へ立ったジュディスは、白のフリルブラウスとソフトピンクのスカートに、やはりデイジーのプチコサージュで留めたライトグリーンのスカーフを襟元にあしらっていた。
 ミドルテンポの軽いタッチのキーボードに、踵でリズムを取って。
『少女達』はバレンタインの返事を待つ女の子の気持ちを、あずさが切り出す。

「 一月前のバレンタイン 二月前から悩んで
  それでもどうにか勇気出して 届けたチョコと恋心 」

 元気のいいあずさに、柔らかくジュディスが続く。

「 あなたはマジメで優しくて ちょっと優柔不断だから
  「すぐには答えられない」って そんな返事も想定内 」

 歯切れのいいコードに、二人は声を重ね。

『 「一月後には必ず 今日の答えを聞かせて!」
  そんなあの日の約束 忘れてなんかないよね? 』

 あずさとジュディスは互いに歩み寄ると、EUREKAの前で小指を絡め。
 低音から高音へと一気に滑る音に、スカートの裾を翻して立ち位置を変える。

『 プレゼントより何より あなたの返事が欲しいの 』
「 「ごめんなさい」でもいいから 」
『 ホントの気持ちを聞かせて! 』

 カラフルな光を浴びながら、ソロパートではジュディスが訴えて。
 次のソロでは、あずさが拗ねた様に唇を尖らせる。

『 そしてもしも一つだけ ワガママを言っていいなら 』
「 「ごめんなさい」よりやっぱり 」
『 「I love you!」を聞かせてよ! 』

 ライトの光を背中から受け、右に立つあずさは左手を、左に立つジュディスは右手を聴衆へ差し伸べる。
 二人のポーズを強調するように、短く電子音が跳ねて。
 すとんと、ステージは暗転した。

●『blue drops』〜Your Hand
「やっぱり、緊張するなぁ」
 出番を待つ慧は、深く息を吐き。
「慧君、慧君」
 紗綾が、桜色と白のボーダーカットソーの袖を引く。
「あのね。緊張を忘れる、お守りだよ」
 にっこりと紗綾が笑んで、慧の手にひんやりとした塊を握らせた。
 手を開けば、ヴェネチアンガラスで出来た鳥が翼を広げている。
「えっとね。この間の、イタリア旅行のお土産。2人でお揃い‥‥なんて」
 白いジャケットを着た紗綾は、その下の桜色のフリルブラウスの襟から、隠していたペンダントを引っ張り出した。
「ありがとう、紗綾。とっても嬉しいよ」
 礼を言って早速つけようとする慧に、紗綾は手を伸ばし。
「あたしが、付けてもいい?」
 頬を朱に染めて尋ねる恋人に、彼は笑顔で一つ頷く。
 背中に回った紗綾は、踵を上げてペンダントの鎖をかけた。
「もう、緊張してない?」
「うん。紗綾のお陰で、ね」
 視線を交わす代わりに慧はぎゅっと紗綾の手を握り。
 ステージへ、足を踏み出した。

「 君に出逢って 話をして
  日常が少しづつ変わっていく
  見慣れた部屋も 通い慣れた街並みも
  キラキラ光り輝きはじめた 」

 二本のスポットライトが、椅子に座った二人を照らし出す。
 紗綾がアコースティックギターの弦を弾いて、緩やかで明るい旋律を紡ぎ。
 時おりアクセントに、慧がハンドクラップを挟む。

「 記憶の中に閉じ籠ってた自分が
  もう一度人を信じてみたいと
  そう思えるようになったのは
  僕が変わったからなのかな? 」

 静かに椅子から立ち上がった慧は、ステージの前面へと数歩、進み出る。

「 茨の檻に囚われていた
  罅割れた心はそのままだけど
  君が差し伸べてくれた両手を 」

 宙へ差し伸べた手を、再びSHOUTを持つ手に添え。
 そして、力強い言葉で告げる。

『 素直に受け止めてみたいんだ 』

 その言葉を後押しするように声を合わせた紗綾が、ギターは強くストロークし。
 慧は彼を照らすライトへ向けて、手を伸ばす。

『 もしも辛くなった時は 大空を見上げてね 』
「 隣にいてあげられない時も いつもこの空の下に僕はいるから 」
『 もしも幸せが満ちたら 手をつないで歩こう 』
「 ささくれた気持ちさえも いつか君との未来に続くから 」

 控えめな紗綾の声が、彼の声に寄り添い。
 自分の思いも込めて、慧は大らかに歌い上げる。
 最後は、一音一音を確かめるようなゆっくりとしたアルペジオで、締め括った。
 座った紗綾へ、振り返った慧が手を差し出して。
 拍手と歓声に、二人は揃って礼をした。

●幕間
 フラッシュを使わず、デジカメのシャッターを切る。
 初々しい恋人達を撮った海音は、引き上げる二人を微笑ましげに見送った。
「幸せそうで、素敵な恋歌でしたね」
「そうだな」
 海音の感想にレオンは頷き、PAに座る川沢へ目を向ける。
「撮影許可、ありがとな。川沢さん」
「こちらこそ。本当ならフロアで見たいだろうけど、それはそれでお客さんも混乱するだろうしね」
 レオンと海音、そしてマリアーノと椿は、混乱を避けるためにフロアを見下ろすVIP席でライブを観ていた。
「何か、いつもとは居る場所が違うと場違いっつーか、新鮮っつーか」
 落ち着かないのか、ぽしぽしと銀の髪をレオンが掻き。
「でも落ち着いて聞ける機会、なかなかありませんから」
 海音は笑顔で答えると、暖かい珈琲を口へ運ぶ。
「それにレオン様と一緒にライブなんて、デートみたいですし」
「というか、どう見ても普通にデートだと思うけどね」
「あ〜‥‥まぁ、な」
 川沢の指摘をレオンは適当に誤魔化し、隣の海音へ笑いかける。
「後はリバティの皆様と、静香様と棗様の演奏ですね。静香様と棗様は同期カップルですし、楽しみです」
 レオンに微笑み返した海音は、またデジカメを手に取った。

●『アドリバティレイア』〜freesia
「もうすぐ一年‥‥早いもんやねぇ」
 しみじみと、舵が呟く。
 新人同然だった『アドリバティレイア』も一年を駆け抜けた今、名実ともに音楽シーンを牽引する一端を担いつつあると言っても、過言ではない。
 それでも、いつもの様にラキアはゴーグルを弾ませて、丹に懐き。視線に気付いた丹は、舵へ笑みを返した。
「いつも通り、僕達通りに、ね」
「そやね。それにこの曲は、うちらの愛し子‥‥色んな意味で特別な曲やさかい、皆にも好きになってもらえたら嬉しおす。一年経って、今のリバティが歌う、最高の恋花を‥‥」
 二人の間にラキアが割り込み、右腕で丹と、左腕で舵と腕を組む。
「去年見てくれた人とか、いると嬉しいね。みんな成長してるとこ、見てもらおう!」
 一年前と同じく揃いの白いスーツで纏めた三人は、笑顔を交わした。

 アイスブリザードを手にした丹がスタンドマイクの前に立つ。
 舵がドラムの席に座ると、エレキギターを提げたラキアが、白いファーマフラーを振り回しながら駆け寄り。
 胸に差した青いフリージアのコサージュを、彼女へと差し出す。
 彼女の白いファーチョーカーへと伸ばす手は、やっぱりドラム越しでは遠く。
 笑って立ち上がった舵は、手を伸ばして青い花を受け取ると、アップに纏めた明るい茶色の髪を飾る白いフリージアのコサージュを外し、ラキアのゴーグルに差す。
 そして一年前と同様に、青いコサージュをチョーカーに飾った。
「アドリバティレイアから全ての人に、特別で大切なラブソングです‥‥『freesia』」
 この場にいないメンバーに代わって、リーダーの丹が曲を告げる。
 そんな彼の胸には、赤と黄のフリージアのコサージュが飾られていた。

 銀のスティックで、舵が始まりのカウントを叩き。
 刻むリズムに、テンポの良いベースとエレキギターの電子音が滑り込む。
 ステージを包む柔らかな光を浴びながら、丹が変わらぬ−−しかし一年前より表現力を増した−−甘い声で唄う。

「 フリージア 白く 儚く 花開く like you
  散る陰で泣く いいえ咲く 春魅惑 luck out

  過ぎるにまかせて追いつけない どんなふうに伝えればいい?
  君がいる(いない) 君が見える(見えない) 」

 合間には、ラキアが声に厚みを加えるようにコーラスを入れて。
 そして、ふっつりと音は止む。

「 やわらかく包む ヒトヒラ
  問いかけない 大事な貴方へ
  日溜りの中 一緒に笑えるように 」

 伸びやかに、丹のアカペラが響いて。
 軽やかに蘇った演奏に、照らすライトも光を増す。
 刻むリズムは加速し、シールドを飛び越えて走ったラキアが、丹と力強く弦を弾く。

「 フリージア 赤く 強く 花開く like you
  散る陰で泣く いいえ咲く 春魅惑 luck out

  フリージア 白く 強く 花開く like you
  咲く影で無く 光眩しく 春眩惑のtrick!! 」

 背を合わせて演奏しながら、コーラスパートは一本のマイクで二人が唄う。

『 LALALA
  LALALA‥‥ 』

 何度か同じフレーズを繰り返した後、三人は演奏を止めて大きく両手を挙げて。
 手を打つリズムに、聴衆も応える。
 繰り返される歌が、フロア全体を包み。
 いつまでも続きそうな時間に、名残惜しく幕を引く。
 名を呼ぶファンの声を聞きながら、ステージの縁へ歩み出た三人は手を繋ぎ。
 その手を高く掲げてから、オーディエンスへ頭を下げた。

●『Resonance』〜Kindly heart
「ん〜、やっぱ、Limelightが一番落ち着くね♪」
「久し振りで、緊張しない?」
 艶やかな黒髪をツーテールに纏めた静香が尋ねれば、逢歌は笑顔で振り返った。
「全然。色んな変化があっても、ここの空気だけは変わらないね。暖かくて、心地よくて、励まされる。アドバやルシ君達みんなと仲良くなれたのも、ここのお陰だし。それに‥‥静香とも」
 照れながら、逢歌は少し短くなった後ろ髪をぽしぽしと掻く。
「それに、寂しかったはずなのに。何も言わずに、笑ってくれる君がいじらしくて‥‥。
 静香‥‥大好き。心からの感謝と愛を、このライブに込めるよ」
 畏まって伝えられた言葉に、静香は小首を傾げて少し頬を膨らませる。
「それって、ちょっとずるいわよ」
「‥‥へ?」
 軽く咎められた逢歌は、きょとんとした表情で丸くした目を瞬かせて。
 彼の反応を見て、はにかむ様に静香は小さく笑う。
「私だって、この曲に‥‥気持ち、込めたのよ?」
 その答えに逢歌は表情を和らげて、彼女へ手を差し出した。

 黒と赤のチェックのシャツに赤のネクタイを締め、黒のスーツを纏った逢歌が、ゴスロリを意識した衣装の静香と手を重ね、エスコートしてステージに現れる。
 そのまま、ステージ中央に置かれた椅子まで進み出て。
 ベースを持つ静香は椅子に座り、彼女の傍らに立った逢歌はエレキギターのストラップを肩にかける。
 二人は音を確かめると、少しレトロチックな優しい旋律を弾いた。
 身体でリズムを合わせつつ、椅子に座ったまま静香はその歌声を響かせる。

「 あなたが好きだと口にしても
  思いを伝えきれないの
  私はどうも不器用だから
  はぐらかして誤魔化して

  あなたの思いは伝わってるよ
  暖かいくらいの優しさを
  例えあなたに会えずにいても
  心はいつも側にいるから

  時々素直にならないけれど
  気持ちはずっと変わらないよ
  そんな私を許してくれる
  その優しさが好きだから 」

 視線を交わすと、逢歌は演奏の手を止めて。
 静香へ再び、手を差し出す。
 その手を取って、彼女は彼とステージの前面へ進み出て。
 呼吸を合わせて、せーので演奏を再開する。
 音を上げて転調した旋律を、元気よく奏で。
 二人は一緒に、スタンドのマイクへと声を重ねる。

『 いつも優しく受け止めてくれる
  気持ちはとても嬉しいから
  いつか素直に伝えられる
  そんな私になるからね 』

 優しいポップ調の演奏を、明るく切り上げ。
 歓声の中で、二人は軽くキスをした。
 一瞬のうちに、歓声はどよめきへと変わり、悲鳴のような声や驚愕の声が次々と飛ぶ。
「えっと‥‥実は僕ら、交際してます」
 暴露した逢歌は、マイクに手をかけて静香へと傾ける。
「逢歌のファンの人も、幸せに出来るような‥‥幸せな付き合いをします。だから、これからも応援して下さい」
 秘密を明かした二人は、晴れやかな笑みで互いを見つめ、もう一度口付けた。
 そして二人の名を呼ぶ声や、祝福の声と拍手に包まれ、手を振りながら腕を組んでステージを降りる。
「静香ファンには‥‥嫉妬されそうだな。でも、負けるつもりはないけどね? こんな魅力的なお姫様を手放すわけないし♪」
 胸を張る逢歌が笑顔を見せ、静香は答える代わりに組んだ腕にぎゅっと力を込めた。

●恋花模様
 ライブが終わって客が引けた後は、いつも通り『打ち上げ』が始まる。
「わ〜い、いっただっきま〜す! ほらほら、ジュディスさんも食べてね。私達、『シンデレラ』だし」
「あ、はい。それでは、いただきますね」
 あずさに促されて礼儀正しく手を合わせたジュディスは、軽い食事やケーキに手を伸ばす。
「持ち帰り仕様もあるわよ」
「「は〜い!」」
 静香の言葉に、仲良く返事が返ってくる。
「ここに来ると、美味いもん多いよな〜。ホント」
 LUCIFELもまた、満足げにケーキを口に放り込んだ。
「料理の上手な人が多いもんね。羨ましいなぁ」
「紗綾の料理って、命がけだっけ? 食べるのも作るのも」
 美味しいお菓子と不器用な自分の狭間でしょんぼりする紗綾を、LUCIFELがからかう。
「ソコまで酷くないもん。バレンタインのチョコだって、上手くできたんだから」
「うん。美味しかったよ」
 抗議する紗綾に、隣に座る慧が笑顔でフォローする。
「それにしても、随分と大胆だよな。もしかして、俺の為?」
「違うもん」
 タイトなラインと太股にかかる程のミニスカなナイトドレスR−SSに着替えた紗綾は、ぷっと頬を膨らませる。本人は、露出度の高い衣装と思っていないらしい。
「‥‥寒かったら、僕のブレザーを羽織っていいからね」
 気遣う慧は、気が気ではない。
「しっかりとガードしないと、ドコで狼が兎さんを狙ってるか判らないよ〜?」
「逢歌こそ、帰り道に気をつけろよ?」
 逢歌が茶々を入れれば、LUCIFELは素知らぬ顔をして誤魔化し。
「勿論。静香はちゃんと、僕が守るから」
「何だか、惚気合戦になってきたわね」
 カウンターで椿を肴にカクテルを傾けるEUREKAが、さめざめと呟いた。
「そういえば、レオンは帰ったのか?」
 気付いてフロアを見回す琢磨に、マリーカが頷く。
「海音さんと、帰られましたわ」
「そうか、仕方ないな」
 嘆息して、琢磨はグラスを傾けた。

「舵〜っ!」
 ラキアの声と共に、わさっと大きなフリージアの花束がフロアに現れる。
「どうしたん、ラキちゃん」
 驚く舵へ、ラキアは花束を差し出して。
「フリジア‥‥あげる!」
「こんなによぅけ、うちにくれるん? ありがと」
 微笑んで舵が花束を受け取れば、ラキアは気をつけの体勢から動かず。
「今日だけじゃないよ。毎年僕が送るからね、舵だけに。約束するよ、絶対だって」
「ラキちゃん?」
「舵、僕の一等特別。マコ兄も一等特別だけど、舵も一等特別! WDプレゼントは僕、もらってね! あとフリジアと、和菓子ー。うーんと、だから舵も舵を僕にください。舵、僕のお嫁さんになって下さい!」
 背筋をピンと伸ばして告白した後、ラキアは照れたように笑い。
 突然の事態と見守る友人達の視線に、舵の表情が赤く火照る。
「ラキちゃんから、その「好き」貰うんは初めてやね‥‥何や照れるわぁ」
 受け取った花束に視線を落とした舵は、弟のようだった相手を微笑んで見上げた。
「ほな、大事にしてね。うちも、ラキちゃん大事にする」
 舵の答えに、思わず「ホント?」とラキアが聞き返す。
「嘘言うて、どないするの」
「やったー! マコ兄、やったー!」
 喜びのあまりに、ラキアは丹へ飛びつく。
「うん、よかった。一年かけて、花が咲いたみたいだね。あっちこっちで花が咲いて‥‥なかなか会えない僕は、羨ましいよ。でも、溺愛してる弟と一番の親友がくっつくのって嬉しい反面少し複雑だね」
 祝福しながらも複雑な表情を見せる丹に、舵は小首を傾げて少し考え。
「そやけど、マコちゃんはうちも特別やし、問題のないトライアングルかしら」
「うん。僕も僕も!」
「じゃあ、二人とも可愛くて仕方ないから纏めて可愛がろう」
 また飛び上がって喜ぶラキアが、丹と舵の肩を両手で抱いて。
「どういう三角関係だよ。ま、おめでとーさん」
 笑いながら茶化す佐伯に、三人は笑って顔を見合わせた。

 視線がラキアと舵、そして丹に集まっている間に、慧は紗綾へキャンディボックスと小さな箱を差し出した。
「これ‥‥紗綾に、特別プレゼント」
「あたしに? 慧君、ありがとう。開けてもいい?」
 慧が頷くのを待ってから紗綾が包みを解いて箱を開けば、中から銀の地に小さい宝石が一面に飾られた指輪スコールが姿を見せる。
「よかったら、もらってくれる? 僕のと、お揃いだよ」
 微笑む慧に、紗綾は手を伸ばしてぎゅっと抱きつき。
 その頬に、軽くキスをする。
「いつも一生懸命な慧君の事、あたしもずっと見てたよ。好きになってくれて有難う‥‥大好き」
「僕も‥‥本当に、大好きだよ」
 赤く染まった頬に、慧もキスを返した。

 冷たい夜の空気に、肩を寄せて恋人達は歩いていた。
「今日は一緒にライブなんて、デートの様で嬉しかったです」
 嬉しそうな海音に、レオンは冴えた星空を仰いで深呼吸をする。
「海音。そのー‥何だ」
「はい?」
「俺の家、ボロいアパートだけど、寄っていかねぇか!?」
 思い切って誘うレオンを、海音は驚いて見上げ。
「スゲー汚ェトコだし、鼠出るし、今にも崩れそうなボロ屋だけど、海音には来て欲しいんだ。下心はー‥‥無い! ‥‥とは言えないがっっっ! 本当の狼にならねー様に、気を付ける方向で。それから、これ!」
 ポケットから出した拳を、レオンは海音の手に押し付ける。
 海音が手を開けば、小さな指輪が街の明かりに輝いていた。
「この間のお返しって言っちゃあ、アレなんだがー‥‥安物なんだけど、今はコレで勘弁な。その内、もと良いのプレゼント出来る様に頑張るから!」
 いちおーペアリングなんだぜと、レオンは自分の指のリングを示してみせ。
 微笑んだ海音は指輪を握った拳を胸に手を当て、背伸びをすると、恋人の頬へ口付ける。
 そして真っ赤になりながら、レオンから離れた。
「あの、マシュマロ、作ってみたんです。一緒に、食べませんか?」
「勿論」
 満面の笑顔で、レオンは恋人の誘いを快諾した。